外伝第一話の続きとなっております。
皆さま、暖かい拍手と声援と感想でお出迎えをお願いします!
狩りゲー世界転生論 異伝
第3話
―――――――――
3年前のあの日。
あの日、僕は後悔した。
時期が遅かったっていうのもあったけど、
割って入るだけの勇気が、強者が持つ絶対的恐怖を、
抵抗して、押しのけて、"彼"と共に戦う勇気が、
僕は、戦える自信が、なかった。
あの日まで、
レジェンドラスタにも気に入られ、
仙人様とすら呼ばれた「あの彼」が死んでから、
僕は、僕たちは、
変わらず災難をもたらすモンスター達を狩り続けていました。
変わらない日常。変わらない世界。
いつまでも続く、僕たち人族と、
災厄と富をもたらす竜とモンスターたち。
「でも、これじゃ、ダメなんだよね。」
僕は、あの日。
少しでも人が救えるように、
ううん、僕自身が「戦えなかった」記憶を、
どうにかしたくて。誰かのためなんて、
そんな崇高なものじゃなくて、身勝手だけど、
僕は決めたんだ。
かつてお父さんがそうだったように、
自分の近くにいる誰かを、誰でもいい。
殺される事に自分が許せないって、
思えた人を守れるようにって、僕は心を改めた。
僕は、あの日。
すっかり荒れてしまったユクモ村の再建を、
そのお手伝いをこなしながら、
「専属の後任ハンター」として正式に就いた。
・・・あの彼が守ろうとした、僕の生まれ故郷の。
僕が生まれ育ったこの村を、僕の手で。
それから、幾つも日が巡って、
僕は貪欲に「力」を、「技」を、「勇気」を、
自分に身につけられる全てを貪欲に、
全部を吸収しようと躍起になっていた。
中には「死にかけた」事も、覚悟した事も、
数え切れないほどやって、バカになって。
その中で、僕は何かに目覚めた。
あの日から。
ユクモ村での「異哮種ティガレックス」事件から、三年後。
いつしか僕は、この世界の命運を賭けた依頼に携わる、
限りなく貴重な実力者ハンターの内の一人となった。
G級ハンターとして認められることは、限りなく少ない。
その中でも、G級古龍種を、それも何度も何度も、
数十種類も仕留められるハンターは特に珍しいという。
もはや不可能と謳われた存在の古龍種や、
狂竜症の究極系に・・・危険度が高過ぎる辿異種まで。
僕は何かに目覚めてから、全ての「恐怖」に怯える事がなくなった。
感じなくなったんじゃない、『怯えて臆する』事が無くなった。
きっと、僕の中で「狩人魂」が、
「覇気」が、「自信」が、「挑戦」が、「反骨精神」が、
形容できないその「目覚めた何か」が、
僕に『勇気』を与えてくれた。
その勇気が、「生死を左右する技巧」の獲得を促した。
その技術が、「人を超える能力」の獲得を促した。
その能力が、「不屈の闘心」の涵養を、養った。
その全てが、僕の「狩人」としての精神力を、勇気を、
その全てが、人を護り、竜を狩り、平和と繁栄を、
その全てが、僕の力となって、認められ・・・・・・
全てが、「僕の原動力」となった。
だから僕は、僕以上の「人格」に目覚め、
「世界の命運を握る」一人へと階段を登った。
今の僕には、この世界の動きが、流れが、
星の命運がなんとなくだけど掴みつつある。
僕は、まもなく人を超越しようとしている。
僕は僕でありながらも、
僕の人格に「世界」が、一つなのに全て集って。
僕の胸元に「霊格」が、不屈の精神として顕れて。
僕の手元に「運命」が、集中する運命の流れの中に、
僕も抗いはじめて。
僕は「この世界の運命に翻弄される」側の人間から、
僕は「この世界の運命に叛乱する」側の超越者として。
僕は、不可能や絶対といった運命に、不可視の霊格に、
規格外の「自然災害」すら、抵抗できるようになった。
だから、僕は更なる高みへと歩む。
僕自身が、臆病だったから。
せめて、僕の中で臆病な「自分」が、
僕の「人格」で宥められるように。
最初はただの自己満足だった。けど、今は違う。
この世界に生きる「一人」として、僕は、この世界の「運命」に抗い続ける。
・・・・・・辿異種の狩猟や、猛り狂うラヴィエンテまで、
全ての悲運を、小さな幸せの平和から遠ざけて。
誰もが幸せに生きられるように、僕は願った。
僕が狩人としてあり続ける限り、
どうかこの世界が平和であってください。
僕が全てを護ります。
この世界から、全ての人の幸せを、絶える事の無い営みを。
この世界に、平穏を。
――――――――――
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
あの日から3年後の「今」。
水瀬 榊は、
今、龍識船で受注を受けようとしていたところである。
この世界において、平均的なハンターの身長は約175cmほどだが
榊は15cmも「背が低い」。
・・・だが、狩人としての名実は侮れず。
天性の努力家と知られる。
僕はこれから、とある討伐依頼を緊急的に受けようとしていた。
龍歴院の「凄腕ハンター」と、そのハンターと共に、これまでずっと歩んできた仲間と共に。
次の狩猟は「青き白王ミラボレアス」。
一度だけ僕も祖龍を討伐した経験はあったけど、青き・・・?
最初は祖龍(ミラルーツ)かな?と思ったけど、
白に赤稲妻なら分かるけど・・・
依頼書によると、どうもその内容からすると、
祖龍の角や翼角が綺麗な水色をしているらしい。
急に届いた報せから、僕も「凄腕ハンター」と共に、
その討伐依頼を受注をしようとしたところ・・・
「すみません!各地から緊急伝令が!」
別の飛行船からやってきたらしい、慌てる船乗りが一人。
彼は同じ龍歴院に所属する伝令役で、別の船員だ。
僕と「凄腕ハンター」と二人でこの3年間活動してきて、
この龍識船も随分と大きくなったよ。
今ではもう、2つ、3つ完成していて、世界を回ってる。
更に建造が予定されてて、
僕と「凄腕ハンター」に匹敵する各地のハンター達が、
集ってはその船に乗船して、各地を転々としてる。
他にも、村付きのハンターの送迎や、避難支援、
狩猟対象の地域への移動支援とか、交易とか…
「ジャンボ村に、数体のクシャルダオラが発生!村長から救援依頼が!」
「ドンドルマでは老山龍の暴走が食い止められず、至急救難伝令!」
「他にも・・・・・・」
その船員の肩掛けポーチには、溢れるばかりの紙束、
朱蝋封筒、書状。中には血染めの便箋も。
全て時期がずれてはいるけど、続々と上がる
「討伐」
「撃退」
「救援要請」
「避難支援要請」
依頼、依頼、依頼。全て依頼書だ。
その中で、僕が聞き逃せなかった一つの依頼が。
「ユクモ村が、アマツマガツチの暴嵐で水没寸前です!」
「・・・え、ユクモが・・・水没・・・アマツ・・・?」
「え、ええ、ユクモ村長からの救援依頼です、
村はもう殆どが流されていると!状況はより悪化とのこと!」
「流されて・・・え・・・?・・・・・・何がッ!?」
「おわあっ、お、落ち着いて、サカキさん!?」
慌てて歩み寄る他のハンター達に、船長まで。
僕は思わず、伝令の船員の胸ぐらを掴みあげて、
その全員の体を宙に浮かせていた。
でも、僕はユクモ村の状況がどうなっているかで、頭がいっぱいで。
「・・・いつだ、いつなんだ?・・・教えろ、答えろ。」
「え、ええ、つい3,4時間ほど前・・・がっ?!」
「わっ、ぐわぁっ…だぁあっ!?」
「なっ、サカキ待て!」「おい! 何を」
僕は、船員の胸ぐらを離すと同時に、「船から飛び降りた」。
アイテムボックスの前で、ろくな準備もせずに。
依頼書もよく確認せずに。それより、どうなってる。
頭に血が上っていたけど、幸い「祖龍」の討伐に向かう準備を終えていた。
愛用する忍者刀【霊験】と、特注品の鉄刀【禊払 "同田貫" 】を担いで。
・・・いつもポーチが埋まるほど、常に物は入れっぱなしだったけど。
僕がこの船から飛び降りる前、「凄腕のハンター」は、
ただ見ているだけだった。
まるで「分かった上で、止めない」。
「・・・。」
不動のまなざしを、僕に向けていて。
きっと、僕と違って「凄腕のハンター」は多くの場数を、
救えなかった悔しさや惨劇を見てきたのだと思う。
・・・だけど僕には、「愛する村」がある。
失いたくないものが、僕にはあるんだ。
「!!!」
僕は臆する事無く、ハンターで恐らく、
誰もが飛び降りた事のない「高さ」から、
全員のハンターの制止を振り切って、
目の前に広がる海の上に着水する。
着水する前に、空中で強走薬Gを飲み干して、
・・・海の上を「蹴り上げて。」
「間に合え、間に合えッ!」
果てしないこの海ですら、今の僕には障害にならない。
僕の体は、G級のハンター、いや人間を超えたスタミナと体力を得ている。
だが、無尽蔵ではない。酷使すれば、身体が壊れる。
その防止の「保険」は、手元に。
ポーチ分とは用意した別の肩掛け鞄に、
予備の強走薬も、強走薬Gも、秘薬も、
栄養剤も、狩人ドリンクも、それらの調合素材も、
たんと入れていた。準備は万端だ。
例え海だろうと、山だろうと、溶岩の海だろうと。
限界が来なければ、"血"さえ失わなければ。
エリアルスタイルの技術のおかげで、
僕は老山龍の甲殻だろうと、壁だろうと、
足で「しっかり踏める」場所さえあれば、
どこだろうと、僕は限りなく「走り、跳べる。」
海なんて、ただの平地と変わらない。
僕にとっては、ただ果ての見えない、ちょっとした草原だ。
僕はただ、走った。
飛行船ですら何十時間も掛かるような距離を、僕は諦めたくなくて。
僕は、村のみんなを、救いたくて。
遅かったとしても、諦めたくない。
海を越えて、砂浜を越えて、砂漠を越えて、
森を越えて、山を越えて、街を越えて。
邪魔なモンスター達は、左に差した【霊験】で抜刀して、
足を止めず先へ、先へ。
僕が高みにある丘や山は、【同田貫】の鞘で、
飛竜種よりも空高く飛び越えて、飛び越えて。
目の前にいた大きな壁「老山龍」も、乗り越えて、
一太刀で巨頭を斬断して、更に先へ。
街の城壁を飛び越えて、軒先の屋上も越えて、
更に高く、更に先へ、更に飛び越えて。
救援に向かっていると思わしき、ハンターの一団と、
そのガーグァの荷車が見えた。
「もうすぐ近くだ。」
僕は、その一団を追い抜いていく。
僕は分からないけど、全力で走っている時の僕は異常らしい。
・・・・・・これまでそうだったように、荷車を引く、
ガーグァの全てが驚いて手綱から外れて脱落していく。
乗車していたハンターも、先導の御者も驚いて、
僕の後ろ姿を目で追いかけていく。
――――――――
「おいおい、ありゃなんだ?」
「速い・・・ティガレックスより速い、誰だ・・・人なのか?」
「あの服装・・・ユクモ村の人間か?」
「いやいや、ただの見間違えだろ?ガーグァじゃねえの?」
「・・・違う。あれは明らかに・・・人だ。しかも、ハンターだ・・・」
「あの速さ、ナルガクルガと同じ・・・」
「いや、それ以上かもしれん・・・」
――――――――
僕は、誰よりも速く「故郷」に戻ってきた。
目の前に見える「巨大な嵐黒雲」が・・・・・・
異常な降雨を、大洪水を、起こしてる。
けど、目の前の村の光景に、絶句した。
・・・・・・山々にそびえる大木が流され、
村の家々が半壊して、村が・・・・・・沈み掛かってる。
門があった階段からドバドバと奔流の音が、
鍛冶場と馴染みの店が跡形も無く消えてて。
一番上にある集会浴場が、辛うじてまだ残っている・・・・・・
・・・門前で足を止めた途端に、膝の上まで浸かった。
・・・凄く、荒々しくて、冷たい。
村のみんなが避難できたのか、
僕は知らなかったから、
僕は必死に村の中を駆け巡った。
・・・誰も、いない。
土砂降りの雨で、山から止めどなく溢れる鉄砲水。
無事なわけがない。・・・けど、村のみんなは強かだ。
村長さんが、僕の父の「山林の抜け道」を知ってるはず。
その抜け道を使って、『万が一に備えて』、
この状況に、皆逃げられたと信じたい。
僕が2,3年ここを空ける不在の間に任せた、
後任男性ハンターその人の、行動を信じて。
・・・こんな状況を誰が作ったか。
分かってる。一度仕留めたはずのアレとは、別個体のはず。
「嵐雲」の規模だって、風雨の威力だってアテにならない。
桁違いだ。
・・・あの彼は、どうしている?
不意に、口から蒸せた鮮血色の何かをこぼしながら、
過去を思い馳せる。
―――――――――
不在といっても、数ヶ月に1度は戻ってきて、
「彼」のハンター練度の向上や村の様子を見てきた。
その「彼」は、よほど危険な個体でない限りは・・・・・・
十分な実力で対処できるはず。
僕が「正式な専属ハンター」となってから1,2ヶ月後に
着任した新人ハンターである、
「その彼」は、僕から村長に無理なお願いだったけど、
聞いてもらって、着任してから僕が指導にあたっていた。
村長はすぐに首を縦に振ることができなかったけど・・・
渋々、承諾してもらった感じだ。
僕はその当時、
「ユクモ村だけじゃなくて、世界を守ろうとしていた」から、
「ユクモ村から離れてしまう」事を、
村長はとっくに気がついていた。
だから、僕は「新たな後任のハンター」の採用を奨めた。
一人より二人の方が「確実な安全」を取れる事もあり、
「あの事件」が印象に強く残っていた事も大きい。
僕が指導を始めつつ共に狩りを始めてから、2,3ヶ月後。
嵐龍の目撃情報と、ユクモ村への被害が危惧されて討伐依頼が出た日。
僕は「彼」と共に、嵐龍の討伐に成功した。
―――――――――
そんな、2,3年前の彼が今どうしているか。
彼も、上位からG級ハンターとしての階段を上り、
実力が認められていた。
その彼なら、よほどの危険は無いと思いたい。
相応の実力を持っていると信じているが・・・
この【災厄】は、彼の範疇を越える。
「・・・・・・。がふっ。」
色々な感情と記憶が、僕の中で湧き上がってくる。
酷使し続けた代償に、身体がみしみしと悲鳴を上げる。
身体から、口から、血が、出る。・・・無理してる、
けど、今はそれどころじゃ、ない、
彼も無事でいてほしい。
・・・あるいは、生きて帰ってこれたか。
今も「巨大な嵐黒雲」があるということは、
「討伐に失敗したか、避難を優先したか」
そのどちらかだ。・・・ハンターとして、最悪の想定も、
その覚悟もできてはいた。・・・ここに来るまでは。
でも、いざこうして直面すると・・・
いろんな感情が、止められなくて・・・
許せなくて。
何も出来なかった事に、気がつけなかったことも、
自分が許せなくて
酷使しつづけても、なおだまし続けた、
身体の本当の限界が来てても、僕は無視した。
目の前で全て奪われる前に、
この手で、刃を、アイツを
「アマツマガツチィィッッ!!!」
怒りに身をゆだねて、嵐黒雲のもとへ、
集会浴場の頂を踏みしめて。
「お前だけは、お前だけはッ!」
「許さないッ、返せ、僕の村をっ、かえせ・・・・・・返せッ!!!」
前人未踏の嵐雲の高みまで、危うく聳えていた集会浴場の建物が、
あっけなく崩壊すると同時に、踏み込んで。空高く、空高く。跳んで。
何者も寄せ付けず、全て洗い流されて消えてゆく、
稲妻迸り龍鱗層の舞い躍る嵐黒雲の所まで。
鉄刀より一つ柄頭が大きな、3年間使い続けた、
鉄刀【禊祓 "同田貫"】の三段伸縮柄を最大まで伸ばして・・・
全長3mの『鉄刀』で、大剣の構えを、上段に取る。
僕は稲妻に打たれても、分厚い嵐雲の風圧にも臆せず、
むしろ踏み台にして。
跳び続けて、力任せに、思いっきり、
「嵐の中心」を捉えて、大太刀を振り落とす。
「・・・・・・・・・・・・」
目の前に見える強大な紅眸。
瞳だけで人の背丈を優に越える、
その「化け物」は僕を見据えた。
これまで以上に巨大過ぎる「嵐龍」は・・・、老山龍・・・
いや、峯山龍すら遥かに越える。・・・見た事が無い。
昼間だというのに、濃密で光すら奪う嵐雲は・・・
「天の神の国に住まう嵐龍」の全貌を隠している。
でも、僕には分かる。
これこそが、「天の神」「霊峰の頂」の主。
古来から語り継がれてきた、「最古の嵐龍」。
威厳が違う。霊峰を縄張りとしている個体すら、童のようで。
「・・・ふざけるなッ!」
僕は挑んだ。例えどんな相手だろうと。
今戦わねば、この故郷が消えてしまう。
失ってしまうと。
人の身丈の二倍を越す大太刀で、古より旧き伝説に挑む。
最初の一太刀を防ぐように、嵐雲が紅眸を覆い隠して。
「・・・なっ?」
確かに捉えたはずだ。だが、手応えがなかった。
「ぐぁ、ごっ、~~~っ?!」
明らかに重く響く、硬い何かを受けて・・・・・・
嵐黒雲から、堕とされる。
血が気管に詰まった、息ができない、・・・危ない、地、避けな
本能で、受け身の体勢を取ろうとするが、それよりも速く―――
―――――――――
荒れ狂う嵐黒雲の中から、一人の狩人が地へと叩き伏せられた。
遅れる轟音と共に、村だった高台の近くで大きな水柱が立ち昇る。
遅れて、地響きが起こる。洪水したこの大地に、
巨大な禍津波が巻き起こりて。
・・・・・・運良く災禍の土砂崩れを免れた、
ハンターの一団がユクモ村の門跡に到着した頃。
迸る水流の中から、老齢のハンターがとあるものを見つけた。
千切れ破れ、水で濡れ、かろうじて鞄と見て分かる革の破片。
「・・・皆の者。討伐は諦め、逃げ遅れた住民の救助にあたるぞ。」
―――――――――
―――――
――
―
―――――――――
【討鬼伝の世界(狩りゲー世界転生論 第385話以降の時間軸)】
―――――――――
「・・・ぷはッ! ごほ、ごほっ」
どこだ、ここは・・・僕は、一体・・・
気がつくと、雪の冷たさと光景が頭に入ってくる。
「・・・さむ・・・どこ、ここ。」
「・・・雪?・・・あれ、どうなったの・・・」
周りを見渡せば、どこも雪景色。
・・・ユクモ村の渓谷でもなければ、ポッケ村の雪山地帯でもない。
見たことがない、似てはいるけど・・・空と雲が、おかしい。
・・・見たことがない様子。うっ、寒い・・・?
「・・・・・・うぅ・・・。」
立ち上がって、身体を見ると、手が赤くかじかんでいる。
2つの得物はあるけど、予備カバンと、腰のポーチが・・・無い。
・・・荷物は、得物と、腰の瓢箪水筒、
あとは左肩の竹筒のいにしえの秘薬が1服分。
・・・それに、気分が悪い。
身体の中から、何かが蠢いているような・・・
吐き気もする、調子も良くない。
・・・煙の中を歩かされている感じ・・・
「・・・?」
ふと、後ろに気配を感じた。
左手を直刀の柄に乗せたまま・・・振り返る。
6歩先に・・・醜い顔に、青色のやせ細った目と体付きに、
灰色らしき卑猥な突き出した腹部と灰色の腰巻。
伸びた爪、飛び出た目と頭の角が特徴的な・・・
チャチャブーに似た、違う何かがそこにいた。
それが、10、いや20・・・?
しかも1体は青い奴らと違って、白・・・白銀?
それらはみな、下腹部に「一応」下着っぽい布切れで隠してるぐらいで・・・
(・・・まだ男ハンターの方が逞しいね、イケメンだし。)
(・・・いや違うでしょ)
ちょっと場違いな事を考えたけど、すぐに思考を切り替えた。
・・・というのも、
明らかにおかしい、その何かの集団が・・・
寄声を発しながら、こっちに向かってきたからだ。
ガキども「ッ~~~ッ!」
見知った地形と相手ならまだしも、よく分からない連中の上に、
体の痺れるような感覚。
一番近くにいた「何か」が、僕の肉を求めて食らいつこうとしてきたから、
愛用の鉄刀で、右から横一文字に切り伏せる。
目の前にいたそれは、首がもげたが・・・・・・
どうも、すっぱりいかない。
いつも引いて「刃が通る」感覚が手元で起きるのだけど、それが無い。
・・・泥か、水を切っているみたいで気味が悪い。
斬れば斬るほど気持ち悪くて、嫌な吐き気が、血がふつふつと、
そのまま、左に身体を回転させて、その場から逃げる。
隠れる場所も無くて、辺りは雪一色。
寒い上に、ここがどこかすら分からない。
せめて、人里が見えるといいんだけども・・・・・・
変わらず、あの変な者たちが追ってくる。
少しでも撒くために、"軽く"足を飛ばした。
・・・歩く速度は、人並みならいける。
・・・後ろをふと振り返ると、
見えていたはずの光景が「すっきり」消えていた。
そう、別の光景が広がっていた。
・・・木々なんてなかったような。
あの謎の集団達の存在感も、ぷっつりと消えてしまっている。
今はどこへ進めばいいかよく分からない。
・・・位置感覚は自信があるのだけども、
太陽も見えないし、風も澱んでて、星も見えない。
木々の年輪を確かめようとしても、枯れていてよく見れない。
・・・もう感覚的には、夜になったのかな、まだ、朝か昼なのかな。
まだ、僕は歩き続ける。身を隠しながら。
何時間歩いたか、もう分からない。歩くたびに、身体が遠退いて、
立ち止まれば身体が重く、意識しないと、暗転しそう、
まだ明るいのに、暗くて、
歩き続けて、お腹も減ってきた。
目の前も、だんだんかすんで、息もしづらくて。
「異形」の者たちから、何度も身を隠しながら、
冷たい、雪の中に何度も、潜って・・・
だめだ・・・飲もう、いにしえの・・・ううっ。
・・・幸い、僕は「痛覚遮断」と「強走体質」を体得している。
ある程度、肌を抉る寒さは痛覚をぼやかすことで、
体が痺れや不快感を軽減できても・・・
・・・・・・身体に負荷を掛け続けるから、身体が、臓器が、
傷ついて、出血が、血の味が、止まらなくて、ごぼっ・・・・・・
もう、
身体が、
動きにくく、
なって、きた、寒い、
耐えられない、
目が回って、
・・・血が、少なく、
なってきた、吐き気、止まらない・・・
お腹が減って、いにしえの秘薬でも、気分治らない、
瓢箪の水、尽きて、苦かった雪解け水、もう、喉拒ん、で
・・・血が、くるしい、
・・・ごほっ。おぁ・・・
何度も、吐いて、こふっ、
・・・血が、喀血、と・・・吐血、が、止まらない・・・
「・・・げほ、かっ、こほっ、こほっ・・・けほ、こほ・・・」
ずっと、歩いてて、変わらない、
歩く、ほど、目の前が、
遠のいて、いく・・・
みえない、いき、くるしい
・・・あぁ、目の前に、墓・・・僕、こんな、ところで死ぬ、のかな・・・
・・・いやだよ・・・みんな・・・なんで、なんでそんなところに、ねえ・・・
・・・いかないでよ・・・おいてかないで・・・なんで、僕、頑張ったのに・・・
・・・まって・・・まってよ・・・
・・・ひとり・・・やだ・・・
・・・ね、ぇ・・・
・・・さ、む・・・い・・・
・・・ぁ・・・ぅ・・・
・・・・・・・・・
・・・こふっ・・・。
―――――
白銀の雪原と我らがシノノメの先達の墓場。
清浄なる我らの地に、黒き装いの旅人が倒れている。
我らは辺りを警戒しながら、行き倒れる者の様子をうかがう。
警戒を解き、初めは「モノノフ」と思い近寄ったが、様子が違った。
この者は瘴気に心の臓まで冒されている。
口はおのが血で汚れて。酷い顔色で、
厳しい寒さの凍傷に、目は生気を感じ取れない。
・・・だが、ごくごくわずかだが、息が感じ取れる。
殆ど動けない状態なのに、胸と腹が僅かに震えている。
まだ、生きている。・・・よく見ると、女だ。
この者の様子を見ると、黒染めの「剣客一式」に見えた。
だが、所々「我ら」の装いどころか、その容姿も、
どこか似ているが「ハッキリ」と強く違和感を覚える。
「モノノフ」らしからぬ意匠が施された旅装束は、
鋼より強く、糸よりもしなり。
この者の背丈を超える大太刀は、我らモノノフの意匠にあらず。
だが、微かに感じられる濃き瘴気の残滓から、
「何かの鬼を斬った」事は明らかなり。
・・・尻臀に帯びる太刀は、何か霊力が感じとれる。
ミタマと思い、霊感応を図ろうとするも・・・意思疎通が取れない。
ミタマにとてもよく似た魂ではあるが、人・・・
というよりは、動物に近いか?
旅装束の者をよくよく見れば、「剣客一式」にあるべき姿から着崩れ、
全く異なる造りと、物の良さや質が我々の具足と異なるものと、
手にとって初めて分かる。我らモノノフと異なる者だ。
この者の旅装束は「一切、鬼の素材や、魄で紡ぎ合わせた」様子が見られない。
絞るべき袴の足下は絞らずに、具足はすっぽりと隠れている。
襟巻きが無く、あるべき左手の籠手は無く。両脇が空いている。
瓢箪と竹筒は、長旅の途中で便宜のために付けたのだろうか?
何より特徴的な、笠にあるべき「鬼の角」が無い。
青と緑の彩りを告げる葉っぱが、代わりに付いている。
・・・・・・時の迷い子だろうか。
我がシノノメを発ったあの男と違って、
この者は一体どのような顛末を辿ったのだろうか。
我々はとにかく、彼女の周りにつきまとう瘴気を清め祓い、介抱する。
あまりに瘴気が深く入り込んでいるが、まだ望みはある。
生きていれば、希望が抱けるように。あの男が希望を示したように。
我らは羨ましくも、不可思議なあの男の恩返しをするわけではないが、
我らも、変わらねばならぬ。あの男と、
あの男に付いていった仲間の居場所を守らんがため。
我らはシノノメの守人。シノノメの番人にして、
我らはシノノメの目であり耳である。
我らが、我ら自身の手で、かつてのシノノメを取り戻さんがために。
我らも歩もう。
この者は知らないが、我らも臆すること無く、勇ましく歩まねば。
助けられた恩義は、我らの恩義にして返さん。
この命、シノノメと共にあるかぎり。
――――――――――
旅烏の女は、シノノメの里の者にその命を救われる。
シノノメの里は今、変わろうとしている。
旅烏の女が生きようと足掻くように、
シノノメの者達も、希望を抱き始めている。
失った彼女が歩む道とは。
希望を抱く者達の行く末とは。
そして、「あの男」が辿る運命は。
今まさに、運命の歯車が動き出した刻。
闇の月夜は、天の酉を照らして。
光の陽光は、獄の梟を陰らせて。
地獄の扉は今より、開かれん。
――――――――――