バレンタインの前日、同クラスの少年の妹に呼び出されたのはまさかの女学院。
そこでチョコの教えを請われただけのはずが、色んなことが絡んだ結果、後戻りが出来ない関係に───



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この作品は私の処女作である「闇影の軌跡」のバレンタイン短編です。以前、リクエストを貰っていたゼダス×エリゼで書かせてもらいました。エロ成分は少ない………のかな。久しぶり過ぎて分かりません。あと、感覚が分からなくて、R18ってこれで良かったっけ感が否めませんが、生暖かい目で見て頂けると幸いです。

因みに時系列はバレンタインということもあり、帝国内戦は終結したことになっています。「英雄伝説 閃の軌跡Ⅱ」の若干ネタバレが入ってるかもなので、注意ですよ!

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背徳と誠実のバレンタイン

「エリゼ………一体、何でこんな所に呼んだんだ」

 

 疑問を隠し切れないゼダスは、そう呟く。

 眼の前にある巨大な建物。言わずと知れた、帝国屈指の女学院。聖アストライア女学院だ。

 そんな所に呼ばれ、疑問を隠せないのは道理とも言える。

 さて、何故こうなったか。それは一晩を越す位の時間を遡る──………

 

 

 

 

 

 

 

 

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「およっ」

 

 学院で色々とあり、少しばかり残らされていたゼダスは夜分遅くに寮に帰宅し、己のポストに入っている一つの便箋を見付けた。しかも、純白で中々の気品を感じられた。

 つまり、差出人は並の奴では無い。それに加え、要件は大層な物。

 そう思い、ゼダスは自室で便箋の封を開けたのだ。

 

「えーと、差出人は、エリゼ・シュバルツァー………って事は、リィンの妹かぁ。一体、何用だ?」

 

 差出人の確認を行った後、本文の方に眼を向けると──意味不明な文字羅列が書かれていた。少し頭を捻って考え出すと、それが指し示すのはARCUSの電話番号だと直感する。寸分の狂いも無く、番号を打ち込み、ゼダスはARCUSを通話状態にする。

 

「あーもしもし。こちら、ゼダス・アインフェイト。そちらは───エリゼか?」

『はい、そうです………って、電話を掛けてきたって事は手紙を見たんですか?』

「ご察しの通り。で、一体何の用だ? 番号だけ書かれた手紙なんて寄越しやがって。文面じゃあ、伝えられないものか?」

『え……っと、その………』

 

 要件を聞くと急に歯切れが悪くなったエリゼ。

 それにゼダスは、

 

「何だよ。ハッキリ言え、ハッキリと。別に誰かが聞いてる訳じゃねぇんだから、恥ずかしがるな。と言うか、コッチが歯痒くなるから、早急に要件を述べてくれ」

『………はい、分かりました。えーと、ゼダスさんは明後日が何の日かご存知ですか?』

 

 そう問われ、室内に飾られてあるカレンダーを見てみた。

 今日は2月12日。特に何も無い日だ。

 そして、明後日は2月14日。

 

「2月14日か………何か有ったっけ?」

『まさか、ご存知無いんですかっ⁉︎ 2月14日はバレンタインデーですよ⁉︎』

「あー………そうだったなぁ」

 

 エリゼが発したバレンタインデーという言葉にゼダスは遠い目をする。

 ゼダスにとって、この日は『無益』は疎か、『有害』でしか無い。

 結社の執行者として仕事に邁進していた時、この日を迎えるとよく言われたモノだ。

 

『折角のバレンタインデーなんだから、チョコでも作れ』と。

 

 まず確認するが、ゼダスは男だ。

 どう考えても作る必要性は皆無だし、関わるとすれば貰うべき立場では無いだろうか?

 だが、結社の連中は料理スキルの熟練度的にゼダスばかりを頼ってくる。

 故にバレンタインデーはチョコ作りで大忙し。因みにホワイトデーも同じ位に働いてたりする。

 だから、そんなに気にしてない───気にしたくない日だったのだが、思わぬ所で思い出さされたモノである。

 

「で、何が言いたいんだよ。俺のトラウマを穿り返すつもりか?」

『いや、ゼダスさんがトラウマだったなんて知りません。それで少し用なのですが、明日に予定は入ってますか?』

「入ってねぇよ」

『なら、明日の昼に聖アストライア女学院に来て頂けますか?』

「えっ………つーか、女学院に男子を招待って色々問題というか………」

『そんなの姫様が招待した時だって同じです』

「いや、あれはⅦ組っていう団体として呼べただけで、俺個人を呼んだ物じゃねぇし………」

『良いから、来て下さいっ‼︎ 良いですか⁉︎』

「あ、はい」

 

 拒否権すらくれない剣幕で押し掛けてくるエリゼ。

 こんなやり取りが昨晩有った後───

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───今日に至る訳だ。

 

「しっかりと来て頂けたのですね」

 

 校門前に仁王立ちしているエリゼはそう言うので、ゼダスも言葉───というか、質問で返す。

 

「それで一体、何の用だよ。そろそろ聞かせてくれても良いんじゃないか?」

「もう少し後にお話し致します。それでは御足労願えますか?」

 

 そう言って、エリゼは学院の敷地内に入らず、周囲の柵の周りを歩き始めた。

 何故、そんな行動を取ったのかは定かでは無いが、今は付いて行こう。

 その先に答えがあるのだから───………

 

 女学院の周りは思いの外、緑が豊かだった。

 時々射す木漏れ日が肌を撫でる度に冬独特の寒さを僅かながらに和らげる。

 そんな気持ち良さに心を委ねている中、エリゼが歩みを止めた。

 学院の周りを回っているだけで、別に行き止まりでも何でも無いのだが、エリゼは学院を隔てる柵に手を掛ける。

 

「確か………此処です」

 

 石造りの柵の一部を取り外し、人一人が通れる分だけの隙間がみるみる内に出来た。

 

「こちらです」

 

 入る様に促されるが、ゼダスはある事に気付いた。

 

「(わざわざ正面から入らなかったって事は、許可は取ってないって事じゃねぇのか?)」

 

 と。

 

 柵の中───女学院の敷地内は流石の豪華さだった。

 帝国でも有数の学院だけあって、設備も豊かだし、一つ一つが綺麗である。

 幾つもの建物を超えて行き、ある建物に辿り着く。

 表札には『調理室』と書かれてあった。

 それにゼダスは、

 

「あー………何と無く想像は付いた」

「それじゃあ、ご案内致します」

 

 ガチャと扉を開いた先にあったのは、外装と同クラスに綺麗な調理室だった。

 最早、新品も同然。

 

「もう理解できた気もするけど、答えを教えろよ」

「えっと……教えて欲しいのです」

「流れ的には想像付くけど、何を?」

「お、美味しいチョコの作り方、です」

 

 伏せ目がちに言うエリゼは若干モジモジしていた。両手の指を忙しなく絡ませていて、緊張しているのだと窺える。

 

「(別にそこまで気張らなくても良いんだけど……)」

 

 と内心思うゼダスだが、それは普通に考えたら何も可笑しな反応では無い事にも気付いていた。

 女学院側にも正式に許可を得ず、外部に漏れない様に幾らか仕込んできたであろう工作。その先にあった願い───ゼダスから見れば小っぽけでも、エリゼから見たら、それだけの労力を払っても惜しくない願い。

 分かれば断れないし、まず断る理由が無い。どうせ、ここで断ろうものなら、エリゼが「女学院に侵入者が……」とでも言うつもりなのだろう。ここに立ち入った時点で詰みだったのだ。

 

「はいはい、了解しましたよっと。別に教える程度なら問題無いだろ」

「ほ、本当ですか⁉︎」

「というか、ここまで来て叶えないと完全に無駄足になるからな……」

 

 そう呟きながら、ゼダスが向かうは調理室に設置された少し大き目の冷蔵庫。中身を確認し……

 

「(素材は粗方入ってるな……まぁ、後は手順さえ間違えなければ大丈夫)」

 

 必要な素材を取り出し、近くにある調理台に並べる。

 並んだのは市販の板チョコとホットケーキミックス。それに……

 

「豆腐、ですか……?」

「バレンタインが明日なんだから、時間が無いだろ。それなりな物に見えて、比較的に楽なレシピで行くのが安全策だしな。……まぁ、少々期待している物とは違う気もするけど」

 

 調理に使う器具を適当に漁りながら、ゼダスは応答する。

 流石は帝国屈指の女学院と言うべきか、器具自体は殆ど最新式。学院生活の最初の頃は家事を担当していたこともあってか、中々唆られるものがある。

 そんな様子のゼダスを見て、エリゼはクスッと微笑む。

 

「いきなり何だよ。何か面白いものでも見れたのか?」

「いえ、別に面白い訳じゃないんですが………ゼダスさんもそんな楽し気な表情を見せるのですね」

「(楽し気、ねぇ………)」

 

 ゼダスはエリゼの言葉を脳裏で反芻する。

 確かに士官学院に入学してきた頃に比べれば、幾分か表情豊かとなったと言えるだろう。入学以前では考えられない程の進歩だ。それもこれも────

 

 

「────Ⅶ組(みんな)のお陰だ。みんながいてくれなかったら、こんな風になってなかったっての」

 

 

 その言葉に嘘偽りは一切合切存在しない。

 もし、学院に入学させられなかったら。させられても、Ⅶ組に入れていなかったら。

 きっと、今の様な己は存在しないのだろう、というのがゼダスの見解だ。

 故に感謝している。自身に無かった物の殆どを注いでくれた仲間にこれ以上に無い感謝を抱いているのだ。

 

「よし、じゃあ、そろそろやるぞ。因みに俺は指示しかしないからな。とりあえず、言った通りやってみろよ。そっちの方が身に着く」

「りょ、了解です! この場合はゼダスさんよりも先生の方が良いですか?」

 

 身長の差もあってか、特に意味のある質問とは取り難いものを上目遣いで投げ掛けてくるが、そもそもこの程度で変に動揺するゼダスでは無いのだった。この数ヶ月、色んな意味で成長したのだと実感した瞬間でもあった。

 

「呼び易い様に呼べば良いって。先生付けだろうが先輩だろうが、さん付けだろうが呼び捨てだろうがな」

「別に先輩って呼ぶつもりは無かったのですが………もしかして、そう呼ばれたりしたいのですか?」

「違ぇーよ。同僚にそう呼んできた奴がいたから、偶々脳裏を過ぎっただけだっての。つか、早く作業に取り掛かれって。まず、鍋に水入れて、お湯沸かすんだ。で、その間に板チョコを細かく刻んどけ。湯煎するから」

 

 その指示通り、エリゼは用意していた鍋に水を入れ、火を点けたコンロの上に置く。

 ゼダスがレシピを教授するつもりの料理に必要なお湯の温度が約50度。その温度に達するまではそんなに時間は掛からない。

 そして、板チョコを細かく刻み始めるが………今回はエリゼが調理をし、ゼダスはただ指示するだけ。少しの間は手持ち無沙汰になるのは避けられない。この時を機に、聞いておきたかったことを聞いておく。

 

「そういえば、何でチョコ作ろうとか思ったんだ?」

「何でって………バレンタインだからです」

「でも、バレンタインでチョコ作るってことは渡す相手でもいるのか?」

「え? あ、えーと、その………」

 

 虚を突かれたように言葉を詰まらせるエリゼ。予想はしていたが、年頃の少女としては相応しい反応ではあるのは確かだ。

 バレンタインであげるチョコといえば、大まかに分けて『本命』と『義理』に分けられる。そして、わざわざ他人に教えを請う位なのだから………それは十中八九、『本命』のはず。

 ならば、渡す相手は必然的にいるのだが、そう易々と教えてくれる訳がない。そういったことに関する情報は乙女の中で秘匿性の高い物なのだ。

 それでも、あわよくば聞けたなら、味付け等々の好みを調整出来るのだが………まぁ、こればっかりは仕方ない。

 

「別に答えなくても良いよ。ただ、どんな奴か聞かせてくれるか?」

「えーっと………カッコよくて、頼りになって………それでいて、暖かい方です。近くにいてくれるだけで、安心をくれるような………」

「うわ、何その理想みたいな奴」

 

 尊そうというかは惚気というのが近い風に言うエリゼにゼダスは若干苦笑気味に反応。

 だが、エリゼ視点からそう思える相手は大抵予想はつく。そう───血の繋がっていない兄のリィンだ。

 エリゼが彼のことを好いているのは随分前から知っていた。明言こそされていないが気付いていた。そして、その逆も然り。そこに家族としての好きなのか、異性としての好きなのかの違いはあるだろうが。

 でも、リィンにあげるチョコとすれば………そこには明確な障害が存在する。

 彼は一ヶ月半前の帝国内戦終結の立役者───《灰の騎士》として、今は帝国軍の手伝いを請け負っている。そして、今の任務が終わって帰ってくるのはもう少し後の話。少なくとも、明日に帰っては来ない。

 その事はクラスメイトであるゼダスでさえ知っているのだから、身内であるエリゼも知っているはずだ。

 

「(当日に渡せないのは分かってるのか………? うーむ、確認したいが、そこまでする勇気は無いな。変に踏み入って、変に拗れても困る)」

 

 言わぬが花、知らぬが仏。

 これ以上尋ねる事は止めておくことにした。

 

 さて、そろそろ良い温度になってきたことだろう。ゼダスはエリゼに市販の板チョコを湯煎するよう指示。用意していたゴムべらでゆっくりと溶かし混ぜる。

 溶かされることにより、チョコの香りは調理室に段々と広がって行く。元々、市販されているだけあり、味匂いは完成品だ。鼻腔を擽るその香りは良くもあるが、同時に忌々しくも感じる。結社にいた時の思い出が原因なんだろう。仕方ない。

 

「ゼダスさん」

「ん? どうかしたか?」

「いや、あの………少し味見してみても良いですか?」

「構わないけど………でも、それただ湯煎しただけだから、味は変わってないはずなんだけど」

 

 ゼダスが言葉を発し終える頃には、もう既に時遅し。少量のチョコを掬い、ペロッと味見していた。

 随分と美味しそうにしているその表情は可憐な乙女であり、見る者の心を落ち着かせる。落ち着かせるはずなのだが────

 

「(………なんだ、この気分。何かおかしいというか、前と違う?)」

 

 ………何かを感じてしまったようだった。

 普段通りの姿だ。顔だ。表情だ。なのに………………

 

 

「(なのに、なんでエリゼから翳りが感じられる?)」

 

 

 何処と無く、暗く見えた。しかも、その事にたった今気付いたのだ。

 今日の最初、女学院前で会った時には感じていなかったこの違和感。

 心の中が騒つく。何かが鳴り響いている。これは─────警鐘だ。

 何か……………何か凄く不味い予感がする。直感がそう告げている。

 だが、この場所で不味い予感とはなんだ? 生命に関わることなんて、早々起きないだろう………

 

 

「───ゼダスさん、ゼダスさん?」

 

 

 ───と、思案に耽っていたからこそ、エリゼの言葉に反応するのが少し遅れてしまっていた。

 

「ッ! ……何かあった?」

「い、いえ……それより、ゼダスさんも味見してみませんか?」

「別にいいって。味は変わらないんだか────ッ⁉︎」

 

 部屋の中に響くゼダスの声が急に途切れる。原因は───ゼダスの口元がエリゼによって塞がれたから。

 どうやって? 唇同士を重ね合わせる形で。

 それはつまり、接吻(キス)している状態ということで───

 

「(え?)」

 

 ───完全にゼダスの思考が「理解不能」の四文字を提示させるのには充分だった。

 今のやりとりでどう繋がってこうなる? 何処かにフラグはあったのか? とにかく訳が分からない。

 目を白黒させるゼダスだったが、次の瞬間。それ以上の驚きに苛まれる。

 

「んっ……ちゅ……」

 

 ただの接吻ならまだしも、エリゼは舌まで絡めてきたのだ。

 調理室は静かで、舌が絡み合う音だけが響いている。

 先程、湯煎したチョコを味見していた所為だろう。ゼダスの口の中に広がる味はエリゼの唾液と溶けたチョコが入り混じり…………妙に甘美と思ってしまった。

 その味をもう暫く感じていたいとあってはならない悪心が囁き、ゼダスもほぼ無抵抗で成されるまま流されていた。

 そのまま、どれくらい経っただろう……きっと、沸かした湯が冷め終える寸前の頃だと思うが、漸くエリゼは離れる。その時、互いの唾液とチョコが混ざった何かが少々床に溢れたりもした。

 両者共に顔を赤くし、ゼダスは未だに理解出来ていない表情を。エリゼは若干惚けた表情を浮かべ、訪れるは勿論沈黙。多少気不味いが……ここで黙り込み続けても埒が明かない。とりあえず、ゼダスは尋ねる事にする。

 

「あの、さ…………どういうわけか説明してもらえるか?」

「……………………」

 

 だが、エリゼは俯き、そのまま答えようとはしない。

 その姿はまるで、不可視の何かに耐え忍んでいるようにも見え……痛々しくも思えた。

 

「……わ、私は………兄様が………その、す、好きと言いますか………」

「あー………うん、知ってたというか想像付いてた」

「で、その………今年こそはチョコを渡そうって………でも………………」

「当日に手渡し出来る状況じゃなくなった、と」

「はい……勿論、兄様が今まで頑張った結果だとは理解してます。ですが………私はこの日の為にずっと心の準備をしてきたんです。ずっと………耐えてきた(・・・・・)んです」

「耐えてきたって………」

 

 耐えてきた。加え、不意打ち紛いの接吻。

 一連の流れから察するに、耐える物といえば………

 

「お前、まさか───」

「ええ、そうですよ、兄様をそういう(・・・・)感情で(・・・)見て(・・)しまった(・・・・)んですよ悪いですかッ⁉︎」

 

 まさか開き直られるとは思ってなかった、と内心呟くゼダス。

 

「……まぁ、観点なんて人それぞれなんだし、そういう目で見るのが一概に悪いとは言えないだろう、うん。で………いや、正直踏み込みたくはないんだけど、何で接吻(あんなこと)を?」

「いや、だから、もう限界なんです。その…………これ以上、切なくなるのは耐えれないんです。だから、色々と似ているゼダスさんが………」

 

 もう全て理解出来た。流石に理解出来た。

 エリゼはつまり、こう言いたいのだ。

 

 

 ───兄様(リィン)と相似点の多いゼダスを慰み者としたい、と。

 

 

 ゼダス自身、別にリィンと似ているとは思わないのだが、エリゼの主観では似ているのだろう。

 

 ………と、ゼダスとリィンが似ている似ていないの話はこの際どうでもいい。それよりも至急何とかしなければならないのはこの状況に他ならない。

 全世界の非リア充に喧嘩を吹っ掛ける訳ではないのだが………なんだ、ゼダスは妙に色んな人から好かれている。で、それが色んな感じに面白可笑しく転がった結果、そういう関係(・・・・・・)になった人も少なからず存在するのだ。一言で表現するなら、『節操無し』が妥当だろう。

 だが、ゼダスはそれぞれにキッチリと貰った分以上の愛は返しているつもりだし、誰一人無下にはしていない。していないつもりだ。

 だからと言って、慰み者使いとはいえ、勝手に行為に及べばどうなるか。

 悲しむ? ───ああ、有り得る。

 怒られる? ──もっと有り得る。

 しかし、それよりも──────

 

 

「(どんな形になるかは想像出来ないというか想像したくないけど、そんな事したって知られたら、間違いなく殺される)」

 

 

 ───自身の生命が危ない気がするのだ。

 

 じゃあ、断れば良い。簡単な話………………とは問屋が卸さない。

 

 ここで一心不乱に逃げ出すのは簡単だ。

 しかし、逃げ終える前にエリゼが叫ぶなり、通報するなりされたら、社会的地位が危うい。いかんせん、ゼダスが女学院に入ったのは完全にエリゼのお願いと独断があって故だ。絶対にして唯一の証人たるエリゼが、少しでもゼダスの不利になる発言をした瞬間に首が飛ぶ。

 

 つまり、応じようが拒もうが何方にせよ危ない。洒落にならないレベルで危ない。前門の虎、後門の狼とは正にこういう事を指すのだろう。

 ………何方がまだ危なくないかと言われれば、ここで応じること。それなら、エリゼを口封じさえしてしまえば良いのだから。

 

「───残されたのは一手だけ、か。ああ、良いよ。エリゼが満足行くまで俺を好きに使えよ。逆に望むんなら、俺からしても良い。だけど………二つばかり条件は付けさせろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「っちゅ………くちゅ、ぷはっ………んっ………」

 

 ゼダスとエリゼ。二人以外誰もいない調理室の中、彼らは行為に及んでいた。

 舌を絡ませる濃い接吻をしながら、時折、生育途中の乳房の少し膨らんでる一点を攻める。それがエリゼがゼダスに所望した内容だった。

 ゼダスが少しでも踏み入って攻める度にエリゼは身体を身震いさせたり、声を押し殺したりしている姿が垣間見えて、それなりに感じているように思える。

 きっと、“下”の方もそれなりに出来上がってきているのだろうが………まぁ、そこに至るまではまだ許可されていないから、一切触れないつもりだ。これまでの経験でそれなりに自制心は鍛えられているし、問題は全く無い。

 

「兄様(・・)………兄様(・・)ぁ………………」

 

 エリゼは顔を紅潮させ、惚けながらそう呟いていた。だが、当の兄様(リィン)は勿論だが、この場にはいない。

 

 これがゼダスの提示した条件の片割れ。───行為に及ぶ前に情報誤認の魔術を掛ける、ということだ。

 

 一応、ゼダスは慰み者の立場で本命は他にいる。ならば、せめて、誤認させてでも、その本命(リィン)と及んでいるようにさせてあげたかったという何とも言えない同情の類いの条件だ。

 だが、これは表層意識を偽らせているだけで、深層意識では現実が見えている。つまり、リィンに見えて、実際はゼダスということは理解出来ているのだ。

 しかし、それでいてもゼダスの事を「兄様」と呼んでいる。余程、彼女の観点からは似て見えるのか………それとも、色々と耐え過ぎて、正常な判断が出来なくなったか。

 その何方かを推し量る術は持ち合わせていないから、頭の片隅に寄せておき、一先ず行為に専念する為に身体の方に意識を集中させる。

 

「(今まで通りだ、何も変わらない………脳裏に残っている思い出をなぞり、それをエリゼの身体に反映させる。俺がするのは、ただそれだけだ)」

 

 今まで積んできた経験が。辿ってきた軌跡が。

 これから何をすれば、もっと悦ぶかを本能に訴えかけてくる。

 だが、今のゼダスはあくまでエリゼの意志一つで動く慰み者───道具と言い換えても、強ち間違いでない。故にそれを強行する訳にはいかない。

 

「(だから、求められた行為を期待値以上の出来で応える。これなら、問題無い)」

 

 如何に効率良く、悦びを身体に伝せられるか。エリゼの反応から行為を最適化し、その度に反応が明らかに良くなっているのが分かる。

 ただでさえ細い身体の芯が抜けたかのように重心が可笑しなことになっているし、徐々に嬌声も漏れ始めている。

 もう少しでも刺激を強めれば、即座に堕ちてしまいそうに思えるエリゼにゼダスは、

 

「このまま続けて大丈夫?」

「兄様………上手過ぎます。もう私、正常な判断が出来ないですよ………早く欲しい、ですけど………」

「うん、それに関してはさっき提示した条件通りだ。『俺はエリゼの言うこと全てを聞き入れて実践する。だが、言ってくれないと俺は何もしない』ってな。まして、俺から襲うなんてことは絶対にしないからな」

 

 残りの片割れの条件はゼダスの発言通りの内容だった。

 元来、道具という物は意志を持たない存在だ。ならば、その道具扱いであるゼダスが自分の意志で行為に奔るのは御門違いに他ならない。

 が、求められさえすれば、応じるつもりではいる。それが如何なる行為だろうとも受け入れよう。それが本当にエリゼが望んだ物ならば。

 

 正直な話、これ以上進んではならないのは理解出来ている。周りの関係性に修復出来ない軋轢を生む可能性だってある。

 そして、それはエリゼも重々承知しているはずなのだが、最早歯止めの効く状態では無かった。

 

「下さい……」

「何を?」

「私の……私の切なさを埋めるために…………その……」

 

 理性が蒸発する寸前でも恥じらいは残っていたのか。ガクガク震える足腰を立たせ、若干俯きながら、エリゼは女学院の制服のスカートをたくし上げる。

 ゼダスの推測通り、完全に出来上がっており、もう秘部を隠す布は意味を成さないくらいに濡れて、シミまで滲み出ている。

 刺さるような視線を感じ、尚更濡れるのを感じるエリゼは耳の先まで真っ赤にしながら、少しの雑音でもあれば掻き消されるであろうか細い声で願った。

 

「兄様の肉棒で……私の秘部を……ずぼずぼして、ください…………」

「良いのか? 取り返しの付かないことになるかもよ?」

「良いです、早く……早く、して」

 

 最後の確認も取り、ゼダスはエリゼを調理台へと押し倒し、自らの肉棒を露わにする。こっちも人の事を言えないレベルに出来上がっていた。生理現象だし、仕方ない。気にしない。

 硬くなった肉棒をエリゼの秘部の入り口に添わせるだけで、プチュと水音が響く。これなら、突いても痛みは多少はマシだろう。

 

「じゃあ、挿れるぞ」

「はい、来て下さい兄様────ぐっ、あぁあああぁぁぁぁぁぁ! 太い、太いのがぁぁぁぁぁぁ!」

 

 エリゼの膣中はその矮小な体躯から分かっていた通り狭く、その上“初めて”だったのか、途轍もなく締め付けてくる。だが、その締め付けは痛いというよりも全てを搾り取るかのような心地良さを感じさせた。

 そんな狭い膣中を無理矢理、肉棒でこじ開けたのだ。エリゼは痛みのあまり、叫んだのか───と思ったら、違う。

 挿れた。ただそれだけで───

 

「(───イった。完全に堕ちたぞ。どれだけ性欲溜まってたんだか……凄く蕩けた顔してるし)」

 

 一応、エリゼはその表情を見られないように細い腕で隠そうとしているが……まぁ、見える。だって、隠し切れてないし。

 

 と、エリゼの表情を観察するのはここまでにして、ゼダスは命ぜられた行為に及ぶことにする。

 秘部に肉棒を抜き挿しする度にエリゼの身体は面白いくらいにまで曲がる。その一突き一突きが、エリゼの身体に快楽という物を刻んでいるように思える姿にゼダスの心の中では───

 

「(……あ、れ? なんだ、この気持ち。俺が……この状況を愉しんでいる、のか?)」

 

 ───新たな感情が芽生えようとしていた。しかも、きっとその感情は綺麗なものでは無いのは想像に難くなかった。

 だが、その感情の発生を止めることは叶わない。このまま及べば確実に現れることが直感で理解出来ている。

 そして、その時は随分早く訪れ────

 

「悪い、エリゼッ! もう出すぞ!」

「兄様! 出して、膣中でしっかりと出してくださ───」

 

 

 ────コン、コン。

 

 

 両者共に果てに至りかけたその瞬間、突如扉からノック音が響く。

 そして、その音が一時的に理性を戻したのだろう。

 

「「──ッ!」」

 

 如何に今の状況が不味いかに遅まきながら気付いてしまう。

 今訪れたのが誰であろうとも、部屋の中を見られては大変な事態になってしまう。女学院に男性が不法侵入した上に男女の営みを及んでいる。どう見たって、NG案件。

 だが、今から打てる手なんて限られている。打てる手、打てる手…………

 

「(こんな在り来たりな解決法は使いたくないけど……背に腹は変えられない)」

 

 ゼダスは自身の足に少しだけ力を集約。エリゼに肉棒を挿したまま、抱きかかえて────

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

「───エリゼー? ここにもいないの?」

 

 調理室に訪れたのは女学院でのエリゼのお友達にして、帝国皇女であるアルフィン・ライゼ・アルノールだった。

 エリゼがここでバレンタインに向けて、チョコを作りたい的な発言をしていたし、今日は朝から姿を見かけないので、もしかして───と思って、調理室を訪ねたのだが、見たところ誰も居なかった。

 

「あれー? いないなんておかしいわね。一応、チョコ作ってる形跡はあるし、ここが当たりかと思ったんだけど………他も探してみようかしら」

 

 そう言い、アルフィンは踵を返し、調理室を去って行った………………

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

「ふぅ………まさかのアルフィンかよ。ヒヤヒヤさせやがって………」

 

 ゼダスはいつも以上の緊張に心臓を止まらせそうになったが、どうにか乗り切れた事実にホッと一息。

 どうやって、乗り切ったかというと、アルフィンが訪問してきて、調理室の扉を開けるまでの一瞬の間に一気に加速。そのまま、近くの調理台の下に無理矢理滑り込んだのだ。───行為に及んでいる最中のエリゼを抱えて。

 結果としては大成功。うん、良かった。これで社会的地位も何とか保てるだろう。

 だが、問題は別にあって───

 

 

「───ッ────ッ──────ッ───」

 

 

 ───エリゼがこの世の終わりの様な虚ろな(レイプ)眼になっているのだ。

 原因は分かってる。勿論、急遽取ったゼダスの行動だ。

 あの時、ゼダスもエリゼも両方果てそうだった。なのに、急に一気に動かされ、逃げ込んだ先は調理台の下───お世辞にも広いとは言えない。二人では完全に密着状態で………その上、少しでも隠す為にゼダスはエリゼの身体を思いっ切り抱き寄せていたのだ。

 それが結果として、ゼダスの肉棒の亀頭とエリゼの子宮口が随分と濃いレベルで接吻されてしまったのだ。しかも、アルフィンが訪問してきたことで感じて、膣中は更にぎゅうぎゅうに締められて………有り体に言えば、一気全部ブチまけてしまったのだ。

 その時の感覚で一気に意識を揺さぶられたのか、暫くは会話すら成立しないだろう。

 

「あー………ドジったなぁ………こういうパターンに慣れてないから、どうして良いか分からないんだけど………よし───」

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

「………………ん」

 

 エリゼが意識を取り戻した時には、空は暗く、夜だった。

 場所は意識が落ちる前にいた女学院の調理室。

 身体の至る所がゼダスとの行為により痛んでおり、中でも下腹部の痛みは意識してしまうと激痛。だが、同時に愛おしくも思える不思議な感覚────と思っている中、自身に掛かっている赤い上着に気付いた。それはトールズ士官学院の制服であり、十中八九ゼダスの物だろう。身体が冷めないようにとの配慮だろうか。

 

「兄様………いえ、ゼダスさん」

 

 無意識に言葉を紡いでしまうが、当の本人がまずこの場にいない。

 

「まさか、帰ってしまわれたのでしょうか? 普通、女の子を冬の部屋にたった一人で寝かしますか?」

 

 若干、機嫌を損ね、愚痴を洩らすエリゼは痛みに堪えて、立ち上がり───そして、調理台の上に置いてあった物が視界に入る。

 それはワンホールのチョコケーキだ。しかも、丁寧にメッセージカードまで付いている。

 エリゼは取り敢えず内容を確認しようとメッセージカードを開く。

 

 

『えーと、これを読んでるってことは意識は戻ったんだよな。それは良かった………で、まず謝る。悪い、あんな終いになったのは完全に誤算だった。まさかの乱入だったけど、気付こうと思えば、気付けたんだし………。そのお詫びの品と言っては何だけど、チョコケーキ作ったから、食べてくれると嬉しいよ。味は保証するけど、ワンホールは多過ぎるだろ? アルフィンとでも分けてくれ。

 

 P.S エリゼを一人寝かせていたのも謝っておく。急用入ったからさ………もし、それでお詫びが欲しかったら、連絡くれよ。その時考えるから』

 

 

「あの方らしいといえば、あの方らしいです………」

 

 しょうがないと言った風に息を吐きながら、言葉を洩らす。

 

「(それにしても、ゼダスさんが作ったチョコケーキ………)」

 

 ちょっと気になり、調理室に備え付けてあるフォークを取り、一切れ食べてみた。

 口の中に広がったのは芳しいチョコの香りだ。苦さもあり、その中に仄かな甘味を感じさせる。そんな感じの味がする。

 正直、店に出しても文句の無い味にちょっとエリゼは妬けた。だって───

 

 

「(確かに兄様は大好きです。ええ、それは揺るぎません。ですが────)」

 

 

 初めて第三学生寮に遊びに行ったあの日。

 自分のミスで死の危険を感じた時に助けてくれた兄様(リィン)。だが、その為に禁じていた鬼の力に呑まれ………そんな兄様を叩き起こしたのがゼダス。しかも、あの後相談まで聞いてもらい、その時に一度見せた微笑みがエリゼの心の中では酷く刺さっていて───

 

 

「(初めて………そう、初めて兄様以外を異性として意識してしまった相手。ですから、今年はバレンタインに便乗して、チョコを渡そうと思ったのですが………)」

 

 

 このチョコケーキに比べれば、私がどれだけの出来のチョコを出しても到底勝ち目が無いだろうと直感するエリゼ。

 完全に当初の計画が砕け散ってしまった。しかし、結果としては進展し過ぎてしまって────

 

 

 

 

 

「────次は、次こそはこんな形では無く、ちゃんとした正攻法で想い(チョコ)を渡せると良いですね」

 

 

 

 

 

 冬の月夜の下、決して変わらぬであろう意志を固める恋する乙女が居たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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