ヘルツォーク先生の治療の甲斐もあり、ネプギアさんは上位危険種の討伐もこなせるまでに回復していました。
以前のように、ボサボサの寝癖だらけの頭のまま重役出勤ならぬ女神出勤、なんていうこともありません。
ネプテューヌさん譲りのくせっ毛ではあるもの、雨上がりの
これなら、ゲイムギョウ界の象徴として国民の皆さんの前に立っていたいても問題ないでしょう。
「ネプギアさん、次の追悼式の件でお時間をいただいてもよろしいですか?」
「追悼式……? 分かりましたけれど、誰の追悼式ですか?」
え……っ?
ネプギアさんが忘れるはずありません。
だって、お亡くなりになったのは――
「ユニさんと、ノワールさんの追悼式です」
そのときのネプギアさんの表情が、しばらく目に焼き付いて離れませんでした。
口元は穏やかなのに、目は笑っていなくて。背筋が震えるほどの薄ら寒い何かを感じさせられました。
「やだなぁいーすんさん。ユニちゃんなら、前の日曜日に一緒に買い物に行ったばかりですよ。あ、ネプステーション特別版のどっきりコーナーの撮影ですか? カメラはどこなんだろう」
「ネプギアさん!? 忘れてしまったんですか? ユニさんは――」
あなたがゲハバーンで、命を奪ったではありませんか。
そんなこと、今のネプギアさんには言えませんでした。
「いーすんさん、そういえば、お姉ちゃんはどこですか?」
「ネプテューヌさん!? 彼女は……!!」
何と答えれば良いのか思い浮かばず言い
「ねぇいーすんさん、お姉ちゃんは! お姉ちゃんはどこにいるんですか!? ううんそんなはずない、ねえ、いーすんさん!」
「ネプ……ギアさん、ぐぐ、離し……て……!!」
史書である私は、人の形を取っていても幼稚園児ほどの
その体をネプギアさんに揺さぶられて、視界がブラックアウトしかけていました。
「ネプギア!」
ばんと扉を開けて入ってきたのは、アイエフさん。その横にコンパさんが続きます。
彼女の姿を見ると、ネプギアさんは私を離してまた同じようにアイエフさんへと駆け寄って。
ようやく解放された私は、ぺたんと史書本体へ座り込みました。
「アイエフさん、お姉ちゃんのこと知りませんか? Nギアでも通信できないところにいるみたいで」
「しっかりしなさいネプギア。ネプ子は、死んだのよ。でも、いるじゃない、あなたの背中に、胸の中に」
「うそ……ですよそんなの。お姉ちゃんは……ダメなところもあるけれど、だからって、死んだなんて、そんな……。ううん、また、お仕事嫌になっちゃったのかな? わたし、お姉ちゃんのこと、探してきますね」
「待ちなさい、ネプギア!」
ネプギアさんはアイエフさんを振り払う勢いで部屋を出ると、脱兎のごとく立ち去りました。
「ネプ子は、ネプギアにしか任せられないからってあの子に託したのに……!」
コンパさんが心配そうにアイエフさんをたしなめます。
「ギアちゃんだって、つらいですぅ」
「分かってるわよ、ネプギアはやれるだけのことはやったって。でも、なら、どうすればいいのよ」
「少し、ネプギアさんに負担をかけすぎたかもしれません。旧プラネテューヌ領についてはほとんどの業務は女神が不在でも回りますし、またネプギアさんの業務量を減らして様子を見たいと思います」
ネプテューヌさんがいれば、ネプギアさんをこうも追い込むこともなかったでしょう。
歴代女神の肖像を見やりながら、問いかけました。
「ネプテューヌさん、怒っていらっしゃるでしょうか」
「平気ですよ。だいぶ前に死んだんですから」
アイエフさんの淡々とした受け答えに、かえって彼女のやるせなさを感じさせられます。
その後もネプギアさんは女神の死を否定し続け、正気に戻ることはありませんでした。
追悼式は急病のため女神不在という異例の事態となりました。
ノワールさんとユニさんのみならず、実の姉であるネプテューヌさんまで、全てです。
それぞれの女神を信仰していた旧領地の住人からのイメージ悪化は避けようがありませんでした。
ネプギアさんへの支持率は、目に見えて低下していきました。