「ちょっと聞いているんですの? サーバル?」
「うぅ……ちゃんと聞いてるよー。
ねぇカバー。まだ続くの?」
「当然ですわ。」
「えぇーー……」
サーバルちゃんは横に寝そべる様な恰好を、僕は正座をしている。
サーバルちゃんも最初の内は僕の真似をして正座をしていたのだけれど、カバさんの懇々と続くお説教で足が痺れ、痺れから逃げるように楽な体勢を取っている。
僕も少し足が痺れはじめているけれど、何となくこの座り方は嫌いじゃない。
ちなみにもうきちんと服は着ている。
「そもそもいいですか? 交尾というのは同じ動物同士で行われるものであって、いくらフレンズ化したとは言え、しっぽちゃんはなんの動物かも分かっていないんでしょう?
それをまったく考えもせず、快楽だけを求めるなんていうのは動物としてもフレンズとしても――」
「ねぇカバー。まだ続くの?」
「当然ですわ。
サーバル? 貴方今何を言われているかきちんと分かってますの?」
「わかるよー! しっぽちゃんと交尾するなら、ちゃんとしっぽちゃんのことを知ってからにしなさいって事でしょ?」
カバさんはまた両腕で胸を支えるように抱きかかえながら、大きく溜息を吐く。
「しっぽちゃん? 貴方は私の言っている事をちゃんと分かっていまして?」
「……はい。スミマセン。」
カバさんのお説教は、僕にはとても正しい事を言っているように思えた。
サンドスターの影響で動物がフレンズ化したこのジャパリパークにおいて、フレンズ化する動物は、決まってみなが『女の子』へと変わっている。
元の動物の特徴を色濃く受け継いだ状態でフレンズ化しているけれど、なぜこんな状況になったかは誰も分かっていない。
火山の噴火でサンドスターが発生する事とか、食べる物は『じゃぱりまん』があり、動物の時のように食べて食べられるような関係が消え、話ができて友達になれる新しい関係が築けるようになった事とか。はっきりと目に見えたり、感じることのできる現象以外に得られる情報は何も無い、わからない事だらけの状況の中。『オス』である僕が現れた事は、とても不思議な事。
つまり、僕の存在は何かしらの意味がある可能性すらある。
だから警戒しながら観察してみたりはしても、ただ気持ちよいからと過剰に接触する事は褒められる行為じゃない。
それに交尾は子を作る行為であり、フレンズ化した今、子を作る事が果たしてどんな結果になるのかわからない。
そんな状況である以上、もしサーバルちゃんと僕の間で子供ができてしまったら、サーバルちゃんが危険な状態に陥る可能性すらあり、カバさんの言うおっちょこちょいのサーバルちゃんとは言え、あまりに考え無し過ぎる。
そうカバさんは怒っているのだ。
もちろん僕も、むやみやたらに交尾をしたことを責められている。
僕は内心、僕の尻尾がそういう使い方の為にある事を知っているような気がしたし、サーバルちゃんの中に尻尾液を放つ行為も直感的理解していたのだと思う。
だからカバさんに見られていると、見られちゃいけないところを見られているような気にもなった。
……だからこそ、僕はカバさんのお説教が骨身にしみている。
もしかすると、この優しいサーバルちゃんを僕のせいでひどい目に合わせてしまうかもしれなかったのだから。
しゅん と落ち込む僕。
そんな僕の様子を見て、懇々とお説教をしていたカバさんが諦めたように溜息をついた。
「まぁ、しっぽちゃんも生まれたばかりのようですし、知らなかったのでしょうから仕方ありませんわ。
しっぽちゃんはサーバルとは違って、私の言っている事もしっかり聞いてくれているし、反省もしてくれてますわ。
考えることも得意なようですし、これからはきちんと考えてくれるでしょう。」
「はい。ごめんなさい。」
カバさんは僕の言葉を聞いて微笑む。
「ふふ。私こそ少しお小言が過ぎましたわ。 ごめんなさいね。
そもそもジャパリパークの掟は『自分の力で生きること』ですものね。
もしかすると、しっぽちゃんは何かの理由があって交尾をしていたのかもしれないですし、それにサーバルも喜んでいましたし……他のフレンズの生き方に口を挟むような出過ぎたマネをしてしまいましたわ。」
「いえ、そんなことありません!
とても勉強になりました。有難うございます。」
「ねぇカバー。まだー?」
「もうおしまいよ。
これからさばんなちほーの出口に向かうんでしょ?
サーバル。あなた汗かかないんだから、日が高い内に出歩くなら、ちゃんと適度に日陰で休みながら行くんですわよ。」
「終わったー!
いこっ! しっぽちゃん!」
「さ、サーバルちゃん。」
解放感を感じたのか、嬉しそうなサーバルちゃんがぴょんと飛び跳ね、僕の手を引き始める。
僕はカバさんがないがしろにされているような気がして、すこし悪い気になりカバさんに目を向ける。
だけど、カバさんはまったく動じた素振りもなく『サーバルですから、わかってました』と言わんばかりに平然とし、既に見送りの気配を漂わせていた。
僕はペコリと軽く頭を下げて、サーバルちゃんに手をひかれながら歩き出す。
サーバルちゃんはといえば、ようやく歩ける事が嬉しいようで上機嫌で元気よく足を進めていて、僕はそんなサーバルちゃんを見ていると、怒られて少し悲しくなっていた気持ちも無くなっていくように思えるのだった。
「セルリアンが多いから、出会ったら基本にげるんですわよー!」
「うん! わかったー。」
歩く僕たちの後ろからカバさんの声が聞こえ、サーバルちゃんが振り返って答え、また歩きはじめる。
「ゲートの方は特に大きいのがいるみたいだから、どうしても戦うことになったらしっかりイシを狙うんですわよー!」
「わかってるよー!」
距離が離れ、小さな声になっているけど僕達を心配するカバさんの声が聞こえ、サーバルちゃんが元気に返答する。
「……ん…り……ちい……ら…………交………り……………メ………よー……」
「だいーじょーぶだってばー!」
遠く離れすぎたせいで、僕には聞き取れなかったけれどサーバルちゃんにはしっかり聞こえていたようで、また返答していた。
僕には完全にカバさんの声が聞こえなくなっても、時々サーバルちゃんが振り向いて
「わかったってばー」
と、返答していたから、小さく見えるようになってもずっと心配してくれていたんだと思う。
きっとカバさんはとても優しいフレンズなんだね。
なぜか嬉しくなって、クスっと僕から笑いがこぼれる。
「なになにー?
なにか楽しいことあったのー?」
「ふふっ。うん。
楽しいこと。あったよ。」
「えー? なになにー? 教えてー!」
僕は元気なサーバルちゃんと楽しく話をしながら歩いていくのだった。