※この作品はR-18です。

ダンジョンに性交を求める眷属の物語   作:kuracjaponski

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エピローグ-ナァーザの万能薬-

 「あ、ハムザ。久しぶり…」

 

 ミアハ・ファミリアの青の薬舗にとって、この冒険者は既に常連になっていた。ぼったくりを繰り返し、完全に客を舐め切っていたナァーザの店に信頼を置いているのは、事実彼くらいのものだった。ハムザは戸をぱたんと閉め、いつものように回復薬を補充する。これから迷宮探索に向かうのだから、事前準備は怠らない。

 

 「…昨日会ったばっかりだぞ、ナァーザちゃん」

 

 「そうだっけ?」ととぼける彼女をよそに、ハムザはナァーザに小銭を渡す。購入した回復薬は合計三つ。しかし、「はい、どうぞ」手渡されたのは四つの薬瓶だ。

 

 「…ん?」

 

 「それはおまけ。日ごろ御贔屓にしてくれるお客さんに、特製万能薬(エリクサー)をプレゼント…」

 

 ハムザは思いがけないサービスに機嫌を良くし、いつもよりたっぷりとナァーザの頭を撫でて店を後にした。店内で彼女が邪悪な笑みを浮かべているとは露も知らずに、のんきな歌声を西のメイン・ストリートに響かせている。

 

 

 この日ハムザは難なく9階層を踏破し、10階層への階段を前に休息を取っていた。初めて踏み入れる領域を前に、昂る心を抑える。彼は階段を下っていき、そこに足を踏み入れた。その時。

 

 「…ようやく会えたなぁ、オイ」

 

 霧の中から姿を現した男。それはここオラリオに流れ着いた初日に斬りかかった人物。それは切り落とされた筈の右腕に、見覚えのある義手を装着して不敵に笑っている。そうだ、思い出した。いつの事だったか、主神から伝えられていた。

 

 この目の前の人物が、自分を付け狙っていると。いずれ決着をつけねばならないだろう、ということを。

 

 「ダンジョン内でノコノコと目の前にしゃしゃり出てくるとは、手間が省けるな。お前は今日、俺がぶっ殺す。それでハッピーエンドだ」

 

 そうか?と男は剣を抜く。銀色の長剣だ。ハムザも柄に手をかけ、同じように銀色の光を放つ長剣を抜いた。男の雰囲気は、張りつめている。油断も隙もないという表現が正しいだろうか。ハムザは直感した。最初の様に、うまいこと行く気配はなさそうだ…。

 

 「…悪ぃが俺は、ランクアップした。あの日お前に辛酸を舐めさせられてから、我武者羅にダンジョンに籠りモンスター共と戦い続けた。そして昇華させたんだ、己の器をな」

 

 男は話を続けている。ハムザは全く聞いていなかった。どのように裏を取り、どのように出し抜いてやろうか。ただそれだけに思考が集中している。雑魚の話など、聞く価値はない…。

 

 「…そういう意味では感謝していたぜ。片手じゃなけりゃ、偉業を成し遂げたとは言えねぇだろうからな。しかし、お前が呑気に主神と夜の道を歩いているのを見た時、そして万能者(ペルセウス)といちゃついてやがったのを見た時、怒りが燃え上がってきた」

 

 「ペラペラと煩い奴だ。俺はお前の右腕をもう一度斬り落としてやろう。いや、俺とやり合って四肢五体が綺麗に残ると思うなよ。二度と立ち上がれないようにしてやる」

 

 吹っ掛けても何をしてでも、こういう場合はビビらせてしまうのが得策だ。

 

 しかし、ハムザは彼の次の発言に恐怖させられた。

 

 「…安いな。俺はこれからお前の両手両足を切断して、その可愛いケツマンコに無茶苦茶中出ししてからペニスを斬り落とし、モンスターの餌にしてやる」

 

 しょんべんがちびりそうになった。昔のトラウマを、ほじくり返されたような気分だ。

 

 「……ひっ」

 

 男の目は、マジだった。決して冗談ではない。そんな雰囲気だ。

 

 「…ま、まさか、ホモか?」

 

 「だから何だってんだ?いまさら許しを乞おうとしても、遅ぇ」

 

 話は終わりだと言わんばかりに、男は距離を詰める。

 

 「…構えろっ!」

 

 ハムザの視界は、恐怖で真っ白になった。

 

 

 

 戦意を喪失してしまっては、殺意の籠った一撃をいなす事は出来ない。力任せに振り下ろされた長剣の圧に押され、どすんと尻もちをつく。間髪入れずに助走をつけた膝蹴りが顔面に直撃する。蹴り飛ばされた鼻が異常なまでに熱を帯び、たらりと鮮血が垂れてくる。

 

 (やべぇっ…)

 

 思わずレッグホルスターに手を伸ばす。回復薬を、飲まなければ…。しかしその行動も、あっさりと目の前の敵に阻まれる。

 

 ジーガはハムザの手を踏みつけ、回復薬を蹴り飛ばした。するとからんと音を立て、ホルスターから万能薬(エリクサー)が転がり落ちた。ナァーザに貰ったものだ。これを飲まなければ、まずい…。伸ばされた手は、再び乱暴に踏みつけられる。

 

 「無様なもんだな、オイ…。万能薬(エリクサー)かよ。おめぇには勿体ねぇ。俺が頂いてやろう…」

 

 ジーガはそう言って薬瓶の栓を開けた。匂いを嗅いだ。

 

 色も、臭いも、万能薬(エリクサー)のそれに違いなかった。そして、ぐいっと飲んだ。

 

 すると途端にぐらっと視界が歪み、彼の視界が真っ白になった。

 

 

 青の薬舗では、ナァーザがそわそわしながら帳簿を付けていた。しかし彼女はまったく手元に集中していない。今も数字を書き間違えたところだった。

 

 「…ふふふ。そろそろ来るはず…息を切らせながら、ハムザが…」

 

 すると勢いよく扉が開いた。来客を告げるベルが騒々しい程にりんりんと鳴る。

 

 (…きた!)

 

 「ナァーーーーーザァァァッァ!!!」

 

 (…きたっ!!!)

 

 彼女は興奮してハムザを見つめた。しかし彼の反応は、彼女が予期していないものだった。

 

 「これは一体どういうことだ!?!?!?」

 

 ハムザが指さす場所を見るまでもなく、見たこともない男が髭面をすり寄せながらハムザに抱き着いている。

 

 「…アニキ、逃げるなんてそりゃないぜぇ…俺はアンタをオラリオのアニキだと思ってますぜ…!」

 

 「…あなた、誰?」

 

 ナァーザは体をすり寄せる男に話しかけた。まるで、この反応は…。

 

 「俺はジーガ・ぺデルスキーだ。アニキの舎弟だよ。知り合いか?よろしくなぁ」

 

 そう言って伸ばされた手を、ナァーザは無視した。この反応は、間違いなく媚薬の効果だった。

 

 「…多分、だけど。この人、ハムザにあげた万能薬(エリクサー)を飲んだ…?」

 

 「この糞ホモ野郎、確かにあれを飲んだ。そっからおかしくなりやがった。やらせてくれだの、愛しているだの、思い出すだけで吐き気がする言葉ばかり…おい、いったいあの薬はなんだったんだ…?」

 

 ナァーザは白状した。万能薬(エリクサー)によく似た色と、よく似た臭いのする媚薬を開発したこと。ハムザが愛おしくて、それを飲ませようとしたこと。しかし、わからないことがあった。媚薬はナァーザだけを対象とするはずなのに、なんでこの男はハムザを好きになってしまったんだろう?その答えを握る神物(じんぶつ)が、騒ぎを聞きつけてやってきた。

 

 「なんだ?一体なんの騒ぎだ?」

 

 寝ぼけ眼をこするミアハに、ナァーザは恐る恐る聞いた。

 

 「…もしかして、ミアハ様。ブリュー・ブラッド(血の醸造酒)じゃなくて、ブルー・ブラッド(青の血液)を入れてしまったんですか…?」

 

 ミアハは頭をぽりぽり掻きながら必死に思い出そうとしているが、寝ぼけた頭では歯切れの悪い返答を返すだけで精いっぱいのようだ。

 

 「あぁー…どっちだったか…。すまん、覚えてない」

 

 「…で、結局何なんだ?こ、こいつは元に戻るのか?」

 

 ナァーザは嘆息しながら説明した。ブリュー・ブラッド(血の醸造酒)にはナァーザ自身の血液が含まれている。だから完成した媚薬は彼女だけを対象として効果を発揮するはずだった。しかし、ブルー・ブラッド(青の血液)はただのモンスターの血液だ。そうなれば対象を限定することはできず、ただ目の前の人間に効果を発揮する。

 

 「おい、おい。言っとくがな、お嬢ちゃん」

 

 ジーガが口を挟んだ。

 

 「俺は媚薬なんか飲んでねぇ。俺はアニキに惚れたんだ。この人の未来には、輝かしいものが待ってる。確かに、俺にはアニキを憎んでいた時期もありはしたが…。今はもう、受け入れられるんだ。アニキの強さと、その偉大さをな。…まぁ、おめぇみたいな女に男が男に惚れるってことが分かるとは思わねぇ」

 

 ナァーザはいらっとして、たまたまそばに置いてあった剣の鞘で思わずジーガの頭を全力で殴りつけた。

 

 そして先ほどまでぴんぴんしていた筈のホモがあっさり気絶した。

 

 「な…ナァーザちゃんって、意外と強いんだな…。俺が何度殴ってもぶっ倒れなかったのに…。糞、このホモ野郎」

 

 ハムザはホモをげしげしと何度も踏みつけている。一応、自分も元冒険者の端くれだ。トラウマのせいでモンスター相手に力を出せないとしても、人間相手には十分。ましてや、愛しのハムザを横取りしようとするホモ相手に情けを掛けてやる気分にもなれなかった。

 

 「…しかし意外だな。あのナァーザが一人の男性の愛を独占しようと躍起になる日が来るとはな。今回の行いは邪道とはいえ、その恋路を応援してやらんわけでもないぞ、なぁ?」

 

 ミアハは彼女の頭をぽんぽんと叩く。今までは男の噂すら立たなかった我が子を見つめる主神の視線は、少し悲しそうに見えた。

 

 「まぁ、百万ヴァリスと引き換えにセクロスしたからな。それからというもの、ナァーザは俺にぞっこんだ」

 

 「なに…?」

 

 ナァーザの頭を撫でる手が止まり、ミアハの表情が固くなる。

 

 「ナァーザ、お前、本当か?今の話は。本当にそんな娼婦まがいの事をしていたのか?」

 

 「ち、ちがいますっ…!?」

 

 出資金を貰い、そのお礼に食事をした。その流れで良い雰囲気になってしまっただけだと慌てて訂正するも、時すでに遅し。主神は美しい顔に怒りの表情を浮かべて彼女に詰め寄った。

 

 「同じことだ!悪いが、ナァーザ。そんなものは愛じゃない、ただの勘違いだ。それにハムザはお前を愛してなどはいない。彼に比べれば、まだ俺の方がお前の事を大切に思っているぞ」

 

 (はぁ…くだらねー。一難去って、また一難か…)

 

それからと言うもの、主神の我が子に対する愛の言葉をさんざん聞かされている間、ハムザの意識はとっくに夕飯に向かっていた。

 

 「ナァーザ、私はお前を一生かけて守り抜く。だから二度と娼婦紛いのことはしないでくれ…」

 

 「ナァーザが望むのであれば、何をやっても構わない。だが、金銭を対価に体も心も差し出すなど言語同断だ…」

 

 「私は確かに男としては不十分かもしれない。だがナァーザを一番大切に思っているのは、家族の様に思ってやれるのは私だけだ…」

 

 主神の愛の言葉を瞳を潤わせて、嗚咽を漏らしながら聞いているナァーザを見ながらハムザは思った。

 

 (…今日は、ステーキがいいかな?)

 

 「…わかったな、ナァーザ?」

 

 「……はい」

 

 事態は収束したようだった。

 

 「では、ハムザ。すまないが今日はこれで帰ってもらおう。この気絶した男はこちらで介抱しておく。そして悪いが、ナァーザを弄ぶのはもう止してくれ。今までの行いについて、彼女も十分に反省しているようだからな」

 

 「あー。はいはい。じゃ、またな…」

 

 (まったく、やっと帰れる。あぁ、腹減った…)

 

 嬉々として扉に手を掛けた時、愛しの主神に叱られて萎れていたナァーザがとことこと近づいて来て、こっそりと耳うちした。

 

 (ごめん、ハムザ…。やっぱり私、ミアハ様が好き。あの人を裏切る事ができない…ずっとあの人のお傍にいたい…)

 

 だから…。

 

 (だからハムザを、発情期専用の肉バイブにしてあげる…。ふふふ、ばいばい)

 

 そう言って扉は閉じられた。夜の風が通り過ぎていく中、西のメイン・ストリートではいつものように酔っ払った男たちが愉快そうに笑い声をあげている。

 

 「…冗談、なのか?」

 

 まぁ、いいか。

 

 ホモは追い払った。ナァーザに粘着されずに済む。今日はステーキでも食おう。そうすればまた、明日も元気よくセクロス出来るに違いない。

 

 ●

 

 「とまぁ、そういうことがあったわけだ」

 

 テルクシノエ・ファミリアの本拠地(ホーム)で、ハムザは事の顛末を主神に語っている。主神はおかしそうに笑い声を上げながら肉を頬張った。

 

 「…しかし、本気だったのか、今もわからん。普段は神様にぞっこんだけど、発情期だけは別の男とセクロスするなんて、ありえるのか?」

 

 「…ははは。そんなもの、本人に訊いてみなきゃわからんじゃろう。それに下界では、神なんかには想像もできんことが起こるものだ…。お前がまさに、それを地で行く男じゃな」

 

 そういうもんか、と肩をすくめる。オラリオの夜空は満点の星に飾られて、きらきらと輝いている。

 

 「ふぁー…ねむ。それにあのホモ、まさか媚薬の効果が切れた途端また襲い掛かるなんてことにはならんだろうな」

 

 テルクシノエは満腹そうにお腹をぽんぽんと叩いてから食器を置いた。

 

 「…それについては、まぁ何とかなるじゃろ。あいつの『銀の義手(アガートラム)』だがな、私が贈ったんだ」

 

 「…へっ?」

 

 思わぬ主神の言葉に驚きを隠せない。

 

 「…怪物祭(モンスター・フィリア)の際お前が気絶して運ばれた時、頃合いを見てガネーシャに話をしに行ってな。こちらが料金を立て替える、あいつが全力でジーガを説得するという話で決着をつけた。斬り落とされた腕への対価、眷属の愚行に対する謝罪としてな、私が立て替えてやったんだ」

 

 素直に、驚いた。一体このぐーたら神のどこにそんな大金があったというのか…。

 

 「…何か失くなっているとは思わんか?実はな、あの『絵』を売ったんだ。それでその金をガネーシャに渡してやった。銀の腕ともなれば、それはもう高い値が付くものだから、彼奴は嬉しそうに礼を言ってきたぞ」

 

 あの『絵』とは、彼女の昔の子供が書いた絵だ。その有名な画家の作品は、今では一億ヴァリスはくだらないという。市場に出回ったことのない未発見の作品、しかも神がモデルである知られれば、きっとかなりの値段が付けられたに違いない。しかし、良かったのだろうか。

 

 「…大切にしてたんじゃなかったのか?あの落書きを」

 

 それはもう、と主神は悲しそうに嘆息する。

 

 「胸が張り裂ける思い、とはこの事だ。しかしなぁ、ハムザ。過去の思い出に引きずられて今を楽しめないなんて、愚かだと思わんか。私はもしお前が死んでしまったらと言うことを想像した時、もっと胸が痛んだのじゃ。だから決心できた。私にとっては、お前はもう大切な家族なんだ…」

 

 「そういうもんか…?」

 

 ハムザはばっと立ち上がる。

 

 「まぁ、辛気臭い話は終わりだ。色々あったが、また明日からセクロス三昧の日々が始まるわけだ。次の目標は、えー…」

 

 ちらり、とハムザはエイナの『目標達成シート』を見た。

 

 「…そうだ、サポーター兼セフレを見つける。シルちゃんは手コキまでしかいってないからな。次は中出しセクロスだ!」

 

 それにさっさとランクアップをして、リヴェリアちゃんのおっぱいを無茶苦茶にしなければならない。やるべきことは、山積みだった。

 

 「そうじゃ、そのいきじゃ。どれ、久しぶりに水煙草(シーシャ)でも吸うか?」

 

 「悪くない!この前買った、ココナッツ味を試してみよう」

 

 

  その時、歓楽街の路地裏で悲鳴にも似た声が響く。

 

 「…おいっ!そのガキ捕まえろ!泥棒だ!」

 

 「いやぁ~ん!アタシのオパールの指輪が盗まれたぁ~!」

 

 テルクシノエとハムザは、その叫びに耳を傾けた。面白おかしくハムザは冗談を飛ばす。

 

 「ははは。ホモから盗みとはなかなか気の利く奴だな。今度そいつに会ったら、たっぷり謝礼を渡さなきゃいかん」

 

 

 一方、その小さな泥棒は素早い身のこなしで路地裏を走り去り、あっさりと追っ手を振り払っていた。

 

 手元で黒光りする指輪を転がして。

 

 (…あんな贅肉たっぷりのお腹でリリを捕まえようなんて、百年早いです)

 

 その双眸で夜空を見上げた。まん丸の月が、彼女に笑いかけているようだ。

 

 

 

 こうしてオラリオの夜は、波風を伴いながらゆっくりと更けていった。

 

  

 

 

 

 




ここまでで一巻相当です。

色々怪しい点が多いのですが、書きたいものを自由に書いてみました。
実力不足を感じる次第です。少し間を置いてから、また再開します。

読んでくださった方、どうもありがとうございます。
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