ダンジョンに性交を求める眷属の物語 作:kuracjaponski
「よーう、眷属様のお帰りだぞ~」
【テルクシノエ・ファミリア】の
粗挽き肉に多種類のスパイスを練りこみ、炭火で焼き上げるというシンプルな料理。何の変哲もない肉料理だが、付け合わせに刻んだ生の玉葱を添える事で味が締まる。それが長い放浪生活で培った、味気ない食卓に僅かな色どりを加える自分流のひと手間だった。
煙がもくもくと歓楽街の路地裏に立ち込める。普段よりも時間が遅いせいか、いつもなら光に群がる蛾の如く集まる隣人たちは、その煙に釣られては来なかった。
ぱちぱちとオレンジ色の炎を弾きながら、重ねた炭が崩れ落ちていく。そんな様子を目に焼き付けながら、ハムザは今夜の出来事を主神に語っていた。
「…それで、俺はロリコンの神に魂を売ったわけだ。きっと死んだら地獄の業火に焼かれるに違いない。俺はもう、至福の楽園には行けないのだ…。目の前のたった一人の少女に気を取られてしまったことで、楽園にいる無限の
落ち込むハムザを、主神はもぐもぐと口を動かしながら励ました。
「安心しろ。お前の魂が天界に還ったら、きっと私が裁いてやる。それにお前らの宗教観などデタラメじゃ。天女なんていないし、セックスもできんからな。天界に人が求める快楽などない。こっちでせいぜい楽しんでおくことじゃ」
「…そんなことは分かっている。天界とやらでセクロスが出来るとは思っていない。だからこっちで死ぬほどやってるんだ。まぁ、もし仮に魂にチンコが付いているなら話は別だがな」
神様が神様らしい話をしてくれたことで、ハムザは少し気が楽になった。
どうやらロリコンだからといって永遠の苦しみを味わうということはないらしい。それに死後の世界というものに、セクロスに勝る快楽も無さそうだ。それならば、今を楽しまないと損じゃないか。ロリコンと罵られようが、異常者だと世間に騒がれようが、自分の感覚を裏切る事はできない。
焼けた肉を口に放り込む。肉汁が口いっぱいに広がった。
(そうだ、あの子は確かにセクロスに値する何かを秘めていた。例え少女の外見をしていても、だ)
焼けた肉を次々と口に入れながら、出来る限り前向きに考える。
(きっと彼女は特別なのだ。百万人に一人くらいは、妙にエロい子供がいても不思議じゃない。そうだとしたら、まだ自分は普通なのかもしれない)
ハムザもテルクシノエも素早く焼けた肉を平らげてしまったので、あっという間に網の上が空っぽになった。ハムザは第二陣を投入すると、肉汁が赤々と燃える炭に滴りジューという音を出した。
(しかし、普通子供に欲情するか?
ハムザが未だ拭い去れない罪悪感と格闘していると、主神が気遣わし気に言った。
「まぁ、その…。ヤッたものは仕方ないのじゃ。くよくよするな。それより、今日の迷宮探索はどうだったのだ?」
ハムザは思い出したように話し始めた。今朝、
思い出せば思い出すほど、いらいらが募ってきた。乱暴な手つきで網の上の肉を転がす。そろそろ食べごろだ。
「くそっ、今度会ったら絶対アイツにぶち込んでやる。腹立つなぁ」
そう言って一つまみ肉を取り、口に入れる。火傷しそうなほど熱々だ。
「ふむ。それで、そのサポーターはどんな感じだったのじゃ?」
主神の更なる質問に、ハムザは面倒臭そうにダンジョンでの出来事を伝えた。
「まぁ、可愛いかったな。小さいが、出るとこは出てる。
「それよりも、あいつは俺の剣を盗もうとしたぞ。小物臭をさんざん漂わせといて、油断をさせたかったんだろう。寸でのところで気が付いて、なんとか事なきを得たがな」
一部始終を語った自分の言葉に、ハムザは更に腹を立てた。
(そうだ、あのガキ、俺を騙そうとしやがった。服従中出しセクロスをするために泳がせるつもりだったが、やっぱりやめだ。今度は必ず、問答無用でぶち込んでやる)
「ほう、興味深い話じゃ。そのサポーターとやらはどこのファミリア所属か、聞いたか?」
「ううむ、確か、言っていたな…。あー、【ソーマ・ファミリア】とか、そんなんだ。店で酒を売る派閥らしいぞ。酔っ払いのカス野郎しかいない低級ファミリアだ」
主神は拳を頬に当てながら考え込んだ。先ほどからずっと、主神は箸を止めていた。
「おい、ちんたらしてると俺が全部くっちまうぞ。後から文句言っても、知らんからな」
テルクシノエは空返事をして思案を続けている。その視線は真っ赤に燃える炭に注がれている。
暫くしてハムザが肉をすべて平らげた頃、女神はおもむろに告げた。
「興味深いな、私は【ソーマ・ファミリア】とやらをつついてみる事にする。それで金が落ちてくるようなら、本格的に先制攻撃だ。他に何か情報があったら、今のうちに言っておくのじゃ」
ハムザはギルドでノイマンと話した事を思い出した。非公式的にギルドに協力する組織が欲しいと言われた事、その見返りとして何かと口うるさいギルドから便宜を図って貰えるようになるだろうと言うことを、主神に伝えた。
「…素晴らしいのう。よし、じゃ。さっそく明日便宜を図ってもらうとしよう」
主神が邪悪な笑みを浮かべている。今まで見たことがないテルクシノエの表情だった。
「何だ、お前やる気を出したのか?」
「当り前じゃ。我がファミリアの威厳を示す大切な詩を飾る額縁のため、だ。神自ら遊戯に興じるとしよう」
彼女は箸を持ち、再び肉を食べ始めようとした。
「な、ない…」
唖然とした表情をした女神が、次の瞬間大声で叫んだ。
「私の肉を食べたのは、どこのどいつじゃーーっ!」
●
同時刻、オラリオの闇の中をリリは歩いていた。心と体に後に尾を引くであろう傷を負った彼女は、その報酬として得た金貨を手にねぐらに戻る最中だった。
いくつもの小路を抜けた際にある、一層狭い小路に佇む宿屋に辿り着いたとき、彼女はその男に気づいた。
「よぉ、アーデ。ずいぶん遅いお帰りじゃないか」
「ザニス…さま」
リリは震える体を、相手に悟られないようにローブで包んだ。
「団長の仕事をしていると、いろいろな話が耳に飛び込んでくるものでな。今日の夕刻、ギルドでお前が大量の金貨を手にしていたという話を、小耳に挟んだのだ」
リリはごくりと喉を鳴らした。ダンジョンから帰還しギルドで換金しているところを、ファミリアの仲間に見られていたらしい。
「おかしいじゃなか、アーデ?お前はソーマ様への納金がもう半年は出来ていないはずだと思っていたが、まさか義務を怠り貯金をしているのではないか?」
「そんな事はありません」
リリは出来るだけ目を合わせないように視線をそらしながら、ザニスの質問をはぐらかそうとする。
「俺に嘘を吐くんじゃねぇぞ、おい」
「……っ」
語気を強めるザニスに、リリは体をこわばらせることしか出来なかった。
(下宿先は突き止められていると思っていましたが、まさかザニス自ら乗り込んでくるとは…)
焦りを隠せないリリに対して、ザニスは脅すように言った。
「…わざわざ部下の不手際を埋め合わせるために、団長様自ら足を運んでやったんだ。手持ちの金貨も含め、溜め込んだ金をすべて俺に寄こせ。そうすれば最悪の事態だけは避けられるぞ、アーデ?」
到底飲めない要求だった。自分が必死の思いで貯めたお金だ。心を鬼にして詐欺を繰り返し、次第に純朴さを失い、いつの間にか自分はただの薄汚い盗人に成り下がっていた。それでも自由な未来のため、命を削りながらこつこつと稼いだものだ。金貨一枚だってくれてやるもんか。
「…お断りです」
「じゃあ、痛い目見るしかねぇなぁ」
言葉が終わらないうちに、ザニスはリリを蹴飛ばした。冒険者の強烈な蹴りをまともに食らったリリは、空中を何秒も漂いながらもんどりうって地面に叩きつけられた。
「ぁぐっ…!」
息が出来ない。激しい痛みにリリはお腹を押さえ、呼吸もままならないまま地面でのたうち回った。ザニスは苦しむリリに唾を吐き、足で顔を踏みつけた。
「お前はどれだけ痛めつけられても言うことを聞かないからなぁ、また前みたいに知り合いを痛めつけてやった方が、理解してもらえるか?」
冷酷な発言に、リリは固まった。
一度だけ、ファミリアの生活に耐えられなくなったリリは脱走を試みた事があった。行く当てもないまま路上で生活していると、優しい老夫婦が彼女を拾った。程なくしてリリは花屋を営んでいた彼らを手伝いはじめ、新しい生活の喜びに彼女は浸っていた。
しかし彼女の想いとは裏腹に、慈悲深く優しい老夫婦との幸福な日々はすぐに崩壊を迎えた。リリの脱走を快く思っていなかった【ソーマ・ファミリア】の連中が、彼女を連れ戻すために老夫婦の花屋を滅茶苦茶にしたからだ。
リリはいつ自分の居場所がバレたのかもわからなかった。しかし、彼女にとってそんな事はどうでもよかった。長い間続けてきた店を一日で失った老夫婦が悲しみに暮れているのを見た時、それがすべて自分の責任だったのだと悟ったからだった。
少しでも考えれば、狂った【ソーマ・ファミリア】の冒険者たちが、リリだけでなくその彼ら老夫婦の人生を滅茶苦茶にしてしまうかも知れないことは分かるはずだった。その事実に目を背け、仮初の幸せに逃避してしまった自分のせいで、彼らは不幸になってしまった。リリに向けられた汚物を見るような目つきを見た時、自分はその過ちに気づいたのだった。
普段の優しい眼差しとはかけ離れた、責めるようなその視線はこう物語っていた。
『お前のせいだ』
「……っ」
「おい、黙ってんじゃねぇぞ」
ザニスは再びリリを蹴り上げた。口が切れている。血の味がする。地面に這いつくばり、血の味をかみしめるのはもう人生で何度目かもわからない。そして這いつくばる自分のそば立っているのは、決まってこの男だった。
「お前の住んでるこの宿屋を燃やしてやったら、お前も少しは目が覚めるな?」
「ぅ…っ」
下宿先の女主人は良い人とは言えない。リリはかえってそれが気に入っていた。いざこのような状況を迎えた時、躊躇いなく斬り捨てられると思っていたからだった。しかし、今リリは心の中で叫んでいた。やめてくれ。自分のせいで他の人が傷つくのは、もう見たくない…。
「…わかり、ました」
唇を嚙みしめながら、涙をこらえながら、リリは言った。
「…手持ちの金貨だけ…どうか今はそれで、許してください…」
彼女は這いつくばってバックパックを開き、金貨袋を取り出した。ザニスはかがんでそれを引ったくり、中の金貨を勘定した。
「ははっ、最初からそうしてれば怪我しなくて済んだのになぁ。お前は本当に愚かなやつだ、アーデ。ふむ、十万はあるな。今日のところはこれで勘弁してやってもいいが…溜め込んでいるものに関しては、別の対応が必要だな」
ザニスは大量に金貨の詰まった袋を片手に愉快そうに続けた。
「それにしても、お前は小さい頃と比べて少しは成長したなぁ?食べ頃になったら女郎屋に売り飛ばそうと思っていたが、そろそろその時が来たみたいだな、アーデ?」
「…っ」
醜悪な笑みに顔を歪めたザニスの口元が、橙色の魔石灯に照らされる。
「決めたぞ、アーデ。もしお前が貯金を渡すつもりがないのなら、その分は体で稼いでもらう。なに、心配するな。どうしても小人族の奴隷が欲しいという知り合いがいてな、そいつは紳士だから直接手を下すことはしないそうだ。何でも小人族とモンスターの交配に興味があるらしくてな、オークやゴブリンがどうお前を犯すのかを見たいそうだ。どうだ、良い話だろ?」
絶対に、嫌だ。そんな事になるくらいなら、いっそ舌を噛み切って死んでしまった方がいいに決まっている。もともと楽しいことなどない、みじめな人生だ。それに自分が死んだからって、悲しむ人もいない。
リリの恨めし気な視線に、ザニスは満足したような笑みを浮かべる。
「そうだ、嫌だろう、アーデ?どうしても断りたければ、俺の奴隷にしてやってもいい。四六時中犯し続けてやる。俺が望んだ時、望んだ場所でだ。俺の命令には絶対服従だ。あくまでも、お前がうちのファミリアにいる間は、だがな。そうすれば、お前を今まで通り生活させてやってもいいぞ?」
バレていますか、とリリは心で呟いた。冒険者を騙し金を巻き上げ、僅かな出費をも控えるために過剰な労働を受け入れているのは、すべてファミリアから脱退するために他ならない。
当然頷くことは出来ない。しかし、否定することもできない。リリは返答に窮していた。
「わ、私はまだ子供です…」
「お前はわかっていないな。子供のうちから仕込んで置くことで質の良い性奴隷に仕上がるんだ。ガキだろうが口で奉仕するくらは出来るだろう?」
すると暗がりに潜んでいたもう一人の男が声を掛ける。
「ザニス様、人が来ました。ずらかりましょう」
リリは未だに血を吐きながら這いつくばっている。どんな人間でも、この状況を見れば誰が手を出したのかは一目瞭然だ。ザニスは「まぁ、二日後のファミリアの集会で返事を貰うとしよう」と言い残して踵を返し、暗闇に溶けていった。
リリは何とか体を起こし、ふらつく足に力を込めて下宿先の宿屋の扉を開いて、暗い室内へ入っていった。その様子を、通りすがりのエルフが怪訝そうに見つめていた。
宿屋の受付に置かれていた古ぼけた大型の魔石時計は、丁度深夜一時の時刻を示していた。蹴られた腹部がじんじんと痛む。一日中忙しなく動き回っていたこともあり、リリの体はもはや限界寸前だった。
(それに、今日食べたのは乾パン一つ…さすがに何か食べないとまずいです)
重い体をひきずってキッチンへ向かう。そこには、彼女の行動を見透かすようにして張られたメモが扉に留められていた。
『いつまでも遊んでるんじゃないよ、クソガキ!お前の夕食は没収した。罰として、明朝までに食器を洗っておけ。サボったら、ただじゃ済まさないよ』
リリが洗い場を見やると、うずたかく積まれた食器が山のように彼女を待ち構えていた。
(今まで幾度となく人生最悪の日を味わいましたが、今日はまた格別です…)
彼女は無言で食器洗いに取り掛かった。いつの間にか擦り剝けて赤くなっていた両手が、冷たい水を浴びるためにひりひりと痛んだ。
しかし宿屋の女主人のリリへの理不尽な態度も、先ほどのザニスの暴力に比べれば他愛もないものだ。あの男はいつも自分を追い詰め、ファミリアのため、主神のためなどと嘯いて私腹を肥やしている。
リリは黙々と作業に没頭する。
冒険者なんて、いつもそうだ。弱者を徹底的に卑下し、擦れきれるまでこき使い、挙句の果てには命乞いを笑って蹴とばし、モンスターの餌食にする。その力を用いれば、一体どれだけの弱者を救えるか。その剣一つで、貧困にあえぐ村そのものを救うことだってできるのに…。
あいつらは、いつもその剣で誰かを傷つけるだけだ。
(冒険者なんて…リリは大っ嫌いです)
結局この日も、彼女がぼろぼろのソファーに横になれたのは三時をとっくに過ぎた頃だった。
バサバサと羽ばたいている夜鴉の群れが、割れた窓ガラスの向こうから泣きじゃくる彼女を同情するように見つめていた。
●
「後ろきてますっ!?はやく回避してください!」
リリは唇を噛んでボウガンの標準を定める。短剣を片手におろおろと狼狽える少年は、リリが彼の背後から迫るコボルトの眼球に矢を撃ち抜いてようやく、その存在に気づいたようだった。
(もうっ、何なんですかこの人はっ!本当に冒険者ですか?これじゃあリリよりも弱っちいじゃないですか…)
息絶えたコボルトから魔石を回収し、怪物はさらさらとした灰に変わっていく。少年は何度も礼を言い、まるで冒険者に似つかわしくない台詞をサポーターに投げかけている。
「本当に凄いね、リリ?僕は今までコボルトを三体同時に相手するなんて考えてもみなかったよ!」
「…冒険者なら、常に集中して背後に気を配って下さい。ベルさまの戦い方は危なっかしくて、リリはとても見ていられません」
目を輝かせる少年は、あははと乾いた笑いを響かせて申し訳なさそうに頭を掻いている。
「それに、こんな1階層でうだうだしてないでリリは早く5階層辺りまで行きたいのですが?」
「5階層!?えっと、それは無理じゃないかなぁ。だって僕は今まで一度だってコボルトに勝てた事がなかったから…」
思いがけない少年の発言に、リリは目を丸くした。
「…到達階層が5階層だと言うのは、嘘だったのですか、ベルさま?」
ベルは慌てて訂正した。
「嘘じゃないよっ!し、信じて!でも、あの時はたまたまモンスターに遭遇しなくて、その…ほんとにたまたま、行けただけで…。それにしても、リリは凄いね!?まだ僕より全然子供なのに、コボルトを一発で仕留めちゃうなんて!」
尻尾を揺らしながら、リリは白い目でベルを見つめた。
そうだ、今の自分は
『子供じゃない』と訂正したくてうずうずしていると、突然お腹が鳴った。
当然だ。自分はもう丸二日もろくな食事を取っていない。それでもリリは僅かな小銭でさえ無駄にしたくはなかった。昨日ザニスに脅されてからというもの、心は嵐の様に荒れ模様だ。
来る集会の日に主神ソーマに脱退を申し入れなければ、自分はいよいよザニスの奴隷になってしまう。
脱退金がいくらかもわからないが、とにかく一銭でも多く確保しておきたかったから、彼女はずっと食事を取らずにいた。体の方もふらふらだったが、回復薬を飲むことで何とか凌いでいる。
リリが空腹に俯いて、能力のない素人冒険者を今日のパートナーに選んでしまった事にしょぼくれていると、少年は申し訳なさそうな顔をしてからリュックをがさごと漁り弁当箱を取り出した。
「あ、あの…。お腹すいてるなら、これ、一緒に食べよう、リリ?」
じとっとした目つきで差し出されたその弁当箱を見やる。不味くはなさそうだ。
「良いのですか?ありがとうございます、ベルさまは本当に素晴らしい冒険者さまです。実力は、まだまだですが」
彼女は二日ぶりの食事を受け取り、食べた。すると空っぽの胃袋が驚いてぐるぐると音を鳴らした。リリは、それがまるで暇な店主が久しぶりの仕事に大慌てしているような音だと思った。
「ははは、それにしても、本当に僕なんかと組んでくれてありがとう、リリ」
彼女が食事を有難そうに食べている横で、ベルはダンジョンの壁に背を預けながら率直に自分の意見を述べた。実際、自分は冒険者稼業を始めて二週間程経つが、いまだに地力では一階層すら越えられない。
己の非力さに歯がゆい想いをさせられながらも、ボロボロになった体をいつも抱きしめてくれる神様の優しさが心地よくて、最近はこのまま一生弱い冒険者のままでも良いような気がしているのだけど。
「才能がある人って、いいですよね…」
リリが小さく呟いた。
「そうだね…」
ベルはそれに呼応する。自分に冒険者としての才能がないことなんて、いつまでも白紙のスキル欄を見れば明らかだ。ステイタスの伸びも、最初と比べてこれっぽちも成長していない。
「何十年かかろうと、第二級冒険者になることさえ出来れば、オラリオでは勝ち組なんですけどね」
リリは肩をすくめてみせる。まるで彼女はそんな事は自分には何百年かかったって不可能だと思っているようだった。
ベルはリリの事をよく知らない。今日広場で誘われて、初めて組んだサポーターだ。それでも、ベルには彼女の方が自分なんかよりもずっと才能に恵まれているような気がしてならなかった。自分では全く相手にならないコボルト達に対して、果敢に戦い勝利するほどだ。
だからもし自分と彼女のどちらかが第二級冒険者になる日が来るとしたら、それは間違いなく先に彼女の方に来るだろう。そう思うとベルは途端に自分が情けなくなった。俯いていた顔を上げリリを見つめると、青い燐光に照らされる彼女の横顔が、想像以上に大人の雰囲気を纏っていることに気づいた。
その表情は重々しく、暗い。きっとダンジョンで付いた傷だろうと思われる擦り傷や切り傷の跡が、所々に付いている。少女だと思っていた彼女の顔は、今や面妖に大人の女性の雰囲気を漂わせており、そのギャップにベルはどきっとした。
「ね、ねぇ。ちょっと聞いてもいいかな?」
膨らんできた股間を両股で押さえつけながら、悟られないように声を掛ける。しかし目敏いリリの目は、明滅するダンジョンの燐光の中でもそのしぐさを見逃さなかった。
(男性なんて、いつもこうです。ペニス、ペニスって…。本当に軽蔑します)
「どうなさいました、ベルさま?お花でも摘みに行きたいんですか?」
「あ、いや、そうじゃなくて…。その、リリのことをもう少し知りたいなぁー、なんて思ったりして…」
不自然に内股になっているベルを見て、リリは少しからかってやろうという気になった。
「もちろん、良いですよ。そうですねぇ、リリは売春婦です」
ベルは飛び上がった。
「え!?う、嘘だよね!?」
明らかに平静を失っているその様子を内心で馬鹿にしつつ、声色は大真面目を装って答える。
「もちろん、本当です。ベルさま、サポーターなんていう職業で生計を立てられると思いますか?私の様な子供でも、体を売りでもしないととても生きていけない世界なんです」
「で、でも…。ファミリアの人たちは、リリを助けてくれないの…?」
「そんな訳ありません、むしろ逆です。彼らはリリを女郎屋に売りつける事で、自分たちの懐が温まってとても愉快そうでした」
ベルはショックを隠し切れないという様子でとぎまぎしている。リリは思った。からかい半分でついた嘘だったが、自分は明日にでもそうなるかも知れない。そう考えると、なんと笑えない冗談だろう。
「そ、そうなんだ…」
ベルは少し平静を取り戻し始めていた。しかし、驚きの事実に股間は膨れっぱなしだ。
「でも、いいの?その、体を売るっていう事に抵抗とか、やっぱりあるんでしょ?」
リリは頷いた。勿論そうだ。しかし、ここ数日のうちに一人の冒険者を嵌め損ねて初めてを奪われた。そしてもう一人の冒険者には売春婦になるか、彼の奴隷になるかと脅された。
もう自分は落ちるところまで落ちる直前だ。二人の間になんとも言えない空気が流れ、リリは悲しみに沈んでいた。そして彼女は小さな声で語り始めた。それは追い詰められることで無意識のうちに出た、心の叫びそのものだった。
「…リリは小さな頃から冒険者に育てられました。物心ついた頃には既に、母親も父親もダンジョンで行方不明になって二度と帰ってくることはないだろうと知っていました。ファミリアの先輩たちは、リリに冒険者としての才能がないと知るや否や、私の食事を減らしたり、厳しい仕事を与えたりしました」
言葉を紡げば紡ぐほど、心の中でせき止めていた筈の何かがあふれ出ていくような気がした。それでもリリには、それを止めることが出来なかった。
「それでもリリは、前向きに生きようと頑張ってきました。毎日のように殴られて、四六時中蔑まれて生きていきました。それでもリリは、才能がなくても、優しさや思いやりがあれば、きっと幸せになれるんだと思っていたんです…」
リリは零れる涙を拭った。
「でもそれは間違いでした。生活はどんどん苦しくなり、いよいよ自分ではどうすることも出来なくなりました。その頃には、自分はお姫様なんかじゃないし、王子様が救いに来ることなんて絶対にないんだと言うことを、もう理解していました。だからリリは自分を変えました。優しさも思いやりも捨てて、ただひたすら生き抜く事だけを考えました。例えそれで、誰かを不幸にしようとも」
(そうです…そうやって私は冒険者を陥れる事を覚え、どんどん汚れていったんです)
「……」
ベルは悲痛に顔をゆがめて、その話を聞いていた。モンスターの遠吠えがどこかから聞こえてくる。しかし、いまはそんな事なんてどうでもいいように思われた。何とか、目の前の少女を救えないだろうか…。もし自分に力があれば、彼女を無理矢理に所属するファミリアから脱退させてあげられるのに。
「ファミリアを抜ける事は、できないの?」
ベルはリリに問いかけた。彼女はすぐさま首を横に振って否定した。
「…ファミリアを脱退するには、それこそ途方もない金額が必要です」
それにザニスは自分が溜め込んでいるファミリアの脱退金を狙っている。今まで冒険者を手玉に取って金銭を巻き上げて貯めた三百万ヴァリス。それを渡してしまえばもう二度と機会は巡って来ないだろう。かと言ってしらを切り続ければ、間違いなく自分は奴隷として売り飛ばされる。八方ふさがりで、まさしく詰みといって差し支えない状況だった。
さらに不幸な事には、ファミリアのある仲間にたまたま自分の『変身魔法』を目撃され、それをネタに強請られている。彼らは手を変え品を変え、リリの貯金を狙ってくるに違いない。
(残された道は、本当に脱退金を用意することです…。ソーマ様が私の言葉を聞き入れてくれるかはわかりませんが、主神様を納得させられるだけのお金を用意することができれば、あるいは…)
明日行われる集会で脱退を表明する。手切れ金として有り金を全て渡し、主神に懇願する。もうリリにはその選択肢しか残っていない。後は少しでも多くのお金を稼いでおかなければ。
そう思うと、途端にリリは時間が惜しく感じた。こんな所で疲れて座っているより、何かやらなければならないことがある筈だ。
「さて、おいしかったです…ベルさま」
涙を拭い、半分ほど残された弁当をベルに突き付けるも、彼は「食べていいよ、お腹空いてるでしょ?」と言って彼女にそれをおしやった。
リリは再び目に涙を浮かべ感激の表情で感謝の言葉を贈り、すぐに真剣な表情を取り戻して言った。
「では、ベルさま。お食事を頂いた事で少し元気が出てきました。私が今から少し先の様子を見てきますので、ここで待っていて貰えますか?」
「…え?うん、いいけど…」
ベルの返事を聞くまでもなく背中を向け、リリは弁当箱を片手にひょいひょいと食べ物を口に投げ込みながら、ダンジョンを一人で進んでいってしまった。
暫くの間、取り残されたベルは心細く思いながらも律儀に彼女の帰りを待っていた。こだまするのはモンスターの遠吠えだけだ。群れだろうか、そこまで遠くはないだろう。
すると突然、通路の奥から小柄なヒューマンが慌てた様子で駆けてくる。
「おいっ、大変だ!向こうでお前の仲間がコボルトの群れに襲われて、どこかへ引きずられていったぞ!?」
ベルの鼓動が急激に高鳴り始めた。信じられない。あの彼女が、まさかやられてしまうなんて?思い出される先ほどのモンスターの遠吠えが、急にベルの耳にこびりついて来た。
気づいたときには、既にベルは駆け始めていた。大急ぎで彼女が曲がった通路に入り、全速力でその姿を探す。彼女がどこで倒れ、自分が今どこを走っているのかもわからなくなってしまった頃、ベルはある物を見つけ、愕然とした。
先ほどリリに手渡した弁当箱の残骸が、地面に転がっていたからだ。
そしてその隣には、彼女が被っていた白いローブの切れ端が無残に散っていた。
ベルが絶望に言葉を失って突っ立っているその同時刻に、先ほどの小さな犬人はダンジョンへの出口へとまっしぐらに駆け抜けながら、一人でつぶやいた。
「まったく、私としたことがここで時間を無駄にしてしまうなんて。リリは何としてでもお金を稼がなければいけないのに…せめてハムザさまのような稼ぎの良い冒険者を見つけなければいけません」
あの冒険者は妙な作戦を実行することで、一日に十万ヴァリスも稼ぎ出した。普通の四人パーティの四倍に相当する稼ぎだ。もはやそこまで行けば上級冒険者クラス。彼が下層で燻っているレベルでないことは、明らかだった。
帯剣していた装備も、かなりの値段がついていてもおかしくはない物だった。それならば、当然まだまだ金は持っているだろう。
(こうなれば、なりふり構っていられませんか。売春婦の様な真似は出来るだけ避けたかったのですが、手っ取り早く大金を巻き上げるには、こうするしかなさそうです)
街への出口は、もうすぐそこだった。
●
バベル方面から西のメインストリートを暫く奥まで進んでいくと、武器屋や道具屋が姿を消し始め、代わりに民家が所狭しと居並び始める。大の大人がすれ違うこともできない程小さい路地裏を抜けて、ハムザは久しぶりにナァーザの店を訪れた。
扉を押すと、聞きなれた声が店の奥から響いてくる。
「…いらっしゃ~い」
ナァーザは机に肩肘をつき、眠たげな表情で茶色の髪の毛をくるくると弄っていた。
「なんだ、暇なのか?」
「…来たね、変態冒険者。変態に売る商品はない。帰って。…と言いたいところだけど」
ナァーザは明るい笑みを浮かべて、言った。
「久しぶり、ハムザ。よく来たね」
「おう、来てやった。今頃ナァーザちゃんは俺とのセクロスが忘れられないで、悶々としているのではないかと思ってな」
「もう発情期は終わった。だから悶々とはしていない。それよりも、最近調子はどう、ハムザ?」
ハムザは「まぁ、ぼちぼちだ」と適当に返事をしてから、カウンターの机に腰かけた。
「いつ来ても暇そうな店だな。前にあげた百万ヴァリスで作った媚薬はどうなった?」
ナァーザは獣耳を少し垂れ下げて、口を尖らせて言った。どうやら何かご不満の様子だ。
「…あの惚れ薬は、ミアハ様のご命令で処分した。会心の作品だったのに、調合書レシピも全部、捨てられちゃった。…その代り」
彼女はカウンターの下からがさごそと薬瓶を取り出した。
「…あの惚れ薬を開発している途中、たまたま出来たこの『二属性回復薬デュアル・ポーション』の売れ行きはすこぶる順調…。出資への感謝も含めて、ハムザには特別価格で安くしておくよ~…」
「また変な効果がついてたりしないだろうな?」
ナァーザはきっぱりと否定したが、ハムザはどうも信用ならなかった。万能薬と言われて危うく飲みかけた物が、実は媚薬だったのだ。彼女は平気で嘘を吐き、己の目的のためになら手段を選ばないという強かな性格だというのが、前回得た教訓だった。
(まぁ、そのお陰であのホモの魔の手から逃れることが出来たわけだがな…)
「…それで、あのホモはどうなった?」
ここの所ずっと気がかりにしていたことを、ハムザは訊いた。ナァーザはわざとらしく驚いた素振りを見せて、「そんなに恋しいの?」と聞いてきた。
「ばか。あいつが二度と俺の前に現れんように、ちゃんと深く埋めてきたんだろうな?」
「…ホモをゾンビみたいに言わない。あの【ガネーシャ・ファミリア】のジーガとかいう冒険者は、ミアハ様がガネーシャ様の所に連れて行った。別段変わった様子はなかったよ。だから安心して、ハムザ」
その一言にハムザは安堵した。もしまたケツを狙われるような事になったら、自分はオラリオから尻尾を巻いて逃げ帰るに違いないと思っていたからだ。
どうやらまだ、オラリオに留まる事が出来そうだ。
「…そういえば、ミアハ様が何か言っていたような…」
ナァーザはしばらく中空を見つめ、やがてぽつりぽつりと思い出しながらつぶやいた。
「…俺がバカだった。あの人の美しい筋肉への憧憬を忘れ、一時の激情に身を任せてしまうとは。この事を教訓にして、あの人への愛をもっと胸に刻まなければならん。…とか、何とか」
「あ、あの人って誰だ…?」
ハムザの質問に、ナァーザは知らないとばかりに肩をすくめて言った。
「…さぁ。でもミアハ様が言うには、あのホモはガネーシャ様を見て顔を赤らめていたって」
「そ、そりゃあ良い組み合わせだな。出来るだけ末永くお幸せに…」
くすくすと笑い声を漏らし、ナァーザはハムザの頭をぽんぽんと叩いた。
「ほらほら、失恋したからって落ち込まないの。ハムザには私がいるでしょ?」
ハムザには、果たしてその言葉が本気なのかどうかはわからなかった。だが、その真意を聞く気にもなれなかった。ホモに付け狙われるのは当然嫌だが、ナァーザに地獄の果てまで追いかけられるのも少々不気味だと思ったからだ。
そんなハムザの態度から何か察したのか、ナァーザは姿勢を直してハムザにこう言った。
「…私はミアハ様一筋。もう二度とハムザに迷惑を掛けるような事はしない。でも、次の発情期はひと月後だから…ね?」
ハムザは理解できなかった。心は一人の男に預けたまま、別の男の前で股を広げるなんて言うことが、果たしてあり得るのだろうか。それも、自ら望んでそうするなんていうことが、本当にあり得るのだろうか…。
「お、おう。まぁ、覚えてたらな」
(その疑問をぶつけるのは、次の機会にしておこうか…。急に我に返って、もうヤらせてあげないなんて言われたら損だしな)
自ら進んで股を開いてくる相手に向かって、そんな事は道徳上良くないなんて言うのは、腰抜けのする事だ。据え膳は、なんとしてでも食わねばならない。だからハムザは疑問を棚に上げて、とりあえず発情期には彼女をおいしく頂くことに決めた。
「…そうだ。ナァーザちゃんにちょっと聞きたい事があるんだが」
「さっきから既に何度も質問している。なに?」
ハムザは罰が悪そうにぽりぽりと頭を掻き、暫くの間逡巡していたが、やがて意を決して質問した。
「…もし俺が少女とセクロスするロリコンだったら、幻滅するか…?」
途端にナァーザは噴出し、お腹を押さえながら笑い始めた。しかしハムザは大真面目だった。
「おい、笑い事じゃないぞ。俺はその事が気になって昨日は全然眠れなかったんだ…」
「ふふふ…ふふ。ごめん、ごめん。ふふ」
ナァーザは未だに可笑しそうにお腹を押さえては、湧き上がってくる笑みを嚙み殺している。
「ハムザは想像以上の変態。幼い少女にまで手を出す正真正銘の本物だった…」
ハムザはショックで固まっていた。やはり、自分は変態なのだ。ロリコンに人権などないに違いない。これからきっと今みたいに、人に指を差されながら笑われる人生を送っていくのだろう…。
「ふふふ…でもね、ハムザ。性的趣向は人それぞれだから。私は別に幻滅したりしない」
そんな彼女の優しい発言も、砕けたハムザの心を再び繋ぎ合わせる事は出来なかった。ハムザは力なく立ち上がり、新商品の二属性回復薬を受け取ってとぼとぼと店を出た。ナァーザはあまりにも元気をなくしたその様子に驚き、まずい反応をしてしまったと思ったが既に遅かった。
気が付くと、ハムザはどことも知れない往来を歩いていた。行き交う人々の目が、自分の背中を見つめているような気がしてならなかった。そして背中には、きっとこう書いてあるのだ。
『俺は変態ロリコン野郎です。どうぞ蔑んで下さい』
昨晩主神によって一度は元気づけられた彼だが、再び大きな問題に直面していた。
その頃、主神はギルドに赴いていた。受付嬢に自分が【テルクシノエ・ファミリア】の主神だということを伝えると、どこからともなく太ったエルフの中年がやって来た。
「おぉ、これはこれは。どうもお初にお目にかかります、神テルクシノエ様。私はこのギルドの所長、ノイマンと申します。ささ、こんな玄関口ではおもてなしも出来ませんので、どうぞこちらへ」
促されるまま着いていくと、見覚えのある部屋に案内された。いつだったか、怪物祭の時にハムザとエイナが朝からたっぷりセクロスを楽しんだ来客用の応接間だった。
ノイマンは柔らかいソファーに重い体をどっしりと沈め、テーブルに置いてあった菓子を女神に勧めた。
「いやいや、なかなかどうして女神様のお美しさには慣れんものですなぁ…。テルクシノエ様は女神様の中でも一段とお美しい。まぁ、それはさておき、今日ご足労頂いた件について、早速お伺い致しましょうか?」
テルクシノエは太ったエルフを意地悪い視線で見つめた。それに気づいたノイマンの目は泳ぎ、脂ぎった顔に汗が浮かんでいる。
「なんじゃ、ヤりたいのか?」
「…へっ?」
ノイマンは不意打ちを喰らったように、間抜けな声を上げた。
「女神とセックスをしてみたいのか、と聞いておる」
ごくりと唾を飲み込み、信じられないという顔付きでノイマンは固まっている。
「ほれ、好きにしたければしてもいいぞ?」
テルクシノエは透けて見えそうな程薄い洋服を脱ぎ、上半身を露にした。白銀色の髪の毛をさらっと靡かせ、両手を広げてノイマンに近づいていく。
「よ、よろしいので…?」
女神が優しく微笑んだのを見て、ノイマンはその胸にむしゃぶりついた。
「う、うおおおっ!?これが女神のパイオツかぁ!こんなに素晴らしい肌触りだとは、思いもしなかった!くそっ、あの若造は毎晩こんな良い物を弄んでいるのですかな!?」
ノイマンは思わず出た本音にも気づかず、無我夢中で女神の胸をむしゃぶり続ける。すると女神の極上の絹の様な手が、いきり立った股間に服の上から触れた。
「おおおあっ!?そ、そんな、女神様。そんなところをおお!?」
「うるさい、少し黙っているのじゃ。人が来て困るのはお前だろう?」
一瞬だけ我に返ったノイマンは「失礼…」とだけ言って、自ら服を脱ぎそそり立った下半身を女神の眼前に曝し出した。
女神は、その肉棒を躊躇すらせず口に含んだ。途端にノイマンは感激の悲鳴を上げ、自ら腰を動かし始める。
「おおおっ!か、感激でございます!女神様にフェラチオしていただく日が来ようとは!?いやぁ、本当にいい役職でございますなぁ、ギルド長というのは!」
それから一分も経たないうちに、ノイマンは異変に気付いた。
「あ、あれっ。い、いかん。もうイキ…あっ」
耐えようとする自らの意思をまるで無視するかのように、ペニスは大量の精液を女神の口内にぶちまけた。
「おおおおぉぉぉふううぅぅ……」
射精の快感はまるで別次元だった。慣れ親しんだ紳士ご用達の女郎屋にいる女どものテクニックとは比べ物にならない快感だった。生まれてこの方、このような快感に支配されることはなかったかのように思われる程、すさまじい快楽が身を駆け抜けていた。
「ふふ、まだ元気なようじゃ」
女神の言葉通り、一度絶頂を迎えたペニスは未だに膨張している。とても萎える気配がない自分の一物に、未だ体を駆け巡る快楽。ノイマンは少し恐怖した。
体の自由が利かなくなっている気がして、慌てて右手を動かしてみる。しかし、動いた。何の問題もなく体は動くのだが、異変は拭い去れない。
その感覚は、まるで駆け巡った快楽に意思の手綱を握られていくようだった。気が付くと、ノイマンはペニスを女神の膣内に挿入し、獣の様に腰を振っていた。
(あ、あれ…いつのまに?)
言葉を発するにも、その仕方がまるでわからない。今自分の中にあるのは、下腹部から体全体を駆け巡る極上の快楽だけだった。一突きするたびに、まるで絶頂したかの様な快感が身を包む。心は異常なまでに満たされていた。
自分が、獣の様に女神を犯している。超越存在である、人間には到底叶うことのない異次元の相手を、自分はまるで雌を孕ませるように犯しているのだ。これが興奮せずにいられようか?
出来る筈がない。ノイマンは、この瞬間が一生続けば良いとだけ思い、一心不乱に腰を振り続けた。
そして絶頂の瞬間は不意に訪れた。女神に膣内に吐き出された精液は、まるで一年分ほどもあろうかという量だった。筆舌に尽くしがたい快感は、彼の意識をどこか深い場所へと誘っていくようだった。
(あぁ、やってしまった。私はもう、戻れないに違いない。女神に篭絡され、心身ともに魅了され、意識のない肉塊として快楽を求める獣になってしまった…)
ノイマンが薄れゆく意識の中でそう感じた時、ぱちんという音が弾けて視界が鮮明に色を取り戻し始めた。
「…!?」
気が付けば、そこは先ほどの応接間だった。だらしなく垂れ下がったペニスに、精液がどろりと付着している。目の前の女神は面白そうな顔をして、呆けたノイマンを見つめていた。
「どうじゃ、これが神の魅了だ。一部の美の神なんかは、こうして子供たちを意のままに操るのだ。だが、私はそんなことはしない。ちゃんと元にもどしてやるのじゃ」
長い間驚愕に硬直していたノイマンだが、やがてゆっくりと状況を飲み込み始めた。
「いやいや…参りました。この世の物とは思えない快楽でしたが…少々恐ろしさもありますな。しかし、女神様とのセックスは全く癖になります…。これだけのおもてなしを受けてしまっては、私としてはどうお返しをしたら良いか見当も付きません」
テルクシノエはだらしなく股間をぶら下げながらゆっくりと立ち上がったノイマンを見つめて言った。
「なに、少し頼み事を聞いてくれれば良い。【ソーマ・ファミリア】を内偵し、その情報を私に渡すのじゃ」
「そ、それだけでございますか?」
女神とのセックスだ。とんでもない代償を払う覚悟をしていたノイマンは、心底ほっとしたようだった。
「では、ギルド長の私自ら内偵したとなれば問題となりましょう。ここはチュールを使って調べさせます。詳細は後日、書面にして届けさせましょう」
テルクシノエは満足そうに言った。
「よい。苦しゅうない。これからも私の要求を聞けば、好きなだけヤらせてやろう」
鼻の下を伸ばすエルフの中年は、哀れな程幸せそうな顔をして頷いた。