ダンジョンに性交を求める眷属の物語 作:kuracjaponski
「はぁ…。雨は嫌いなのじゃ」
【テルクシノエ・ファミリア】の
「俺もだ。雨なんか最悪だ。オラリオは雨が多くてかなわん、俺の故郷じゃ今時真っ青な晴れ空が広がっていることだろうよ。くそ、今日はやっぱやめとくか?」
「そうしよう…と言いたいところだがバカを言ってはいかん。先ほども言ったように、私は【ガネーシャ・ファミリア】に向かわなければならんのじゃ。何ならお前も一緒に来るか?」
テルクシノエの発言を、ハムザは一瞬で却下した。ホモファミリアの根城になんざ、例え金が貰えるとしても行くものか。
「だから言っただろう。俺は行かん。代わりにギルドに行ってエイナちゃんとたっぷりセクロスを楽しんでくるぞ。最近だいぶご無沙汰だからなぁ」
「はぁ…。セックスも良いが、たまには新しい女を引っかけてきたら私はどれだけ嬉しいか。この前のロリ少女も喰わずに逃げるしのう。お前、最近調子出ないようじゃな」
主神の指摘は的を得ている。自分がロリコンに落ちた夜を境に、途端に性欲が減衰している気がするからだ。だから今日こそセクロスをしなければならない。
魔法も取得したことだし、新しいステイタスを提出するという名目でエイナちゃんにたっぷり中出しを決める。自分が変態ロリコン野郎になってしまったとしても、何度もセクロスをしていればきっとそのことを忘れられる日が来るかもしれないのだ。頑張らなければ。
「よし、雨がなんだ。美人が股を開いて待っているというのに、雨を理由に引きこもる奴を果たして紳士と呼べるだろうか?さぁ行くぞ!楽しいセクロスが待っている!」
「はぁ、おめでたい奴じゃ…」
主神と別れてから、ハムザは雨の中意気揚々とギルドへ向かっていった。こんな天気だからか、往来の人々はいつもより数が少ない。きっと連中は雨を理由にサボって家でオナニーでもしているのだろうと、ハムザは思った。
メインストリートを抜け、聳え立つバベルの足元にあるギルドに辿り着くころには、ハムザの黒い髪の毛は雨でびしょ濡れになっていた。大理石のロビーを泥水で濡れた靴で汚しながら歩いていき、受付で忙しそうに動き回っているエイナを見つけた。
「よっ。エイナちゃん。来たぞ~」
「あらっ…?」
声を掛けられ驚いたのか、エイナはハムザを見て素っ頓狂な声を広間に響かせた。
「何かずいぶん久しぶりな気がするなぁ、エイナちゃん」
「そうかしら、一昨日会ったばっかりよ?」
エイナは作業を止め、ハムザのためにだけ用意している特別な笑顔で彼に微笑んだ。
(やっぱ可愛いなぁ、エイナちゃん。股間がむずむずしてきたぞ)
「…実はなぁ、魔法が発現したから報告に来たんだ。念願の魔法というよりは、魔法の方から喜び勇んで飛び込んできたって感じだがな」
「ま、魔法ですって?」
エイナは驚いていた。無理もない、もともと魔法に対して適正のあるエルフなどの
それにも関わらず、ただ好きなように性行為に耽って気が向いたときに迷宮探索に行く『お遊び』程度の努力で魔法が得られるなんて、エイナは思ってもみなかったからだ。
百歩譲ってレアスキルによる効果だとしても、やりすぎに違いない。ここまでくればもうチートと言わざるを得ない。反則だ。
ハムザに羊皮紙を手渡され、エイナは共通語に訳されたステイタスを眺めた。
「この魔法、『イェベン・ティ・マーテル』…?特に詳細が記載されていないけど、一体どんな魔法なのかしら?」
「教えてやってもいいが、場所を変えないか?人が多くてかなわん。暗く、二人っきりになれる場所がいいな。ぐふふ…」
ギルドの受付にはひっきりなしに様々な種族の冒険者が訪れる。こんな場所でファミリアにとっての生命線である眷属のステイタスについての情報を扱ったのでは、危機感が足りないと言ったところか。エイナはハムザに『うん、わかった』と頷き、引き出しから鍵束を取り出して席を立ち、同僚に声を掛ける。
「ねぇミィシャ、迷宮探索相談の件でちょっと席を外すから、何かあったら張り紙を残しておいてね」
ミィシャと呼ばれたヒューマンの女性はエイナに『わかったわ~』と声を掛けてから、ハムザを見た。
「いいなぁ~。私もえっちなエクササイズでストレス解消できる、将来有望な冒険者を担当してみた~い」
「もうっ!ミィシャ、怒るよ?そんなんじゃないんだから」
否定はするものの、エイナは恥じらいに少し赤くなっているようだ。もしかしたら、エイナが『おあずけ』を決め込んだ理由は、同僚に毎日セクロスしている事実を知られてしまった事を恥じているからかも知れないと、ハムザは思った。
(セクロスなんて誰でもしているし、当たり前の事だってしっかり学ばせなければならんな、うむ)
大理石の通路を歩いていくエイナの細い後姿に、たっぷりエロい視線を浴びせていると、ハムザは応接間に辿り着いた。エイナが鍵束から一つの鍵を差し込み扉を開ける。
「前やった時とは別の部屋だな?」
以前エイナとセクロスした場所とは、明らかに違っていた。飾りつけは粗末で、ソファーはとても柔らかそうには見えないものが一脚置いてあるだけだ。
「うん。今ノイマンが会議で使っているから、応接間は空いてないの。
「おう、まぁ
そう言ってエイナは固そうなソファーに腰かけ、ハムザはその隣に座る。ふわっ、とエイナから良い香りが漂ってきたので、股間が嬉しそうに起き上がって来た。
「それで…この魔法についてなんだけど、分かっている事があったら、出来るだけ詳細に教えてほしいな」
エイナにそう言われたので、ハムザは先日リヴェリアが言っていた魔法の解釈を何とか思い出しながら喋り始める。
「えーと…これは
「
驚きを通り越して、もはやエイナは呆れていた。異常に速い成長速度に加えて、こんなに卑怯な魔法まで手に入れてしまったハムザは、もはやオラリオ中の冒険者が束になっても敵わないポテンシャルを秘めていると言っても過言ではない。
神々の耳に入ったら、間違いなく大騒ぎになりオラリオ中を巻き込んでの争奪合戦になるだろう。現在ギルドでは、ハムザの情報をノイマンの指示下のもとに徹底的に秘匿している。ハムザをギルドに協力的な『駒』に仕立て上げたい、そのためには多少の我儘にも目を瞑るし、いくらか便宜を図ってやっても構わない…そんなノイマンの指示も、いまでは至極もっともに思えてきた。
「ステイタスも攻撃なんかがSに近づいてきているし…」
話題がハムザのステイタスまで行くと、エイナの声の調子が少し下がった。何だか不満そうだと思って、ハムザは吹っ掛けてみた。
「別にエイナちゃんとセクロスしても成長が遅いなんて事はないぞ。他の女だから速く成長したわけでもない。この前迷宮探索をした時に、少し荒業をして十万ヴァリスほど稼いだことがあってな、その時にキラーアントを何百匹も狩ったんだ。ステイタスが上がったのは、それが原因なだけだろう」
「キラーアントを数百匹、しかもそれを一人で?いったいどんな手段を使ったの?」
セクロスの話題は意識的に避けたものの、エイナは少し安心したようで声の調子が普段通りに戻っていた。
「その時はサポーターがいてな。袋小路に陣取って、瀕死のキラーアントを吊るして群れを誘き寄せたんだ。そしたら来るわ来るわ。こちらから探しに行く手間も省けたし、なかなか効率の良い狩りだったぞ」
「あ、あのねぇ…。キミは自分がどれだけ危ない事をしたのか分かってるの!?いくら狭い通路で一方からの敵だけに集中していても、急にモンスターが背後から生れ落ちるってこともあるんだから!まぁ、キミは私が何を言っても聞かないんでしょうけど」
頬を膨らませて怒るエイナをよそに、ハムザが上下に揺れるエイナの胸にくぎ付けになり全く話を聞かないでいると、彼女は諦めたように怒るのを止めてしまった。
「それより、あの防具はどう?ちゃんと問題なく使えているかしら?」
ハムザはエイナに言われて、呪われたかもしれない防具の事を思い出した。前回の迷宮探索以来全く使用していなかったから、存在そのものを忘れてしまっていたのだ。
「あぁ、あれはまぁなかなか着心地が良かったぞ。呪いなんてのは無さそうだし、持ち主が死んだのも多分偶然だろう。心配する必要はなさそうだ」
それを聞いてエイナは胸を撫で下ろした。自分の選択が原因でハムザが死んでしまったら、きっと責任を感じてしまうに違いない。
「だから言ったでしょ?キミは唯でさえ危機感が足りなくて危なっかしいんだから、多少の不利を跳ね返せるくらいの防御力がある装備を着て貰わないと、こっちは心配で仕事にならないわ…ねぇ、聞いてるの?」
再びエイナの胸元にくぎ付けになり、全く話を聞いていないハムザにエイナはご立腹だ。『話を聞かない』とか『エロい事ばかり』とか『変態冒険者』などと彼女が悪口を並び立てている間も、ハムザは鼻の下を伸ばしてエイナの体をエロい目つきで堪能している。
「ぐひひ…。ところで、エイナちゃんには小言なんかよりももっと似合うものがあるぞ」
「似合うもの?」
この時エイナは、ハムザが自分に何か贈り物を持ってきてくれたのかと期待した。そして一秒後には、少しでも期待してしまった事を後悔することになる。
「そうだ。これだぁっ!」
ハムザは勢いよくズボンを下ろし、完全に勃起したペニスをエイナの眼前に曝け出した。
「こんなになってしまったのはエイナちゃんのせいだ。久しぶりにしようじゃないか、スケベを」
「もう…」
エイナはしっかり拒絶したかったが、いきり立ったペニスを前に疼く下腹部を抑えきれない。ハムザとの肉体関係は暫くの間持たないつもりだったが、セックスの味を覚えてしまったエイナの下腹部は日夜その快楽を求めて理性に反抗し続けていた。
(私もちょっと限界だったのよね…やっぱり彼に抱かれるのって、何だか特別な感じ…)
顔を上げ、勃起ペニスを見やる。はち切れんばかりに膨張し、苦しそうに脈打っている。エイナは何故か、それを開放してあげなければならないという義務感に駆られた。
「じゃあ、久しぶりにやっちゃおっか?」
「おう、そうしよう。ぐひひひ…」
そしてエイナの指先が鬼頭に触れた。
その瞬間、ペニスは急速に萎んでいき、ふにゃりと力なく項垂れた。
「…えっ?」
ハムザは驚愕した。勃起が続かないなんて、ジジイじゃあるまいし自分には起こりうるはずのない事だと思っていたのに、現実にそうなってしまったからだ。
「あれ?元気がなくなっちゃったよ?」
エイナはしこしこと愛撫を続けるが、反応が全くない。不思議な事に、股間から神経がなくなってしまったかのように何も感じなくなってしまっていた。
「ど、どういうことだ…?」
驚きを隠せないでいると、エイナは諦めて手の動きを止めた。ハムザが自分でしごいてみても、やはり全く反応がない。まずい。ハムザは焦っていた。勃起不全だ。まさか自分にこんな事が起こるなんて…。
「まさか、呪いか?」
「…?」
「これが呪いか?ロリコンの呪いが、発動したというのか…?」
「…え、えぇ?」
「う、うそだあああああっ!?」
ハムザは叫んだ。インポになってしまった。その事実から逃げ出したかった。ズボンを上げ、涙を流しながら部屋を飛び出した。エイナが何かを言ったが、聞き取れなかった。
これが報いだ。ロリコンになってしまった自分への、呪いだ。きっと自分は二度と普通の女性とはセクロスができないのだろう。恐らく出来るのは、少女を相手にしたときだけ。禁断の果実を一度口に含んでしまったら、もう後戻りはできないのだ。
ロリコンの罪から逃げることは出来ないぞ。
ハムザはギルド本部を駆け回り、気づいた頃には雨のオラリオを訳も分からず疾走していた。
水たまりに何度も飛び込みびしょ濡れになりながら、いつの間にか『司祭ヴァレンティン像』の広場に辿り着いていた。気持ちを落ち着けるため腰を下ろし、受け入れがたい事実に頭を抱えていると、アクアブルーの髪を靡かせた美女がハムザの前にやって来た。
「ほらね。アスフィ?彼ならきっとここにいるかもって言ったじゃないか?前に何度もここにいるのを見たからなぁ」
「本当ですね、ヘルメス様。お久しぶりです、ハムザ・スムルト」
ハムザはアスフィを見た。そうだ、この
「あ、アスフィたん。助けてくれ…!インポに効く道具を俺に譲ってくれぇ!」
「は、はぁ?」
事の顛末を口早に説明すると、アスフィとヘルメスは心底がっかりしたようにため息を吐きながらハムザに告げた。
「…走れない馬に価値がありますか?もう勃たないのなら、貴方は用済みです。本当は今晩久しぶりにどうかと思ったのですが、インポを治す道具はありませんし、時間の無駄です。行きましょう、ヘルメス様」
「あぁ、そうしよう。見損なったぜ、ハムザくん」
凍り付くハムザをよそに、【ヘルメス・ファミリア】の主神と団長は足早にその場から離れていった。ハムザには、まるでその様子が変態ロリコンに近づくまいとして逃げる人々のように思われた。
(く、くそ。まだだ、まだ…ナァーザちゃんがいるじゃないか)
ハムザは重い足取りで『青の薬舗』へ向かって行った。ハムザは既にバケツを何杯も被ったように濡れており、体は冷え始めている。しかし本人はそんな些末な事よりも、目下の問題だけに悩まされていた。
「…いらっしゃ~い。あ、来たね、変態冒険者」
いつものように、気だるい声を出して挨拶するナァーザに大急ぎで近づいたハムザは、がっしりと彼女の肩を押さえつけて言った。
「ナァーザちゃん!インポを治す薬をくれ!今すぐにだ、頼む!いくら払ってもいい!」
ナァーザだけでなく、隣に居たミアハも驚いたようにハムザを見つめていた。
「えぇっと、ハムザ。勃起不全に効く薬はうちでは取り扱っていない。回復薬の専門店なのでな。開発するにしても時間がかかるぞ…?ディア―」
「ハムザ!私に任せて!」
ミアハの発言を途中で切り、ナァーザは声を荒げた。
「愛しいハムザのインポは私が治してあげる。勃起不全に効く薬はどこにも売ってない。だから前金で十万ヴァリスくれれば、開発に取り掛かるよ~」
ハムザは金貨袋を取り出し、それを丸ごとナァーザに渡した。
「十五万はある。これで頼むぞ、事は急を要する。一秒でも早く完成させてくれ、じゃあな…」
ハムザが背中を丸めて落ち込んだ様子で店を出て行ってから、ミアハはナァーザを非難がましい目で見た。
「どうして【ディアンケヒト・ファミリア】に取り扱いがある事を教えてやらなかったのだ?」
その質問にナァーザは心底呆れたといった視線を返す。
「それを教えちゃったら、ハムザのお金はあいつ等に渡る。だから私が開発すると言って、とりあえずお金だけもらっておいたんです。こうすればうちのファミリアが儲かる…。ミアハ様はいつも親切ばかりで、銭勘定には疎すぎます…」
「そ、それはそうだが…。開発はどうするのだ?時間もかかるし、金もかかるだろう」
ナァーザは少し考えてから、垂れ下がった耳をぴょこんと立てて言った。
「薬は、【ディアンケヒト・ファミリア】から買って来よう。それをハムザにあげれば万事解決」
「そ、それはいくら何でも…勃起不全の薬なんざ、せいぜい百ヴァリスだろうに…」
「ではミアハ様は、うちのファミリアが赤字で潰れてしまっても良いのですね?」
これにはミアハはぐうの音も出なかった。結局商売上手なナァーザに丸め込まれ、お人好しの神は金貨袋を懐にしまった。
ここにも一人、雨のオラリオを歩く神物がいる。【ガネーシャ・ファミリア】から丁寧な見送りを受けてから、テルクシノエはメインストリートを外れた街道を歩いている。
丁字路に差し掛かった時、丁度角のところに一軒の花屋を見つけた。女神がしげしげと綺麗な花を眺めていると、老人が店の中から出てきて声を掛ける。
「おや、女神様ですかな。珍しいこともあるもんじゃ。良かったら中でお茶でも如何ですか?」
「ほう、悪くない誘いじゃ。では、甘えるとしようかの」
店内に花はあまり多くなかった。鎧戸はボロボロで、窓硝子は修復された跡があった。いたるところに黒ずんで焼け爛れた形跡が見られる。
「薄汚い場所で、申し訳ありません。
老婆がティーポットをお盆に乗せてやって来た。
「本当に、恥ずかしい限りですわい。せっかく女神様がいらしたのに、菓子すら出せん程貧しいだなんて…。わしは今日ほど自分の貧しさを呪った事はありませんよ。いや、本当に…」
「構わんのじゃ。気にしなくて良い。それより、ここは何があった?争いの形跡のようなものが見られるようじゃが」
香りの良い紅茶をすすると、甘酸っぱい味が口に広がった。かなりの高級品だと女神は思った。
「今から数年程前になりますが…うちには可愛らしい女の子が働いていた事がありましてねぇ……」
語り始めた老婆だったが、悲しみ故かあとの言葉が出ない様だった。老人がその後を継いで話す。
「それはそれは良い子でございました。正直で、笑顔が綺麗で…。子供のいないわしらにとっては、本当に娘の様な存在でしたが、彼女が所属していたファミリアが深夜にここへ来て何もかも滅茶苦茶にしてしまったのです…」
老婆は嗚咽を漏らしている。語る老人も言葉に詰まり、なかなか舌が次の言葉に繋がらないという有様だった。
「それは、難儀な事じゃのう」
「…彼女はわしらに身分を隠しておりました。どうやらファミリアから脱走してから、うちで逃亡生活を送っていたようなのです。その時わしらは、店を壊されてしまった悲しみから、彼女に辛く当たってしまった…。ひどい言葉を、言ってしまったのです」
老人は話を続けていく。テルクシノエは既に紅茶を半分も飲み干していた。なかなかにうまい一杯だった。
「ずっと謝りたかったのですが…なにぶん居場所も分かりません。今思えば、幼い彼女は暴力に耐えかねてファミリアから逃げてきたのでしょう。身分を隠したのも、正直に話せば追い出されると思って言えなかったのだと思っております…。本当にわしらは、ひどいことをしてしまいました」
「少女を襲ってきた者たちの特徴は覚えていないのか?」
主神は老人を見つめてそう聞いた。どこのファミリアか特定できれば、少女をここに連れ戻す事だって不可能ではないと思った。
「…わかりませんが、名前は憶えています。そのファミリアには、『ザニス』という者がおります。わしらにはその名前をもとにファミリアを特定したところで何もできませんから、これまでずっと泣き寝入りをしておりました…。店もかつての活気は失い、客足は途絶え、今では細々と意味もなく花屋を営んでおります…」
(ふむ、『ザニス』か。後でギルドに寄った際、エイナから情報を引っ張ってみるとしよう)
「なるほど、話はわかった。美味い紅茶のお返しでもしてやろうかの。その少女を見つけてやっても良い。お前たちも謝罪をしたいじゃろう?」
「ほ、本当ですか?女神さま!」
泣き濡っていた老婆が声を上げた。目が赤く腫れてしまっていたが、瞳は希望で潤んでいた。
「そ、それが出来たらわしらは本当に嬉しゅうございます…。あの事件以来、毎月店の前に大金がそっと置かれているんです。きっとあのリリちゃんが罪滅ぼしのために置いて行ってるのでしょうが…罪滅ぼしをしたいのはわしらの方なんです…」
「い、今なんと言った?」
テルクシノエは驚いて聞き返した。リリという名前には聞き覚えがある。ハムザをロリコン地獄に突き落とした張本人であり、盗人の素性を隠しながらサポーターとして一度だけ迷宮探索を共にした少女の名も、リリというものだった。
「は、はい…。わしらが罪滅ぼしを―」
「そのことではない、名前じゃ。少女の名を正確に覚えているか?」
「リリルカ・アーデちゃんです。よく覚えています」
しわがれた声で老婆は呟いた。
なるほど、面白い事になってきたと、主神はほくそ笑んだ。
「珍しい事もあるものじゃな。その少女を探すのは、苦労しないだろう。知り合いなんだ。よし、では紅茶の礼に花束を見繕ってくれ。これで頼む」
主神は金貨袋を机に置いた。老人が中身を開けて確認すると、三万ヴァリスは入っていたようだった。
「女神様、この店にあるすべての花を集めてきても、この半分の金額にも満たないでしょう…。些か、多すぎるようです」
「構わん。取っておくのじゃ。花束は明日とある場所に届けてもらいたいから、それまでにできていれば良い」
主神は立ち上がり、店を出ようとした。
「ありがとうございます。もし私たちが貧乏でなかったら、お恵みを頂く必要はなかったのですが…。それと女神様、お名前を教えて頂けませんか?」
彼女は振り返り、有難そうに畏まる二人を眺めて言った。
「私はテルクシノエじゃ。【テルクシノエ・ファミリア】の名前を、よく覚えておけ」
店を出た主神は、再び雨の中を歩いていく。
しかし、面白い事になって来たものだ。リリルカ・アーデに対する彼女の印象は、いまや百八十度変わっていた。我が愛しの眷属に、従順な下僕を贈ってやるのも一興だ。あのサポーターを籠絡してハムザの性奴隷にする。幸運にもその算段は既に整っていた。
道行く人々は、その濡れた女神を見つける度にぎょっとして立ち止まった。
絶世の美貌を誇る女神は、薄い着物が雨に濡れて透けてしまっているせいで、今や裸が丸見えになっている事に全く気付いていないからだった。
●
大理石のロビーは泥でぐちゃぐちゃに汚れていたから、テルクシノエは今更自分がその上から更に新しい泥を擦り付ける事に全く躊躇う必要がなかった。
掃除をする人も大変だろうなと思いつつ受付に向かうが、そこにハムザの姿もエイナの姿も見つからなかった。仕方ないので他の職員に聞いてみると、二人は迷宮探索について個室で話し合っている最中だと言う。時刻はもうすぐ夕刻だ。昼下がりからずっと二人でお楽しみだったと言うことか。主神は眷属の行いを少し誇らしく思いつつ、その個室へと歩いていく。
(なんだかんだ言っても、セックスに励むのは良い事じゃ。その分強くもなるしのう)
狭い通路には、木製の大きな扉が幾つも連なっている。それぞれに文字が刻まれており、『総務課』や『財務課』などの部署の名称がそこに記されていた。その通路を奥の方まで進んでいったところに、その部屋はあった。
『応接間〈旧〉』
「お、ここじゃな。おーい、ハムザ。いるか?」
主神が大きな扉を全身を使って押し開けると、そこに二人は居た。
エイナは俯くハムザを親身に励ましているようだった。当のハムザは『うぅ』とか『ぐぅぅ』とか呟くばかりで、全く元気がない様子だった。
「あ、テルクシノエ様…」
エイナはすっと立ち上がり、女神に会釈した。
「お久しぶりです。えっと、ハムザくんの事ですが…実は勃起不全になっていまった様で、相当落ち込んでいるんです」
「はぁ~?」
エイナは礼儀正しい口調で自分が知っている限りの顛末を説明した。今日、久しぶりに射精実験を行おうとしたら急に萎れて勃たなくなってしまったことや、【ヘルメス・ファミリア】の人たちに馬鹿にされたこと、勃起不全の治療薬を探しても見つからなかったこと…。
ハムザが落ち込んで再びギルドに現れた時、まるで死人のような表情をしており、もう一度試して見てもやはりピクリとも反応しなかったことを、エイナは長々と主神に説明した。
「神様、これはロリコンの呪いなんだろうか?」
ハムザは気落ちした声で唸った。
「馬鹿か、お前は。そんなものは存在しないし、勃起不全なんて一時的なものじゃ。しゃきっとしろ」
しかしハムザは萎えてしまった自分のイチモツ同様に項垂れるばかりだったので、主神は彼を無視してエイナと話を始める。
「まぁこいつは放っておけばそのうち元気になる。ところでエイナちゃん、【ソーマ・ファミリア】についての報告書は出来上がった?」
エイナは「それなんですが…」と言ってテルクシノエに羊皮紙を手渡す。
「例の派閥についての情報は、登録され公開されている一般的なものしか入手出来ませんでした。神ソーマが運営する迷宮探索型と小売業型のファミリアです。団員の数は百余人ですね。団長はザニスと言い、ヒューマンの男性です」
「…ほう?なるほど、こいつがそうか。これはさらに都合が良い」
「……?」
「こちらの話じゃ。他にわかっていることは?」
エイナは補足する。
「はい、【ソーマ・ファミリア】の人たちは、かなりの頻度で問題を起こしています。他派閥とのトラブルもそうですし、ギルドの鑑定額に文句を言って大騒ぎになる事は日常茶飯事ですね…そこの項垂れている人と同じです」
ハムザは「うぅ…」と唸った。それがどういう意味なのかエイナには全く分からなかったが、いつもの快活さや大胆さを失った目の前の弱々しい冒険者に、彼女は少なからず同情していたし可哀そうに思っていた。
「店舗の売り上げはどうだ?税金をちょろまかしたりしているんじゃないか?」
「それについては、何とも言えないのが現状です」
エイナは首を横に振りながら言う。
「提出された書類は完璧ですし、店舗の客入りと商品価格を考えれば、妥当な数字を書いてきていますから…。きな臭い派閥でも、有力な密告情報などがないと強制捜査には踏み出せませんから、ギルドとして打つ手はありませんね」
「ふむ。まぁそれは良い。武力行使が必要なら、こちらが動くからのう。ところで店舗はどこにあるのじゃ?今から三人で見に行ってみようか」
「はい。私は調査のために何度も訪れていますから、すぐにご案内できますよ」
主神は「決まりじゃ」と言ってハムザを蹴飛ばした。
「おい!シャキッとしろ。今に私がお前に性奴隷をプレゼントしてやるから、しっかりするのじゃ」
「…そんなもん、勃たんのなら意味ないだろう……」
ハムザの低く元気のない声を聞いて、エイナは元気付けようと努力する。
「あら。キミが勃たなくても私は傍で面倒を見てあげるよ?セックスだけが男女の仲じゃないでしょ?」
射精管理実験という名目のもとヤリ放題だった二人の関係が、今や少し面倒な事になっていう気がして主神は口を閉ざした。いつのまに『男女の関係』になったのだろう。まるで恋人同士みたいじゃないか。そもそも『仕事の付き合い』ではなかったのだろうかと思いつつも、テルクシノエは無言でハムザを励まし続けるエイナを眺めていた。
三人が【ソーマ・ファミリア】の運営する『リーテイル』へと向かっていく途中、途端に雨足が強まり一行は急がざるを得なくなった。ハムザは「これも呪いだ」などと意味不明な事を呟きながらのろのろと走っていたため、エイナは途中からハムザの手を引いて急ぎ足で駆けて行った。
やっとのことで冒険者通りに面する『リーテイル』へ辿り着き店内に入る頃には、三人とももうびしょ濡れだった。女神は裸同然の格好になっていたし、ハムザはまるで水死人のように生気がなくなっている。エイナもエイナで、ギルド受付嬢の制服が台無しになるほど濡れそぼっていた。
回復薬や解毒薬などの薬品に限らず、様々な商業系ファミリアから仕入れたものがクリスタルケースに乱雑に並べられている。テルクシノエは濡れたを
「これじゃ、これ。【ソーマ・ファミリア】と言えば酒を売る派閥と耳にしてな。他の道具は目くらましじゃろう、この神酒ソーマこそがこの派閥の生命線なはずじゃ」
テルクシノエの言葉に目を瞬かせたエイナは、その値段を見て絶叫した。
「ろ、六万ヴァリス~!?」
テルクシノエに「これ、うるさい。恥ずかしいぞ」と注意され、謝るエイナの後ろから、エルフの麗人が声を掛けてくる。
「エイナか?こんな所で会うとはな。随分綺麗になった。見違えたぞ」
「リ、リヴェリア様っ!」
その名を聞いて、ハムザが反応した。
「リヴェリアちゃんが居るのか…?」
「何だ、お前もここに居たのか。こちらの女神はお前の主神だな?」
威圧感たっぷりのリヴェリアの発言に、テルクシノエはどっちが神だか分からなくなった。
「あ、はい。【テルクシノエ・ファミリア】の主神、テルクシノエという者じゃ。どうぞよろしく」
「…女神なのだから、そんなに畏まらなくても良い。ところでエイナ、こんな所で何をしているのだ?」
エイナは査察について詳しく話す事が出来なかったので、テルクシノエが代わりに返事をする。
「私はこのファミリアに探りを入れていてな。大きな声では言えんが、この派閥について色々と調べて回っているのじゃ。お前の所の神はロキだっただろう?あいつ、何か知らないか?」
「ロキが何を知っているかは、私は知らん。だが、ギルド公認の調査と言うことなら三人とも
エイナは驚いて問う。
「えっ!?良いのですか?【ロキ・ファミリア】に部外者が入るなんて、普通だったら前代未聞ですよ?」
リヴェリアはエイナの発言を一笑に付す。
「ふふ、エイナ。お前に関しては同郷のよしみだ、いまさら他人行儀にする必要もあるまい。それと神テルクシノエとそこの変態に関してだが、ロキが会いたがっている」
(あ、リヴェリア様もハムザくんを変態だって思ってるんだ。きっとまた余計な事をしたんだろうな…リヴェリア様、とっても綺麗だから)
「ロキのやつ、私がオラリオにきたのに挨拶もせんとは何のつもりだと思っていたところじゃ。何百年振りか分からんが、久しぶりに顔を見に行っても良いかのう」
リヴェリアはロキから、テルクシノエとは天界でも親交があったと聞かされた事があった。一体どんな関係だったのかは知らされなかったが、ともかく敵対的ではない様子だったので、副団長としての立場を利用して彼らを招待することに決めた。
「決まりだな。では行くとしよう。ところでそこの変態男は、何故先ほどから元気がないのだ?」
ハムザはまたも意味不明な唸り声をあげたから、エイナが助け舟を出す。
「…えーと、詳しい事は後でお話しますが…。リヴェリア様は、あまりお耳に入れない方が良い内容かと…いえ、絶対にお耳に入れてはいけません」
『絶対にいけません!』と息巻くエイナに押され、リヴェリアは「そうか…」と頷いた。
だが、エイナも分かっている事だ。どうせ【ロキ・ファミリア】に着いたら全てを説明しなくてはならないのだと言う事を。
(はぁ…今更全部なかったことにならないかなぁ…。はぁ、憂鬱…)
先に店を出て雨の中を歩いていく三人の後ろから、やる気のなさそうなエイナがとぼとぼとついていった。