※この作品はR-18です。

ダンジョンに性交を求める眷属の物語   作:kuracjaponski

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第七章 -エロトーク-

【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)はオラリオの最北端に位置する。迷宮探索系ファミリアの中で屈指の実力を誇るこの派閥の所在地は、『黄昏の館』という別名で呼ばれる程に有名だった。

 

 「おぉ、ロキのやつこんな立派な家に住んでおるのか。くそう、羨ましい」

 

 テルクシノエはその壮大な敷地を見て感嘆する。エイナもまた、圧倒的な大きさの本拠地(ホーム)にため息が出るほどだった。まさしく大豪邸。最強の一角を担う派閥故、ここでは並外れた能力を持った者しか住むことが許されない。オラリオに住む者なら知らぬものなど居ない、現代版英雄譚の最前線だ。

 

 「おかえりなさい、リヴェリア様。そちらの方々はお客様ですか?」

 

 門兵は恭しくリヴェリアに一礼するも、部外者がいるためか門は閉ざされたままだ。

 

 「あぁ、私の知り合いと、ロキの神友だ。安全は私が保証する。門を開けてくれ」

 

 「かしこまりました」

 

 門兵は大きな門を開き彼らを敷地に招いた。門兵の一人が、ハムザを見つめた途端顔をしかめたのをリヴェリアは見た。きっとこの場所に相応しくない相貌の人物を見て、気分を害したのだろう。あんな表情をしていればそれももっともだとリヴェリアは思った。

 

 事実、ハムザの表情は本当にひどいものだった。まるでこれから絞首台に向かう死刑囚の様だ。

 

 (囚人という意味では、間違いではないか…)

 

 館へ入り、大広間へ向かう途中、リヴェリアは黙考する。

 

 ロキがハムザを招いた理由は分かりきっている。副団長である自分にセクハラ紛いの発言をしたことに腹を立てているに違いない。団員に対するロキの愛情は、異常とも言える程だ。リヴェリアが『性交渉によって成長する冒険者に求愛された』事をロキに伝えた時、主神の表情は、それはそれは凄まじいものだった。

 

 大広間に着くと、大きなソファーでロキが寝転がっていた。

 

 「あ、リヴェリアたんおかえり~。ってえええええ!?うそやん!?テルちゃん、生きてたんか~!?」

 

 「女神が死ぬか、ボケ。久しぶりじゃのう、ロキ。元気にしてたか?」

 

 「そりゃもう元気にしとるで!ほんま、来るなら言うてやー。おーい!誰か酒持ってきてくれへんか~!」

 

 意外と仲が良い二人に、三人とも絶句していた。酒が運ばれてくるなり二人は乾杯し、思い出話に浸る。リヴェリアとエイナは酒は飲まず、ハムザもそれを断ったから酒盛りは女神二人だけで行われていた。

 

 「いやー、うちは迷宮探索で成功してなー。ほんまに子供たちが可愛くてしゃーないんや。言うてテルちゃんも同じやろ?こないだの神会(デナトゥス)じゃ、ドチビのせいで会えずじまいやったから、ほんまに来てくれて嬉しいでー」

 

 止まらない二人の会話を、リヴェリアが遮った。

 

 「盛り上がっている所すまないが、一体二人はどの様な関係なんだ?」

 

 ロキとテルクシノエは丁度一本目を空けた所だった。とんでもなくハイペースで飲み続けている。

 

 「私とロキはな、天界では共通の敵を持った神友だったのじゃ」

 

 「共通の敵?」

 

 ロキはぷはーっと一気に酒を飲み干し、頷いた。

 

 「そうや!一度テルちゃんが色ボケ女神のアホを扱き下ろした時な、こいつやー!ってびびっと来たんや。いやぁーすっきりしたで、あん時は」

 

 「あぁ、あの淫乱女神フレイヤめ、現世でもデカい顔しているらしいのう?全く気に入らんのじゃ。あのビッチめ、私の『芸術』とあいつの『色欲』を同列に語りおって。許されんのじゃ、そんな事は。あいつのやっていることは、一方的な情欲じゃ。決してお互いを理解し合う美しい恋愛ではない。まったく、本当に―」

 

 「あ、あの、ちょっといいですか?」

 

 止まらない二人の会話を、今度はエイナが遮った。

 

 「積もる話があるのは分かるのですが、その、良ければ本題の方に…」

 

 「そうじゃった、そうじゃった。えーっと、何だったっけ?あぁ、そうそう。【ソーマ・ファミリア】について何か知らんか?ぶっ潰そうと思っててなぁ」

 

 率直な発言にロキが歓喜する。エイナは驚いて目を瞬かせていた。

 

 (ぶっ潰す?そんな話だったかしら…)

 

 「なんやそれ、おもろー!ソーマなぁ、あいつ完全にいかれとるで。ファミリアの運営する気ゼロやし、ずーっと酒を造ってるだけや。でも、あの神酒ソーマだけはヤバいで。一度飲んだらぜっっったいに忘れられへんくらい、()()()

 

  ロキはハイペースで酒をあおり続けながら話を続ける。

 

 「店に並んでる酒、見たやろ?神酒に限っては値段がバカ高い。それでもいつも品薄状態や。それくらいファンが多いし、何よりヤバいのは、あの店で扱ってるのは全部『出来損ない』だけってとこやな」

 

 「あ、あの値段で出来損ないなんですね…」

 

 「そうや、エイナちゃん。それにソーマのやつ、どうもその神酒を団員に配ってるらしい。もちろん無償ちゃうで、稼ぎの良い団員にはこれだけ配りますよー、ってな感じでやっとるから、みーんな死に物狂いで金稼ぎをするっていう寸法や」

 

 エイナは合点がいった。それで【ソーマ・ファミリア】の人たちはあんなに必死になってお金を求めていた訳だ。

 

 「要するに、酔っ払いのきちがい集団という訳じゃな?そんなゴミ派閥が一つなくなった所で、誰も文句は言わん」

 

 リヴェリアは二人の会話に横やりを入れる。

 

 「どうかな、あの派閥が所持している店、『リーテイル』だが…立地が良く、需要も多い。無くなれば困るものが出るだろう。だから派閥を丸ごと潰すのではなく、派閥は存続させつつ団長(トップ)を息の掛かった者に挿げ替える事が望ましいのではないか?それなら、神酒の製造も販売も今まで通りにした上で、利益だけを吸い上げられるかも知れないだろう」

 

 「さっすがリヴェリアたんは違うなー。ぺちゃくちゃお喋りする連中は十を述べるのに百を喋るけど、賢いもんは一を述べるだけでええねん。酔っ払いは口を慎みまーす」

 

 「おふざけは止せ、ロキ」

 

 リヴェリアは嘆息して、自明の事だと肩を竦める。

 

 「確かにそうすれば、都合良く飼いならす事も出来るし、酒も入手し放題じゃ。私の目論見とも合致するし、その案採用じゃ」

 

 「ウチにも一枚噛ませてくれるんやろ?なぁ、そうやろ!?」

 

 ロキは息まいてテルクシノエに迫っているが、テルクシノエは首を縦には振らなかった。

 

 「まぁまぁ、落ち着くのじゃ。この件に関しては既に水面下で動いておってな、準備は万端という訳じゃ。ロキの手は借りんが、情報をくれた事には感謝するぞ。事がうまくいったら、神酒はお前に横流ししてやろう」

 

 「うおー!よっしゃーーー!さっすがテルちゃん、話わかるなぁ。ところで話変わるけど、さっきから黙りこくってるキミはレアスキル持っとるんやろー?」

 

 ロキは始終黙りこくっているハムザに声を掛けるが、反応はない。

 

 「なんや、随分辛気臭い子やなぁ?テルちゃん」

 

 「あ、あぁ。忘れておったのじゃ。こいつは先ほど勃起不全になってな、落ち込んでおるのじゃ」

 

 「勃起不全やと!?そ、そらご愁傷様やん…。かわいそーに、まだ若いのになぁ、ボクぅ」

 

 エイナは「あはは…」と空笑いをし、リヴェリアは内心ほっとしたように笑みをこぼす。そんな反応を見てハムザはますます落ち込むのだった。

 

 「…そうやって俺を笑いものにすると良い…。当然の報いだ、ロリコンの呪いだ…」

 

 「ロリコンの呪いとは何だ?」

 

 肩を小刻みに揺らしながら笑いを堪えているリヴェリアが訊いた。もう諦めたと言う表情で、エイナが説明を始める。

 

 「えっと…何でも一時の性欲に負けて一度だけ少女の娼婦を買ったらしいですよ…それで罪悪感に苛まれているうちに、勃起不全になったとか…」

 

 「うわー、自業自得やん」

 

 ロキは面白そうに茶々を入れる。主神は呆れかえったような顔で酒を飲み続ける。

 

 「おかしいな。私は勃起不全と聞いて真っ先にお前の魔法を思い浮かべたが、違うのか?」

 

 「…?」

 

 ハムザはこの時初めて顔を上げ、リヴェリアを見つめた。彼女は未だに理解していないらしいハムザに丁寧に説明した。

 

 「呪詛(カース)罰則(ペナルティ)の事だ。罰則(ペナルティ)は通常身体的負担を強いる場合が多いが、効果が強力な物の中には『術者にとって大切な物』を代償とする場合がある。お前にとって、勃つか勃たないかという事が大切だったのではないか?」

 

 予想外の解釈に、ハムザの心は踊った。そうか、これがそうなのか。しかしそうなれば、これはあくまでも一時的な副作用に過ぎない。ある時を境に、急に元に戻るに違いない。

 

 「ハムザ、詳しい状況を教えてみるのじゃ。リヴェリアちゃんがしっかり分析してくれるかも知れんぞ?」

 

 主神に促されたハムザは今日の一部始終を語る。

 

 「お、おう。俺がエイナちゃんとセクロスしようとしたのが、今日のことだ。バッキバキに勃起した俺のイチモツだったが、エイナちゃんに触れられた途端に急に元気がなくなったのだ」

 

 エイナは真っ赤になった。リヴェリアには、こんな発言を聞かれたくなかった。自分が男性と性交渉をしている事を知られてしまい、恥ずかしくてまるで生きた心地がしない。リヴェリアも驚いた表情でエイナを見つめている。

 

 「ま、まさかお前に…先を越されるとは…だが、良かったなエイナ。伴侶が見つかった事には祝福を贈るべきだろう。それにお前も、ハムザ。私との約束は反故にすべきだな。よかったではないか」

 

 リヴェリアはエイナを誇らしそうに眺めてから続ける。

 

 「呪詛(カース)罰則(ペナルティ)だが、ハムザの説明を聞く限りでは『勃起不全になる』事ではないな。性交渉時に勃たなくなった訳で、それ以前は正常に反応していたと言う事を考えると、それは恐らく『性交渉の禁止』だろう。それがハムザにとっての大きな代償という訳だ。とにかく、祝福するぞ、エイナ」

 

 「ち、ちがうんです…」

 

 同郷の王族であるリヴェリアに盛大に勘違いされ、エイナは耳の先端まで真っ赤にしながら小さく否定した。どうせこうなるに違いないと思っていた状況に、やはりなってしまったのだ。

 

 「その…ハムザくんの『レアスキル』に関する報告書を作るにあたって、何度もせ、性交渉をする事に同意しているんです…だから、伴侶とかではないです。リヴェリア様…」

 

 「か、体だけの関係ということか…?あ、あの堅物だったお前が、まさかそんな…」

 

 リヴェリアは驚愕した。エルフにとって『体だけの関係』などという事は常識の範疇を越えた物だ。高潔を好み潔癖であるエルフには、性交渉を持つ相手は一生を共にする伴侶でなくてはならない。ましてや一夜限りの関係に身を落としたとなれば、それはもう立派な道徳的犯罪者だ。

 

 エルフとハーフエルフから漂う気まずい空気を、ロキが能天気な声で一刀両断する。

 

 「気にしすぎやで、二人とも。セフレなんて今時あたりまえやん。ウチも肉バイブほしー。なぁキミ『レアスキル』持ってるんやろー?ここに入団しろとは言わんから、勃つようになったらそのチンポで協力してや?」

 

 「何を言っている、ロキ!」

 

 リヴェリアは珍しく声を荒げた。てっきりハムザに対しては無慈悲な有罪判決を下すのだと信じ込んでいたが、実際の判決は真逆のものだ。逆転無罪どころか、誰とでも性的関係を持って良いという免罪符を与えたようなもの。到底納得できるものではない。

 

 「まぁまぁ、嫌ならせんでええっちゅーことや。リヴェリアたんも、セックスするだけで成長するんならするに越したことはないで?なに、成長に限界を感じてきたら試してみるかー、っていう程度でええから頭の片隅にはいれときや」

 

 ただし、とロキは付け加える。

 

 「いっくらテルちゃんとこの子でも、テクなし童貞早漏じゃちょっと任せられんわなぁ。今度ウチが直々に味見したるから、そこで判断やな!」

 

 景気の良い話の連続に、ハムザはすっかり元気を取り戻していた。

 

 「ぐひひ…やる気出てきた。俄然。女神様を満足させられるように、しっかりインポは治しておくとしよう!よし、そうと決まったらさっさと【ソーマ・ファミリア】をぶっ潰そう。主神と団長は斬首刑、団員は残らず皆殺しだ!奴らの店も根城も、跡形もなく粉砕してやろう!」

 

 「あはははは、こいつ全く話聞いてないやん。うけるわー!」

 

 「じゃあ、これから行くところがあるのでこれで失礼しようかの。またな、ロキ。エイナも来るか?」

 

 「あ、はいっ!」

 

 三人は立ち上がり、別れの挨拶をしてから本拠地を出た。リヴェリアは氷像の様に座ったまま長い事固まっていたが、やがてゆっくりと足を動かしどこかへ消えていった。

 

 その晩、【ロキ・ファミリア】の面々は酒に酔った主神によるセクハラ攻撃に散々悩まされた挙句、彼女を捕まえて縛り、狭い一室に閉じ込める事で安眠を手に入れることになる。

 

 

 

 ロキが縛り上げられるよりも前の時間に、エイナと別れたテルクシノエとハムザは『豊穣の女主人』で夕食を取っていた。

 

 「それで、【ガネーシャ・ファミリア】の件はどうなった?」

 

 「あぁ、ジーガは元気にしていたようじゃ。もうお前を恨んではいないし、付け狙うつもりもないらしいぞ」

 

 「はぁ…。それを聞いて安心したぞ、まったく」

 

 ハムザは肩を撫で下ろし、葡萄酒の注がれたグラスを仰いだ。

 

 「ジーガは持ちかけた話には乗ってきたぞ。今の所計画は全てうまい具合に進んでおる。あとはリューちゃんの情報次第じゃな」

 

 「リューちゃんねぇ…うまくやったかなぁ。あいつ、どうみても不器用だから心配だぞ」

 

 「そうは言っても、頼るには彼女しかいなかったからな。お、噂をすればじゃ。リューちゃん!おーい!」

 

 テルクシノエは奥のテーブルで接客を終えたリューを捕まえ、彼女をハムザの隣に座らるように指示した。長椅子には十分なスペースがあったのに、リューは自分の左腕がハムザの右腕にくっつく程密着して着席した。その瞬間、彼女のさらさらとした黄色い髪が、ふわりとハムザの頬を撫でた。

 

 (ぐ、近い。いかん、勃ってきた…)

 

 「ハムザさん、テルクシノエさま、仕事がありますので、簡潔に報告します」

 

 リューは眦にきりっと力を込め、空色の瞳を怒りに燃やしている。ハムザは今にも彼女が机を叩き割るのではないかと思い、まだ飲み干していないワインを両手で持って机から遠ざけた。

 

 「…奴らは屑です。生かすに値しません。隠れ家の所在はこの紙に記しておきました。明日実行して下さい。私はこのオラリオで奴らと同じ空気を吸いたくない」

 

 リューは何とか平静を保ちながらといった雰囲気で早口に報告した。きっと以前机を叩き壊した時にここの女将にどやされたのが少しは効いているのだろう。

 

 「明日か…。まぁいいじゃろう、こちらも必要な情報は全て揃ったしな。それよりも、やれそうだったのか?」

 

 「問題ありません」

 

 リューはきっぱりと告げた。

 

 「肩慣らしにもならない。烏合の衆でしょう。それでは忙しいので、私はこれで仕事に戻ります。ただでさえ日中に空けてしまっていますから、同僚にこれ以上迷惑を掛けたくない」

 

 すっと立ち上がるリューに、軽い気持ちでテルクシノエが言った。

 

 「私たちはしばらくゆっくり飲んでいるから、暇になったら戻ってくるのじゃ。ハムザがお前と話したがっているからの。じゃあ、頑張れよ、リューちゃん」

 

 リューはしかめっ面をいつも以上にしかめ、一礼してから去っていった。

 

 「…お前、何言ってんだ?頭でも打ったか?」

 

 非難がましくハムザは主神を睨みつける。勘違いに勘違いが重なって自分が聖人のようになってしまっているこの状況で、酒に酔ってうっかり『セクロスしたい』などと口走ろうものなら、自分は二度とお日様を見ることは出来ないだろう。ハムザにとって、リューは美しくセクロスしたい相手だが、同時に避けたい相手でもあった。

 

 「大丈夫じゃ。神の勘が告げているぞ、今なら多少の粗相は許して貰えるに違いない。意外と良い奴だぞ、リューちゃんは」

 

 「良い奴ねぇ…さっきのしかめっ面を見てそう思えるのは、きっとお前くらいなもんだぞ」

 

 テルクシノエは大きな肉を頬張り、葡萄酒で喉に流し込む。ハムザは既に料理は片づけていたが、肉好きの主神は未だに注文を重ねて胃袋を満たしていく最中だった。

 

 「…馬鹿もん。乙女は天邪鬼なんじゃ。顔をしかめればしかめるほど、嬉しくてたまらないという事だな。逆に彼女が本気で笑った時は、やばいぞ」

 

 「そういうもんかねぇ…」

 

 「そういうもんじゃ。以前ここでお前が魔導書(グリモア)を読んだ時、私は色々あの子とお話をしたんだ。お前は寝ていたから知らんだろうが、セックスくらいで目くじら立てる器の小さいエルフじゃない。安心することじゃ、ハムザ」

 

 それから二人は明日の【ソーマ・ファミリア】壊滅作戦に事についてあれこれと話し合った。ハムザは神酒や店舗の利益についてはあまり興味がなかったが、リリちゃんとセクロスできれば良いと思っていた。あくまでも、罰則(ペナルティ)が終わり勃起不全が治ればの話だが。

 

 やがて店内に人影がまばらになり、ウェイトレス達が注文を受けるのに走り回る必要がなくなり、お喋りする余裕が生まれてきた頃リューがシルを伴ってやってきた。

 

 「遅くなりました。まだお時間ありますか?」

 

 「リューちゃん、やっと来たか。ようシルちゃん、久しぶりだな」

 

 「お久しぶりです、ハムザさま。退屈していませんか?今から酒場の看板娘二人がお酌しちゃいますよ?」

 

 二人がテーブルに来て会釈すると、主神はわざとらしい口調で「あぁ、急用を思い出したのじゃー」とだけ言い残して去っていった。きょとんとする二人だったが、邪魔な女神がいなくなった事で内心では喜んでいる。

 

 「シル、ハムザさんの隣に座るのは私です。どいてください」

 

 「あら、リューはさっき一緒に座っていたじゃない?だから今度は私の番よ?」

 

 リューは少しだけ「ふふっ」と笑みを漏らして向かいの席に座った。

 

 (あれ、今の笑みってヤバい奴じゃないか…?)

 

 主神の『彼女が笑った時はヤバい』という言葉が頭を過る。だが、今のところ特に変わった様子はなく、リューは正面から姿勢良くハムザを見つめている。

 

 「ハムザさん、聞きましたよ?魔法が発現したんですよね?凄いなぁ、私強い冒険者の人って、憧れちゃうなー」

 

 「魔法、ですか?ハムザさん、本当ですか?」

 

 「お、おう。本当だぞ」

 

 彼女たちの質問に答え、ハムザは自分の魔法について説明した。呪詛(カース)であることや、詠唱がいらない速攻魔法なこと、そして『相手を精神疲弊(マインドダウン)状態にする』効果があることなど。

 

 「さすがハムザさんです。呪詛(カース)とは、ほとんど反則ですね。罰則(ペナルティ)は身体的負担の類ですか?」

 

 リューの質問に、ハムザは声が詰まった。果たして説明していいものかどうか悩んだ挙句、ハムザは言った。

 

 「罰則(ペナルティ)は非常に重い。重すぎるというくらいだ。つまり…その…魔法を使うと、勃起不全になる」

 

 「ええええ~~っ!?」

 

 シルが絶叫した。

 

 「ハムザさん、ということはあの下についているもう一つの立派な剣は、もう動かないんですか…?」

 

 「―ちょっと待ちなさい、シル。貴女はどうしてその、立派な剣が付いていると知っているのですか?」

 

 シルはいじらしい表情を浮かべてリューを見やった。

 

 「いやね、リュー。ただの冗談よ?」

 

 リューは少し顔を赤らめ、「そうですか」と俯いた。

 

 「まぁ落ち着け、シルちゃん。罰則(ペナルティ)は一時的なものだし、すぐ治る…と思う」

 

 「そうなんですか…」

 

 三人の間に沈黙が流れる。勃起不全という言葉が、明らかに場を困惑させていた。

 

 少しの沈黙のあと、シルが意地悪な笑顔でぬけぬけと言ってのけた。

 

 「でも、良かったですね、ハムザさん?これからはあまりたくさんの女性に中出ししてはいけませんよ?罰則(ペナルティ)がなくなったからって、前みたいに私に『中出しさせてくれー』なんて頼まないでくださいね。ちゃんと順序を守って、お付き合いしていきましょう?」

 

 ハムザは硬直した。リューも同様だった。シルただ一人だけ、満足そうにニコニコと笑顔を振りまいている。ハムザは直感した。

 

 (こ、こいつ悪女だ…明らかに俺を変態に仕立て上げ、リューちゃんとの仲を破壊しにきている…)

 

 「………」 

 

リューは徐に手元にあったナイフを持った。ハムザは終わったと思い、咄嗟に近くにあった空き皿を盾に持った。

 

 「…………」

 

 しかし、リューはそのナイフで皿に盛りつけられてあったポテトを乱暴に突き刺し、口に運んだ。

 

 それを見てハムザは空き皿をナプキンで拭き始める。きゅっきゅっと、とてもいい音がした。

 

 絶句しながら行われた二人の奇行を目の前に、シルは困惑している。

 

 「…二人とも、どうしたの?」

 

 「どうしたの、じゃないよ。シル」

 

 ふと大柄のドワーフの女将が彼らの前に仁王立ちをしている事に気づく。

 

 「…で、仕事をサボってるお二人さんに聞こうじゃないか。どっちが山盛りの皿洗いをしたいんだい?」

 

 ハムザはこの場を何とか収拾できるなら、皿洗いでもなんでもやってやると思い立候補しようとした。しかし残念な事に、彼よりも早く猫人(キャット・ピープル)のウェイトレスが声を荒げた。

 

 「馬鹿力のリューに皿洗いをさせちゃ駄目ニャ!この前なんか一晩で二十枚も割ってしまったニャ!!」

 

 女将ははぁ、とため息を吐いてからシルと向き合った。

 

 「決まりだねぇ、シル。さっさと調理場に戻って皿を洗ってきな!!」

 

 シルは「不公平です…」と呟いて調理場に戻っていった。取り残されたリューとハムザに、ドワーフの女将は睨みを効かせる。

 

 「ウェイトレスを侍らせてもらっちゃ困るねぇ、アンタ。うちはそういうお店じゃないんだ、と言いたいところだけど」

 

 「…?」

 

 「いつも大食いの神様を連れてきて貰ってうちとしては助かってるよ。たまには目を瞑ろうじゃないか。リュー、お客さんにしっかりお酌をしとくんだよ!」

 

 そう言い残して女将は店内の奥へと消えていった。残されたハムザはリューの顔色を伺う。空色の瞳は曇がかかったように暗く、思考が読み取れない。

 

 ふと、彼女が言った。

 

 「…お隣でお酌をしましょう、ハムザさん」

 

 「お、おう。悪いな」

 

 リューはハムザの隣に座り、自分のとハムザのグラスに葡萄酒を注ぐ。

 

 「あれ?リューちゃん、エルフなのに酒飲めるんだっけ?」

 

 「…付き合い程度ですが、一応飲めないことはありません」

 

 「…そっか」

 

 会話がもたない。ハムザは今更ながら、逃げ出していった主神を恨めしく思い始めていた。

 

 「知りませんでした」

 

 「…ん?」

 

 リューはグラスを傾けてから、少し悲しそうに呟いた。

 

 「私は知りませんでした。ハムザさんとシルがお付き合いをしているという事を」

 

 「は、はぁ?別に付き合ってないぞ。あれはあいつが適当に言っただけだ」

 

 途端にリューの空色の瞳が輝きを取り戻した。姿勢を直し、横からハムザの顔を覗き込む。

 

 輝きを取り戻した表情はあまりにも美しく、ついついその艶やかな頬に手を伸ばしてしまいそうになる。

 

 「そうでしたか。私はてっきり、お二人がお付き合いをしているのかと」

 

 「そんなことはない。俺はてっきりリューちゃんが中出しセクロスについて怒ったのかと思ったぞ」

 

 『中出しセクロス』という単語を聞いてリューは嫌悪の表情を浮かべたが、丁寧な口調でハムザに言った。

 

 「できればそのような卑猥な表現は控えて下さい。ですが、テルクシノエ様からハムザさんの『レアスキル』については聞いています。不特定多数の女性と性的関係を持つ事で成長する能力のようですね?その副作用に極端に性欲が強まることも、私は聞いています」

 

 ハムザは神に感謝した。あの女神が『大丈夫、大丈夫』と言っていたのは、実は根拠があったのだ。既に根回しをしていた主神に感謝し、ハムザはグラスをあおった。

 

 「そう、そういうことなんだ。性交渉をしないととても寝付けない体質になってしまった。十年前くらいは、そんな事はなかったのだが」

 

 「そうですか」

 

 「おかげさまで、罰則(ペナルティ)にはだいぶ参っている。性交渉しなけりゃ成長もできないからな。ここ最近は、悶々として気が狂いそうだ」

 

 ハムザは気を良くしてありもしないことをどんどん並べ立てていく。喋っている本人にも、何が本当で何が嘘なのか良く分かっていなかった。

 

 「リューちゃんは、こういう話題は好きではないみたいだな?」

 

 ハムザの質問に、リューは率直に頷いた。

 

 「…エルフとはそういうものです。ご存じでしょうが、エルフが肌の接触を許すのは、心を許した相手にのみです。そんな潔癖なエルフが性交渉をする時は、心の底から相手を理解し、信頼できた場合に限ります」

 

 リューは、自分の大胆さに少し驚いていた。この手の質問は、いつもなら黙殺するか、睨み付けて相手を追い払うかのどちらかだ。しかし今は酒の影響もあったのか、普段よりも心が大きくなって何を言っても恥ずかしくないような気分だった。

 

 「はぁ…それは大変だな。一度でいいから本物のエルフを抱いてみたい。エルフは超可愛いし、ツンツンしてるのが妙にエロいからな」

 

 「…止めてください。ところで、ハムザさんは今まで何人の女性と寝たのですか?」

 

 リューの質問に、ハムザは「いちいち覚えていない。たくさんだ」と答えた。彼女の口元に笑みが浮かんだ気がして、急いで「それもすべてスキルの影響で」と付け加えたら、リューは再びしかめっ面に戻った。

 

 「本音を聞かせてください。たくさんの女性を抱いて、後悔することはないですか?」

 

 ハムザは唸った。嘘を吐いてもいい。しかし今更本音を言ったとしても、泥に泥を重ねるだけだ。別に隠す必要もないだろう。

 

 「…ない。気持ち良ければそれでいい。今まで一度も、後悔したことなんてないな。幻滅したか?」

 

 リューは首を振った。

 

 「いいえ。種族が違えば考え方も違う。エルフの中にも快楽に溺れる者は大勢います。一夜の情事によって相手を傷付けているのならば蔑みもしましょう。ですがお互い合意の上ならば、とやかく言うつもりはありません。それに…」

 

 彼女は酒の入ったグラスを傾けて言葉を継ぐ。

 

 「正直に話して下さった事には感謝します。男性は、自分を善く見せるために下らない嘘を吐く傾向がある。私はそのことを最も軽蔑します」

 

 ハムザは内心冷や汗をかきながら、隣で凛として座すリューの綺麗な横顔をちらりと盗み見た。

 

 美人だ。こんな美人エルフの顔にぶっ掛けられるのであれば、冒険者になった甲斐があったというものだ。ツンツンエルフが頬を紅潮させて、四つん這いで股間にすり寄ってくる…。そんな光景を我が目に焼き付けるため、自分はオラリオに来たのだ。

 

 「それにしても…」

 

 彼女はちらとハムザの膨らんだ股間を見た。

 

 「本当に大きい剣をお持ちのようだ。相手をする女性は大変でしょう。今よりもさらに大きくなるのだから」

 

 まるで性には無関心と思われたリューだったが、どうやら大きさなどに関する知識はあるのかも知れない。『大きさ』を測るには、基準となる一竿を知っていなければならないのだから。

 

 「ん?今、可愛いリューちゃんを前にして完全勃起だぞ」

 

 ハムザは首を傾げるリューに罰則ペナルティについて説明が足りていなかった事に気づいた。

 

 「あぁ、勃起不全というのは言葉の綾だ。正確には『勃つけど性交渉は出来ない』だな。それよりリューちゃん、勃起したチンコを見た事があるのか?」

 

 「はい、あります」

 

 意外な返答だった。

 

 「ですが、誤解なさらないで下さい。昔の事ですが、私は極めて悪質な組織を追い回していた事がありました。そういう闇の連中は必ずと言っていいほど無慈悲な風俗業や危険薬物に手を染めています。彼らが情事に耽り集中力が散漫になっている所に討ち入った事は、一度や二度ではありませんでした」

 

 「そういうことか…。まぁ、リューちゃんみたいな美人が乗り込んできたら、男たちは他の女なんか捨てて君に襲い掛かってきただろう」

 

 リューは酒を一気にあおいだ。空になったグラスをテーブルに置き、少しだけ諦観の念を漂わせながら返答する。

 

 「貴方は変わった人です。情事の最中に討ち入った時、いきり立っていた彼らの股間はみるみるうちに萎んでいきましたし、私の体に欲情するような者は一人もおりませんでした。もっとも、誰にでも声を掛ける浮ついた軟派者をその数に数えるつもりはありませんが」

 

 よくよく考えてみれば、それもそうだ。鬼の形相で自分の命を奪いに来る相手が、多少綺麗だったとしても人はみな恐怖に打ち震えるものなのだろう。寧ろその美しさゆえ、恐怖がより一層強まるのかも知れない。

 

 「…俺は勃起が収まらないがなぁ。リューちゃんみたいな女の子とのセクロスを妄想するだけで、丸一日は勃ち続けるはずだ。まぁ、勃起不全なんて罰則(ペナルティ)があっても関係ない」

 

 リューはもう一度股間を見つめた。そんな彼女を見てハムザはため息混じりに言う。

 

 「勃起はするから自慰くらいは出来るが…どうもプライドが許さん。神様も自慰だけはするなと煩いからな。効率よく成長するためにも無駄打ちは避けなければいかんのだ。それで悶々として、今にも気が狂いそうな毎日だ。はやくこの地獄が終わらないものか…」

 

 「自慰が出来るのなら、射精も出来るのですね?それならプライドなど捨ててしまえば楽になるのでは」

 

 リューの言葉に、ハムザは「わかってないな」と首を振る。

 

 「セクロスしなければ意味がないんだ。セクロスってのは、男女の営みだ。当然相手が要る。一人で虚しくシコシコ擦ったところで、全く意味がない」

 

 「そうですか。私にはわかりません」

 

 わからくて結構、とハムザは言った。真面目すぎるが故か、あるいは女将に『しっかりお酌をしろ』と命令されたが故か、意外にも下ネタについてくるリューだった。

 

 暫くの間、真面目な美人エルフとエロトークを楽しむ事で満足していたが、次第に虚しさが心に溢れてきた。どれだけいい雰囲気に持っていこうと、仮にリューが『抱いても良い』と言ってきたとしても、結局は何もできないじゃないか。

 

 「…やめだ。虚しくなってきた。そろそろ帰るか…」

 

 「わかりました。すっかり遅くなってしまいましたね」

 

 金貨袋を取り出し、机に置く。リューはその中から必要な分だけ抜き取り、ハムザを見送るため出入り口までついて行く。

 

 開け放たれた扉から、夜風が舞い込んで来ていた。程よく酒がまわって体が火照っているからか、その風は妙に心地が良い。しかめっ面のリューも、酒を飲んだためか少し頬を紅潮させている。しかしその雰囲気は、普段の近寄りがたい銀嶺のようではなく、裾野を駆ける春風のようだった。

 

 「では、またお待ちしております。それと明日は、うまくいくように願ってます」

 

 リューがそう言った時、ハムザは彼女が微笑みを浮かべたのに気が付いた。それは相手を軽蔑する時に浮かべる危険な微笑みとは異なり、柔和で愛嬌のある微笑みだった。

 

 「うほっ…リューちゃんの可愛い笑顔いただき。じゃ、また明日な」

 

 ハムザがそう言って店を出ようとすると、厨房からシルが駆けてきた。

 

 「…もうっ、リューったら。ハムザさんが帰るならそう言って欲しかったな?」

 

 ここ数刻程皿洗いをしていたと思われるシルは、めくってあった給仕服の袖を元に戻してからハムザに微笑んだ。

 

 「ハムザさん、今度、勃起不全が治ったら私を指名しに来て下さいね?たっぷりサービスしちゃいますよっ」

 

 「…シル、今の彼は欲求不満だからあまり刺激してあげない方が良い」

 

 「なによ、リューったら。私ならリューがしてあげられない男性が喜ぶこと、一杯出来るんだからね?」

 

 シルの発言にリューは少し面食らったようで、目を見開いてから俯いた。『自分がしてあげられない男性が喜ぶこと』とは何だろうかと思案しているに違いないと、ハムザは思った。

 

 「…あー、それじゃ、またな」

 

 二人のウェイトレスに見送られて店を出る。数歩歩いてから、ハムザは振り返って店の看板を眺めた。そこにはこう書いてあった。

 

 『酒場 豊穣の女主人』

 

 (酒場?キャバクラの間違いじゃないか?)

 

 心地よい夜風が、さっと肌を撫でてから星の瞬くオラリオ上空へと舞い上がっていった。一日中降り続いた雨はいつの間にか上がっていたようだ。

 

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