ダンジョンに性交を求める眷属の物語 作:kuracjaponski
ダンジョンを9階層から上へ上へと駆け続け、リリは今7階層をひた走っていた。
ここへ来るまでに何度かモンスターと遭遇したものの、時にはそのまま走り去り、時には裾に仕込まれたハンドボウガンで撃退しながら危機を脱してきた。
能力のないリリ単身では、まともにこの辺りの階層で戦闘をしたところで勝ち目はない。
それでも何とか7階層までこれたのは、道具の力と、これまでの経験に因るところが大きい。
(6階層に辿り着いてしまえば、あとはどうとでもなります!)
通路を走り抜け、迫りくる次の部屋の入り口に辿り着いたとき、何かが自分の足を払いリリは盛大に地面へダイブした。
「…ふぎゃっ!?」
「何だ、俺を引いちまったかぁ」
倒れ込んだ衝撃に全身を丸くして痛みを堪えていると、リリは頭を片手で乱暴に掴まれ持ち上げられ、空中に浮いたまま腹部を思いっきり殴られた。
「ぐふっ!」
「ついてねぇなぁ!お前、身ぐるみ剝がされるだけじゃ済まねぇぞ?」
男にもう一度腹部を殴られて、全身がサンドバックのようにゆらゆら揺れた。激痛に顔を歪ると、男の拳が眼前に迫る。思わずリリが目を瞑ると、男は寸での所で拳を止めた。
恐る恐る目を開くと、そこに立っていたのはよく見覚えのある
「…当たりを引いたら取り合えず痛めつけておけ、って話だったが…。可愛い顔を台無しにしたんじゃこの先がつまらねぇからな」
背筋がぞっとする。心臓が止まるのではないかと思うくらい、全身に緊張が駆け巡る。
この男は自分の体を付け狙い、今まで幾度となく罠に嵌めようとしてきた。辛くも逃げ果せてきたが、今の状況を抜け出せる算段がまるで思いつかない。リリはこれからの自分の運命を、悟ってしまった気がした。
(無理矢理犯され、ボロ雑巾のようになってから、モンスターに食べられてしまうんでしょうね…)
「…何が起きたか説明してやろうか?」
男はリリを掴んでいた手を放した。どさっと音を立て、地面にへたり込む。痛みのせいで、碌に体が動かなかった。
「ダンジョン広しと言っても、上階層への正規ルートは限られてるだろう?ましてやお前の能力じゃ、この7階層で取れるより安全な正規ルートなんて二、三通りだ。そうだろ?」
(…くぅ、網を張ったという訳ですか)
唇を噛むリリの正面で、どす黒い欲望に染まった男の顔がダンジョンの燐光に照らされ、醜く光っていた。
「僥倖だったぜ、お前がここを通ったのは。これから手足を動かないようにしてから家に持ち帰り、犯し続けてやる。お前は一生俺のペットとして生き続けるんだ。幸せだろう?手始めに、今晩はお前の血をたっぷり飲ませてくれ。それにもう、手足はいらんだろう?」
思った通りです、とリリは僅かに呟いた。酒によって気が狂い、理性を失った獣の様な男の慰み者になるのなら、いっそここで死んでしまった方が楽に違いない。
舌を噛み切ろうかと逡巡していると、カヌゥが醜い顔を近づけて、唇が触れ合うくらいの距離でリリに囁いた。
「愛してるぜ、アーデ」
「…っ」
気味の悪い囁きに、リリの背筋は凍った。
「お前が6つの頃から、ずっと愛していたぜ。小さいお前のまんこにぶち込み、滅茶苦茶に壊しちまうまで犯す夢を、何度見た事かわからねぇ」
男はリリを抱きしめた。
正真正銘の、変態だ。リリは嫌悪に顔をしかめながら、その男の不気味な眼差しを決して直視しないようにと、顔を背け続けていた。
「お前の両親の事、教えてやろうか?」
「…?」
「酒狂いだったお前の両親はなぁ、ダンジョンで行方不明になったんだ」
そんな事は知っている。しかし、この男は自分の知らない事を、そして知りたくない事を知っているのだと思った。出来る事なら耳を塞いで、今すぐ舌を噛んで死んでしまいたい。
それでもリリには、どうしても決断するだけの勇気が湧き上がってこなかった。
「正確にはなぁ、お前の父親はダンジョンでキラーアントの餌食になったんだ。そして母親は、一年程俺のペットとして生きてから、壊れちまった。だから俺が殺してやった」
「え…。そ、そんなっ…」
「母親が最期に何て言ったか知りたいか?お前について話していたぜ?」
母親が自分について話していた?リリは驚いた。
彼女はまるで自分を気にかけなかった。神酒の事ばかり口にしていたし、親らしいことは何一つしてはくれなかった。そんな彼女にも、母親としての感情が少しはあったのだろうか。
「な、なんと言っていたんですか?」
リリはたまらず質問した。そしてカヌゥは嬉しそうに、愉悦に浸りながらながらこう言った。
「アーデ、お前だ。『娘を差し出すので、好きに嬲って構わないのでどうか私だけは助けて下さい』と言ったんだ。良い親だろう?それからだ、俺がお前を気にかけるようになったのは」
「…っ」
言葉が出なかった。リリは、心が崩れ落ちる音が聞こえた気がした。人生の中でもし、自分で死を選べる時があるのなら、今がその時だろう。意を決して舌を噛もうとした時、とある物が目に入った。
カヌゥの横でもぞもぞと動く、胴体を切断された物体。紫色の鮮血をまき散らしながら悶え苦しむそれは、まるで自分の未来の姿のようだった。しかしそれはリリルカ・アーデではなく、ただの瀕死のキラーアントだった。
ただの瀕死のモンスター。しかし、見逃せない重大な点があった。
瀕死の際、キラーアントは大量のフェロモンを撒き散らし仲間を呼び寄せるという習性がある。現に今、カヌゥの横に転がっているそれに引き寄せられるように、通路の奥から数匹の大蟻が姿を現していた。
「あっ…ま、まずいですよ…?」
リリはこの危機的状況を招いたカヌゥには、何か特別な打開策があるのだろうと思い彼の顔を見た。しかし、カヌゥの顔も恐怖に染まっていた。
カヌゥはリリから離れ、短剣を装備する。
「ちっ…あいつら、何してやがる!?ちんたらしやがって、クソ!お陰で計画が台無しだ!」
「……?」
ゲドは慌てて瀕死のキラーアントに止めを刺したが、そうしている間にもさらに十数匹のキラーアントが部屋へと入り込んできた。
(じ、自分でモンスターを誘き寄せておいて何にも打開策がないんですか?)
余りにも愚かな自殺行為に、リリはただただ驚愕していた。そうこうしている内に二人は囲まれ、じりじりと死の足音が近づいてくる。
「くそっ…寄こせっ!」
カヌゥはリリのバックパックを強引に引きはがし、中身を大急ぎであさり始めた。そして中に入っていた金貨や魔石を地面にまき散らしながら、一振りの魔剣を握りしめた。
「あっ、返してくださいっ!」
リリは飛び掛かった。しかし曲がりなりにも現役の冒険者に対し、サポーターであるリリはあまりにも非力すぎた。簡単に体を引きはがされ、そのまま蟻の群れのすぐそばに投げ飛ばされる。カチカチと顎を鳴らして近づいてくる大群を前に、リリがへたり込みながら後退りしている間に、カヌゥは強引に群れへと突っ込み、魔剣を振りかざした。
『…?』
二人の間に不自然な沈黙が流れた。魔剣は豪炎を上げモンスターを焼き尽くすはずだったが、ぽとんと小さな火の塊を吐き出してから、砕け散ってしまった。
寿命が来たのだ。リリがハムザに対して使ったのが、あの魔剣の最期だったのだ。
『ギィ……』
群れの一匹が、大顎でカヌゥの脚に噛みついた。
カヌゥは大きな悲鳴を上げ、今は刃の崩れ落ち柄だけが残った魔剣を何度も振り回していた。当然ながら寿命を迎えた魔剣は二度とその効果を発揮しない。
カヌゥの両脚は鋭い顎で切断され、上半身が群れの中に倒れ込んだ。一際大きな叫び声の後には、ただただ肉を咀嚼し、骨を嚙み砕く音だけが聞こえていた。
あまりにも哀れな最期だった。しかし彼のそれは、冒険者の宿命なのかもしれない。冒険者の全てが数多の強敵を打ち倒す力を手にし、輝かしい栄光に彩られる訳ではない。
そんな者はごく一部だ。残りの普通の冒険者は、毎日このように無残に命を落とし、二度と地上の光を浴びる事はない。
これが、冒険者という職業なのだ。
そして自分もまた、彼らに付き添うサポーター。迎える最期は、彼らと比べても遜色ないくらいひどく、哀れなものだ。
獲物を平らげたキラーアントの群れは、ゆっくりとリリに近づいてきた。顎には鮮血がこびりついている。リリは、自分の体とキラーアントの体の大きさにあまり変わりがない事を、今初めて知った。
(ま、まずいです…。どうにかしないと…)
恐怖で腰が抜け、まるで体が言うことを聞かない。リリは頭が真っ白になり、思考が回らない。蟻の群れが眼前に迫って来た。手を伸ばせば、届いてしまいそうな距離だ。死の足音は、ただゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。耳にこびりついた咀嚼音が、恐怖を倍増させる。恐ろしさに、リリは目を閉じた。
(あぁ…リリは、死んじゃうんですね)
為すすべなく地面にへたり込むリリに、無数の大蟻が顎を鳴らしながら、ゆっくりと覆いかぶさった。
終わった。つまらない人生だった。両親に見捨てられ、ファミリアの仲間には毎日罵倒を浴びせられ…才能にも恵まれず、いつも誰かの後ろを必死でついていくばかり。綺麗にもなれず、善人にもなれず…ましてや、自分を救ってくれるような優しい友人にも出会えず…。
(全部、リリが悪いんです)
きっとこうなる事は決まっていたんだ。リリが盗人に、詐欺師に身を落としてから…純真な心を自ら捨て去って、薄汚い着物を纏いながら他人を不幸にするようになってから、こうなる事は決まっていたに違いない。
(もう…いいんです。生きていたってどうせ…)
碌な事にならない。自分で自分を殺せないのなら、いっそ誰かに殺して貰った方が良い。モンスターでも何でも構わない。
恐怖で目を開けない。凄まじくおぞましい気配がする。
どこかで『ビキッ』と何かが砕ける音が聞こえた。
体を覆う外殻は固く、力強い。決して獲物を離しはしまいと、こびりついて決して離れようとしない。
「————……。」
リリは待った。大顎が体を噛み千切り、命が消えてしまうのを。
しかしいつまで経っても、その時は訪れてこない。恐る恐る目を見開くと、覆いかぶさったキラーアントだけでなく、周りにいる全てのキラーアントがまるで眠りについたかのように動かなくなっていた。
「……?」
訳が分からない状況にリリは困惑した。モンスターが突然行動停止して眠りに落ちるなんて事は、まるで聞いたことがない。しかし、現実はまさにそれだった。
(ダンジョンでは
「さすがにこれは、理解できませんね…」
覆いかぶさったキラーアントから、もがきながら何とか離れる事に成功する。クリーム色のローブをぱんぱんと手で叩き、フードを被りなおす。
バックパックの中身は散乱し、中にはそれなりに高価な物も入っていた。しかしリリはここを一刻も早く離れてしまった方がよいと思ったので、何も持たずに駆け始めた。
命拾いしたようだ。
しかしリリにとっては、それはあまり幸せな事ではなかった。またオラリオに戻れば、空腹に苛まれる日々が、無限の仕事を気絶するまでし続ける日々が始まるのだ。
リリは役立たずで、卑怯で、醜くて、大馬鹿者なんだ。罵倒され、馬鹿にされ、人々に裏切られては涙を流す生活が、リリを待っていた。
ザニスの奴隷になって、毎日の様に犯されて最後に捨てられる人生を選ぶか。
それも悪くないかも知れない。慰み者になろうと、ファミリアの団長が相手だ。気に入られればそれなりの利益はあるだろう。自分ももう無垢な子供ではない。体を売る事で生き延びられるなら、それがきっと自分の運命だったのだ。
ただ、このままダンジョンを彷徨ってモンスターの胃袋に納まってしまい、くだらない人生に別れを告げるのも、悪くは思えない。死の恐怖さえなかったら、誰かが自分を眠らせるように殺してくれるなら、きっとリリは喜んで死を迎え入れただろう。
どうするべきか決めかねていたが、リリは進み続けた。オラリオへの出口へと。
●
「も、もう勘弁してくれ…はやく殺してくれっ…」
ダンジョン7階層。リリを待ち伏せするために待機していた【ソーマ・ファミリア】の数人は、思わぬ人物による襲撃を受け捕縛されていた。
「あ、アンタ、【ガネーシャ・ファミリア】だろうっ…?こんな事をして許されると…思ってんのか」
「口の聞き方が分からん奴だな、ケツ穴一号?」
ジーガは腰を振り続ける最中、犯されながら言葉を発した男の両腕を掴み上げ、へし折った。
男の悲鳴が部屋に轟く。そんな事は意に返さず、ジーガは男を犯し続けていく。
「…飽きたな」
そう言って、ジーガは己のペニスを引き抜き、剣を取った。
血飛沫が舞い散る。切断された首が地面にごとりと落ちた。
「あとはお前だけだな?待たせて悪かった」
床に倒れ込んだ首のない数体の遺体に囲まれて、ゲドは震えあがっていた。
「な、何でこんな事してやがる…。俺達が何をしたってぇんだっ!?クソがっ!」
手足を縛り上げられ自由に身動きが出来ないゲドは、乱暴に首元を掴まれ、無理矢理体を起こされる。
ジーガ・ぺデルスキーは股間をいきり立たせながら、ゲドに言った。
「これは神意だ。善良な庶民に悪為す者共に鉄槌を下すのは、我々の仕事だ。お前たちは、存在しちゃならんというものだ」
「ふ、ふざけるなっ…!ホモ野郎が…くそ、せめて教えてくれ。一体どこぞの神の悪戯だ、これは!?」
ジーガはゲドの顔に唾を吐き、怒りに顔を歪ませた。
「黙ってやがれ!てめぇに知る権利なんてねぇ。いいか、これから四肢を切断し、たっぷり可愛いケツマンコを楽しんでやる。それが終わったらてめぇのクサレチンポを切り取って、モンスターの餌にして終いだ」
「ひっ……」
ジーガは剣を持ち直し、構えて正面を向く。ゲドは悲鳴を上げて泣き叫び、許しを乞い続ける。
「無駄だ。行くぞ、いざ正義執行の時間だ!」
こうしてホモの手によって、ゲドとその取り巻きはダンジョンの闇に葬り去られた。