※この作品はR-18です。

ダンジョンに性交を求める眷属の物語   作:kuracjaponski

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第二章 ―変身―

 昨晩素直になれなかったことを、レフィーヤは後悔していた。眠れぬ夜を過ごしているのは、きっとそのためだろう。

 

 同部屋で寝ている団員の寝息が聞こえてくる。空はようやく青白く輝き始めている。そう、ようやくだ。

 

 机に置かれた小型魔石灯を灯しながら、ひたすら魔導書に没頭し続ける。邪念を払うが如く、ただ魔法の上達だけに意識を割く。しかし、当然のようにアイズに対する様々な感情が頭に侵入し、レフィーヤの心を乱した。

 

 「むむむ…」

 

 何度目の中断だろうか。レフィーヤは静かに引き出しを開け、一冊のノートを取り出した。

 

 そのノートは、絶対に他人には見られてはいけないものだった。日記帳、とでも言うのだろうか。それを開き、心が叫ぶままに筆を走らせる。そうすることで魔法書に没頭するだけの精神力が、再び戻って来るのだった。

 

 しばらくすると、空は明るさをすっかり取り戻していた。鳥の鳴き声が中庭に響き始める。もう朝だ。他の団員も起きて来ることだろう。レフィーヤは例の日記帳を引き出しにしまい、しっかりと鍵を掛けてから魔法書を持って部屋を出た。

 

 食堂は、まだ朝食の準備が出来ておらず、空っぽだった。仕方ないので共有広間にある柔らかいカウチの上で一休みしようと思い、渡り廊下を歩いて行き、共有部屋に入る。

 

 するとそのカウチは既に、リヴェリアによって占領されていた。

 

 「なんだ、レフィーヤか。朝早くから書物を持って勉強か?関心だな」

 

 リヴェリアは腰を上げ、レフィーヤにカウチに座るよう目で合図した。一度は拒んだものの、「どうせ碌に休んでいないのだろう」と説得され、仕方なくそれに従った。

 

 「リヴェリア様もお早いですね。朝食まで、まだ数時間は掛かりそうでしたから、ここでちょっと休憩しようと思っていました」

 

 「そうだな。私も同じだ。昨晩、『黒き森の歴史』を読みすぎたせいで、すっかり寝る機会を失ってしまったんだ。レフィーヤはもう読んだか?ダークエルフとエルフの確執を正しく理解するには、あの書は必須だ」

 

 「いいえ、私はまだ…」

 

 「ふふ…。どうした、何か思い悩む事でもあったか?」

 

 王族であるリヴェリアを前に、頭など上がるはずもない。ましてや、自分ごときエルフの小さな悩みで彼女を煩わせるわけにもいかない。しかし、嘘を吐くなど以ての外だ。レフィーヤは数ある悩みの中から一つを選んで、打ち明けた。

 

 「実は…昨晩アイズさんと少しだけ話をして…。その、リヴェリア様は知っていますか?ハムザという冒険者のスキルの事を」

 

 「あぁ…あの男か」

 

 リヴェリアが頭を抱えてため息を吐いた。こんなに困った表情のリヴェリアを見るのは、これが初めてだった。

 

 「え、えっとリヴェリア様、そんなに不味い質問でしたか?」

 

 「あぁ、そうだな。実はフィンやガレスとも相談していたのだが、ロキの対応とあのテルクシノエ・ファミリアの団員には、正直言って心底辟易している」

 

 あの公明正大なリヴェリアにここまで言わせる程だ、きっとあの冒険者はまた余計な事をしたに違いない。アイズさんの時と同じように。

 

 「いいか、レフィーヤ。余計なお世話かも知れんが、一応言っておく。決して奴のスキルに惑わされて体を許してはならんぞ。この事は昨夜さんざんアイズにも言っておいた。我々は誇り高き冒険者だ。強さと引き換えに娼婦の真似事など、似つかわしくない」

 

 「はい、リヴェリア様。努力を対価にする事でしか、本当の強さは得られません。アイズさんには…その、私からも気を付けるように言っておきます。昨夜は、例のハムザという男と物置部屋で二人っきりだったようですから…」

 

 「わかっているなら、いいんだ。説教臭いことを言ってすまなかったな」

 

 「いいえ…私も、実は少しだけ揺れていました。でもリヴェリア様に背中を押して貰えた事で、今ならはっきりと正しい心で考えられます。ありがとうございます」

 

 ぺこり、とお辞儀をするとリヴェリアは気を遣ってか部屋から出て行った。柔らかいカウチに横になり、レフィーヤは少しだけ目を閉じる。

 

 しばらく休んでから元気を取り戻したら、しっかりと並行詠唱の訓練を続け、魔法の勉強も欠かさずこなすなければならない。

 

 次の遠征では、もう足手まといになんてなりたくない。ファミリアのみんなを助けられる心と力が欲しい。

 

 (私は、強くなりたい…)

 

 気づかぬうちに、彼女は眠りについていた。

 

 

 それからアイズが部屋にやってきて、すやすやと寝息を立てて眠るレフィーヤの隣に腰を掛けた。

 

 朝まだきに、欠かさず行う早朝の素振りを終えて彼女は共同広間にやって来たのだが、この時間にリヴェリア以外の団員と出くわすのは珍しいことだった。

 

 少女の手から、どさりと大きな書物が床に落ちる。起こさないよう、アイズは小さな声で呟いた。

 

 「そっか…。レフィーヤは、頑張ってるんだね」

 

 かくいう自分も、昨晩まともな睡眠を取れず、居ても立っても居られずに暗いうちから訓練に飛び出した。昨夜リヴェリアに言われた事を自分自身で消化するために頭を精一杯使ったせいで、すっかり目が覚めてしまっていたからだ。

 

 リヴェリアは言った。

 

 『相手が自分を愛しているという確証がないのならば、決して体を許すな』

 

 『強さと引き換えに心を売ってしまったら、二度と殻は破れなくなるだろう』

 

 『本当の強さとは、真実にのみ宿る。弛まぬ努力、真の愛と言った確かな物でしか、人は強くなれん』

 

 アイズにとって、これらは未知の世界からの言葉のようだった。

 

 理解は出来る。だが、納得は出来ない。そう言った類の言葉はすうっと体の中に入ってきてから、体内の全細胞によって叩きのめされ、外へ放り出されてしまう程の受け入れがたい言葉だった。

 

 自分がいつも辛い鍛錬に身を置き続けるのは、ただそれが好きなだけではない。強くなりたいという強烈な願望を満たすため、一時の不便を受け入れているに過ぎない。

 

 端的に言えば、不自由を受け入れるのは更なる自由のためだ。艱難に耐えるのはより大きな快楽のためだ。自分が今まで経験してきたもの…器の昇華、難敵の打破、未開領域の開拓。これらの偉業の影には、常に喜びがあった。達成感、というやつだろうか。強くなるという欲求を一つ一つ満たしていくことが、目標をかなえていくことが楽しかった。理想の自分に近づけている実感が出来て、嬉しかった。

 

 それにも関わらず、今も心に抱き続ける『強くなりたい』という欲望は、未だ望みを叶えろと声高に叫んでいる。つまるところ、自分はまだまだ満足していないのだ。

 

 強くなるためには何だってしてやろう。無理難題に挑むのはもう慣れっこだ。例え今回の試練が今までとはベクトルの違うもの、つまり『性的な試練』だったとしても、アイズ・ヴァレンシュタインならやってのけるはずだ。

 

 貞操を捧げようが、娼婦のような身に落ちようが、強くなれるのなら心を売ったっていい。今まで自分はそのように考えていたのだった。

 

 だが、師であり親のような存在であるリヴェリアは、そういった論理を受け付けない。『そんな事をしてみろ、お前はすぐに勘当だ』と言われるのが常だった。

 

 だから昨晩、アイズは精一杯考えた。しかし、結果は同じだ。答えが変わる筈もなかった。ただ、完全なる無駄骨だったという訳でもない。

 

 ハムザとはセックスをしてはいけない。しかし、強さの源であるハムザの精液を貰い飲んでみるだけなら、誰も文句は言えないはずだ。そしてもし本当に彼が自分を愛していて、生涯を通じて苦楽を共にする伴侶となる覚悟があるのなら…その時は自分が彼と何をしたって、誰にも文句は言わせない。

 

 近いうちに、暇を見つけて一度彼らを訪ねてみよう。アイズは何度も小さく頷きながら部屋を出た。

 

 

 【ロキ・ファミリア】の侵入者は、夜中からずっと茂みに隠れ続けていた。警備兵の目を搔い潜り高い塀を越え、植え込みに小さな身を隠し、潜伏を続けていた。少女の顔付きは疲れ果てており、時折体を這う虫を払いながら、もう何時間も緊張と戦っていた。

 

 それもそのはず、誰もが寝静まるような時間帯であっても、【ロキ・ファミリア】の城砦、〈黄昏の館〉には常に人影がちらついていたからだ。

 

 「全く…警戒心が異常なくらい高いですね。これほどの実力者が揃う派閥なら、侵入者なんて絶対に来る訳ないじゃありませんか」

 

 そう言ってすぐに自嘲する。自分がいるではないか。命知らずの侵入者だ。見つかれば即刻処刑されるだろう。まさか『たまたま窓が開いていたので』だとか『ちょっと鋏を借りに来ただけですよ』などの言い訳が通用する訳がない。

 

 しかし団長ハムザからの命令は、確実に遂行したい。いや、しなければならない。

 

 今のファミリアの将来に不安はあるものの、一度決めたことだ。最後までやり通してやろうという根性が、今の彼女には備わっていた。

 

 リリは誰もいなくなり、レフィーヤだけが取り残された広間に侵入する手段を探る。

 

 (…硝子を破る訳にはいきませんね、音ですぐに人が来るでしょう)

 

 階上を見上げても、とてもジャンプして届く高さではないことは明白だ。近くの窓からの侵入も、誰かと遭遇しないとも限らない。あまりに危険すぎる。

 

 (となれば残された手は…)

 

 正面突破だ。

 

 正々堂々と【ロキ・ファミリア】の正面玄関から館へ入る。自分にしか出来ない芸当だ。

 

 (今の時間、絶対に内部で鉢合わせすることがない人物は、一人しかいませんね)

 

 広間で寝息を立てているレフィーヤに変身すれば、適当な理由を付けて玄関を開けてもらえるだろう。誰かと鉢合わせても、適当に会話を合わせてからさっさと立ち去るだけだ。何度も何度も行ってきた変身による偵察だ。そのことに特に問題はない。

 

 問題があるとすれば——。

 

 「たったの一度、数十分しか顔を合わせていない人間に化けるなんてことは、今までで一度もありませんでした」

 

 リリの変身魔法、【シンダーエラ】は詠唱時の想像力によって成功確率が変わってくる。馴染みの相手であればほぼ百パーセント成功するだろうが、姿を思い浮かべることに苦労する相手が対象の場合、失敗(ファンブル)の恐れもある。

 

 (なるようになれ、ですっ!)

 

 【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

 

 「シンダー・エラ!」

 

 体が光に包まれてから一瞬のうちにリリは変身した。硝子に姿を映し確認するが、問題はない。

 

 「…これなら上出来です」

 

 

 

 「おや?レフィーヤさん。こんな朝まで装備も持たずにどこへ行っていたのですか?」

 

 「おい、野暮な事聞くんじゃねぇよ。うちの次期エースだぜ。遠征前にハメ外したって、誰も文句を言うべきじゃねぇ」

 

 「はは、違いないな。失礼しました。どうぞ、おかえりなさい。我が本拠(ホーム)へ」

 

 正面玄関に配置された守衛たちは笑い合いながら扉を開けた。

 

 ここに来るのは二度目だ。一度目は今から十数時間前。まさかこんなに早く二度目が訪れるとは思わなかったが、人生は予期せぬ出来事の連続だ。これくらい、何のことはない。

 

 自分にそう言い聞かせ、震える足を運んでいく。

 

 (えーっと…団員の共有広間はあっちの方角だから、渡り廊下を一度渡らなければいけませんかね)

 

 幸い団員の姿は見られない。ほっと胸を撫で下ろしながら進んで行くと、渡り廊下の向こうから人影が歩いてくる。

 

 「おや、レフィーヤじゃないか。おはよう、調子はどうだい?」

 

 (げっ…この人って、まさか…)

 

 「お、おはようございます。フィン・ディムナ様」

 

 「ははは、やけに畏まった挨拶だね。いつも通りでいいんだよ、レフィーヤ。しかし丁度良かった、君を探していたんだ」

 

 (探していた?ま、まずいです…よりによってここの団長と会うなんて…いけません、心臓の音が聞こえてしまいますっ…!)

 

 「ど、どうした、フィン?」

 

 「ンー?今度は急にくだけたね。まぁいい、レフィーヤ。あのハムザという冒険者についてなんだけど…」

 

 「ハ、ハムザですか」

 

 「あぁ、リヴェリアから何か聞いてるかも知れないけど、僕としてはロキの方針に賛成だよ。強くなるために手段を選んでいる状況じゃない。怪人(クリーチャー)の件もあるし、深層で起こっている事も気になる。今は出来るだけ戦力を充実させておきたいんだ。ヘファイストス・ファミリアを次回の遠征に組み込むのも、万全を期すためには必要なことなんだ」

 

 「そ、そうですよね。強くなるために手段を選んでいる場合ではありませんよね」

 

 「その通りだ。それでもファミリアの風紀が乱れる事は危惧している。だからくれぐれも、彼にお熱を上げ過ぎてこちらの活動が疎かになるような事には気を付けてくれ。もっとも、強い男がモテるのは仕方ないって、十分理解しているつもりなんだけどね。おっと、嫌味じゃないよ。こう見えても僕のもう一つの野望に関しては、まるで進んでいないんだ」

 

 「も、もう一つの野望…。えっと、世界平和、でしたっけ?」

 

 「ははは、冗談が上手くなったね、レフィーヤ。もちろんそれもある。だけど僕の場合はお嫁さんさ。はやく子供を作って、小人族(パルゥム)達の希望になりたいんだ。彼らを照らす道しるべにね。それは分かってるんだけど、どうも女性に関してはうまくいかなくてね。迷宮に潜っている方がしっくりくるんだよ、僕は」

 

 「そ、そうですか…。でも、フィン様はハムザ様よりも知的で、勇敢で、とっても素敵です。私がもし選ぶ立場にあったなら、絶対にフィン様を支持します。だって、私たちの…いや、えっと、フィン様は小人族(パルゥム)の誇りそのものですから」

 

 「そう思うかい?はは、意外だね。レフィーヤからそんな誉め言葉を貰えるなんて。まぁ、必要な事は話したよ。僕は出かけてくるから、アイズたちによろしく頼むよ」

 

 「は、はいっ。それではフィン様、お気をつけて」

 

 (…い、行った。あぁ、話してしまいました…フィン・ディムナと!)

 

 リリは興奮していた。一族の希望、【勇者(ブレイバー)】、フィン・ディムナ。オラリオ屈指の冒険者であり、彼の上を行くのは【フレイヤ・ファミリア】のオッタルのみ。そのオッタルがほぼ休業中な事を踏まえると、現役では事実上の頂点だ。

 

 そんな雲上人と、自分が会話をしてしまった。しかし、浮かれている場合ではない。目的を遂行しなければ。

 

 リリは急いで広間へ入り、いまだ本物のレフィーヤが寝息を立てているのを見て一安心した。

 

 (あとは…このメモを置いておくだけで、おしまいですね)

 

ポケットから紙切れを取り出し、リリはさっさと部屋を出ようとした。しかし毛布も掛けずにカウチで眠っているレフィーヤが少し可哀そうになり、広間の戸棚を片っ端から開けて毛布を探し出し、彼女に掛けてやった。

 

 「…これは無断で変身してしまった事へのお詫びでもあります…。それでは、おやすみなさい」

 

 そう言い残してリリはばたんと扉を閉めた。

 

 「む、むにゃあ…アイズさぁ~ん…」

 

 レフィーヤの寝言が、無人の広間でこぼれた。

 

 ●

 

 「ふっ…!」

 

 ナイフを握りしめ、細かいステップを刻みながら空を斬る。何度も何度も、実直に繰り返される反復練習。

 

 こちらにも、夜明けを待たずに訓練を開始していた生真面目な冒険者が一人。

 

 ベル・クラネルは三週間前に初めて【恩恵(ファルナ)】を与えられた、Lv.1の新米冒険者だ。

 

 この場面を見守る師匠がいたのであれば、彼の拙いナイフ捌きに檄を飛ばしていた事だろう。だが、まだ夜も明け遣らぬこの公園で彼以外にいる者と言えば、酔い潰れて寝っ転がっている飲んだくれか、公園を家代わりにして暮らしているホームレスくらいだった。

 

 「なんだぁ、あのガキ。また来てやがる。畜生、さっさとモンスターにやられちまえ。こっちはゆっくり眠れもしねぇ」

 

 「ぐごー…。エルフのパンティ、くんかくんかしてみたいのう…ぐうー。もう、テキーラは飲めません…堪忍してくれぇ…」

 

 

 一通り素振りを行ってからは、基礎体力の訓練。木の枝にぶら下がって懸垂をしたりしたり、砂埃を浴びながら腕立て伏せを繰り返したり、ベルの訓練は日夜を問わず行われ続けていた。

 

 「ふぅ…でも、これだけ訓練を続けても…」

 

 一向に強くなる気配がなかった。繰り返される筋力トレーニングや、迷宮での実践。それらを愚直なまでに繰り返してきて、力の能力値が三週間で4上がった。他の能力値は一切変化がない。

 

 たかが4、されど4。

 

 「神様はそう言うけど…これってつまり、進歩が遅いってことだよね…」

 

 無理もない。ベルが比べる相手は、ハムザ・スムルトだ。同時期に冒険者稼業を始めたいわばライバルだったが、彼は既に9階層まで踏破しているらしい。

 

 自分はと言えば、いまだ1階層でコボルトを相手に大苦戦する始末だ。まるで天と地の差だ。

 

 稼ぎが悪いせいで神様に不便な思いをさせている現状には、正直恥じ入る思いがする。

 

 しかし努力なら続けている。胸を張れるくらい、歯を食いしばって頑張っている。

 

 「今日はそろそろ切り上げないと…神様の朝ごはんを買って、帰ろうかな」

 

 それでもオラリオは、そんなに甘くはなかった。

 

 ただ、それだけの事だ。

 

 

 

 「ふふふ…。また頑張っているわ。透明な、美しい魂を持った彼が…。いやね、朝から疼いてきちゃう」

 

 オラリオの中心、天蓋を貫くバベルの最上階。その女神は神の眼を以て少年を見つめ続けていた。朝日を一身に浴びて愉悦を漏らす女神の表情は、極上の葡萄酒にも作り出す事は出来ない程に恍惚としている。

 

 美の女神、フレイヤ。

 

 【ロキ・ファミリア】と双璧をなす、もう一つの最強派閥、【フレイヤ・ファミリア】の主神である彼女はとある少年に目を付けていた。

 

 純白でも、漆黒でもない。その中間でもなく、ましてやその他どの色にも染まっていない、限りない透明色。それは今まで何万年と眷属を見守り続けていた神の一柱にとって、衝撃の色だった。

 

 きっかけは、街で走る彼をたまたま目にした時だった。その彼が【ヘスティア・ファミリア】という弱小派閥の団員だと知ってから、彼を〈魅了〉してしまいたい衝動に何度襲われた事だろう。その度に従者を務めるオッタルは女神の昂りを鎮めた。

 

 そして今朝もまた、その衝動に駆られている。いっそのこと、手中に収めてしまおうか。激情に身を任せ、彼を我がものとしてしまおうか。

 

 しかし、だ。

 

 女神の目が曇る。

 

 「どうしていつも、邪魔されちゃうのかしら?」

 

 そうだ。〈怪物祭〉の時も、本来であればあの少年が解き放たれた怪物と戦う筈だったのに。

 

 フレイヤはモンスターに下した命令を思い出す。

 

 『小さな女神(わたし)を追いかけて?』

 

 怪物は、間違ってはいなかった。結果的にあの女神ヘスティアではなく、憎い女神テルクシノエを追いかけたのだから。

 

 そのせいでベルと怪物を戦わせる計画は失敗し、代わりにハムザという青年があのシルバーバックを打ち倒してしまった。

 

 それだけではない。

 

 少年の手助けになればと思い、わざと『豊穣の女主人』に置いてきた魔導書(グリモア)も、いつの間にかハムザによって奪われてしまっていたようだ。

 

 女神の直感は告げていた。あの男、この先も邪魔をし続けるに違いない、と。

 

 「…オッタル」

 

 「はっ…」

 

 女神が振り向いた先には、部屋の片隅で佇む猪人ボアズの男、単騎の実力だけで言えばオラリオ最強のLv.7、【猛者(おうじゃ)】オッタルが控えている。

 

 「あなたなら、どうする?透明な彼の愛を得るには、邪魔者は消した方がいいかしら?」

 

 武人然とした彼は、平坦な口調でただ事実のみを述べていく。

 

 「今までもこれからも、神々の予想を裏切るのは英雄と呼ばれる者だけでしょう」

 

 「それは、邪魔者の方が素質があるということかしら?」

 

 「現状では、そう考えるのが妥当かと」

 

 「正直ね、オッタル。それはそうかもしれない。…でもこれ以上邪魔をされるのは、ごめんだわ」

 

 巌のような従者は再び口を開く。その口調は確信に満ちており、何をも寄せ付けぬ迫力が備わっている。

 

 「男は自信によって生まれ変わるものです。彼が抱える競争心を煽り、因縁を乗り越える事が出来れば、自ずと邪魔者は消えるものかと」

 

 「それはつまり…あの少年に強くなれ、と?彼が強くなれば、邪魔者を跳ねのけるだけの力が身に付く。そう言いたいのよね?」

 

 「私はそのように考えます」

 

 女神は「そう…」と言い残し、物思いに耽る。オラリオの日差しは上へ上へと昇り続け、部屋は煌びやかな朝日に包まれていく。

 

 「任せるわ、オッタル。貴方の方が得意でしょう?」

 

 「滅相もございません。ですが、必ずやご期待に添えることでしょう」

 

 「うふふ…。何をやらかそうって言うの?」

 

 オッタルの口元が、僅かに緩んだ。剛毅なる武人が、笑みを浮かべている。

 

 「彼らに決闘をさせましょう。その敗者には屈辱を、勝者には栄誉と更なる試練を与えましょう」

 

 従者の提案は女神に大いなる歓喜を与えた。猛り狂う程の愛情が求めるのは、極限に追い込まれた魂が見せる、嬋娟たる光の迸発か。

 

 女神は頬を紅潮させ、恍惚の表情で彼方を見つめた。少年が居た、その場所を。

 

 あの子の激しい輝きを、もっと見てみたい。生死の間際で散らす子供達の火花を。女神の倒錯した愛情は、仮に少年が命を落とそうとも意に介す事はないだろう。

 

 その時は、冥府の彼方だろうが、天界の楽園だろうがどこまでも追いかけていき、この手で抱擁してあげよう。それが、女神(わたし)の愛だ。

 

 「オッタル」

 

 「はっ…」

 

 「鎮めなさい」

 

 従者は膨張した股間を露にし、艶やかに色気を振り撒く女神と番った。

 

 

 

 

 

 その頃、リリは本拠(ホーム)に帰った。テント内では、昨日と同じように主神と団長が寝息を立てている。

 

 「はぁ…。皆頑張ってるというのに、この人たちはお気楽すぎますよ」

 

 本当に理不尽な世の中だ。

 

 勤勉な冒険者が道半ばで斃れ、怠け者がただ性交をするだけで伸し上がっていく。

 

 本当に、残念な世界だ。

 

 珈琲製作機(コーヒーメーカー)のスイッチを入れ、リリは彼らが起きるのを待っているのだった。

 

  

 

 ●

 

 今日は快晴。何と愉快な昼下がりだろう。小さな紙切れを握りしめながらメインストリートを歩いて行くレフィーヤは、時折スキップを交えながらそこら中に笑顔をばら撒いている。

 

 往来ではすれ違う人々、あらゆる種族の男性が、そのようにして魅力を振り撒くエルフの少女に、何度も振り返りながら卑猥な視線を送る。

 

 そんな彼らの心の叫びは、今のレフィーヤには届かない。仮に紳士たちが『ヤリてぇ』だの『いいケツしてやがる』だの、挙句の果てにはラッキースケベを求めて彼女の体にわざとぶつかって来ても、彼らは張り手の一つですら頂戴することはないだろう。

 

 (ふふふ…。アイズさんから呼び出しだなんて、今日は最高の日になる予感ですっ♪)

 

 完全な幸福に包まれた状態の人は、例え腕に蚊が止まろうと、日に焼かれようと、雨に濡れようと決して心は乱されない。

 

 だから今のレフィーヤも、ちらほらとスケベな視線を浴びせる変態共とすれ違っても、『まぁ、今日は良いお天気ですから』といって全く意に介さないのだ。

 

 仮眠から目覚めた時に置かれていた紙切れには、こう書かれていた。

 

 『レフィーヤへ。今日のお昼過ぎ、ここの住所で待っています。第三区画、クルバ通り42。アイズより』

 

 南東のメインストリートを下り、既に第三区画には着いている。しかしそこで一度、レフィーヤは足を止めた。

 

 「ここって…歓楽街?」

 

 指定された住所は予想外の場所にあった。アイズがこの場所を指定してくると言う事にどんな意味があるのかと、レフィーヤは考えた。

 

 「一番ありそうなのは、人目につかない場所で二人きりになってむふふな事を楽しむ、っていうところでしょうね…」

 

 だらしのない笑みで整った相貌をふにゃふにゃにして、レフィーヤは通りを歩いて行く。

 

 (えーと、あそこがクルバ通りの40だから、ここがきっと…あれ?)

 

 何でもない歓楽街の裏道の奥に、五人くらいは収まりそうな中型のテントが置かれている。

 

 Lv.3の聴覚が、その内部から漏れる憧憬の剣士アイズの声を拾った。

 

 「ア、アイズさんがこの中にっ…!?」

 

 入口の扉は木製のフレームで作られており、その粗末な出来からか完全に閉まらなくなっているようだ。これなら、一般人の聴覚でも容易に中の様子を探ることが出来るだろう。

 

 嬌声を上げる男女の荒い息遣いが聞こえてくる。またか、とレフィーヤは唇を噛んだ。

 

 頭を過るのは昨晩の出来事。物置部屋で行われていたアイズとハムザという変態男との情事だ。だが、アイズが自ら呼んだのだ。きっと何か特別な事情があるに違いないと思い、レフィーヤは扉に手を掛けた。

 

 「ご、ごめんくださ~い…」

 

 恐る恐る扉を開けると、彼女の予想通りアイズ・ヴァレンシュタインは服も纏わずに男の肉棒にむしゃぶりついている。

 

 「ア、アイズさんっ!何をしているんですか…っ!」

 

 レフィーヤは堪らず近づいていき、アイズを男の股間から引きはがそうとするが、背後から何者かに肩を引っ張られ地面に転がった。

 

 「これ、よそのファミリアに入り込んできて、子供の楽しい時間を邪魔するとは何事じゃ」

 

 振り向くと、そこには女神テルクシノエが仁王立ちしている。レフィーヤはこの時理解した。ここは、彼らの本拠(ホーム)なのだ。

 

 「…ごめんなさい。私が呼びました」

 

 アイズはぺろりとそそり立つ肉棒を舐めてから、レフィーヤを見やった。エルフの少女は憧憬の先輩のあられもない姿と、その破廉恥極まりない行為にすっかり赤面し、狼狽えている。

 

 無理もないかと主神は思った。

 

 呼び出された場所が場所だ。歓楽街の裏通り、日夜仮初の情事が行われるその一画に紛れ込んだのは、道徳を重んじ、純潔を守りぬく事に誇りを見出すエルフという種族の少女だ。

 

 付け加えれば、そこで愛しのアイズが見知らぬ男の股間に奉仕している。

 

 仮にレフィーヤが男だったとしたら、その精神的ダメージは容易に推し量ることが出来るだろう。

 

 しかし彼女が女性だからといって、ショックがないということではない。寧ろ男性だった場合以上に驚いているに違いない。お互いを理解しあい、友人のような、姉妹のような関係を続けてきた間柄だ。ただの男女の繋がり以上に深く強い絆が、二人の間にはある筈なのだ。

 

 まぁ、目の前のアイズが偽物であることなど、今のレフィーヤには知る由もないのだが。

 

 「レフィーヤ…来たね」

 

 もじもじと指先を動かしながら、座り込んだ少女はこくりと頷いた。

 

 「…今日はどうしてもレフィーヤに伝えたいことがあって、呼んだの…」

 

 「伝えたいことって、何ですか…?」 

 

 誰より先に、男が口を開いた。

 

 「それはな、アイズちゃんは俺のオチンポに首ったけっていうことだ」

 

 「わ、私はアイズさんとお話してるんです!…それ、はやくしまってください」

 

 レフィーヤはバキバキに勃起したペニスを見て再び赤面した。だが、もう俯かない。いや、むしろ凝視しているようだ。ハムザは、エルフの少女が耳まで好奇心に染まっていくのを見た。

 

 「しまわん。それよりアイズちゃん、この変態エルフにさっさと説明してやれ」

 

 「へ、変態はあなたです。この変態っ!スケベっ!エロオヤジっ!」

 

 「レフィーヤ…落ち着いて。えっとね、レフィーヤはハムザのこと、どう思う?」

 

 間髪入れずに少女は答える。

 

 「変態だと思っています、アイズさん」

 

 「それは…そうかもしれないけど。私はハムザのオチンポのお陰で、ランクアップ出来たんだよ」

 

 「えっ…」

 

 アイズの口から『オチンポ』などという下品な言葉が飛び出してきたことに衝撃を受けたレフィーヤは、口を大きく開けて硬直した。

 

 出来ればそんな言葉は聞きたくなかった。清楚で可憐だと思っていた憧憬の剣士は、卑猥な言葉を恥じらいもせず口に出来る少女だったのだ。自分はまだまだ、彼女のことを理解できていなかったのかもしれない。

 

 レフィーヤにとっての自負は、アイズを深く理解しているということだった。しかし、それは今崩れ去った。プライドは砕け散ったのだ。

 

 だが、そういうことならば。

 

 本当の彼女をもっと知りたい。いや、知らなければならない。

 

 下ネタにいちいちショックを受けるほど幼くもないんだと自分自身に言い聞かせ、エルフの少女は覚悟を決めた。

 

 「じゃあ、アイズさんは今まで何度もこの男と寝たのですか?いつから関係は続いていたのですか?」

 

 「それは…昔からだよ。そうよね、ハムザ?」

 

 「お、おう。そうだな。昔からだ、うん。その通り」

 

 「そ、そうだったんですか…私は知りませんでした」

 

 アイズに変身しているリリは、このとき少しばかり戸惑っていた。

 

 変身魔法は成功しているし、相手に疑いをかけられるような状況は皆無…その筈だったが、どうしてもアイズ・ヴァレンシュタインの口調が思い出せない。なぜなら、彼女は殆ど喋らなかったからだ。

 

 (ハムザさまのシナリオでは、うまく会話をしてこの変態エルフビッチに股を開かせるということでしたが…それではちょっと墓穴を掘りかねませんね)

 

 そして決断した。下手にあれこれと喋るより、行為で示してやろう。アイズ・ヴァレンシュタインは淫乱なのだと。

 

 「はむっ…」

 

 「うほお…アイズちゃんのいきなりフェラチオ、最高…」

 

 偽アイズは両手でペニスを包み込みながら咥え続ける。わざとらしく大きく卑猥な音を立てながら、物欲しげな表情をしているエルフの少女に見せつけていった。

 

 (ふん。エルフは清純で誇り高いだの言いますが、この娘なんてとんだ淫乱エルフじゃないですかっ…)

 

 口での奉仕を続けながら、偽アイズもといリリは横目でレフィーヤをしっかり観察する。

 

 もじもじと内股をくねらせて、少女は頬を紅潮させていた。アイズの痴態を見て興奮しきっている様子だ。ライトブルーの大きな瞳を輝かせ、食い入るように見つめ続けている。

 

 (リリは腹が立ちますっ!あんなに綺麗な山吹色の髪の毛、ずるいです。大きな目もずるいです。お肌もぴちぴちじゃないですか。もう、本当にロキ・ファミリアの人たちは才色兼備で羨ましい限りですっ!)

 

 世の男性を虜にするのも無理もない。【ロキ・ファミリア】の面々に不細工はいない。存在してはならないのだ。女性は麗らかな陽光に揺れる花びらの如く、男性は白銀に輝く剣の如く、美しく強くなくてはならないらしい。

 

 どれだけ実力があろうとも、容姿に優れぬ者は門前払いだという噂を知らぬ者はいない。

 

 美しく、強い。それも次元が違うレベルで、圧倒的に。

 

 そんな連中がオラリオの頂点の一角を座しているわけだから、彼らを仰ぎ見る者たちの目には嫉妬と羨望、そしてそれを遥かに凌駕する希望が宿る。

 

 人類の悲願達成を託された英雄たちへの賛歌は、日々止まることを知らない。

 

 しかしだ。

 

 あろうことかそんな超人軍団【ロキ・ファミリア】の次世代エース候補の一人が、こんな弱小ファミリアのテント内で、悪い男に騙されかけているのだから愉快なものだ。

 

 こうなれば、たっぷりからかってやろう。リリは意地悪な気持ちになり、変態女神の神意に従う破廉恥な眷属へと成り代わった。いや、成り下がったと言うべきか。

 

 偽アイズは奉仕を一度止め、それまで添えていた両手を離して膝上に置いた。

 

 仁王立ちするハムザの下半身に跪き、神聖なるものに忠誠を誓った聖女のごとき仕草で、恭しく男根に祝福のキスを与えてやってから再び咥えこんだ。

 

 「ア、アイズさんのノーハンドフェラ…凄くえっちです」

 

 「心の声が漏れておるぞ、破廉恥エルフ」

 

 主神に指摘されたレフィーヤは恥ずかしそうにしながらも、視線はアイズのしぐさに釘付けだ。

 

 「うひひ…いかん、アイズちゃんのお口が気持ち良すぎてイってしまいそう…」

 

 「んっ…。駄目ですよ、ハムザさ…ハムザ。出すならこっちに、ね?」

 

 ちゅぽん、と音を立てて肉棒を離し、偽アイズはベッドに横になって両股を開いて手招きした。

 

 「ち、ちょっと待ってください。するんですか、その、今ここで?」

 

 当然のように体を重ね合うアイズとハムザを前に、レフィーヤは頭が真っ白になりかけていた。しかしエルフの少女は土壇場で、この場の状況に違和感を覚える。

 

 昨夜、物置部屋で二人は行為に及ぼうとして、アイズの無気力セックスに対しこの男は愕然としていた筈なのに、どうしてたった一晩でこんなに積極的になってしまったのだろうか。

 

 いや、そもそもおかしい。二人は以前から関係を続けていたような口ぶりで話していたが、昨夜はまるで初めて行為に及んだかのようだったではないか。

 

 訝しむレフィーヤの心中を、いち早く主神が察知した。しかしさすがの女神にも、レフィーヤが盗み聞きをしていたなんていうことまでは予想できない。

 

 だから彼女は単純に状況を説明するに留まった。ハムザのスキルについての詳細を、この少女が知らないのだろうと思ったからだ。

 

 「レフィーヤ。ハムザのスキルについては知っているか?成長の効果を激増させるには、強い快感を得なければならないのじゃ」

 

 本来であればそれはそれとして納得できるものだっただろう。しかし今のレフィーヤは、この情報から飛躍してまったく別のことに納得してしまった。

 

 (そ、そうですか。つまり、マンネリを防ぐためにあれやこれやと色んなプレイをする程の間柄ということですね…。それなら昨日のは、処女開通プレイに違いないです)

 

 「なるほど。わかりました」

 

 勘違いを決め込んだレフィーヤは頷いて、それならば間近で観察してやろうと二人に近づいていった。

 

 「あのね、レフィーヤ。もしハムザのオチンポが欲しかったら、先にいいよ…」

 

 「えっ…!?えっと…それは遠慮しておきます、アイズさん。さすがに見ず知らずの男性に処女を捧げるなんて、私にはできません…エルフの矜持に反します」

 

 「それじゃあ、アイズちゃんのおまんこを先に頂くぞ」

 

 ハムザはアイズに挿入した。その感触を味わうようにゆっくりと腰を動かしながら、反応を楽しむように時折強く腰を打ちつける。

 

 溢れ出る好奇の吐息を押し留めるようにレフィーヤは指先を桃色の唇に当てるが、青碧の瞳はしっかりと一つ一つの動きに興味を示している。

 

 獣の如き交尾を見つめていたレフィーヤであったが、やがて我慢できなくなってきたのか両股をもぞもぞと動かし始めた。

 

 「なんだ、ヤリたいのか?レフィーヤちゃん」

 

 腰を動かしながらハムザは問いかける。しかしエルフの少女は拒絶した。

 

 「本当に、いいのか?レフィーヤ。気持ち良くなる上、強くなれるのじゃ」

 

 女神の誘惑にも打ち勝ち、再び拒絶した。

 

 「レフィーヤ…。これは強くなるのに、必要なことなんだよ…本当にいいの?」

 

 愛しのアイズに唆されて、この三度目の質問に、とうとうレフィーヤは屈した。

 

 「……です」

 

 「ん?何か言ったか?」

 

 「……私も、欲しいですっ。ファミリアのお荷物には、もうなりたくないんです!アイズさんに助けられてばっかりじゃ、私嫌なんです!だから、私も強くなりたい…」 

 

 ハムザは待ってましたとばかりにペニスを引き抜き、レフィーヤの前にそれを突き付けた。そして呼応するようにリリは言った。アイズの姿で、アイズの声で、憧れる少女の心を読み透かすように。

 

 「それだけじゃないでしょ?レフィーヤ…。本当は、オチンポの味にもとっても興味があるんだよね…?自分に正直になっていいんだよ、レフィーヤ…」

 

 昨晩リヴェリアによって奮い立たされた理性と、さんざん自分の操を守り続けてきたエルフの矜持は偽アイズによりあっさりと崩れ落ちた。

 

 「……はい」

 

 可憐なエルフの少女は小さく頷いた。山吹色の頭をぺこりと垂らし、サファイアのような瞳でそそり立つペニスを見つめた。

 

 それは人生で初めての経験だった。今までのレフィーヤには想像すらできなかった男性器が、自分の鼻先にある。少しでも顔を動かせば触れてしまうような距離にだ。

 

 「絶対に勘違いしないでくださいね。私は変態が大嫌いです。貴方には一生触れたくないです。でも、強くなるためには仕方ない事だから」

 

 レフィーヤは手を出し、それに触れようとした。

 

 「こら。お前は、触るな。こっちへ来い」

 

 ハムザは現在、罰則により性交が出来なかった。だが精液に含まれる魅了効果は生きている筈だ。このエルフにそれを少しでも多く飲ませてやり、反応を確かめる必要があったのだ。

 

 「ぐひひ…レフィーヤ、正直になったご褒美に極上の経験値の素をくれてやる。だがお前にはチンポに触れさせん。アイズと俺の愛あるセクロスでも眺めていろ」

 

 「…なによ。私がそれをどうしても欲しいみたいな口調で言わないで、変態」

 

 頬を膨らませるレフィーヤ。ハムザは心の中で大きく勝鬨を上げた。あんなにツンツンしていたエルフの美少女も、アイズという憧れの剣士を使えばイチコロだった。まったくもって、素晴らしい世の中じゃないか。まるで我が世かと思うほどに。

 

 だが、残念なことに罰則は未だ解けていない。少しでも触れられてしまえば股間は萎え、興が削がれることだろう。

 

 偽アイズはペニスを恥部へと誘い、二人は再び交わった。

 

 すぐ隣でレフィーヤが顔を赤くして行為を見守る最中、アイズは横目でレフィーヤにパチリとウィンクをした。

 

 心臓が止まるかと思った。ドキドキと高鳴る鼓動が止まらない。

 

 何という素晴らしい日だろうか。あのアイズがセックスをしながら自分にウィンクしてくれるなんて。まるで、別人になったかのようではないか。

 

 欲を言えば、お相手がこの変態ではなく紳士で素敵な男性だったらもっと良かったのだが。

 

 「うほっ…いかん。もうイク…レフィーヤ、ぶっかけるぞ」

 

 「え、えっ…?」

 

 ハムザはペニスを引き抜き、股間をしごきながらその先端をレフィーヤの顔に向けた。

 

 その刹那、白濁液がエルフの少女の額を目掛けて発射された。

 

 さらに第二射、第三射とレフィーヤの髪の毛や鼻、桃色の唇を汚していく。

 

 呆然とする彼女に最後の一射が放たれて、襟元に精液がこびりついた。

 

 「ふぅ…満足、まんぞく…」

 

 射精の余韻に浸るハムザをよそに、レフィーヤはどうしていいか分からず困惑していたが、アイズに言われ少女は精液を手ですくい取り、ペロリと味見をした。

 

 「どう…?極上の、経験値の素だよ…」

 

 「う、う~ん?思ってたよりも、甘いです」

 

 顔にこびりついたどろどろとした精液を指先ですくっては舐め上げて、あれこれと感想を述べていく。

 

 「やっぱり、イカ臭いんですね。それに、ねばねばしていて気持ち悪いです。甘いのがせめてもの救いですね、アイズさん」

 

 「う、うん。そうだね」

 

 「もっと出ないの?変態くん」

 

 「なんだ、もっと欲しいのか。生憎いまは一発だけだ。それよりレフィーヤ、強くなりたいなら今後も協力してやってもいいが、条件がある」

 

 洋服についた汚れをティッシュで拭きとりながら、レフィーヤは聞き返す。

 

 「条件って、なに?」

 

 「うむ。お前らエルフはどうも性に対する幻想が強い。だから俺がお前の貞操観念を百八十度変えてやる。それでもよければ、協力してやるぞ」

 

 「それって、どういう意味…?」

 

 行為の最中、ずっと退屈そうな顔をして床に横になっていた主神がレフィーヤに言った。

 

 「今のアイズのような女にしてやろう、ということじゃ」

 

 「むむむむ……」

 

 レフィーヤは考え込んだが、隣に座るアイズの顔をちらりと盗み見てから、わかりましたと頷いた。

 

 「何をするつもりかだけ、教えてくれる?」

 

 ハムザはその問いに笑みを浮かべながら答える。

 

 「うむ。ずばり、オラリオの女がいかに簡単にヤらせてくれるのかを学びに行く、オラリオ風俗探検ツアーだ!」

 

 

 

 

 

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