ダンジョンに性交を求める眷属の物語 作:kuracjaponski
ダンジョン15階層。光源の乏しい洞窟を思わせるこの階層で、ある冒険者パーティがミノタウロスの大群と闘っていた。開戦して暫くの間続いた均衡状態だったが、怪物の圧倒的なタフネスを前に、冒険者達の体力は蝋燭のように溶けていった。
モンスターの中でも際立って体の大きい一頭が、巨大な岩石のようなこぶしを振り降ろし、前衛の盾役達を潰した。血肉が撒き散らされ、無言の恐怖が伝播した。その時、誰かが悲鳴を上げた。そこからはモンスター達による一方的な虐殺が始まった。
冒険者は恐怖に心を支配され、冷静に相手の動きを観察することも、連携で苦境を打破しようともしなかった。中には仲間が虫のように潰されていくのを、ただ呆然と眺めているだけの者もいた。瞬く間に数が減ったパーティには、既に数名が息をしているだけだ。茫然自失している者を何とか鼓舞しようと、どうにかしてこの戦闘から脱出しようと必死に声を荒げ続けている人物がいたが、彼の声はもう誰にも届かないようだった。
「助けてくれ!誰か、助けてくれ!」
その悲鳴を聞いたか、霧の向こう側から武人がやってくる。巨人のような猪男だった。
「あんた、まさかオッタル…?助かった。頼む、あいつらをどうにかしてくれ!」
その武人は状況を一瞥するなり、冷笑を浮かべて言った。
「お前も冒険者なら、他人になど頼らず自分の力で未来を切り拓いてみるのだな」
救援要請を突き放された男の顔から、次第に希望の色が消え失せていった。彼が背後を振り返ると、もう誰も立ってはいなかった。ミノタウロスの大群が最後の獲物をしとめようと鼻息を荒げて近づいてくる。ふと、モンスター達の足が止まった。
彼らはオッタルを見るなり明らかに動揺し、どっしりとした重低音で苦しげに唸った。しかし、オッタルは身じろぎ一つしない。彼の動きを注意深く観察するモンスターと、逃げる気力も無く立ちすくむ冒険者の間に膠着状態が生まれた。
冒険者は、ごくりと唾を飲み、後退りをしながら逃げようとした。
その直後、人体が潰される音が広間に木霊する。一際体の大きな一体が、オッタルに構わず前に出てくるなり、戦意喪失していた冒険者を叩き潰したのだ。その怪物は雄叫びを上げ、オッタルをねめつけた。
「ふふ。お前は、悪くないようだ」
武人は武器を手に取り、それを怪物の前に投げ捨てた。
「…扱ってみろ。お前は、見込みがありそうだ。神意に付き合って貰おう」
ミノタウロスは武器を手にとり、オッタルに激突した。
●
オラリオは夏の間、ずっと暑いわけではない。まだ月が輝いているうちは、そこら中に霧が出て周囲の温度を下げる。だからアイズ・ヴァレンシュタインがこそこそとを抜け出した夜明け前、彼女が薄手のガウンを羽織っていたのも、当然だと言えるだろう。
冷たい外気に両手を擦りながら、蛻の殻になった街中を南下していった。夜明け前のオラリオは、とても不思議な雰囲気だった。そこには秘密に溢れた夜の神秘さも、希望に満ちた朝の快活さも無かった。悲喜交々が混ざり合い、夜と朝がお互いに譲り合いながら中途半端な色を空に浮かべ続けている。
アイズは暫く歩いてから、誰も入り込まないような路地裏に辿り着く。恐らく神々降臨以前からあるだろう外壁はあ、既に崩れて僅かばかりの形を残すだけだった。扉を失った門を潜ると、野草が生い茂る空間に出た。そこを直進すると、古ぼけた煉瓦造りの建物が天を衝くように聳えていた。
塔を登る扉を押し開けると、埃が舞った。階段は螺旋状だ。アイズ程に名の知れた冒険者でなければ、上り切るまでには相当な苦労が強いられるだろう。
上っていくうちに、外から鳥の鳴き声が聞こえてきた。アイズは鳥の名前など見当もつかなかったが、鳥達が朝の使者であることは知っていた。ぐるぐると階段を上っていく途中にある小窓からは、暗い塔内にオレンジ色の光が差し込んでいた。
そして上れば上るほど、その光は段々と明るくなっていった。
螺旋階段は、何の合図もなく無くなった。目の前には身を屈めて潜れるほどの大きさの扉があるだけだ。
アイズは体を少し曲げて外に出た。なるほど、確かに少しだけ近くなった空が、今ではオレンジ色に変わっている。石壁の上に止まっていた鳥が、自分を見て驚いたように飛び去った。ばさばさという羽音と共に、足元の不審な影が唸った。
「ハムザ…?」
アイズは不審者に名前で呼びかけた。その男はパジャマを着て、毛布に身を包んで眠りこけていた。
「どうしてここで寝ているんだろう?」
男が寝返りを打つと、アイズのメタルブーツにごつんと頭をぶつけた。痛みで目を開いた彼は、寝ぼけ眼で言った。
「…よう。はやいな、もうそんな時間か」
「どうしてここで寝ているの?」
アイズがそう聞いた時、ハムザは上半身だけを起こして大きなあくびをしていた。
「そりゃあ、夜明け前に起きるなんていう怠け者の習慣が、幸いにも俺には身についていないからだ」
「…早起きは、怠け者の習慣じゃないと思う」
意味が分からず、首を傾げる少女。ハムザはいちいち説明する気も起きなかったので、のっそりと立ち上がりまだ明けやらぬ空を見つめた。
「まだ夜じゃないか。もう一眠りしよう、ほれ。アイズ、こっちへ来い」
「…訓練、しないの?」
「訓練なら、もう始まっている。隣に来ておちんちんを勃起させるのだ。無事に勃起させたら、次は俺をその気にさせてみろ。うまく出来たら精液のプレゼントだ」
アイズは直立不動のまま、無表情だった。人形のような彼女の心情を言葉なしで理解できる人間がいたとするならば、もはやその人物はサイキックか、神様だろう。普通の人間なら、彼女は怒っていると思うかも知れない。はたまた彼女を良く知る人物なら、呆れていると想像するかも知れない。しかし、ハムザは違った。
「ぐひひ…嬉しくて言葉も出んか。ほれ、アイズ。はやくこっちへ来い」
手招きし、石の上に敷かれた毛布に横になるように目線で示した。無表情を貫いていた彼女が一度だけこくりと頷いて、それに従った。
「…戦闘の訓練はしない、の?」
「そんな事を約束した覚えは、ないなぁ」
「そう…」
アイズは少しだけ息を吐いた。ハムザはそれが笑い声だと思い、可愛らしいものだなと思った。しかしよくよく考えてみれば、もしかしたらそれは溜息だったのかも知れない。
●
スケベな特訓とは、センズリを見せつけるだけの筈だった。しかし行為の途中、ハムザは罰則が解けた事を知った。おんおんと男泣きをする彼に最初は戸惑っていたアイズだったが、ムードもないまましつこく本番を迫るハムザを、彼女は反射的に殴り飛ばした。
気絶する変態に、アイズは「あっ」と一瞬だけ固まったが、すぐにその場所を後にした。どうせまた明日訓練するのだ。精液はその時に貰えばいいだろう。次はもう少し空気を読んで迫って欲しいものなのだが。
時刻はもうすぐでお昼になる頃だろうと、お腹の虫が告げていた。朝方は快晴だったにもかかわらず、空気は湿り気を帯び、空にはまだらに雨雲が浮かんでいた。
ハムザの意識が戻ったのは、アイズが去ってからそれほど経った頃でもなかった。むくりと起き上がり、辺りには曇り空以外には何もないのを確認してから、彼は街へと降りて行った。そして近くのオープンテラスカフェに腰かけた。その時にはぽつぽつと雨が降り始めていた。
テーブルに置かれたメニューを眺めていると、女性ヒューマンの店員がやってきて、無言で注文を待っていた。すらりとして背が高く、真っ黒に流れる髪は若さを存分に湛えている。顔立ちは整っていたが、その表情や目つきには生気がなく、諦観のようなものが憑りついていた。可哀そうに、若くして店を任されたが故の疲労だろうか。いや、仕事が私生活にまで侵入してきて、我が物顔で趣味や色恋沙汰を追い立てれば、若者でなくとも誰しもがこんな表情をする筈だ。ハムザはそう考えながら、暫く注文を決めかねていた。
それでも彼女には、今まで沢山の花束が贈られてきたようである。贈り物を手一杯に抱えて赤面させられる事もあったのだろう。しかし、どうせ大抵はすぐに破綻する恋だった筈だ。蝸牛が殻を脱ぎ捨てられないのと同様に、彼女もまた、カフェの経営という仕事に縛られているからだ。
ハムザの無遠慮な視線に、思わずその女性は後ろを向いた。ミニスカートが、はらりと揺れた。スタイルの良い後ろ姿に、ハムザは少なからず欲情していた。
「この、チャイっていうのをくれ」
彼女が振り向いた。
「三種類ありますけど。エル・アルズ地域のスパイスを使ったものが、おすすめね」
「なんだと。エル・アルズと言えば我が祖国の地域ではないか。では、それをくれ。君はそこの出身なのか?」
ウェイトレスは首を横に振った。
「お店を始めた祖父が、そこの出身だっただけ。私が産まれた頃、お父さんもお母さんも、オラリオに住んでいたから…私の出身はオラリオね」
そう言って彼女は店内に入っていった。ハムザは雨模様の通りを見やった。
居並ぶ民家よりも背高く育った
雨とも晴れとも言えない不思議な天気だからか、お構いなしに鳥たちが歌の掛け合いを続けている。少し雨足が強まり、テラスを覆う小屋根を雨粒がぽつぽつと叩く音が聞こえてきた。頭上の雨音に耳を傾けた途端、音は止んだ。降ったりやんだりの繰り返しだ。
赤、黒、黄色、水色のカラフルな小椅子には、今はまだ小鳥がちょこんと舞い降りるだけだ。これから日が暮れるに連れ、沢山の紳士がそこに思慮深そうに神妙な面持ちで座り、真面目くさった態度であのウェイトレスを口説きにかかるのだろう。
しかし、今はそのウェイトレスは自分だけのものだ。彼女がチャイを運んできた。持ち手のない茶色の陶器製のカップに注がれたそれを、ハムザは飲んだ。
どうですか?と彼女が笑顔で聞く。不思議な事に、彼女が笑うと先ほどまでの諦観が消え去り、顔には生気が漲っていた。ハムザは心からこう思った。
——うまい。
ハムザがこうして昼下がりの数刻をのんびり楽しんでいると、レフィーヤが待ち合わせの時間にやって来た。
「あ、ハムザ…。今日は早いじゃない」
レフィーヤも席に着いて、注文を眺めはじめた。
「今日のツアーはやりまくりナンパ大作戦だ。早速のターゲットは…そこのウェイトレス」
店員がレフィーヤの頼んだ紅茶を運んで来た。彼女はレフィーヤを見て言った。
「あ、ロキ・ファミリアの
「えっと、どうも。こんにちは…」
二人はぎくしゃくとした挨拶を交わした。レフィーヤほどの有名人ともなれば、入る店のほとんどで声をかけられる。もう慣れっこではあったが、指を差されて噂されるのは、あまりいい気分のするものではなかった。
「お姉さん、突然だが、少し話を聞いてくれないか」
そう言って彼女を足止めしてから、ハムザは嘘八百を並べ立てた。
「実は今、出資先を探していたところだ。我がギルドは街の発展のために、質の良い酒場や武具屋に無償で資金提供を行う事にした。もちろん、それはファミリアに所属する組織だけではなく、個人運営の店も含まれるというわけだ。我がギルドがお金を払い、街に品質の良いサービスが溢れる。どうだ、悪くないだろう」
ウェイトレスはお盆を脇に抱えて言った。
「それは結構ね。それよりあなたが、ギルドの?」
「あぁ、もう何年も前から働いている」
ハムザはそう答えて、さらに説明を続ける。レフィーヤは遠い目で嘘を並べるハムザを見つめていた。
「援助をするかどうかを決める全権は俺にあるのだ。そうして、たまたま立ち寄ったこの店のチャイに、俺の心は今まさに動かされようとしている。だが出資にあたって、一つ問題があるのだ」
「問題って何ですか?ギルドの職員さん」
「ソーマ・ファミリアを知っているか?」
店員の女性は頷いた。
「かの派閥も、我々の援助を受ける団体の一つだった。しかし土壇場で、彼らがとてつもなくあくどい集団であるという事が発覚した。具体的に言えば、無許可風俗店の運営などだ」
「それで?」
「それがどういう関係があるんです?」
いつの間にか、ハムザの口調は威厳たっぷりな紳士を装ったように変わっていた。レフィーヤは腕組みをして意味ありげに何度もうなずくハムザを見て、ため息を一つ吐いた。
「身辺調査が必要なのだ」
ハムザの答えに、彼女は納得した様子を見せた。
「そう。うちは健全だから、必要なら書類でも何でも用意するわ」
「それだがな」
腕組みをしてわざとらしく顔をしかめ、ハムザは言った。
「俺は明日から長期休暇に入る。悪いが、休暇中に仕事をする程狂った人間ではないのだ。だからもし無償でお金が欲しければ、君は今日中に俺を納得させる必要がある」
「それで、具体的にはどうしたらいいの?」
「幸いな事に、俺は最強なイケメンで、君は可愛らしい女の子だ。ちょっと幸が薄そうなのは置いておいて、なかなかに魅力的な笑顔を持っている。だからその、言いにくいのだが…今すぐ審査をしよう。なに、ちょっと体と体をくっつけ合うだけだ。もし合格すれば、君には特別に書類なしで通してやろう。明日には金塊が待っている」
店員は少し難しい顔をして考え込んだ。
「それ、実際にいくら貰えるの?」
「百万ヴァリスだ。返済の義務はない。用途も自由だ。もし休暇が必要なら、店を閉じてバカンスにでも出ると良い。そのことに我がギルドは感知しない」
「それは結構ね。前金で頂けるのよね?」
「いや、それはダメだ。金を渡すのは審査が通ってから。こればっかりは俺の全権でも変えられん」
「そう。それは残念ね」
そう言って店員は店に戻っていった。レフィーヤはハムザの法螺話に彼女が乗って来なかった事に喜んだ。だが、店員はすぐに二人のテーブルに戻って来た。鍵を持っている。
「悪いんだけど、店を閉じるのを手伝って貰える?机も椅子も店内にしまっておかないと、酔っ払いや悪ガキに持って行かれちゃうから」
ハムザは聞いた。
「それはつまり、返答はイエスということか?」
「えぇ、そうよ」
店員は微笑んで言った。
「返事はイエスよ。はやく店を閉じて、審査を始めましょう」
店を閉じた後ハムザが近づくや否や、その女性は唇に吸いついてきた。腰をくねらせ、手を体中に絡ませてくる。そうとう溜まっていたのが一目瞭然だった。熱い抱擁を続ける彼女が、横目でレフィーヤを見て言った。
「ねぇ、彼女、どうするの?ちょっと気が散るんだけど」
「気にするな。あいつはただの見学希望だ。エロい事を教えてやらなければいかん」
「ふふ…。それも『ギルド』の任務なのかしら?」
そう言って彼女は服を脱ぎ捨てた。健康的な色をした肌が露になり、抜群のスタイルを誇る若い女体がハムザに絡みつく。
「ぐひひ…我慢ならん。いますぐ審査を始めよう」
彼は勃起したペニスをズボンから取り出し、服も脱ぎ去らないまま彼女の恥部にそれを挿入した。準備は万端だったらしく、彼女はすんなりハムザを受け入れた。久しぶりの性交の感覚に、ハムザは愉悦の声を漏らす。それは彼女も同じだった。
普段はやってきた客に紅茶を淹れている時間だろうが、今日に限っては店内で男と交わっている。その背徳的な状況に彼女は燃えに燃え、何度も何度も大声を上げて腰を動かし続けていた。欲求不満が続いていたそのウェイトレスは、すぐに絶頂に達した。対するハムザも射精の時がすぐそこにやってきているのを感じていた。
「くそっ…久しぶりのセクロス、もう少し楽しみたかったが…。止むを得ん。レフィーヤ、コップを持って来い」
腰をより素早く、より激しく見知らぬ女性に打ちつけながら、ハムザはコップを受け取りその中に射精した。
「ぐふふ…最高さいこう。久しぶりのおまんこ、なかなかに気持ち良かったぞ。ほれ、レフィーヤ。経験値の素だ。ごっくんと飲んでみろ」
レフィーヤはどろどろとした白濁液の入ったコップを手渡され、それを傾けた。
「んっ…あまい」
彼女は躊躇う事もなくそれを口に含んでから舌で味わい、飲み込んだ。
「ねぇ、それ何のプレイなの?それに私は合格したかしら。ギルドの職員さん?」
ハムザはズボンをたくし上げ、てらてらと光るレフィーヤの唇にキスをした。途端に彼女は顔を赤らめ、もう精子の入っていないコップに口を付けて俯いた。
「審査の結果、残念ながら君は不合格だ。だが、休暇中にも何度か訪ねる事にしよう。そこでもし俺の心が動かされたら、もしかしたらその時に合格するかも知れん」
「そう、それは残念ね」
その女性はさらっとハムザの発言を流して、調理場に入って行き手を洗って戻って来た。レフィーヤはあまりにあっけらかんとした店員の対応に、つい声を発する。
「えっと…本当にいいんですか?タダでヤリ捨てされたんですよ?私だったら、絶対に黙っていられません。どうして受け入れられるんですか、こんな理不尽を?」
ウェイトレスの店員は乱れた髪を結びなおし、微笑みながらレフィーヤに言った。
「最初から、そこまで信じていなかったわ。だって私、ソーマ・ファミリアに所属していたのよ。私は彼のこと、よく覚えているわ。もともとお店の経営に忙しくて、ファミリアの活動なんてこれっぽっちもしていなかったけど…とにかく彼がギルドの職員なんかじゃない事は、最初から知っていたの」
「なんだと?騙されたふりをしていたって訳か」
ハムザの発言に、彼女は笑いながら応えた。
「あはは。単純にあなたの事、悪くないと思ったからよ。それにしっかり、飲み物のお代は貰っていくわ」
レフィーヤは嫌な予感がした。ちらりとハムザを見やると、彼の顔から血の気が引いていくのが分かった。
「いくらだ?」
「そうね…。スペシャルサービス込みで、十万ヴァリスってところかしらね」
レフィーヤは飛び上がった。まさかただの飲食店で十万ヴァリスもの大金を請求されるとは思わなかったからだハムザは渋々それを了承し、金貨を支払った。お金を受け取った彼女は満足そうに微笑んでから、二人にもう店を出るように促した。
「それじゃ、またね。私の名前はクセニアよ。もしまた来るなら、その時もサービスしてあげるわ、ハムザ君」
ばたんと閉じられた扉を背に、二人は少しの間立ち止まって沈黙していた。
「…まぁ、こういう事もあるという一例だ。そんなことはさて置き、次の獲物を探しに行こう…」
だが雨足の強まり始めたオラリオの通りでは、あまりたくさんの獲物に恵まれなかった。何度か街中で女性に声を掛けるハムザだったが、その成果はあまり著しくはない。やがて夕暮れがやってきて、レフィーヤは本拠に帰る事にした。
「じゃ、さようなら。あまりうまくはいかないみたいね。もう少し紳士に声をかけるようにしたら、女の子も悪い気はしないと思いますけど」
「うるさい。例え1勝10敗だろうと、白星は白星だ。それに天気にこうも拗ねられちゃ、運が無かったと諦めるしかないな」
「きっとナンパなんてうまくいかないのよ。誰だって、見ず知らずの男についていくのは抵抗がありますから」
そんな言葉を言い残して、彼女は去っていった。ハムザは途方もない落胆で頭を垂れ、とぼとぼと夕暮れの帰路を歩いて行った。
その夜、レフィーヤは前日の失敗という経験を活かして、夕食にたっぷりと時間を使ってからディルドを持ってトイレに立て篭もった。完全に孤立したトイレの中であれば、誰にも邪魔をされることはないだろう、という計算だったのだ。
既にとろとろとほぐれた恥部にディルドの先端をあてがい、ゆっくりと挿入する。だが、違和感があるばかりでとても気持ちがいいものとは言えなかった。途中から、レフィーヤは考え方を変えた。便座に手を突き、思い切って膝を折り、石床に膝をくっつける。汚い事をしていると理性が警鐘を鳴らしたが、考えない事にした。そうして出来るだけ臀部を持ち上げてから、犬のように四つん這いになってディルドを動かしてみた。
すると先ほどまで感じる事のなかった、犯されるという感覚がレフィーヤを支配する。あのハムザという乱暴者に無理矢理組み伏せられ、有無を言わさず犬のように犯される自分を想像して、レフィーヤは大いに興奮した。こうして自分の性癖を思い切って解放してからは、絶頂など容易いものだった。レフィーヤは様々な体位を試して、少なくとも四回は絶頂した。途中、試しに詠唱を紡いでみようとしたが、全く魔法にならなかった。本当にこんなことに意味があるのかと思うくらい、不可能に思われた。
この日、すっきりした気分で布団についたレフィーヤは、いつもよりぐっすり眠ることが出来たのだった。
●
翌朝、アイズは昨日と同じように夜明け前からハムザとの訓練のために本拠を出た。塔に登ると、そこにはやはりハムザが簡易ベッドを作って寝転んでいた。その寝顔をまじまじと見つめると、アイズは少し胸がどきどきするのを感じた。それからハムザを起こし、少し準備運動をしてから本格的な実戦形式の戦闘訓練が始まった。
ハムザの一撃をアイズは余裕を持ってかわす。そしてカウンターの一振りを食らわせると、ハムザは吹き飛んだ。戦闘訓練は、たったの数秒で終わった。気絶から回復したハムザは二度目の戦闘を拒絶し、下半身を曝け出して言った。
「お前は強すぎるから、訓練になんかなるものか。それよりも俺のちんこを見てみろ。どうなっている?」
剣を置いて、アイズはそれを見つめた。そそり立っている。
「うんと…大きくなってるみたい」
「そうだ。そして大きくなるという事はセクロスがしたいということだ。お前も俺の経験値の素が欲しいのなら、手で触ってみるのだ」
「それは、えっと…。リヴェリアに、えっちを止められてるの。だから、ハムザの精液だけが欲しい…」
そこからは同じことの繰り返しだったので、ハムザは仕方なくアイズの眼前でペニスをしごき始める。流れる金髪が風に戦いでいる。朝焼けが過ぎ去り、空には明るい太陽が輝き始めた頃に塔の天辺で美少女を前にする自慰は、なかなかに格別だった。罰則が解除された今、本当ならオナニーなど言語道断だ。しかし目の前に居るのはアイズ・ヴァレンシュタイン。彼女に視姦されながらの一発は、雑魚とのセックスよりは良いかも知れない。
「お、いく」
ハムザは躊躇いなくアイズに発射した。朝一番の精子が顔にこびりつき、アイズはそれを指で掬い取ってぺろぺろと口に入れる。
「これで強くなる、のかな…?」
「さぁ、多分あまりならんだろう。一番はセクロスだ。ただ精子を飲むだけじゃ、効果を期待しないほうがいいな。明日はセクロスしてみるか。ん?」
「それは…駄目だよ。ハムザは私の事、好きじゃないみたいだから」
「好き好き。愛してる。あいらぶゆーだ。じゅてーむだ。だからハメハメしよう」
アイズは首を横に振った。
「戦闘訓練をしないなら、私に出来ることはないね…」
「いや、そんな事はない。添い寝をしてくれ。朝早く起きて辛いから、ここらでもう一度寝ておくとしようじゃないか」
アイズはそれに従い、ハムザと簡易ベッドの上で横になる。太陽が眩しく、とても寝付けるものではなかったが、彼はすぐに眠りに落ちたようだ。疲れていたのだろう、とアイズは思う。
すると鼓動が早く高鳴っている事に気づく。アイズには、それが一体何なのか分からなかった。
(本拠のテントを壊したお詫びもあまり出来てない…本当は、セックスさせてあげたいんだけど…)
リヴェリアに止められている。彼女を裏切るわけにはいかない。自分は、確証が欲しいのだ。ハムザが本当に自分を愛しているという、確証が。
しかし、そんなものはどこにも転がってはいなかった。
●
アイズとの朝の訓練を終えたハムザは再びレフィーヤと街を練り歩いていた。ハムザはこの日、司祭ヴァレンティンの銅像がある通称『ヴァレンティン広場』で、待ち合わせをしている女性達に狙いをつけた。
「よう、誰を待っているんだ?俺は昨日ドラゴンとの戦いで足を挫いてしまってな、今日は久々の余暇を満喫しているんだ」
「へぇ!凄いじゃない。ドラゴンなんて倒せるのね。貴方、冒険者様?」
ハムザが声を掛けたのは、背の低い金髪のヒューマンだった。彼女は気のありそうな微笑みを浮かべて、自己紹介をした。
「マルゴーちゃん、俺はハムザ。Lv.87の冒険者だ」
くだらない冗談にも嫌な素振り一つ見せないどころか、マルゴーと呼ばれた彼女は大きな声を上げて笑った。久しぶりの好感触だった。いつもは軽くあしらわれるか、そそくさと逃げられるばかりだったが、今日に限っては一打席目からホームランの気配がする。気さくな口調で場を和ませながら暫く当たり障りのない会話をしていたハムザだったが、ついに切り込むべき機会を見つけた。
「…そう、俺クラスの冒険者になればロキ・ファミリアにも出入り自由だ。それに我らが本拠は宮殿だ。ファミリア名は言えないがな。ところで、待ち人は来ないと思うぞ。これから俺と飲みに行こう。とびきりの店を知っているんだ」
「あら」
彼女は少し気まずそうな顔つきで、肩に垂れ下がる金髪を掻き分けて、首筋を擦った。
「悪いんだけど、もうすぐ彼が来る時間だわ。お誘いは嬉しかったけど、彼、凄く短気だから放り出すわけにはいかないし…」
「そんな彼氏よりも俺のところに来い、最高の暮らしをさせてやれるぞ」
空振りの気配に焦ったハムザは、思わず語気を強めてしまった。一瞬だけ張り詰めた空気を敏感に感じ取った彼女は、危険を察知した小動物のように素早く上半身を反転させ、立ち上がって去っていく。
「失敗したみたいね。やっぱりナンパなんて無理なんじゃないですか?」
「うるさい、次いくぞ次」
レフィーヤは歩こうとするハムザの袖を掴んだ。そして彼を見上げて言った。
「ねぇ、それよりもさぁ…。訓練の成果、見てくれませんか?」
●
それから数日の間、ハムザは実物のアイズをネタに自慰をしながら気を紛らわせたり、レフィーヤを連れ回してエロい事を教え込んだりして過ごしていた。
だが、全く予想しなかったことが起きた。
リリと主神は次第に仲が良くなる筈だったのに、日を追うごとにかえって悪くなっていった。リリがあまりにも杜撰な金銭管理に腹を立て、主審の額縁購入についてだらだらと文句を言い始めるようになった事がきっかけだったのだ。
天邪鬼な女神は、文句を言われれば言われるほど散財するようになっていった。お陰でテント内は訳の分からない〈芸術作品〉で溢れかえり、せっかく修繕費にとアイズから貰った金貨も瞬く間に溶けていった。
このままでは貯金がいよいよ危ないと思ったリリは、もともと押さえていた【ソーマ・ファミリア】の金庫の中身をどこか別の場所へ移そうとして、元ファミリアの本拠へ出向いて行った。金庫の中に足を踏み入れた途端、リリは言葉を失った。中身が空っぽになっていたからである。お金を巡る争いは、どうやら女神に軍配が上がったらしい。
眷属の不穏な動きをいち早く察知したテルクシノエは、保管されていた金貨を全て額縁購入の費用に当ててしまっていたのだ。
「リリは信じられません。ハムザ様、額縁に何千万ヴァリスと使う神がいるだなんて、信じられますか?」
ある日の午後、三人は本拠で緊急会議を開いていた。ハムザと主神が無理やり参加させられた形ではあったが、リリはどうにも我慢が出来なかったようだ。先ほどのリリの質問に、ハムザは答える。
「金をどう使おうがこいつの自由だろう。お前はいちいち腹を立てすぎだ」
「お言葉ですが」
語気を強めて、少女は言う。
「こんな使い方をしていたのでは、金貨があまりにも不憫です。世の中にはお金で救える命がたくさんあるのですよ?それをこんな正体不明なガラクタなどに使ってしまってはーー」
「聞き捨てならん。才能なしは黙ってるのじゃ!」
女神が叫んだ。
「ハムザなら分かるじゃろう、この英雄のすばらしさが?」
そう言われた彼はその彫刻を見つめた。どこをどうみても、明らかに子供が作ったような歪な造詣の人間と思わしき物体が、切っ先の曲がった鞭とも槍とも思えるものをだらしなく地面に垂らしている彫刻だった。他にもそのように理解不能なものが数体テントのスペースを占拠しており、ハムザからしても厄介極まりない代物だった。どれもこれも体中に穴のような物が無数に空いており、あまりの不気味さにうっかり夜中に目覚めてしまおうものなら、思わず悲鳴を上げたくなる程だ。
「俺が思うに」
ハムザは言葉を選びながら、慎重に言った。
「これらの素晴らしい芸術作品を置いておくには、あー…我らが家は些か狭すぎるかも知れんな。リリとしては、額縁を買ってしまうより先に家を…その、素晴らしき作品の保管場所を確保しておいた方が良かったと言いたいのだろう」
「なんじゃ、そういう事だったのか?」
リリはぽかんとしてしばらく呆けていたが、主神を納得させようとするハムザの意図を汲み取り、大きく何度も頷いた。
これが実に効果覿面だった。主神は散財を後悔し始め、リリに謝罪した。そして確かに少し無鉄砲に買い物をしすぎてしまったと認め、今後はしっかり使い道を相談すると宣言した。二人は仲直りをし、緊急会議はハムザの機転により大きな成果を残したが、同時に三人はのっぴきならない事態に直面したことを思い知らされる。
三人の手持ちを合わせても、お金があまりにも少なかったのだ。リリは家具や彫刻をひっくり返し、絨毯の裏や引き出しの奥、ベッドの下など、あらゆるところを徹底的に捜索して金貨を探した。そうして集めたお金と手持ちを合計した金額が、ぴったり3900ヴァリス。
何度数えても、同じだった。
「これでは、しばらく一緒に迷宮探索に精を出すほかありませんね、ハムザさま。リーテイルの売上金は何週間も待たなければなりませんし、神酒もロキ・ファミリアに渡して以来在庫が空っぽです」
ハムザにとって、それは承服しがたい申し出だった。このところ迷宮には潜っていないのは、他にやるべきことがたくさんあったからだった。アイズとスケベをすることもそうだし、次第に従順になってきたレフィーヤの体を堪能することもそうだ。全ては【ロキ・ファミリア】を乗っ取るために、必要なことだったからだ。
それをもし今ここで放り出し、お金のために迷宮に潜ります、あなた達とスケベなことは暫くしません…そんな事になってしまっては本末転倒であるのではないか。そう思ったハムザはきっぱりリリの提案を却下し、「今度考えよう」と言って問題を棚に上げてから、服を脱いでリリに言った。
「呪いが解けてから、好調だ。それより今日は変身するな。素のままのお前を抱いてみる気分になったぞ」
「それは…もうちょっとロマンチックなシチュエーションが良かったです、ハムザさま」
リリはそう言って不気味な彫刻を見た。成人サイズの彫刻が数体、ハムザとリリを見つめている。
「う~ん。まぁ、本拠の引越しは、本気で考えなければ駄目か。こんな雰囲気じゃあ女を連れ込んでも犯れはしないだろうから、な…」
●
怠け者二人に囲まれながらも、リリはいつもの習慣を保ち続けていた。どんな遅くに眠りについても、鳥達が鳴き始める頃には自然と目覚める習慣だ。今までは深い眠りについている二人を見て、自分も二度寝を存分に堪能する時もあった。しかし今日は別だ。
(なんといっても、たかだか数千ヴァリスではご飯すらまともに食べていけません。金策を考えなくては)
ハムザが子供のように駄々をこねて「ダンジョンには行きたくない」と言い張り続けていたせいで、ファミリアの金策は全てリリに託されたのだ。以前までの自分なら、バックパックに溜め込んでいた盗品の宝石や武具を売り払って、何とか用立てしたことだろう。しかしその目論見は既に打ち砕かれていた。あのアイズ・ヴァレンシュタインとかいう生意気な小娘が本拠を吹き飛ばしたせいで、リリの持ち物は全て歓楽街の住民の懐に逃げ込んでしまったからである。そのことを思い出すと、リリの心でふつふつと怒りが湧き上がってきた。
(いけません、朝から腹を立てていては、いい一日になる筈もありませんからね)
そうして彼女は本拠を出て、朝焼けの色を確かめようとした。
「…?」
ふと足元を見ると、一通の手紙が石畳に置かれていた。それを拾い上げたリリは、封を開けて便箋を取り出した。
「こ、これは…」
リリは大急ぎでテントに駆け込んで、思い切り朝の空気を吸い込んで叫んだ。
「ハムザさま!テルクシノエさま!果たし状が来ていますよ!宣戦布告です、戦争が始まります!」