※この作品はR-18です。

ダンジョンに性交を求める眷属の物語   作:kuracjaponski

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第六章 -Shall we have sex?-

 「果たし状じゃと?リリ、読んでみろ」

 

 リリの叫び声に驚いて目を覚ました二人は、寝ぼけ眼を擦りながら訝しげに少女を見つめていた。

 

 「え~っと、じゃあ、読みますね…。『汝は我が逆鱗にふれたるなり。故に、この文を届けん』」

 

 「汝?我が逆鱗?一体どこのジジイの仕業だ?」

 

 「筆跡は線が細くて、ちょっと弱そうですが…続けますね。『古の竜よ、怪物の王よ。誰が汝らこそ冥界に帰すと想像せん。それは全て英雄の為す業なり。そして、我こそその血を継ぐ者なり』」

 

 「なるほど、分からん」

 

 「滅茶苦茶じゃな。意味不明だが、怪物を倒した英雄の子孫だと言いたいように聞こえるぞ」

 

 あまりの出来栄えにあっけに取られ、リリは大きく口を開いて突っ立っていた。リリが我に返って次の内容を読み進めるまで、数十秒の間があった。

 

 「えーと…『我が英雄たる血に反逆する勇者よ、汝もまた英雄たりえる資格あり』あ、ここ字が間違っています。『激情に可られる我ではあれど、汝の謝罪を受け入れる器はありけり』」

 

 「暗号だったら天才的だ。そうじゃなかったら、ただの馬鹿だ」

 

 「後者だろう、残念ながら。謝るなら決闘しなくてもいいと言っているように聞こえるぞ」

 

 「はい、そのようです。『剣と魔法よりも強きは、言葉なり。汝の謝罪さえあれば、こちらは身を引く覚悟もあり。そうすれば、無用な血を流さずに済むが故、おすすめされたるなり』

 

 「何だこいつ、完全にびびってるじゃないか。俺が何をしたっていうんだ?」

 

 「さぁ…ハムザさまを恨む同業者は、意外と多いと思いますよ?えー…『どうしても剣で解決せんとするなら、汝英雄の技の前に倒れる運命なり。しかるが故に、謝るなら今なり。こちらの忠告虚しく、決闘をどうしても望むのであれば、下記の時刻に下記の場所にて待つなり』」

 

 「決闘を望んできたのは、お前のほうじゃろう。ボケナス」

 

 「俺はどうしてもこの天才の顔を拝んでみたい気分だ」

 

 「もうすぐ終わります。『決闘では命を落とす可能性もありけり。我が技は未熟なれど、でも剣だけは鋭く研がれたり。決闘の際は覚悟を決めるが最善なり』…あ、追伸があります」

 

 ハムザとテルクシノエは既に笑いを堪えきれずに、にやけが止まらなかった。リリは追伸を読んだ。

 

 「『追伸。返事は今日中に求むなり。雄牛の如く怒れるベル・クラネルより』…だそうです」

 

 「なるほど、なるほど」

 

 わざとらしく神妙な顔つきで腕組みをして、ハムザが言った。

 

 「まさに怒れる雄牛のごとき文章だ。まるで頭が足りてない。もしこれが人間によって書かれた物だったら、今頃俺は恐ろしさにしょんべんを漏らしていたに違いない」

 

 「で、どうします?」

 

 リリは笑い合う二人に聞いた。主神が答える。

 

 「さぁ、知らん。どうせ悪戯じゃろう。ベル・クラネルとかいう子供は知っているが、そんな事をするほど度胸があるとは思えないのでな。うちには闘牛士はいませんとか適当に返事を書いておけばいい」

 

 「それもそうだ。まさかあのガキが俺に喧嘩を売るとは思えんな。怒れる闘牛は置いておいて、ちょっくら二度寝でもするとしよう。ふわーあ…」

 

 二人はもぞもぞと布団に潜り、再び眠りについた。リリはショッキングな果たし状にすっかり驚かされてしまい、殆ど興奮状態だった。文章が雑であれ、誰かが自分達を恨んでいるのは明確だ。ベル・クラネルという名前にも聞き覚えがある。あの白髪の少年だろう。

 

 あれくらいの少年こそ、血迷ってこのような文章を送り付ける可能性が高いように思われた。

 

 リリはしばらく腕を組んで考え込んだ。返事を書く、会う、穏便に話す、怒りの理由を知る、謝る、和解する…。そうだ、そうしよう。リリはそう思って手紙に書かれていた住所を探すが、どこにも書かれていない。恐らく書き忘れたのだろう。日時も場所も不明の決闘を前に、リリは沈黙した。

 

 「…考えても無駄ですか。こんなくだらない事はさっさと忘れて、金策を考えるとしましょう」

 

 

 「アイズ。話がある」

 

 バルコ二ーに出て朝の空気を肺一杯に吸い込んでいたアイズは、背後からリヴェリアに呼びかけられた。

 

 「ここ数日、お前がどこに行っているかを私は知っている。その上で率直に聞こう、お前はご両親にかけて快楽の誘惑に負けていないと誓えるか?」

 

 アイズははっきりと頷いた。戸惑いも後ろめたさもない、澄んだ目でハイエルフを見つめる。

 

 「そうか…ならばこれ以上は言うまい。ただし肝に銘じておけ。もしもハムザという悪辣な冒険者に体を許したと知られれば、今後私がお前の面倒を見ることはないだろう」

 

 強圧的な口調でリヴェリアは語った。アイズの背後に広がる青く澄み渡ったから、涼やかな風が髪を撫でていく。一体、どういうことなのだろう。あのリヴェリアが『もうお前の面倒は見ない』と告げるとは。親同然として常にアイズの傍に居続けたハイエルフが、暗に『このファミリアを出て行け』と告げているのだ。

 

 「それは、フィンの…?」

 

 「いや、違う。私の意向だ」

 

 「それなら、フィンはリヴェリアとは別の意見だから…」

 

 そこから先は口に出せなかった。アイズとリヴェリアにある信頼関係が、強固な絆で結ばれていたはずの関係が、今では触れれば崩れてしまうような、蜻蛉の羽のように薄く脆いものに感じられたからだった。

 

 「勘違いをしているな。万が一の事になれば、去るのは私のほうだ。私がどれだけあのならず者への対応に辟易しているかは、お前も知っているだろう。だが上の立場の人間の中で、私だけが異質なようだ。それで、まるで孤立したように感じられてな」

 

 「…リヴェリアは間違っていないと思う。でも、本当に二人が愛し合う関係だったら…ファミリアはそれを認めてくれないの?」

 

 王族(ハイエルフ)は「お前、まさか…」と顔を強張らせたが、アイズはすぐに否定した。あくまでも例えとして、ハムザが自分を一生涯愛し続けるという強い信念の上で求めてくるのなら、一体誰にそれを止める権利があるのだろうか、と。

 

 「そういう場合においては、私は特に何も言うつもりはない。ただし、愚者は愚かな行為を続けるからこそ愚者なんだ。不貞を働き続ける者は一貫して信ずるに足りん。そして、ペテン師は他人を騙し続ける。そんな人間の言葉など、例えお前が信じたとしても、ファミリアが信じたとしても、私は信じない。それだけだ」

 

 「リヴェリアは…ハムザが嫌いなんだね」

 

 「当たり前だ。もしこの世から消し去る事が出来る対象を選べたのならば、私はあいつを真っ先に消去する。ゴキブリや蝉、百足、その他の薄気味悪い生物や不道徳な男どもを束でまとめても奴には敵わん」

 

 ひゅうっ、と音を立てて風が吹いた。庭の木々がさわさわと葉擦れの音を立てている。フルートのような鳥の声が響き、通りを行く荷車の揺れる音が微かに聞こえてきた。

 

 不思議と心を満たす自然が織り成す業よりも美しく、また弱く儚い声でリヴェリアは呟いた。

 

 「…だが、もしお前にまで私の考えを否定されてしまっては、もうどうすることも出来ん。それならば、むしろ私は私を信じない方がいいかも知れんな。『アイズ、お前もか。ならば去れ、リヴェリア!』だ」

 

 「そんなの、私は絶対に嫌…」

 

 彼女の言葉に、アイズはもはや半泣き状態だった。リヴェリアは彼女の頭をぽんぽんと叩き、「そんな事にはならん、お前がお前でいる限りはな」と言って抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 「おや、レフィーヤ。執務室に来るなんて珍しいね。緊急かい?」

 

 【ロキ・ファミリア】団長のフィンは羽根ペンで羊皮紙にサインをする手を続けながら、もじもじと入り口に突っ立つレフィーヤを見やった。

 

 「えっと、その。フィン様…。実は、次回の遠征に入用な装備や薬品を買い揃えるのに資金が足りなくて…その、いくらか用立てして欲しいのですけど…駄目ですか?」

 

 フィンはさらさらと筆を走らせる手を止めずに、あっさりと承諾した。

 

 「そんなことか。もちろん構わないよ。いくら必要なんだい?」

 

 「えっと…じゅ、十万ヴァリス?」

 

 「ははは、レフィーヤも最近は冗談がうまくなったようだね。僕ら第一級冒険者の装備に十万ヴァリスだなんて、それじゃあ剣の鞘すら買えないだろう。とりあえず五千万ほど貸してあげよう。返済期限は、そうだな…遠征後で頼むよ」

 

 レフィーヤはあまりの金額にあっけに取られ、無言で立ち尽くしていた。するとフィンが手を止め、椅子から立ち上がり豪華な執務机から離れた。

 

 「それじゃあ、金庫に向かおうか。ところで、今日は随分雰囲気が違うようだね」

 

 レフィーヤはいつもとは異なる服装をしていた。ずっと一緒にいるフィンですら、一度も見た事がないような服装だ。単純に言えば、いつもの清潔で品のある服装ではなく、少し古ぼけていて、汚れていた。

 

 「えっ?いえ、その…それよりも、フィン様。やっぱり遠征前にはお金を借りる人、多いですか?」

 

 たくさんの鍵が連なった束をじゃらじゃらと鳴らしながら、フィンは頷く。

 

 「それは、もちろんさ。今日はレフィーヤで三人目だよ。ベートとティオネが今朝来たからね。遠征前の風物詩と言ったところさ。ロキも僕も、今回の遠征には全てを賭ける価値があると思っている。だからファミリアの金庫は常に解放状態だ」

 

 金庫が置かれている部屋は、長館の三階に位置するフィンの執務室のすぐ隣だった。堅牢なオリハルコン製の大扉がどっしりと佇んでいる。フィンは鍵を開け、レフィーヤに意地悪く笑って見せた。

 

 「開けてみるかい?」

 

 レフィーヤは言われるがままに扉に手を押し当てた。全体重をかけても、ぴくりともしない。

 

 「Lv.5以上にならないと、この扉は開かないだろう。まぁ、単純に重いだけだけどね。一応ここに来るのは初めてだと思うから説明しておいたけど、防犯の意味があるというロキの意見には僕は納得できない。そもそもこんな最上階に到達されてしまった時点で詰みだ。あとは爆破でも何でもしてこじ開ければ良い。それに…僕らの抗争相手にLv.5以上なんてたくさんいるからね」

 

 「そ、そうですねぇ…でも、コソ泥に狙われないという点では随分効果的だと思いますよ?フィン様」

 

 フィンは堅牢な扉を簡単そうに押し開けながら「それはそうかもね」と言って中に入った。後についたレフィーヤは驚愕する。金庫の内部には貴金属、宝石類の類が堆く積まれている。それはまるで海賊の隠し財宝のようだった。

 

 「さて、五千万ヴァリス分の金貨は流石に重過ぎるから…これを渡しておこう」

 

 「翡翠玉(ジェダイト)…それも透明度が高く、溜息が出るほどの濃緑…」

 

 「すぐに見抜くとは、詳しいね。ただしそれは、ダンジョン下層産だ。以前の遠征でたまたま採れた物で、『迷宮翡翠(ダンジョン・ジェダイト)』と呼ばれている。換金すれば、五千万はくだらない。後はこの羊皮紙に記録しておいてくれ。それと…一応ルールだから伝えておくけど、万が一期日までに返済できない場合や、その他何らかの理由で返済そのものが不可能になるか、あるいは返済の意思がなくなった場合…厳罰がある。まぁ、五千万くらいレフィーヤならすぐだろう、だからこちらも心配していないけど、心に留めておいてくれ」

 

 「わ、わかりました…」

 

 真っ青なレフィーヤは、部屋を出るフィンの後に続きながら冷や汗を流していた。

 

 (思いつきで来てはみたものの…えらい事になってしまいました…リリはもう、おうちに帰りたくて仕方ありません…)

 

 

 

 

 

 本拠を出てから人気のない小路に入り込み、リリは変身魔法を解いた。それから何食わぬ顔でメイン・ストリートへと顔を出し、しばらくのんびり歩きながら歓楽街の本拠に着いた。

 

 テントの中にぬっと顔を出すと、ハムザとテルクシノエが不自然な格好で仰向けになり、絨毯の上に転がっていた。

 

 「死んでしまいましたか?」

 

 リリの問いに、彼らは答えない。虚ろな目で天幕を見上げている。

 

 「なぁ神様、原始人たちは腹が減って死にそうな時、何をしていたんだろうな?」

 

 「さぁな。マンモスでも狩りに行ったんだろう。腹が減って動けなくなった奴から順に、囮に使われていたのかもしれん」

 

 力のない声で「そいつは気の毒に」とハムザは呟いた。

 

 「昔からずっと、マンモスを狩るのは男の仕事だった。でも最近は何だか変だ。女まで狩りに出て、男よりもずっと大きい獲物を仕留めて平然と帰ってくる。そこで俺は不思議に思うわけだ。一体男の存在意義はどこに行ったんだ、とな」

 

 リリはこほん、と一つ咳払いをした。

 

 「なんだリリ、いたのか」

 

 ハムザは身じろぎ一つせず、仰向けになって空を見つめている。

 

 「えーと、少々金策をして参りました。いろいろあって…ざっと手元に五千万ヴァリス相当の宝石がーー」

 

 言い終える前に、二人は凄い勢いで飛び跳ねた。その様はまるでコメツキバッタが飛び跳ねて起き上がる様子にそっくりだった。

 

 「ごせんまん!?」

 

 ハムザが叫んだ。声にならない悲鳴が、女神の口から漏れた。

 

 「…マジなはず、ないよな?」

 

 「えーと…これ、迷宮翡翠(ダンジョン・ジェダイト)です」

 

 女神がリリの足元まで這いずりやってきて、その宝石を受け取った。直後、彼女は石のように固まった。

 

 「五千万どころじゃない…競にだせば七千万が狙えるじゃろう…リリ、一体どこでこれを?」

 

 

 リリの説明に女神は感心したように聞き入った。彼女の説明が終わるや否や、ハムザが気難しそうな顔をして、腕組みしながら唸った。

 

 「ほらみろ、今じゃどんな小さな子供だってマンモスを狩れる時代だ。いよいよやばいぞ、世界の均衡はもう崩れ去った」

 

 「大げさですよ?ハムザさまこそ、そのバカげたスキルのせいで大勢が悲しんでいる事実を知るべきではありませんか?」

 

 「放っておけ。それよりも、早速換金しに行くのじゃ。今日は酒場で食い明かすぞ!」

 

 「待て」立ち上がって、ハムザが言った。

 

 「今晩は、別行動だ。淫乱エルフ調教の最後の締めが待っているのでな」

 

 

 今日は珍しく月がはっきりと見える夜だった。レフィーヤとハムザの『オラリオ風俗探検ツアー』は、既に残すところ二日となり、二人は喧騒の中メイン・ストリートを歩いている。

 

 「それで、今日は何をするんですか?」

 

 つんとした態度のエルフの少女は、隣を歩くハムザと十分な空間を空けて歩いている。

 

 「俺が思うに、お前たち成金ファミリアどもは下々の生活という物を知らん。実はそういった生活にこそ、人生の旨味が隠れているのだと知らずにな」

 

 「今晩はバベルで百万ヴァリスのディナーですよ、夏の間は100kmに及ぶ海岸線を独り占めしながら、最高級のワインセラーを持つ別荘に行きますよ、だのなんだの、くだらない金の使い方をしているのだろう」

 

 「してません」

 

 「嘘を吐け。昔とある王国のエルフのお姫様が、パンすら食えず飢えに苦しむ民に向かってこう言ったのだ。『パンがないなら、ケーキでも食べていればいいじゃない?』とな。王宮での豪華な暮らししか知らんお姫様には、ケーキがどれほど高価な物かを知る由もなかったのだ」

 

 「そんな無知なお姫様と一緒にしないで下さい」

 

 レフィーヤはばしっとハムザを叩いた。二人の間に結ばれていたはずの主従関係は、いつの間にか奇妙な物になっていた。いざことが始まる時に限り、それは効力を発揮するだけだ。ハムザのスケベがレフィーヤの中に秘めた欲望に火を点けた時にだけ、エルフの少女は下僕になっていた。だが、このようにただ二人で夜のメイン・ストリートを歩くだけでは―もちろんそれも見方によっては随分ロマンチックである筈なのだが―、レフィーヤはハムザへの敵対心を隠さない。

 

 涼しい顔をしてエロい事を考えているハムザとは対照的に、レフィーヤは戸惑い、苦しんでいた。自分の中に生まれた好奇心、そして一人の男性への愛情のようなものに。そしてその心に目を向けることを拒んでいた。もしそれを見つめてしまったら、きっと今すぐにでも彼と手を繋いでみたいなどと考えてしまうだろう。もしかしたら、それ以上のことを。

 

 「…だからだ、今日も酒場に行く。前回の酒場を覚えているか?」

 

 「うん、二度と行きたくありません」

 

 「あそこはまぁ、オラリオの中じゃあ特殊だ。貧乏人が行く所ではないな。今日は人生の隠し味と呼ぶにふさわしい場所を見つけたい。そのためには、地元民の助けが必要だ」

 

 それから半刻ほど歩いて、二人は街の外れにある公園に辿り着いた。ハムザ曰く、金のない若者達は酒場の酒で酔うまで飲むにはあまりに高くつきすぎるため、店で予め買っておいた酒を公園で飲むのだと言う。それが随分安上がりな宴会らしかった。

 

 公園には、既にたくさんのグループがベンチや銅像の台座に座り語り合っていたり、立ったまま乾杯をしたりしていた。集まる人々の年齢は若く、年寄りの姿は見えない。当然だろう。レフィーヤには、ここが若者達の楽園のように思われた。そんな場所に親のような年齢の人間がやってきては、神聖さが失われてしまうからだ。たとえその人物が何も言わなかったとしても。

 

 

 「おーマイフレンド!こっちへ来て一緒に飲もうぜ!」

 

 ハムザが若者の一人に声を掛けられ、二人は熱気に包まれる酒飲み達の輪の中に入っていった。

 

 「紹介しよう、彼はハムザ・スムルト。テルクシノエ・ファミリアの冒険者で、最高にいかした俺の親友さ」

 

 冒険者という言葉を聞いて、彼らはひゅーと口笛を鳴らした。

 

 「始めまして。私はアナよ。今学区で神聖文字の勉強をしているわ」

 

 それから一人ひとりが自己紹介を始め、終わった頃に全員の視線がレフィーヤに注がれた。

 

 「うそ…?良く見たら、ロキ・ファミリアじゃない?」

 

 「あ、はい。その、レフィーヤ・ウィリディスと申します」

 

 「マジかよ!?あの千の妖精(サウザンド・エルフ)を連れまわすなんて、お前スゲーな!」

 

 「よーし、飲め飲め!ハムザ、お前はいつもの蒸留酒(エール)だな。レフィーヤ、君は何を飲む?火酒(ウィスキー)がお勧めだぜ。さぁ、皆グラスを持って。もう一度乾杯をしよう!」

 

 それから数刻の間、レフィーヤは場の勢いに流されて、さんざんリヴェリアによって注意されていたはずの宴会を楽しんでいた。

 

 ハムザは最初何人かの女性たちと会話をしていたが、その中の一人が熱烈な視線を送り続けているため、ターゲットをそのヒューマンに絞った。それから二人は色々と話し込んでいるようだった。怪しい雰囲気はまるでなかったが、レフィーヤはどうしてもその内容が気になってしょうがなかった。

 

 「なぁ、ロキ・ファミリアって美人しかいないって聞いたけど、本当なんだね。コップを貰えるかな?お酒を作ってあげるよ」

 

 若者たちはレフィーヤにとても興味を示していた。かくいうレフィーヤ自身もいい気分で飲み続けていたが、どうしてもハムザが気になって彼のところへ行った。

 

 「ねぇ。そろそろ訓練の時間じゃないですか?」

 

 出し抜けに、彼女はそんな事を言ってみた。何とか二人の会話を邪魔してみたくなったのだ。

 

 「あら」

 

 アナが勝ち誇った顔で言う。

 

 「ハムザはこれから私達と社交場に行くわ。ねぇ、そうでしょ?」

 

 「おう。そうだ。あー、お前は帰ってもいいぞ。…それから密林のアマゾネス部隊が罠を仕掛けて、俺達のキャンプを包囲してきた。信じられるか?百人のアマゾネスだぞ?」

 

 レフィーヤを殆ど無視し、ハムザはアナに武勇伝を語り続ける。彼女は大げさな反応を示しながら、微笑んでうっとりとした視線を彼に送り続けていた。

 

 「こほん、こほん」

 

 レフィーヤは咳払いをする。

 

 「…だが、俺はふと気づいたんだ。罠を張られた場所の法則性にな。それは真夏の星座と関連している法則だったのだ。当然、罠を張った奴らもその場所を覚えておかないといけないから、必然的に解読しやすい――」

 

 「こほん、こほん、こほん」

 

 「――うるさいな、レフィーヤ。どうした?」

 

 「私も行きます」

 

 「あら、あなたも社交場に来るの?ロキ・ファミリアは門限が厳しいって聞いたわ」

 

 「私も行きます!!」

 

 レフィーヤは叫んだ。そして男達が大喜びして駆け寄ってきた。

 

 「マジかよ!レフィーヤも来る?あそこは最高にクールだぜ、それに今晩はカクテルが半額だ。そうと決まれば、そろそろ動こうか」

 

 

 そうと決まってから集団の中の半分は帰宅し、残りの半分は次の遊び場に向かうためにその場に残った。それはたったの数人だったが、彼らは公園の近くにあるというその場所に向かって歩いて行った。

 

 レフィーヤは社交場というものを知っていた。貴族階級や王族などが他の同階級の人々と知り合うために開く、宴会のようなものだ。だが、この場においては何となく嫌な予感がした。何の変哲もない若者たちが、社交場などに集まる筈がないのだ。

 

 ハムザの後ろに付き従って数分歩くと、建物の地下へと続く階段が目に留まった。煉瓦造りの建物の入り口に、ひっそりと『骸骨(スケルトン)』と書かれている。レフィーヤには、一体ここがどんな場所なのか想像もつかなかった。

 

 若者の一人が、全員の前に立って嬉しそうに酒瓶をあおった。

 

 「おい、聞けよ!今日の分はハムザが出してくれるらしい。しかも、おい、待てよ、今話すから。しかも、だ。驚くなよ、貴賓室だぜ!」

 

 若者達は雄叫びを上げるとすぐに、数段飛ばしで階段を駆け下りていった。

 

 階段には、松明が点るだけの長い暗闇が地下まで続いていた。ハムザの後について降りると、踊り場に数体の骸骨が照らし出されている。

 

 (不気味です…)

 

 それから十秒ほどで、レフィーヤは大きな部屋に着いた。そこでは弦楽器が奏でる音楽が熱気と共に充満し、グラスを片手に若者達が踊りあっている。レフィーヤ達がいる貴賓室は二階に相当する場所だったらしく、一段下の通常広間では男女が優雅とは言えない踊りを披露していた。

 

 「レフィーヤ、楽しもう」

 

 先ほどから常に気に掛けてくる若者の一人に耳元で囁かれて、レフィーヤはぞっとした。アップテンポな旋律が部屋を駆け抜けるように演奏されていくと、人々は釣られて小刻みに踊り始める。レフィーヤは戸惑いを隠せずに、ただただ突っ立っていた。

 

 すると背後から何者かに両手を掴まれた。ぐいぐいと上下左右に好き放題に動かされる。嫌悪感を覚えた彼女が振り返ると、それはハムザの仕業だった。

 

 「ほれ!酒を持ってきたぞ。俺もここに来るのは初めてだが、正直言って、こういうノリの乱痴気騒ぎは好きではないんだが、セクロスするにはうってつけの場所だからな」

 

 酒瓶を手渡されたエルフの少女は、ほっこりと笑みをこぼす。

 

 「ありがとうございます!さっきの女の子はどこに行ったんですか?それに、皆がセックスをしに集まってきたんですか・・・?」

 

 「もちろん、違う。いいか、しきたりを教えてやる」

 

 度数の高そうな酒瓶を一気に飲み干して、彼は言った。

 

 「ぷはっ!どうやら貴賓室は下の広間にも出入りが自由なようだ。ここから下で踊っている良い女を探して、見つかったら捕まえに行くらしい。ほら見ろ!あいつなんか、もう相手を見つけたぞ」

 

 示された先を見てみると、ハムザの事を親友と呼んでいたヒューマンの若者が、同じく若いエルフの女性とくっつき合い唇を貪りあっていた。

 

 社交場などとはよく言ったものだ。これではまるで乱交酒場と同じではないか。

 

 「じゃあ女の子はどうしたらいいんですか?」

 

 「好みの男が近づいてきて、一緒に踊り始めたら、無視せず付き合ってやるだけだ。あとは向こうから求めてくる!急ぎのヤリたい女は、大抵が椅子に座りながら声を掛けられるのを待っているようだな」

 

 (これが『人生の旨味』ですか・・・。ただ馬鹿みたいに騒ぎたい人たちが、遊んでいるだけに見えます・・・)

 

 下の広間には、アマゾネスや小人族もいれば、エルフもいる。多種多様な種族が混ざり合って密集しながら音楽に合わせて踊りあっている。かくいう貴賓室にも多くの人々が各自で楽しんでおり、綺麗なアマゾネスがいかにも未経験に見える少年の体にいやらしく腕を絡ませたり、ドワーフの二人組みが難しそうな顔を突き合わせながら、今夜の標的を探していた。

 

 すると見知らぬ獣人の男が近づいてきて、彼女の前でくねくねと不思議な踊りを披露した。可笑しくて笑みを漏らした事に気を良くしたのか、彼は腰と腰が密着するほど近づいてきて彼女に囁いた。

 

 「俺のアナコンダを見せてやろうか?」

 

 バシッと頬に張り手をお見舞いしてから、レフィーヤはそこから逃げた。それから数分の間、麗しの【ロキ・ファミリア】の魔道師のところにはひっきりなしに男が集まってきていた。一人、また一人と撃沈していく様はまさに蠅叩きのようだ。すると彼女の目に、先ほどの獣人とアナが抱き合って熱いキスをしているのを目撃した。

 

 (ふん、いい気味ですっ。あなたなんかにハムザ様は似合いません)

 

 そしてレフィーヤは、いつの間にか姿を消していたハムザを探し始めた。踊りもせず、話もせずこの広間に佇むのは苦痛だったからだ。

 

 すると下の広間にいる可愛らしい小人族の女性を膝の上に乗せて、角にある椅子に気分良さそうに腰掛けているハムザが目に飛び込んできた。彼は背後から彼女を抱きしめて、唇を奪った。レフィーヤは知らず知らずのうちに拳を強く握り締め、唸りながらその様子に釘付けになっていた。

 

 「むむ…許せません」

 

 鳴り止まない音楽が急に遠く感じられた。そして、最初に声を掛けてきた若者がレフィーヤの下にやってきて、小声で耳打ちした。

 

 「ごめんね、貴賓室だと男の身が持たないくらい、女の子に求められるんだ。下のフロアの人に無料でお酒を提供できるからね。それを求めて話しかけてきたアマゾネスの女の子と、今しがたセックスしてきたところさ!さぁ、一緒に踊ろうか?」

 

 レフィーヤが張り手をお見舞いする直前、ハムザと小人族の女性がするすると密集地帯を抜け出してどこかへ行く様子が目に入った。彼女は「どいてください!」と叫んで目の前の男を突き飛ばし、二人を追いかけていった。

 

 二人は奥にある階段を上がって行った。どうやらそこにはトイレがあるらしい。レフィーヤの直感は最悪を告げていた。

 

 (犯る気に、違いありませんっ…!)

 

 トイレは男性と女性にすら分かれていなかった。二人はするりと個室に入り込んだ。こそこそと後を追っていたレフィーヤは隣の扉を開けた。すると中にはアナが先ほどの見知らぬ獣人にフェラチオをしている最中だった。アナコンダを目撃したレフィーヤは慌てて扉を閉め、もう一つ反対側の扉を開けて中に忍び込んだ。

 

 (もう、鍵くらい閉めておいて下さいよっ!)

 

 酒のせいで、体温が上がっている。もしかしたら、もう耳まで真っ赤になっているかも知れない。レフィーヤは隣のトイレで行われている行為に耳を澄ませた。すると案の定、二人がいやらしい音を立てながら激しいキスをしているのが聞こえてきた。

 

 レフィーヤは我慢できなくなり、魔法衣のスカートをたくし上げて下着を脱ぎ捨てた。隣の息遣いに全神経を集中させながら、エルフの少女は自慰を開始する。

 

 「ふふ…小人族を狙うなんて珍しい人ね?あなた、ロリコンかしら。でも心配しないで、私はまだ二十歳、見た目が少し幼いのは種族の特性だから…とにかく楽しませてあげられると思うわ」

 

 「うほっ」

 

 反対側のトイレから、パンパンとセックスの音が聞こえ始めてきた。アナと獣人が本番を始めたようだ。レフィーヤは、大音量の音楽がここまでは届いていないことに今気づいた。ここには音楽よりも、男女の矯正が充満している。そしてその全員が一晩の情事を楽しんでいるのだ。お互いに見初めあったら、あとはまるで獣の様にトイレに一直線、そして一心不乱に求め合う。理性の欠片もない状況に、普段なら「吐き気がする」と言い張るはずのレフィーヤだったが、自分の激しい欲望に興奮しきっていることを認めないわけにはいかなかった。

 

 そう思った途端、レフィーヤの下半身はぐしょぐしょになった。卑猥な声を出し合うトイレの住人達とは対照的に、レフィーヤは声を押し殺しながら指で局部の愛撫を続けていく。

 

 どうやらハムザと小人族は、既に交わいを始めていたようだ。小人族の女性の嬉しそうなあえぎ声が聞こえてくる。そして大声が響いた。どうやら彼女が絶頂に達したらしい。

 

 (ずるい…ずるいです。私も、欲しい…)

 

 「うおお…きっついおまんこ、締め付け最高ではないか。おぉっ!そうだ、もっと締めてみろ。特濃な経験値の素をプレゼントしてやろう」

 

 「あんっ…ふふ…いつでもイっていいわ…あなたって、最高ね」

 

 (ずるい、ずるい、ずるい…)

 

 「ぐひひ…いかん、出るっ…」

 

 ハムザが達するのと同時に、レフィーヤは絶頂に達した。痙攣する腰が落ち着くまでぐったりと便座に座りながら、呆然と目の前の扉を見つめる。そして隣にいたハムザ達が、そそくさと扉を開けて外へ出て行く音が聞こえた。暫くの間、レフィーヤはぐったりと次の男女がセックスを楽しむ様子に聞き耳を立て続けていた。

 

 それから少し経った頃、レフィーヤは再び大音量が鳴り響く部屋に戻っていた。ハムザが酒を両手に持って、彼女に近づいてきた。

 

 「おい、どこにいた!?奴ら、煙草に行きやがった。俺達も行くぞ、付いて来い」

 

 二人はまた別の階段を上がって行き、喫煙広場に出た。そこは外に面した大きなバルコニーのような作りで、多数の男女がお酒を片手に紙煙草を吸っている。

 

 「う…私、煙草だけは駄目。臭いがひどくて、とても耐えられないです…」

 

 ハムザは「これも修行だ、我慢しろ」と言って周りの男達に声を掛け始めた。

 

 「なぁ、お前持ってないか?」

 

 ドワーフの若者が答えた。

 

 「葉っぱか?もちろんあるぜ、くれてやろうか」

 

 そう言って彼は包み紙を取り出して、中に入っていた茶色い葉っぱを一掴みハムザに手渡した。

 

 「兄ちゃん、貴賓室にいたな。後で女を見繕ってくれよ、そしたら無料でいいぜ」

 

 「生憎、金には困ってない。これを取っとけ。足りんとは言わせないぞ」

 

 手渡された金貨にドワーフは顔を綻ばせてから、ばんばんとハムザの背中を叩いた。

 

 「こいつぁいい!これだから冒険者には様を付けて呼ばねぇといけねぇんだ、なぁ!?」

 

 ハムザはその「葉っぱ」を紙に包んでから、くるくると巻き始めた。しかし酔っているせいか、なかなか作業が終わらない。それどころか手元が狂い、ハムザは折角買った『葉っぱ』を地面にぶちまけた。先刻のドワーフが見かねてもう一本分見繕い、今度は彼がそれを手際よく巻き始めた。瞬く間に『葉っぱ』の紙煙草が出来上がったが、レフィーヤはそれが大麻なのだと知らされ顔面蒼白になった。

 

 「大麻は違法ですよね…?」

 

 「あぁ、ギルドにゃ感謝しねぇとな」

 

 ドワーフが言った。

 

 「合法ですって言われりゃ、売値も下がっちまう。違法だからこそ高く買う、そうだろう?それに見つかった所でたかが数千ヴァリスの罰金を払うだけだ。いまどき学生だって払える金額だぜ」

 

 「つまりな」今度はハムザが言う。

 

 「合法的な違法行為という事だ。まぁ、そう目くじら立てるほどの物じゃない。人体への影響っていうんなら、酒の方がよっぽど危険だ」

 

 「そ、そうなんですか…」

 

 酔っ払ったレフィーヤは、ハムザといる事で様々な世界の扉が開かれていく事がなんと素晴らしいのだろうと感じていた。もし冷静だったならば、大麻の喫煙など断固拒否していたことだろう。しかし彼女は酔っ払っていた。正常な判断が出来なかったとも言える。ハムザの見よう見まねで、大麻を吸った。

 

 「なんにも感じません…」

 

 「そうか?それじゃあ、もっと吸え」

 

 「ははは、兄ちゃんもなかなかやるな。ロキ・ファミリアの女に手を出してる奴を見るのは、初めてだぜ」

 

 レフィーヤは、ふわふわと魂だけで漂っているような気分になり、周りの会話が耳に入ってこなくなるのを感じていた。そして不思議な幸福感が心に充満し始めた。細かい事がどうでもよくなり、エルフの矜持や誇り、理性などはこの幸福感と比べたらなんとくだらないものなのだろう、とさえ思うようになった。葉っぱがレフィーヤの気分に化学変化をもたらしたのだ。不思議と思考はいつもより冴え渡っていた。今魔法の詠唱を始めたら、絶対にうまくいくに違いない。レフィーヤは思考の手綱を緩め始める。

 

 (今思えば、惹かれあう男女が合って数分でセックスする事に、何の違和感もないですね。それに気持ちが良いことをしたいです。あの獣人のアナコンダも、銜え込んだら気持ちいいんだろうなぁ。あ、でもハムザ様のを頂かなきゃ。そうだ、葉っぱを次の冒険用に買っておこうかな。アイズさん、今頃何をしているのかなぁ…。あぁ、それよりも)

 

 レフィーヤは世界と自分の間に薄い膜が張られている事に気がついた。その膜が周囲の音を遮っているのだ。余計な情報が入らないからこそ、自分の体の要求がひしひしと伝わってくる。秘部から溢れ出る蜜が、たらりと太ももを伝っていく感触に背筋を奮わせた。

 

 いますぐセックスがしたい。ハムザの愛人になりたい。毎日のように彼に求められ、自分も彼を求めたい。おまけに、そうすることで強くなれるのだ。自分は今まで何をしていたのだろう?レフィーヤは後悔した。出会ったその日に、中出しして下さいと頼むべきだったのだ。くだらないプライドなどは捨て去り、愛人になりますと宣言をするべきだったのだ。そう思ったレフィーヤは、世界と自分を隔てていた膜に頭から突っ込んだ。

 

 「ねぇ、ハムザ様」

 

 呼びかけられたハムザはレフィーヤを見るなり、いやらしい顔を作った。そして思い出したかのように、笑いながら彼女を抱き寄せた。どうやら彼も葉っぱによって不思議な気分に浸っているらしい。

 

 「うほっ!美少女エルフ発見!おい、レフィーヤちゃん、踊りに行こう!いますぐだ!」

 

 「はいっ!行きましょう!」

 

 トリップを決め込んだ二人は大急ぎで広間へと戻り、全てを捨て去って音楽に身を任せ始めた。不思議と頭の冴え渡っていたレフィーヤは、踊るということの素晴らしさを全身で感じていた。テンポに合わせて手足を動かすだけで、こんなに良い気分になれるなんて。先ほどまで感じられていた戸惑いや、他人の目線などは既に遠くへ投げ捨てられていた。そして見上げる先には、自分に熱い視線を送ってくれるハムザがいた。二人の目が合ったのだ。

 

 ハムザもレフィーヤ同様に、ひどく不思議な気分が心を支配していた。今まで自分はどうしてこんな美少女エルフを放っておいたのだろう。この髪の毛も、美しい瞳も、綺麗な肌も、全て自分の物にしたい。そう思うと、口づけせずにはいられないと感じた。

 

 そしてハムザは顔を近づけた。近くにいたギャラリーは、どうせ彼も張り手をくらって吹き飛ぶのだろうと予想しながら眺めていた。先ほどまで、千の妖精が他の男達にそうしていたように。しかし二人は口付けした。周囲がどよめくのを、うるさい音楽が鳴り響く中でもハムザは感じ取れたのだった。

 

 心の中で勝ち鬨をあげたのは、二人同時だっただろう。ハムザはついにエルフの美少女をその手に落とした事に、長年の夢の一つをかなえた事に、無限に広がる心を埋め尽くすほどの幸福感を感じた。対するレフィーヤも、自分の心と向き合い、正直になることで彼の愛を一心に受ける事が出来、たまらなく嬉しかった。

 

 間近で少女の顔を見下ろすと、綺麗に長く伸びた睫の下に、筋の通った細い鼻先が美しく聳えていた。この骨格は、エルフ特有なのかも知れない。種族の殆どが美しい相貌を持つ理由がこの骨格だろう。レフィーヤはその中でも、とりわけ美しい。山吹色の髪をさらりと手先を撫でる。そして白い頬に片手を当てると、藍晶石(カイヤナイト)よりも美しい瞳が潤んだ。彼が再びキスをすると、レフィーヤは両手を首の後ろに巻きつけて、ハムザに抱きついた。

 

 それからも二人は盛り上がる若者達に揉みくちゃにされながらも抱き合い、キスを続けた。そしてハムザが言った。

 

 「少し静かな所へ行かないか!?」

 

 「うん、そうしましょう!」

 

 

 

 二人は既にトイレに入り込んでいた。相変わらず両隣ではセックスの音が響いてくる。その淫靡な雰囲気がレフィーヤに再び火を点けた。ハムザのズボンを無理やり下ろし、そそり立つ性器に口で奉仕をする。

 

 「うほっ…うまいな…さてはレフィーヤ、しっかり練習していたな?」

 

 初めてとは思えないほど的確に、レフィーヤの舌はペニスを刺激し続ける。まるで今まで何本も銜え込んできた様な大胆さと、自信に溢れた技術が備わっているかのようだった。

 

 「はむ…はい、ハムザさま…。レフィーヤはハムザさまのおちんちんを夢見て毎晩オナ二ーしていました…」

 

 じゅぽじゅぽ、ちゅぱちゅぱと淫乱に音を立て、隣人のセックスよりも激しい音を立てるようにレフィーヤは激しく頭を前後に振る。それはまるで忠誠を誓った奴隷が、ご主人さまへ一心不乱に奉仕をしているかのようだ。

 

 「おほっ…イってしまうだろ、こら」

 

 ハムザはペニスを引き抜いた。そしてレフィーヤの上半身を無理やり便座に押し倒し、犬のように四つん這いにさせてから魔法衣と下着を剥いた。

 

 「あぁっ!犯して下さい!ハムザ様!ずっと私はこうやって無理やり組み伏せられるのを、望んでいたんですっ!!」

 

 ペニスが入り込み、数回突かれただけでレフィーヤは絶頂した。それから休むまもなく挿入が繰り返され、瞬く間にレフィーヤの下腹部に再び絶頂の感覚が戻ってきていた。何とか耐えようと、犬のように這い蹲るレフィーヤは唇を噛んで我慢を続けていた。しかし、ハムザはいきなりレフィーヤの尻を叩いた。

 

 ぱちんと打擲の音が響いた。その瞬間、レフィーヤは思わず絶頂していた。

 

  (あぁ…お尻を叩かれていっちゃうなんて…)

 

 「ぐひひ…随分エロい子に仕上がったなぁ。もしかしたら、お前はマゾの才能があるのかも知れん。たまらんぞ、美少女マゾエルフが俺の肉便器第一号だ。あ、他にも居たか?まぁいいか、細かい事は…」

 

 「ハムザ様っ!毎日おまんこ使って下さい!毎日レフィーヤに中出しして下さい!アイズさんにしていることを、私にもしてくださいっ!」

 

 レフィーヤは周囲の事などまるで考えもせず、大声で喘いだり欲求を叫んだりしていた。程なくして、ハムザは絶頂を迎える。当然のように中出しされたレフィーヤは恍惚の表情でぐったりと便座にもたれかかり、至福の中で意識が飛んだ。

 

 

 

 

 「またぁ?リヴェリアも飽きひんなぁ~」

 

 女神ロキの気の抜けた調子の言葉が、ファミリアの談話室に響いた。鬼の形相でリヴェリアがレフィーヤを正座させ、くどくどと説教を続けている。以前にも見た【ロキ・ファミリア】の一幕だった。

 

 「それが、どうにも別件らしいのよ。また同じことを繰り返したんだとか」

 

 「またぁ?一体レフィーヤたんはどないしたっちゅうねん?ストレス溜まってるなら、ぱぁーっとセックスでもしてきた方がええんちゃう?」

 

 アイズが溜息混じりに呟いた。

 

 「レフィーヤ、この頃おかしいの。昨夜は、夜中に帰ってきたのに凄いテンションが高くて、私のベッドに飛び込んできた。とってもお酒臭くて…フィンが言うには、その、ドラッグだろうって」

 

 あちゃーと、ロキは頭を掻きながら「それは擁護できひんなぁ」と言って部屋を出た。代わりに団長のフィンが談話室に入って来て、リヴェリアの隣に立った。

 

 「邪魔するな、フィン」

 

 「そのつもりはないさ、リヴェリア。いいかい、レフィーヤ。前にも言ったように、遠征前に英気を養うならまだしも、風紀を乱すのは頂けない。それに装備を新調するのに渡したお金で、地元の若者と乱痴気騒ぎをしていたそうじゃないか」

 

 「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 レフィーヤは身に覚えのない言葉に反論する。

 

 「私はお金を借りたりなんかしていません!その…乱痴気騒ぎをしてしまったのは、私の落ち度です…でもお金なんか借りていません…」

 

 フィンは訝しげに言った。

 

 「確かにおかしいな。薬の影響にしては飛んだ記憶の範囲が広すぎるようだ。レフィーヤ、白を切るつもりなら先に言っておくが、ちゃんと金庫の出金記録に君のサインがあるからね。いいかい、この件からは逃れられないよ。遠征は明後日だが、貸したお金は返してもらおう。悪いが今のレフィーヤを信用することが出来ない。今日一日中外出禁止だ。謹慎して頭を覚ますように。それからリヴェリア、どれだけ説教を続けても構わないよ。よろしく頼む」

 

 「おかしいです!私は絶対にお金を借りていませんよ。フィン様、きっと誰かと間違っているのではないですか?記録にサインした覚えもありません!」

 

 様子を見守っていたベートが出し抜けに口を開く。

 

 「おい、オメェは自分のやった事にすら責任を持てねぇのか?頼むから遠征には参加しねぇでくれるか、オメェみたいな嘘吐き野郎に背中を預けるなんか、真っ平ごめんだぜ」

 

 レフィーヤは俯きながら、「私は借りてないのに…ひどいよ」と言って泣き出すが、アイズはへなりと頭を垂れる彼女を、冷ややかな目つきで眺めた。

 

 可哀相なレフィーヤは、その目つきを見るなり一層ひどい有様で泣き続けるのだった。

 

 

 

 その夜、ハムザ達は『豊穣の女主人』で夕食を楽しんでいた。リリは贅沢が少しだけ身についてきたのか、今日はステーキを注文した。主神は相も変わらず肉料理だけを平らげ続けている。ハムザは嬉しそうに昨晩の出来事を何度も何度も繰り返していた。

 

 「あの淫乱エルフは、もう俺の物になったな。あいつがなんて言ったか知ってるか?『これから毎晩中出しして下さい』って――」

 

 「もう、ハムザ君ったら、お食事中に卑猥な発言は禁止ですよ?」

 

 ウェイトレスのシルがお盆を小脇に抱えて会話に割り込んできた。

 

 「それにその話、さっきからもう三回はしているじゃない?さすがに飽きちゃうわよ。ねぇ、リュー?」

 

 呼びかけられたエルフのウェイトレスは頷きもせず、ただじっとハムザを見つめていた。相変わらずの無表情から、彼女の感情を読み取るのは並大抵のことではない。

 

 「正確には、四回じゃな、シルちゃん」

 

 やれやれと言ってテルクシノエとリリは食事を口に運ぶ。

 

 「お金が入って、乗っ取り計画も順調なのは良いのですが…」

 

 リリはふと、何かを思い出したようだ。口をもぐもぐと動かしながらリリは二人に疑問をぶつける。

 

 「なにか、忘れていませんでしたっけ?」

 

 対する二人も「さぁ」や「そうだったか?」と返事の歯切れが悪い。しかし、確かに何かを忘れているかもしれない。そんな雰囲気が三人の間に漂っていた。

 

 

 

 

 

 同時刻、ベル・クラネルは【フレイヤ・ファミリア】のオッタルと共に決闘相手を待っていた。

 

 「来ませんね…」

 

 指定した場所はオラリオの東の端っこにある廃墟だった。決闘の時間は、もう半刻以上も過ぎている。

 

 「不戦勝になりますか?」

 

 ベルは期待を込めてオッタルを見た。しかし武人は首を横に振り、ベルは肩を落とす。

 

 「場所は指定したのだな、間違いなく?」

 

 少年は頷いた。「返事は来ませんでしたけど」と付け加える。

 

 オッタルは顔をしかめて言った。その目には怒りが宿る。

 

 「敵前逃亡とは許しがたい。いいか、明日からはハムザを探して、見つけ次第斬り付けろ。決闘を無視するなど言語道断だ。ギルドの動きは私が封じておく。いいか、見つけ次第斬りかかれ。お前が殻を破るには、それしかない」

 

 

 

 

 

 

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