ダンジョンに性交を求める眷属の物語 作:kuracjaponski
夏の午後、メイン・ストリートは人で賑わっていた。冒険者達にとって、祝日という概念は存在しない。しかしこの日は特別だった。立秋の祭りが開催されているからだ。大通りは露店が密集し、祭りの空気に金の気配を感じ取った抜け目のない商人たちが大声で客の呼び込みをしている。
「何が立秋だ。くそ、秋の気配なんてどこにもないじゃないか。馬鹿にされている気分だ」
ハムザはエイナとリリと一緒だった。カフェのオープンテラスに席を取り、冷たいジュースを一口。頬に汗が滴り、氷の溶け落ちる音が虚しく響く。
「暦とはそういうものなのですよ」
大きな日除け傘の下で、広場中央の<司祭ヴァレンティン>の銅像を見た。あの台座にこの前落書きをしてやったのだが、まだ残っているだろうか。目を凝らすも、広場を行き交う人々に遮られてしまい、結局ハムザは傑作である<おっぱいの落書き>を探すことを断念した。
ふぅ、と一息入れて目の前の二人を見つめる。リリもエイナもぶつぶつと言いながら必死に書類と格闘しており、ハムザは一人だけ手持ち無沙汰だった。
「なぁ、エイナちゃん。おっぱい揉ませてくれんか?」
すっ、と目を上げ、エイナは微笑んだ。
「黙ってなさい」
ハムザはけっ、と悪態を吐いてから、今度はリリに向かって言い放つ。
「なぁリリ。フィンとかいうチビに変身して、広場で裸踊りしてみろよ」
無言のままリリは目を落とし、ぽつりと呟いた。
「オッケーです。…ファミリアの税金は計算出来ました。でも、<リーテイル>の方が厄介です。外部からの輸入にも手を出しているせいで、関税の計算が非常に面倒ですね」
「うん、本来は書類を提出してくれればこっちでやるんだけど、今は時間がないから自力でやるしかないわね」
「無視をするんじゃない」
「それを言うなら、邪魔をしないでください」
「まったく、やれやれだぜ」
『『それはこっちの台詞です!』』
さっきからずっと、リリとエイナはファミリアが収めなければならない税金の計算をしていた。ハムザは「踏み倒すぞ」と宣言したが、リリは団長命令を聞き入れずエイナに相談したのだった。それでわざわざ休日を返上し、エイナは彼らを手伝うことにした。
ついでに、作業が終わったら三人で祭りに参加しようと誘った時、彼女は随分と嬉しそうだった。今晩はやれるに違いない。
退屈そうにあくびをして、ハムザは祭りの事を想像した。夏の夜に祭りとくれば、答えは当然エロスとなる。自由な空間、楽しい余興、集まる若い女性に囲まれて酒を飲めば、誰だって手を出さずにはいられない。しかし、誰でもいいという訳ではない。今日は、どうしても目の前のエイナに手を出したくて仕方がないと感じる日だった。
【ロキ・ファミリア】が遠征に出てから、そしてハムザの『ロキ・ファミリア乗っ取り計画』が失敗に終わってからというもの、数日の間、彼らは罰則が解けるまで好き勝手に動いていた。
まだ年端のいかない街娘に手を出してみたり、看板娘と評判の子が実はとんでもないブスでがっかりしたり、口説くはずがリューに模擬戦を申し込まれ断りきれずに打ちのめされたり。
『
そう言うナァーザに鮮やかに騙されて財布の中身を空っぽにしたり、色々と辛い出来事はあったが、変身したリリが自分の夜の相手をしてくれる事で、何とか退屈せずに済んだ。
そして今日、性交の禁止という何とも理不尽な
ハムザは考えた。そろそろ本物のリリのエロい意味での成長を確認したいところだ。しかし、リリとは四六時中ほとんどいつも一緒だった。いつでも手を出せる彼女にちょっかいを出すのではなく、たまにしか会えないエイナに魔の手を伸ばすべきか……と策士は沈思黙考する。
なんにせよ、もう暫くエイナを抱いてないではないか。それはハーレムを作り上げる上でも、あまりよくない状況だ。性愛は平等に――それがハーレムの宮殿の入り口に掲げられるべき、我がファミリアの規約の第一章になるだろう。
「ふぅ、何とか終わりましたね」
ずっと書類に目を落として集中していたリリが、やっと顔を上げた。
「うん。これなら大丈夫かな」
エイナも安堵の息を吐き、額を拭った。
書類をとんとんと整え、エイナは紙の束をハムザに差し出した。彼が書類を受け取ろうと手を伸ばすと、ひょい、と彼女はそれを引っ込めた。
「理解する気、あるのかな?」
「うん。ない」
「じゃあ、いらないわね」
彼女は鞄に書類をしまった。ハムザが随分冷たいじゃないかと不機嫌な声を漏らすと、エイナはそっぽを向いて肩肘を突いた手に顎を乗せた。暫くそのままでいた彼女は、ちらりと横目でハムザを見つめる。
「ねぇ、次の目標管理シートに、次の予定を書き入れた?」
ハムザは首を傾げた。だが、すぐに彼女の言うことを理解した。アイズに本拠を吹き飛ばされた後に彼女が用意した『目標管理シート』という怪しい計画表が、行方知れずになっていることに気がついたのだ。
「それ、リリは見たことがありませんよ」
「こら、ばらすな」
溜息を吐いてエイナは姿勢を直す。グラスを手にとってジュースを飲んでから、伏せ目がちで言った。
「はぁ。ハムザくんは結局私のこと、気にもかけてくれないんだぁ。構ってくれなくて、残念だなぁ~?」
「ごたごたがあってな。まぁ、挨拶もしなかったことは悪いと思ってる。ただ、特別な地位の人間は、多くを与えることが出来る。その対価として、相手は俺の全てを許さねばならん」
リリはくすっ、と笑った。
「ハムザさま。ランクアップしたとは言え、まだまだ上には上がいるんですよ?Lv.2程度で王様気分になられてしまっては、先が思いやられます」
エイナも顔に笑みを浮かべて「まぁ、こうなるのは分かってるつもりだったけどね」と小さく溜息を吐いた。
「それで、リリルカさんのデータを元にスキルの検証結果を報告するね。えっと、基本的に他人に作用する成長速度はハムザくんのと比べて比較的に遅いみたい。それでも劇的な成長であるには違いないわね」
リリは自信たっぷりにえへん、と腕組みをして頷く。
「そうですよ。何年もかけて30くらいしか上がらなかった耐久が、たった数日で12も上がってるんです。リリにとっては大成長ですよ」
誇らしげなリリにエイナは凄いねと笑みを向けてから、更に説明を重ねていく。
「それでランクアップをしたことで、スキルに追加されたのが<回復効果>。魅了や経験値付与だけでなく、回復効果だものねぇ…」
「そうですねぇ」とリリは考える姿勢を取ってから、目の前のビスケットに手を伸ばす。
「こればっかりは実戦の中で確かめてみないと、何とも言えないですね」
「まぁ、そうね。とにかくもう少し検証してみる必要があるわね」とエイナが後を継いで言った。
『それで、問題は…』
二人は同時に同じ言葉を放った。ハムザにも、彼らの問題とするところは十分に理解できた。今日ここにわざわざ三人が集まったのは、ハムザの<新スキル>について議論を交わすためでもあったのだ。
「はぁ。<悪運>ねぇ…」
ランクアップ時に発動可能だったスキル、<悪運>。エイナは過去の記録を調べてみたが、これに該当するスキルは見つからなかった。そうなれば当然、効果を知るのは文字通り神頼みなのだが、肝心の女神テルクシノエは、よく分からんとあくびをするばかりだった。
「字面で見ればその通りの効果なんだろうけど、基本的にマイナス効果のあるスキルは存在しない筈なんだけど…それに<性技>なんていうスキルも聞いたことがないし、魔法の無言詠唱も可能になってるわよね。一体どんな裏技を使ったらこんな滅茶苦茶な成長が出来るのかしら?」
「本当に、こんなの不公平ですよ。ハムザさまは・・・その、冒険者としては、勤勉な方ではなかった筈ですから。どうしてこんなレアスキルがたくさん発現してしまったのか、リリは理解できません」
「つまりは俺の努力の賜物って訳だな」
「…人の話を聞いてましたか?」
理由は神のみぞ知る。そういうことにしておいて、何とか自分を納得させようと努めたリリだったが、口先はいつまでも尖ったままだった。
暫くの間、三人は何を言うこともなく、冒険者や住民が行きかうメインストリートの喧騒に耳を傾けていた。
氷が溶けて水滴で濡れたグラスを見つめ、暫く俯いていたリリだったが、ついに諦めたように顔を上げた。
「考えても仕方がありませんか。エイナ様、私達は明日から迷宮探索に行くつもりです。そこで何か分かったら、また報告します」
うん、と頷くエイナ。だが、彼女は今しがた通り過ぎていったアマゾネスの臀部をいやらしく見つめるハムザの視線を目ざとく捉えている。
「…それと、ハムザくん」
エイナの声は、教室で会話を弾ませる生徒達を、つまらない授業に引きずり戻す時の教師のように冷酷で、威圧的だった。
「…街中に変な落書きをしたり、女性を片っ端から口説いたり、違法薬物の売買をしたり、路地裏で一般人に暴力を振るう暇があったら……真面目に冒険者らしいことをしたらどうしかしら?」
ここ数日、【ロキ・ファミリア】が遠征に出てからというもの、確かにハムザはエイナの言うとおりのことをして楽しんでいた。リリは何とか子供っぽい行動は辞めさせようと文句を並べ立てたが、あまり効果がなかった。肝心の主神が余りにも放任主義だったせいで、子供が誤った育ち方をしている。そんな印象をリリは抱いていたのだったが、それはエイナも同様だった。
先程の口調をかなぐり捨て、今度は困り果てた子猫のような調子で、エイナは続ける。
「ギルドでは、未だに意見が分かれているの…。最速でランクアップした期待の新人な筈なのに、裏社会に関与しているとか、黒い噂が絶えないわ。お陰様で、私の通常業務に加えて火消し作業が大変で、毎日が残業の連続…はぁ、困ったなぁ〜」
同情を誘いたいエイナに、しかしハムザは言い放つ。
「ギルドなんか辞めちまえ。俺のところへ来れば、残業なんてせずに済むぞ」
だが、エイナは首を縦に振らない。もう口調はいつものエイナに戻っていた。
「受付嬢は私の夢だったの。もっと仕事で成功するまで、辞めるつもりはないわ。それに貴方がどれだけ強がっても、私が絶対に真人間にしてあげる。担当者として、その仕事はやり遂げるって決めてるのよ。まぁ、やんちゃな弟を持った姉の心境よね…」
「残念ですね」とリリが言う。
「テルクシノエ・ファミリアでは真人間がリリひとりしか居ませんので、エイナ様が来てくれれば二対二で対等な勝負が出来るのですが」
苦笑いしつつも、エイナはリリに言葉を返す。
「テルクシノエ・ファミリアへの助言としては…もっと規模を大きくした方がいいわよね。リーテイルを傘下にしたことで資金は潤沢だから…あとはちゃんとした真面目な人をたくさん仲間に加えて、ファミリアの等級を上げていくといいよ」
リリはエイナの助言に全面的に同意しながらも、「それが主神様がまるでその気じゃないんですよね…」と声を落として返答した。
あっ、と。何かを思い出したように、出し抜けにハムザが言う。
「確かに、もう一人、あるいは二人、冒険者の仲間が欲しいところだ。ハーレムを作るにあたって、美貌も才能も兼ね備えた、未来のアイズ・ヴァレンシュタインがまだまだ何人か必要だな。でも、ロキ・ファミリアの奴らは、ちょっと危険だ。俺がもう少し強くなるまで、あまり刺激しないようにするのが賢いやり方だ」
「リリから言わせれば」
リリは尖らせた唇で、不満たらたらにハムザを見つめて言った。
「ハムザさまの方が、よっぽど危険です。いろんな意味で」
●
陽が落ちて、待ちに待った夜がやってきた。ヴァレンティン広場周辺では、猫人の集団が軽快にバイオリンを鳴らしている。涼やかで軽い空気や食べ物の匂いが、人々の興奮と共に広場を駆け巡っている。
演奏が終わるたびに拍手が送られ、酒瓶を片手に人々は愉快にステップを踏み続ける。昼間から飲み始めたせいで既に出来上がっていたハムザ達だったが、周囲の人々と同じように解放的な夏の祭りを存分に楽しんでいた。
すると踊る人々の輪の中で、大柄のヒューマンがハムザにぶつかった。その弾みで手に持っていた酒が、ハムザの手からするりと抜け落ちた。
ぱりん、と音を立て、それは石畳の上で破裂した。そして大量の中身がヒューマンの靴に飛び散り、大柄な男は声を荒げて怒りを爆発させる。
「おい、てめぇ!俺の靴を汚しやがって!よくも――新品だぞ!?弁償しやがれ!」
怒れに震え、詰め寄ってくる男を面倒くさそうな目つきで一瞥し、ハムザはすっと自分の背中にエイナを隠した。
「そりゃあ済まなかったな。こんな場所にわざわざ新品の靴でやってくる程の馬鹿なんて、世界中どこを探してもいないだろうと思っていたんだ」
二人の剣呑な雰囲気を察知した周囲の人々は、がやがやとした喧騒に紛れ、不安そうに囁き合う。
『…オイオイ、ありゃあギルドの張り紙で出てた冒険者だぜ。『黒き変態』だ。かなりのスピードでLv.2にランクアップしたっていう噂の…』
ひそひそと、また別の声。
『おい…。あいつはヤバいって話だぜ。理由もなく人を斬りつけたり、ロキ・ファミリアに喧嘩を売ったりしているらしい。他にも売春や違法ドラッグとか、とにかくあぶねぇことに手をだしてるって話だ』
二人の周りから、するすると人々が遠ざかっていった。
『危ない奴には関わらねぇのが一番だ。さ、俺たちゃ明日も仕事だ。怪我する前にずらかるとしようぜ』
そしてぞろぞろと人々はその場を離れ、エイナを含め、ハムザとその男の三人だけが広場に取り残される。
ハムザが男を見やると、男は汚らしいひげ面に皺を寄せながら、まずいことをしたとたじろいでいる。
「いや…。その、人違いってのは、誰にでもあることだと思うんだが…その、気を悪くさせたらすまねぇが…酒を引っかけたのがあんただと勘違いしちまっただけで…まぁ、今思えばあんたはちっとも悪くねぇ。ありゃあ、あんたの酒じゃねぇもんな。あの中のどいつがやったか――」
後退りしながら必死に弁明する男を遮って、ハムザは言った。
「もちろん俺のじゃない。ほれ、さっさと行った」
●
「ねぇ、ちょっといいかな?」
酔っ払いに絡まれてから、エイナとハムザは当てもなく石畳の街を歩いていた。祭りの騒ぎは既に遠ざかっていたが、ハムザの心は未だにざわめいていた。人混みの中の誰かが言った
「ねぇ、聞いてるの?」
エイナに呼びかけられていたことに気が付いて、ハムザはそちらを向く。
「あぁ、聞いてる聞いてる。それより、
「私は、とってもキミに似合った名前だと思うけどなぁ?」
彼女は皮肉のつもりで言った筈だったが、ハムザはそれを真に受けて喜んだ。
「やはりエイナちゃんもそう思うか」
どこかの神がバイトをしているジャガ丸くんの屋台に光る魔石灯に引き寄せられ、列をなして待つ人々を邪険に手で押し避ける度、彼らの非難がましい声が聞こえてくる。そんな声を無視しながら、ハムザは誇らし気に何度も何度も頷く。
「ブラック・パーヴ。いいじゃないか、海賊みたいでな」
「本当にそう思うの?」
エイナの質問は頭をすり抜けていった。とにかく、自分に相応しい勇ましい二つ名を授かったのだ。主神に感謝の意を示すため、神意を全うしなければ。
二人はメイン・ストリートを外れて小道に入っていった。既に喧騒は遠く離れており、住宅街には夜の静けさが舞い降りていた。小道の先には、不自然な緑色の光を放つ魔石灯が二本、ぽつりと浮かび上がってきた。
この緑の魔石灯は、宿屋の印でもあった。家を持たない貧しい労働者や、旅人などにとってはありがたい目印だ。この小道には、そういった宿屋がいくつも居並んでいる。二人は静かに扉を開けて、受付広間にするりと入り込んだ。初老の男性が目配せで合図を送る。ハムザは無言で金貨を置いた。
「…Sクラス。セリナ、案内を!」
老人が叫ぶと、肌の黒い、子鬼のような若い娘が蝋燭を持ってやってきた。
「こちらになりますだ。暗いので気をつけてくだせぇ」
建物は珍しく木造で、廊下には、似たような造りの扉が沢山並んでいた。少女は二人をどんどん奥へ、そして階段をのぼり上へ上へと案内していく。ぎしぎしと軋む床をそろりそろりと歩きながら、何十もの扉を既に通り過ぎた時、エイナがぼそりと言った。
「いったいどうなっているのかしら…?」
呟きを聞き逃さなかった少女がエイナに答える。
「ここは普通の宿とは違うだ。お代はお客様が決めますだ。だからうちには貧しい労働者用から有名な冒険者様用まで、いろいろなお部屋が用意されてありますだ」
少女が言い終えると、最上階の最も奥の扉の前で立ち止まった。
「それでは、鍵はこちらになりますだ。どうぞごゆるりと、お楽しみくだせぇ」
二人に蝋燭を手渡し、少女は音も立てずに暗黒の廊下に消えていった。鍵を開け扉を開くと、手持ちのろうそくの光と月明りが、豪奢な調度品に飾られた部屋をぼんやりと浮かび上がらせていた。
「凄いね…」
エイナが言い終わるや否や、鍵をしっかりと閉めたハムザは彼女の柔らかな身体を抱きしめた。
「んっ…そんなぁ、もう?」
彼女の下腹部に手を伸ばすと、言葉とは裏腹にそこは既にしっかりと濡れている。
「ぐひひ…期待していたんだろ?エイナちゃんはスケベなハーフエルフだからなぁ」
頬を染め、エイナは首を横に振った。しかし直後、彼女は首筋に腕を絡め、激しく求めてきた。欲に任せた情熱的な振る舞いにすっかり心を奪われたハムザは、エイナの柔らかな胸に手を伸ばす。
ぱんっ、とその手を払い、エメラルドの瞳に燃える炎を隠しながら、仮初の表情で、何だか真面目臭いことを言った。
「言っておくけど、これはあくまでもスキルの調査、研究のためなんだからね?」
ちゅっ、と唇にキスをして、エイナは蝋燭だけが点る薄暗い部屋で、艶かしく微笑んだ。
●
暗い室内。既に半分ほど溶けた蝋燭は陽炎を作り出し、花盛りの少女の裸体をぼんやりと滲ませている。ベッドが軋む音と、甘い少女の喘ぎ声。そんな僅かな振動が、ぽとり、と蝋の一粒を受け皿に垂れ落とした。
「はぁ…あんっ…これがやみつきになるのよねぇ……」
男の上に跨り、淫靡な腰使いで男根を堪能するハーフエルフの美少女は、恍惚に浸る甘い声と共に口元を緩めて、緑色の双眸を薄らと細めた。
ベッドには服が乱雑に散らばり、少女の愛液で濡れたシーツは所々に染みを作り出し、体液をぬぐい取った後のティッシュや、べとりと精液のこびりついた眼鏡が無造作に放り投げられている。
交わうこと数刻。エイナは当初の目的であった『特殊スキルの調査』という大切な役目を思い出していた。ハムザが持つのは超希少スキル、成長に作用するという特殊な性質。それは男女の性交を経て作用し、対象者にも効果を及ぼすという代物だった。
おまけにLv.2へランクアップしたことで、その効果は大幅に強化され…ついでに回復効果までもが付与されるようになっていた。エイナにとって、いや、毎夜性的な刺激を思い出して寂しさを一人で紛らわす事が日課となっている少女にとって、これは思いがけない朗報だった。
また、再び大義名分と共にハムザを自分の物にし、拘束し、甘美な悦楽に耽る事が出来るのだ。その至福の時を、エイナは恐らくハムザ以上に楽しんでいた。もはや動くのが面倒になり始めたハムザに跨り、何度も何度も行為を繰り返しているのだから。
「あっ…イきそう。だめっ…あぁっ…」
絶頂を迎え、全身の痙攣に身を委ねる。恍惚を模る唇は涎を垂らしている事にも気が付かず、節操が固く、美徳を重んじるエルフの血を受け継いだ人物とは思えない程、艶やかに輝いている。
「…もう駄目だ…限界だ…」
ハムザは既に何度も射精に導かれており、文字通り精根尽き果てたようにぐったりとして横になっている。
「今、六回目よ」薄明りの部屋で、エイナの目が怪しく輝いた。
「今日は七回目まで頑張る実験だって、最初に言ったわよね?」
「それは、そうだが…どうして七回なんだ」
「ふふっ…。それはね、七という数字が好きだからよ」
「誰が?」
「私が、よ」
ううむ、と唸ってハムザは目を擦った。少し気を抜いてしまうと、疲労感がどっと押し寄せて来て、眠ってしまいそうだった。だが、エイナは依然として男根を咥えこんだまま離さない。
「じゃあ…そろそろお口でも味わおうかしら」
そう言ってエイナは膣から男根を引き抜いて、口に含んだ。
慣れた手つきで的確に急所を責め続けると、半ば元気を失っていた股間に再び燃えるような興奮が舞い戻ってくる。
エイナにとって、ハムザを射精に導くのは、朝食に目玉焼きを作るのと同じくらい手慣れたこととなっていた。少女は度重なるハムザとの性的な実験の結果…涎をたっぷりと溜め込み卑猥な音を存分に響かせて、極上の感触を持つ舌と柔らかい唇で男根を絞り上げてやれば、男は堪えきれずに精子を吐き出してしまうということを、既に学んでいたのだった。
「うおっ…やばい…」
抗うことも許されず、全てはエイナの意思に委ねられていた。こうして彼女にペースを握らせてしまうと、後はなすがままに弄ばれ、弄られるだけだ。だが、惻隠の心を持ったハーフエルフのエイナは、苦痛に歪む顔を見てからすぐに優しさを取り戻し、絶頂が近づき破裂しそうになる男根には我慢をさせず、たっぷりと精子を吐き出させてやるのが最近の常だった。
「んんんっ……!?」
エイナは精液を吐き出すペニスの口先を窄めた唇で包み込み、緩やかなストロークで長く深い絶頂へと導いていく。口内へ流れ込む経験値の素を舌で転がして、満足そうな笑みと共に、ごくりと飲み込んだ。
「ふふ…ごちそうさま…七回目、おめでと」
唾液と精液で濡れそぼつ口元を指先で拭ってから、エイナはハムザの隣に横になり、裸のまま抱き着いた。
エイナを抱き寄せたハムザは、仰向けになって見上げた高窓に浮かぶ月を眺めていた。ふと、エイナが手に指を絡ませて言った。
「ねぇ、私いろいろ調べてみたんだけど…過去にもたくさん、優秀なスキルを持った冒険者がいたみたいなの」
「そりゃあそうだろうが、俺クラスは一人もいたはずがない…」
眠気を堪えて強がるハムザをくすっと笑って、エイナも窓の外の満月を見た。
「…そうだと良いんだけどね。でも、ダンジョンでは優秀な人ほど早く…その、亡くなっていくの。そんな中で残った一握りの才能が、今のフレイヤ・ファミリアとかロキ・ファミリアなんだと思う」
「ねぇ、一年で何人の冒険者が帰ってこないと思う?」
「さぁ。百人くらいか?」
「もっと居るわ。大体五百人くらいは行方不明になっているの。新人や第一級冒険者に関わりなく、沢山の人が地上に帰ってこれないままなのよ」
「ふむ…そうか。雑魚が百人…雑魚が、五百人……」
ハムザの返答は、次第に適当になっていった。津波の様に押し寄せる眠気に抗えず、瞼が鉛の様に重くなる。閉じかけた瞼を擦り、眠るまいと努めるハムザを見て、エイナは口元を緩めた。
「弱い冒険者だけじゃなくて、ちゃんと強い人達も行方不明になってるわ。迷宮を舐めると、必ず返り討ちにあうのは、歴史が語っているの。だからちゃんと帰ってくるために、怪物の特徴を事前に学習したり、他の冒険者達が作り上げた成長手順に従って計画を立てる事が、本当に重要で……」
エイナが語り終える前に、彼の寝息が聞こえてきた。
幸せそうな顔で眠るハムザの頬に、エイナは優しく口付けをした。
その時、蝋燭の火が消えた。部屋には高窓から漏れる月明りが差し込んでいたが、月はやがて雲に隠れ、部屋には完全な暗闇が訪れた。
誰にも聞こえないような声で「おやすみ」とだけ言ってから、エイナも目を閉じ、眠りに落ちていった。
●
「で、
テルクシノエは夜遅くに帰ってきたリリに問い詰めた。リリは寝ぼけ眼であいまいな返事をする。
「えぇっと…リリは酔っ払って、気づいたら公園で寝てました。ハムザさまは多分、エイナ様と楽しんでいるのかと…」
「なんじゃ、とんでもない奴だ。
どうやらテルクシノエは夕食をずっと待っていたらしい。そういえば、祭りに参加するという事を伝え忘れていたかも知れない、とリリは寝ぼけ眼で思い出す。
そうだ、伝えようとしたけど、ずっとこの女神は眠っていたんだ。無理やり起こそうとしたら怒られたので、仕方なくハムザと二人でエイナに会いに行ったのだった。
それから主神は神会に行ったのだろう。すれ違いのせいで、伝える時間がなかっただけだ。仕方がないことだし、しょうがないだろう。弁明は明日すればいい。
「えっと…むにゃ。リリはもう寝ます。おやすみなさい…」
ぼふん、とリリはベッドにダイブして、そのまま寝息を立て始めた。
「ぐ、ぐぅ…眷属共め…眷属共めぇ~!」
怒りで震えるテルクシノエは、昼間に食べた極上の羊肉を思い出す。
女神は明け方に眠りにつくまでずっと、苦しそうにお腹を鳴らし、似たような唸り声を出し続けていた。