ダンジョンに性交を求める眷属の物語 作:kuracjaponski
——ダンジョンXX階層、未開拓領域。
昨晩、リリが眠りに就いている間、怪物が何体も襲撃に来たお陰でハムザは一睡も出来なかった。
13階層と同じかと思っていた怪物は、夜になると能力を上げた。ヘルハウンドはより狡猾になり、他の怪物と戦闘しているハムザを遠くから観察し続けて、休憩の際を見計らって襲撃をするようになった。
昼間での戦闘で全く脅威ではなかったアルミラージも、ハードアーマードと連携を取るようになってから格段に厄介になった。
防御力に特化したハードアーマードはしつこくハムザにちょっかいを出し続け、アルミラージは
また、遠隔攻撃に気を取られれば、ハードアーマードのモーニングスター形状の尻尾による一撃を貰いかねない。
この二匹のパーティを力技で蹴散らしても、この階域には鋭い爪と牙を持ち、敏捷性と強靭さを持ち合わせ単独行動をするライガーファングが居た。この怪物はLv.2になったハムザをもってしても、簡単な相手ではなかった。一匹仕留めるには数発もらうことを覚悟しなければならなかったし、天然の捕食者としての粘り強さと執念深さに、精神的に参ってしまいそうになることもしばしばあった。
そんな怪物達の襲撃から拠点をたった一人で守りきったハムザは、明らみを増す天井の水晶目掛けて、かなり大きな溜息を吐いた。
既に疲労が溜まっている。まともな食事や睡眠が取れなければ、迷宮では命取りだ。だが、ここにはそのどちらも転がってはいないようだった。ハムザは別々になった他のパーティのことを考えた。もしや、既に全滅しているかも知れない。そうでないとしても、これだけ過酷な環境では、三日と持たないだろう。
自分達も十分に気をつけなければならない。そう考えている時、リリが目を覚ました。
「…おはようございます」
リリの目は、どうやらクマができているようだった。
「眠れなかったのか?」
「…残念ですが、ほとんど。ハムザさまがすぐ傍で守ってくれていたものの、怪物の咆哮や剣戟で、緊張が解けませんでした」
まぁ、そうだろうなとハムザはリリの頭を撫でた。
「ここの夜は、危険だ。怪物が強くなってるし、頻繁にやってくる。早急に手を打たないと、あまり長持ちはせんな」
「そうでしょうね。とにかく、出来ることは何でもやるべきです」
リリは水筒の水を顔に掛け、顔を洗う。そしてやや逡巡してから、ハムザの顔を見上げた。
「…ところで、男性は朝に元気になる方が多いようですが、迷宮でもそれは変わりませんか?」
予想外の言葉に驚くハムザだったが、すぐに返事をする。
「もちろん変わらない。むしろこういう場所だからこそ、本能が告げるのだ。女を孕ませとな」
「…それならリリも、本能に従います」
リリは立った状態で腰を突き出してから、ローブを捲くった。するとリリのぴっちりとした小さな女性器がハムザの目の前で露になる。
「…折角ですから、獣のように声を張り上げて、開放的な野外での情事を楽しんでみませんか?命様が起きてしまうとか、他の誰かに聞かれるとかは、この際目を瞑りましょうよ」
「乗った」
ハムザはリリの挑発的な腰振りにすっかりその気にさせられていた。朝一番のどうしようもなく膨れ上がった股間でリリの入り口に触れ、そのまま突き入れる。
ややきついリリの膣内がきゅうきゅうと締まると、水を得た魚のように股間が喜び、腰の動きが自然と早まっていく。リリは両手を地面に突き、後背位で為されるがままに突かれている。ハムザは雄が雌を組み伏せる優越感に浸りながら、獣のようにリリの穴を突きまくった。
「あぅ~…良いです…もっとリリを犯して下さい!」
リリは叫び声を上げる。
「うぉおおおっ!」
それに呼応するハムザも、我武者羅に声を張り上げる。腰と腰がぶつかりあうパンパンという音が森に鳴り響き、雄と雌の愉悦の声が清涼な朝の風に運ばれていく。
「…っ出すぞっ!」
最後の深い一突きで、ハムザは腰を止める。リリの小さな体が何度も何度も大きく痙攣した。
絶頂した股間から迸る精液がリリを満たし、ハムザが股間を引き抜くと、小さな入り口から大量の白い液体がどろりと太ももに垂れていった。
「…開放的な朝のセックスは、どうでしたか…?」
息を切らせながら、リリはハムザに問う。そしてハムザも同様に、肩を震わせながら答える。
「…嫌いじゃないな」
そして、眠りについていた命は。
(…何事っ…!?)
二人の絶叫によってすっかり目を覚ましており、その淫靡な光景に目を釘付けにしていた。
●
遭難二日目も、ハムザとリリは依然として拠点を離れようとはせず、守りを固めるための作業を続けていた。昼の間はあまり怪物が見当たらない理由を、リリは「眠っているのかも」と推察した。
迷宮で昼夜が分かれているのは珍しく、リリの知る限りでは
だが、とにかく昼の間に作業を分担して行えるのはありがたかった。リリは命の体調にしっかり気を配りながら、近くの肉果実や果実ベリーを収集し続けた。
ハムザは拠点の柵を完成させるため、時折襲撃に来る怪物を蹴散らしながら、手を豆だらけにして百本以上の木を伐った。リリもそんなハムザに呼応するように、無駄口を入れずに黙々と作業を続け、時折川辺へ下り飲み水を確保して、また作業に戻り——そうして作業と戦闘を繰り返していくうちに、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。
もう地上では真夜中かも知れない。少なくともあのぐうたら女神は、とっくに眠ってしまっている頃だろう。昨日『豊穣の女主人』の美女達と大騒ぎをする予定になっていたが、一体どうなってしまっただろうか。
他のパーティはもう正規ルートへ合流しているのだろうか。あるいは、とっくに全滅してしまっただろうか。
いろいろと心に思いを巡らしつつ、ハムザは怪我に苦しむ命に、最後の
だがそれを必死に堪え、ハムザは立ち上がった。
防御柵で囲まれた拠点の真ん中に、簡易ベッドが三つ。その中心でキャンプの火があかあかと燃え続けている。
「休んでいる暇などありません。これだけ頑張っても、どうせ眠れないのですから」
リリの言う通り、休む暇などなかった。いつの間にか壁から産まれ落ちていたライガーファングが、抜き足差し足でこちらに近づいて来ていた。
ハムザは剣を抜き、凄まじい速度で飛び掛る怪物に対応する。体を捻り、突撃を回避すると、ライガーファングは牙をむき出しにして威嚇した。
そして、二度目の突撃。
ハムザは見事にタイミングを合わせ、すれ違いざまに腹部に剣を突き刺す事に成功した。
灰に変わっていくライガーファングが、魔石と牙を落とす。ハムザはある手ごたえを感じていた。
「…何となく分かってきた。こいつらは基本的に獲物の喉を狙う。俊敏で強靭だし、耐久もなかなかあるが、攻撃のパターンが読みやすいな」
初めて無傷で勝利を収め、ハムザは成長を実感していた。対面するリリは、そんなハムザがとても頼もしく思えた。続けて壁面に亀裂が走り、ハードアーマードとアルミラージが二匹ずつ、赤い瞳を光らせた。
「…もう一丁、来ましたよっ!」
「下がってろ!俺がやる」
すぐさま陣形を整えた怪物のパーティは、定石通りにハードアーマードが盾となり戦線を作ろうとする。ハムザはリリを背に隠し、群がる二匹のハードアーマード達と応戦する。
ハードアーマードの固い殻に剣は弾かれ、ハムザはしつこい突進を何度も避け続ける。そして、機を見計らったアルミラージが投斧を放った。一直線に飛んできた投斧を左手で掴み取り、それを思い切りハードアーマードに打ち付けた。
『グギャアアアッ!?』
ぐちゃり、と気味の悪い音を立て、一匹を仕留めることに成功する。どうやら斬撃への耐性はあっても、打撃への耐性はそこまで高くないようだ。要領を得たハムザはハードアーマードの尻尾を掴み取り、大きく振り回してからアルミラージに向けて投げ飛ばした。
『ギャアアアアアッ!』
見事に命中し、激突した怪物同士は灰へと変わっていく。
「上出来だな」
昨晩苦戦した怪物達相手に、攻略法が見えた。各々の弱点を把握すれば、効率良く狩りが出来る。ハムザにはこの晩が、昨晩よりも楽になるだろうという予感があった。
「まぁ、リリは何もしておりませんが。おや、命様が起きられたようです」
木の枝の寝床から、命が顔を覗かせていた。
彼女は揃って武器を構える二人を見て何を悟ったのか、鎧を着込み始める。
「わ、私も手伝います…。このような時、いつまでも伏していたとなっては…仲間に、タケミカヅチ様に顔向け出来ません。体調は、大丈夫です…」
そうは言ったものの、まだ彼女は完全に回復していないのは口調からも明らかだったので、ハムザは拒絶する。
「勘弁してくれ。お前は安静にしてなければ。無理させたせいで死んでしまいましたとなったら、それこそタケなんとか様に顔向け出来ん」
「ですが……」
言いよどむ命。リリはハムザとは別意見らしかった。
「この夜を乗り切るには、交代での夜番が必要です。どうせ断っても聞かないでしょうから、ハムザさま、ここは引いてください」
命はその通りだと頷いた。
「…私は腹をくくっています。ハムザ殿、後は貴方次第です」
困ったことになったと、ハムザは命を眺める。オラリオでは珍しい、黒髪美少女だ。こんな子に本気で『おねだり』をされてしまっては、断れる訳がないのだ。
(う~む。ここで死なれては困るが…。ここはいっそ覚悟を決めて、攻めるか)
「よし、わかった」ハムザは言った。
「俺の命令に従えるか?」
「休んでいろ、という命令以外ならば従います、ハムザ殿」
「それなら決まりだ。リリ、すまんが」ハムザは言う。
「そう言うことだから、よろしく頼む」
とんとん拍子で話が進んで行く会話に、リリが口を挟む。
「ちょっと待ってください、リリだって戦いたんです。お二人が戦っている間に眠るだなんて、とても出来ませんよ」
だが、ハムザは彼女の言い分を認めたくはなかった。だからリリには「眠れなくても目を瞑っていろ。体力がなくなれば死ぬ」と無理矢理言い聞かせた。
「仕方ありませんね」とリリは頷いて、皮張りの寝床に横になった。
「気を遣って頂いて感謝していますが、ハムザさま。あまり
もちろんだと頷くハムザ。だが、リリは本当に彼が自分の意図を理解しているのかどうか、どうにも確信が持てずにいた。
●
命とハムザによる拠点の防衛は、ハムザによる戦闘レッスンも兼ねていた。
ハードアーマードの殻に苦戦していた命を見たハムザは、怪物の尻尾を掴み取り、振り回した。そして壁に叩きつけ、絶命させる。
「な、なんと…斬り合わないとは、卑怯な」
「卑怯も糞もあるか。これは生死を賭けたサバイバルなのだ。怪物は弱点を持つ。弱点を理解したら、それを上手く利用するだけだ」
「ですが…私にはどうも…」
「ところで、その剣は珍しいな。ちょっと見せてくれないか」
ハムザは命の持つ刀を手に取り、しげしげとそれを眺めた。
「こんな小さい刀身で、折れたりしないのか?」
「もちろん、誤った使い方をすればそうなります。刀は剣とは違い、デリケートな武器ですが…その道を極めた達人による一撃の威力は、どんな武器にも勝ります」
「ふむ、そうか。難しいのか。叩きつけるだけの剣とは、確かに違いそうだ」
ハムザは刀を命に返してやった。そして黒い夜の中、焚火に照らされる命の元に投斧が飛んでくる。それを剣で叩き落し、投斧を拾い上げて飛んできた方向目掛けて投げ返す。甲高い怪物の断末魔が、投擲の命中を告げる。
「何故かアルミラージは投斧を掴みたがる。力はそんなに無いくせにな。俊敏さを活かして避ければいいものを、何故か掴みたがるんだ。アホだからな」
「そ、そうですか……」
「ハードアーマードは尻尾を掴んで振り回せば何も出来なくなる。剣で斬るより掴んで投げた方が効率が良い。ライガーファングは、絶対に喉に噛み付きたがる。飛び掛るタイミングで下から剣を突き上げれば、大体一発だ」
「は、はぁ…成程」
「ではここで問題だ。ヘルハウンドは獲物をじっくりと観察し、弱るのを見計らっている。ここの階層じゃ滅多に姿は見せない。だが、火炎攻撃は脅威だ。どのように対処するのかね?」
「えぇと、私のスキルを使います。それで位置を特定し、先制攻撃を……」
「違う、違う」
ハムザは首を振る。
「まぁ、この際魔法やらスキルは忘れよう。俺だって魔法は使えるが、使用機会は出来るだけ少なくしているからな」
今までの命の固い表情に、興味ありといった色が混ざる。
「魔法ですか…。それは…便利なものなのでしょうか?攻撃魔法でしょうか、それとも…」
「不便極まりない。まるで呪いだ。いや、呪いか。実際に」
「呪詛、ということでしょうか?」
その通りだ、とハムザ。命は初めて呪詛持ちの冒険者と出会ったと喜び始めた。
「それで、どのような——」
命は言葉を途中で切った。これ以上詮索するのはまずいか、と考えているようだった。
「別に、聞かれて困る内容ではない。むしろ悩みの相談相手が欲しいくらいだ。俺の魔法は【イェベン・ティ・マーテル】という。どうだ、変な言葉だろう。発音が難しくて、どうも好きになれん。効果は、そうだな。えぇと、強制的に
「強制的に、
命は何度かそう繰り返した。
「対人専用、ということでしょうか?」
「ん?いや、怪物にもしっかり効くぞ。このあいだのミノタウロスなんかも、一発でおねんねしていたな」
驚いた顔で、命は声のトーンを上げる。
「怪物にも
「確かにな。俺も実際見るまでは、考えもしなかったことだ。とにかく…」
ハムザは転がっていた小石を、暗闇に浮かんでいたインプ目掛けて投げつけた。
『グぎゃアあっ!?』
命はインプに全く気が付いていなかった。少しドキドキしながら、ハムザが語るのを黙って聞いていた。
「全ての美徳を備えた俺に相応しい、最強の魔法だ。誰でも一発で倒してしまうのだからな。だが、俺は代償を払う。大きな、とても大きな代償だ」
ごくり、と命は喉を鳴らす。即死級の呪詛。一撃必殺の魔法。一体それに見合うだけの代償とは何だろうか。もしかしたら、寿命だろうか。
命は考えを巡らせながら、ハムザの次の言葉を待った。
「出来なくなってしまうんだ、セックスが」
「……………それだけ、ですか?」
目を見開いて、命は凍りついたまま上ずった声を出す。だがハムザは重々しく、まるで何者かに我が子を連れ去られた父親のように、苦悶に満ちた表情で呟いた。
「許されんことだ!」
悲痛の叫びが迷宮に木霊した。
「セックスが出来なくなるだなんて。あまりにもひどい、一体俺が何をしたっていうんだ……」
「釣り合ってないように思いますが」命の発言に、ハムザはその通りだと声を荒げる。
「全く釣り合っていない!重すぎる
「えぇと……」
命は完全に逆を突く発言に閉口した。
「ここ数日、俺は随分と苦しんだ。もう魔法は使いたくはない。あの変な殺人狂の女さえ来なければ…もう二度と…。とにかく、
辛い過去の記憶が、ハムザの喉から悲嘆となって飛び出してきた。
「あぁそうだ。色々あった。アスフィちゃんにはインポと罵られた。ナァーザには噛みつかれた。歯形は痣になって残ってる。良い雰囲気になったのに勃たないと知って、シルちゃんは相当落胆していた。他にもリューちゃんや猫の店員さん達や、その他もろもろの可愛らしい街娘たちの全員が…失望の目で俺を見るのだ」
「そ、そうですか……」
「そうなんだ!どこかにインポを馬鹿にする奴がいたら、この世の果てまで追いかけまわしてとっちめてやる。この悲しみは、当事者にしか分からん。俺は世界中のインポの代表者になってもいい。彼らの住みやすい世界を、俺が作るのだ」
「えぇ、と…」
「唯一、リリだけが」
ハムザは感謝してもしきれないという表情で言う。
「あいつだけが、俺の面倒を見てくれた。あいつは俺には欠かせない。この呪いを打ち破る救世主だ。普段はぶつぶつ文句を並べる奴だが、いざとなれば従順で可愛い奴だ。俺はリリなしでは生きていけん」
「お二人は、そういう関係なのですね」
何とか命は言葉を口にすることが出来た。だが、困惑する彼女に構うことなくハムザはどんどん話を続けていく。
「だが、呪いは解けた。俺は傷の癒えた鷹よろしく、素晴らしいこの空に羽ばたくのだ。命ちゃん、君は確かにこう言った。俺の命令には従うと」
「はい、そう言いましたが——」
その時、なんの前ぶりもなく、ヘルハウンドが焚火の傍に座っていた二人へ飛び掛かった。命はぎょっとして後ろに倒れ込んだが、ハムザは驚異的な反応速度で怪物を真っ二つにしていた。
未だドキドキと早鐘を打つ鼓動を抑えながら、命は深呼吸して息を整える。
「し、心臓に悪いですね、この場所は…」
「慣れてしまえば、問題ない。そんなことより、命ちゃん。緊急指令だ」
ざわざわと草むらが揺れている。また怪物が来たのだろうかと、命の鼓動は早まる。
「俺の命令は絶対だ——」
ハムザの言葉に耳を傾けるべきだろうか、それとも怪物の襲撃に耳を澄ませるべきだろうか…思い悩む命だったが、やがてすべての思考が停止する。
「これをどうにかしてくれ」
そう言ってハムザはズボンを下ろし、いきり立った息子を曝け出した。
命の時は止まった。
ただ激しい鼓動の音だけが鳴り響く。そしてまじまじと初めて見る男根を眺めてから、両手で顔を覆った。
「し、しまってください!」
「俺は君が欲しいんだ」
「そ、そ…そんなことを言われてもっ!?」
命は赤らんだ。ハムザが下半身むき出しのまま近づいてきて、ますます赤らんだ。
だが、ハムザの期待とは裏腹に、そんな窮地にも命はすぐに冷静さを取り戻してみせた。
瞑想するように目を閉じ姿勢を直し、目の前に突き出た男根にも動じず言ってみせる。
「…申し訳ありませんが…その…。応えられません私には…想い人が…」
「命令は何でも聞くと誓った筈ではなかったのか?」
厳しい追及にもめげず、命は答える。
「…出来ることと出来ないことがあります。バベルのてっぺんまで跳躍してみせろと言われても出来ないように…私にはそういったことが出来ないのです…」
「恩恵のあるこの世界に、不可能は存在しない!さぁ、やるんだ。でなければ命ちゃん、君は命の恩人の不興を被ることになるぞ」
ぐぐ、と命は堪えて言う。
「ハムザ殿には…リリ殿がいるのではないですか…?」
「——そういう関係ではありませんよ」
その時、どこからか聞こえたリリの声が二人の会話を遮った。リリは寝床から顔を覗かせて、眼をこすりながら外へ出た。
「全くお二人とも。そんな大声を出されては怪物が集まってしまいますよ?ハムザさま、余りにもうるさいのでリリはすっかり目が覚めてしまいました。多少は休めましたので…命さま、ベッドを使って頂いて構いませんよ」
命はどうするべきかと悩んでいるようだった。このままリリの言う通りにすれば、少なくともハムザの魔の手から逃れることができる。だが、それは同時に、命の恩人に失礼な態度を取ることをも意味する——。
「ハムザさま、あまり無理はするなと言ったではありませんか。命様には、まだ早いですよ」
そう言ってリリはちょこんと跪き、露出した男根を咥えこんだ。
「うほっ」
間の抜けた声を出すハムザ。命は突然の出来事に硬直することしか出来なかった。
「はむ…ふぅ、まったく。今朝抜いてあげたばかりではないですか」
慣れた手つきで奉仕するリリを、命は何事かと問いた気な顔つきで眺める。彼女の視線を理解したリリは、淫靡な愛撫を続けながら命に説明した。
「…んっ、呪いのような…ものです。こうして定期的に抜いてあげないと…んんっ。気が狂ってしまうんです」
卑猥な音をわざとらしく立てながら男根を舐め上げる幼い少女の姿は、理解の限界を超えていた。命にとってまったく未知の世界がここにある。動揺を隠せずに命は狼狽える。
緊張感からだろうか。命の鼓動は激しく打ち続け、言い表せない感覚が胸を締め付ける。
「んっ…命さまも、やってみたいですか?」
リリは股間から口を離し、その先っぽを命に向けてみせた。
そして何かが決壊した。
「御免っ……!」
我慢の限界を超えた命はくるりと背を向け、寝床へと駆けこんだ。
「あ、いく…」
ハムザはリリの顔に全てをぶちまけた。絶頂感が体中を駆け回り、ハムザを満たした。
「やっぱりこうなってしまいましたか」
どろりとした精液を指で拭っては、ぺろりと舌に絡ませる。リリは全く呆れたとハムザに文句を言った。
「だから言ったんですよ。命様に嫌われても、リリは知りませんよ?初対面で体を求められては、ああいう人は困惑してしまいます。じっくり時間をかけないと、心を許さないタイプですから」
「あぁ、すまん。つい我慢できなくてな。怪物の襲撃にイライラしてたせいで、つい…」
「まぁいいですよ。これもサポーターの仕事ですから」
そう言ったリリは随分嬉しそうだった。ハムザには不可解な笑顔だったが、とにかく気にしないことにした。
●
翌朝、命はひどく疲れた顔で今にも倒れてしまいそうだったので、リリとハムザはこの日も拠点を動かないようにするつもりだった。だが、暫くすると命は起き上がり、二人に探索に行くように頼み込んだ。
今のところ明るいうちには危険も少ない上、自分だって一人でも十分に闘えると言い張る。
リリやハムザもそろそろ周囲の様子を見に行きたいと心では思っていたので、彼女の言うとおりにすることにした。
「パーティを分断するのは賢明とは言えませんが、そろそろ食料を確保しなければなりません。ここのエリアには…あまり残っていないようですから」
予定よりも早く近辺の食料が枯渇し始めた事を懸念し、早めの行動を決める。
命は彼らが提案を受け入れたことを、ほっとしている様子だった。
二人は丸太の柵の一部に作った開閉式の扉を押し開け、拠点の外へ歩いて行った。
「……はぁ」
命は苦痛から、そして下半身のむず痒さから大きく溜息を吐いた。昨晩の出来事に心を乱されたお陰で、一睡も出来なかった。そんな自分の苦悩は露知らず、今朝も二人は大声を張り上げながら情事に耽っていた。
そのせいで、こんなに体中が痛むにも関わらず、下腹部が湿ってしまっている。
命はそっと右手を自分の股間に当てた。そして、既に敏感になっている女陰の突起を擦り始めた。
「…一人になれて、良かった……やっと発散できそうです…」
迷宮には沢山の痕跡が残されていた。
二人が足跡に踏み鳴らされた土を早足で辿って行く途中、冒険者の死体がちらほらと現れ始めた。ある者は体の一部がひしゃげており、ある者は喉元を食いちぎられている。
歩を進めていくに連れ、死体が増えていることにハムザは気がついた。そしてリリは、異なる種類の足跡の痕跡を目ざとく見つける。
「…行きの足跡は深く濃く、帰りの足跡は浅く薄いですね。ということは、行きはゆっくり確実に歩いていき、帰りは慌てるように走り去っていったということでしょうか」
「ふむ…。この先で何かが起きたのは、間違いないか」
死臭に鼻を摘みながら、二人はどんどん奥へ進んでいった。
そして、その先には。
多数の冒険者の死骸が横たわり、その肉に釣られてやって来た怪物が群がっていた。
「うげっ…これ全部死体か?」
魔道師やら戦士やら、沢山の冒険者の死体の山。それぞれが顔を粉々に砕かれており、素性を識別することは難しいようだった。
「…この階層にはリリ達がまだ出会っていない何かが居る、ということでしょうかね」
「それか、あの殺人狂か。とにかくどちらも危険だということだ」
ハムザは死体を何体か確認したが、有用なアイテムは見当たらなかった。
「ともかく、この先の洞窟が危険だということだな。どれ、ちょっと行ってみるか」
ハムザは「危険すぎますよ」と言うリリの制止を聞かず、洞窟の内部に侵入した。
明かりが差し込み、内部はそこまで暗くない。数秒歩いただけで、それが洞窟というよりはトンネルだということが分かった。
「先にも森があるぞ!」ハムザはリリに聞こえるように大声で叫んだ。その時…。
(おいおい、なんだこりゃあ…?)
不気味な音が洞窟を震わせる。
『ボォオオオォオ…』
そして身震いするほどの唸り声と共に——巨大な影が覆いかぶさるように、洞窟内へ突進してきた。
「うぉおおおおおぉっ!?シルバーバック!?!」
巨大なシルバーバックはハムザに殴りかかった。避ける体勢が整わず、ハムザは凄まじいぶちかましを全身で受けた。
「ぐおっ!?」
そのままハムザは洞窟外へ吹き飛んで、大木に激突した。
「ハムザさま!?」
圧倒的な破壊力だった。これまでの雑魚とは比べ物にならない力。それはランクアップしたハムザをもってしても太刀打ちできない力だった。
しかし、ハムザは頭から血を流しながらも立ち上がる。その紅い瞳が、炎のように揺れた。
「ゴリラめ…人間様がきちんとした挨拶の仕方を叩きこんでやろう」
怒りの形相でこちらの方へやって来たシルバーバック。大きな腕で、入り口に重なっていた死体を一掴みし、思い切って放り投げた。
『グガァァァッ!!』
咆哮にリリは耳を塞ぐ。木々の枝から葉が吹き飛び、咆哮は脳まで揺らすかのようだった。
これは、『
(関係ないか、打ち殺すまでだ)
ハムザは足にありったけの力を込め、お返しの突進をお見舞いする。
直後、目にもとまらぬ速さで、シルバーバックの腹部にドロップキックが叩き込まれた。巨大な野猿は体をくの字に折って吹き飛び、派手に地面を転がった。
「そうだ」
地に片膝をつき、ハムザは立ち上がる。
「今のが会釈だ。だが、握手はしなくていいぞ。俺はお前が大嫌いだからな」
野猿もまた立ち上がり、瞳に怒りを浮かべて再び突進した。
まるで岩石が猛スピードで飛んで来たようだった。ハムザは間一髪でそれを回避し、すれ違いざまに斬撃をお見舞いする。
「っ!?」
キンッ、という衝撃音と共に、刃は剛毛に弾かれた。ヘルハウンドなどの下級怪物には通用した斬撃が…まるで通じない。
「ちくしょう…こいつは分が悪い」
シルバーバックは雄叫びを上げ、再びハムザ目掛けて突進をしようと間合いを詰める。だが、ハムザは大きく旋回しながら、怪物との間に一定の距離を保ち続けた。慎重に、距離を測る。
怒りに身を任せて闇雲にタックルを仕掛けるシルバーバック。だが、充分な間合いを保っていたハムザは、突進をぎりぎりのところで回避した。
「お遊びはおしまいだ」
すぐさま背を向け、走った。
「逃げるぞ!案内を!」
がさっ、と草むらからリリが飛び出してハムザを先導した。シルバーバックは吠え、二人を追い始めた。だが、野猿はすぐに追跡を諦め、森の中へ帰っていった。
「はぁ、はぁ…。一体なんなんだ、あの野郎」
二人は肩で息をしながら両手を膝について呼吸を整える。
「…どうして、追って来なかったのでしょうか?」
「うむ…何か、理由があるのかも知れん。例えばだが…生活範囲があるのかもな。どちらにしろ助かった、はぁ」
「とにかく、リリはハムザさまが死んでしまったかと思いました。あんな一撃をもらって、よくご無事でしたね?」
先ほどの戦闘で受けたダメージは、確かにハムザを苦しめていた。だが、幸いなことに致命傷は受けていない。鎧が大部分の衝撃を吸収したのだ。
「まるで化物だった。鎧のお陰で命拾いしたようだ」
「…本当に、その鎧はどうなっているのでしょう。実はどこかの名匠の作品ではありませんか?」
「あぁ、そうかも知れない。だが、呪われているという話だ…」
ハムザはその話を思い出して、胸のあたりに違和感を感じた。だが、必死にそれは気のせいだと自分に言い聞かせるようにし、出来るだけ考えないようにした。
(大丈夫、呪いなんてある筈がない。装備した奴らが全員行方不明になったのも、鎧がひとりでに帰って来たのも、全部気のせいだ。最近じゃあ随分しっくり来るじゃないか。しっかりしろよ、おい。お前が不安になってどうする・・・)
リリはため息を一つ吐き、ハムザの袖を引っ張った。
「とにかく、はやいことこの場所を離れましょう。あのシルバーバックに目をつけられたら、リリは生き延びる自信が全くありませんから」
●
二人は鬱蒼と生い茂る木々の隙間を縫うように進み続ける。そして数刻、二人は壁にぶつかった。
巨大な岩壁は天井まで続いており、蔦が壁面を覆いつくしている。ここがこの階層の端のようだった。
そして、リリが痕跡を見つけた。水気を含んだ地面が明らかに踏みならされており、足跡が茂みへと伸びている。間違いなく冒険者達が歩いた跡だった。二人は壁面伝いに足跡を辿りながら、更に数分歩いた。そこには、ぽっかりと口を開けた別の洞窟の入り口があった。
「足跡はここに入り込んでいます。きっと別のパーティの野営地なのでしょう。もしかしたら、誰かがいるはずですよ」
ハムザは顔をしかめながら、リリの言葉を否定した。湿った木の匂いに交じり、僅かな異臭が漂っている。なるほど、確かにここには人がいるだろう。生きているか死んでいるかを別にすれば、何かがいるのは間違いなさそうだった。
洞窟に足を踏み入れていく。空間は下へと続いており、横に広かった。鍾乳石がつららのように生え、木々はここまで入り込めないようで、まさしく洞窟そのものといった風景だった。内部の奥まったところに、冒険者の亡骸が転がっていた。鎧を着ている者も、ローブを纏っているものも、皆すべて横たわり、息をしていない。
「…死因は何でしょうかね?」
所々に外傷が見られたが、どれも致命傷とは思えない。【ガネーシャ・ファミリア】について行ったが、あの野猿の襲撃から逃れてここに迷い込んだのだろう。自分達のように拠点を作るつもりだったのか、集めてきたらしい
「おい、ここに穴がある」ハムザが屈みこみながら穴を覗き込んだ。
その穴は小さく、パーティが置いたであろうアイテムの類や、食料、調味料が奥の方に置かれていた。ハムザが喜んで横穴に入り込もうとするが、穴は低く狭く、入ることができない。
「リリの出番です、任せてください」
代わりにリリが入り込んだ。横穴は、まるで
「お可哀そうに。このパーティのサポーターも、
ちらり、とリリは黄色くなって横たわる同族を見た。まだ随分若いようだった。雇われたのであれ、パーティの一員だったのであれ…ここで生涯を終えるのは、きっと悔やしかったことだろう。
「…麦か?麦とオリーブだ。このエンブレム、見覚えがあるか?」
死体を転がしながら、ハムザは鎧に刻まれたエンブレムを見た。リリは知っていると頷く。
「…【シモエイス・ファミリア】です。盗賊時代…何度かカモにさせて頂きました。平凡な迷宮探索型ファミリアです…」
「そうか」リリの心の苦痛を感じ取ったハムザは、さっさと戻ろうと彼女を急かす。
「何にせよ、前触れもなく急に人が死ぬことはない。人が死ぬだけの理由がこの場所にあったのだ。となれば、長居は無用」
ぽん、とリリの背を叩き、ハムザは彼女を元気づけてやった。
「彼らのお陰で今夜はそれなりの晩餐が取れる。酒まで持っていやがったからな。まぁ、なんだ。葬送なんてする余裕はないが、乾杯くらいはしてやろうじゃないか」
「そうですね」リリは少しだけ明るさを取り戻した。
「このサラマンダーウールを予備に持ち去っておきましょうか?」
地面に転がる耐火装備を見て、リリは思わずそれを拾い上げようとした。ハムザがその手を制す。
「俺達も持ってるのだから、いらん。それはそいつらの顔にでもかけてやれ。俺達に予備は必要ないな」
「そうですね…」リリは頷く。
「さっさと拠点に戻りましょう。探索に随分時間を使ってしまいましたから、暗くなる前に戻らなければなりません」
「あぁ、そうだ。ついでにさっさと地上に戻って、シルちゃんやリューちゃんに囲まれながらうまい飯でも食いたいところだ」