ダンジョンに性交を求める眷属の物語 作:kuracjaponski
不思議なことに、リリが強化種を打ち倒してからパタリと夜の襲撃が止まった。これには全員が助かった。夜番の必要がなくなったし、睡眠を削って戦闘を続ける必要が全くなくなったからだった。だが、依然として周囲に怪物はいるようだったし、北側にはミノタウロスやオークなど、中型怪物も出没する様子ではあった。だが、少なくともリリが《シルバーバックの毛皮》を被っている限りは、怪物は全くこちらに近づいてこなくなったのだ。
この現象を、リリは『黒龍の鱗現象』と名付けた。
どうやら自分よりも遥かに上位に属する怪物を、怪物が恐れるらしい。その強大な力を本能で感じ取り、恐れ、近づきたがらないということだった。今のところリリの仮説は正しかったし、誰もリリに反論をする気になれなかったので、取り合えず毛皮は強力なお守りも兼ねていると、そう皆は考えることにしていた。
しかし、実際問題としてそんな超強力な魔除け装備が存在しているとしたら、途轍もない希少アイテムということになる。迷宮に居ながら怪物を避けることが出来るとしたら、探索がこの上なく楽になってしまうからだ。
だが、あの強化種の異常な能力には、確かに目を見張るものがあった。強化種という希少であり強力な怪物のドロップアイテムと考えれば、それほど強い効果を持っていても、不思議ではないかもしれない。
そんな強力なシルバーバック強化種を倒し、三人が拠点に戻った時の他の冒険者達の顔は、筆舌に尽くしがたい程に滑稽だった。トゥリウスなどは一向に信じようとしなかったが、ニコラスがリリが纏う毛皮を指さすと、何も言えなくなってしまった。しかし、トゥリウスはシルバーバックの死亡を認めるかわりに、どんどん猜疑心が強くなっている様子だったのが、リリは気がかりだった。
そして迎えた、強化種打破から二日目の夜のこと。
事件は起きた。
夜な夜な起き出したトゥリウスは、誰にも気づかれず、ハムザに近寄って首を刎ねようとしたのだ。たまたまハムザのことを考えていたせいで眠れなかった命がその危機を察知し、間一髪でトゥリウスのナイフを弾いたことで助かったのだが、それから怒った命はトゥリウスを殺そうかという剣幕でまくし立てたのだった。
「何ということを!恩知らずこそ、最大の恥ずべき行為です!弁明の言葉が無いのなら、私は今すぐ…トゥリウス殿、貴方を斬り捨てる!」
トゥリウスの形相は、命の言葉を受け、怒りで爆発するかのようだった。
「恥じを知るのはお前だ!」
一度吐き捨ててから、捲し立てる。
「お前は間違いなく、裏社会に繋がっている!あの女の仲間だろう、えぇ、【テルクシノエ・ファミリア】よ!お前達が私の愛する仲間達を殺したのだ!見るも無残なあの亡骸を…お前達が作り上げたのだ!」
「ちょ、なんのことですか?」
騒ぎを耳にしたリリは目を覚まし、トゥリウスの言葉を聞いていたがすぐに言葉を返す。
「私達は【アポロン・ファミリア】にちょっかいなど出しておりませんよ」
「しらばっくれるな!」トゥリウスは叫んだ。そして、短刀を持ち直し、リリに向かって飛び掛かった。
だが、リリが纏っていた毛皮はあっさりと攻撃を弾き、反動でトゥリウスは地に倒れる。そこをすかさずハムザが抑え、首元に剣先を突き付けてから言った。
「俺がすっかり納得するまで訳を話せ。出来ないのなら、殺してやるぞ」
「ひっ……」
トゥリウスは威勢を失くし、今度は涙ながらに語り始める。その様子を見ながら、ニコラスは沈痛に相貌を崩す。
「...俺達は、影の化物に襲われた。それで冒険者は散り散りになった。だが、俺達は生き延びた。そして怪物の特徴を掴んだのだ。奴は明かりを恐れ、激しい炎がある所には姿を見せなかった…」
嗚咽を漏らしながら、トゥリウスは途切れ途切れに続けていく。
「生き延びたんだ!生き延びた…。だが、あの女が滅茶苦茶にした。お前の仲間だろう?赤い髪の、蛇の目のような化物…。あいつに比べれば、強化種など大したことはない。雑魚だ!雑魚に過ぎないんだ……」
ハムザは喉元に突き付ける剣を持つ手を緩めず、警戒しながら続きを促した。
「それで、その女が何をした?」
「あ、あいつが…」
トゥリウスは苦しそうに呻いた。
「あいつが仲間を皆殺しにした!そして、食わせたんだ…!怪物の餌に…な、仲間を。それから俺は逃げた。仲間を置き去りにして、逃げたんだ。その様子をあいつはただ眺めていた…。それから俺はニコラスに出会った…。ニコラスもまた、仲間を殺された。あの女に…」
ハムザはニコラスを見た。彼もまた悲しみに打ちひしがれ、膝から崩れ落ちて全てを語り始めた。
「あぁ、そいつの言う通りだ!…俺達は最初にシルバーバックと戦って、敗走したんだ。おめぇも知ってるな」
ハムザが頷いたので、ドワーフの
「それから俺達は逃げ遂せた。あっさりとだ。あいつは逃げる敵に執着しねぇからな…。それで、森で怪我人の手当をしていたら、あの女が来やがった。何も言わず、次々と仲間の顔を握りしめ、砕きやがった。それからあいつは魔石や食料を要求した。あいつは袋を持っていて、その中には既に大量に入っていたがな」
「それで、渡したのか?」ハムザは聞いた。
「あぁ、一部はな。だが俺が隠し持っていたもんまでは、あいつは気にしなかった。既に十分量を手に入れたってことだろうよ。あいつは俺の仲間を全部殺しちまった後、俺に聞いた。生きたいか、ってな。俺は答えたぜ。殺せ、ってな」
ごくり、とリリは喉を鳴らす。
「だが、あの化物は無言で去っていきやがった。とんでもねぇ奴だ…あの冒険者め。それで俺達生き延びた連中で、必死で隠れていた訳よ。その時、お前さん達を見つけた。もしかしたらあの女の仲間かもしれねぇと思って、最初は声を掛けなかったさ。だが、シルバーバックを倒す手助けが欲しいって聞いてから、俺はお前達を信じることにした。今じゃ確信を持って言えるぜ、お前達はあの化物の仲間じゃねぇ。あいつは血が通ってねぇが、お前らは違う」
「ふむ…それならニコラス、お前は命拾いをした。だがトゥリウス、お前は駄目だ。殺すことにする」
「ま、待ってください!」
それまで不安げに成り行きを見守っていた魔導士の二人が声を荒げる。
「どうか、お慈悲を…冒険者ハムザ様…」
見目麗しいエルフにおねだりされてしまったハムザは、仕方なしと手を緩め、トゥリウスを解放してやった。だが、すかさずトゥリウスは短刀を握りしめ、ニコラスの腹を突いた。
「がはっ……!?」
不意を突かれたニコラスは何もすることが出来ず、そのままトゥリウスに何度も腹を刺される。
「お前は…!この、愚鈍なドワーフめ!死をもって、その愚かさを学ぶがいい!」
返り血で血まみれになったトゥリウスは、少し離れてハムザをねめつける。
「覚えていろ、【テルクシノエ・ファミリア】。いや、闇派閥の悪鬼ども。我ら光の【アポロン・ファミリア】が、お前達を皆殺しにしてみせる!」
トゥリウスはそう言ってニコラスを蹴り飛ばし、エルフの魔導士二人と共に闇の中へ消えていった。
ハムザは血を吐くニコラスに、そっと近づいて彼を起こしてやった。
「…すまねぇ、最期まで、面倒みさせちまったみてぇだ」
「構わん。何か伝言があれば言ってくれ、地上へ戻ったら、伝えてやろう」
ニコラスはその申し出を断った。冒険者の死など、日常茶飯事。自分の仲間達はそれくらいの覚悟はある、とのことだった。
「家族はいないのか?」ハムザは問いかける。
「いたさ、だがあの女に殺された。嫁も、娘もな。魔導士だったんだ。優秀じゃなかったがな…。なぁ、ハムザ…お前なら、仇を討てると思うぜ……」
「そうか。楽にさせてやろうか」
「いや、必要ねぇ!お前さんの手を汚すまでもねぇ。間もなく、逝ける……」
ニコラスの口調は緩慢になり始め、目は虚ろに色褪せていく。
「お前さんには、英雄の器がある。死が、お前を遠ざけているのが見える……」
ハムザ達は無言で彼のいうことを聞いていた。
「……英雄になってくれ、ハムザ。そして俺達のことを思い出してくれ…。お前がそこへ辿り着くまでの道のりに、俺達家族の糧があったということを、思い出してくれ……」
「分かった、約束しよう」
そう言うと、ニコラスはかっと目を見開き、それきり動かなくなった。ハムザは死んだドワーフを寝かせ、リリと命を見る。
「……為すべきことを、為す必要がある」
「その通りです、ハムザ殿」
「はい、やりましょう、ハムザさま。あの
●
岩壁に囲まれたとある一室にて。
赤い髪の女が、大量の肉果実や果実、魔石に囲まれて食事を取り続けていた。
「足りん。くそ、こんなものでは…。【ロキ・ファミリア】の化物どもめ」
魔石を手に取り、それを歯で砕く。常軌を逸した女の食事は、かれこれ数時間は続いていた。
「なぁーんだ、レヴィスちゃん、まだ食べてたの?」
そこに均整の取れた顔に笑みを浮かべる、とある神が姿を現す。
「邪魔をするな、タナトス。【ロキ・ファミリア】のせいで、あちこち痛む。元の力を戻すため、私は食べ続ける。邪魔をするな」
蛇の目で睨みつけられたタナトスは踵を返し、部屋から立ち去った。暗い空間に残されたレヴィスは、肉果実を豪快にほうばる。
「……足りん、か。狩場のネズミの様子でも見に行くか……」
そして立ち上がった。完璧な女の肢体をマントで隠し、レヴィスは声を上げる。
「バルカ!私は狩場へ行く。扉を開けろ」
レヴィスの目の前で、巨大な扉が門を開いた。そして、その目の前に広がるのは。
鬱蒼と茂る、黒い森だった。
ハムザ達が北側に侵入して、数日が過ぎていた。三人は協力して寝床を拵え、万が一のために防柵も用意した。トンネルの近くはバナナが生い茂り、食料に困ることはなかったので、拠点には最適だった。そこから北側の探索を続けていたが、思いの外広かったため、地図を埋めるには時間を要した。
この頃、リリとハムザのセクロスが、命にとって目新しいものではなくなってきていた。ある時、二人が豪快に求めあっている横に命がやってきて、二人のために水筒を置いていった。どうやらそれくらいまで馴染んできたようだったので、ハムザはいよいよ処女の収穫の時期を感じていた。
雑魚の襲撃も受けず、食料にも困らず、ついでに性欲を十分に満たすことができ、睡眠にも困らなかったので、ハムザの体力はどんどん回復していった。そしてそれはリリも同じで、二人はとてもサバイバルを始めて十数日が経ったとは思えない程、気力体力共に漲っていた。だが、命は日々の疲労と緊張感による精神的負担に堪え始めており、体力を落とし続けているようだった。
暗闇に包まれる森の中、寝床に横になりながら命は思案する。このままサバイバルを続ければ、真っ先に死ぬのは自分だ。これから探索で出口が見つからなければ、恐らく自分は餓死するだろう。しかし、肉を喰い生きながらえたとしても…こんな迷宮で生き続けて、一体何になるというのだろうか。【タケミカヅチ・ファミリア】との日々が、今では遠く離れた異国の思い出のように思えてきた。
涙が頬を伝い、言い表せない悲しみが胸を締め付けた。
命は迷っていた。生還の希望を捨て、この地に死を見るか。それとも、ハムザが持つ英雄の器を信じ、希望を持ち続けるか。
どちらも簡単ではなかったが、命は決断に迫られている気がした。この場所で自分に残された時間は、恐らくそう長くはない。命は何故かそう感じていた。黒い夜の不気味な音や臭いが、死を考えさせ続けているせいかもしれない。
命は目を閉じ、主神の姿を思い浮かべた。
(強く優しいタケミカヅチ様…。最後にあってから、もう随分経ってしまった……)
記憶の中で、タケミカヅチは命に囁いた。
『…命、初心忘るるべからずだ…』
命はその言葉を反芻する。
(初心、忘るる、べからず……)
命は自分の修行時代を思い出す。恩恵を与えられる前から、自分は武人としての心構えや戦闘の技術を、必死に学ぼうと努力を続けていた。あの時は…希望に満ち溢れていた。輝かしい将来とその可能性に胸を躍らせ、自分の前に開かれた道の広さを想像してみた時、感動さえ覚えたほどだった。
それがどうしたことか。今では迷宮の見知らぬ土地で横たわり、希望のない死を見つめ続けている。あれだけ可能性に溢れていた筈の未来はいつの間にか閉ざされ、目の前には何も広がっていない。あるのは底の見えない穴か、或いは入り口も出口もない壁だけだ。
初心、忘るる、べからず。命は必死に希望に満ちた修行時代を思い浮かべた。そして、その努力は確かに心に変化をもたらした。そうだ、こんなことで挫けてはいけない。自分はここから生還し、英雄たるハムザとリリと共に、もう一度家族と抱擁を交わすんだ。
ヤマト・命はこんな所で倒れる筈がない。何故なら、自分は今、本当の英雄と共に冒険を続けているのだから。
命は心を決めた。そして、眠ることを諦めて夜番を務めることにした。寝床を離れ、焚火に目を向けた。
その時、不思議な影が一本、焚火へと伸びていき、爪のようなものが炎を奪い取った。
「…?」
焚火は勢いを急速に失い、明かりは失われた。そして、その怪物は影を纏い、暗闇の中で膨張した。
「っ…!?」
(視えない!)
命は突然閃いて、スキルを使う。
「【八咫黒烏】……!」
遭遇済みの怪物にのみ有効なスキル。隠蔽を無効化し、敵影を探知する。
「こ、これはっ…!?」
命の頭に浮かんだもの。それは、巨大なウォーシャドウだった。
ウォーシャドウはするするとハムザの寝床に近づいて行った。命は飛ぶように地を蹴り、影の怪物にぶつかった。
「ううおっ!なんだっ!夜這いか!」
「起きて下さい、火を、火を付けて下さい!襲われています!」
まさか、とリリは息を飲む。しかし、確かに暗闇の中で何かが蠢いているのが見えた。大急ぎで焚火へと近づくリリに、影の怪物は鋭い爪を振りかざす。
「ぐっ…!?」
命は刀でそれを受け止めた。だが…。
(重いっ…!!?)
能力の差が、はっきりと表れていた。
(ウォーシャドウは下層のモンスターな筈っ!?これでは、まるで…)
強化種。命は頭でその言葉を思い浮かべていた。
刀を構え、再びスキルを発動させる。怪物は目の前にいるようだ。その時ようやくリリが再び火を点した。怪物は明かりに照らされたことで悲鳴を上げ、するりと草むらの影へ逃げていった。
「助かった……」
命が肩の力を抜き、刀を下ろしたその直後だった。
ウォーシャドウは命の影から実体化し、完全に油断しきっている命の背中に、巨大な爪を振り下ろした。
「あぐっ…!?」
鮮血を撒き散らし、命は倒れ伏す。ハムザが剣を構え、リリが大慌てで薪を追加していくも……もうそこには、何もいなかった。
●
「本当に…申し訳ございませんでした…」
死の間際、命はハムザとリリに謝罪するばかりだった。
曰く、自分が足を引っ張ったと。そして、折角看病して下さったのに、このまま死んでしまうのが申し訳ないと。切り裂かれた背中はどす黒い血を流し続け、命が抱えられる一帯は殺人現場のように血だまりとなっている。
たった一度切り裂かれただけ。だが、強化種と思われるウォーシャドウの爪は、あまりにも致命的だった。
「俺を見ろ!大丈夫だ、大丈夫だぞ!お前は俺を救ったんだ。リリ、
寝込みを襲われたハムザを助けたのは、他の誰でもない命本人だった。だが、当の本人にとってそんな事実はあまり関係がないらしい。命の頭の中には、これまで尽くしてくれたハムザの優しさへの感謝で溢れかえっており、怪物とトゥリウスの不意打ちを防いだ程度では、全く釣り合いが取れていないと思っているらしかった。
「…うっ..、わ、私は…。タケミカヅチ様こそが理想だと、思っていました……」
命の瑞々しい顔から、どんどん血の気が失せていく。まるで洞窟でくたばった【シモエイス・ファミリア】の死体のように、土気色を帯びていく。
「ですが……今は、あまり分かりません…。ハムザ殿は、他の誰よりも、本当に素晴らしい……」
「くそっ、何かないのか!?リリ、何とかしてくれ!」
命は瞼を閉じた。ハムザの焦燥感が肌を通じて伝わって来た。薄れていく意識の中で、ハムザは何かを叫んでいた。リリがすぐに応えた。
『…スキル……』
木霊する声色は、不思議と希望に満ちているようだった。何かとんでもない財宝を見つけた者が上げるような、喜びの色が浮かんでいた。だが、命はもう、死の世界への旅路に着いてしまった。
暗い水底へ沈んでいくようだ。そして、冷たい死の手が迫り来るのが分かる。この場所では、もう誰も…救ってはくれない。どんな神の奇跡も届かない死者の国に、自分は足を踏み入れてしまったのだ。
もう誰も、自分の体を元の場所へ帰してはくれない。
その時、『死』の冷たい手が、すっと引いていく感覚があった。冷え切った体が温まっていく。命はその感覚に身を委ねた。心地良い感覚だった。これが『死の抱擁』なのだろうか?
暫くすると、遠くで誰かの声が聞こえる気がして、命は耳を澄ませた。ずっと昔に聞いたことがあるような声だった。その音はどんどん大きくなっていき、体はどんどん熱くなりはじめた。背中が焼けるようだ。そして、あらゆる感覚が一斉に息を吹き返した。その瞬間、命を包んでいた暗闇が弾け飛び、命はかっと目を見開いた。
「あっ……!」
目の前は森の中だった。弾ける焚火があまりにも眩しくて、命は目をしばたかせる。体を起こすと、不思議とあまり痛みがなかった。何故か股の辺りが痛んでいたが、斬られた筈の背中はすっかり元通りになっているようだった。
「目を覚ましたな」
ハムザに自分の顔を覗き込まれると、とても安心した。だが、ハムザの下半身から、長い物が飛び出している。アレは一体何だろう…と思い、命はそれをまじまじと見た。
「……えっ?」
顔面蒼白の瞬間だった。目の前の状況は命の理解の範疇を越えていた。訳が解らず、頭が停止した。その時、リリの声が、ゆっくりと耳に入り込んできた。
「スキルの回復効果ですよ。まさかこんな即効性があり、効果が強いとは……卑怯ですよ」
「卑怯なことはない。それよりも命、本当に体調が万全かどうか分からん。念のためもう一発いっておこう」
「ええと……?」
「はぁ。リリがご説明しましょう。命様が気を失ってからすぐ、ハムザさまがこのおちんちんを突っ込んだのです。スキルの回復効果に期待して、意識のない体を、まるで死姦するように……」
「こら、気持ち悪いこと言うな。俺だって良い気はしなかったぞ。だからもう一発やりたいのではないか。意識のあるうちに」
「わ、私は…そのっ!心の準備がっ!」
ハムザに覆いかぶさられたまま、命は声を張り上げる。だが、二人は「何をいまさら…」と呆れ返っていた。
「駄目だということか?」残念そうにハムザが言った。
「いえ、ダメという訳ではなく、その……」命は何と答えたら良いのか分からず、汗を垂らす。
「では、良いということか?この身体を使ったご奉仕は、俺にとって最高の恩返しになるのだ」
「えぇっと…あぁ…」命は両手で顔を覆った。
(恩人に、尊敬するハムザ殿に、ご奉仕をさせて頂けるのなら…私は、私は…。でも…そんなことをすることが、本当に正しいのでしょうか…私には、分かりません………)
ハムザの肌と触れ合う度に心臓は未だ嘗て経験したことがない程に脈打ち、得体の知れない緊張感が電撃の様に全身を駆け巡り、頭の中が真っ白に塗り替えられていくようだ。
命は考える。身体を許すということは、きっと城門を開くということだ。一度自ら股を開いてしまったら、もう後戻りは出来ないだろう。四六時中ハムザのことを考え、彼が喜ぶことに最大の喜びを感じ、どんなひどい言葉を彼が放っても、その声を聞けるだけで天にも昇る程の幸せを感じるようになるのだろう。
しかし、こんな順番で正しいのだろうか?本当は先に愛がある筈だ。行為より先に、愛が…いや、自分のこの感情は、愛ではないのだろうか?ただの緊張感なのか、それとも勘違いなのか。
ダメだ、と命は力を抜いた。
(私はどうしたら良いのでしょうか…?誰か教えてください。あぁ、タケミカヅチ様…)
命が態度を決めかねている間ハムザはじっと待っていたが、そろそろ我慢の限界だった。
そもそも、輝く目の美少女が股を開き、『いやよいやよ』ともじもじ身体をよじるのは、かえって男のやる気を刺激してしまうものだ。激しく拒絶する訳でもなく、曖昧な態度を取り続けるということは、ハムザにとって、それは紛うことなきゴーサインだ。
ということで、先程と同じように、ハムザは両手で命の足を掴み、股を開かせた。
「あっ……!?」
中途半端な声が漏れるも、命は拒絶しない。つまりはいけるということだ。
よいせと腰を動かして、挿入態勢を取る。股間は先ほどの快感を思い出し、元気いっぱいだった。
合図も出さず、股間を恥部に挿入する。先程の行為ですっかり濡れてしまっていたので、愛撫などは必要なかった。
命は何とも言えない表情で泣きそうになっていたが、その表情があまりにも弱々しく可憐だったので、ハムザは唇を思い切り奪ってやった。すると命の体から力が抜けていき、命はすらりとした両脚をハムザの腰に絡め、すべすべした両腕を背に回し、抱きしめてきた。
勝利の瞬間だった。オラリオに来てはやひと月。アスフィやらナァーザやら、レフィーヤやらアイズ・ヴァレンシュタインやらを抱いてきた。だが、命の陥落は、ハムザにとって別の意味合いを持っていた。命はリリと同じく、我がハーレムに加わった二人目の美少女だったのだ。彼女が自分のモノになったという実感が、膣を通じて伝わってくる。この感覚だけは、ただハメるだけだった他の美女達とのセックスとは一味違う感覚だ。
気まぐれな他の女性達とは異なり、今の命ならいつでも自分の性欲を満たすために身体を許すことだろう。忠義を尽くす従者よろしく、彼女は自分の性欲を気遣い、毎晩毒気を抜くために寝室へやってくるのだ。何と素晴らしいことか。
それこそがハーレムであり、男の浪漫。
これほど輝く美少女を手に入れられるとは、オラリオ万歳。
ハムザはさっさと射精してしまいたかった。不思議な感覚だったが、意識のある命の膣内へ射精するということは、マーキングの完了を意味するものだと感じていた。それは契約の儀式のようなもので、雌を支配すると決めた雄の感覚だった。
きつく締め付ける処女の膣は心地よく、自然と腰の速度が上がっていく。命は幸福の吐息を漏らし続け、がっちりと体を抱きしめて放そうとしなかった。唇を奪う度に歓喜の息を吐き、腰を深く打ちつける度に淫靡によがった。そしてハムザは一気にスパートをかけ、股間を奥深くまでスライドさせ続ける。
「よし……イクぞっ!」
命は目を瞑ったまま、幸せそうな笑みを作ってから言った。
「…はい、どうぞ、お好きなところへ射精して下さい…!」
その言葉を以て『契約』が完了したことが、ハムザに伝わった。それから奥深くまで腰を打ちつけながら射精して、命を自分の精液で満たした。
「あぁ……これが…セックス…」
荒い呼吸を整えながら、命は幸せに溶けるような顔で深い快感のため息を吐いた。
「……ご満足して頂けましたか?」命は繋がったままのハムザに聞く。
「最高だったぞ」
命は「良かった…」と安堵して、ハムザに口づけをした。
「初めてなのに、こんなに感じてしまうとは…。もっと痛いものだと、想像していました……」
「だが、これで終わりじゃあないぞ。後ろから犯すのもまだだし、口内射精もまだだし、おっぱいにぶっかけるのもまだだし、やるべきことが山積みだ。少し休んだら、第三回戦だ。今夜は命を精子でぐちゃぐちゃにするまで終わらないぞ」
命はくすくす笑いで応えた。
「…元気のある方は、嫌いではありません…。では、さっそくお口でのご奉仕を、ご指導お願いしますっ…!」
その時リリは。
足を組み、顎に手を当てながら二人の行為を眺めていた。
「…やれやれ。こちらはこれで一件落着ですか…」
命の心の鍵は開けた。これでスキルによる回復効果で、三人の生存確率は上がった筈だ。迷宮でセックス三昧なんて考えられなかったが、いざ始めてみれば、意外と悪くないかもしれない……。
リリは薪を掴んで、火の中にゆっくりと差し込んだ。いま強化種が現れでもしたら、目も当てられない。自分は夜番をしながら、彼らの為に警戒を続けていよう。火は強まり、周囲を照らし続ける。
そして、リリは心で呟いた。
(命様がへばったら、次はリリの番です。まったく、我慢するのがこんなに大変だとは、知りませんでした)