ダンジョンに性交を求める眷属の物語 作:kuracjaponski
皆が寝静まった深夜のこと。
ハムザがローブを着こんだ正体不明の女性と行動しているのを、アイズは遠くから見張り続けていた。フィンの命を受け、三日三晩諜報活動を続けていたアイズだったが、本当にあのローブの女が【怪人】なのかどうか確信が持てずにいた。屋根から屋根へと飛ぶように移動し、煙突の影に隠れながら二人の行動を追い続けるが、二人は酒場へと入り込んでしまう。
――本当に、あれが【
迷宮で出会ったあの女は、破壊の申し子さながらに全てを蹂躙し、自分でさえ打ち負かした。あの瞳に燃える復讐の炎や言葉の端々から迸る憎悪の刃が、いつの間にか人間と共存出来る程には丸くなってしまったと言うのだろうか?
いかにハムザと言えども、それは不可能に思われた。あの女は、人類の敵。怪物側の存在であり、決して受け入れるべきではない存在。今すぐ酒場へ突入して、ローブを脱がしてやり、もしも本当にあの【怪人】であれば……斬り捨ててしまいたい。
アイズは必死にその衝動を抑え込んだ。はやる鼓動を落ち着かせるように深呼吸をしてから、ううん、と首を左右に振った。
(ロキに止められてる以上、手出しは出来ない……)
神であるロキが幹部達に下した決断は、傍観することだった。捕虜となった【怪人】が実際に被害を出すまでは、傍観を徹底すること。それがロキの神意であり、同時にそれは、ハムザへの絶大なる信頼の表れでもあった。当然、団員は反発する。しかし、そんな反発は歯牙にもかけないと言う軽い調子で、ロキはこう言ったものだ。
『ま~、何とかなるやろ』
フィンは団員達の不満を代弁するように、常々怪人に関する決断に苦言を呈し続けるが、依然として女神の態度は変わらないまま。そしてその女神の態度が一日、また一日と続いていくに連れ、アイズはどんどん不安になっていった。
本当にあの女が丸くなり、地上で人間のように暮らし始めたら……自分は一体どうすれば良いのだろう?それにもし、あのローブの女が【怪人】だったとしたら…ロキの判断は正しかったということになる。つまり、ハムザがあの女の懐柔に成功したということだ。
分からない。あの女ともう一度対峙するまでは。本当に『敵』なのかどうか。そして、『敵』だったとしたら。
どうやって自分を押さえつければいい?
ダメだ…とアイズは肩を落とす。
月夜の宵闇が深まるに連れ、不安も大きくなっていった。ようやく、酒場から二人が出てきた。何か非道い仕打ちを受けたのか、店内に向かって怒鳴り散らしている。
ローブの女は従者のように付き従い、怒れるハムザの背中をぼんやりと見つめていた。足取りはフラフラで、かなり消耗しているようだ。あれが【怪人】なら、確実に討ち取れるのに……。それから二人はメイン・ストリートを下り、深夜のオラリオをどんどん進んで行った。
二人を追いながら、アイズはフィンの言葉を思い出す。
『――彼らはアポロン・ファミリアとのいざこざを抱えている』
『――戦争遊戯を受けるまでに、【
その考察は間違っていないのだろう。しかし、そうするとアイズには分からないことがある。
あのローブの女が【
三日三晩外へ出歩き、喧嘩を吹っかけたり、怒鳴り散らしたり、人に迷惑を掛ける行為ばかりを行っている。その行動に、どんな意味があるというのだ?そんなことで、【
そんなことをするくらいならば、ハムザのスキルの魅了効果で操る方がもっと効率的だと言うのに。アイズには分からないことばかりだった。二人を追いながら考えに考え続けたが、やはり結論は出ない。
【ヘルメス・ファミリア】に入っていく二人の背中を見届けてから、アイズは諦めたように背を向けて呟いた。
「…もう、かえろう……」
●
アスフィを訪ねたハムザは、彼女に居室で待つように告げられた。フラスコやビーカー、秤などが整然と置かれている部屋でレヴィスと二人で待ち続けていると、ようやくアスフィが扉を開いて中へやってきた。艷やかな水色の髪を揺らしながら、軽い足取りで、纏う衣服はごく僅かだった。
アスフィの瞳はレヴィスを咎めるように射抜いたので、ハムザは彼女に説明しなければならなかった。
「こいつは俺の奴隷だ。どこに行くにも従わせてる。大丈夫、悪さはしないし、セクロスの邪魔もさせない」
「それなら良いですけど」淡々とした口調でそう言ってから、彼女は薄いビロードのような肌着を脱いだ。見事な裸体を臆面もなく晒すアスフィは、艶かしく首に腕を絡めてきて、燃えるような視線を送る。だが、ハムザの目元に大きなくまが出来ているのを見つけ、絡めた手を解き、怪しい薬品を手に取った。
「疲れているなら、この薬を飲みなさい」
紫色の回復役を飲むべきか飲まざるべきかと悩むハムザの背を、彼女は押してやる。
「精力剤と回復薬の混合薬です。大丈夫、体を壊したりはしませんよ」
本当だろうか?だが、レヴィスがじっとこちらを見ている以上、びびって飲まないという訳にもいかないので、思い切って飲み干した。
………気がつけば、ハムザは真っ裸になり、大の字でベッドに横たわっていた。股間にねっとりと液体が絡みついており、ピリピリと痛んだ。おまけに頭がガンガンと痛む。水色の壁に寄りかかったレヴィスがハムザが目を覚ましたことに気が付き、ゆっくりと近付いてきた。
「ようやく起きたか。あの女は仕事があると言って出ていった」
額に手を当て、ひどい二日酔いのように鳴る頭を押さえつけながら、ハムザは溜め息を一つ吐いてから起き上がった。
「一体何が起きたんだ?」
「どうもあの薬は、強烈な精力剤だったらしい。お前は疲れのせいもあってか、ショックで気絶したようだ。だがあの女は気にも留めていなかった。何度も射精させ、精液をビーカーに集めていった」
アスフィめ、と悪態を吐くハムザだったが、今更後悔しても仕方がないので服を着直してから外を眺める。もう深夜のようだ。暗い夜に星星が輝き、大通りには人影がまばらだ。アスフィには一本取られたらしい…しかしレヴィスは随分おとなしくなったようだ。これならもう、次のステップに移る頃合いかも知れない、とハムザは考える。
「気持ちの良い朝だな」
真っ暗闇の外を見つめて伸びをするハムザを、レヴィスは壁によりかかり、腕組みをしながら怪訝そうに眺めていたが、やがて口元を緩めて言った。
「………よく眠れたか」
「まだ寝足りない。こっちへ来い」
ベッドに腰掛けて、ぽんぽんと隣を叩く。数秒間ためらいを見せたレヴィスは、背中を壁から離し、ゆっくりと近付いてそこへ腰を下ろした。曲線美を誇る体つきは散々セクロスをした後でなければ、襲いたくなるほどに魅力的だった。さらさらとした赤い髪の毛も美しく、刃物のように鋭い素の表情も、それが自分には無害だと思えば可愛いものだった。
「俺が眠るまで隣にいろ。俺が眠ったら、お前が寝ることを許す。奴隷は主人が心地よく眠れる様に、常に気配りをするものなんだ」
横になるハムザを不思議な目つきで眺めながら、レヴィスは小さく頷いた。
「お前がそう言うのなら、そういうことにしてやろう」
●
『【アポロン・ファミリア】が【テルクシノエ・ファミリア】に
ギルドのロビーは多種多様の種族でごった返していた。様々な職種の冒険者達が、クエストを選び合ったり公表された他派閥の情報が張り出される掲示板を眺め合ったりしながら、噂話に興じていた。
『噂のテルクシノエ一派か…。アポロン一派に狙われるとは、可哀想なもんだ。世の中目立たない方が見のためだな』
移ろいがちな世間の噂話は、もっぱらこの話題で持ちきりだった。有名な【アポロン・ファミリア】が新進気鋭の【テルクシノエ・ファミリア】に喧嘩を吹っかけた。その行く末がどうなるのか、お互いの次の一手は何なのか、そして自分達の生活にどのような影響が及ぶのか。冒険者達はギルドで、酒場で、ファミリアの本拠でそれぞれが意見を述べあっていた。当然、【アポロン・ファミリア】が一方的に弱小派閥のテルクシノエ一派を蹂躙するというのが、大方の見解だった。
そんな噂好きの冒険者達を、半ば当事者でもあるエイナはつまらなそうな表情で眺めていた。それもその筈、最近持ち上がってくる仕事と言えば、殆どがアポロン一派の調査だったのだ。テルクシノエ一派の本拠破壊の被害届が提出されてからというもの、所長ロイマンは他の仕事の一切をシャットアウトし、しつこくアポロン達の怪し気な動向を職員達に嗅ぎ回らせている。
そしてその調査は実を結びつつあった。不自然な人の動きが【アポロン・ファミリア】には存在し、どうもそれは違法な人身売買のように思われた。聞き込みをするに連れ、アポロンの黒い噂は湧き水のように溢れてくる。未だ確たる証拠は掴めていないものの、ギルドは既にアポロンへの見解を改めていた。
つまり――オラリオ屈指の実力派という今までの評判は崩れ、違法な奴隷売買を通じて溜め込んだ利益を無申告のままにしている、巨大な脱税組織であり犯罪者集団。
【アポロン・ファミリア】は、世間が思うほど立派な派閥ではない。エイナには、もうすっかりその事実が分かっていたから、冒険者達が畏敬の念を込めて彼らについて言及するのを聞くと、どうにも歯がゆい思いがしてならなかったのだ。
つまらなそうに頬杖を付き、唇を結んだままぼんやりとしていると……ロビーがざわめいた。
人だかりをかき分けるようにして現れたその人物に、エイナは思わず息を飲んだ。
「―――リヴェリア様っ…」
「壮健だったか、エイナ。久しぶりだな」
【ロキ・ファミリア】幹部、王族であるリヴェリアの突然の来訪に、エイナは思わず身をこわばらせて口元に不自然な笑みを作る。だが、そんな彼女に優しく声を掛け、リヴェリアはリラックスするように言った。
「単刀直入に言う。【テルクシノエ・ファミリア】の本拠が知りたい」
「えっ…?」
思わぬ発言に時を止めるエイナだったが、すぐに受付嬢の規則が頭を過った。
(他派閥の情報は絶対秘匿…違反した場合は最悪停職処分が科される…けど)
相手が王族だしなぁ、とエイナは困った顔で返答に窮していた。
「…実は【
「また…脱走ですか?」
「そうだ。彼らの本拠に行ったが、もぬけの殻だ。依然として【
げぇっ、と息を呑むエイナ。ハムザはレヴィスに関して、絶対に大丈夫だと言っていたのに。ロイマンにしても、関わらないようにと忠告までしてきた。ギルドとしては脅威とみなしていなかった存在に対し、改めてリヴェリアの口からその危険性を指摘されると…対処しなければならない、とエイナは結論付ける。
重大な危機が差し迫った場合には何よりも住人の安否を優先すべしという規則に従うことにして、エイナはリヴェリアにこっそりと伝えることにした。
「…西南の旧大聖堂に拠点を移しています。なんでも、聖リシャール像を触ると地下への通路が開き、そこに女神テルクシノエは立てこもっているらしいんですけど…」
翡翠色の瞳を細め、リヴェリアはゆっくりと頷いた。
「世話を掛けたな、エイナ」それから背を向けて言った。
「もちろん誰にも言うつもりはない。正直に話してくれたこと、感謝している」
人だかりを避けるリヴェリアの顔は曇っていた。誉れ高い王族には似つかわしくない苦悶をたたえながら、メイン・ストリートを歩いて行く。
(まったく、ティオナのやつ。心配だから様子を見てきて欲しいなどと、まさか私に頼むとは……。あの子の純粋さにも困ったものだ、まさかあのハムザを見初めてしまうとはな……)
はぁ、と息を吐く。ハムザもハムザだ、とリヴェリアは頭を振る。
(会いに行くと約束したのだから、会いに行けばいいものを。それに【
エイナから本拠の情報を引き出すために、リヴェリアはロキが【
全ては恋に悩む少女、ティオナのため。ハムザに会い、彼女に会いに行くよう説得する必要があった。ついでに【
(目に見える収穫もある…か。あの女がギルド地下に幽閉されているのであれば、エイナはあんなに焦らなかっただろう。つまりは、ローブの女が【
仕方ない、と王族は顔を上げる。すれ違う冒険者達がぽかんと口を開けながら自分を見つめているのを無視しながら、リヴェリアは西南地域に向かって歩き続けた。
旧大聖堂の前には、極東風のパーティが座を占めていた。リヴェリアは大柄なリーダー風の男に端的に来訪の旨を説明した。
「ハムザ・スムルトがここにいるなら伝えてくれ、リヴェリアが約束を果たしに来たと」
口をへの字に結んだまま棒立ちしていたヒューマンの男は、横目で隣の少女に視線を送る。少女は頷いてから大男に言った。
「【ロキ・ファミリア】であれば警戒する必要はないでしょう、桜花殿。ハムザ殿は、ロキ一派とも懇意だと聞いております」
大男は腕組みを解き、道を開けた。
「命がそう言うんなら俺はそれでいい。まぁ、正直言って【ロキ・ファミリア】がアポロン達に加担するとは思えんしな。さぁ、入りな、王族さん。中を掃除してるナァ―ザを呼べば、地下書庫に案内してくれるぜ」
「済まないな、邪魔をする」
正面の門はがたがただったので、開けるのに一苦労した。中へ入ると、割れたステンドグラスから光が差し込み、旧大聖堂には廃墟の様に不気味な空気が漂っていた。
「……
柱の陰からひょっこり現れた
「ハムザ・スムルトに会いに来た。果たすべき約束があってな」
「そう」と短く答えてから、少女は先を歩き始めた。そしてある石像の前で止まり、右肩を押し込んだ。
背後で巨大な仕掛けが動く音がして、石棺が蓋を開き、地下への階段が現れる。
「…ほう」思わず感嘆の声を漏らすリヴェリアをよそに、少女はゆるい口調で言った。
「じゃ。私は上の掃除があるから。リリもハムザも、神様も下にいるよ。ばいば〜い」
階段を下りて書庫に着いたリヴェリアは絶句した。
円形の広間の壁面に沿って本棚がびっしりと並んでいる。天井の一部が塔のように伸びており、てっぺんには高窓が付いていて、そこから差し込む光が女神の石像を照らしていた。本棚には貴重そうな古い本が敷き詰められ、一番高いところは梯子でも使わない限り届かないような高さだった。
長年生きてきた
すると中央に居並ぶ長机から声が飛ぶ。
「よう、リヴェリアちゃん。いい所に来たな、ちょうど会いたいと思っていたんだ」
ハムザだった。そしてその隣には……【
「……っ」反射的に杖を構えるリヴェリア。だが、【
「【ロキ・ファミリア】か。私を捕らえに来たのか」
「それはお前次第だ」それからリヴェリアは矢継ぎ早に言葉を重ねる。
「お前…いや、本当にあの【
リヴェリアはレヴィスの表情に驚いていた。彼女はまるで牙が抜け落ちたような目つきをしている。以前戦闘した時とはまったくの別人のように変わってしまった彼女の姿に、リヴェリアは少なからず困惑した表情を作る。
「私は変わっていない」パンをもう一つかじり、レヴィスは言う。
「もう一つの役を手に入れただけだ」
「意味が分からんが…まぁ、良い。ハムザ、お前に言っておきたいことがある。ティオナに会いに行け。彼女がずっとお前を待っている。約束をした以上、それは果たすべきだ。もしあの子に興味が無いのなら、はっきりとそう言ってやれ」
あっ、と間抜けな声を出して、ハムザはリリを見た。リリは肩を竦めてみせる。
「リリは知りませんよ。まだ会いに行ってあげてなかったんですか?」
「すっかり忘れていたのだ」言い訳がましく弁明する。
「色々あってな。アポロンの阿呆が余計なことをしたせいで、すっかり」
机の下からぬっと現れた死人のように真っ青なテルクシノエが、怒った猫のような声を出す。
「ポエブスめ…ポエブスめぇ」
「動物園のように愉快なファミリアだな。ではな、話は伝えたぞ」
帰ろうとするリヴェリアを呼び止めて、ハムザは言う。
「折角だ、俺からも話がある。みな、悪いが席を外してくれ。二人っきりで話したいんだ。ナァ―ザの掃除でも手伝っていてくれ」
団長にそう言われ、全員は階上へ行った。それから取り残されたリヴェリアを手招きし、ハムザは彼女に腰を下ろさせる。
美しいエルフの姫を目の前にすると、さすがのハムザも少し緊張した。
「あ〜。ごほん。俺は色々あって、この書庫を手に入れた。オッティー・スタンコの所蔵らしい」
「オッティー・スタンコだと?」リヴェリアは言った。「あの伝説的魔導師か?」
「そうだ。本来の姿はただのボケ老人だがな。とにかく古今東西、読みきれない程の本がある。中には
「気でも狂ったか?一体どこにこんな贈り物を受け取れる人物がいると思っているのだ」
「知るか、そんなこと。読まんからあげる、ただそれだけだ。それに俺はお前とセクロスがしたいのだ。飛び道具でも使わん限り、それは一生叶わないだろうが?そういえばおっぱいもまだ揉んでいないな。揉ませろ、揉ませろっ!」
ハムザは飛びかかった。リヴェリアは身を翻して避けるかと思われたが…意外なことに、目を瞑って胸を差し出した。
「うほっ」
柔らかい
「これで約束は果たしたな」
再び止めようとするも、ハムザの制止を聞かずにリヴェリアは階上へ行ってしまった。やり損ねたと後悔するハムザだったが、同時に手応えも感じていた。胸を揉むことが出来たのだ。少なくとも嫌われてはいないようだ。もう一度や二度アタックしてみれば、案外行けるかも知れない。
【ロキ・ファミリア】と言えば二人居るではないか、アイズ・ヴァレンシュタインが。そしてレフィーヤ・ウィリディスが。ついでにアマゾネスのティオナもやってしまおう。しかし、レヴィスに関してひと悶着起こしてしまった後で、彼らの本拠に入れるだろうか?それにレヴィスを引き連れてフィンと出会ってしまったら、どうなるのだろうか?
流石にレヴィスを引き連れて彼らの本拠地に行くのは気が引けるので、ハムザは訪問を諦めざるを得なかった。【ロキ・ファミリア】には今度一人で行けばいい。せっかくレヴィスという美人を手に入れたのだから、今はそれを失わないようにしたい。
「……飯でも食いに行くか」
●
【アポロン・ファミリア】の調教の間で、ダフネとカサンドラは顔を突き合わせていた。数日間続いた【テルクシノエ・ファミリア】の偵察任務を一旦切り上げ、丁度主神アポロンに報告をしたところだった。
彼らは目論見通り旧大聖堂へ引っ越しをし、新拠点では他派閥が護衛を努めている。そしてハムザ・スムルトは一日中謎の女を連れ回しては、怒り狂い、性交に耽っている。性格は不安定な情緒型、無鉄砲、向こう見ず、無計画。しかし世間の噂を間に受ければ、実力だけはある冒険者――というのが、ここ数日の観察で見えてきたハムザの特徴だった。
報告を受けたアポロンは二人に簡単な労いの言葉を投げかけてから、新しく入荷した奴隷の様子を見るように告げたのだった。
「…あの子、元気かなぁ」
カサンドラは自分が担当していた少年のことを思い出していた。少年はオラリオ外の好事家に買われると思われたが、どうやら街内の犯罪組織に売られたらしい。どちらにしろ、自分が未熟で我儘なばかりに、彼は不幸な運命を辿ってしまった。自分を責めるカサンドラの心の動きを読んだのか、ダフネは気遣いの言葉をかける。
「今更後悔しても遅いわよ。そんなことより、次の奴隷をちゃんと見て上げなさい。ほら、綺麗な女の子じゃない」
新しく充てがわれた奴隷は、年端のいかない少女だった。怯えた目つきで子犬のように震えている。
「…もうこんなこと、嫌だよぉ…。本当に、夢の通りになれば――」
「しっ!」ダフネはすぐさまカサンドラの言葉を切った。
「ここで夢の話はなし。奴隷の口から誰かに伝わったらどうなるか分かってる?」
カサンドラは渋々頷いた。ここ数日ずっとハムザ・スムルトをつけて確信したことがあった。予言の通りに条件を満たせば、恐らく自分達は解放される。しかし、それは自分の家族である【アポロン・ファミリア】の壊滅も意味しているように思われた。カサンドラはどっちつかずのまま、果たしてアポロン一派を守るべきか、それともテルクシノエ一派に加担するべきかを決めかねている。
もちろんそのことを何度もダフネに話はしたが、彼女はまったく聞く耳を持たなかった。
ダフネいわく、あんな怒ってばっかりの男がまともな作戦を立てられるとは思わない、一日中セックスばかりしてろくに剣も振らない冒険者が、ヒュアキントスに敵うとも思わない、ましてやせいぜい数人の弱小ファミリアが数百人規模のアポロン一派を壊滅させるなんて、天地がひっくり返っても起こりうる筈がない、とのことだった。
う〜ん、と唸るカサンドラにダフネは言った。
「私達はこれからまたテルクシノエ一派を見張らなきゃならないのよ。くだらない夢のことなんて考えてる暇はないわ」
「でもっ……本当にあのハムザ・スムルトに特殊スキルがあったら……?本当はLv.3相当の冒険者で、万が一ロキ・ファミリアも戦争に加担したら…?」
他の諜報員が聞きつけた情報によると、どうもハムザ・スムルトには特殊スキルがあるらしい、とのことだった。また、【ロキ・ファミリア】とも交流があることから、かの最大派閥が応援に駆けつける可能性も考えられる。これらの報告を聞いたアポロンは『全て予想通り、既に手を打っている』と答えて団員の不安を払拭したが、カサンドラだけは納得しなかった。
「ハムザがLv.2なのはギルドにちゃんと裏を取ってあるでしょ?そりゃ、確かに特殊スキルくらいはあるかも知れないわ。でも、あのヒュアキントスがそれだけで揺らぐ筈がない。どうせいつもみたいに、一捻りよ」
依然として唸り続けるカサンドラに呆れたダフネは鞭を取り、奴隷に打ち付けた。
「この話はおしまい。さぁ、さっさと仕事に取り掛かりましょう」
有無を云わさぬ彼女の口調に折れ、カサンドラも少女へ鞭打ちを始める。やりたくもない調教を続ける優しい少女の心には、確かにアポロンへの反逆心が芽生え始めていた。
●
ハムザはいつものように『豊穣の女主人』へやって来た。店に入るなり、女将の巨体が道を塞ぐ。ハムザは悪事を咎められた生徒のように小さくなったが、どうやら女将は【ソーマ・ファミリア】の
二人はたらふく食べた。レヴィスは慣れない手付きで久しぶりのまともな食事をどんどん胃に流し込み、ハムザも負けじと次から次へと食事を運ばせる。
そんな夕食の一時が終わるか終わらないかというその時。かつかつと音を響かせながら、輝くように美しい魔導師がこちらの机まで歩いてきた。
「お久しぶりです」
レフィーヤだった。豪華な服を纏い、きっちりと後ろで束ねられたポニーテールを揺らしながら、ハムザににっこりと笑いかけた。
「あっ…。よう、元気か」
怒られるのか、それとも怒られないのか。ハムザは少し前に、レフィーヤを陥れたことがあった。その件について文句を言われるのかと身構えるが、レフィーヤは不自然なほどにこにこしたまま、無理やりハムザの隣に着席した。
「並行詠唱を習得しました。それに、ランクアップが出来るようにもなりました」
「良かったじゃないか」
「貴方のお陰です。ついでに【
正面に座るレヴィスは責めるような口調にも眉一つ動かさず、じっとレフィーヤを見つめている。
「なんだ、知り合いか?」
「その女に、私は殺されかけました。アイズさんが助けてくれなければ、首の骨を折られていたでしょう」
「お前は何ということをしたんだ、まったく」
「でも、いいんです」さらっとレフィーヤは流した。
「ロキが言うには、その人は放っておけば良いとのことですから。貴方がすっかり飼いならしてしまえば、きっとその人の方から闇派閥の計画を話すだろうって、ロキは信じています」
「何の計画だ?」ハムザは訳が分からないので即座に聞き返した。そしてそれと同時にレヴィスが口を開く。
「前に言っただろう。オラリオ転覆の計画だ」
「あぁ、そのことか」ハムザはすっかり思い出した。
「なんちゃらを寄生させて、強い怪物を生み出す云々だな。そんな計画があったこと、すっかり忘れていた。まぁどうせもう本人もその気じゃない。闇派閥の残党が頑張ったとしても、とても無理だろう。レヴィスはすっかり諦めたようだぞ」
その時、レヴィスの口元にうっすらと軽蔑の色が浮かぶが、すぐにもとの無表情に変わった。
「どっちにしても、鍵がこちらにある以上、私達は
「だとよ。せっかくだから、洗いざらい話してやったらどうだ?誰が転覆を計画して、どいつが首謀者なんだ?」
目を伏せ、レヴィスは低い声で言った。
「……断る」
「昔からよくある話として、捕らわれの兵が祖国を裏切り、敵国で働くようになるということは多いのだ。この場合もそうだ、お前は前の主人に仕えるよりも、俺と居たほうが幸せだ。裏切りは悪徳ではないぞ、本当の悪徳は忘恩だ。お前の主人はお前に何を与えた?――何もだ。俺はお前に何を与えた?――全てだ。お前は俺の恩義に尽くすのだ。前の主人のことを忘れさせてやる。そうすればお前も、別の人生を歩むことが出来る」
レヴィスは口元を手で多い、真剣な眼差しで考え込んだ。しかし、たっぷり時間を使ってから、再び低い声で言った。
「……それができれば、な…」
「たまにそれっぽいことを言うのは、相変わらずですね…」レフィーヤはお手上げといった具合に空笑いをする。
「では、失礼します」立ち上がり去ろうとするレフィーヤの手をハムザは捕まえた。びくっと体を跳ねさせて固まった彼女は、ゆっくりと振り返った。
「…手を離してください」
「だめだ。まだ目的を果たしていない。お前はここで俺を探してた。なんとなく、そんな気がする」
ハムザは直感でそう感じていた。どうしてレフィーヤが一人でここにいるのか、どうしてこんなにめかし込んでいるのか。瑞々しい肢体から溢れ出る色香は、抑制がきかず女性の魅力を周囲に振り撒いている。きっと、レフィーヤは我慢がならなかったのだ。したくてしたくて仕方がなくて、自分を探していたに違いない。
推察が当たっていたのか、当惑したレフィーヤはもじもじと挙動不審に陥る。
「えぇと…駄目ですよ。手を離してください。駄目…そんな目で見ないで…もう」
それから三人は店を出て、裏路地に入り込み、真っ暗な公園の茂みに潜り込んだ。その頃にはもうレフィーヤは期待で息を弾ませており、頬が真っ赤に染まっていた。彼女を木にしがみつかせ、そのまま一気にスカートを脱がせた。
真っ白い雪のようにきめ細かい素肌が指に触れると、下半身がむくりと起き上がった。レフィーヤの恥部は既にびしょ濡れだったので、すぐさま本番に突入する。ペニスを挿入すると、レフィーヤは甘い悦びの声を漏らした。
嗜虐心がふいに沸き起こった。腰を振りながらポニーテールを両手で引っ張ってみると、レフィーヤは苦しそうな声を出す。
「ちょっと…やめてください、できれば、普通に…」
そう言われるとかえって苛めたくなるのが男というものだ。ハムザはナァ―ザにしてやったように、彼女の尻を叩いた。
「淫乱エルフめ!ちんぽが欲しくて毎晩オナニーしてたんだろう?」
平手打ちを重ねると、じわりと臀部が赤く染まっていく。同時にレフィーヤの膣も愛液で溢れかえり、挿入するペニスを突くたびに淫らな音が夜の公園に響いた。
「――答えろ!淫乱の!雌豚の!ちんぽ狂いだと!認めたらどうだっ!」
激しく突き、臀部を打つ。始めは苦痛の声を漏らしていたレフィーヤだったが、もうそれは悦びの声に変わっていた。
「…はいっ。ずっと本物が欲しくてっ…一人でしてましたっ……」
本心をさらけ出したレフィーヤの喘ぎ声が一層大きくなる。すると、茂みの向こうから人の声が聞こえる。
『…おいおい、誰だよこんなところでやってんの。って、うおっ!
みすぼらしい衣服の、いかにも貧しそうな住民が行為に耽る二人に近付いた。レヴィスがすっと前に出て、彼の前に立ちはだかる。
「ここは通行禁止だ、さっさと出ていけ」
だが、男は酔っ払っているせいで、レヴィスに凄まれても平然とした態度で悪態を吐いた。
「
男はぽろりと股間を取り出し、レヴィスの目の前でしごき始める。
「あんた美人じゃねぇか。手持ち無沙汰なら俺とどうだ?」拳を握り、レヴィスはありありと敵意を剥き出しにしていった。
「ゴミが……今すぐ立ち去れ」だが、ハムザはレヴィスをなだめて言った。
「いいんだ、おいお前、こっちへ来い」
男は嬉々として近付いた。そして股間をレフィーヤの顔の横に突き出して、自慰を続ける。
「触るのは許さんが、ぶっかけるのは許す」
「うおおっ!心の友よ、お前最高だぜ!まさか俺が
「えっ…ちょっと待って、えっ?」レフィーヤは見知らぬ男に性行為を目撃され、なおかつ初めて見る他の男の性器に困惑していた。
頭が真っ白になり、言葉をうまく紡げないでいると…ハムザが苦しそうな声を出す。
「やばい、出そう…あっ、いく」
「あっ…!?」それから奥まで股間が届き、レフィーヤは一気に絶頂する。
「んんんっ……!」快感が駆け巡る身体を何度も小刻みに跳ねさせていると、男は歓喜の声と共にしごく速度を早めた。
「うおおっ!色っぺぇ!エルフのイキ顔を拝めるだなんて、俺はもう死んでもいい!おっしゃ、出すぞ、
「えっ…ちょ、ちょっと待って!?待って、ほ、本当に…!?」
男はレフィーヤの綺麗な顔目掛けて汚い精液を大量にぶち撒けた。
「きゃっ…」
飛び散る精液を顔に受け、レフィーヤは目をつむり口を結んで顔をしかめる。
迸る白濁液が、美麗なレフィーヤの顔からどろりと垂れ落ちた。
「…………」
無言のレフィーヤ。ハムザはゆっくりと中で出したペニスを抜き、ふぅ、と一息吐いた。
「おい、いつまでここに居るんだ。さっさと帰りやがれ、ウスノロの粗チン野郎」
「お、おぉっ…この恩は一生忘れねぇぜ、黒い変態さん!」
男はそそくさと立ち去った。そしてレフィーヤは押し寄せてきた感情に抗えず、泣き叫ぶ。
「うぇーん、もうお嫁にいけません…アイズさぁ〜〜ん!」
すると、レフィーヤの叫び声に応じるように空から何かが降ってきた。
「っっ!」
レヴィスは瞠目する。目の前に、アリアが―――。
そう思った時には、既に足が動いていた。アイズを目掛けて一直線に突進し、拳を振り上げる。フードが外れ、レヴィスの顔が露になると同時に。
「っ…!」
アイズは抜剣していた。
しかし、レヴィスの足が止まった。応戦のために身構えるアイズも怪訝な顔でレヴィスを見やる。
レヴィスの頭の中で何かが戦っていた。アリアを殺せばどうなる?ハムザは悲しむだろう。私が彼を裏切ったということを。だが、エニュオはどうだ。アリアは殺さなければならない。しかし…エニュオは悲しむだろうか?私が裏切ったとて…あれが悲しむだろうか…。
答えが出ず、レヴィスは端正な顔を苦悶で歪める。初めて生まれた心の葛藤に苛まれているようだった。
「…これが、あの【
「すごく、弱くなったね」
その言葉は決定的だった。レヴィスは固まっていた。やがて腕を下ろし、ハムザを見て、アイズを見て、そして自分の拳を見た。
「……この人はもう、私達を傷つけることは出来ない」
アイズは追撃をするように言葉を重ねていく。その一つ一つが、レヴィスに重くのしかかった。
「…もう関わらないで。そうすれば私も見逃してあげる」
完全に上からの目線。強者が弱者に語る時の口調。レヴィスは悔しさに顔を歪めるが、どうにも出来なかった。彼女の言葉は、真実だった。
(もう私には……覚悟がなくなったというのか…?)
アリアを仕留めるべき機会を逃し、ハムザを想い踏みとどまってしまった時点で…【
「行こう、レフィーヤ。フィンに報告する。【
それから、とアイズは付け加えた。
「私も……欲しいのに。ハムザの浮気者」
「あ、えーと…。じゃあ、今度な」
無愛想な表情でアイズは言った。口調から、随分とご機嫌斜めだということが伺えた。
「じゃあ、あの場所で待ってる…。それと、これ以上レフィーヤを、いじめないで」
そう言い残して、アイズは去った。王子に救われた姫君のように目を輝かせるレフィーヤと共に。
力なく拳を下ろすレヴィスに、ハムザは優しく声を掛けてやった。
「人生はうまくいくことばかりじゃない。なに、アイズにリベンジしたければ手伝ってやる。今度はレヴィスとして、あいつに喧嘩を吹っかけてみろよ」
だが、レヴィスはすぐには反応しなかった。暫くしてから、ようやくハムザに心のうちを打ち明ける。
「こんなどっちつかずの立場は…辛いな。出来ることなら、過去の自分を消し去るか…今の自分を消し去ってしまいたい」
「そんなこと、出来やしない。さぁ、帰るぞレヴィス。神様にステイタス更新をお願いしなきゃな。ついでに飯も買って帰ろう。何でも好きなもんを言うといい」