※この作品はR-18です。

ダンジョンに性交を求める眷属の物語   作:kuracjaponski

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第五章-豊穣の女主人-

 街ではエイナのエロい実験に付き合わされ、ダンジョンでは群がるモンスターを屠り続けること数日。

 

 ハムザのステイタスはここ5階層でも十分に通用するほど成長していた。ゴブリン、コボルト、ダンジョン・リザードがどれだけ束になっても、埋めることが出来ない戦力差が開いている。ここはもう、安全。自分を傷つける事が出来る相手はいない。本来、着実に進んでいく歩みに喜ぶ所かもしれない。道のりを振り返り、『よくやってきた』と自画自賛するのも良いだろう。こんな状況でも警鐘を鳴らす人物がいたとすれば、それはきっとお節介にしか聞こえないはずだ。『ダンジョンでは何が起こるか分からない』。そんな彼女の口癖を思い出しては、目の前の雑魚を蹴散らす。

 

 「なーんも起こらん。なんかこう、この前みたいに美女に出会ったり、助けを求めるかわい子ちゃんを救い出したりっていう、イベント的なものもなーんにもない」

 

 (かと言ってミノタウロスにまた遭遇なんて事態だけは勘弁してもらいたいが…)

 

 群青色の燐光が通路の天井で瞬いている。どこか遠くから、コボルトの遠吠えが聞こえてくる。『恩恵』を受け鍛えられた聴覚は、その僅かな振動でさえ逃さない。ハムザはマップを手に取り、現在地を確認する。6階層へ繋がる通路は、ここを右に折れればすぐだ。

 

 (…エイナちゃんには止められていた気がするが…。行くか、6階層へ)

 

 ダンジョン6階層からは、出現モンスターに変化があるとされる。最弱として知られる『ゴブリン』『コボルト』などは姿を消し、代わりに巨大なカエル型のモンスターである『フロッグ・シューター』と漆黒の人型モンスター、『ウォーシャドウ』等との戦闘は避けられない。

 

 階層が深くなればなるほど、ダンジョンが産み落とすモンスターは大幅に強化されていく。まるで訪れる冒険者の実力を試すように。あるいは、その命を奪い取るために。

 

 生き残った者が勝者、それは分かる。『ダンジョンは何が起こるか分からない』、これもわかる。しかし『冒険者は冒険なんてしてはいけない』、このエイナの言葉には未だに納得ができていない。

 

 (…そもそも、じゃあなんで『冒険者』なんてやってるんだ、って話だからな)

 

 オラリオ中の美女とハーレムセクロス。これは男のロマンだ。しかしそこに辿り着くためには、乗り越えなければいけない障害が山ほどある。こんな低階層でうろちょろしているだけで、本当にそこに辿り着けるのだろうか?百万ヴァリスも貯まらないだろう。あの金髪の剣士ちゃんは、相当な手練れに違いない。Lv1程度の雑魚のままで、中出しセクロスなんてできやしないだろう。

 

 強くなりたい。金も権力も、力も手に入れた英雄になりたい。『恩恵』を授かる超人たちが集まるこのオラリオで英雄と呼ばれるためには。そんな超人美女たちとセクロスするためには。

 

 (…攻めるぞ、今日は)

 

 死すら覚悟して、冒険しなければいけないのだろう。

 

 

 顔面へ弾丸のように打ち出された舌を見切り、僅かに重心をずらして回避。伸びきった舌を長剣で切り落とす。武器を失った『フロッグ・シューター』は窮余の策で飛び掛かるも、無残に真っ二つにされた。

 

 『恩恵』のおかげで反射神経は常人の辿り着ける限界をとうに超えている。筋力や瞬発力などの身体能力の上昇もさることながら、肉体の限界を超えた『恩恵』の力が漲っている。

 

 大型カエルとの戦闘を終えたのも束の間、今度は『ウォーシャドウ』が行く手を塞ぐ。長い両手の先は刃のように鋭く尖り、頭頂部と思しき部分には大型の単眼が光る。その影はゆっくりと近づいたと思いきや、一瞬で姿を消した。

 

 「!?」

 

 鍛えられた感覚は、背後で起きた僅かな異変を逃さなかった。

 

 (…後ろかっ!)

 

 間一髪でウォーシャドウの鋭い指先から逃れ、再び相対する。

 

 (…普通のモンスターとは違う能力みたいなものがあるのか?幽霊みたいに実体がないとか)

 

 振り回される鋭い指先を長剣でいなしながら、相手を分析する。

 

 (実体がなければ鋭い指先も意味がないか。ってことはさっきのは、神出鬼没のワープみたいなもの…?)

 

 『ザシュッ!』

 

 冒険者からカウンターで反撃を受けたウォーシャドウの体は、確かに傷ついていた。

 

 袈裟に切り裂かれた胴体。どす黒い血のような物が流れ出る。するとその影は再びゆっくりと距離を詰め、再び姿を消した。

 

 (…単純だなぁ)

 

 ハムザはさっと体を反転させ、自らの影に剣を突き立てる。

 

 見事にその瞬間実体を現し始めていたウォーシャドウは、突き立てられた剣に魔石を破壊されて灰となった。

 

 「影に隠れられる的なやつか。そんな特技があれば、俺も美女のパンティー盗み見し放題だったのに…」

 

 それにしても。6階層で初めて遭遇するモンスターとの戦闘も、ゴブリンやコボルト達とさしたる違いはない。カエルの遠距離攻撃も、影の変態パンティ覗きも。一度からくりが分かってしまえば対処に困ることはなかった。

 

 時には複数を同時に相手しながら、ハムザは6階層を進んでいく。そして大広間に足を踏み入れた途端。ぞっと背筋が凍るような異変を感じる。

 

 びきり、びきりと壁が裂ける音。

 

 それはまさしく、ダンジョンからモンスターが生まれ落ちる音。

 

 尋常ではない数の壁の亀裂から現れたのは大量のウォーシャドウとフロッグ・シューター。策を用意して獲物を狩るのは、ダンジョンも同様だ。時には冒険者を広間に誘い込み、そこで大量のモンスターを産み落とす。逃げ場のない魔物の巣窟。悪辣な迷宮の罠(ダンジョン・ギミック)

 

 「やべっ…」

 

 (エイナちゃんから聞いてたけど、これが怪物の宴(モンスター・パーティー)ってやつか…?)

 

 優に百体を越えるモンスター。生まれ落ちたその瞬間から戦闘可能な彼らは、包囲網を敷きじりじりとハムザを追い詰める。

 

 『もし単身で怪物の宴(モンスター・パーティー)に遭遇したら、まず生き残ることは不可能よ。だから異変を感じたら、そうなる前に必ず逃げること。決して冒険なんかしないこと!いいね?』

 

 エイナの忠言が脳裏にこだまする。汗が頬を伝っていくのがわかる。

 

 状況としては最悪であった。逃げ遅れ、囲まれた。こうなってしまえば、打てる手段はただ一つしかない。玉砕覚悟で突っ込むこと。命が消えるまで足掻き続けること。たとえ先刻までモンスターを虐殺していたとは言え、こんな数を相手にすればひとたまりもない。

 

 モンスターが産まれる様をのうのうと見届けたのは、間違いだったのだろう。すぐさま逃げるべきだった。ダンジョンではその判断の差が、僅かなたったのその一瞬の決断が、勝者と敗者を分ける。

 

 しかし。

 

 もしも、だ。

 

 もしもこれが『立ち向かう』か『逃げる』かの選択だった場合。

 

 その決断の差が、凡人と英雄を分けるに違いない。

 

 右手に剣を握りしめ。どくん、どくんとはやる鼓動を抑える。

 

 紅の目をした冒険者の恐ろしい形相が、なだれ込むモンスターの奔流に飲まれていった。

 

 

 「…レイズ」

 

 一方、ファミリアの主神はというと。こちらも勝ちの薄い勝負に出ているところだった。

 

 賭博場。手札の配役を競うカードゲーム、ポーカー。テルクシノエは以前と同様に見事にカモにされていた。

 

 風貌の汚い男たちの中で佇む女神は、異様と思えるほどに美しい。しかしその顔は、見事に苦しみに歪んでいた。

 

 (…役なし。ブタじゃっ。しかしここで取り返さんとまた全部すってしまう…くそう、じゃ…)

 

 素人丸出しの女神とは異なり、対戦相手たちは全員がギャンブルの猛者だった。彼らは女神のあからさまな表情に最初はブラフの臭いを嗅ぎつけたが、それが心理戦でもなんでもない素の表情だということがわかると、一斉に持ち金を奪いにきた。

 

 「…オールイン、じゃ」

 

 「…オールイン。ははっ、懲りねぇな、女神様」

 

 男は手札を捲る。

 

 「…なんと、すごい。フルハウスか」

 

 手札は晒すまでもない。持ってけ泥棒!そういって女神は投げやりに机に足を乗っけた。

 

 「あぁ、もうやめじゃやめ。どうせ勝てんし、今日はもうおしまーい」

 

 もう辞めちまうのか?何なら少し貸しをつくってやってもいいんだぜ?カモを逃すまいとするギャンブラー達の前に有り金をぱさっと落とし、背を向けて店を飛び出す。

 

 (負けてばっかりでつまらんのじゃ。はぁ、今頃ハムザは何をしているかのう…)

 

 その手に、先ほどのトランプを一枚忍ばせる。

 

 (こんなもの何に使うんじゃ?持って来いというから盗んできたが…)

 

 オラリオの空は暗雲が広がり、女神の帰路を灰色の雨で濡らしていった。

 

 

 

 その頃、ギルド本部では職員がせわしなく働いている。

 

 「うぇ~降り始めちゃった。今日は残業確定だし、帰りは土砂降りだなんてついてないなぁ…」

 

 ギルド本部内のデスクで書類の山と格闘するエイナに、同僚が声を掛ける。

 

 「大丈夫よ、きっとにわか雨だから。帰る頃には止んでると思うわ」

 

 そうだといいけど…。エイナはそう思いながら作業の手を止めて窓の外を見た。雨音は鎧戸を叩いている。今頃あの冒険者はどうしているだろうか?しっかり危険を避けながら戦闘できているだろうか?特別なスキルを持っているとはいえ、冒険者が死ぬときなんていつもあっさりだ。

 

 風がひゅうっと吹き、鎧戸ががたがたと揺れ始めた。ギルド本部では相変わらず同僚が膨大な仕事と格闘している。自分も、はやく取り掛からなければ。

 

 そうして書類に手をつけた瞬間、ロビーで叫び声が聞こえた。

 

 「きゃあっ!誰かはやく助けて!この人、()()()()よ!」

 

 エイナは嫌な予感がして、大慌てで騒ぎのもとへ駆けつける。そこには、大量の血を流しながら雨に濡れ、ぐちゃぐちゃになった冒険者の姿が。

 

 (…うそ)

 

 見覚えのある新米冒険者用の鎧。見覚えのある長剣。見覚えのある漆黒の頭髪。

 

 (…うそでしょっ!?)

 

 「…大変!ハムザ君、起きて!ねぇ、大丈夫!?誰か手を貸して、彼、意識がないの!!」

 

 穏やかだったギルド本部は、雨風吹き荒れる外と同様に、既に荒れ模様になっていた。

 

 

 「…ん?」

 

 ハムザが目を覚ました時、目の前には不安げな顔をして見下ろしているエイナと、テルクシノエの姿があった。

 

 「おぉ、よかったよかった。やっぱり生きてたんじゃな」

 

 安堵する主神とは正反対に、エイナは厳しい言葉を浴びせる。

 

 「もう、心配したんだから!どうせ私の忠告を無視して下層まで潜っていたんでしょうっ!?それにあんなところで血まみれで倒れたりして。私がどれだけ心配したかっ…」

 

 「ははは。どうせこいつは言うことなんて聞きやしないのじゃ。だからやりたいようにやらせれば良い。それにそう簡単に死んだりはしないぞ。お前は心配しすぎじゃ、エイナ」

 

 エイナの予想は見事に的中していたが、ハムザはそれでも経緯を説明する必要があった。

 

 退屈したから6階層まで行ってみた。怪物の宴(モンスター・パーティー)に遭遇した。百体はいたモンスターを、全部返り討ちにした。出血がひどく途中で血が足りなくなってやばかったが、なんとかギルドまでは辿り着いた。そのあとのことは、全く覚えていない…。

 

 起き上がり、傷ついていた筈の体を確認する。不思議な事に、傷はきれいさっぱり癒えていた。

 

 「なんだ、これ?傷が全部治っているじゃないか。それにここは、どこだ?」

 

 白く清潔な小さな居室のベッドに、自分は寝かされていたようだ。まったく見覚えのない場所だ。どうやら、ギルド本部でもなさそうだが。

 

 エイナは嘆息しながら出血をぬぐい取り真っ赤になったタオルを捨て、一部始終を補足する。

 

 「ハムザ君がギルドのロビーで倒れてるのを職員が見つけて、それからこのバベルの医務室まで運んできたのよ。急いでテルクシノエ様も呼んでもらいました。私がありったけの回復薬を使って、目を覚ますまで必死に看病してあげたのよっ!」

 

 「ばべる…?」

 

 初耳だ、と首をひねるハムザを見て、主神はエイナを睨んだ。なんじゃ、アドバイザーはそんなことも教えていないのか、と。

 

 「()()()()()()()()()()()。この人が聞いていなかっただけですっ!もしかしてハムザ君、記憶をなくしちゃったとか?自分が誰だか、わかるよね?」

 

 「あたりまえだ。あぁ~肩こった。なぁ神様、ギャンブルはどうだった?」

 

 肩をくるくると回しながら、体の状態を確認する。

 

 「すったぞ、もちろん全額。お前の言う通り、一枚トランプをくすねてきたがのう」

 

 「まぁ、そうだろうなぁ…。そのトランプ、なくさないように取っておいてくれよ、神様。今度それを使って、賭博場の馬鹿共を仕留めるからな」

 

 体調は、疲労を除けば特に問題はない。エイナちゃんの治療が良かったのかもしれない。ハムザはベッドから起き上がり、自分の荷物を確認してから部屋を出ようとすると、エイナに声を掛けられる。

 

 「…私、まだお礼の言葉すら貰ってないんだけど…」

 

 「おぉ、ごめん、悪かったなエイナちゃん。看病してくれてありがとな、今度たっぷり中出ししてあげよう」

 

 二人はそそくさと部屋を出て行った。やるべきことがある。そう背中で語りながら。

 

 エイナは外を見た。気が付けばもうすっかり夜だ。怪物祭の資料は既に作成済みだとは言え、まだ片づけるべき仕事は山ほど残っている。今朝は夜明け前から仕事をしていたにも関わらず、今夜は残業だ。うぅ、とエイナは声を漏らす。

 

 「…疲れた。次は私が倒れる番かもね…」

 

 笑えない。だが、良いこともあった。あれだけ降っていた雨が、今はもうすっかり止んでいた。

 

 

 ハムザとテルクシノエがバベルを後にしてメインストリートへ出た時、外はすっかり暗くなっていた。吟遊詩人が英雄の詩を奏で、路上演奏者が弦楽器を打ち鳴らす。バイオリンの優雅な調べに、ナイロンギターの哀愁に溢れたメロディー。様々な音楽と人々の喧騒。それがオラリオのメインストリートにかかるBGMだ。

 

 涼やかな夜風が体をさっとなでる。魔石灯があかあかと街中を照らしている。こんな光景を見れば、冒険者たちが並々と注がれる黄金の飲料につられて酒場に迷い込んでしまうのも、きっと当然のことのように思われるだろう。

 

 そんな中、二人はある酒場の前に立っていた。メインストリートにある酒場、『豊穣の女主人』。今朝ギルド本部へ向かう前に出会った少女、シル・フローヴァちゃんを口説くために用意した花束を持って、二人は店内へ入っていく。

 

 「いらっしゃいませニャ~!お客様、カウンターとテーブル、どちらがよろしいですかニャ?」

 

 対応をしてきたの店員はシルではなく、明るく快活な雰囲気の猫人(キャット・ピープル)だった。

 

 「テーブルを頼む、それと…」

 

 シルちゃんはいるか、そう言おうとした瞬間。

 

 「うわーっ!お客様、凄いおっきな花束ニャ!一体こんな素敵なプレゼント、誰に渡すつもりなのかニャ~?」

 

 にんまりと笑顔を浮かべる店員があまりにも可愛らしかったせいで、ハムザは危うくそれを渡すところだった。

 

 「素敵な花束を持って二名様ご来店ニャ~!」

 

 『いらっしゃいませ~っ!』

 

 容姿端麗な店員たちが一斉にハムザの花束に注目を集める。その目を輝かせる店員たち。一体だれがあの素敵な花束を貰うのだろう。そんな好奇心が、彼女たちを満たしていた。

 

 テーブルに案内されたハムザはやれやれと主神に呟いた。

 

 「まいったな。あと十束くらい多く買っておくべきだった。こんな美人が多いなんて、全く予想外だ」

 

 「まったくじゃのう。あのカウンターの中にいる女子、お主の好みじゃろう…?」

 

 そういって主神は顎でカウンターを差す。そこには女子とは到底かけ離れた体格のごつい女将が、マナーの悪い客を怒鳴り散らしている。

 

 「冗談きついだろ、神様…」

 

 

 「ご注文はどうされますかニャ?」

 

 メニューを聞きに来たのは先ほどの店員だった。ちらちらと花束に視線を浴びせている。

 

 「猫じゃらしは入ってないぞ」

 

 「う、うるさいにゃっ!さっさと注文するニャっ…!」

 

 店員は少しがっかりしたように肩を落とした。

 

 「う~ん。じゃあ俺はこの子牛スープとパンってやつ。タコのマリネサラダ一つ。それと雄鹿のステーキ。付け合わせはじゃがいもで」

 

 ほいほい、っとメモを取る店員。

 

 「タコのサラダは小っちゃいニャ。二人で分けて食べるんなら、こっちのタコのマリネの方がおすすめニャ」

 

 ちゃっかり営業してくる店員に、じゃあそれ頼むというハムザ。

 

 「それで、神様はどうするニャ?」

 

 「そうじゃのう。どれもおいしそうなんだが…。じゃあ血肉のソーセージ盛り合わせを一つ。七面鳥のステーキ。牛の輪切り肉(メダリオン)。それと子羊のロースト。付け合わせはなしじゃ」

 

 「お肉ばっかりニャ」

 

 「そうじゃ。育ち盛りなんじゃ」

 

 「神にそんなものないだろう。こいつは食いしん坊なだけだ」

 

 うるさい、とハムザを視線で咎める女神。

 

 「それで、お酒はどうするニャ?」

 

 「あ~そうだなぁ。ここに来てからまだ酒場では飲んでないな。じゃあ、俺、この自家製蒸留酒(エール)

 

 「私はブルーベリー蒸留酒(ボロヴィチュカ)一つじゃ」

 

 「おっ。つまみにズッキーニのフライも良いな。マヨネーズ付けといてくれ」

 

 さささっとメモを取った店員は、最後に確認をする。

 

 「ブルーベリー蒸留酒(ボロヴィチュカ)は、とっても強いお酒にゃ。酔っ払ってぶっ倒れないように、しっかり注意することだにゃ」

 

 なんか、悪意はないんだろうけど態度の悪い店員だったな。そう言って店内を見やる。魔石灯が石造の店内をオレンジ色に照らしている。程よい広さの店内を、可愛らしいウェイトレス達が忙しそうに走り回っている。年季の入った木製のテーブルはしっかりと綺麗に磨き上げられているようだ。美しいウェイトレス達に似合う、清潔で居心地の良い酒場だった。

 

 程なくして食事が運ばれてくる。二人は乾杯して、食事にありつく。

 

 「おぉ~。見ろ、神様!パンの壺にスープが入っているぞ!面白いじゃないか、おぉ、うまいうまい…」

 

 食事を楽しんでいると、店内の中央でなにやら客が騒ぎ始めた。

 

 「そうだ!アイズ、お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

 こんな良い店で品のない声を張り上げるのはどこの田舎者だ、まったく。

 

 「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!?それでほれ、あんときいたトマト野郎の!」

 

 5階層?ミノタウロス?なんでそのことを知ってやがる?俺ともう一人の雑魚が5階層に行ったときに遭遇したミノタウロス。追い回された挙句、殺されかけた。雑魚を生贄にすることで事なきを得たが、その後確かに何者かがその化物を始末していたようだな。

 

 「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際に追い詰められちまってよ!可哀そうなくらい顔を引きつらせて、しょんべんちびりながら泣くわ泣くわ…」

 

 何だと。そんな面白そうな光景を俺は見逃してしまったのか。あいつのあだ名はしょんべんちびり丸に決定だ…。くくく、笑いを堪えきれない。

 

 「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだが、そしたらそいつ、牛の返り血を浴びて…真っ赤なトマトみてぇになっちまったんだよなぁ!くくく、ひーひひひひ!腹いてぇ…」

 

 なんだそりゃあ、あだ名を変えねばならん。しょんべんちびりトマト丸?トマト風しょんべん小僧?あぁ、もうわけわからん。

 

 「おまけにうちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!ほんとざまぁねぇよな。泣きわめくくらいなら最初から冒険者になるんじゃねぇっての!」

 

 正論だな。その通りだ。雑魚はママのおっぱいでも飲んでるほうがまだましだろうよ。

 

 あれ…?でもよく考えたらあのパツキン剣士ちゃん、その場にいたんだよな。てことはアイズって奴がまさか…?

 

 「アハハハハ、そんなん傑作やんー!?冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えーーーっ!」

 

 ハムザは田舎者が大声上げて笑っているテーブルを見る。なかなかの粒ぞろいの中に、あの娘はいた。肩を落とし、顔を俯かせてなお輝く美貌。美しい金色の瞳に、それに引けを取らぬほど神々しい金髪。

 

 じろじろ見ていると、誰かが勢いよく外へ飛び出した。

 

 『食い逃げだ!』

 

 『うわぁ、ご愁傷さま…』

 

 『ミア母ちゃんの店でよくもまぁ…』

 

 食い逃げねぇ。馬鹿なことをするやつもいたもんだ。しかし是非とも、あの娘とお近づきになりたい。無垢な神々しい顔にザーメンぶっかけたい。ハムザは考えた。そして、思いついた。またしても、名案を。

 

 食べかけだったステーキを喉に流し込んで、言った。

 

 「おし、神様。今から俺がすることは黙って見守っていてくれ」

 

 ん…?テルクシノエは首をかしげながらも、頷いた。

 

 「まぁ、いいじゃろう。眷属が起こすトラブルは、極上の酒の肴になるからのう」

 

 今なら何でもできる気がする。最高の気分だ。ふわふわして、天上の楽園にいるようだ。ハムザは蒸留酒によって酔っぱらっていた。

 

 彼は立ち上がり、すーっと息を吸い込んで叫んだ。

 

 「おらぁぁぁぁっ!俺の親友を侮辱したのはどこのどいつだ、ボケェェェッ!?」

 

 途端に店内は騒然として、すぐに静まり返った。ロキ・ファミリアに喧嘩を売るとは、なんという命知らず。オラリオ屈指の超強力な派閥に対して啖呵を切れなどと言われれば、例え酒にべろべろになった酔っ払いでも真顔で断りを入れるレベルだ。『そんなことだけは勘弁してくれ』と。無知、無謀。愚の骨頂である。愚かにもその人物は、さらに挑発を続けた。

 

 「…我が最愛の友を貶した田吾作はどいつだ。お前か。ヒック…。我が親友は新米であれど、下賤なお前なんかとは比べ物にならないくらい素晴らしい人間だ。具体的には、えーっと…。とにかく、良い奴なんだ。それをお前は公衆の面前でバカにしたな?そんな事は例え我が主神が許しても、オラリオ中の神様が許しても、この俺が断固許さん。恥を知れ、クズが。ヒック…。畜生、蒸留酒(エール)め。ヒック」

 

 あの少年を親友ということにして、先ほどの侮辱に難癖をつける。そして許す代わりにアイズちゃんを差し出せ。何とも無謀な計画だった。

 

 再びざわざわと騒ぎ始める店内。予想に反して、ロキ・ファミリアの面々は痛哭な面持ちだ。ただ一人の、狼人(ウェア・ウルフ)を除いて。

 

 「てめぇ、誰に向かって喧嘩売ってんのかわかってんのか…?」

 

 「止せ、ベート」

 

 飛び掛かろうとする獣人を手で制止する、エルフの麗人。

 

 「…すまなかったな。ミノタウロスを逃がし、5階層まで追い立ててしまったのは我がファミリアの責任だ。そんな彼を公共の場でこのように笑いものにする権利など、我々にはない。この場を借りてお前の親友には謝ろう。すまなかった」

 

 『ちょ、リヴェリア様…!?』

 

 『ベート、リヴェリアに何てこと言わせるのよ…!』

 

 ロキ・ファミリアの面々はがやがやと騒がしくなった。当の獣人はいまだにいきり立っているが、押さえつけられ、縛られ始めている。

 

 「あー…。そうだろうとも、そうだろうとも。ヒック…。ただし、俺の言いたいことはな。ごめんで済むなら、警察はいらんということだ…ヒック」

 

 誰が見ても、その男は酔っぱらっていた。しかしリヴェリアと呼ばれる人物はそんなどうしようもない酔っ払いにも律儀に対応する。

 

 「言いたいことはわかる。お前が証人となれば、彼が我がファミリアを『公然侮辱』と『名誉毀損』でギルドに訴えることが出来る。そういうことだな?」

 

 「…へっ?う、うむ。そう。そうだな、それが言いたかったんだ…。だからそのことについて、()()でゆっくり話し合おうじゃないか…」

 

 いいだろう、と言うリヴェリアを団員が制止するも、『酒を飲んでないのは私とアイズくらい』『他の物には心配でとても任せられん』などと言われ、結局引き留めることが出来なかった。

 

 リヴェリアは席を移動し、ハムザのテーブルまで近づいてきた。神様は気を聞かせて既に別の席に座っており、成り行きをにやにやと見守っている。

 

 「それで…。そちらの要求は何だ?」

 

 率直に質問を投げかけるエルフをしげしげと眺める。

 

 …美しい。いや、そんな形容詞では全く物足りない。『神と比肩するほどの』あるいは、『神をも超えるほどの』美しさ。エルフの麗人は、まっすぐにハムザを見据えている。その優雅で気品のある顔立ちと、何事をも見通すかのように透き通った視線に、ハムザはたじろいだ。

 

 (なんじゃこの美人…?いったい何なんだ、この酒場は…?アイズちゃんとのセックスもいいが、こっちも相当美人だぞ…。目的が変わっちまうけど、まぁいっか…)

 

 間が空きすぎている。言葉を継がなければ。

 

 「え、えー…。そうだな。要求は、君のおっぱいを好きにする権利を俺にくれ」

 

 「…ふざけているのか?」

 

 「いーや。真面目だ。酔っぱらってもいな…ヒック。くそっ。全然素面だ。君の名前も教えてくれ。美しいな。まるで気高い姫様だ」

 

 リヴェリアは瞑目してからややあって、そのきゅっと閉じられた唇を開いて応えた。

 

 「…リヴェリア・リヨス・アールヴだ。お前の名前は?」

 

 (…えっ?リ、なんだって?名前長すぎっ…)

 

 「お、俺はテルクシノエ・ファミリアのハムザだ。よろしくな、リヴァリスちゃん」

 

 「…リヴェリアだ。まぁ良い。ハムザ、お前は相当酔っているようだし、この件についてまともに考えられるとも思わん。悪いがこれで席を外させてもらうぞ…」

 

 そういって席を立とうとするリヴェリアを慌てて引き留める。

 

 「まぁ、待て。その『()()()()』と『()()()()』とかいうやつについてだ。ちょっと賭けをしようじゃないか」

 

 ハムザはグイッと蒸留酒(エール)をあおる。

 

 「うぃー…。ヒック。あー…。俺は半月前にオラリオに来て、ファミリアを結成した。当然、まだLv1だ。しかしあと半月でランクアップしてLv2になる予定だ。信じられるか?」

 

 リヴェリアは瞑目して。

 

 「…無理だな。あのアイズでさえ、ランクアップするのに一年は掛かっているんだ。そんなに早く成長できるものなら、誰も苦労はしない」

 

 「まぁ、そう思うだろうな。ヒック。ただし、俺には特別なスキルがあってな…。普通よりちょっと成長が早いらしい。そしてその効果は、他人にも作用する…」

 

 特別なスキル?リヴェリアは黙考した。他人にも作用するほどの効果。本当だとすれば間違いなくレアスキルだ。当然存在が知れ渡っていれば神々が大騒ぎするだろう。しかし、今のところそのような情報は聞かない。酔っ払いの妄言か、あるいは徹底的に秘匿された極秘の情報か…。

 

 「ヒック。それでだな、実はおっぱいを揉むことと、早熟することは密接に関わっているんだ。おっぱいを揉むことで、俺もリヴェリアちゃんもステイタスが早く成長するというわけだ。だから賭けをしよう。俺があと半月でLv2に到達できれば俺の勝ち。無理なら負け。俺が勝ったらリヴェリアちゃんのおっぱいを好きにさせてもらう」

 

 「くだらん。とても信じられる話ではない」

 

 リヴェリアの背後で声がする。

 

 「本当だぞ」

 

 そこには神様がにやけながら食事を食べていた。テルクシノエはリヴェリアを見つめて、『今のがすべて真実であるということをこの神が証明する。なんならステイタスを見せてやってもいい』と言った。

 

 「まぁ、たった一月でのランクアップが到底無理なのはわかる。しかし俺がそれを証明すれば、それはそのままスキル効果の証明にもなる。だからおっぱいを揉ませろ。それで君も早熟できるんだ。俺が負ければ、今回の件は水に流そう。もう文句は言わんし、親友にもしっかり言い聞かせてやろう…」

 

 数秒、リヴェリアは目を瞑ったまま動かずにいた。

 

 滅茶苦茶な論理だ。所詮は酔っ払いの妄言か。ただし、Lv6に到達してから幾星霜。成長の伸び悩みを気にしないといえば、嘘になる。他人を早熟させるスキルというものが仮にも存在するのであれば、試してみたい。それは彼女の本心だった。なに、胸を揉まれるくらい、きっとなんてことはないはずだ…。

 

 しばらく時間を使ってから、彼女は言った。

 

 「よかろう。興味深いその賭け、乗ってやる」

 

 「よし、約束だぞ!」

 

 席を立ち背中を見せるリヴェリアの後ろで、ハムザは小さくガッツポーズをした。

 

 ●

 

 酔っ払いとロキ・ファミリアの言い争いが収束してから、すっかり酒場は普段の賑わいを取り戻した。ハムザとテルクシノエは残りの食事を片づけ、花束を渡すためにシルを探す。

 

 すると、背後から女性の声が掛かる。

 

 「…そこの方。こちらの席で少しばかりご一緒してもよろしいですか?」

 

 振り返ると、綺麗なエルフのウェイトレスが佇んでいる。またしても麗しのエルフ。なんだ今日は?エルフ日和か?

 

 真剣な眼差しをハムザに投げかけ、その店員は返事を待たずに席に着いた。

 

 「…先ほどのロキ・ファミリアへの啖呵。とても勇敢でした。私もベート・ローガのクラネルさんへの態度に、今にも爆発しそうになっていました」

 

 端正な顔立ち。まっすぐな瞳。真剣な表情でハムザを見つめるエルフの美女は、おもむろにジョッキを握り締める。立てば芍薬、座れば牡丹。そんな形容詞がぴったり似合う程の完璧な所作を先ほどまで披露していた彼女ではあったが、ジョッキを握りしめる右手からはっきりと怒りが見て取れる。

 

 「堪えきれず、私は彼への侮辱を訂正させようとしましたが…。先に動いたのは、貴方の方でした」

 

 その時、どれだけ救われたか。きっとエルフはそんな感じの事を言った。しかし、ハムザの目は右手に持たれたプルプルと震えるジョッキに釘付けで、目前にいる美人の声はすっかり頭を通り抜けてくのを感じていた。

 

 そのウェイトレスはグッと右手に力を込めた。ジョッキが今にも破裂しそうだ。そして…。

 

 「私はいつもやりすぎてしまう…」

 

 ()()()。ジョッキが粉々に砕け散った。

 

 床に全力で叩きつけても割れなそうだった大型のジョッキが、右手の握力のみで粉砕された。それも、ほぼ無意識的に。まるでゴリラが林檎を握り潰すように。

 

 エルフの店員は口をあんぐり開けて硬直するハムザをよそに、感謝の言葉を並べ続ける。隣で主神がおかしそうに笑いを堪えている。

 

 「心が洗われるようでした。貴方は、私の言いたいことをすべて言ってくださった。誰もが恐れるロキ・ファミリアと正面から向き合い、正義を貫いた。私は…悪や不正を許せない。嘘や卑怯な事もです。あなたのとった行動は、正義そのものでした。尊敬に値する行動です」

 

 ありがとうございます、と頭を下げる店員に、ハムザは未だに驚きを隠せない。もし今彼がすべての真実を語り始めたら、この店員はどんな顔をするのだろう。あの少年を危険に追いやったのはそもそも自分だということ。そして逃げおおせるためにミノタウロスの餌食にしようとしたこと。しょんべんトマト小僧の話を聞いて、内心大爆笑していたこと。あんなやつとは親友でもなんでもなく、むしろ虫酸が走るくらいにムカついていた…。そんな事を言ってしまったら、彼はどうなっただろう。適当にそれっぽい言葉を並べ立てたのは、ただアイズちゃんとセクロスしたかっただけだと白状したら、果たして命はあっただろうか。

 

 そして一瞬でアイズちゃんのおまんこからリヴェリアちゃんのおっぱいに浮気したなんて事を知られたら、間違いなく殺されていただろう。正義、勇敢、尊敬。そんなものが自分に似つかわしくないことくらいはわかる。むしろハムザは、不義不正、悪だくみ、()()()()の大の仲良しだった。

 

 ありきたりな(フレーズ)を、なんとかひねり出す。

 

 「ま、まぁな。当然のことをしたまでだ」

 

 「…私も、友人が貶されるのは放っておけない。貴方は素晴らしい人だ。とにかく、礼を言わせてください。そして…」

 

 エルフの長い耳を、先端まで赤く染めながら。そのエルフのウェイトレスははにかみながら言葉を紡いだ。

 

 「…こんなことは、本心から言ったことはなかったのですが…」

 

 「また、お待ちしております」

 

 ハムザは信じられないという様子で主神に助けを求めた。女神は首を横に振りながら、こう言いたげだった。

 

 (もう諦めろ、いま本当の事を言えば許してもらえるかもしれんぞ…)

 

 「お、おう。店員ちゃん。君の名前は…?」

 

 「はい。リューと申します。リュー・リオンです。私としたことが、貴方のお名前をまだ聞いていませんでしたね。よろしければ…」

 

 「ハムザだ。テルクシノエ・ファミリアの団長、ハムザだ。よ、よろしく。それから、これ、君にあげる」

 

 ハムザはシルに渡すはずだった大きな花束をリューに手渡す。リューは驚いてハムザを見上げた。

 

 「…こんな素敵な花束は、受け取れません。お気持ちは嬉しいのですが。初対面の見知らぬ方から贈り物を貰うなんて、私にはとてもできません」

 

 「いや、いいんだ。受け取ってくれ。実はこの前、この酒場で君を見かけてな。ずっと渡したかったんだ」

 

 リューは赤面した。どうやらこういう口説き文句には全く慣れていないらしい。押せばなんとかなりそうだが、取り返しのつかない嘘ばかり並べ立てたから、手はださない方がいいかもしれない…。それにこのエルフからは、極めて危険な香りがする。

 

 「…私はこのような贈り物に値するほど、立派ではありません。むしろ、汚れている」

 

 正面に座るリューは、どこか悲し気にその青い瞳で遠くを見つめた。

 

 彼女が過去の鎖に頭を引っ張られ少し俯いたとき、床に滴る蒸留酒と粉々になったジョッキに気づいた。一体誰がジョッキを割ったのだろうと訝し気に眺めている。

 

 (お前だよ…)

 

 そんな彼女を心の動きを察してハムザは心の中で呟いた。

 

 空色の目を戻し、そうだ、と。

 

 「この花束を、私の親友たちに贈ってもよろしいでしょうか。きっと彼らも、喜んでくれるでしょう」

 

 「うん?まぁ、構わないぞ。君にあげた瞬間から使い道は君の自由だしなぁ」

 

 ハムザとテルクシノエにそれぞれ深々と頭を下げて、彼女は仕事に戻りますと言って席を立った。残されたハムザは、ひどく疲れた様子で安堵のため息を吐いた。

 

 「あのリューちゃん、バカ正直すぎるだろ…。俺の嘘が一つでもバレていたら、多分死んでいたな。あー、おっかねぇ」

 

 「なぜ本当の事を言わん。張り手の一発くらいでは許してもらえたじゃろう。今後も嘘を吐き通せば、いずれえらいことになるぞ~。しかもシルちゃんに渡す花束まで上げてしまったのう」

 

 主神はそういってブルーベリー蒸留酒(ボロヴィチュカ)をあおった。あー、うまい!ごとんとグラスを机に叩きつける。口元を拭いながら酒を飲み続ける主神。既に何杯目かもわからない程飲んでいるようだが、一向に酔っぱらっている気配はない。かくいうハムザも、あのエルフの鋭い眼差しに冷や汗かかされ、すっかり酔いがさめてしまったのだが。

 

 店内ではリューが花束を勝ち取ったのを見て、ウェイトレス達がはやし立てている。

 

 『まさかあの不愛想なリューが!』

 

 『それにまさか受け取るなんて!木刀持ってる方がよっぽど似合ってる!?』

 

 『リューの未来の伴侶が決定したニャ!みんな飲むニャ~!』

 

 まぁ…。飯も食ったし、やることやったし、帰るか。

 

 「お~い、猫ちゃん。おあいそーっ!」

 

 猫人(キャット・ピープル)の少女は高速でテーブルまで駆けてくる。

 

 「ミャーは猫ちゃんじゃないニャ。ちゃんとアーニャっていう名前があるニャ!じゃ、()()()()()()()()()さん、お会計はこちらまでお願いしますニャ~」

 

 ハムザは主神と目を合わせる。えらいことになってきた、そう思いながら。

 

 帰り際、カウンターから体格のいい女将に大声で呼び止められる。

 

 「待ちなっ!アンタ食い逃げ野郎の知り合いなんだって~?大分仲がいいそうじゃないか、リューから聞いたよ。そこまで友達想いなら、当然あいつの食った分の金額、払ってくれるんだろうねぇ?」

 

 (なっ…。あんな小僧の食った分なんて誰が払うか…なんて言える雰囲気じゃないな)

 

 リューが真剣な眼差しで直視している。女将は威圧感たっぷりに腕を組んでどっしり構えている。ノーとは言わせない。そんな雰囲気が店内には充満していた。

 

 「あ、あたりまえだろう。もちろん、そのつもりだ」

 

 こうして二人は高い会計を済ませ、簡単に別れの挨拶をしてから店を出た。

 

 夜はすっかり深まって、道路には千鳥足で歩くドワーフの軍団がいる。二人はたらふく食ったお腹をぽんぽんと叩きながら、帰り道をのんびり歩いて行った。

 

 一方、店内では。ウェイトレスの間ではリューが冒険者からの花束を受け取った話題で持ちきりになっている。その中に、シル・フローヴァはいた。

 

 (…ベル君は食事の途中で逃げちゃうし、ハムザ君は少し遠くにいただけで全く気付いてくれないし…おまけにあの私への花束、どうしてリュウにあげちゃったのかな?私より、リュウの方が好みだったってこと…?)

 

 なんだろう、と。輪の中ではやし立てられる親友、リューを見て。

 

 負けず嫌いの街娘は、少しだけ闘争心を燃やしていた。

 

 

 「最後に教えてくれ。どうしてあの花束をリューにあげたのじゃ?」

 

 歓楽街へと抜ける道を二人で歩きながら、主神は問いかける。もともと、シルちゃんを口説いてセックスするつもりだったじゃないか、と。

 

 それに対するハムザの答えは歯切れが悪い。

 

 「う~ん…。初対面の好感度がMAXだと、それ以降ゲスい事を言っても割とすんなり受け入れてもらえることがたま~にあってな…。なんというか、『あの時素敵だった良い人』っていう思い出がプラス補正されて、『嘘を吐いたのは状況的に仕方がなかった』とか、『変態だけど決して悪い人ではない』みたいに受け止められることがあるというか…」

 

 「エルフに効くかわからんが、とりあえずその線で行ってみようと思う。もしリューちゃんに俺が殺されたら、骨は海に流してくれ…」

 

 己の眷属の答えに、女神は笑い声をあげる。

 

 「ははは。まぁ、せいぜい頑張るのじゃ。あのエルフをがっぽり生ハメするときは、私も見学する」

 

 それに、と。

 

 「明日から、ちょっと出張じゃ。神の宴(デナトゥス)に呼ばれてな。旧友たちに会ってくる。しばらく帰らないから、一人で頼んだぞ」

 

 「お前、友達いないだろ」

 

 「うるさい、お前こそいないじゃろう」

 

 睦まじく小突き合う二人組の姿を、ぐでぐでになった酔っぱらいがゴミ捨て場に埋もれながら、見送っていた。

 

 (ん…?今の奴、どっかで見たことがあらぁ…。ま、いっか。うぃ~っく…リア充、爆発しろ…)

 

 




練習で書いているものです。クオリティはあまり追及していないので、誤字脱字、本編との矛盾等はご容赦ください。
ご意見・ご感想大歓迎です。
変な点があったら教えてください。しょっちゅう加筆しています。
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