こばやしさんちのめいどらごん 作:書いてる人
全身が氷漬けにでもなる衝撃、とは。体験したくともそう軽々できるものじゃない。
赤点とったとか、バイトでミスしたとか、仕事で怒られたとか。そういったのとは全く違う、別物の、全身が固まるやつ。
子供がイタズラしようとしたら親の琴線に触れる事案だったりするやつ。そのタイプ。
多分。
見ら、れた。
全身が、さっきまであんなに火照っていて苦しかったのに。
いまは極寒の地にでも放り出されたよう。
かと思えば沸騰するように熱くなる。さっきから身体中の温度調節がなってない。
「……と、トー、ル」
とりあえず左手で支えながら起き上がる。右手は布団で隠したままぬめりがあるのも関係なしに素早く握りしめた。
気まずい空気に声を振り絞る。
「ぇ、っと、ゲホッん"んッ!」
喉に声が引っかかる。
「ん"っ!あ、の、いつ、から、」
トールの目が見れなくて布団に視線を向けていた。眼鏡が無くて視界全体がぼやけている。
返事がない。我慢できずにチラリと視線をあげた。
「小林さんがイきそうになっていた時です」
「っ?!」
カッと全身に熱が回ったのがわかった。
そこからずっと見てました、と。とても静かに、告げられた。
一人、してるところを。
こ、れは。ものすごく恥ずかしい。とんでもなくだ。表現できないくらいにだ。
ゆっくりトールが一歩近づいてくる。
「え、ぁ、と、トール、これは、」
ほぼ全部見られていたのか?イクってどれだ、どの時のだよ、夢中で気付かなかった。
でもそこまで必死にやらなければいけない程限界が来ていた。
な、何か、言わないと。
トールが目の前に。
上から静かに見下ろしてくる。
「と、」
トールが布団に手をつけた。
バサァッ!!
布団を剥がされた。
「あ?!な、ちょ!ぁう、?!」
左手を取られたかと思えば、次の瞬間には両手首をきつく握られていた。早業。
シャンプーの香りが、した。
さらりと髪が頬を撫で、景色が以前見たものと重なる。天井を背景にしたトールが、また私をベットに縛る。
ぽたりと何かが落ちてきた。
「小林さん、ひどいです」
「ぇ、な、何で、」
「何で、何でそういう事するのに私を呼んでくれないんですか!!」
「え?!」
泣いている事にも心底びっくりしたというのに、とんでも無いこというな!!
呼ぶわけないだろ!!襲われる!!ん?いやそこじゃないな。
「お、落ち着こうかトール、」
「ここ最近早く寝てたのはこっそりオナニーしてたんですかっ!!」
「ブーーッッ!!」
モロで言うなッッッ!!
あ。というより、やってないからね?ほんと今日まで我慢してたから。ほんとだから。ほんと!!なのになんで今日に限って……ッッ!!
「ううう小林さんひどいぃぃ、私ずっと我慢してたのにぃぃ」
「え、えっと」
どうしたらいいんだ。
押し倒されてるし、やっぱり以前同様びくりともしないし。ドラゴンの力すごい。
「と、トール。とりあえず離して」
「続きしましょう」
「は?!」
「したりない感じでしたよね」
「っ、!!」
「ね、小林さ、」
「し、しない!!離してトール!」
キッと真剣にトールを見つめる。
顔が近づいてきた為に思わず大きな声が出る。トールも少し目を見開いたまま停止する。
「……なんでですか?」
「な、なんで、?」
「なんでダメなんですか」
熱の篭った真剣な声。
な、なんで?
なんでって、そんな、トールは、女?メス?、だし。
私は、女、なわけで。
前、襲われた、し?今も、そんな流れで、抵抗、しないと、だし、
「わ、たしは……、女、だから、」
「……それ、ほんとに関係あります?」
「あ、るに、決まってる……」
「…………」
トールの目が少し細くなる。
私を品定めするような、……いや、疑うような視線を向ける。
決して冷たい視線ではなく、どちらかといえば、子供が駄々をこねて通らない時の目。
本当なのかと、トールのとても綺麗な、人には無い美しさを持った瞳が訴えていて。
私は思わず視線ごと顔を逸らしてしまった。
「……小林さん」
「か、カンナちゃんも、いるし」
「さっき向こうのソファで寝てしまいましたよ」
「っ、じゃ、あこっち、連れてこないと、」
精一杯の抵抗。今私は子供のカンナちゃんに助けを求めている。
「ダメですよ」
「ど、どうし、」
そこまでだった。
「ふぁッ?!」
ペロリ、
と、耳を、
「な、にを?!」
顔を横にそらしていた為に驚き度が数倍だ。驚き度ってなんだよ。
左耳をトールの舌が這う。
トールの舌はとても熱くてねっとりとしていた。
くちゅ、ねちょ、と耳の中で響く音。
ブルリと身震いした。
「ぁ、ちょ、トー、うぁッ、!!」
はむはむと耳を食べられる。濡れてしまった耳が咥えられるたびにぬちゅぬちゅといやらしい音を響かせる。
疼きが戻ってくる。
息が荒くなり、熱っぽくなる。
「く、やめ、」
なんとかトールの方へ顔を向けて耳から離す。熱さから一転左耳が空気に触れて冷たい。いや、そう、でもないかもしれない。
「……小林さん、さっきまでオナニーしてたのに」
「は?!な?!そ、れはしょうがなく!!」
「右手」
「えっ、」
ビクッとする。トールが顔ごと握られた私の右手に向けて、そのまま近づく。
「ちょ、ちょっ、トー、」
ちゅ、と右手にキスされて、じっとりと、耳の時同様舌を這わす。
ちゅ、と音が響く。さっきよりは遠くで。なんというか、変な感覚。
「……開いてください。綺麗にしますよ」
「は?!む、むり!!」
右手を舐められて拒否する。そんなことさせられない。
トールの瞳が熱っぽく細くなる。
「……前の時は舐めたし飲んだのに気にしませんよ」
「そ、そういうことじゃないんだってば!!」
「……やっぱり、…小林さんはキスしないとダメですか……」
「へ、?」
一瞬の油断。
目の前にトールがいた。
「んむっ!」
またか。と思った。
どうやら認めざるを得ない。キスをするとくらりと脳が揺れる。
それからトールの舌が入ってきて、うまく呼吸が出来なくて、熱くて、ねっとりしてて、だんだん意識が朦朧としていくのだ。
私はキスに弱いのだろう。
抵抗虚しく、されるがままだ。
ただ、
この時、トールが一瞬悲しそうに表情を曇らせた事に、引っかかりを覚える。
……あ、違うな。
悲しいというよりも、
怒りに近い何かだな。
と、朦朧としていく中ぼんやりそう思った。