ホントは年末か正月初日に出したかったけど間に合いませんでした……
今後は更新ペースはまた上げていくつもりなので
とりあえず今年も本作をよろしくお願いします
「みんな用意できた?」
「う~ん、もうちょっと」
「お姉ちゃんは私物多いからね」
「ローズとタクトが少なすぎるんだよ!」
「そういえば、お兄ちゃんは?」
「ここの人たちの記憶をいじりにいってるわよ」
「あははは……簡単にそんなこと出来るのは凄いよね」
エレスの屋敷でタクトたちは魔界に行く準備を進めていた。ローズが荷物の多いリリィの手伝いをしている間に、タクトは自分達がここに住んでいたと知っている者の記憶を改編していた。元々タクトたちがここに住んでることを知っている人は少なく、そこまで大がかりにならなかったが、それでもタクトの出鱈目さがよく分かる。ローズはタクトの正体を知っているだけに苦笑いをしてしまう。
「魔界か……」
ローズは夕焼けに染まる窓の外を見ながら不安そうに呟く。
この国に縛られていないローズやリリィ、ソフィーはタクトと共に魔界に行くことに決まった。ただ、実際に魔界にいくなとなると不安が出てくる。
魔界とはこの世の終わり、地獄として語り伝えられている。実際、マーズファルドのような王が統治してまとまりを見せる事もあるが、王がいなくなればまた新たな王の座を巡って殺し合いが起こる。
そんなところを統一するために行くというのはやはり不安なのだろう。
「ソフィーさんは怖くないんです?」
「そうね、タクちゃんが付いてるし心配要らないわよ♪」
ただ一人、ソフィーだけは気楽そうにしていた。どのみちタクトに付いていくと決めているのだから不安がるより楽しんだ方がいいと笑いながら言う。こういうところは敵わないなーと思いながらもローズとリリィは支度を済ませる。
魔界へ移動するときの負担を減らすたに持っていくのはほとんどが着替えや私生活に必要なものばかりだ。
「あ!お兄ちゃんお帰り♪問題なくいけた?」
「ああ、後は心置き無く魔界に行くだけだ」
ちょうどリリィの支度が終わったタイミングでタクトが帰ってくると、ローズは顔をにやけさせながらタクトに飛び付く。タクトはそれを受け止めて頭を撫でてやると、ローズはふにゃ~と猫のような声を出して脱力する。ローズは猫に似ていると前々から思っていたが、こうやっていると本当に猫のようだ。
「さてと。マーズが待ってるし、そろそろ出発しようか」
ひとしきりローズの頭を撫でたあと、タクトはいよいよ魔界に向かうことにする。
タクト一人でも魔界への扉を開くことは出来るだろうが、あくまで開けるだけであって特定の場所に繋げることはまだ出来ない。そこでマーズが通ってきた扉を使うのが手っ取り早い、との結論に至った訳だ。
マーズが魔界から扉を繋げた場所は最近、魔獣の目撃情報が多発していた場所だ。なんでも目撃されていた魔獣はマーズが魔界から連れてきたペットらしい。
タクトの居場所が分かっていて襲撃する予定だったので、邪魔が入らないよに軍の注意を背けるためだったそうだ。ちなみに、今ここにマーズがいないのは、エシリアたちに余計な面倒をかけないために、魔獣たちを先に魔界に帰らせているからだ。
「それじゃ行くか」
タクトは転移魔法を使ってマーズが待っている場所に移動する。
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「来たか」
タクトたちが移動した先には、空間を歪ませてゆらゆらと揺れ動いている扉を背にしているマーズの姿があった。
その整った顔立ちからは一切の読み取れず、ローズたちは気圧される。まぁタクトはマーズが不機嫌だということは分かるのだが、わざわざ刺激する必要もないので黙っておく。
「付いて来い」
マーズはローズたちを一別して警戒するに値しないと判断して身を翻し、扉をくぐろうとする。
「その前に条件を確認しといていいか?」
「別にかわまぬ」
「そんじゃ、そっちはソフィーさんたちには一切危害を加えない」
「その代わりに我はいかなる時でも貴様を取り込みにかかる」
二人は交互に条件を口に出して最終確認をする。タクトは自分だけならいいが、家族を人質に取られるのは流石に許容できない。そういった意味でこの条件を付けた。逆にいえば、家族さえ無事ならなんとかできると言うことだ。その余裕がマーズの神経を逆撫でする。
「だが、よいのか?我が契約を守るという保証はないのだぞ」
マーズは挑発するような目でタクトを捉えながら冷酷さが滲み出る笑みを作る。
「それが出来ないんだろ」
「…………」
だが、タクトはそれを軽く流す。マーズファルドは基本は正々堂々と相手をねじ伏せるのを好んでいたが、奇策や騙し討ちも行っていた。これはいうなれば試合と戦の考え方を持っていたことになる。試合ならば騙し討ちなどは卑怯と謗られるが、戦ならばそれはむしろ称賛される。そして試合の思考はマーズに、戦の思考はタクトに引き継がれている。
試合の思考を持っている限りマーズは卑怯な手を取れないのだ。
図星を突かれてマーズはそっぽを向いてしまう。
「ともかく、貴様がこれからいく場所は戦場だ、くれぐれも我以外に殺されるなとするなよ」
「そこは大丈夫だ」
タクトは最前線に立つつもりなど毛頭ないし、元々マーズ一人でも時間をかければ魔界を統一できる力を持っているのだ。それに対抗できる防御力を持っているタクトが殺される可能性は極めて低い。
「ならばいいが……無駄話もこれくらいで良いだろう、さっさと魔界に戻るぞ」
マーズはタクトとのやり取りに興味が失せたようにふん、と鼻を鳴らして扉の中に消える。タクトもそれに続いて扉に足を踏み入れる。足が扉の中に入ると、中から足を捕まれ引きずり込まれるような感覚に陥り、辺りの景色が一瞬で切り替わる。扉を潜れば直ぐに魔界につくわけではなく、間に通路のような空間を進まなければならない。
自分の体さえ見ることのできないような暗黒が広がっており、前後左右さえ把握できない。ただ足下だけはコンクリートの様に固い。
タクトは前を進むマーズの気配と息づかいを頼りに完全なる闇の中を進んでいく。
「みんな、はぐれないように手を繋いでおこう」
「う、うん!」
タクトの呼び掛けにローズの声が応える。手を後ろに伸ばすと華奢な手のひらと指先がキュッと握りしめてくる。
「お姉ちゃんは私の手をつかんでね」
そうやって全員が手を繋いで慎重にマーズの後を追う。
そうやって歩くこと数分、もしくは数十分かもしれない。ここでは時間の感覚がなくなってくる。
(なんだか懐かしい気持ちになってくるな……)
この通路を通る感覚がなぜだか懐かしく感じる。それだけでなく、通路を進んでいく毎に実家が近付いてくる様な感覚になる。
恐らくこれは自分の中にあるマーズファルドが感じているのだろう。
「多分もうすぐ魔界に着く」
タクトがそう言うとローズたちが背筋を伸ばして気を引き締めるのが伝わってくる。
そしてついに通路の出口が見えてきた。数十メートルくらい先に入ってきたのと同じ形をした扉が見え、そこから光が漏れている。
マーズは一足先に扉を潜っていたようですでに姿はない。
四人は手を繋いだまま早足で扉を潜る。
そこはどんよりとした雲に覆われて日の光がほとんど差しておらず、あちらこちらで竜巻や雷が大地を傷つけている。
まさにこの世の終わりと表現するのが相応しい場所だ。
だが、タクトにはこの混沌とした風景が懐かしい。
「何を呆けている、さっさと来い」
しばらくその場に留まっているとマーズが痺れを切らしたように急かしてくるのでタクトは名残惜しく思いながらマーズの後に続く。
「ん?」
マーズに続きながらもまだ辺りの景色を眺めていたタクトは急に不審そうに辺りを見回す。
それにつられてローズたちも辺りの異変に気がつく。回りの景色がいつの間にか大きく変わっているのだ。
今までは道なき森、下生えをかき分けつつ鬱蒼と生い茂る森のなかを歩いていたのだが、今は広葉樹のような木々の間から空が僅に見えていて、どことなく爽やかな印象を受ける。
「もしかして迷ちゃったとか?」
リリィが辺りを見渡しながら戸惑ったようにささやく。その言葉にローズも不安そうになるが立ち往生していても仕方ないのでマーズの後におとなしくついていく。
数十分も歩いていると、いつの間にか居場所が今までと変化していった。森からより深い森の奥へ、深き森から切り立った断崖のそばへ、崖の近くから谷底へと。
「隔絶の結界か」
タクトはここまで来ればこの現象の正体に気が付く。この現象は普通ではなく、頭の中にある魔法の知識で検索すればすぐにヒットした。
「隔絶の結界?」
「ちょっと特殊なマーズファルドの創造結界で……なんと言うか、特定の空間を不連続な独立空間にしてそれらを寄り集まらせる結界で……」
「???」
タクト自身も完全に言葉にして説明できないほど複雑な結界でローズたちは頭の上に?を大量に浮かべている。
「まぁ、簡単に言うと特定の範囲を結界で囲って、マンションみたいに小さな部屋を作って壁で仕切る。それで正規の廊下や階段を使わないとより遠い場所に飛ばされるようにする結界て感じかな」
実際はマンションなかんとは比にならないくらい複雑に寄せ合わされているのだが、簡単に説明するとそういうことになる。
ローズたちも一応それで自分たちは迷っている訳ではないということは分かったようで少し安堵する。
後はマーズに続いて4時間ほど歩いていると古びた都市の入り口に辿り着いた。
その都市はかつては栄えていたのだろうが、今は誰一人として民は居らず、廃墟と化した街並みが続いているだけだ。
マーズはその廃墟に目もくれず、都市の中央にそびえ立つ荘厳な雰囲気を醸し出す巨城の城門前までスタスタと歩いていく。
巨大な城門はマーズが扉の前に立つとゴゴゴと独りでに開いていく。
「お帰りなさいませ、マーズファルド様」
城門が開くとフリフリのフリルが付いた可愛らしいメイド服を着た幼子の淫魔が出迎えてくる。
「マーズファルド様、そちらの人間どもは?」
「……我の半身とその女どもだ」
淫魔はタクトたちを見て不審そうにマーズに尋ねると、マーズは不機嫌そうに答える。
「失礼しました、マーズファルド様とその側室の方々でしたか」
「しばらくコイツらをここに置くことにした」
「かしこまりました」
それだけでおおよその察しはついたようでメイド淫魔は深く頭を下げてくる。
二人の話が終わると同時にマーズが帰ってきたことに気が付いたのか白の中から何人かの魔族が出てくる。
「何々マーズファルドくん?マーズファルドちゃん片割れ取り込まなかったんだ」
マーズのことをちゃん呼ばわりしながら出てきたのは蒼白い肌を持つ
陰湿なイメージのある不死者だが、その女は蒼白い肌とは正反対な表情豊かで明るい。
「エレーナ殿、我らの主をそのように呼ぶのは……」
ネクロマンサーの女を諌める騎士然とした女は可憐な唇から鋭い犬歯を2本覗かせている吸血鬼、それもかなりの力を持っている
「え~良いじゃん、これでもマーズファルド様の後宮に居たんだからマーズファルド様も許してくれるよ♪」
「しかし…」
しかし
マーズも少し眉を寄せるだけて黙認している。
「こんな貧弱な小僧がマーズファルド様だと?」
次に現れたのは明らかにタクトを軽蔑しながら殺気を放っている女は鱗に覆われた尻尾を生やしている。雌竜が変化を使って人形に化けているのだろう。放ってくる殺気から邪竜の類いだということまでは分かった。
この雌竜も相当な力を秘めているようで一瞬でタクトの実力を見抜いたのだろう。
「まーまー、アカーハちゃんもそんなに力まなの」
ローズたちが怯えているのに気がついてエレーナが
「あれマーズファルド様戻ってたの?」
次に現れたのはメイド淫魔と同じくらいのロリっ子。しかしその姿を見てタクトは少し驚く。
その子はかなり力を持っている神族の一員でもあるはずの
それだけでなくその子と手を繋いでいるのは純白の翼を生やしたまごうことなき天使の女。
本来は魔界になど居ないはずの神族が二柱も居ることにタクトはさらに驚く。
他にも誰かいるのかと探知の魔法を使ってみるが、この都市にはここにいる者以外の反応はなかった。
しかし、ここにいる者たちは魔界でも屈指の実力者だろう。
ここにいる者たちマーズと共に襲いかかってきたら自分はともかくローズたちを護れるかはかなり微妙なところだ。
(マーズもだけど、ここにいる子みんなレベル高いな。どうせなら一人一人落としていくか)
タクトは安全性も理由に魔界で新な女に手を出すことに決めた。