〜数十分以上前…
竜也が鬼頭家邸に着く同時刻…築30年以上が経過した古いアパートの2階の階段を勢い良く駆け上って行く小さな少女の姿があった。
少女の姿は雫だった。彼女はアパートの一室のドアを勢い良く開けて「こんにちはー」と、明るい声で挨拶して中に入る。
その時、玄関前の部屋には美穂がセーラー服を着たままの姿で座って、何やら…気難しそうに考え込んでいた。
「あれ…竜也さんは…?」
「いないわ…」
美穂は声を潜めて答える、その表情は不満に満ちていた。
「なんでいないの?」
「分からないわ…ただ、誰かに連れてかれた可能性は考えられるわ」
美穂は自分のスマホを取り出して言う。
「電話は掛けたの?」
「掛けたわ、でも…途中で知らない女が出て、それっきり繋がら無いわ。電源を切り落とされて…」
「何か分かっている事は無いの…?」
雫のしつこい質問に美穂は少し苛立ちを感じていた。
「今日…彼は無断で外出したのよ…ウチの学校の同じ教室の女子が、昼間…彼を街で見付けたの、何処へ向かったのかは不明だったのよ…女子から情報を得て連絡して、彼を迎えに行こうと思ったのに…邪魔な女が出たのよ、彼は知らない女に連れ去られたのよ」
「じゃあ、早く捜索願を出そう、彼はきっと私達の助けを求めているのよ」
雫が美穂を見て言う、その直後…。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り響いた。
雫は、竜也が戻って来たと思って玄関のドアを開けた。
「こんにちは…」
玄関には見しらぬ少女の姿があった。
「どちら様ですか…?」
雫は不思議な表情で目の前の少女を見る。
「こちらは村石竜也さんのアパートですよね…?」
美穂は、目の前に現れた少女を見る…。自分と同じ制服に聞き覚えのある声…その時美穂は、ある事に気付き少女に近付く。
「こんにちは…篠崎薫さん、こちらは確かに村石竜也さんのアパートですよ。今はアパートの主人はいないですが…」
「あら…お久しぶりね川谷美穂さん。アパートの主人がいない理由は何ですか?」
「私はついてっきり、真面目そうな振りをした泥棒猫が彼を連れ去ったのかと思い込んでいました…」
「残念ね、私は…まだ退院したばかりで、今日…久しぶりに学校行ったのよ。彼とはしばらく会っていないし連れ去る口実が無いわね。まあ…それ以上に私は泥棒猫では無いですが…」
2人の歪み合いが始まった。
それを見た雫が仲に入り話し掛ける。
「ま…まあ、ケンカは辞めて…まずは竜也さんが何処へ行ったのかを考えましょうね」
「それもそうね、まあ…貴女がココに来るって事は、貴女の処へは行っていない事は確実ね」
「あら…私の事は認めてくれるのね、感謝しておくわ」
「そう…考えると、他の女がアヤシイけど…私達には探す為の情報が無いからね…」
美穂が言うと他の2人も沈黙してしまった。
「病院で誰が竜也さんに惚れたのか…なんて聞き出せないかな?」
「無理よ…例え聞き出せたとしても、街で外出先で出会った人と言う見方もあるし…その辺は難しい処よ」
「彼のスマホは?」
薫が美穂に言うと、美穂は首を横に振る。
「謎の女に電源を落とされて繋がら無い…」
「せめて後を追う為の手掛かりでもあれば良いわね…」
雫が口籠って言う。
3人が室内に入ってしばらく時間が過ぎた頃に、再度玄関のチャイムが鳴り響く。
ピンポーン
今度は薫が玄関のドアを開けた。
玄関のドアを開けると、そこには他の少女達には初対面の少女が立っていた。
モデル並みに美しく、凛とした顔立ち、他の少女が見ると嫉妬さえ覚えてしまいそうな美しい容姿のある少女は、竜也が居ると思われたアパートの部屋が開いて中を見て、肝心なアパートの主人が居なくて、代わりに見しらぬ少女が3人もいる事に少し驚く。
他の少女達も、突然現れた美少女に息を呑んだ。
「あ…あの、ココは村石竜也さんのアパートですよね?」
「そうですが…貴女、どちら様?」
玄関口に立っていた薫が少女に向かって言う。
「あ…初めまして、私は漆畑玲奈と言います」
玲奈は薫に向かって一礼する。
「あ…初めまして、私は篠崎薫と言います」
薫もつい自己紹介してしまう。
「初めまして、私は川谷美穂と言います。失礼ですが…竜也さんとは、どの様な関係ですか?」
美穂の言葉に玲奈は躊躇いの姿勢を見せずに口を開く。
「彼は私の恋人です」
その言葉に美穂、雫、薫は目を見開いた。
「彼との間に何があったかは知らないですが…竜也さんは、私とは既に肉体関係をしております。他の人が立ち居る箇所は何処にも有りません」
「それでしたら…私も同じです。彼は私を深い眠りから覚ましてくれました。彼の未知の能力を持った性行為で私は目覚め事が出来たのです。私は彼が居なかった…多分、一生眠ったままだと思います」
玲奈の言葉に、雫が口出しをして来た。
「すみません、私は梅木雫と言います。実は私も竜也さんに命を助けられた身です。私も生涯彼を愛し続けると誓った身です。他の人に奪われたくは無いです」
雫の言葉に玲奈は躊躇う仕草は無かった。
「私も…彼が居なかったら、退院無かったと思います。こちらに居る美穂も、それは同じです」
薫が玲奈を見て言う。
「そう…皆同じ理由なのね、まあ…大体は分かったわ。皆…彼を愛しているのね…で、その彼は今はどちらに?」
玲奈が美穂を見て言うと…美穂は顔を俯かせた。
「分からないわ、何処に行ったのか…」
「どうして自分のアパートなのに帰って来ないの?」
その言葉に少女達は互いの顔を見る。
「彼を愛する余りに何か彼がためらう行為があったのでは無いかしら?」
その言葉に雫と美穂が少し顔を赤くする。
「まあ良いわ、私はこれで失礼するので…」
玲奈がアパートから出て行くのを見て、薫が後を追った。
「どちらへ行くのですか?」
「帰るのよ、恋人が居ないアパートに残って居ても仕方ないでしょう?それに…彼は今は別の女の場所に居るのでしょう?だったら私が彼を自分の場所に引き寄せるわ」
「手掛かりとか、探し出すのは出来るの?」
「今は情報社会だし彼の事は巷でも有名よ、多少何らかの情報を得て見つけられる筈よ」
なるほど…と薫は頷く。
「もし…良かったら、情報交換しない?」
「別に構わないけど…ただし、私が見つけたら彼は私の家に連れて行くからね。あんな古びたアパートに彼を住まわせるのは納得出来ないから…」
「私だって同じよ、彼見つけたら私の家に住まわせるわ、ここから先は競争よ」
薫がそう言うと玲奈はクスッと笑って軽く手を振って立ち去って行く。
薫がアパートの部屋に戻ると、アパートの部屋の外には美穂と雫の姿があった。彼女達は突然アパートから出た薫が気になって外で待っていた。
「何かあったの…?」
美穂が薫に尋ねる。
「私達は竜也さんを探す事に決めたわ」
「何か情報は得られたの?」
「彼は巷では有名人だし、街では何らかの情報が得られる筈だから、足取りを追う事は可能…だと思うの。それに今は情報社会だから…見つけ出すのは可能だと思うわ」
成る程…と美穂と雫は頷く。
「一応…貴女達とも連絡を取り合う事にするわ、ただし…私が見つけた場合は彼は私の家に連れて行くので、それは覚悟してね」
「分かったわ、ここから先は皆ライバルって訳ね」
美穂が薫を見て言う。
「ちょっと寂しい気もするけど…分かったわ」
雫も薫の意見賛成した。
美穂と薫と雫はそれぞれ互いの連絡先を教えて会うと、そこで解散しアパートを後にした。