※この作品はR-18です。

村石君の華やかな憂鬱   作:Mr,J

55 / 64
第55話

「夕食の時間だから、着替えて食堂へ行きましょう」

 

凛が竜也に浴衣を持って来てくれた。

 

「ありがとう、自分でやるよ」

「いえ・・・手伝わせてもらうわよ」

「大丈夫だって」

「手伝ってやるっていってるでしょう!」

 

ペチンッ!

 

毎度の凛の平手打ちがが炸裂した。

気の強い少女の決して自分の意見を捻じ曲げない頑固さは筋金入りだった。

 

「全く・・・素直に人の言う事を聞きなさいよ・・・」

 

屋敷に居る人達は彼女の、こう言う性格を知っているのか・・・聞いて見たくなった。

小さな女の子に着替えを手伝って貰うのは少し抵抗があったが、やむなく竜也は衣服を脱ぎ始める。凛が後ろに立って少し背丈のある竜也の背中に浴衣を着せて、前に回り帯を締めようとする。

その時、竜也の股間を見た凛は、ウットリと見惚れてしまって立ち止まる。

 

「自分で済ませようか?」

 

竜也の言葉にハッと我に返った凛は

 

「大丈夫、私がやるわ」

と、竜也の帯を締める。

 

着替えが済むと、一緒に部屋を出ようとする。

その時、内藤が2人の事が気になったのか、部屋の近くまで来ていた。

 

「お支度は大丈夫でしたか?」

「はい、無事済ませたわ」

「では・・・食堂まで参りましょうか?」

 

内藤が先頭に立ち、3人は食堂へと向かう。

 

「それにしても大きな家ですね・・・」

 

竜也が言うと内藤は笑いながら

 

「有り難うございます」

と、答える。

 

「屋敷は、旅館としても営業してるのですか?」

「はい。規模の大きな屋敷なので、宿泊施設としても運営はされています。どうしてもこちらで泊まりたい・・・と、希望される方のみに宿泊を用意ております。ちなみに屋敷の維持費等は、お嬢様達達の両親が代表取締役を勤める大手企業の営業利益から出費されますが…市が認定する文化遺産としても資金を頂いております」

「スケールが大きいですね・・・」

 

竜也には想定仕切れない話であった。そもそも…資金や出費の額が幾らなのか想像がつかなかった…。

 

「それほどでもありませんよ」

内藤は笑いながら答える。

 

前を歩いていた内藤は、少し歩幅を小さくして竜也に軽く肘を打ち

 

「お隣もしっかり、お話しなさい」

と、小声で囁く。

 

内藤の言葉に竜也が横を見ると、凛が1人つまらなそうに外の風景を見て歩いていた。

 

「あ・・・そう言えば凛って、毎日こんな感じで平気なの?」

「こんな感じとは?」

「浴衣姿で、何とも思わない?」

「あまり気にした事は無いわね・・・」

「規律と清楚さを保つために敢えて浴衣姿をしているのです。勿論私服で居る事も構わないですが・・・お嬢様達はこの格好で普段は屋敷にいます」

「自分達で進んでやっているんだ」

「ええ・・・まあね」

 

考えて見たら…明治時代くらいまでは…和服姿が辺り前だったのだと思う。時代の変化で衣服は洋風に変わり、食生活も今の子供達は朝食がパンになっている。

昔からの生活を保ち引き継ぐのも1つの習わしかもしれない…と、竜也は思った。

やがて…廊下の向こうから食欲をそそる様な良い香りがして来た。

廊下を曲がると一段高い台に畳が敷かれて何通りもの長テーブルが並べられていて、屋敷で働く従業員達が御膳を持ち歩きながら、座布団を敷かれたテーブルに座ったりして食事をしている。

手前の席に舞が座って、凛や内藤が来るのを待っていた。

 

「御膳を持って来て置いたよ」

 

舞の居るテーブルには4人分の御膳が並べられていた。

 

「舞…ありがとうね」

「お気遣い感謝します」

「あ…ありがとうございます」

 

皆は、舞の居る場所に腰を下ろして、手を合わせてから食事を始める。

竜也が御膳を見ると、少し呆気に取られた。

御膳にある料理は、魚の塩焼きに、煮物、漬物、惣菜に…ご飯と味噌汁だった…。屋敷と言うから…もっと豪勢な料理を期待していたが…、あまりに質素な料理に少し期待を削がれた感じだった。

 

「どうなされましたか?」

「何か…普通の家庭料理みたいで…ちょっと驚きました」

 

その言葉に内藤はクスッと笑う。

 

「先代達は言っておりました。贅を尽くすのは身を滅ぼす…と、人は欲を貪れば何処までも欲に溺れてしまいます。豪勢な料理の味に満たされば、もっと美味しい物を欲しがってしまいます。大きな屋敷に住めば、良い物に有り難るのでは無く…。質素で常に慎ましく居させる事こそ真の豊かさだと・・・皆に伝えていました」

「素晴らしいですね…屋敷で産まれても、決して見栄を張らず謙虚に生きるのは立派ですね」

「そう、思って頂くと嬉しいです」

 

考えて見れば不思議なものだ・・・と、竜也は感じた。屋敷の主人の娘が来客者や他の人達の分まで配膳の準備をしてくれている。更に・・・他の従業員達と同じテーブルに並んで食事をする。金持ちで上流階級の家族と言うと・・・大概は自分達専用の食堂を用意して、そこで食事などするイメージの方が強かったが・・・凛と舞は、皆と同じテーブルで一緒の食事をしている。

決して着飾らない、奢(おご)らない、威張らない・・・と、言った清楚さはかなりの物だと感じた。

 

しかし・・・その一方で、屋敷の娘としての権限も備えている。

つい先程の吉川の一件がそうだった・・・。凛達に掛かれば、屋敷の事はどうにでもなる・・・と言うのを見せ付けられた。

凛が他の場所からお茶の入ったヤカンを持って来て、竜也等・・・皆の湯飲みにお茶を注ぐ。

 

「お茶下さい」

 

他の場所で従業員が言うと「は~い」と、凛はヤカンを持って行く。

 

ヤカンを置いて来た凛は、元の席に座って食事を続ける。その姿を見た竜也は、しっかりしているな・・・と、何気なく思った。最近の子供達は自分の事しか考えていない…とか言われている時代に、この様な振る舞いを行えるのは立派だと感じた。

 

(それにしても…アッチの方は、かなりの強欲だけど…)

 

そう竜也が思った瞬間、凛の凄まじい目が竜也に向けられて居た。

 

「ねえ…竜也さん、浴室の近くにマッサージルームがあるの、後でそちらでマッサージしない?あたしが貴方を気持ち良くさせますよ」

 

完全にアソコを狙って言っている発言だった。

 

「あ…後で屋敷の中を見学したいのだけど…」

「じゃあ…色んな部屋を教えてやるわよ。誰も入って来ない部屋まで連れて行ってあげるわ。フフ…」

 

内藤や他の人が居なくなったら、完全に凛は竜也を襲う覚悟でいた。

 

「ところで竜也さんは、お姉さんとどうやって知り会ったの?」

舞が興味深そうに尋ねて来た。

 

「今朝…電車の中で、あたしと竜也さんは運命的な出会いをしたのよ。彼と目が会った時に…あたしは、この人と生涯一緒に居ようと心に堅く誓ったのよ」

凛が舞に話す。

 

それを聞いていた竜也は、今朝の電車の中での事を思い出して…

 

(アレが…運命的な出会いなのか?)

 

と、心の中で呟いた瞬間、向かい側だった凛の足が竜也を蹴る。

 

「竜也さんは、お姉さんを見てどう思うの?」

「え…どう思って…?」

 

かなり際どい質問だった。本人の前で本当の事は言えないし…しかも周りに人が居る中で、どう答えるべきか迷った。

 

「そ…そうだね、凛はとても良い人だと思いますよ」

 

竜也の言葉に舞はハッと反応した。

 

(お姉様を呼び捨て?)

 

「具体的に、貴方から見て私はどんな感じですか?」

 

「え…と、それは…つまり…」

 

(凛が聞いて来るのかよ!)

 

そう思って凛を見ると、いかにも意地悪そうな表情で竜也を見ている。

 

「え…と、どんな感じですか?」

思わず竜也は内藤に聞いてしまう。

 

「貴方達の事でしょう?私が介入すべき問題では無いはずですが…?」

 

(くぅ…小悪魔め…)

 

そう思って凛を見るとニヤニヤと笑っていた。

 

「ま…まだ知り会ったばかりだから、何とも言えませんね…」

 

竜也が言うと、凛は(上手くかわしたな)と、言いたそうな表情をする。

 

お茶を軽く飲んだ内藤が、竜也と凛を見て言う。

 

「私から見れば…貴方達の関係は、かなり良い感じだと思いますよ。私は主人との関係を成立させるまでには、長い時間が掛かりましたが…貴方達は、今日会ったばかりでも、互いの意思の疎通が出来上がっています。相思相愛と言っても過言では無いでしょうね」

「もう…内藤さんったら、本当の事を言うと恥ずかしいでしょう…」

 

凛は頰を手に当てながらチラッと竜也を見る。

 

「え…ええ、まあ、そうですね」

 

竜也は愛想笑いしながら答える、なるべく周囲の流れに乗っている方が無難だと思えたからであった。

話一段落すると、皆は食器を洗い場の方まで持って行く。食事が済むと既に次のラウンドへ行く準備が出来ているのか、凛が竜也の手を握っていた。

 

(逃がさないわよ!)

 

と、言っているようにも思える感じで、凛は竜也の側に居た。

 

「さて・・・じゃあ、あたしが屋敷を案内しますね」

 

凛がジッと竜也を見て言う。

何とかこの状況から逃れたい・・・と思った時だった。

使用人が凛の側まで来て言う。

 

「お嬢様、カラスと名乗る人物から電話が入っています」

「カラス・・・?」

 

そう・・・聞き返した凛は少し考えると

 

「分りました、すぐに行きます」

 

凛は事務所へと向かって行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。