始まりの日1
東海道本線の線路跡を進む馬車の荷台で昼寝をしていた俺は、昨日で20年の前線暮らしを終えてようやく東日本陸軍を退役したばかり。
あのままのんびりと馬車を乗り継いで故郷の函館に戻って、畑でも耕して暮らすはずだった。
それなのに気がつけば、俺は軍用編み上げブーツと夏季迷彩服以外の荷物をすべて失った状態で、見知らぬ小道のベンチに寝ころんでいる。
将校は退役しても軍に籍だけはある状態なので携帯していた、手に馴染んだM9がないのが何より痛い。
「くっそ、どんな状況だこりゃ。にしても、さみい……」
目の前を通り過ぎる小柄な男が薄気味悪い物でも見てしまったように、寒空の下でベンチに寝そべる俺から慌てて視線を逸らして足を速める。
1999年の二極化前に作られていた毛染めでも使ったのか、チャラい黄色っぽい長髪が揺れる後姿はすぐに見えなくなった。
「さて、どうしたもんか」
俺が乗っていた馬車は、東日本陸軍の東海方面軍輜重科が物資の輸送のついでに退役兵を運んでいた定期便だ。
悪堕ちしたばかりで常人と見分けがつかない御者に薬でも打たれて売り飛ばされた可能性がないとは言えないが、もしそうであるのなら買い手は西軍のクソ野郎であるだろうから、こんな場所に俺を放置するとは思えない。
「……あー、タバコ吸いてえ」
とりあえずこうしていても仕方ないかと、肘枕をやめて身を起こす。
まず必要なのは判断材料。
ここはどこで、俺はなぜここに放置されているのか。
それを判断するため、次に通りかかった人間に雑談を装って話しかけてみようと決めた。
「お、来た来た。しかも別嬪さんだ。強面に脅えて逃げてくれるなよ」
こちらに歩を進めるのは1人の女。
年の頃は20代の前半で、なかなかに整った顔立ちをしている。
妙な服を押し上げる大きな胸に、見事なくびれと安産型の尻もいい。俺好みだ。
それにしても、この街では毛染めが流行っているのだろうか。
女のウェーブした長い髪は、なんとけばけばしい真緑色だ。
「よう、ねえさん」
俺の前を通り過ぎようとした女が足を止める。
かなり驚いたようだから脅えられたかと思ったが、女はすぐに笑みを浮かべた。
「なにかしら。こんなかわいいボウヤに呼び止められるなんて初めてだから、お姉さん驚いちゃった」
「おいおい。30も半ばになるオッサンをボウヤって……」
「うふふ。冗談が上手なのね」
「あーっと。まあ、いいや。ちっと訊ねてえ事があってよ」
「あたしも訊きたい事があるわね」
「へえ。じゃ、先に言ってくれ。なんでも答えるぜ」
「ありがと。もしかしてボウヤは、アルバイトでここに来たの? そうだとしたら、値段は?」
アルバイトとは、労働をして金銭を得るあのアルバイトなのだろう。
値段を問うくらいだから、それに間違いはないはずだ。
「仕事の内容によるさ」
「ふふっ、そうよね。いくらボウヤみたいな上玉でも、匂いだけならパス。精液を抜くにしても、湯気の上がるそれを目の前で啜りながらオナニーしてもいいんじゃなきゃ嫌よ。もう秋も深いのに大胆に露出したその腕に擦り付けてイッてもいいなら、1000Dね」
「……は?」
「フェラしながらオナニーしてもいいなら、そうねえ。1500D。それにほんの少しでもクンニしてくれるなら、2000Dでもいいわ」
「お、おい。そりゃあ、どういう」
「もしボウヤが射精日だからこの公園にバイトに来たのなら、膣内射精に5000Dまでなら出すわよ。どう?」
おいおい。
痴女かよ、この女は。
「あーっと。ちなみにこの、街なんだよな? Dってのが通貨なら、5000Dはどんくれえの価値だよ?」
「うふ。やっぱり買い物すらさせられた事のない箱入りくんなのね。Dはこの街じゃなく、この大陸の通貨よ。5000Dあれば、家出少年が10日は宿に泊まってゴハンも食べられるわ」
「おお」
こんなオッサンが子供扱いされている事や射精日なんてのも気になるが、それだけの金額をセックスで得られるという冗談にしか思えない話の方がよほど気になる。
女は綿のような生地の白いワンピース姿で、その短すぎるスカートからほどよい肉付きのふとももを大胆に露出させているのだ。
少し屈み込んだら、下着なんて簡単に見えてしまうだろう。
つまり、顔もカラダもエロさも悪くない。
「誓って乱暴にはしないから、膣内射精でいいかしら?」
「まあ、終わってから冗談だって言われても俺に損はねえか。いいぜ」
「うふふ。お金は先に渡すってば。じゃあ、こっちに来て」
女が俺の手を引いて足を向けたのは、背もたれのないベンチの後方。
つまり、林の中だ。
小道が見えなくなる程度に下草を踏んで進むと、女は俺の手に小さな革袋を握らせた。
「これは?」
「ちょうど5000D入ってるわ。使うなら、財布ごとあげる。中を確認して」
「わかった」
入っていたのは5枚の硬貨。
銀色のそれの表面には、西洋人風の男の横顔と1000という数字が刻まれていた。
「なんだこれ。数字だって理解して1000って読めるのに、今まで見た事もない記号だぞ……」
「どうかした?」
「あ、いいや。俺はその、ちょっと世間知らずでね」
「でしょうね。もしかしたら、ステータス画面すら教えられず大切に育てられたんじゃないの?」
「ステータス?」
「ええ。……ああ、髪の匂いも素敵」
俺を抱きしめた女が鼻を鳴らし、うっとりと呟く。
その頭は、なぜか俺よりもずいぶんと高い場所にあった。
おかしい。
俺はこんなに背が低くないはずだ。
それに見た記憶もないのに、なぜか理解できる数字。
もしかして俺の身には、とんでもない事態が降りかかっているんじゃないだろうか。
それこそ、地獄の最前線で生き抜く事なんかよりよほどおぞましい、生まれてきた事を恨んでしまうような事態が……
「おい、ステータスってのを教えてくれよ。そんな髪のじゃなく、チンコでもなんでも嗅がせてやるからよ」
「うふ。淫語で煽るなんて、悪い子。でも、遠慮なく香りを楽しませてもらうわ。ステータス画面は、それを見たいと心の中で願えばいいのよ。それは魔法を使えない男でも必ず持っているから」
硬貨を戻した革袋を強く握りながら、ステータスが見たいと心の中で願う。
すると音もなく、それが眼前に現れた。
軍用デバイスの画面に似ている。
あれは現在地を教えてくれる機能なんかは死んでいたが二極化前の地図が見れたり、それに描かれた街や施設の名前に触れるとある程度の情報を教えてくれたので、部隊を預かるようになってからは俺にも貸与されていた。
「んっ、この帯ってどうやって解くのよっ」
「脱いでやるから教えろ。この表示されてる言葉の意味を。名前なんかはわかるが、他はさっぱりだ」
ベルトを外し、下着ごとズボンを足元に落とす。
「な、なんなのよ。この大きさ……」
「今までいた場所でもデカい方だったが、そんなにか?」
「あ、当たり前よ。このメンネルの街で一番高級な男娼も巨根が自慢だけど、それだって長さも太さもせいぜい指2本分なのに」
「へえ。臭いを嗅ごうがしゃぶろうが文句は言わねえから、教えてくれ。名前の下に書いてあるこれは?」
「夢みたい、こんな大きいの。上から名前、年齢、犯罪歴、レベル、HP、MP、クラス、スキルよ。名前の上に各情報ページを表示させる項目があって、そのさらに右上に可視化ってあるでしょ。それに触れると、他者にも名前と年齢と犯罪歴だけは見せる事ができるわ。普通の家の子は街に入る時にそれを衛兵に見せるから、それだけは覚えておきなさい」
カズヤ・ホリノウチ
15
犯罪歴・なし
レベル1
HP・15
MP・10
クラス・ロジスティクス
所持スキル
補給要請
ハイド
ガンナー適性
第六感
精力絶倫
俺が15歳だって?
「……なあ、俺はいくつに見える?」
「はあっ。たまんないわ、若い男の子の匂い。歳の事なら、成人したかしないか。童顔ならギリギリ成人って感じね。でも、16になってるようには見えないわ」
「成人は15か」
「ええ、そうよ。ねえ、本当に舐めてもいいの?」
「ああ。でも咥えるのはレベルとHPとMP、クラスにスキルってのを教えてからだ」
「んふっ。男の子に焦らされるのも悪くないわねえ。レベルは成長具合、とでも言えばいいのかしらね。モンスターや獣を倒すとレベルの横にあるバーが緑色で塗り潰されて、それがいっぱいになればレベルアップ。HPMPが増えて、25になればスキルが増えたりもするわ」
「はあ」
説明されても、それに出てきた言葉を知らないのだからピンと来ない。
「うふふ。HPは、簡単に言えば体力よ。なくなったら死。MPは魔力。男は魔法が使えないけど、スキルにそれを使うわ」
「……はあ、さっぱりわかんね」
女が言うにはクラスとは神々が教えてくれる、その人間の人生における指標のようなものらしい。
そしてスキルは、それを助けてくれる特殊能力。
「ちなみにクラスやスキルは、その名前に触れたら説明を表示してくれるわよ。そのステータス画面は、あなただけが触れられるの。攻撃なんかを防いだりはできないけどね」
「なるほど、アタマがおかしくなりそうだ」
とりあえずロジスティクスという文字に触れてみる。
するとステータス画面の小型版が、すぐ横に表示された。
輜重兵
MPを消費して様々な物資を召喚する
なおその物資はそれが使用されている世界の物と必ずしも同一ではない
補給した物資は翌日の深夜0時に消滅するが、いつでも任意に消す事が可能
「1日で消えんなら補給って言わねえっての……」
しかも俺が、なんで輜重兵なんかに。
「んんっ。んん、んんんんんんんっ!」
「何を言ってっかわっかんねえし」
いつの間にか女は、俺の勃起していない肉棒をぱっくりと咥え込んでいた。
顔を前後すらさせないどころか、裏筋に触れている舌すら動く気配がないのは、焦らしてでもいるつもりなのだろうか。
ロジスティクスの説明画面は、右上にあるバツ印を押すと消えた。
ならば次はとスキルの一番上に触れながら、女がえずかない程度に腰を振る。
「んぶっ!」
補給要請はロジスティクスの説明と同じだが、補給要請画面という文字に触れると喚び出せる物資のリストが表示された。
「ちょ、ちょっと!」
「なんで口から出すんだっての」
「あ、あんなに腰を動かしたら、この素敵なチンポが痛いでしょ! あたしは風属性で治癒魔法は使えないんだから、血でも出たらどうするのよっ!」
「んなアホな。そんくれえでチンコが切れるもんかよ。いいから咥えるか、しごくかしてくれ」
「い、痛みを感じてないの?」
「噛んだりしたらいてえが、こんくらいじゃな。試しにしごいてみろよ」
「こ、こう?」
「全然だ。それじゃ勃たねえぞ」
「な、ならこのくらい?」
「もっとだ。できるなら、舐めるなり咥えるなりしながらしてくれ」
「ウ、ウソでしょ。こんなチンポがこの世にあっていいの……」