入院生活という名の淫靡な日々は、ちょうど10の夜を数えて終わる事になった。
フランが朝の診察でもう薬は抜け切ったと太鼓判を押したので、ミリアは祝いだと言ってキッチンでツマミの用意を始めている。
「それで、これからどうするの?」
「先生とミリアが治療費を受け取ってくれるなら、ここらでしばらく金を稼ぐんだけどなあ」
「何度も言ってるでしょ、カラダで払ってもらったって。払い過ぎた分を請求されたっておかしくないくらいよ」
「そんじゃ明日の朝にこのマールの街を出て、とりあえずグランドールって街だなあ。んですぐに南下して、雪の降らねえ地方へ。そっからは、気の向くままだ」
いくら大物食いで跳ね上がったとはいえ、まだまだひよっことしか言えないレベルで豪雪地帯の冬を越すのは賢いやり方ではないだろう。
先になればまた違うのだろうが、今の補給要請は雪との相性が最悪だ。
「なら、個人依頼を受けてくれない?」
「個人依頼?」
「ええ。旅をする、こちらでは街渡りをするなんて言い方もするけれど、そんな冒険者が手紙や貴重品を他の街に届けるのよ」
「先生とミリアには世話になった。喜んで受けるよ。ほんで、どこまで何を届けたらいいんだ?」
「だいぶ南のサウザールという街で、私とミリアがいたパーティーのメンバーが店をやってるの。そこに手紙を届けてちょうだい」
「ミリアは風属性の魔法使いだから、通話魔法ってのが使えるんじゃねえのかよ?」
「ああ、それはね」
離れた場所にいる魔法使いと無線のように話せる通話魔法は、徒歩で10日も進めばどうしたって繋がらなくなってしまうらしい。
この大陸には神代街道という幹線道路が整備されているが、その街道沿いにある街はどれほど近くとも徒歩で3日から4日程度の距離が離れているので、3つ向こうの街と話せれば腕の良い風魔法使いなのだそうだ。
サウザールという街までは、徒歩だと約80日はかかるらしい。
「なるほどね」
「報酬は5万D」
「多すぎやしねえか? 2人の頼みなら、金なんかいらねえんだが」
「それはダメよ。ギルドを通していないからこそ、適正金額を受け取らなくっちゃ」
「って事は、ギルドのピンハネは相当なんだな」
フランが苦笑する。
ギルドを通さないのは、俺の所持金を少しでも多くしてやろうという気遣いなのだろう。
「それとお金プラス、冒険者が旅をするのに必要な道具一式。それは私やミリアが冒険者をしてた時のお古だから、遠慮なく持って行ってちょうだい」
「どう考えても甘えすぎなんだがなあ……」
「いいのよ。もし流れて歩くのに飽きたら、グラン地方の地付き冒険者になって欲しいって下心もあるし」
「俺がここいらに根を張ったら、先生とミリアのヒモになっちまうぜ?」
「大歓迎よ。この10日、ミリアと何度も話したわ。どうにかしてカズヤくんに、せめてグラン地方に留まってはもらえないかって」
「ふうん」
「そして2人共、それはムリだという結論に達したわ。だから、引き留めはしないの」
「まあ、どこに行ったって先生とミリアの事は忘れねえと思う。南に飽きたらまた顔を出して、そん時はまた泊めてもらうよ」
「そうしてちょうだい。じゃあ、まずはこれを渡しておくわ」
フランが白衣のポケットから出してテーブルに並べたのは、小さな宝石の付いた指輪だった。
「やたらと高価そうなんだが」
「どちらも手製だから、値段なんてないわよ。水色の石の指輪が、性病と腹下し予防と避妊の効果がある指輪ね」
「そりゃスゲエ」
「緑のが、遮音の効果を発動可能な指輪。どちらも石を指先か何かで、トントントンっと3回同じリズムで叩けば効果発動。緑の方は、カズヤくんを中心に大人が両手を伸ばしたくらいの遮音魔法が張られるわ」
「どっちもセックス用か」
「ええ。どう考えても必要でしょ?」
「まあな。ありがたくいただいとくよ」
「どちらも1年もすれば込めた魔力が切れるから、その前にまた顔を出してちょうだい」
「りょ-かい」
「本当は、私とミリアも一緒にって思ったんだけどね」
もしそう言われたら、俺は何と返しただろうか。
あっけなく頷くような気もするし、そうしておきながら夜中に黙ってこの病院を出て行きそうな気もする。
「きっとまた2人を抱きに来るさ」
「そう願ってるわ。今日は泊まっていってくれるのよね?」
「ああ」
俺の左隣にいるフランが、顔を寄せる。
大きなソファーの左にフラン、右にミリアが座るのがこの10日の定位置だった。
キス。
昨日の晩より、ずっと丁寧なキスだ。
フランはまるで歯の1本も残さぬとでも言うように、俺の口腔内で舌を躍らせている。
「やっぱり行くのね、カズヤ」
そんな声がしてようやく、フランは唇を離した。
大きな盆にジョッキや皿を載せたミリアが、それをテーブルに置いて俺に抱き着く。
「そうよ。だからミリアも、今のうちにたっぷり甘えておきなさい」
「うんっ」
キス。
ミリアにしては珍しい激しさだ。
エルフは羞恥心が強いらしく、自分からキスなどよほど気分が盛り上がらないとしてはこない。
喘ぎが小さいのもこちらでいう女らしいからではなく、ただ恥ずかしいからという理由であるらしい。
小さく食器が鳴るのは、フランが盆の皿やジョッキをテーブルに並べている音だろう。
それが聞こえなくなると今度はタバコの燃える匂いがしたが、ミリアはそれでも顔を離さない。
「今はそのくらいにしておきなさい、ミリア。料理が冷めちゃうわよ」
「……んっ。うん。ゴメンね、カズヤ」
「いいさ。キスは好きだし、それが俺の天使とならなおさらだ」
「またそんな。じゃあ、乾杯して食べよっか。カズヤの好きな魚の塩焼きもあるよ」
「そりゃあ楽しみだ」
ツマミは盆1つだけではなく、さらにミリアが運んできた。
乾杯をしてからそれをつついては酒を飲むのだが、ミリアもフランもいつもより明らかに口数が少ない。
「なーんか、出て行く気を失くすなあ……」
「ダメよ。カズヤくんには、この世界を見て回る事が何より必要なの。いつか、冒険者以外の職を選ぶ事があってもね」
「い、いいじゃない。ずっとここにいれば。3人で。レベル上げなら、ファイブスター号でびゅーんって」
「ミリア。何度も話したでしょう。カズヤくんにとって、これが一番なの。聞き分けなさいな」
「でも、でもさ……」
「あーもう。湿っぽいのは苦手だ。どうせなら、派手にどんちゃん騒ぎでもしようぜ。またここに帰ってくるって約束すっからよ」
「ホント?」
「ああ。任せろ」
ミリアが俺の目をしばらく見つめ、それからフランに視線を移す。
そうされたフランは、真剣な表情で大きく頷いた。
「じゃあ、待ってる」
「おう」
「また上書きしてもらって、それをオカズにして楽しみに待ちましょ」
「……うんっ。そだね」
上書きとは生活魔法の一種で、愛した相手の記憶を留めておくものだと少し前に聞いている。
俗にオナニー魔法などと言われるように、それは自身が経験した忘れがたいセックスを快感ごと記憶しておく魔法なのだそうだ。
10代なら1つ、20代なら2つというように枠が増えてゆき、自慰をする際に発動すると、当時の快感をその時また経験しているように感じられるらしい。
「じゃあ、ちょっと早いけど始めましょうか」
「うんっ!」
2人がソファーから下りて、絨毯の上に膝をつく。
そうなった理由は、1つしかないだろう。
2人がかりでズボンと下着だけでなく、靴下や軍用ブーツまで脱がされながら、エールのジョッキを口に運んだ。
「ああ。ちょっと寝て起きたらいい匂いをさせちゃって。これだけで濡れるわ」
「足もいい匂い。ね、半分こだよ。フラン」
「そうね。いただきましょう」
両足をそれぞれ持ち上げられるというのはそれなりに窮屈なものではあるが、発情したミリアとフランは好ましいのでそのままにしておく。
やがて足の指の間の、本当ならば顔を背けるべき匂いを堪能するために鳴っていた鼻息は、ペチャペチャとそこを舌で清める水音に変わった。
ミリアはただただ熱心に、夢中で足の指をしゃぶる。
一方フランはといえば、ねっとりとそこに舌を這わせ、俺のかかとで巨乳の形を変えて快感を得たりしながら、常に上目遣いで俺を煽り続けるのだ。
「ちゅっ、んぢゅっ。おいひいよう、カズヤぁ……」
「ホントよね。香りも味も、染み方まで最高。もう、この汚れた足の指で犯されたいくらい」
フランは最近、俺に犯されるという表現をよく使う。
最初の頃は逆レイプなんて言っていたのに、たった10日でこれだ。さすがと言うか、何と言うか。
「ミリア、どっちがいいの?」
「んと。上、かなあ」
「素直にチンカスって言いなさいよ。これだからエルフ女は。普段なら気にもしないけど、カズヤくんの感性じゃそっちの方が好きそうでムカつくわ」
「な、なによう」
「じゃあ、アナルは私ね。言っとくけど、亀頭以外は半分ずつよ?」
「わかってるってば」
2人の顔と一緒に、くすぐったいが悪くない感触も徐々に上へと。
ソファーに座りながら両足を上げる窮屈な姿勢から解放されたのでタバコを咥えると、すぐにフランが魔法で火種を出してくれた。
「サンキュ」
「もう。うちももをこんな美女2人が舐めてるのに、何でもないような顔しちゃって。薬が抜けていった分だけコッチが強くなるなんて、デタラメよ」
「俺に言われてもなあ」
「もう少し浅く腰かけて、お股も開いて。アナル舐めされるの、好きでしょう?」
「ああ。先生みたいな絶世の美女になら、なおさらな」
「もうっ。今日こそ、その余裕をなくしてやるんだから。覚悟しなさい」
「へいへい」
亀頭の裏と肛門、ほぼ同時に風を感じる。
足の指の間と同じく、ミリアとフランは呆れるほどの熱心さで、汗やわずかに残った汚物の匂いを堪能してから舌を伸ばす。
こちらの世界では男が女の体臭を極端に嫌うようになった分を補うように、女は男の体臭で性感を高めるのだそうだ。