「うーっ、さみいさみい。秋の終わりだけあって、もう真っ暗だあな」
ギルドの酒場スペースで可能なだけこちらの常識と街の情報を集めた俺は、何人もの女冒険者のベッドへの誘いを断って夜の街へ出た。
ここでは時計が普及していないので、朝の6時から深夜の12時までの2時間ごとに城の鐘が鳴るらしい。
刻の鐘と呼ばれるそれは午前中が高音、午後が低音で、今ぐらいの時間を「低音10の鐘が鳴ったばかり」なんて言うそうだ。
午後10時すぎ。
そろそろ動き出しておかなければ。
日本でもそうだったが安い店は大通りではなく裏通りにあると女冒険者達も言っていたので、冒険者ギルドのある交差点をまだ歩いた事のない方に少し進んでから東門方向に折れる。
街の中央に城があって、そこに近ければ近いほど店は上品、家屋なら住人は金持ちなのだそうだ。
「たしかに、店前に出されてるメニューもギルドの酒場スペースよりだいぶ高いな」
冒険者ギルドの酒場スペースなら20Dという価格でジョッキになみなみと注がれて出てくるエールが、4倍の80Dはないだろう。ボッタクリだ。
しばらく店や道行く連中を観察しながら歩くと、擦れ違う酔っ払いが多くなってきた。
左右に並ぶ店も飲み屋が多いようで、魔力とやらを通して点るという店のドアの上の明かりも派手な物が多い。
ここいらかな。
喫煙者がかなり多いのか、道端の壁際に査定所にもあった縦に長細いスタンド型の灰皿が置かれている。
そこで俺と同じ紙巻のタバコをふかすのは、都合よく若い女1人。
20を少しばかり過ぎているだろうにソバカスが目立つが、悪くない顔立ちだ。
兵士や冒険者と違って普通に暮らしている女の服装はそれほど露出度が高くないし、さらに上等そうなコートを着ているので定かではないが、胸のふくらみもそんなに少なくはない。
「寒いね、おねえさん。悪いが火を貸してもらえるかい?」
「あ、ああ。もちろんいいよ。ほら」
「サンキュ」
俺がその生活魔法でタバコに火を点けると、ついでのように女も新しいタバコを咥える。
「ふうっ。まだ秋だってのにこの寒さだ。嫌になるなあ」
「そうだね。この辺りも雪はかなり降るって話だから男性、特に冒険者ともなれば大変だろう」
「俺が冒険者なんてしてんのはお見通しか。てかおねえさんは、この辺りの人じゃねえんだな」
「うん。これでも商人の端くれでね、そのくらいの目はあるよ。この辺りでいい値が付く素材を競り落とせたから、東からはるばるやって来たんだ」
「へえ。旅の商人さんとは」
「そうだ。よかったら、この辺りで落ち着いて飲める店を教えてくれないかな。さっき入った店は着飾った男の子が給仕するからか値段ばかり高くて、酒も料理もイマイチでね」
「あー。悪いけど俺も、この街に来たばかりでね。同じくゆっくり飲める店でもねえかなってここまで来たんだ」
「なるほどね。これは適当にこの街名物のツマミを買って、宿の部屋に酒を運んでもらった方がゆっくりできるかな」
「部屋に酒なんて運んでくれるのか。さすが、旅人向けの宿は違うなあ」
「そうか。冒険者が泊まる宿じゃ、そんなサービスはないか」
「だねえ」
タバコの灰を落とす。
できるなら体を売るような真似はしたくないが、深夜の12時を過ぎてからセックスでMPを回復して明日の準備をしなければ、今日のように宿代すら稼げない。
女冒険者達の話では普通ならレベル25まではそう苦労もせずなれるし、そこまでレベルを上げてスキルが増えてからが、本当のスタートラインのような感じなのだそうだ。
それでも俺は女の10分の1しかMPがない男で、冒険者の等級を上げるための貢献度がシチュー・ラビットを3匹では1も増えなかったのだから、しばらくは辛抱する時期が続くのだろう。
こんなナンパ紛いの女漁りにも、どうにか慣れるしかない。
「あたしが泊まってるのは、そこの路地から大通りに出てすぐの宿でね。酒だけじゃなく、1階のレストランからツマミだって運んでくれるんだ」
「レストランかあ。入った事ねえな。どれも値段が、冒険者ギルドの酒場スペースの倍はする」
「まあね。ああいう店は、そんなものだよ」
「部屋も豪華なんだろうなあ」
「……よ、よかったら部屋で一緒に飲むかい?」
ふう、かかってくれたか。
部屋にまで上がり込めたならば、釣り上げたも同じだろう。
俺のMPは15。
このまま明日もシチュー・ラビットを狩るとなれば消費MP5の低級手弓と消費MP1の石の矢を10本召喚して出かけるしかないが、そうなるとそれを運ぶカゴなんかは金で買って毎日持ち歩くしかない。
しかも矢を10本すべて命中させたとしてもそれでシチュー・ラビットを狩るのが可能かはわからないし、できたとしても稼ぎは最高で500Dだ。
日銭としてはギリギリ大丈夫な金額でも、それではいつまで経っても休養日なんて作れやしない。
「俺なんかが美人さんの部屋に招かれていいのかな。ちょっと心配だよ」
「い、いいに決まってるじゃないか。旅人向けの宿じゃ、商人ギルドのギルドカードで飲み食いができるんだ。上等な酒と料理で豪勢に乾杯しよう」
よし。
この女の部屋に招かれれば当たり前のようにセックスはするだろうから、ギルドで飲みながら確認したら補給要請リストに増えていた消費MP15の低級クロスボウを召喚できる。
それなら発射するのが消費MP1の石の矢の倍、消費MP2の石のボルトなので、シチュー・ラビットを1撃で狩れる可能性は高いだろう。
「じゃ、じゃあ行こうか。ここは男の子には少し寒い」
「ああ」
タバコを消し、女と並んで歩く。
深夜0時を過ぎたら石のボルトを20に、カゴとポンチョの下に着るコートも用意させてもらおう。
それから金も大事だが、何よりも欲しいのはレベルアップのための経験値とかいうヤツだ。
レベルが上がればMPが増えるし、レベル25になればスキルも増える。俺の場合はそれに加え、MPが増えれば補給要請画面に召喚可能な物資も追加されるのだからなおさらだ。
そんな事を考えていると、俺の手に女の手が重ねられた。
少しばかりその手が震えているのは、こんな事に慣れていないせいか。
まるで初めての休暇で近くの街に出た新兵のようだと笑ってしまいそうになるが、何も言わずにその手を握り返しておいた。
「あれが大通りだ。宿は、右に曲がればすぐだよ」
「あいよ」
さすがに人目を気にしてか、繋がれていた手が離される。
たった30メートルほど繋いでいただけのその手は、しっとりと汗ばんでいた。
「ここだ」
「へえ。建物が石造りなのは同じでも、ここは白い石なんだな」
「建築魔法やスキルは、素材で消費MPが変化するからね。高級感を演出したい店は、わざわざこういう素材で店を建てさせるんだよ」
「なるほどねえ」
高級なだけあってその宿は大きな玄関のドアを抜けるとさらに正面にドアがあり、そこから先がレストランになっているようだ。
女が向かった左手にあるカウンターに立つ従業員も、どう見てもエロ目的で男を部屋に連れ込もうとしている2人連れを見事な愛想笑いで出迎えている。
床には靴音を消すくらいの絨毯まで敷かれているから驚きだ。
「じゃあ、いこうか。酒とツマミは、とりあえずの分だけ頼んでおいたよ」
「ああ」
カウンターとは反対側にある階段を、女が先に立って上がった。
コートの下はミニスカートで、丸くて白い尻と赤い下着が丸見えになっている。
そのショーツは日本の物より洗練されたというかエロくて、腰の両脇に結んで止めるための紐があり、布の面積が極端に少ない。
まるで、二極化前のエロ本でポーズを取る女のようだ。
「ここだよ。角部屋なんだ」
「ジャマするよ」
部屋は俺が日本で休暇のたびに女を連れ込んでいた安宿とは、天と地ほどに違う。
ベッドは大人が3人は寝られそうだし、女に座ってくれと言われたソファーには毛ほどの汚れすら見当たらない。
「ポンチョ、脱いでもいいかい?」
「ああ、そうだった。ここのクローゼットにかけよう。剣もここでいいかな?」
「もちろん」
俺を先にソファーに座らせた女が対面に回りかけたので、その手を取って隣に座らせた。
コートを脱いでブラウス姿になると昼間の女ほどではないが大きな胸が強調されたし、昼間の女がそうだったようにブラをしていないので、すでに尖っている乳首がいい感じにエロい。
きっとさっき階段で見た赤い下着も、すでにその淫液でベタついているだろう。
「か、かわいい顔をして大胆なんだね」
「こんな美人さんの部屋に招かれたら、そりゃあね。それに、射精日だからかな」
「きょ、今日がそうなのかい?」
「ああ」
飲みながら女冒険者達がニヤケ顔でしてくれた話だと、ここの男連中は月に1度くらいしか勃起も射精も、それどころかセックスがしたいと思ったりもしないらしい。
なので体を売る男達は、指やバイブで女を満足させるそうだ。
どうして舐めないんだと問うと、男は女の体臭を嫌う者がほとんどだと返された。
だからキスやクンニが可能な男娼は、いい値段がする。
月に1度しかない射精日ならなおさらだ。
「その、お金なら」
「いらねえいらねえ」
「いや、これでもあたしはそれなりの商人で」
「いいんだって。ほら、俺は冒険者だから。10と2つの鐘が鳴ってからMPを回復させてもらえれば、それで充分さ」
「もしかして、召喚系のクラスかい?」
「ああ」
「それは、商人向きだな」
「そうなんか?」
「ああ。考えてもみるといい。商売を始めるとなれば多額の開業資金が必要になるけれど、その中にはたまにしか使わない設備や道具を購入するための資金もかなり多い。それが召喚で……」
女がそれなりにMPを増やした召喚系のクラスが商人になる利点を語り出したので、ほどよい肉付きの腰を抱きながら話を聞く。
「なるほどねえ。冒険者に飽きたら、商人をしてみるのも一興か」
「その時はここから東に向かって、街に着いたら商人ギルドでアルベール商会の支店があるか確認するといい。あたしはニム・アルベール。商売を始めるなら力になるよ」
「若いのに商会なんてやってんのか」
「そういう一族で、子供があたしだけだったからね」
「なるほど。俺は西から来たんで、東の事は知らないんだ。どんな様子か教えてくれよ。それと俺は、カズヤ・ホリノウチ。今んトコ冒険者をやってる」
「商人目線の話なんて役に立つかな」
「だからこそいいんだよ」
「なるほど」
この街は大陸の北東部、それも内陸であるらしく、街としての規模はそれなり。
東に徒歩で3日くらいの場所に街があり、神様がいた時代に整備されたという神代街道上には、そんな感じで街がポツポツとあるそうだ。