カリタスの街1
「そろそろ代わるぞ、ドッペルゲンガー」
オリジナルが2つ並んだ後席から言う。
現在1つ目の街を迂回中の乗機は、補給要請に追加されたばかりの三輪タクシーだ。
三輪トラックが荷運びに適しているのはサハギンを集めて冒険者ギルドの査定所に持ち込んでわかったので、今日はこちらを試そうと朝からオレがハンドルを握っていた。
「んじゃ、頼むわ」
「おう」
三輪タクシーはかなり小さく狭いが運転席は車のそれとほぼ同じで、その後ろに2人が並んで座れるベンチシート、その後ろにまたバックパックぐらいは置けるちょっとした荷物置きスペースがある。
オリジナルのバカは気にもしていないようだが、オレはその荷物を置くスペースに違和感を覚えていた。
地球でこういった小型車が走っていたのはあまり裕福ではない国々で、しかもそういった場所では日常の足として使われていたはず。
それが速度こそ60kmほどしか出ないが、ビニール製の屋根や壁まであり、オレ達のバックパックと武器をちょうど積めるだけのスペースまで用意されている。
オマケにシートはフカフカで、まるでソファーのようだ。
「この世界に似てる往時のゲームの中には、それを作った連中が組み込んだプログラムに含まれている物しか存在しない。補給要請ってスキルを作ったのが神だってなら、なんでこんなオレ達におあつらえ向けのプログラムを組んだんだ……」
「意味はまったくわかりませんけど、心配事ですか。師匠?」
頭上のネコ耳をへにゃりとさせながら、キナが心配そうにオレを見遣る。
「いいや。それより、いいものを見せてやろうか。子猫ちゃん」
「へ?」
「これだ」
胸ポケットから出したポラロイド写真をキナに渡す。
するとまだ幼さの残る整った顔が、瞬時に茹でたタコのように真っ赤になった。
「こ、これって……」
「ああ。オリジナルのチンコをオマンコで咥え込んでる、子猫ちゃんの後姿だ」
「そ、そうじゃなくって!」
「現実を切り取ったようなこの紙か。写真、ってんだよ」
「写真……」
「見た事があるんだな?」
キナが頷く。
「へえ。この世界にも写真があんのか。まあそれも、魔道具なんだろうなあ」
言ったのはもちろん、オリジナルのバカだ。
「そ、それより、こんなの早く消してくださいよ」
「もっとよく眺めとけって。子猫ちゃんのケツには、マジックペンでなんて書いてある?」
「えっと、その……」
「言いたくねえならいいぞ。ここでまた体中に落書きしながら、じっくり説明してやる」
「や、やですよっ。……淫乱メス猫、アナル調教中って書いてあります」
「オマンコにチンコを突っ込まれながらケツマンコをベロでほじられんのは、ずいぶん気に入ったみてえだもんな」
「でも、やっぱり汚いですよ。キナは土属性だから、体内のは消せないし……」
「だからオレは病気にならねえから平気だっての」
「でも」
「いいからオレの指を魔法で清潔にしろ。じゃなきゃ、汗が染みてチンコをおねだりをするハメになるぜ?」
「ま、待ってください。こんな昼間っから、それも外でなんて。……んうっ!?」
待てと言いながらも、キナのオマンコはすでに濡れていた。
下着の上から割れ目を撫で上げただけで、淫肉の形がわかるほどに。
「グチョグチョじゃねえか。自分のハメ撮りで興奮できるんなら、こっちも見ろよ。ほら。今度は正面から撮った写真だ」
体の正面にも、補給要請で出した『お肌に優しい落書き用マジックペン』というので卑猥な言葉が書いてある。
今度の写真は挿入中に撮ったものではなく、落書きとオマンコがよく見えるように大きく股を開きながら、オリジナルのチンコを舐めている写真だ。
「こ、こんなの……」
「キナじゃありませんってか? 冗談じゃねえ。こりゃ間違いなくオマエだよ、子猫ちゃん。この撮影後にはオリジナルのチンコをオマンコで咥え込みながらケツ穴を舐めまくられて何度もイッて、最後にゃベロでほじられながらションベンを漏らしても腰を振ってた。もっともっとチンポで気持ち良くして、キナを孕ませてくださいってな」
「ううっ……」
「次の街じゃ丸1日の休みを取る。楽しみだろう? 朝から晩まで、好きなだけハメまくりだ」
「やぁっ、指ダメですっ!」
ダメと言われて指マンをやめるなんて、男じゃない。
下着をズラして膣の入口を指の腹でノックするようにして、わざと淫音を立ててやる。
「くくっ、いい音だ。聞こえっか、オリジナル?」
「バッチリな」
「だとさ」
「……ああっ」
「うわ、なんだありゃ」
「どしたよ?」
「前方。10キロくれえ先で、草原が途切れてる」
「ああ、それか。そっからは、しばらく草木も滅多にねえ荒野だってよ。見えるのは土と石くれ、それにデケエ岩ばっかりだとさ」
「へえ。日本じゃ見れねえ景色だなあ」
たしかにあの国じゃ、地平線さえ見た記憶がない。
それなのに三輪タクシーの行く手に広がるのは、土と岩の間を伸びる石畳と、まっすぐな地平線だ。
左は海なので、水平線も見える。
「だな。思えば遠くへ来たもんだ、か」
キナは喘ぎを押し殺すのに必死で、景色なんて見ちゃいない。
それにグラン地方で暮らしていても冒険者なんてしていれば、草木は多いが地平線なんて見慣れているのだろう。
「欲しくなったら咥えろよ、子猫ちゃん」
「こ、こんなところで。それに、カズヤさんが運転してるのに……」
「俺なら気にすんな、キナ。ヤリたくなったら三輪タクシー停めて、ドッペルゲンガーが使ってねえ方の穴で射精するし」
「だとさ」
「でもま、そうはいきそうにねえなあ」
「あん?」
「荒野の入り口に敵影。もうだいぶ接近したからな」
「チッ。空気を読めねえのかって」
「そんなん読むモンスターがいてたまるかっての。別に俺が仕留めっから、気にせずヤッてていいぞ。相手はデッケエ牛だ。ここから狙撃すりゃ、どんだけ頑丈でも接近される前に殺れるだろ」
オリジナルはそう言って三輪タクシーを停める。
「距離は、……1200ってトコか」
「ああ」
「子猫ちゃんの教材にしてえな。200か300まで接近さして、狩猟用のクロスボウだ」
「カンベンしろって。HPバーの長さが、今まで見たモンスターの中で一番なんだぞ?」
「だから、最初は試すんだよ。距離1000で停車。俺が狙撃で、オリジナルと子猫ちゃんは接近を許した場合に備えて待機」
「なるほど。じゃあようやく、とんでもねえ旧式といえどフルオートの銃を撃ちまくれるんだな。腕が鳴るぜ」
どちらも同一人物ではあるのだが、オレとオリジナルでは銃の好みが真逆だ。
オレが銃に求めるのは何より武器としての頑強さと信頼性、そして精度。
オリジナルが欲しているのは、威力と連射性能らしい。
2人共ホルスターを脇に吊って2丁のハンドガンを身に着けていても、オレのは小口径のリボルバーで、オリジナルのは大口径オート。
そんなところにも、好みの差は出る。
「師匠、戦闘なんですよね?」
「ああ」
「接近された場合の備えなら、こっちですね」
キナが後ろの荷物置き場から手に取ったのは、古臭いデザインではあるが半自動装填機構の付いたボウガンだった。
「正解だが、この場合は違う。もう1つの方だ」
「えっ。でもこれって、遠くの敵を狙い撃つクロスボウなんですよね?」
「そうなる。だが、最初は試すって言ったろ」
「はい」
「だからオレが狙撃して、HPの減り具合を確認。そっから3射以内でHPを削り切れるようなら、あのムートってデケエ野牛のモンスターをわざと接近をさせる。子猫ちゃんは、それが距離500んなったら狩猟用ボウガンで撃て。練習だからな。外してもいい。オレとオリジナルでどうにでもしてやる」
「……わかりました」
冒険者の本分である狩りだというのに、頭数にも入れられていない。
それが気になったのだろうが、キナは自分が戦力として数えられるためには遠距離武器に慣れる必要がある事を思い出したはずだ。
攻撃魔法の射程は、低レベルなら良くて50メートル。
ミリアとフランのような、よほどの手練れでもその10倍程度でしかないので、オレとオリジナルと組んで狩りをするなら、最低でもボウガンくらいは使いこなせないと出番はほとんどない。
その事はすでに説明してあった。
「距離1000。そんじゃ、いっちょ殺るか」
「おう」
万が一の場合になっても、オリジナルなら即座にオフロードバイクを出してキナだけを乗せ、残ったオレになんて目もくれず離脱するだろう。
いけ好かないヤツではあるが、そんなところは無条件で信頼できる。
「俺がドッペルゲンガーの右、キナは左な」
「はいっ」
WW1狙撃銃はボルトアクションで、コッキングをすると銃の右に薬莢が飛び出す。
オリジナルが持っているWW1小銃もそうだ。
軍人としては当たり前の判断のように思えるが、オレにはそれが本人が意識すらしていない思いやりからした選択だというのが手に取るようにわかる。
戦う人間に、思いやりなんて必要ない。
だからあんな小悪党にしてやられるんだと言いかけて、やめた。
兵士は歯車。
銃1丁の価値もない消耗品。
そんな前線暮らしを20年も続け、オリジナルは幼い頃のように頭を使うのを、いつからかやめてしまった。
「望めば王にだってなれるのにな……」
「ん、なんか言ったか?」
「あんでもねえよ。やっぞ」
「おう」
WW1狙撃銃を構える。
相手に飛び道具がないなら、狙撃するのが当たり前。
手に入る物が同じならば、なるべく少ない労力でそれをしないでどうする。
「子猫ちゃん、狙撃の際の注意事項は?」
「はい。信頼できる観測手がいないなら、まずは周囲の確認。今は大丈夫なので、敵までの距離と自分の武器の、弾道、でしたか。それを正確に把握する事が何より重要です」
「だな。じゃあ狙撃すっから、よく見とけ」
「はいっ。『闇夜に霜の降る如く』ですねっ」
「へえ。そんな事まで教えてんのかよ、ドッペルゲンガー」
「そんだけじゃねえぞ。旅が終わったら、弾道計算くれえはできるように仕込む」
「うへぇ。キナも災難だなあ……」
「どういう意味ですか?」
「今は気にしなくていい。撃つぞ」
「はいっ」
スコープで見ると、草木なんてないと思っていた荒野にもいくばくかの植物があった。
狙いはそれを食んでいる野牛の、頭部。
それも急所であるはずの目でも耳でもなく、頭蓋の硬そうな場所だ。