茶を運んだ職員が部屋を出てから支部長が口を開く。
まず語られたのは、この街にある孤児院と、それを運営する教会の話。
それからその孤児院を出て就職したはずの男の子が、何名か行方不明になっているという事だった。
「その孤児院を運営する教会が聞き慣れねえ宗教なのは、まあいいか。でもどうして、鑑定系のスキル持ちを派遣しないんで? 相手を見ただけで発動するタイプの冒険者なら、すぐに犯罪を見破れるでしょうに」
「そうもいかないのよ。この街の兵は練度が高いの。もちろん、レベルもね。そして孤児院を運営する教会の責任者は、その兵達がレベル上げをする時に軍医として帯同している」
「つまり高レベルで犯罪を見破れないと?」
「ええ」
支部長が歯軋りでもしそうな表情で頷く。
「なるほどねえ。そんじゃ、個人依頼ってのは潜入捜査か」
「そうなる。旅の兄弟が、ギルドで絡まれるのに嫌気がさして教会に宿を乞うって筋書はどうだ?」
「行くとなりゃ、オレ1人さ」
「単独で動くつもりか……」
「それが一番だからな。こっちじゃ天秤教って一大宗教があって、そこの教会が裁判所を兼ねてる。オレが犯罪行為を見るなり受けるなりしたら、そこに駆け込んで裁判スキルを持つ神官に告発すりゃあいいだけなんだ。冒険者ギルドと天秤教は、かなり密接な関係らしいからな。その後の捕り物なんかは、そっちに任せときゃいい」
「そうなるね。だから、懸賞金もかなりの額だ」
「懸賞金?」
グラン地方で言う世話役のような事をしているらしい年嵩の女、マヒーナが懸賞金の説明をする。
要は依頼の報酬とは別に冒険者ギルドと天秤教がそれぞれ金を出し合って、ただでさえ少ない男の冒険者の気を引こうという事らしい。
額も天秤教から20万、冒険者ギルドから30万と破格だ。
「日本円で500万か。悪かねえな」
「金は気にしねえでいいんだぞ、ドッペルゲンガー?」
「そうもいかねえさ」
南には孤児が多いはず。
それを見かけるたびに、オリジナルが硬貨を放ったりするのは確実。
金は、いくらでも必要だ。
「でも、単独で潜入してどうするつもりだよ?」
「やり方はいくつかあるなあ。マヒーナ姐さん、教会にゃどんくれえの人間が寝起きしてんだ?」
「教会そのもので暮らしてるのは、軍医をしてる女司祭だけだね。同じ敷地内の孤児院には老夫婦がいて、12、3人の子供達の面倒を見てる。そっちは、間違いなくシロだ。一般人で低レベルだから、とうにスキルで確認してある」
「そんじゃなんとしても、女司祭の暮らす教会の方に泊まるしかねえな」
「そうなるねえ」
「クロだって確信してんなら、ふん縛って拷問でもいいんじゃねえのか?」
「さ、さすがにそれはね。天秤教が黙ってないっての」
「なるほどねえ」
この世界の教会は、病院を兼ねている事が多い。
ならば、そこに潜入するのは簡単か。
考えをまとめて計画を立てる間、オリジナルにオレ達の能力を説明させる。
冒険者であっても男だから通信魔法が使えず、教会に潜入させるにしても連絡方法に苦心していたらしい2人は大喜びだ。
「よし」
「決めたんか、ドッペルゲンガー?」
「ああ。旅の薬師として教会に宿を乞う。そんで宿代になる寄付金の代わりがMP回復薬となりゃ、教会の方に泊めてくれるだろ。オナニーで出したザーメンで薬を調合するんだから、ガキと同じ屋根の下はマズイ」
「抱くまでは簡単そうだがなあ」
「なあに。あとは執着させりゃいいだけさ」
「執着?」
「ヤリまくって手放したくねえって思わせりゃ、こっちの勝ちさ。オレ達のチンコの味を覚えちまったら、きっと動くぜ」
「まあなあ」
「こ、こっちから依頼しといてなんだが、そんなに凄いってのかい……」
「おう。オレとオリジナルは顔が同じだし、連絡のためにオリジナルの方は冒険者ギルドの部屋に3日は缶詰。マヒーナ姐さんと支部長さんも、オリジナルのチンコを試すといいさ。揃えてほしい装備がいくつかあるんだが、そりゃ必要経費って事でいいかい?」
「あ、ああ」
準備させたのは深夜12時を回っても消えない薬師の服や薬の調合に使う道具一式、それに冒険者を護衛にしてはいるが旅人としての装備や武器。
打ち合わせを済ませ、それらを身に着けて冒険者ギルドを出ると、ちょうど異国の街並みが夕暮れに染まりかける時間だった。
(お、いい部屋じゃねえかよ。オリジナル)
(パーティー向けの大部屋だとさ。一軒家じゃなくても、個室なのはありがてえ)
(だろうなあ。まあ、のんびり子猫ちゃんをかわいがってりゃいいさ)
(オマエだけを潜入させんのを、ずいぶんと心配してる感じだからなあ)
(誰かさんに似て、お人好しなんだよ。せいぜい抱きまくって、心配するヒマもねえようにしてやれ)
(へいへい。オマエの視覚と聴覚は繋ぎっぱなしにしとく。ヘタを打つんじゃねえぞ?)
(誰に言ってんだっての)
右を見ても左を見ても黄土色の街。
目的地が見え始めたのは、だいぶ防壁に接近してからだ。
「……あれか。ったく、城の前の広場が広すぎだろこの街」
どこの街でも城の前が公園や広場になっているのは、有事の際にはそこに兵を置いて、迅速な出動をさせるためなのだろう。
冒険者は自由で気ままな荒くれ者の代名詞ではあるが、モンスターが大挙して街を襲うような事態になれば、その街の兵士と共にそれを殲滅するために動員されるという。
つまり冒険者は、予備役の兵士を兼ねているという事だ。
その動員、一斉招集が各街の領主や議会に簡単にされていては冒険者になる者が激減するので、冒険者ギルドや天秤教がそれを監視しているらしい。
街の方も平時に街の外から物資を持ち帰り、有事の際には頼りになる戦力に丸ごと出て行かれてはたまらない。
なので施政者と冒険者ギルドと天秤教は、こういった街ではそれなりに上手く共存しているようだ。
「ま、ここより南はそうじゃねえらしいがな」
独り言を漏らしながら足を向けたのは、広場と説明されたが大通りにしか見えない道の切れ目に見えている門。
その向こうにはいかにも教会らしい装飾の多い建物と、四角い二階建ての大きな建物が見えている。
「……ガキの姿がねえ。ただ単にメシ時なのか、それとも教会の敷地で遊ぶ事すら禁止されてんのか」
そんな事をここで考えていても仕方がない。
門を抜け、迷わず教会の方に向かってそのドアを叩いた。
(返事がねえな)
(こんだけ広い建物だ。音が届いてねえのかもなあ)
(踏み込むか、ドッペルゲンガー?)
(のんびり待ってるさ。オレは今から、男だてらに旅をしてるただの薬師なんだ。お、来たぞ。容疑者サマのお出ましだ)
(気は抜くんじゃねえぞ?)
(わかってるっての)
ドアが軋みながら開く。
石や土の建物でも、当然ながらドアは木製だ。
顔を出したのは、いかにもオリジナルが好きそうな優し気な容姿をした妙齢の女。
長い水色の髪を揺らし、女が小首を傾げる。
地球の修道女に似たゆったりとした貫頭衣に包まれている肢体も、肉付きの良い豊満な大人の女のそれだ。
タレ目気味で、目元に泣きぼくろ。
どう見ても人身売買に手を染めているような悪人には思えないが、優し気であるからと、顔だけで善人と決めつける訳にはいかない。
「はい。どなたかしら?」
笑顔を作る。
「はじめまして、神官様。僕は旅の薬師をしている、ドッペルゲンガー・ホリノウチと申します。護衛の都合で3日ほどこの街へ滞在する事になったので、その間の宿を神のご慈悲に縋ろうとお伺いしました」
「まあまあ」
「聞けば神官様は、この街では指折りの魔法医であられるとか。なにぶん貧乏なもので、お心づけはMP回復薬などの現物になってしまいますが、どうか納屋の1つでもお借りできませんでしょうか?」
「納屋なんてそんな。客間がありますから、そこをお使いくださいな。さあ、どうぞ」
「ありがとうございます、神官様」
女はオレを建物内に迎え入れ、先を歩きながら自己紹介をした。
神官ではなく司祭と呼ぶべきなのは最初から知っていたので、すぐに呼称を改める。
アニマ司祭様……
うっとりとした声音でオレがそう呟くと、アニマはいくつ目かのドアの前で足を止めながら微笑んだ。
客間は都合よく1階で、それなりに広いし調度も揃っている。
「こんな良いお部屋を。よろしいのですか、アニマ司祭様?」
「もちろんですよ。食事の準備が整ったら呼びに来ますから、それまで体を伸ばしてのんびりなさい。旅というものは、男性にはかなり辛いと聞いていますから」
「いえいえ。お心づけの準備もありますし」
「あら。MP回復薬はこれから調合を?」
「あ、はい。部屋は決して汚しませんので」
「いいのよ。そのお気持ちだけで」
そう言いながら苦笑するアニマの表情には、『目の前にいる成人したての男がこれからここで自慰をする』と気がついた、この世界の女ならばどうしたって隠し切れなそうな、下卑た感情の色は見られない。
アニマが部屋を出たので荷物を置き、ベッドに腰かけてタバコを咥えた。
(おい、ドッペルゲンガー。こりゃ見当違いなんじゃねえか? どう見たってあの女は、孤児を売り飛ばすようなガラじゃねえだろ)
(まだわかんねえっての。それに、見当違いならそれでもいいんだよ。オリジナルと子猫ちゃん名義で受けた個人依頼は、この教会に3日間潜入して女司祭をアヘらせるって事なんだから。空振りでも、依頼料の3万Dと貢献度は手に入るさ。日本円で500万の懸賞金は入んねえがよ)
(ただの休暇っぽいな、そんじゃ)
(そう思うんなら、せいぜい子猫ちゃんをかわいがっとけ)
(あいよ)
オリジナルが物事を深く考えないのは、いつもの事。
その分、オレが頭を働かせなければ。
長い前線暮らしでは、考えたってどうにもならない事ばかりだったのだ。
家柄だけで出世した上官に無茶な命令をされ、一兵卒は死んでゆく。
そんなのを、オレ達は見すぎた。
(おうおう、さっそくサカってんなあ)
(師匠が心配らしくて、だいぶ沈んでっからよ。まあ、米が炊けるまではヒマだしな)
(銀シャリ、好きだよなあ。オリジナルは)
(あれを腹いっぱい食いたくって、兵隊になったんだ)
(そう思いてえなら、それでいいさ)
(どういう意味だよ?)
(さあねえ)
オリジナルはベッドに腰かけながら、キナを横抱きにして唇を貪るようにキスをしている。
それだけでなく手がオマンコの割れ目を上下しているので、すっかりセックスの快楽の味を覚えた子猫ちゃんは喘ぎを押し殺すのに必死だ。