駆け出す。
オリジナル達がどこにいるかなんて、ディスプレイで確認する必要すらない。
長い廊下の左。
少し先にあるドアが開け放たれていて、そこから銃声が響いているからだ。
そっと室内を覗き込む。
どうやらここは、ワース教の信者を集めて神に祈りを捧げたり、アニマが説法を聞かせる場所であるらしい。
かなり広いホール内にはいくつものベンチが並べられていて、正面には説法をする段と立って使う机が置かれている。
そしてホール内を見下ろす形で、フェラをしながら戦うのではなく、並んで立って手を繋いでいる2柱の巨大な神像があった。
ドガアンッ
大音響は、オリジナルが投げた手榴弾の爆発だ。
アニマは器用な事に神像の肩、床から10メートルほどの高さにいる。
神がどうのと言いながら、その顔を盾にして銃撃を防いでいたらしい。
だがタイミングを計算して投げられ、神像の顔の横で爆発した手榴弾の破片が躱せるはずもなく、怨嗟の声を聖堂に響かせていた。
「派手にやってんなあ。殺るだけなら簡単そうか?」
「まあな。ただ、捕縛となるとキツイぞ。さっきキナが斬りかかったら、尻尾で思いっきり吹っ飛ばされた」
「だから姿が見えてんのか。怪我は?」
「すぐにカズヤさんがHPポーションをかけてくれたので平気です。それより師匠、どうしても生け捕りですか?」
「いいや。上級神官サマはぶっ倒れてるから知らねえが、支部長姉妹には生け捕りは期待すんなって言ってある」
「なら、さっさとぶち殺すか。詳しい話はムリでも、お姫様がちょっとくれえならバケモノの事を知ってるだろ」
「だといいがなあ。ほれ」
「サンキュ」
オリジナルとキナは、ベンチを盾にして身を低くしている。
そのオリジナルに2つある手榴弾の1つを放り、オレも安全装置を解除。
あとは持ち手を握り込んで投げれば大爆発だ。
「合わせるか」
「だな。3、2、1」
「吹っ飛べゴラアッ!」
「よっこいしょういちっと」
2つの手榴弾が放物線を描く。
オレもオリジナルも、それほど使い慣れていなくともこんなのはお手の物だ。
神像の顔の左右。
アニマに破片が降り注ぐ位置で、2つの手榴弾は爆発した。
「殺ったか?」
「……いいや、血塗れんなっただけだあな」
「おのれ、この恩知らずがぁっ!」
「バケモノの世話んなった覚えはねえな」
「コロス。コロスッ。生きながらチンポを喰らってやるわあっ!」
「変態はバケモノになっても変態か。いっそ清々しいねえ」
「来るぞ、前衛は俺とキナ。ドッペルゲンガーはそっからサポート」
「はいっ」
「あいよ」
いくらウロコで銃弾を防げても、このままではジリ貧だとアニマも気づいたらしい。
接近戦を選択して、10メートルほどの高さからオリジナルとキナのいる場所に思いっきり跳んだ。
「いい的だな」
サブマシンガン。
トリガーは引きっぱなしにするのではなく、小刻みに引いては戻す。
「があっ!」
「ようこそ、至近距離へ。あばよ」
ガアンッ
オリジナルが片手で持ち上げて撃ったのは、WW1ショットガンだ。
それとは反対の右手にも、すでにミリアとフランに持たされた片手剣が握られている。
「ぐうっ!」
アニマが吹っ飛ぶ。
顔面は交差させた腕で庇ったらしいが、上半身は血だらけだ。
至近距離から、旧式といえど軍用ショットガンの散弾を身に受ける。
それでも死んでいないとは、呆れた頑丈さだ。
オリジナルは追撃に動かない。
「キナのために、精々いい声で啼きなさい。人である事すら棄てた、畜生以下の哀れな変態女。……鬼哭寂滅ッ!」
ベンチを粉々にしながら床に叩きつけられたアニマに、キナの必殺技とも言うべき攻撃スキルが襲いかかる。
効果がないかもしれないのは、本人もしっかりと理解しているのだろう。
スキルを放っても油断なくアニマへ日本刀を向けたままのキナがチラリと目をやったのは、嵐のように攻撃が降り注ぐスキルを目眩ましに追撃へ動いたオリジナルだ。
「効かないってのよ。魔法も、スキルもっ!」
「なら、コイツはどうだよ?」
先程のショットガンの一撃は、5メートルほどの距離から撃った。
それをオリジナルは、1メートル。
片手剣の刃さえ届く位置にまで詰めているのだ。
その距離から顔面にショットガンを喰らえば、いくらバケモノとて無事ではいられまい。
顔を庇うようなら、どてっぱらを撃てばいいだけだ。
「くっ。でも、この距離ならこちらの攻撃だって届くでしょうよっ!」
「おいおい、ションベンを飲むまでした相手を忘れるんじゃねえっての」
オリジナルにアニマの尻尾が迫る。
オレが持ち上げているのはWW1小銃。
つまりはトリガーを引けばクリップで込めた5発の弾が撃てる、半自動ライフルだ。
精度は悪くない。
「だから、こんなマネもできるってんだよ」
トリガーを引く。
狙いは無防備なコメカミでも、所々にウロコの見える首筋でもない。
ウロコで覆われている、顎先だ。
「あぐうっ!?」
尻尾の軌道が揺れ、力のこもっていないただの大振りに変わる。
そんな攻撃を躱すなんて、オリジナルなら目を閉じていたって可能だろう。
「脳が揺れると、頭蓋にぶつかって行動が阻害される。ま、戦術なんて気にせず魔法をぶっ放して、HPだけで戦況を判断する、脳筋丸出しなこっちの女共にはわからんか。やれ、オリジナル」
「相棒が世話んなったなあ。借りは返すぜ、司祭さん。あばよ」
ドオンッ
オリジナルはさらに距離を詰め、アニマの大きく裂けた口に銃口を捻じ込んでからトリガーを引いた。
ビクンっとアニマの体が跳ねる。
ドオンッ
オリジナルは殺し切ったと確信できるまで、ショットガンを撃つのをやめる気はないらしい。
ドオンッ
ドオンッ
3発。
それでやっと、オリジナルは撃つのをやめた。
アニマの顔面が半ばから千切れ、ショットガンの支えも虚しく床に倒れ込んだからだ。
「……ふうっ。とんでもねえ頑丈さだ。赤目よりヒデエや」
「だなあ。子猫ちゃん」
「はい、師匠」
「悪いが支部長姉妹んトコ行って、こっちに人を回すように言ってくれ。死体でも貴重なサンプルだろうからよ」
「わかりました。すぐにっ」
「ゆっくりでいいぞ。って、聞いてねえか」
「ドッペルゲンガー、ほらよ」
オレに向かって飛んで来たのは、日本産のタバコの紙箱。
「ちゃんとオレ好みのヤツか。わかってんじゃねえか」
「まあな。それより、どう思う?」
オリジナルもタバコを咥え、オイルライターのヤスリを回す。
その火を分け合って2本のタバコに火を点け、アニマの死体を見ながら紫煙を吐いた。
「ま、かなりヤベエな」
「……だよなあ」
魔法もスキルも効かない、バケモノとしか言いようのない存在。
そんなのが昔からいたのならば、ミリアとフランがそれの怖さをオリジナルに忠告しないとは思えない。
だが何より厄介なのは、そのバケモノに銃や手榴弾だけは効いた事だ。
「こんなのがポンポン現れるんじゃ、どうしたって近代兵器でその脅威に備えたくなるのが人ってモンだ」
「でもこの世界じゃ、神様ってのが銃を作るのを許してくれねえんだろ?」
「だな。そうなったらこのバケモノを倒せるのは、オレとオリジナルだけって事んなる」
「銃を量産するのを、神様ってのが許したら?」
「バケモノは殺せるな。それだけじゃなく、今までよりずうっと簡単に人も。それこそ、男が女を殺すのだってとんでもなく楽になる」
「……そうなりゃ、そこかしこの街で戦争か」
「冒険者やめて、傭兵でもやるか?」
「冗談だろ。いまさら」
「だな」
せっかく手に入れた自由。
オリジナルも、そんな気持ちなのだろう。
当然、オレもそうだ。
「待たせたな、お2人さん」
「お、マヒーナ姐さん」
「ここはもう冒険者に任せていいそうだ。3日の予定で一軒家を用意してあるから、そこに案内するよ。ほら、あっちの部屋にあった弟くんの服と荷物」
「ありがてえ。一応、客間の槍なんかも回収しねえとな。行こうぜ、オリジナル」
「いやいやいや。まず召喚を解除しねえと。まだ勃起しっぱなしだろ? 感触でわかる」
「バカ言うな。マヒーナ姐さんが宿泊施設に案内してくれるんだから、このまま行ってトコトン喘がせるに決まってるだろうがよ」
「……コイツは」
「へへっ。荷物を取ってくっから、レベルを確認しとけよ」
「あいよ」
客間の荷物を回収し、4人で教会を出る。
オリジナルのレベルは、またしても大物食いで大きく上がったらしい。
レベルはなんと、ギリギリ49。
しかもその経験値バーは4分の3ほどが緑に色づいているので、もう少しでレベル50になって新しくスキルが増える。
おそらく次の街までには、そうなるはずだ。
「それなら子猫ちゃんなんか、本当にギリ足りねえくらいなんじゃねえか?」
「ですね。もしかしたら、ムート1匹でレベル50かもしれません」
「魔法もスキルも効かなかったってのに、経験値が低いとか。舐めてんのか、ったく」
「そりゃ違うぞ、オリジナル」
「どういう事だよ?」
「ざっと経験値を計算してみたが、アニマ1人でレベル200の女2人より経験値が来てる。レベルは上がれば上がるほどレベルアップに必要な経験値が増えてくから、物足りなく感じるだけさ」
「いやいや。経験値バーはあるけど、数字なんて見えねえんだぞ。なんでわかるんだよ?」
「ウサギを1として計算すりゃ、すぐわかるだろうがよ」
オリジナルが黙り込む。
「……うん。サッパリわからん」
「だろうな。バカだから」
「んだとコラ?」
オリジナルがまだ自分はバカじゃないとか喚いているが、シカトしてマヒーナの後を追う。
妹である支部長はなんだかんだと仕事があるだろうが、この女はただの冒険者。
それも古強者だ。
オレ達の休暇に3日くらい付き合ったからといって、生活に困ったりはしないだろう。
ふと、ネジュのいかにも高貴そうな横顔が思い浮かぶ。
こちらの世界の刑罰は、苛烈なものだ。
だがあの成人前の少女の様子では、アニマをただの家庭教師でレズプレイを教えてくれたお姉様くらいにしか思っていないようだった。
それならば厳罰はないだろうし、この街の領主になる目も残っているかもしれない。
「なあ、オリジナル」
「んだよ?」
「ガキって、バカだよな」
「仕方ねえだろ。子供なんだから」
「腐りかけの芋が欲しくって、近所の農家のおっさんのチンコ咥えたりよ。まだ8つかそこらだったってのに」
「……そんなヤツもいたな」
「だから、オマエは20年も戦ったんだ。殺して殺して、クズみてえな上官が昇進するための点数稼ぎに、どんだけムチャな作戦を押しつけられてもよ。そんでも、戦った」
「別に、そんなんじゃねえし」
「言ってろ。だからよ、オリジナル」
「ん?」
「こっちでも、そのために戦ってもいいんじゃねえだろうか」
「それってオマエ」
まだ、朧気にしか見えていない。
だがガキが飢えなくていい街というのが、この世界にどれだけあるのか。
もしもないなら、作ればいい。
それだけの話だ。