※この作品はR-18です。

東日本陸軍退役将校の淫蕩なる異世界生活   作:ふくふくろう

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妖精と影法師2

 

 

 

「ドッペルゲンガー、脱脂綿はデケエ袋を5つでいいか?」

「ああ。そんだけありゃ足りるな」

「ならここに置いとく。そんじゃ、俺は行くぞ」

「手伝いは?」

「いるか、タコ助。誰に言ってんだっての」

「……史上最も赤目を殺した中尉サマに」

「なら、いらねえ心配だろうがよ。いいからオマエは、自分の仕事をしてろ」

「あいよ。じゃねえと、オレがこうして体を得た意味がねえからな」

「意味?」

「ああ。証明してやんよ。……オマエが、殺す事しかできねえ男じゃねえんだって事を」

 

 返事はない。

 時間がないのか、言葉が見つからないのか。

 わからぬまま腕で額の汗を拭いた拍子に、ポンチョを脱ぎ捨てたオリジナルの背中が目に入った。

 

 背にはライフル。

 腰に片手剣。

 そして手にしているショットガンは、改造で銃身とストックをかなり切り詰めてある。

 

「死ぬんじゃねえぞ、相棒?」

「当たり前だっての。キナ」

「は、はいっ」

「その子とドッペルゲンガーを頼む。そんなロクデナシでも、俺の相棒だからよ」

「任せてくださいっ!」

「頼んだ」

 

 駆け出す靴音。

 それに、銃声が重なった。

 

 ドオンッ

 

 そんな音が鳴るたびに、哀れなオーガは急所を撃ち抜かれているのだろう。

 

「凄い……」

 

 そうキナが呟く。

 

 当たり前だ。

 誰に捨てられても、誰に死なれても、誰を助けられなくても、オレ達は殺すのをやめなかった。

 

 身に染みついた死を振り撒く気配が、異世界に来て20ほど若返ったくらいで落ちるものか。

 

「戦場に、ある女がいた」

「えっ?」

 

 ピンセットで抓んだ脱脂綿に血を吸わせ、それを後ろも見ずに放る。

 慎重にヘラで持ち上げた大腸の下に、土やオーガの体毛は見えない。

 それでも女の子の腹へキナに生理食塩水を注がせては、それを脱脂綿に吸わせて捨てた。

 

「それに惚れた男がいる。戦場に出て3年程度の若造だ。その2人が、『部下を率いて敵地の奥深くへ侵入し、敵情を観察したのちにできるだけ位が高いと思われる敵兵を殺して来い』なんて命令をされてよ」

「そんなの、ムチャじゃ?」

「ああ。おかげで、その2人を残して小隊は全滅。命からがら逃げ出した2人は焚き火もできずに野営をしながら、冗談みてえに『国なんか捨てて逃げちまおうか』なんて言ってよ」

「……そうも言いたくなりますよね」

「だなあ。男は、その夜に始めて惚れた女を抱いたんだ。逃走中だし、避妊なんてする余裕はなかった。それはもうたっぷりと、女の最奥に精液を注ぎ込んだよ」

「あの、師匠。いったい何の話を?」

「黙って聞け。こっからが本題だ」

 

 汗を拭う。

 内臓の下を見れるだけの範囲ではあるが確認したので、ここからはデリケートな作業になる。

 止血鉗子で出血を止めている、切れた血管。

 それを、HPポーションで繋げるのだ。

 

「女は翌朝、忽然と姿を消した」

「え?」

「前の晩には『2人で軍から逃げて山で暮らそうか』なんて言って笑ってたが、女はそんな事ができる人間じゃなかった。誰かさんと同じで、とんでもねえお人好しでよ」

「ええっと」

「あの女が消えて、日本時間で17年。子猫ちゃんのご先祖様、それも写真を持ってたって人間は何年前の人間だよ?」

「えっと、ちょっと待ってください。計算を。……せ、1700年ほど前です」

「ふうん。あっちの1年がこっちの100年なら、まあ辻褄は合うな」

「もしかして、その人って……」

「わからねえさ。誰にもな。でもま、気にすんな。真実がどうであれ、そんだけ昔の人間が誰だろうとオリジナルのガキは産める」

 

 そう。真実は、誰にもわからない。

 わからないが、いつかはキナに話そうと思っていた。

 それがやっと。

 

「よし、やっぱり切れた血管をくっつけた状態でHPポーションをスポイトで垂らすと繋がる。これなら、どうにかなるぞ」

「良かった。頑張るんだよ。きっと師匠が助けてくれるから。ほら、HPポーションを飲んで」

「あ、ありが、と。ボク……」

「うるせえ。いいからしゃべるな。死にたくねえって、こんなトコで死ぬもんかって、それだけを考えてろ。いいな?」

「は、はい……」

 

 血管をすべて繋ぎ終えると、もう銃声は聞こえなくなっていた。

 

「子猫ちゃん。オリジナルの状況は?」

「今は銃を捨てて、ゴブリンを斬りまくってます」

「ゴブリン? オーガじゃなくってかよ?」

「オーガはもう全滅してますよ。それも片手剣でお腹を裂いてから、そこを銃でバンって。今もそうですけど、まるで野獣みたいな動きで」

「惚れ直したか?」

「……ですね」

「ったく。ノロケやがって。あとは腹にHPポーションをぶっかけて、傷を塞ぐだけだ。加勢に行ってやれ」

「いいんですか?」

「ああ。だがとりあえず、WW1狙撃銃は置いてけよ? まだ子猫ちゃんは、乱戦であれを使える腕じゃねえ」

「はいっ」

 

 キナが駆け出す。

 いつの間にか気を失ってしまったらしい女の子の腹に、血管を繋いだ残りのHPポーションをぶっかけた。

 

 それだけで見る見るうちに、HPは全快。

 

「はっ。さすがフランの調合したポーションだ。これだけでHPは満タン。しかも、傷も残さねえってかよ」

 

 マットから少し離れ、タバコを咥えて火を点ける。

 もし医者が見ていたら未熟だと呆れられるかもしれないが、どうにかやり切った。

 気分は悪くない。

 

「キナッ!」

 

 そんな声が聞こえたので目をやると、オリジナルが自分のホルスターにあったハンドガンを放るのが見えた。

 

「ありがとうございますっ。死に晒せ、醜悪なケダモノッ!」

 

 キナがゴブリンの首を日本刀で飛ばし、逃げ出すゴブリンの顔面を撃ち抜く。

 

 まるで、オリジナルの女版だ。

 オリジナルはショットガンと片手剣で、キナはオートマチックのハンドガンと短めの日本刀で敵を斬りつつ撃ち殺すのが、これからの2人の近接戦闘スタイルになるのかもしれない。

 

 血の雨を浴びながら高笑いを上げる男と、口汚く敵を罵りながら無慈悲にその命を奪う女。

 

「どっかで見た光景だなあ、ったく。……なあ、野上圭子。アンタもこれを見たら、苦笑するしかねえだろ」

 

 ゴブリン達は逃げ始めているが、オリジナルとキナは追撃をやめない。

 

(おい、そろそろ戻れ。血の匂いでモンスターが集まるっての。出発すんぞ)

(それも狩ればいいだけだろうって)

(どこまでバカなんだよ、オマエは。このロリっ子はHPこそ回復したが血をだいぶ失ってるし、そもそもの栄養状態が最悪なんだ。少しでも早く休ませねえと、今度は病気で死にかけるぞ)

(どわっ。そんなんは早く言えよ、タコ助。すぐに戻る)

(こんだけ殺したらレベルも来てるだろうから、それを確認しながらな)

(あいよ。オマエも来てるといいなあ、新しいスキル)

(期待はしてねえさ)

 

 とは言っても、もしスキルが増えていたら万々歳。

 新しいタバコを咥えてステータス画面を出すと、開いた口が塞がらなくなった。

 

「マジかよ、こりゃあ……」

 

 靴音。

 かなり慌てて走っているらしい。

 音は、もちろん2つだ。

 

「お、おい。ドッペルゲンガー!」

「あんだよ?」

「とんでもなく使えるスキルが追加されてっぞ。ついでに言うと、レベルは7つも上がって56だ!」

「……アニマを殺ったより経験値が来てんのかよ。まあ、こんだけ殺せばなあ」

 

 前方は、まさに死屍累々。

 それも当たり前かと、ステータス画面を閉じる。

 

「んでよ。新しいスキルは、なんと『搭乗物召喚消費MP半減』だとさ。ヤベエだろ」

「……まーたとんでもねえなあ。んで、何が出せるんだよ?」

「オマエを出してなきゃMPが285。んで消費MPが半分だから、待望の四輪車も出せるぞ」

「おお」

「ただそのフジ360ってのは、4人乗りだが小っちゃくてよ」

「富士山麓丸? 妙な名前だな」

「そうか? まあとにかく病人を乗せるんなら、400ccの三輪トラックの方が向いてっと思う」

「同じ三輪トラックなら、このままでいいさ。今はとにかく、急いでここを離れるぞ」

「あいよ。できるだけフカフカの布団を荷台に出しとくから、その子を頼むな」

「言われるまでもねえさ」

 

 せっかく間に合った命。

 こんなところで散らせるつもりはない。

 それに褐色の肌をした女とは寝た事がないし、どうせなら回復し切るまで面倒を看て、この未成熟なカラダで治療費を払ってもらわなければ。

 

「師匠、その。笑顔がいやらしいです」

「うっせえ、バカ弟子。ほら、行くぞ。この子の荷物を持ってやれ」

「はい。荷物が着替えすらも入ってなさそうな小さなザックだけで、武器も持っていないなんて。この子は、どうやってここまで……」

「さあな。そんなのは、あとで聞けばいいさ。魔女の街、ドルフェースに直行する可能性も考えて食料を買い込んで来たから、余裕はある。死体から充分に離れたら、そこで野営するぞ。2、3日はこの子を休ませてえ」

「わかりました。カリタスで買った魔道具の出番ですね」

「ま、それもあまり意味はなかったがな」

「どういう意味です?」

「あとで話すさ」

 

 柔らかな寝具に女の子の身を横たえ、オリジナルに出していいと伝える。

 するといつもよりだいぶ丁寧な動きで、三輪トラックは滑るように走り出した。

 

「ありゃ。もう次の街の防壁が見えたぞ、ドッペルゲンガー」

 

 そんなオリジナルの声が聞こえたのは、走り出してから30分ほど経った頃だ。

 

「そんじゃある程度まで近づいたら、停めてくれ。そこで野営して、2、3日はあの子を休ませてえ」

「医者に診せなくていいのかよ?」

「あんな子供が、薄手のワンピース1枚で防壁の外に出るような街だぞ? 住民はどいつもこいつも、医者だって信用できねえさ」

「なるほどねえ。了解だ」

 

 する事は同じ野営。

 だが、その方法がいつもとはかなり違う。

 それにキナは自分で考えた工夫があるらしく、とりあえずそれを見てくれと言った。

 

「任せるよ。なあ、オリジナル?」

「おう」

「ありがとうございます。じゃあ、こうですね。……土よ、キナ達に仮初であっても安息の地を与えてっ!」

 

 いつもなら地面が、土が盛り上がって小屋を形作るのだが、今回はその逆。

 地面に、ぽっかりと穴が空いてゆく。

 それはなだらかな坂になっていて、三輪トラックどころか2トン車くらいなら楽に通れる高さと道幅があるらしい。

 

「なるほどねえ。駐車場付きの地下マンションってトコか。やるじゃねえか、子猫ちゃん」

「えへへ」

「でもよ、これじゃ換気ができねえだろ?」

「それなら大丈夫だ。なあ、子猫ちゃん」

「はい。換気口は各部屋にあって、それはすべて繋がっています。だからカリタスで買った魔道具に魔力を通してどこか一カ所に設置すれば、焚き火だって可能ですよ」

「そういや10万D、日本円で100万も出して魔道具を買ったって言ってたな。このためか」

「ああ。そんじゃ入ってくれや」

「りょーかい」

 

 入口は、三輪トラックに揺られながらすぐにキナが塞いだ。

 駐車場があって、便所のある短い廊下。

 キッチンを兼ねた広いリビング。

 ベッドルームも2つある。

 

 これなら、かなり快適に過ごせそうだ。

 

 

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