「そんじゃ、行ってくる」
「はい。カズヤさん、師匠。どうか気をつけて」
「キナもな。MPが足りなくなったら、ドッペルゲンガーに通話魔法ってのをさせる。MPが保つようなら、戻るのは夕暮れ時だ」
「子猫ちゃん、シェリルを頼むな」
「任せてください。だいぶ体調は良くなってるみたいですけどあまり歩いたりはせず、体を休めながらおしゃべりでもしてますから」
「ありがてえ。メシや菓子は、自由に食っていいからな。飲み物もだ」
「助かります」
「よし、エンジン始動。出るぞ」
オリジナルがエンジンをかける。
本当ならば役割は逆だが、オレがモンスターを倒さなければシェリルに経験値が行かないので、今日からしばらくはオリジナルが運転手だ。
「ご武運を」
オリジナルが親指を立てた拳をキナに見せる。
同時に、生活魔法の明かりしかなかったスロープに、眩しい朝の光が降り注ぐ。
ギアがローへ。
400ccのサイドカー付きバイクは、その朝の光の中へ飛び込んだ。
「索敵魔法ってヤツの有効範囲は?」
「オレの熟練度じゃ、距離200程度だあな」
「……視界より狭いってのかよ。んじゃ、適当に走ってモンスターを探すぞ」
「ああ。最上はオーガの群れだが、ムートや他のモンスターも見かけたら狩る。あまりに数が少ねえようなら、海岸線へ向かってくれ」
「あいよ。どっちにせよサハギンは1匹狩って、腕の1本は持ち帰るぞ。白身魚は病人でも食いやすい。焼き魚や煮魚でも胃に重いようなら、粥に入れて煮込んでもいいしな」
「おう」
オリジナルがハンドルを向けたのは、南だ。
ここはまだ1本道。
次の次の街まで行けば南だけでなく右に、西に伸びる神代街道があるはず。
そこを街3つほど進めば魔女の街。
「いたぞ、ムートだ」
「その向こうにゃ、まるで木立みてえに岩がとっ散らかってんな。まるで遺跡だ」
「行ってみるか?」
「ああ。オーガでも他のモンスターでも、吹きっさらしの荒野で寝起きしてるとは思えねえ」
「……なるほど。生き物なら、風を避けるくれえはするか」
「だろ」
「なら神代街道を逸れて荒地を進む。舌を噛むんじゃねえぞ?」
「誰に言ってんだっての」
昨夜オリジナルのウィンドウを操作してオレが選択したバイクとサイドカーは、速度や積載性ではなく頑丈さを重視して選んだ車両。
期待通り、悪路には強そうでありがたい。
「距離300、攻撃開始」
「あいよっ」
補給要請リストの名前こそWW1軽機関銃となってはいるが、その黎明期に設計された銃であるからか、コイツはとんでもなく重い。
だからサイドカーに据え付けられていて、その設計にもMPを使用するのでただ取り付けただけ。
射角なんてほとんどないのだ。
「経験値を寄こせ、野牛」
トリガーを引く。
ドドドッ!
そんな轟音。
レベルが上がってようやく出せるようになっただけあって、威力は申し分ない。
3発でもオーバーキルだ。
「まだいるぞ、ドッペルゲンガー」
「わかってるっての。キナがいねえからHPは見えねえが、たぶん2発で倒せてる。たいした威力だぜ」
「長い付き合いになりそうだなっ」
「信頼性は低いさ」
思った通り、番を殺されて動揺していたムートは2発で地に倒れ伏す。
「よーしよし。こりゃあ楽そうだ」
「まあ故障したら、野営小屋に戻るまで出せねえけどな。オリジナル、少し停めろ」
「ん?」
「血の匂いでモンスターが寄って来るか、来るとしたら何が姿を見せるのかをたしかめてえ」
「了解だ。でも、意外だな?」
バイクを停車させてタバコを咥え、オリジナルがニヤニヤ笑う。
どうせオレを、シェリルのネタでからかおうというのだろう。
付き合ってやる義理はない。
オレもタバコに火を点け、紫煙を吐きながら待った。
オリジナルは愛しい女のためにもっと狩りを急ぐと思ったとか、成人してはいても日本ならば初潮を迎えたかも怪しい女に惚れるとはさすがスカトロリコンなんて言っているが、すべてシカトする。
このバカと違って、オレは女に惚れたりはしない。
「来た」
タバコを指で弾く。
「おー。なんか、犬っぽいな」
オリジナルもタバコを捨て、火が点いたままのそれをオレの分まですぐに召喚解除して消した。
あいかわらず、妙なところだけ几帳面だ。
だからこそコイツは、嬉々として料理をしたりするのだろう。
「どっちかってえとオオカミだろ。狙撃から試すぞ」
「了解」
オリジナルはショットガン。
オレは狙撃銃を担いで、それにどちらもサブマシンガンとハンドガンを装備している。
「地球の常識で考えりゃ、野牛のムートよりHPは低いんだがな」
「関係ねえさ。狙撃でも接近戦でも、急所に鉛弾をぶち込んでやればいいだけだ」
「単純で羨ましいねえ」
ダアンッ
銃声が響く。
HPを推測するのも目的であるから、着弾したのはどてっぱら。
「へえ。なかなかにしぶといな」
「ショットガンを試すのは後だぞ? 今は、1匹だって獲物を分けてやる気はねえ」
「へーへー。いやあ、愛だねえ」
「アホ抜かせ、ダボが」
オオカミ型のモンスターは6匹。
最初に狙撃した個体は、5発の銃弾を身に受けてやっと倒れた。
「5射かあ」
「そうなっと軽機関銃だな。頼むぞ、オリジナル?」
「かしこまりやした、旦那っ」
オレが狙撃銃を背負うと同時に急発進。
改造で据え付けた軽機関銃は射角がないので、オオカミの群れに突っ込む進路だ。
軽機関銃のマガジンは皿型の97発仕様。
まだまだ弾はある。
ダダダッ、ダダダッ
軽機関銃が火と銃声を吐き出すと、急激な方向転換。
遠心力で車外に放り出されそうになるのを、サイドカーの内側に足をひっかけるようにして耐えた。
「チッ。荒っぽいタクシーだ。料金はいらねえらしいなあ」
「へっへ。すいやせんねえ、旦那。コイツの行先は、地獄しかねえもんでして」
「テメエ1人で行きやがれっての」
ドリフト。
荒地の表面は乾いた土で轍すらないので、こんな事も可能だ。
これなら、担ぎ直した狙撃銃をまた手にする必要はない。
「はいよ、お次を地獄へご招待だ。頼みやすぜ、旦那っ」
「うるせえ、腐れ運転手。黙って転がしてろっての」
残るオオカミは6。
指切りでの3連射を2度行っても、方向転換の気配はない。
このまま倒し切って見せろという事だろう。
「これで終わりだ」
3連射ではなく、チョンっとトリガーを引く単発射撃。
それで放たれた銃弾はオオカミの右目に吸い込まれ、後頭部から血と脳漿を撒き散らしながら最後の1匹が、走る勢いを殺せず地にもんどりうって転がった。
「ヒューッ。やるねえ、旦那。ガンナー適性もねえのに」
「この程度ならな。それより、また距離を取って見張るぞ」
「へいへい。それでまた釣れるなら楽だがなあ。何分待つよ?」
「……5分でいい。それで来なかったら、あの遺跡みてえな岩の林に」
「あいよっ」
皿型のマガジンを外し、それに弾を詰めながら待つ。
もちろん何が来ても即応できるように、軽機関銃には新しいマガジンを乗せるようにして差し込んでからだ。
「5分だな。頼む、オリジナル」
「あいよ。じゃあ、こっちを担いどけ。弾はこの革袋な」
「助かる。狙撃銃を預けてもいいか?」
「もちろんですぜ、旦那」
先がどうなっているかはわからないが、平屋の家屋より背の高い巨石群の間を進むなら、狙撃銃よりショットガンだろう。
狙撃銃とショットガンを交換すると、オリジナルはすぐにクラッチを上げてアクセルを開ける。
「……らしくねえよな、お互い」
「かもな」
オオカミはムートよりだいぶ小さいのに、HPはそれよりあった。
それにオーガは至近距離からショットガンを撃ち込んでも1発では倒せず、オリジナルはまず腹を片手剣で裂いて、そこにショットガンぶちかまして倒していたらしい。
グラン地方では冒険者の質が良いせいか強いモンスターが街道の近くに現れる事はないが、オレ達がいるのはだいぶ南で、冒険者どころか旅商人のキャラバンさえ滅多に見なくなっている地方だ。
そんな地域の見通しが悪い地帯に、偵察もせず踏み込むなど、普通はしない。
オリジナルがそれでもオレの言う通りにハンドルを向けるのは、弱った体でキナと一緒に留守番をしているシェリルに経験値を届け、レベルアップで少しでも体調を良くしてやりたいという思いからだろう。
ありがとう。
その言葉がどうにも気恥ずかしくて口に出せずにいると、バイクは巨石群の入り口に差し掛かった。
すかさず索敵魔法を発動。
ただでさえMPが低いし、それを使い切れば決めた時間まで野営小屋に入れてくれと通話魔法も飛ばせないが、MPをケチってオリジナルに怪我でもさせたらキナに会わせる顔がない。
「いるぞ、右前方の巨石の影に3」
「相手はよ?」
「知るか。オレの熟練度じゃ、大きさすらも探れねえよ」
「やれやれ。困ったお客さんだ」
相手が何であれ、飛び道具を使ってこないならやりようはある。
オリジナルも考えは同じらしく、20メートルほどの距離を取りながら何者かが潜む巨石の向こうへバイクを進ませた。
「なんでえ、ゴブリンかよ」
ショットガンではなく、リボルバーを向ける。
もしかしたらこの場所は、昨日オリジナルとキナが殺し尽くしたゴブリンの住処だったのかもしれない。
本来ならばゴブリンは大規模な群れを形成するらしいし、たった3匹しかいないゴブリン達はみな体も小さい。
女子供。
間違いなくそうなのだろうが、トリガーを引いた。
敵にかける情けなど、物心ついてすぐ孤児院の井戸へ捨てたのだ。
3連射。
その銃声を合図にしたように、だいぶ離れた巨石の影からゴブリン達が駆け出す。
残る女子供だろう。
「あとは一目散に逃げ出してるらしい。どうする?」
「2、30のゴブリンを追撃してもな。内陸側に逃げてるゴブリンはいねえだろ?」
「ああ」
「って事は、あっちにゃオレ達より怖え何かがいるってこった。そっちに頼む」
「へい、旦那」
「……さっきからそれ、とんでもなくウゼエんだが」
「そんな褒めねえでくだせえよ、旦那」