「じゃあ、またいつかな」
眠るニムを見下ろしながらそう呟き、ソバカスの上にキスを落として踵を返す。
現在時刻は朝の6時。
身支度、準備は万全。
背負った大きなカゴには低級クロスボウと矢であるボルト、それ以外にも手当たり次第に補給要請で出した武器なんかを突っ込んである。
「おはようございます、お客様。こちらが、昨夜アルベール様にご注文いただいたサンドウィッチになります。バスケットも料金に含まれているので、返却は必要ございません」
1階に下りるとカウンターにいた従業員がやってきて、そう言いながら俺に蔦で編んだバスケットを差し出す。
「弁当か。これを俺に渡せって?」
「はい」
「やれやれだ。じゃあ、ありがたくいただきますよ」
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
恭しく頭を下げた従業員は、玄関のドアまで開けて俺を送り出してくれた。
少し悩んだが、冒険者ギルドより東門の方が近い位置に宿はあるはずだ。右に足を向けて歩き出す。
5分と歩かず、東門に到着。
時間が早いせいか旅人の姿も冒険者の姿も見えず、あくびをしていた門番が俺を見つけてニヤリと笑う。
女冒険者達も多く身に着けている、ビキニのような金属鎧から覗く下乳と尻肉がエロい。
朝っぱらだというのに勃起してしまいそうだ。
「おはよう、美少年。今日は準備万端だな」
「よう、門番の姐さん。今日もいいケツしてんなあ。寒そうだけど」
豪快な笑いと「男が半袖なんだからお互い様だろう」という声のあとに通用口が開く。
まだ2日目なのに、もうギルドカードの提示はいらないらしい。顔パスってやつだ。
まずは街道を少し歩いて、それから背負っていた消費MP10の大きなカゴを草の上に下ろした。
ボルトの詰まった矢筒から延びる革紐をベルトに結び付け、低級クロスボウを手に取る。
昨日は1度しか射精していないが、ベッドに運んだニムはどれだけキスをしてもうれしそうに応えてくれた。
なのでクロスボウの他にもいろいろと物を出してみたが、補給要請というスキルはMPさえ続く限り、いくらでも物資を取り出せるらしい。
「さあて。クロスボウなんて狩猟用のしか使った経験はねえが、こんな玩具みてえのでも照星さえ付いてりゃなんとかなんだろ」
低級クロスボウは「ああ、本当に低級だな」としか感想が出ないほど安っぽい作りで、二極化前の狩猟用クロスボウと比べたら、素人が作った木製の玩具にしか見えない。
それでもどんなに足音や気配を消しても逃げてしまうシチュー・ラビットを狩るには、これに頼るのが最も賢い選択のはずだ。
精度が不安だったので手弓や短い投げ槍もカゴに入れてはあるが、消費MPが最も多いのがこれだったので期待させてもらおう。
構える。
狙いは、30メートルほど先で草を食む1匹。
アスファルトに吸殻を指で弾いて捨てる程度の気軽さで、トリガーを引いた。
弦が、風が鳴る。
「ピイッ!?」
狙い違わず首の根元にボルトが突き刺さった。
それだけでなくシチュー・ラビットはその小さな体を、ボルトで地面に縫い付けられながら絶命したようだ。
ピクピクと痙攣する後ろ足を見ながら1匹目の獲物に歩み寄る。
「へえ。威力も精度も悪くねえ。これが野生動物じゃなくてモンスターでも、野犬くれえの大きさまでなら殺るのは楽そうだ」
レベルアップまであと2匹。
無意識に浮かんだ考えはそれだったので、どうやら俺は金よりも経験値の方が楽しみであるらしい。
それでも狩りが早く終わったら、酒を飲み出す前にこの草原を走って汗を掻こう。
そう心に決めながら、1匹目の血抜きを始めた。
「兄ちゃん、この高原のシチュー・ラビットを狩り尽くすつもりかい?」
そう呆れ顔で問うのは、査定所の解体テーブルの前に立つおばちゃんだ。
「ありゃ。もしかして、狩り過ぎはご法度だったりすんのかい?」
「そうじゃないけど、そのカゴいっぱいのシチュー・ラビットをもう2度目の納品だ。これ以上持ち込んだら、確実に買い取り価格を下げられるよ。肉屋もその冷蔵魔道具倉庫も、こんな街じゃ数は限られてんだから」
「あー、そういう事かあ」
「下手をすると2、3日は値が戻らないかもね」
「この辺りで他に金になる獲物っていねえのか?」
「この東門なら羊と、それを狙う犬だろうねえ」
「そりゃどの辺に?」
「街道を直進すると、右の道端にでっかい大岩があるんだ。その向こうだねえ」
「んじゃ、ランニングついでに行ってみっかな」
「まだ昼過ぎだけど、夕暮れまでには戻るんだよ」
「へーい」
街道に出て、軽く準備運動をしてから走り出す。
足を動かしながらステータス画面を出して今日の午前中の成果を見てみると、金はまだわからないがレベルは8に、HPは50でMPは45になっていた。
「おっ。もう少しでまたレベルが上がって、そしたらMPが50かよ」
街道をランニングしていると、朝にこの石畳の上を行く馬車の列から手を振っていたニムを思い出す。
俺はかなり街道から離れていたというのに、ニムはいつまでも手を振っていた。
この街道を東に徒歩で3日で次の街に到着なら、馬車でも今日は野営だろう。
俺は幼年士官学校の頃から行軍訓練には慣れていて、少尉として任官する前の士官学校卒業試験では1日60kmを5日連続不眠不休で行軍したりもした。
このまま、ニムのキャラバン隊を追いかけてみようか。
そんな事を考えているのに気づいて、思わず苦笑いしてしまう。
体が若返ったせいで、考える事までガキ臭くなったのか。
色恋なんてのは街で平和に暮らすカタギの連中が夢中になるもので、兵士や冒険者には必要のない物だろうに。
「MPが50あれば、女を抱かなくても日銭くらいは稼げる。しばらく禁欲でもすっかね」
酒もビールばかり飲んでいては、筋肉と闘争心を便所に落としてきたなんて言われていた、ハゲ大隊長のようになってしまう。
ここはしばらく禁欲して、酒はウイスキーだけにしておこうか。
「ああ、それがいいな」
20分ほど走っただろうか。
思ったより早く大岩が見えてきたので足を緩めると、岩のかなり手前に人影を見つけた。
槍と弓を持った女冒険者が2人。
どうやら1人は怪我でもしているようで、太った方の女がそれを支えながら大きく槍を振った。
また駆け出す。
今度は全速力だ。
すぐに足を引き摺って前屈みで歩く痩せた出っ歯の女と、槍を杖代わりにして女を支えるかなり肥満体な女の元に到着した。
「た、助かっただ。オラは荷物からHPポーションを出すから、ガニスを支えてやってくれねえだか?」
「おう。しっかりしろ、ねえちゃん。傷はどこだ?」
「は、腹に……」
「見せてみろ」
屈み込む。
「どこだ? 傷なんかねえぞ?」
首にチクリとした感触。
これは……
「ひひっ。すぐに見せてやるよ、血じゃないのが滴る傷口をな」
「テメエら……」
「ぶひっ、巧くいっただな」
「おう。さっさと運ぶぞ、荷物を背負って足の方を持て」
「楽しみだなあ、こったなめんこい顔にくっさいオマンコ擦りつけていいだなんて」
「それだけじゃねえぞ、チンポも舐め放題だ。ひひっ」
「もう濡れでしまっただ」
意識が遠のく。
どうにか覚醒しようと唇を噛んだが、そこが切れるほどの力すら出せないらしい。
「必ず、ぶち殺す、からな。ブス、ど、も、がっ……」
雨。
違う。
ドブにでも、西軍の赤目連中の死体を投げ込んだ穴にでも落ちたか。
下手をすれば肥溜めかもしれない。
酷い、臭いだ。
「お、足がぴくってしただ」
「王子様のお目覚めかぁ。ひひっ、地獄の入り口へようこそ」
その2つの声で、俺は意識を失う直前の怒りを思い起こした。
「ぶっ殺すっ!」
振り上げようとした腕が、千切れるほどの痛み。
「があっ!」
「おいおい、ダメだろ。ムリに力を入れて筋でも切れたら、価値が下がるっての」
「……価値だぁ?」
「んだ。こんな美少年でこんな凶悪チンポしてんだば、50万Dにはなるだ」
「ひひっ。それが射精日でもねえのに勃起しっぱなしなら、100万だって狙えるっての」
体が揺れている。
耳を澄ますと、馬の蹄の音も聞こえた。
どうやら馬車で運ばれているらしい。
それも全裸で、鎖か何かで縛り上げられて。
「俺をスケベ女に売ろうって事か」
「ああ。まあ、街につくまではアタイ達が毎晩かわいがってやるけどな」
「腹が減ったらそう言うだど? オラのうんこ食わしてやっからな。ぶひっ、ぶひひっ」
右手から確認。
指は付いているし、折れてもいない。
左手、右足、左足。
すべて問題はないようだ。
金属製の鎖で縛られているのは両足首と、後ろ手にして両手首を胴体ごと。
手首は手首で、さらに鎖を巻かれているのか。
馬車の黄色く変色した幌の破れ目から、茜色の空がチラリと見える。
「ちなみに、どっちの方角に向かってんだ?」
「3つ目の街までは東。そこからは南だな。安心しろって。南の金持ちはお優しいぜぇ?」
「んだんだ」
暴れて鎖で皮膚を破り、手当てをしようとした時に逆襲するか。
それとも、諦めたフリをしてチャンスを待つか。
補給要請に鎖を切れるような武器や工具はなかったから、今すぐに逃げるのはムリだ。
いや、違う。
もっと簡単な方法がある。
あのブサイクなツラの上に、一番大きな斧でも出してやればいい。
首を動かして2人を探す。
ブタ女は、俺の足元に座っている。
ネズミ女はどこだ。声は、頭上からだった。
「何したってムダだっての。ほれ、パラリシス・ニードルっと」
またチクリとした痛み。
今度は眉間だ。
「ぶひっ。悔しそうな顔が、まーためんこいなあ」
「諦めなって、王子様。ルーキーと違って、こっちは百戦錬磨。初期スキルと違って再使用時間が極端に短かったり、条件を満たしてる限り効果が続いたりするスキルがゴロゴロあるんだっての。道の横に乗り上げて馬車を停めるぞ、ヒジー」
「やっとこのめんこい顔にオマンコ擦りつけられるだな」
「ああ、お愉しみの時間だ」