「……飽きた。考えたってわからねえ事を、何時間もくっちゃべりやがってよ。もう夕方だぞ……」
「ダメですよ、カズヤさん。聞いてるフリだけでもしてないと、師匠がうるさいです」
「シェリルもアタマがいいんだなあ。いつの間にか、3人で真剣に議論してやがる」
「グラン地方で魔法医か学者として身を立てるため、長い長い旅を決意して、たった1人で故郷を出たシェリルちゃんですからね。頭もいいし、根性も相当ですよ」
「ふうん。しっかし、どうも妙なんだよなあ」
「妙、ですか?」
「ああ」
ワース教が組織ぐるみで部下をバケモノにして、この世界では金では買えないセックスに長けた男を集めているのなら、間違いなく天秤教や、使途を抱えている他の宗教組織にその抹殺が命令されるはず。
だが、その気配はない。
それどころか今回のメイの派遣だって、事件後にお告げがあったそうだ。
「それの、どこが妙なんですか?」
「どこがって。どこから見てんのかはしんねえ。けど、なんでもお見通しのはずのカミサマが、こんなにも後手に回ってんだぜ? そんなん、あっちに問題があるとしか思えねえじゃねえか」
「問題?」
「カミサマがピンチとか、その力が弱まってる、とかよ。そうじゃなきゃ、説明がつかねえって」
リビングに静寂が満ちる。
どうやら俺のボヤキは、全員に聞かれていたらしい。
注目もされている。
「……神がピンチって発想はなかったなあ。これだからオリジナルは」
「まったくだ。アタシ達は、無条件で神様方が永遠であると信じちまってるからね」
「でも先生。そうなったら、神代戦争がまた起こってるとでも仮定しないと」
ドッペルゲンガーが、確認でもするように神代戦争の概略を語り出す。
レベル上げを終えてフランの病院に戻るたび、いつもパラパラと本のページを視界に入れてはそれを本棚に戻すのを繰り返していたので、俺にはない神代戦争とやらの知識もあるのだろう。
「へえ。この世にモンスターが溢れた理由、それが神代戦争か」
「はい。その戦争に勝つために神様方は天上界に上がられ、地上に残された人類には生き残るための力、魔法とクラスが与えられた。学校じゃ、そう教わりましたね」
「そんなんがまた起こってたって、たかが人に何が出来る訳もねえだろうになあ」
「でもやっぱり、人には人の役割があるんじゃないですか? 自分達だけで地上を守る、とか」
「俺はテメエの女が守れりゃ、それでいいなあ。国を守るなんて抜かす連中は、下のモンが犯されようが殺されようがお構いなしだ」
「そうなんですか? 国を守るなら、まず人を守らないとってキナは思いますけど」
「身の丈ってのがわかってるからさ、それは。デカい事を語りたがる連中は、自分がデカい人間だと思い込んでる。だから自分の身だけは過剰なほどに守るが、貧乏人のガキが道端で蹴っ飛ばされてても見なかったフリだ」
「なんか、嫌ですね。そんなの」
だが、それが真理。
「なら天上界で神代戦争がまた起こってると仮定して、先生はどう動くべきだと思います?」
「オリジナルと同じさ。オレ達には、関係ねえ」
「ええっ!?」
「でもま、クズがバケモノに成り果ててたらぶっ殺すさ。オレもオリジナルも」
「……それは積極的に関与しないが、事が起これば介入してもいいって事かい?」
そう訊ねたメイの瞳は、酷く真剣だ。
まるでドッペルゲンガーを射抜こうとしているかのような、厳しい眼差し。
それを見つめ返して、ドッペルゲンガーはニヤリと笑う。
「ま、そうなるな」
「なるほどね……」
話が一段落したようなので、雑誌を出す。
キナには、マンガ本だ。
日本語が読めなくとも、マンガならば絵を眺めてヒマを潰せる。
「あの、カズヤさん」
「ん?」
「どうしてその、エッチなマンガなんでしょうか」
「今日どんな風にヤリたいか考えるのにいいかなってよ。なんなら、生活魔法の傘を出して魔女の墓に行くか?」
「お参りはゆっくりしたいので、今日じゃない方がいいんですけど」
「おい、オリジナル」
「どした?」
「使徒サマが、銃の威力や射程を自分の目で見てえってよ。子猫ちゃんを借りて、地下にシューティングレンジを追加してえんだが」
「おう。好きにしな。キナは、元からそうするつもりだったらしいし」
「助かる」
俺を残して全員が立ち上がったので、もう本格的に飲んでしまおうと、ドッペルゲンガーにバックパックから蒸留酒の革水筒を取ってもらう。
メイの土産である酒樽の中身は葡萄酒。
かなり上等な酒なのは俺にでもわかるが、酔うのが目的で飲むのには、少しばかりアルコール度数が低い。
「明日は、買い物だなあ。蒸留酒がもう微妙だぞ。ほれ」
「サンキュ。食材もな」
「なんだ。それなら任せろ」
なんでもない感じで言い切ったのは、召喚系のクラスには見えないメイだ。
先にドッペルゲンガーがその意味を問うたので黙って聞いていたが、こういった宿泊施設には料理の出前や、酒樽に食材なんかの配達を頼めるらしい。
メイはすぐに酒や食材を、天秤教の教会を通して頼んでくれるという。
「んじゃ、俺は荷物を待つためにここで留守番しとくわ」
「ああ」
ラジカセは出していない。
なので雑誌のページをめくる音が、やけに大きく響く。
日本にいた頃は周囲に静寂があると、前線が遠いんだなとしみじみ思ったものだ。
読んでいるページには、鮮明なカラー写真ではなく白黒写真。
WW1の事を調べておこうと出した、戦後かなり経ってからの雑誌だ。
「げっ。毒ガス? もしそんなん出せるようになったって、誰が使うかっての」
ガスマスクを装着された犬の写真にチラリと目をやってページをめくる。
次のページの白黒写真は戦車。
世界初の戦車と大きな見出しがあって、その下にはスペックが軽くだが載っていた。
排気量、1万6千。
……死ぬまでレベル上げに勤しんでも出すのはムリそうだ。
「飛行機も、軍艦もこの時代からあるんだな。まあ万が一出せても、動かせっこねえか」
(ガラにもなく読書かよ、オリジナル)
聞こえたのは、ドッペルゲンガーの声だ。
耳に聞こえるというよりは頭の中に響く感じの、聞き慣れた声。
(まあな。そっちは、……けっこう本格的なシューティングレンジじゃねえか。銃は足りるか?)
(試しだけだからな。それよりどうせ本を読むんなら、こっちの世界のにしてくれ。それもできれば、有翼人について書かれた本がいい)
(有翼人。それはメイ姐さんの種族か?)
(ああ。数が少ねえらしくってな、オレもほとんど知らねえんだ)
(探してみるよ)
(ありがてえ)
本のリストを出す。
呆れるほどの数があるので、一番先に出て来た『有翼人』という本を出して読み出した。
革表紙で、ページもかなりある。
「今日中に読み終えんのはムリだな」
それでもページをめくる手は止めない。
絵や写真のない本はあまり好きでなないが、そうも言っていられないからだ。
「カズヤさん」
キナの声。
「どした?」
「下、シューティングレンジにはトイレも設置したんですが、そしたら師匠がそのまま。……あ、見ない方がいいですよ。今はたぶん、大きい方でアレコレしてる最中だと思うんで」
「……あのスカトロ野郎は。でもま、助かったよ」
音はドッペルゲンガーが途中で接続を切ったらしいが、その視界はまだ繋がったまま。
なので、それが映るウィンドウを見ずに接続を切る。
「カズヤさんも、しますか?」
「まだ出前が来てねえっての。どうやらその分じゃ、しっかり準備してから逃げ出してたらしいな?」
「だ、だってカズヤさん、最近は後ろを」
「後ろって?」
モジモジしながら俺の前に立っているキナをソファーに導く。
そうしてから肩を抱いただけで、キナは小さくその身を震わせた。
「だから、その」
「ハッキリ言えって。まあ、嫌ならいいぞ。今日はシェリルだけじゃなくってメイ姐さんの穴もあるから、使えねえオナホールなんか縛って床にでも転がしときゃいい」
「またそんな意地悪。……お尻、です」
「へえ。俺の淫乱オナホール娘は、ケツ穴でセックスする準備をしてるからこんなモジモジしてんのかよ」
「そ、そうです」
「いつの間にか、すっかり変態になったなあ」
「カズヤさんがそうしたんですよ?」
出前が届くまでは、このまま言葉で責めるくらいにしておこう。
そう思っていると、玄関の方でベルが鳴った。
小さな鐘の音。
「これ、来客を告げる音か?」
「ですね。玄関に木枠があって、そこの中にベルがあるんです」
「あの郵便受けみてえのか。なるほどねえ。じゃあ、受け取って来る」
「キナも手伝いますって」
出前は、バカじゃねえかと呟いてしまうほどの量だった。
酒樽だけで、6つもある。
とても10日で飲み切れる量じゃない。
配達に来てくれたのは天秤教の神官服を着た女ではないので、これで酒でも飲んでくれと言って500D硬貨を渡しておく。
牛っぽい獣人の女は受け取れないと言ったが、手を取って気持ちだからと押しつけると、顔を赤くしながらどうにか受け取ってくれた。
「さて。酒樽は、あとでドッペルゲンガーに運ばせるぞ。まずは生鮮食品かな」
「キナが冷蔵魔道具に入れてきます。カズヤさんはこっちを」
「これ、弁当か?」
「ですね」
「りょーかい。こんなにあって食い切れんのかよ」
弁当は蔦を編んだバスケットではなく、まるでお重のような木箱で5つもある。
それをリビングのテーブルに置き、そのまま服を脱いで全裸になった。
木箱を開けるのは、ドッペルゲンガー達がここで飲み食いを始めてからでいいだろう。
冒険者ギルドの酒場カウンターで買った分だけでも、俺とキナだけでは食い切れないほどの量があるのだ。
「終わりました。って、もう脱いでるんですね」
「ああ。まずは乾杯だ。ほら、座って飲め」
「は、はい」
数え切れないほど肌を重ねているのに、キナの顔はすでに真っ赤。
「たくさん食えよ? じゃなきゃ、ご褒美はナシだ」
「た、食べますっ」
キナは線が細い。
シェリルもそうだ。
なので2人には、なるべくメシを食ってもらうようにしている。
ごちそうさまでした。
そう声を上げると同時に、キナは俺に抱きついてきた。
「おいおい。メシを食いながらチンコばっか見てると思ったら」
「だ、だって」
「まあ、いいさ。脱いで勃起させな」
「はい。ジョッキとか灰皿、ここに移動しますね」
「サンキュ」
準備を終えるとキナはソファーにではなく床にしゃがみ込んだので、補給要請でクッションを出す。
出前が届いた時点で日は暮れかけていたし、もう本格的にセックスをしてもいい時間だろう。