それも8000文字越えw
遅くなるか……と車の中で軽く息を吐けば、部下から気遣うような視線が送られ、ディーノは思わず苦笑いした。どうやらディーノの考えていることがバレバレらしい。
「悪い」
表に出してしまったことを軽く謝りながらも、ケイタイを開き送信する。
【すまん、遅くなる。オレのことは気にせずゆっくり休んでくれ】
部下達から先に連絡があったのだろう。サクラからかえってきた返事は【わかった】という四文字だけだった。
それだけか……?とケイタイをじっくり見つめる。明日の朝一というより夜中といってもいい時間に、ディーノは海外へ飛び立つ。時間に余裕があるならサクラも一緒に連れて行くが、今回は強行軍といってもいい内容なのでサクラはお留守番だ。だから今日遅くなってしまったせいで、サクラとはしばらく会えなくなるのだ。
もちろん強行軍というだけあって、しばらくと言っても数日の話。しかし世間では新婚と呼ばれる期間で、この返事の短さだ。ディーノがショックを受けるのは普通の感覚だろう。
再び表に出てしまったようで、部下が慌てて話題を振ってきた。情けない気もするが、部下の優しさに甘えディーノはその話題に乗ったのだった。
ディーノが家に帰るとロマーリオが出迎えた。ロマーリオは部下の中で付き合いが最も長い。結婚前からサクラと何度か顔を合わせているのもあるが、ディーノが一番信頼できる部下だからサクラについてもらった。
そのロマーリオがディーノを出迎えたのだから疑問を感じるのは当然のこと。ロマーリオはサクラのスケジュールに合わせて動くのだから、今は身体を休める時間のはずだ。
「なんかあったのか?」
「ボスに急いでもらおうと思ってよ」
その言葉だけでディーノは自室へと直行する。自室の扉から漏れる光を見た瞬間、説教という言葉は消えた。嬉しいという感情が支配したから。
「サクラ!」
扉を開けて名を呼ぶ。が、返事はない。
「サクラ?」
ディーノが部屋を見渡すと、すぅすぅと寝息を立てながら、サクラはディーノのベッドで眠っていた。
「あー……さっきまでは起きていたんだけどな」
ディーノの後をついてきたロマーリオの言葉にそうだろうなと視線を向ける。サクラの手にはマンガが握られていた。頑張って起きていたんだろうなとディーノは頬を緩めながら、漫画を抜き取り机に置いた。その間にロマーリオが気を遣ってソッと部屋から立ち去った。
起こさないようにいつもより優しく頭を撫でると、サクラはふにゃりと微笑んだ。
「ありがとな」
この時間だとここより飛行機で眠った方が疲れが取れると判断したディーノは、照明の光を少し落とし、時間ギリギリまでサクラの寝顔をみていたのだった。
飛行機でしっかり身体を休めたディーノは部下から連絡をもらった。サクラが引きこもって部屋から出てこないらしい。もっともサクラが部屋から出ないだけで、部下達は問題なく出入り出来ているらしいが。
ディーノはその報告にどうしたものかと思いながらも、喜びを隠せないでいた。
今報告したということはサクラは起きている時間なのだろう。強行軍といっても移動がほとんどである。移動中の今なら手が空いているのでディーノは電話をかけた。
『も、もしもし?』
急にかかってきた電話にサクラがアタフタしている姿が目に浮かんだディーノはニヤケる。
「サクラ……」
甘い声が出たことにディーノ自身が驚いた。無意識だった。部下にこっちを見るなとすぐに手で指示を出す。しかし声を殺して笑っているので後で思いっきりイジられるだろう。
後のことを考えると憂鬱だが、今はサクラの方が問題だ。サクラは声に弱い。本人は隠しているつもりなのかもしれないが、愛の言葉を何度も送ったディーノが気付かないはずがなかった。
もちろんそのことを意識して観察したディーノがサクラの一番好みは自身の教え子である恭弥だと気付かないはずがなく。地味にショックをうけた。一応ディーノが意識して甘い声を出せば、勝つようだが。……余談だがその後に教え子に対抗し意地を張ってしまったことに更にディーノは落ち込んだ。
閑話休題。
無意識だったとしてもディーノはサクラの弱点をついてしまった。ただ固まっているだけならいいが、サクラのことだから突拍子も無い行動をしていそうだ。
「あー、その、サクラ?」
目の前にいれば落ち着くまで抱きしめることが出来るが、今回はそうもいかないので声色を戻して呼びかける。
『ボス、何言ったんだ? 急にケイタイを放り投げてきたぜ』
ケイタイから聞こえてロマーリオの声と言葉に思わずディーノは頬をかく。パニックを起こしてケイタイを投げたらしい。
「悪い、ロマーリオ。サクラは?」
『……カーテンの後ろだな』
恥ずかしくて咄嗟に隠れたことは簡単に予想がつく。が、そんなわかりやすい場所では隠れた意味があるのかとも思う。ロマーリオも同意見なのか少し呆れた口調だった。
『サクラ、ボスが謝ってるぜ』
ディーノの脳内ではカーテンで真っ赤な顔を隠しながらも手を伸ばすサクラが見え、可愛いなと心の中で呟く。新婚特有の症状である。……多分。
『べ、別に謝る必要はないぞ。ちょっとビックリしただけだ』
「いや、オレが悪いぜ。驚かせちまったんだろ?」
『驚いてない』
言ってることが無茶苦茶だ。また聞きたいから驚いていないことにしたいらしい。揶揄うと機嫌を損ねるのでディーノは「そうか」と聞き流す。
『で、なんだ?』
「昨日、無理したみてーだから大丈夫かなと思ってよ」
『大丈夫。今日も引きこもるつもりだったし、眠くなったら寝るから』
確かにサクラは出不精で部屋に引きこもることが多い。しかし、今日はいつもと部屋が違うと報告をうけている。
「……終わったらすぐ帰るからな。オレの部屋で待っててくれ」
『ん。……ありがと』
自身の部屋で過ごして、少しでも寂しさが紛れるなら、いくらでも使っていいという気持ちでディーノは言った。サクラもディーノの思いが通じたのか、素直に甘える返事をした。
「……そうだなー。帰ったら、なんでも願いを叶えるぜ」
『なんでもはダメだろ』
そうツッコミを入れる時点でサクラは吹っかけることはないんだけどなーと思いながらも「だな、オレに叶えれることなら何でもいいぜ」と付け加える。
『考えとく』
「ああ。楽しみにしてるぜ」
『それは私のセリフだろ』
クスクスと笑う声が聞こえたところで、目的地が近付いてしまった。少しは元気が出たならいいんだが……と思いながら何度か言葉を交わした後、ディーノは電話を切った。
「さっさと終わらせて帰るか」
「おう!」
ディーノの呟きに部下達がこたえる。そのことに驚いたもののディーノはすぐに嬉しそうに笑ってから「いくぜ、お前ら」と声をかけたのだった。
部下達の協力もあり、予定より数時間早く帰ってきたディーノは部屋へと向かう。
ノックをして部屋へ入れば、サクラの驚いた顔が目に入った。早く帰れることを聞かされていなかったらしい。
「ディノ」
マンガから手を離し、サクラは立ち上がった。こっちに向かおうとする姿が見え、ディーノは待ちきれずサクラへ駆け寄り、抱きしめた。
「デ、ディノ!?」
恥ずかしかったらしくカチカチに固まっているとわかっていたが、ディーノは我慢することは出来ず軽く口付けた。
しばらくの間、抱きしめながら頭を撫でているとサクラがポツリと言った。
「……バカ」
怒っている声ではなかった。甘い響きがあった声だった。
「……サクラ、しばらくこのままな」
「ん?」
「今サクラの顔を見ると理性が飛ぶ自信がある」
ディーノの言葉を聞いたサクラはビクリと肩を揺らして距離を取ろうとした。しかし残念ながらサクラではディーノの腕から逃れられことは不可能である。
「離れれば顔が見えるぜ?」
「そ、それもそうだな」
腕の中にいることを選んだが、サクラは恥ずかしいのかモジモジと身体を動かす。非常に可愛らしい反応だが、それはそれで身体が反応してしまいそうだとディーノは深く息を吐いた。
このままでは危険だと判断したディーノはサクラに話題を振る。会話に集中すれば、自身もサクラも落ち着くだろうと。
「願い事、決まったのか?」
「……その、変なことでもいいのか?」
「変なこと? まっオレに叶えれる内容ならいいぜ」
「ディ、ディノにしか出来ない……」
全く想像はつかないが、サクラのお願いを断る理由はない。特に今回はサクラの兄である桂でも叶えれない内容なのだ。見せ所である。
「それで何がいいんだ?」
「その、風呂に入ってからがいいかも。スーツじゃちょっと頼みにくい」
「わかった」
願い事の内容に気を取られ落ち着いていたディーノはあっさりとサクラを解放する。予想通りサクラの真っ赤な顔を見ても暴走することもなく、優しく頭を撫でながら声をかける。
「じゃちょっと入ってくるな。サクラは入って、そうだな……」
パジャマ姿を確認した時、思わず胸元に視線がいってしまい、すぐに顔へと戻す。上着をきているのでパッと見ではわからないが、ブラをつけていないのは抱きしめた時の感触でわかっていたからだ。
「ん、後は寝るだけ」
「そうか。今日は一緒に寝るか?」
数日ぶりのサクラでちょっと気が緩んでいるが、ディーノに下心はなかった。サクラが寂しがっていると知っていたから声をかけただけだ。
「……自分の部屋で寝るぞ!」
だから断られたことにショックはない。しかしやけにハッキリ返事したなと思いながらも、一緒に眠ること自体元々珍しいため、ディーノはすぐに了承し風呂へと向かった。
風呂から出るとサクラはウロウロと歩き回っていた。
「サクラ?」
「ほ、本当に変なことだけどいいのか?」
落ち着かなく真っ赤な顔をして食い込み気味で質問し、ディーノにしか出来ないことなので、願い事の方向性はわかる。ただ相手はサクラなので、ディーノからすれば可愛らしい内容でしかないだろうと簡単に予想出来、苦笑いしながらも答える。
「ああ、いいぜ。約束したからな」
「なら、ディノ、ベッドの真ん中に座ってくれ。出来れば、胡座がいいな」
頼み事の内容によっては、ベッドの上だと理性が飛ぶ可能性があるんだけどな……と思いながらも、やはり相手はサクラなので問題ねーかと判断する。
「これでいいのか?」
言われた通りディーノは座ったが、サクラはベッドから離れた位置でモジモジしていた。
「サクラ?」
「その、ディノ、10分でいいから、目をつぶってそのまま動かないでほしいんだ。出来れば声もかけないでほしい」
「それだけでいいのか?」
「え、えーと、その間のことは忘れてほしいけど無理だと思うし……。わ、話題を出さないでくれ。死にたくなるから……」
そこまで言われれば、後で揶揄うのは危険だ。しかしそれが出来なくてもディーノは少し楽しみになってきていた。目をつぶってほしいということからも、サクラからのキスが期待出来そうなのだ。恥ずかしがり屋のサクラなら10分は必要だろう。
「わかった。約束する。オレは目をつぶって動かねーし静かにしている。後でこのことについて何も聞かないし、話さない」
真っ赤な顔をしながらもサクラは嬉しそうに何度も頷いているので、これぐらいいつでも聞いてあげるのになと思った。どう考えてもディーノにとってもご褒美な内容なのだから。
「悪いけどよ、オレも1つ頼みがあるんだ」
「な、なに?」
サクラが警戒しているので笑いながら声をかける。
「目を開けちゃダメなんだろ? タイマーを仕掛けてもいいか? なんとなくだけどよ、サクラは10分たつ前に部屋から出て行きそうな気がするんだ」
慌ててタイマーを仕掛け始めたので、図星だったらしい。
「サクラのタイミングで始めていいぜ」
目をつぶる前にスタートさせるべきだったか?と一瞬頭をよぎる。サクラのことだから始めるまで時間がかかりそうなのだ。しかしディーノが急かしてしまうとサクラは何も出来ずに10分経過してしまう可能性が高い。結局ディーノはじっくり待つかとゆっくりと息を吐いたのだった。
ディーノの感覚で5分たったぐらいに「い、今から10分だ」という声が聞こえた。サクラにしては時間がかからなかったなというのがディーノの感想だった。
ベッドの振動からゆっくりとサクラが近づいてくるのがわかる。目を閉じてる分、他の感覚が鋭くなることをサクラは気付いてないんだろうなとディーノは思った。サクラの息遣いがはっきりと聞こえ、そういう気分になりそうで危ない。まだサクラに触れられてもいないのに……。
「その、重かったらゴメン」
ディーノの目の前に来たサクラは一言告げてから胡座の真ん中に座った。触れた感覚から横座りなようで、座り心地のいい場所を探して落ち着いたところで動かなくなる。
まさかそれだけなのか!?と思ったところで、サクラはぎゅっとディーノの腰に抱きついた。どうやら抱きつくのを躊躇していたらしい。
しばらく我慢していたが、ディーノは誘惑に勝てず片目でサクラを見る。視界に入ったサクラは目を細め幸せそうにディーノの胸板にスリスリと頬をふっつけていた。
自爆した。
すぐ目を閉じたが破壊力は凄まじかった。腕がプルプルと震える。ギュウギュウと抱きしめたいのに我慢するしかない。もう一度見たいが、バレてしまえばサクラは二度としないだろう。
ディーノが必死に我慢していると気が済んだのか、サクラは胸板から離れた。……ホッとしたような残念なような、複雑な心境である。出来ればもう一度見たかった。
「ディノ、その、ゴメン」
サクラの謝罪後にチュッというリップ音がした。
「……っ」
目は開けなかったものの、僅かに声が漏れた。モジモジしている気配がするのでサクラは聞こえなかったのだろう。動揺していると気付かれないようにゆっくり息を吐く。おそらく聞こえていればもう二度としないだろうし、すぐさま逃げ出すだろう。危なかった。
少し冷静になったディーノはサクラの行動を確認し、ウソだろ!?と心の中で叫ぶ。サクラの唇が触れた場所は間違いなく、鎖骨だった。
ディーノは今までサクラを怖がらせないようにキスは顔と手の周りにしかしていない。それ以外の場所に落としたいと思ったのは一度や二度ではない。我慢しなくても良かったらしい。……ショックだ。
「もうちょっとしても、いい……?」
ディーノは理解する前に頷いていた。嫌がる理由? 皆無だ。
「ん……ディノ……」
リップ音の間に名を呼ばれ、下半身が反応したのがわかった。なんとか熱を逃がそうと深呼吸しようとするが、息が荒くなるだけだ。自身の呼吸音と同じぐらいサクラの息もはっきりと聞こえる。
もう我慢出来そうにねぇ……!と思ったところでサクラが離れた。
「時間……!」
ディーノは完全に忘れていたが、サクラはしっかりと覚えていたようで「ぁ……」と寂しそうな声を漏らす。約束をやぶることにはなるが、この場合はいいだろうと口を開く。
「気にしなくてもいいぜ」
「ぁ、ぅ、大丈夫……後2分あるから」
オレがこのままだとキツイんだが……と心の中で思いながらも諦めた。ディーノが声をかけたことでサクラは少し冷静になってしまったから。
サクラは胡座の中から出た。これで終わりらしい。非常に残念だが仕方ない。
しかしいくら待ってもサクラはディーノから距離を取らない。不思議に思っているとサクラが膝の上にのった。向かい合った状態で密着している。もう少しで下半身も当たりそうでいろいろ危険だ。
「ゴメン! ディノは嫌かもしれないけど、一度して見たかったんだ」
何をだ?と思ったところで、柔らかいものに包まれた。
「ふわふわ……」
ディーノはオレの方がふわふわだと心の中で繰り返していた。ボンヤリした頭で、サクラはいつも自身にされていることをしたかったんだろうなと思った。
サクラはディーノの頭を抱きかかえながら髪の毛を弄ることを楽しんでいたのだ。そのためディーノの目の前にはサクラの胸があった。
正確にはもう少し短いだろうが、後2分はこのままかと思うと、最高か。
想像通り、大きすぎず小さくもない。柔らかさだって普通の範囲だろう。ただ想像以上の甘い感覚に酔いしれる。
ガッつきたい衝動に駆られるが、我慢する。サクラが意図したわけじゃないだろうが、なかなか積極的で大胆な行動なのだ。このままでも十分楽しい。
「ん、楽しかった。ありがと」
突然離れていく感覚に短すぎるだろ!?と心の中でツッコミをいれる。実際1分もなかった。
「ディノ、大好き」
最後は決めていたのか、ディーノの唇に柔らかいものが落ちる。触れるだけのキスだが、サクラからは数えるほどでしかない。それに例えしたとしてもごく僅かな時間だった。
しかし今日はいつもと比べて長かった。だからこそ、ディーノは舌を出すことが出来た。といっても、ほんの少しだ。ピクリと反応したが、サクラもおずおずと舌を出した。絡め取ろうかと一瞬頭によぎったが、しばらくその状態のままにする。すると、ペロペロと舐め始めた。
「んっ……ふぁっ……」
アラームの音が遠くから聞こえるのを感じ、ゆっくりと目を開けていくと、自分の大胆な行動に声を漏らして腰を揺らしているサクラの姿が見えた。
サクラもアラームの音が聞こえていたようで、ゆっくりと目を開けていく。……キスをしたまま。
互いの息遣いとドンドン大きくなる舐め合う音、それに伴いサクラから漏れる声、一向に逸れない視線、興奮する材料しかない。
ディーノが舌を吸い、さらに音を立ててから離れた。
「ぁ……」
名残惜しそう漏れた声が聞こえ、……否、その前からディーノは我慢する気はさらさらなかった。
トンっと軽く肩を押せば、サクラは簡単に倒れ寝転がった。
以前と違い、この後に何が起こるのかサクラはなんとなくわかってるようだ。僅かに瞳から怯えが見える。
気持ちよくなればそれは消えるとわかっていたディーノはシャツのボタンへと手を伸ばす。が、少しハダけ始めたところで手を止めた。
「ディノ……?」
よっ!という掛け声と共に、上下が入れ替わる。サクラは先程までベッドに寝転がっていたのに、今はディーノの身体の上で寝転んでいることに目を白黒させていた。
ディーノはその反応に笑いながら、サクラがの背をポンポンと優しく叩く。サクラは徐々に力が抜きディーノに身体を預けていくので、少しは安心させることが出来たようだ。
「……怖がらせて悪かった」
「や。その、大丈夫だったぞ?」
「大丈夫だ。わかってる」
サクラが流されかけていたのは間違いない。興奮していたのも興味があったのも間違いない。だが、直前で恐怖がサクラの身体を全て支配した。
「余裕ねーなぁ……」
空いている手で顔を覆いながらポツリと呟く。これで何度目だ。
「私は余裕のないディノも好きだぞ」
聞こえて来た内容に驚き、手をどけてサクラの顔を見る。
「今怖がらせたばっかりだろ?」
「だ、だって私が好きだから余裕がないってことだし……」
モジモジしながら答えるサクラ。ディーノは背を叩いていた手を止め、両手でしっかりサクラを抱きしめてから揺らした。
「わわっ!」
「可愛すぎだっ! サクラっ!」
「ディノ、ストップ! 酔うからっ!」
それはダメだとピタリと動きを止める。ちょっと疲れてそうだが、セーフだったようでホッと息を吐く。
「悪い」
「ん。大丈夫。それよりこの体勢はちょっとしんどい」
「痛かったか?」
「ベストポジションが決まらない」
「なるほど」
ヒョイッと動かし、横向きに抱き合う。
「……ディノ、熱くないか?」
リモコンに手を伸ばし、クーラーをつける。
「いや、そこは離れればすむ話」
「たまにはいいじゃねーか」
サクラが絶対に嫌というわけじゃないので、ディーノは聞き流した。
「今日のディノ、変」
「サクラが可愛いからな」
「……熱い」
「もうすぐ効いてきるはずだぜ」
「ディノ、さっきから当たってる」
「……それはすまん」
クスクスとサクラが笑うので、ディーノの身体に振動が伝わる。心地良いリズムでディーノは自然と目を閉じた。
「眠いのか?」
「ちょっとな」
「寝る?」
「ああ」
お疲れ様、おやすみというサクラの声を聞きながら、ディーノは眠りに落ちた。
熱いと感じ、ディーノは目を開けると眩しかった。どうやら照明を消し忘れたらしい。昨日のことを思い出し、腕の中にとじ込まれた状態ではサクラが消すことは不可能だったことに気付く。ディーノのミスだ。
「そういや、サクラは?」
腕の中に居ないので、部屋に戻ったか?と一瞬頭をよぎったが、それなら照明を消していくだろう。ディーノが上半身を起こすとサクラは少し離れた位置で居た。
サクラは布団を蹴飛ばしたみたいで、寒そうに丸まっていた。その蹴飛ばした布団がディーノにかぶって居たので、こっちは熱くなったようだ。
もっと本気で抱きかかえるべきだったかと思いながら、サクラに布団をかけようとした手が止まる。
ゴクリと喉を鳴った。
決して挟めるほど深くはないが、谷間がある。よくよく考えるとボタンを開けたままだった。
「サクラ」
呼びかけても返事がない。ボタンを閉じるためだと自身に言い聞かし、肩を押して仰向けにする。ジッと見つめること数秒。昨日の柔らかさを思い出し、邪な考えが勝つ。
「ちょっとぐらい……は、ダメだよな」
「パフォ」
いつでも殴れる体勢で現れたフミ子にディーノは大人しく諦めた。同意の上ならフミ子は出てくることはないので、ディーノが悪い。はぁと溜息を吐いて、ボタンを閉めようと手を伸ばす。
「……ディノ……?」
「ち、違うからな!」
キョトンとした顔をした後、サクラはディーノの顔を見て、自分の胸元を見る。そして再びディーノの顔を見た。
「ん、わかってる。ディノは寝ている私にはそんなことしないって」
再び安心して目を閉じたサクラにディーノは謝ることも出来ず、ボタンを閉じて布団をかけた。
照明を落とし、ディーノが布団に潜り込むと再び出てきたのか、フミ子がポンポンと肩を叩いた。
「……これからも頼むぜ」
再び肩を叩いた後、フミ子は再びリングへと戻った。
この後、ディーノは信頼しきっているサクラの顔を浮かび、なかなか寝付けなかった。
おまけ。
次の日、ディーノはサクラが鎖骨を見ている視線を感じたので、鎖骨フェチだったのか?と首をかしげる。今までそんな素振りを見せたことなかったよなと思いながらも、確認が出来ないので諦めるしかなかった。
一方、サクラは。
……キスマークがない。なんでだ!?と頭を悩ませていた。
『次回、サクラは勉強する』
※ウソです、その場のノリで書くので作者もわかりません。