サイゾウの過去その①です。
時系列的には母の死後2年が経っていて、大体少年期ナルトと同世代で考えています。
あまり細かい時系列に関しては考えていません(ナルトで時系列はつっこんだら負け)が、年齢的にも縄樹はミナトなどと同世代にしてます。
それと話中においてサイゾウやミナトがアカデミーにいる描写がありますが、あれは下忍を集めて行っている特別講義のようなものです。戦時中ということもありただ下忍を任務に放り出すのではなく、一種のアフターケアのようなものと考えていただければ。
風が吹いている。心に、風が…
里の入り口を潜り、サイゾウは自身の内の空虚さを痛みで誤魔化す。
少し歩いていくと、道の先で大柄な男が腕組みをして待ち構えていた。
「…サイゾウ、またひとりで任務を受けたのか」
普段寡黙な父親が、精一杯作ったのであろう厳しい表情で子供を睨んでいる。サイゾウはダイテツの表情を見てそんなことを思った。
『うちはダイテツ』。
12歳になったばかりの『うちはサイゾウ』の“父親”である。
「ああ、別になにも問題はなかった」
ポケットに手を入れたまま横を通りすぎようとするサイゾウの手を、ダイテツは黙って掴む。
「…離してくれよ、父さん」
いたって“無表情”にダイテツに告げるサイゾウであったが、サイゾウのその様子にダイテツは更に表情をしかめる。
「この腕、折れているだろう。何故治療を受けてこなかった」
表面上わかりにくくされていたが、サイゾウの腕は亀裂骨折を起こしていた。内出血を血抜きしたことでわかりにくくなってはいるものの、見るものが見ればサイゾウがそちら側の腕を庇っているのはまるわかりである。
「…医療忍術の練習に使えると思ってね。そろそろ離してくれるかな、父さん」
「あ、ああ、すまない」
「じゃあ、俺は行くよ」
ひどく冷たい目を残して去っていく息子の後を、ダイテツは追えなかった。
2年前、まだ生まれたばかりの次男『シスイ』を残してこの世を去った妻を想い、ダイテツは空を見上げる。
まだ、戦争は続いている。
第三次忍界大戦。忍だけでなく、すべての国の人々を巻き込んだこの愚かな戦争がどこに行き着くのか、妻を失った悲しみがいまだ癒えぬダイテツはわかりたくもなかった。
サイゾウは、自分の本当の子供じゃない。
そんなことは、コオネと結婚したときから知っていた。
生まれたばかりのサイゾウを抱いて途方に暮れている彼女を見て、思いの丈をぶちまけ結婚にこぎつけたことも後悔してはいない。
だが、コオネを、母を失って写輪眼に開眼した息子は、日に日にその目に闇を宿しつつある。
「コオネ、俺はどうすればいい…」
そろそろ預けているシスイを迎えに行かねばならない。忍としての仕事をこなしつつ、息子二人を抱えるダイテツには、あまりにも“父親”としての時間が少なかった。
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「…ちっ、妙な方向に力入れやがって」
“己に幻術をかけて”痛みを誤魔化していたサイゾウは、治療の為に幻術を解き、覚えたての《掌仙術》をかけて治療を促していた。
「…さすがに下忍のチャクラじゃ効き目は薄いか」
断続的に襲う痛みに耐えながら、脂汗を浮かべサイゾウはひとり苦笑いをこぼす。
「いやいや、そう悪くはないぞ。だが致命的に手順が間違ってるな!」
突如として頭上から掛けられた声にサイゾウは驚き、写輪眼を発動させながら距離をとる。
「おお写輪眼か!むむ、よく見れば少年は最近話題の“天才忍者”サイゾウくんではないか!」
そこにいた男をなんと形容したものか、サイゾウは言葉につまった。
きれいに切り揃えられたオカッパ頭。緑色の全身タイツ。首もとにはどういうつもりなのか真っ赤なマフラーが巻かれている。
「…ああ、そうだよ。で、“万年下忍”のおっさんがなんの用だよ」
『マイト・ダイ』。忍術も幻術も扱えない体術一辺倒の暑苦しい男。
サイゾウの知る目の前の男は、ただそれだけの男だった。
「はっはっは!応援ありがとー!そう、俺こそは人呼んで万年下忍!つまり、誰よりも下忍に詳しく、誰よりも下忍に精通した男ということだ!」
「いや、誉めてねえよ…くっ!」
眼前のポジティプ男に意識を奪われ忘れかけていた痛みが、ふとした拍子に戻ってきてサイゾウは顔をしかめる。
「だから致命的に手順を間違っていると言っているだろう。それ、こうするんだ」
痛みに喘ぐサイゾウの腕をダイは無造作に掴むと、なんら遠慮なく捻る。
「があっ…!てめえ、なにしやが…!どういうことだ…?」
断続的な痛みは続いているものの、さきほどのように耐えられないほどじゃない。
別段見た目に変わったところはないのに、ダイに捻られた腕はさきほどよりも遥かに楽になっていた。
「なに、腕の《点穴》をちょいとな。以前俺も同じような骨折を何度かしたことがあってな。あんまり繰り返すから、通りすがりの日向の者が点穴で痛みを楽にしてくれたことがあったのだ。と言っても、点穴はあと二、三箇所くらいしか把握してないから大して知ってるわけじゃないんだが!はっはっは!」
バカ笑いする、目の前の暑苦しい男の評価をサイゾウはどう付けていいのかわからなくなった。
点穴。人体に存在するチャクラを流す経絡系の流れにある、チャクラの排出口である。
これを見抜けるのは《白眼》を持つ日向一族のみ、というのが通説になっているが、伝説ではうちはマダラの写輪眼は点穴をも見抜いたという。
だが目の前の男は里でもそれなりに有名なほど“使えない”ことで有名な万年下忍である。
その男が、点穴を数ヵ所とはいえ把握している。いったいどれだけ腕を折ればそんな知識を持つようになるというのか。
サイゾウは改めて《掌仙術》を腕に施すと、湿布を貼りその上から包帯を巻き付ける。
「…一応礼は言っておく。それと、世話になった借りはいずれ必ず返す。じゃあな」
「おう!少年、そんな俯いてると女の子にモテないぞ!」
「…あんたよりはモテるよ」
「はっはっは!応援ありがとー!」
「はあ、だから誉めてないって」
男、ダイとの会話に疲れながらも、サイゾウはその日珍しくすんなり眠ることができた。
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相手の動きを見切る写輪眼の洞察眼は反則と言ってもいいほどの能力だ。
だから、それを使ってなお自分を上回る目の前の少年が、サイゾウは許せなくて仕方がなかった。
「…くっ!くそ、まだだ!!」
激しく打ち付けた背中が痛むが、そんなものはサイゾウにとって問題ではない。
問題は、写輪眼を持ってしても敵わなかった目の前の少年だ。
『波風ミナト』。同期の下忍において、頭ひとつ抜けた実力を持つ少年。
サイゾウは腹の中で自身をなじる。なにが天才だ!と。
“大嫌い”な《写輪眼》を使った自分は誰よりも強くなくてはいけないのに、この男はそれに従おうとしない。
「またミナトが勝ったぞ!」
「すげえなあ、写輪眼使ってるんだぞ、サイゾウは」
「ねえ、アカデミー終わったらラーメン食べない」
周囲の喧騒が、ミナトを讃える声が、サイゾウをイラつかせる。だが何より許せないのは…
「大丈夫、サイゾウ?ごめん、少し強く投げすぎたかな」
こちらを心配して“見下ろしてくる”金髪のガキだ!
「触るな…!ひとりで、平気だ…!」
しづらい呼吸を無理矢理行い痛む肺に鞭打って空気を取り込む。
背中以外にも痛む箇所はあるが、そんなものは無視する。
誰の同情もいらない。誰の助けもいらない。
ひとりで、全部こなさなければ。
仲間などに頼るから弱くなる。
「俺は、ひとりで強くなる…!そして誰よりも最強の火影になってみせる…!」
期せずして口から漏れた言葉が聞こえたのか、差し出した手をどうしたものか考えあぐねているミナトが驚いた顔をする。
「そうか。じゃあ、俺と競争だね!」
目の前の笑顔が眩しい。
サイゾウは一瞬呆けた後、舌打ちして表面上普通に歩いて去っていった。
その様子を、吹き抜けとなった上の階から見下ろしている“三人”がいた。
「なにやってんだか、サイゾウは!あたしの弟分でありながら負けてるんじゃないよ!」
酒瓶片手に息巻くのは綱手であり、最近付き合いが悪いと嘆く『縄樹』の気持ちを代弁するかの様にサイゾウを貶す。
「いやいや、アレはミナトが規格外すぎるんだのォ。いくら死角から攻撃したとはいえ、写輪眼を持つ相手を一本背負いするなんぞヤツくらいにしかできんぞ」
逆にサイゾウと忍組手を行ったミナトをベタ誉めするのは自来也。自身に弟子入りを志願してきたということもあるが、ミナトの抜きん出た才覚を認めそれを他者にも無自覚に自慢している。
「別に体術にこだわる必要はないわ。あの子には誰よりも優れた“眼”があるのだから。くくく…それにしてもイイ眼をしていたわ」
どこか獲物を狙うような眼光を向ける大蛇丸に、自来也と綱手は変態を見る視線で少し距離を取る。
酔いがわずかに覚めたのか、綱手は思い出したかのように出口へと向かった。
「なんだ綱手、小便か?ぶげらっ!?」
中身の残る酒瓶を顔面に受け、自来也が吹き抜けから落下する。下では落ちてきた自来也に大騒ぎだ。
「…なわけあるか、馬鹿が!サイゾウのところへ行って、怪我を見てやるんだよ」
「あら、言ってたことと違って心配性なのね」
「誰が!けど、あのまま縄樹のところに万が一行かれたらあたしがどやされるんだよ」
憤懣やるかたない様子の綱手ではあったが、その目に様子のおかしい弟分を心配するものがあったのを大蛇丸は見逃していない。
「…さて、あの子どうするのかしらね」
サイゾウが向かう行く末に興味を抱きながら、大蛇丸も静かにその場を去るのだった。
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「はっ!おりゃっ!」
巻き藁に向かって、サイゾウは渾身の力を込めた突きや蹴りを次々と放つ。
手から血がにじみ、足は腫れているが本人はまるで気にしていない。
その様子を見守るのはかつてサイゾウを助けた“万年下忍”マイト・ダイである。
「違う違う!どんなに連続で攻撃を放っても、軽くちゃ意味がないぞ!もっと一撃に気合いを込めるんだ!」
そう言ったマイト・ダイが自身の前にある縄を巻いた巨木に突きを放つと、衝撃で揺れた巨木から木の葉が落ちてくる。
「…はあ、はあ、気合いってなんだよ、はあ、もっと、はあ、具体的な、説明を、しろよ…」
疲労困憊といった様子のサイゾウであったが、その目はまだ死んでいない。
そしてその様子を見たマイト・ダイがサイゾウに指先をびしっと突き付け言い放つ。
「はいストップした!巻き藁格闘を中断したので逆立ち腕立て二百回!」
「ぬがーっ!お前のせいだろうがー!」
文句を言いながらも、サイゾウは逆立ちして腕立てを始める。
ことの始まりは、ミナトに敗北したサイゾウが木の葉近くの森で自主的な鍛練をしていたときにマイト・ダイと再会したことだった。
体術に自信がないことを遠回りに言ったサイゾウに対して、ダイは
「簡単だ!自信がないなら自信がありあまるほどに努力すればいい!自分ルールだ!」
そうして、自分ルールをいまいち把握できないサイゾウに変わってダイがルールを課すという変則的な修行の日々が、ここ数ヵ月繰り広げられていた。
「…くそ、俺は、幻術、使い、なん、ぜえ、だぞ、なんで、腕立て、して、るん、だよ」
「甘いぞサイゾウ!幻術とていつでも相手がかかってくれるとは限らん!ゆえに!一に腕立て、二にスクワット、三四が腹筋、五に走り込みだ!」
メガホンで声援をかけてくるダイに怒りを覚えつつも、サイゾウはここ数ヵ月で急激に体術の実力が付いてきたのを実感していた。
やがて、ダイの課す滅茶苦茶な自分ルールの修行を終えたサイゾウは息も絶え絶えといった様子で倒れこむ。
全身に走る痛みにサイゾウは、またひとつ力がついたと、暗い笑みをこぼす。
その様子を黙って見ていたダイが、ふと思い出したかのように語り始めた。
「…サイゾウ、今度俺に子供が生まれるんだ」
「…あんた、結婚してたのか」
目の前の『木の葉一濃ゆいヤツ選手権』でも開かれればぶっちぎりで優勝しそうな男に妻がいたことに、サイゾウはなんだか負けたような気分になる。
「ああ、万年下忍の俺なんかを愛してくれる、素晴らしい人だ。…だが俺は、父親失格だ。生まれてくる子供に、なにも残してやれるものがない…!」
背中を向けるダイの、珍しいを通り越した泣き言に、サイゾウはなんと返していいかわからなくなる。
だが、“借り”は必ず返すと以前約束したのだ。ならば、この機会を逃す手はないだろうとサイゾウは考え口を開いた。
「…俺には、立派な父親なんてものがどんな人かわからない。父さんと血は繋がってないし、本当の父親だってどこの誰かも知らない。だけどさ、あんたが何かを残してやりたいっていうならさ、“これから”なにかを作ればいいじゃないか。それこそなんだっていいだろう。体術だって、里で一番じゃないにしても、結構いい線行ってると思うぜ?」
子供なりの、不器用なりの、精一杯の励ましの言葉。
そんな言葉が、目の前の熱血男に届かないはずもなかった。
「サ…」
「さ?」
「サイゾォォォォォォ!俺は今!猛烈に感動している!」
「うわっ!涙と鼻水垂らしてこっち来んな!ぎゃー、顔についたー!」
「うおおおおおん!そうだとも!“今”がダメなら!“次”を作ればいいのだ!俺はやるぞ!サイゾウ!!」
熱血に燃えるダイのやる気にサイゾウは汚れた顔を拭きつつ呆れながらも、その顔には普段と違いどこかスッキリとした笑顔が浮かんでいた。
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それから数ヵ月後。
しばらくダイを見なかったサイゾウは、久しぶりにダイを見た。
死にかけて倒れているのを。
「おいダイ!なにがあった!なんでこんなボロボロなんだ!!」
木の葉の入り口近くの林で倒れていたダイを、サイゾウは急いで木の葉病院へと連れていった。
戻らぬ夫を心配していた妻も、ほどなくして到着する。
「お、おお!サイゾウ…俺はとうとう会得したぞ…!」
「点滴したばっかなんだから、無理して喋るんじゃねえよ。なんだ、どこかの里の忍にでもやられたのか」
ダイが倒れていたのは木の葉の里の入り口近くである。サイゾウは最悪暗部に連絡を入れねばと、ダイの言葉を聞き逃さぬよう耳をすます。
「…禁術《八門遁甲》だ。俺は、とうとうあの術を使うことに成功した…」
「なにぃ…?」
小声で聞きづらかったものの、サイゾウはダイの言葉に驚愕を露にする。
禁術《八門遁甲の陣》。体内にあるチャクラの“門”を段階的に開き、普段抑制されているチャクラの働きをすべて肉体に還元する、凶悪にして強力な術である。
その存在には聞き及んでいたものの、サイゾウはそれを実戦でこなしたという忍を見たことはない。
なぜならば、その術の使い手は全員死んでいるからだ。
「…ダイ、あんたなんで生きてんだ」
「…ふふ、ガッツで乗り切った…と言えればカッコいいんだろうが、禁術《八門遁甲》は段階的に“門”を開く。今回開いたのは第五門、杜門だ。だが予想以上に反動が凄まじくてな…里の入り口までたどり着いたはいいが、力尽きてしまった…」
息も絶え絶えに話すダイ。ちなみに彼の妻はこれが任務上の会話だと気を使って部屋の外にいる。実際は旦那が自爆しただけなのだが。
「それが本当なら、ダイ、あんたとんでもないぞ。資料に残ってる八門遁甲の使い手は全員死んでるんだ。それを自力で会得した上に、この短期間でそこまで身に付けるだなんて」
珍しいサイゾウの称賛だが、ダイは苦笑いを浮かべる。
「…そうじゃない。俺はこの術を知ってから、これまでずっと努力してきた。“自分ルール”でな。後少し、そう思えるようになるまでに、十年以上無駄にしてきた。おかげで俺は忍術もまともに使えない万年下忍だ。それも、子供が生まれてきたことで、怖くなってな。いまだに身に付けられない自分は、いったいなんなのか、と。それがこの間、お前の言葉で吹っ切れた。“死”を恐れぬ強い意思、それこそが、八門遁甲を使うのに本当に必要な要素だったんだ。…ありがとうサイゾウ、最高の“借り”の返し方だ」
「…ふん、だったらさっさと治して息子の顔を見に行ってやれよ。じゃないと、俺が八門遁甲身に付けて奥さん取っちゃうぜ」
からかうように告げるサイゾウの言葉にダイは慌てて起き上がろうとするが、痛みにうめいて再び倒れる。
彼の悲鳴を聞いて部屋に戻ってきた妻との寸劇を見ながら、サイゾウは取りたくても取れそうにないオシドリのような二人に笑みをこぼした。
彼の心に、もう風は吹いていなかった。
サイゾウ少年期。
母が死ぬまでは縄樹と普通に遊んだりしているちょっと生意気なクソガキでしたが、母が写輪眼と仲間を守るために死んだことで“仲間”も“写輪眼”も大嫌いになっています。
なので写輪眼はちょっとした道具扱い。便利ですが、頼ってはいません。
それまで幻術使いとして認められていたのを、突然積極的に忍体術を練習するようになりました。
ダイとは、歳の離れた兄のように接しています。