※この作品はR-18です。

うちはの火影   作:SHV(元MHV)

37 / 44

難産だったぁ( ̄▽ ̄;)

編集したのでとりあえず寝ます。


深淵より覗く者共 ★

雲隠れの外れにある岩山。

 

そのひとつにある洞窟のなかに、雲隠れの忍である三人の男女は隠れていた。

 

「……とうとうアツイまで捕まった。こうして私たちが話を出来るのも、これが最後かもね」

 

「ダルいっすけど、否定するのが難しいっすね。実際上忍で残ってるのはサムイさんと俺だけ。戦力としては心もとないにも程がある」

 

「くそっ、せめて雷影様だけでも解放できれば……!!」

 

会話を交わす三人の名はそれぞれサムイ、ダルイ、オモイ。サムイは色白の肌に大きな胸をした金髪でおかっぱの美人。アツイは彼女の弟であり、彼女らを逃がす為に囮となって捕まった。ダルイは色黒の肌に白髪、気だるげに瞼を半目に開けてはいるが、目の力そのものは現状に憤っているのか力強く光るものがある。オモイはダルイと同じ色黒の肌に白い髪だが、彼よりも体格的には細く背中に刀を背負っている。ちなみに彼は中忍だ。

 

隠れているのは彼らだけではない。主に一個小隊を目処に各所に散らばった雲隠れの忍は数百人はい(・)た(・)。

 

今となっては雷影を解放する可能性のあった上忍のシーも洗脳され、感知タイプであるその能力を活かして次々と隠れ潜む雲隠れの正気の者達を捕らえていた。

 

かつて多数の民族が入り交じり、自由を気風とした雲隠れはもはやない。空前のディストピアに、残った忍らの心は削られていた。

 

「あらあら、こんな場所に隠れていたんですね」

 

「……! マ、マブイさん!」

 

突如として洞窟入り口に現れた金髪に色黒の肌をしたスーツ姿の女。

 

彼女こそは雷影の秘書として知られた人物にして、里内で唯一の“物質転送”の術を使えるくのいちでもある。

 

「抵抗は無駄ですよ。ここはすでに囲みました。……さあ、大人しくマダラ様に従いなさい」

 

掌から電光を迸らせながら近づくマブイ。彼女に限らず、洗脳を受けた忍らはなんらかの強化措置を施されているらしく、残った者達が追い詰められている一因ともなっている。

 

「ちっ……! ダルいっすけど、こうなったらやるしかないっすね!」

 

ダルイは印を組み、己が得意とする血継限界《嵐遁》を発動せんとチャクラを高める。しかし、その前にサムイが立ちはだかった。

 

「……ダルイ。ここは私が引き受けるわ。忍者ならもっとクールに、状況判断を徹底しなさい。あなたは雷影様の右腕……つまりは次代の雷影候補でもあるのよ。五影会談に向かった雷影様が洗脳されている以上、生きて帰ってくるかはわからない。そうなったとき、里をまとめるのはあなたよ。さあ、行って!」

 

「お喋りは済みましたか? では申し訳ありませんが、全員天(・)送(・)させていただきますね」

 

言うなり、マブイは雷遁を纏い高速で三人へと迫る。

 

彼女の得意とする物質転送の術。その名を《天送の術》という。雷によって強制的に対象を送り先の座標へと移動させるこの術は、時空間忍術ではなくあくまで高速移動の術である。そのため雷速で送られた対象はよほど強固でなければ反動でぼろぼろになってしまうので、人体に使うなどもっての他の術だ。

 

この術に耐えることができるのは、三代目雷影直系の雷遁チャクラを身に纏える人物に限る。ゆえに、これを生身の相手に使うということは相手を殺すのと同じことを意味する。

 

(せめて一目会いたかった。ユギトさんは会えたのかしら、あの人に……)

 

迫るマブイの掌が回避不可能なことを悟ったサムイはせめて後ろの二人を巻き込まないよう自ら彼女の術へとつっこむ。かつて戦場で重傷の自分を助けてくれた男の顔を思い出しながら。

 

「さあ! 死になさい!!」

 

せめて衝撃に備えようと目をつむり、身構えるサムイ。しかし、予想していた痛みも衝撃もなく、気がつけば彼女の肩を、いつの間に現れたのか一人の偉丈夫が支えていた。

 

「……戯れにマーキングしておくものだな。道人殿、助かったぞ」

 

「やれやれ、年寄りをこきつかいおって」

 

マブイとサムイの間に突如として現れた男、うちはサイゾウは肩に口寄せした鼠旧鼠道人を乗せ、マブイのチャクラを《封術吸引》であらかた吸い付くす。

 

「眼を覚ましな、《闇満羽》」

 

サイゾウの万華鏡写輪眼によって洗脳状態を解かれたマブイは、急激にチャクラを失ったこともあって気を失いその場に倒れる。だがサイゾウはちゃっかり胸を中心に抱くようにして彼女を受け止めた。

 

「ふむ、役得役得♪ ……さて、サムイよ。無事な忍らはお前らで最後だ。反撃といくぞ」

 

もにもにとマブイの乳を揉むサイゾウに怒った方がいいのか喜んだらいいのか困惑していたサムイだったが、急に話を振られてさらに混乱する。

 

「え? え? 私たちで最後とは? いえ、そもそも貴方いったいどうやって……」

 

「ここへ来たのは《飛雷神の術》だよ。使ったのはもう片方の乳に掴まってる旧鼠道人殿だがな。俺は火影として、木の葉の忍三個中隊を引き連れて到着したところだ」

 

大活躍の旧鼠道人は器用にマブイの乳に捕まりながら、その小さな手で乳首を捏ね回している。気絶しているとはいえ刺激があるのか、次第にマブイの顔に赤みが差してきた。

 

サムイはそんなエロネズミをとりあえずデコピンで弾き飛ばすと、改めてサイゾウに向き直って胸を押し付けるようにしっかりと抱きつく。匂いまで嗅ぎ、ひとしきり彼の男としての気配を堪能すると、後ろで呆然と見守っていたダルイとオモイの視線を感じてか慌ててサイゾウから離れる。

 

「んんっ! ……救援、礼を言います。では改めて現状の説明をお願いします。私たちで最後、そしてあなたがここに来たということは……もしや雷影様は正気に戻られたのですか?」

 

サムイだけでなく、それは後ろの二人も気になっていることだ。そのことにサイゾウは笑みを浮かべて首肯し、自分の後ろからやってきた人物を指差す。

 

「種馬! お前マブイに変なことしとらんだろうな!!」

 

幾人かの洗脳された雲隠れの忍らを殴り倒してきたのだろう。少なくない傷を負った雷影が洞窟の入り口からやってきた。

 

「安心しろ、ま(・)だ(・)やってない」

 

「まだとはなんだ、まだとは!?」

 

やいのやいのと口喧嘩しあう雷影と火影のふたりだったが、彼らの間に割り込むようにしてダルイが跪く。

 

「雷影様……! ご無事で……! ご無事で何よりでした……!!」

 

その涙は自分の不甲斐なさゆえか。今回雷影であるエーが五影会談に赴くことは一種の反乱勢力と化していた無事な雲隠れの忍らも知っていた。否、あえて知らされていた。

 

彼らの考えは二分した。雷影を止めるべきか、それとも行かせるべきか。それがマダラを名乗る黒ゼツの狙いでもあったからだ。

 

最終的に、意思決定をしたサムイとダルイは雷影を行かせることにした。万が一、雷影が五影会談にて殺されるようなことがあればダルイを雷影として祭り上げ、残った勢力での一大決起をうながそうとサムイが考えたことでもあった。実際にはサイゾウならば何とかしてくれるのでは……そういった淡い期待がないわけでもなかったが。

 

とはいえ万が一そうなっていた場合、玉砕は間違いなかった。彼らにとって運がよかったのは、はじめからサイゾウがエーを殺すつもりでなかったことだろう。

 

彼を始末するつもりであったのならば、この救援措置すらあり得なかったかもしれないのだ。そも単純に雲隠れを敵対視しているならば、サイゾウが《天涯流星》でも使って里ごと潰してしまえばよいのだから。

 

「さて、派手に行くとするか!」

 

サイゾウは瞬時にその場にいる全員を取り込んで完成体須佐能乎を発動する。雲隠れを見下ろす巨神。今ここに、うちはの火影が現れた。

__________________________________

 

 

 

場所は変わり、雲隠れ中心にある武器庫の最奥。

 

雷影の情報を元に、ある特殊な忍具を保管した場所を木の葉の上忍三人が強襲していた。

 

「どうしたお前達ー! 青春が足りないぞーっ!」

 

無茶苦茶な理屈と共に、そのたぐいまれな筋力を更に活性化する八門遁甲によって雲隠れの忍達を凪ぎ払うのはマイト・ガイ。

 

五影会談で活躍できなかった鬱憤を晴らすと言わんばかりに、正しく縦横無尽に暴れまわっている。一応相手が洗脳されている可能性から殺してはいないが。

 

ちなみに現在は五門まで開いた状態だ。

 

先程から幾度も術の直撃を受けているのだが、小規模な術ならば強化された自慢の筋肉によって耐え、強力な術ならば手足を振るう度に発生する衝撃波によって反らすという理不尽を体現している。

 

もはや人間というより台風とでも言った方がいい蹂躙劇に、雲隠れの忍らが洗脳を解かれた後トラウマにならないかとそれを見るアスマは苦笑した。

 

「相変わらず暑苦しいな、ガイのやつ」

 

「いいじゃない。おかげで移動がスムーズよ」

 

付かず離れず、互いの隙をカバーし合いながら進むのは猿飛紅と猿飛アスマ。すでに結婚し子供もいる二人は本来ならば木の葉近辺での任務を言い渡されることが多い。

 

これは二人に限らず、既婚者や幼い子供がいる人間ほどそういった任務につかされることが多いのだ。仮に危険な任務でも、里の近辺ならば援助や救援もやりやすい。

 

そして今回立場の違う三人が請け負った任務とは、サイゾウいわく“必ずある”と断言された六道仙人の宝具の確保封印だ。

 

元々雲隠れには、八尾を封印する為に六道仙人の宝具が用いられてきた。その大半はかつて二代目雷影を暗殺した金銀兄弟によって失われたが、穢土転生を相手が用いてきたことからそれらが回収されている可能性をサイゾウをはじめとした木の葉上層部は示唆。

 

同盟を組んだとはいえ今(・)後(・)の(・)為(・)に(・)も(・)それらを回収することがアスマと紅に課された任務だった。

 

「ま、信頼してもらってるってことなんだろうけどな。だがそんな重要なモノをこの程度の警備に任せてるわけがない。本命は別だな……そうだろ、オビト」

 

両手に愛用のチャクラ刀を構えたアスマは、目的の扉の前にいつの間にか現れたオビトを睨む。

 

まるで白痴のようにぼぉっと宙を見つめるオビトだったが、彼の危険性は師でもあるサイゾウから十分に聞かされている。

 

(カカシが使っていた万華鏡写輪眼《神威》。それのオリジナルがオビトらしいからな。カカシと同じように空間ごと抉る攻撃はもちろん、自動で攻撃された部分を時空間転移させることができるらしいな。カエデさんくらい体術が出来ればそれも正面から攻略できるらしいが、それは俺と紅には無理。かといって時空間忍術で対抗するには四代目レベルの技量がいる。こっちにはそのどちらもない。……だったらまずは、時間を稼ぐ!)

 

一秒に満たない時間の思考。オビトの攻略を考えていたアスマは何気なく向けられたその瞳が万華鏡に変化したのを目視した瞬間、隣の紅を抱えて風のチャクラを纏い高速移動する。

 

そして次の瞬間、さきほどまで立っていた場所の空間が捻れ、球状に抉りとられた。

 

「疾っ!!」

 

掛け声一閃、紅を抱いていない方の手で振るわれたチャクラ刀から風の刃が発射される。

 

彼が持つ拳に嵌め込む形のチャクラ刀は、彼のチャクラが込められると性質変化によって風の刃が纏われる。兼ねてから得意としていた近接戦での立ち回り。その要となるチャクラ刀も、サイゾウが言うところの適(・)度(・)な(・)ト(・)レ(・)ー(・)ニ(・)ン(・)グ(・)によって桁違いの威力が込められるようになり、文字通りの必殺武器と化した。

 

だが分厚い鉄扉(てっぴ)すら両断する五つの風の刃も、オビトに当たる側からまるでそこに彼がいないかのようにすり抜けていく。

 

「紅」

 

「先に行け、とか言ったら後でひどいわよ」

 

「なわけあるか。……《二人羽織》で行くぞ」

 

「ふふ、いいわ。じゃああたしから仕掛けるわよ! 《八門遁甲第五・杜門》……解!!」

 

たった今神威の威力を目にしたにも関わらず、紅は八門遁甲によるチャクラの活性化によって臆さずオビトへと立ち向かっていく。

 

かつてサイゾウに師事した者。彼らは皆、八門遁甲を扱うことができる。その中でも極めることができたと言えるのはガイのみだったが、何も極めなくとも八門遁甲が強力な切り札となりうることは言うまでもない。

 

「くれ……ない……」

 

オビトはヨダレすら垂らしながら、移動する紅へと向かって次々と神威を発動し、あちこちを抉っていく。

 

かすることすら許されない怒濤の攻撃だが、紅は緩急をつけた動きと基本的な分身の術を駆使してそれらを避けていく。

 

オビトとて、万華鏡写輪眼の持ち主だ。その動体視力は桁違いに高い。更に例え意識は混濁していようと、戦うために調整された精神は躊躇なく敵対者を殺戮する。

 

しかし、そも敵が守る重要な場所にはオビトかイタチがいると考えていたサイゾウはあえて彼ら三人を向かわせた。それは対万華鏡写輪眼を見越した人選。彼らはその気になれば視線を向けられるよりも速く動くことができるからでもあり、木の葉で最強の写輪眼使いと戦った経験を豊富に持つからでもある。

 

「人妻相手に気安いわよ、オビト!!」

 

紅は影分身の術によって四人に分身、一気にオビトへと迫る。

 

「う……あ……」

 

しかしそれらの攻撃は瞬時に展開された骨の状態の須佐能乎によって凪ぎ払われ全(・)員(・)が霧散する。そう、分身はフェイク。本体である紅は最初の攻防でその姿を幻術によって隠していた。

 

確かに写輪眼は瞳術としては最強の部類だ。あらゆる動きを見切る洞察眼。相手の行動を制限する催眠眼。そして瞳術。凡そ欠点らしい欠点がないが、それこそが最大の欠点と為りうる。

 

写輪眼を持つ者が当然持つ概念。自分以上の相手はいないという常識。

 

紅はそれを逆手に取り、ほんの一秒オビトを幻術にかけた。それは近接戦で用いたならば容易く破ることができる程度のものだっただろう。だがオビトにはそれが、紅が自分の動きを紛らわしくかき乱すだけのものだと捉えていた。

 

それこそが罠。ゆえに、本来であればオビトの神威の影響下にあるはずの須佐能乎は、驚くほどにあっさりと無数の包帯に包まれていた。

 

「どうしたのかしら? ああ、どうして神威が発動できないのか不思議なのね。神威って本当に反則な能力だもの。その存在を知ってて、先生が何もしないと思う? あの用意周到に逃げ場を無くした上で相手を思う存分蹂躙する人が、ひとつやふたつの攻略方法で満足すると思う? あなたを捕らえるその布は、先生の竹遁から編み出した特殊繊維。チャクラを弾く性質を利用して、捕らえた相手のチャクラを封じる作用があるの。須佐能乎をしまうことも、大きくすることもできないでしょ? あ、そうそう。あたしがこんなに喋ってるの、時間稼ぎだから」

 

全身から展開した包帯。それは彼女が着ている服そのものに偽体させていた為、彼女は今現在半裸となっている。下着をむき出しにし、艶然とオビトを煽るその艶かしさは幻術へのきっかけにも為りうる。

 

だが紅は目の前のオビトの反応から違和感を感じとる。自分を見た上での彼の反応は無関心。嫌悪でも羞恥でもなく。彼の身に起きた異変が何かはわからないまでも、こんなちょっとしたことでも推測を立てる為の情報源にはなる。

 

(サイゾウ先生に報告することが増えたわね……さて、そろそろかしら)

 

紅の台詞が終わらない間に、オビトは須佐能乎の力で無理矢理包帯を引きちぎろうとしていた。それはそうだろう、いくらサイゾウの竹遁から作り出されたとはいえ、巨人の腕(かいな)にかかればあっさりと千切れてしまうのから。

 

だが彼女が言うとおり、時間稼ぎによって準備が間に合ったふたりの忍が動き出した。

 

「吹っ飛べ!!《風遁・旋風怒濤》!!」

 

アスマの風遁によって足元から持ち上げられたオビトと須佐能乎は錐揉み状に回転しながら空中へと舞い上がる。

 

さらにそこへ、遅れてやってきたガイが八門遁甲をさらに開く。

 

「《八門遁甲第六・景門》……解!! いくぞアスマァ!」

 

「応! 《八門遁甲第六・景門》解!」

 

共に赤黒く染まった全身を駆動させ、神威による防御を失ったオビトへと連続攻撃を与えていく。

 

木の葉流二人羽織。それは、ふたりの呼吸をぴったり同調させた完全同時攻撃。身動きできないなりに抵抗しようとするオビトだったが、超高速の一撃を繰り出す二人を前に何もできず須佐能乎が切り裂かれ或いは砕かれ破壊されていく。

 

しかしそれでもまだ須佐能乎は砕けない。

 

「固いな……よし、ガイやるぞ!」

 

「任せとけ! 《八門遁甲第七・驚門》解(かぁい)!!!」

 

爆発するように溢れ出た碧い汗が蒸発し、彼の全身は青いチャクラに似たオーラに包まれる。もはや今のガイは移動するだけで地面が捲(めく)れ爆(は)ぜる。その動きは写輪眼を持ってしても捕捉不能。

 

「はっ!」

 

空気の壁を突破するガイの超音速の一撃が次々と須佐能乎に刺さっていく。遂には砕かれる須佐能乎だったが、オビトはその場に崩れ落ちかけた不自然な体勢にも関わらず、無理矢理上体を起こして再び神威を発動させる。

 

「ぎ……!」

 

口から泡を吹き、全身から血を流しながらも発動された神威は紅を追い詰めたときを遥かに上回る直径にして十メートル近くを一息に抉る。

 

だが予想していたのか、三人はあっさりと避けて見せた。

 

『どんなに強力な忍術だろうと、発動のタイミングさえわかっていれば対応出来る』

 

そう語ったいい笑顔のサイゾウを相手にかつて修行を積んだ三人にとって、万華鏡写輪眼に頼ったオビトの戦いは無様とさえ言えた。

 

さらにガイは回避と同時にチャクラを高める。彼が放つ次の一撃で決まることを、アスマと紅の二人は語るでもなく理解した。そしてその為に必要な援護は自分達がすればいいことも理解している。

 

「〝止まりなさい〟!!」

 

「……!?」

 

紅は己が持つチャクラをそのまま精神エネルギーとしてオビトに発射。言霊を通じて彼の動きを数秒その場に釘付けにする。

 

「吠えろ青春!! 《昼虎(ひるどら)》ぁ!!」

 

続いて、ガイは現時点で自身が放てる準最強の技《昼虎》を放つ。

 

まるで印を組むかのように組み合わせた手が正面へと押し出される。ガイいわく“獣の顔”を思わせるその組まれた両掌を中心に、ガイから白虎が放たれた。

 

虎の姿を模したそれは一見しただけではチャクラの気弾にも見える技だが、実際は違う。

 

その正体は空圧正拳。一点に集中された空圧は直撃の寸前縮まり、炸裂と同時に拡散して相手を吹き飛ばす。

 

体術の極点とも言えるこの技。これを持ってしてガイはサイゾウから“背中を預けられる”一人前として認められた。

 

「……あ」

 

圧縮空気の直撃によって腕がもげ、全身の骨がばらばらに砕けるのを感じたオビトは呆気に取られたような顔をして落下していった。

 

オビトはいまだ現実を認識していない。アスマはそんなオビトを警戒するのと同時に、そんな彼を援護する者が現れやしないかと警戒し続けている。

 

だがそんなふたりの警戒も空しく、オビトは無防備に地面へと叩き落ちた。

 

「《口寄せの術》!」

 

しかしそれでもアスマは安心しない。口寄せによって猿の集団を呼び寄せ、周囲の警戒に当たらせ、自身はオビトへと近づく。

 

「ほんっと使えないねえ、おまえ」

 

突如として声が響いた。猿達も、アスマも、紅も、もちろんガイも。誰もが油断など微塵もしていなかった。

 

だが気がつけば、猿達は全員が殺され彼らの前に黒い男が立ちはだかっていた。

 

「どうもー、う(・)ち(・)は(・)マ(・)ダ(・)ラ(・)です♪」

 

明るく爽やかな声。きっと街中で後ろから語りかけたならば十人中十人が振り向くこと請け合いだが、真正面から見た場合は話が違う。

 

その顔は、言うなれば無貌。確かに眼もある、口もある、耳も鼻もある。だがそれらが合わさるとどんな顔なのか、どうしても認識することができないのだ。

 

存在感が薄いだとか、そういった話ではない。ここに来る前言われた言葉が三人の脳裏をよぎる。

 

貌(かお)がない男。

 

その意味を今、この場にいる三人は理解していた。

 

「お前が“黒ゼツ”か」

 

警戒を込めてアスマが呟けば、黒ゼツはつまらなそうにため息をつく。

 

「なんだよノリが悪いなもう。せっかくこっちが“うちはマダラ”だ! って言ってるんだから、ここは“なにぃ!? お前がうちはマダラだとお!?” とか、驚く場面だろ?」

 

「詰まんない冗談ね。それよりあたしたちはそこでぶっ倒れてる死にかけに用があるのよ。くだらないこと言いに来ただけならどいてくれない?」

 

「……うざいな、おまえ」

 

黒ゼツがそう呟いた瞬間腕がぶれる。同時に、アスマは自分が八門遁甲をな(・)ん(・)と(・)な(・)く(・)解(・)か(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)判断は間違っていなかったと確信した。

 

咄嗟に紅の前に躍り出るが、術では到底間に合わない。何を飛ばしたかすら視認できないなか、せめてもとチャクラの性質変化によって分厚く展開した風で防ぐ。

 

直接的な防御には向かない風のチャクラによる暴風壁。

 

それは夫の意地か男の矜持か。紅をズタズタに引き裂くはずだった無数の黒い千本は、ひとつ足りとて彼女に届くことはなかった。

 

──だが、アスマ自身への代償は軽くなかった。

 

「あれあれ、すごいね旦那様。今ので間違いなくその女の上半身くらいは吹っ飛んだと思ったんだけど、原型あるんだね。いやほんとすごいわ、誉めてるんだよこれマジで」

 

アスマは、その全身を防御を抜けた無数の千本に貫かれていた。威力の幾分かを殺したとはいえ、右目と首に刺さったそれは間違いなく致命傷。それを理解した紅はアスマを抱き止めるが、彼の全身からは止めどなく血が溢れ止まらない。

 

「はっはっは! 何を呆けてるんだよ。お前のせいだよ? お前が俺に生意気なこと言うのが悪いんだからさ。ああ、でも心配しないで。俺優しいから、今すぐ二人とも塵にしてあげるよ……なに?」

 

黒ゼツが何をするつもりだったのかはわからないが、ガイは咄嗟に彼が掲げた腕を掴まえていた。今だ八門遁甲は継続中。それもリスク承知の第八・死門を開いた状態に準じる第七・驚門を開いた状態だ。

 

だが、にも関わらずガイは目の前の少年とも青年とも老人とも判断がつかない男にまるで勝てる気がしなかった。

 

「冷や汗ひとつ垂らしたらもう敗けなんだよ? なんてね」

 

そう言って放たれた裏拳をかろうじて防げたのは、かつてサイゾウとの修行で培った起(・)こ(・)り(・)の(・)動(・)作(・)をガイが見逃さなかった為。

 

しかしガイはその何気ない動作によって殴り飛ばされ、分厚い武器庫の扉を吹き飛ばしてようやく停止した。

 

「は、速すぎる……!!」

 

今の一撃を直接防いだ右腕が折れていた。ガイは、飛び出した骨を腕を無理矢理引っ張ることで継ぎ治して再び構える。

 

「うひゃあ! すげえなおい、今のなんだよそれ! あっはっは、すげえ根性!」

 

腹を抱えて笑う黒ゼツ。だがガイは動けない。無防備に見えるその姿に、まるで隙を見いだせなかったからだ。

 

「……あ~笑った。あれ? 攻撃してこなかったんだ。そうだ、どうせだったら死門開いてみてよ。ひょっとしたら俺に勝てるかもしれないよ……?」

 

それは正しく悪魔の誘惑。三日月状に歪む口許を見て、ガイはそれも止む無しと覚悟を決める。

 

「……焦るなガイ、まだお前のそ(・)れ(・)を発動する時じゃないだろ」

 

「先生……!」

 

ガイの肩に手を置き、いつの間に現れたのか彼の後ろにサイゾウがいた。

 

いや、よく見ればその肩には旧鼠道人が乗っている。どうやら異変を察知して《飛雷神の術》でその場に現れたようだった。

 

「よお、三日ぶりくらいか? と言っても、お前は俺のことを覚えちゃいないんだろうけどな」

 

「そうだな、知ってはいるが覚えちゃいねえよ。あ~にしてもホントムカつく顔してんなぁ、うちはサイゾウ!」

 

再び黒ゼツの腕が振るわれ、無数の千本が飛来する。しかしそれらは焦ることなく、サイゾウの輪廻眼による重力操作によって空中で受け止められる。

 

「……ふ~ん」

 

「ノノウ、綱手。アスマを見てやってくれ。まだ生きている」

 

「わかりました。先に行きます」

 

「急に呼ばれたから何事かと思ったぞ。……サイゾウ、気を付けろよ。」

 

全身を赤く染め、必死で止血する紅の元に、旧鼠道人に導かれ木の葉から《飛雷神の術》でやってきたノノウと綱手が駆けつけていた。

 

「おい、返すぞこれ」

 

「うおっ!?」

 

サイゾウは斥力によって受け止めた千本を発射。ご丁寧に彼ひとりに刺さり尽くすように一部の軌道を敢えて変更している。

 

だが、それら千本はまるで始めからなかったかのように黒ゼツに吸収され消えてしまった。

 

「……気味の悪い体してるな。どういう構造してるんだぞれ」

 

「ん? まあ俺の自前だよ。《口寄せの術》!!」

 

「ふん、まあいい。《口寄せの術》!」

 

互いにチャクラで牽制しながら、まずは口寄せを行う。

 

黒ゼツが呼び出したのは巨大な蜘蛛。サイゾウが呼び出したのは巨大な百足。

 

口寄せされた百足と蜘蛛は睨み合うが、サイゾウと黒ゼツはそれらを無視するかのように殺気をぶつけ合う。

 

そして、次の瞬間空気が爆ぜた。

 

ぶつかり合ったのは黒ゼツとサイゾウの拳。お互いに拳が砕け、血を流している。

 

「その速さ……キサマ、ナニを取り込みやがった」

 

「おっほぉ! さすがはうちはサイゾウ! 気がついたかぁ!」

 

黒ゼツは喜びながら大蜘蛛をけしかけ、サイゾウはそれを大百足に対処させる。

 

「《八門遁甲第七・驚門、解》」

 

サイゾウは自身もまた八門遁甲を解放する。七の門まで解放するのは今の彼にとって最大級の賛辞に等しい。

 

同時にそれを見たガイは冷や汗をかく。サイゾウが本気で戦おうとしている姿など、そうそうお目にかかれるものではない。ましてや、目覚めてからのサイゾウは以前とは桁違いにパワーアップしている。

 

目覚めてから一度手合わせをしたガイだからこそ分かる。彼が本気で戦えば、この辺一帯は更地になる。

 

「先生……!!」

 

ガイの必死な叫びだったが、サイゾウは余裕をもった笑みを返す。“大丈夫だ”と。

 

言葉にはしなかったが、ガイを真似たサムズアップが、ガイの心に絶対の信頼を呼び戻した。

 

「もーいーですかー?」

 

あくまで飄々と。からかうように、嘲るように。

 

黒ゼツは相当な自信があるのか、ぶらぶらと手を振りサイゾウを挑発する。

 

「ああ、待たせて悪かったな」

 

サイゾウが完全に振り向くよりも早く、黒ゼツは突っ込んでいく。

 

(さっきの攻防ではっきりしたが、恐らく今の状態ならオレも本気を出せば互角。条件達成の為にもヤツをここで始末するか? ……いや、どうせなら持って帰るか。使い道はいくらでもあるだろう)

 

余裕。慢心。自惚れ。驕慢。

 

黒ゼツの心中を占めるのは、それら己に対する賛辞のみ。

 

しかしそれに至るだけの下地はある。黒ゼツは踏み込みながらサイゾウの一挙手一投足を見逃さぬよう構えて──何もできずに殴り返され吹き飛んだ。

 

「……ぶげっ! が、がはぁっ! こ、こんな馬鹿なっ! 見えていたのに、なぜ……!?」

 

「そりゃわからんだろうな、ド素人」

 

その言葉に見上げれば、いつの間にか目の前まで来ていたサイゾウが黒ゼツを見下ろしている。

 

「おのれぇっ!!」

 

黒ゼツは全身から土気色の触手を瀑布のごとく繰り出し、サイゾウから距離を取ろうとする。

 

「朝孔雀」

 

しかしそれらは視認することすらできない高速の拳舞によって凪ぎ払われてしまう。

 

「ちぃぃっ!!」

 

黒ゼツは攻撃を緩めない。想定外だった。これほどまでに差があるなどと。

 

触手を追加で繰り出し、さらにはそれに追随するように二つの仮面を体から産み出す。“零”と刻まれたその仮面らは触手を自分にまとわりつかせ人の形になる。

 

「滝隠れの禁術《地怨虞(じおんぐ)》でも参考にしたか? ま、無駄だがな。《抹殺の獅子獣》」

 

声を荒げることすらなく、サイゾウは両の拳でもって同時に触手人形を迎撃。大量のチャクラを打ち込むのと同時に叩き込まれた人形は共に一撃で粉砕され、再生することすらできずに塵となっていく。

 

「くそぉ! まだだ、こんなもので終わってたまるか!」

 

「いいや、終わりだ」

 

サイゾウへ向かって両手を合わせて貫手を放った黒ゼツだったが、それはあっさりとサイゾウに避けられ、腹を蹴りあげられて空中高く舞い上がっていく。

 

「がぁぁっ……! がはぁっ!!」

 

空中でもがき苦しみながら落下する黒ゼツ。なまじ生身を得ていただけにそのダメージは筆舌に尽くしがたく、まさか最強の肉体を手にいれたと思った矢先にそれを力で真正面から破られるなど想定すらしていなかった。

 

「《威装・須佐能乎》」

 

サイゾウはそんな黒ゼツへと冷めた眼を向けながら、右腕だけに須佐能乎を纏い、そこへチャクラを集中させていく。

 

あまりのチャクラに輝くサイゾウの右拳。さらに拳には彼の須佐能乎の武器である籠手が装着されていく。

 

輝くチャクラの眩さが周囲を照らし、そのチャクラに呼応して黒ゼツの全身から竹遁が発生し身動きを封じる。

 

落下する先は、サイゾウの目の前。

 

「《金剛鎚拳》!!」

 

ごぱっ、という音を発して黒ゼツは肉だったモノへと変わり果て砕け散った。あまりにもあっさりとした決着。サイゾウに至っては息切れすら起こしていない。

 

「ガイ! まだ動けるか!!」

 

「は、はい先生!」

 

正直気が抜けて倒れそうだったが、悲しいかな修行の影響か師にかけられる声に体が反応し痛む体に鞭打って気を付けしてしまう。

 

「……嘘をつくな。ひとまず休んでおけ。道人殿、アスマの容態が安定したようだから木の葉まで送ってやってくれ」

 

「うむ、任せておけ。だがそれは影分身で十分じゃな。ワシはもう少しお主に付き合うぞい」

 

旧鼠道人はサイゾウが倒した仮面の人形を見下ろしながら己の記憶を探っていた。

 

「……なるほど。零尾か」

 

「零尾? 道人殿、それは尾獣ですか?」

 

「ん? いや、厳密には違うのう。零尾とはかつて空忍の先祖が尾獣を模して作った人造兵器じゃよ。今からもう、300年ほど昔になるかのぅ……」

 

「……そうですか、詳細は後でお聞きします」

 

サイゾウはハンドサインで付近に控えていた“根”の者達を呼び寄せ、オビトを回収させる。ナナシことカカシに会わせる必要はあるだろうが、それまでに色(・)々(・)と調べておく必要はあるだろう。

 

周囲に人気がなくなったところで不意に旧鼠道人がサイゾウへと語りかける。

 

「……サイゾウ、気がついているか。お前、試されとるぞ」

 

「やはりそうですか。前回が精神世界、今度が現実世界。どちらも並みの忍なら対処することすらできない次元だったが、どうにもお粗末な結果だった。今回のアレも、やはり分裂体でしょうか……?」

 

「……わからん。観察した限りではそうとも言えるし、そうでないとも言える。じゃが絶対に気を抜くな。ただの勘じゃが、アレが死んだとは到底思えん」

 

見たこともない旧鼠道人の深刻な顔にサイゾウは眉をしかめるが、今は警戒を密にするしかない。まだ洗脳されたイタチは残っているのだし、他にも“暁”に所属する者達がいないとも限らない。

 

「やれやれ、難儀だな」

 

サイゾウはひさしぶりにタバコを取りだし深く息を吸うと、紫煙をくゆらせながら今後に思いを馳せるのだった。

 

 

__________________________________

 

 

そんなサイゾウ達の様子を遥か離れた場所から観察する複(・)数(・)の(・)黒(・)ゼ(・)ツ(・)達(・)がいた。

 

「……物理特化の零尾の人柱力でもダメか。いよいよ化け物だな」

 

「だがこれである程度底が知れた。やはり奴を足止めするには飽和攻撃以外に手段はないな」

 

「効率は悪いがそうなるか? そういえば仕込みはどうなのだ」

 

「現状で数秒ってところだな。まあ実際にはそれ以上の時間は作れるだろうが、あまり余裕があると考えない方がいいだろう」

 

すべてが違う黒ゼツから語られる言葉。しかしその容姿は微細な部分に至るまでまったく同じ。

 

そう、彼らはすべてがオリジナル。記憶と感情と野望を共有し、ただひとつの目的に向かう狂信者。

 

すべては、母(カグヤ)復活の為に。

 

彼らの計画は最終段階に入りつつあった。

 

「後は時間だけだ。なあに、これまで数百年を待ったのだ。後数年程度、瞬く間に過ぎ去るさ……」

 

外道魔像に繋がれ、自然エネルギー収集器と化した長門。

 

虚ろな顔で虚空を見つめる、腹を大きくした小南。

 

彼らの企みは未だ全貌を明かしていない。

 

“暁”に隠れた“宵闇”は、深淵の奥深くから機を窺っていた。

 

物語は、ここからである。





疲れましたわい(´・ω・`)

にしても時間がとれないぜマジで。今回のも書く時間確保するのがどんだけ大変だったか( ̄▽ ̄;)

補足とか今回はなしで。次回も一週間以内には更新します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定