ガイア本部を出た瑚太朗は、裏口の門のすぐ近くに立っている小鳥を見て舌打ちした。
「バッ……カ、あいつ……!」
しばらく身を隠せとあれほど……!
小鳥もそれはわかっているのか、瑚太朗を見て慌てるように路地裏へと逃げた。
すぐに追いかける。
「何しに来た!」
間髪入れず怒鳴ると、小鳥は怯えた顔だったが、青ざめた深刻な表情をしていた。
何かがあったのか。
瑚太朗は小鳥の腕を引いて、小鳥を隠すように覆い隠してから声を落として話した。
「何があった?」
「篝が……」
「篝がどうした!」
「言葉を……喋れなくなってる」
「……っ!」
「どうしよう、瑚太朗くん…っ」
小鳥が上着を引っ張って縋ってくるのを、呆然と見下ろした。
こうなることは想像がついていた。
篝が暴走した時に言語の一部が乱れていた。加えて長いこと放置しすぎた。あまつさえ囮にまで使った。
壊れたっておかしくはない。
だけど、実際そうなってからようやく自分のしたことを思い知ることになる。
そんな己に吐き気がした。
「篝は今どうしてる?」
「家に運んで……寝かせてる。まだ目を覚まさないけど」
「わかった。おまえは自宅に戻ってろ。しばらく居留守を使って当分外出するな。一週間くらいならおまえの家に備蓄食料が置いてある」
「うん」
「携帯だけ電源入れておけ。篝のことは……俺がなんとかする」
「なんとかって?」
「せめて意思疎通できるくらいのことはしないと。難しいがやってみる」
「……死なないで」
「バカ言うな。俺が死ぬわけないだろ。いいから行け。これ以上表をうろうろすんなよ」
小鳥を追い払ってセーフハウスへと向かった。
ちょうどガーディアンとガイアの双方への報告を済ませたばかりのタイミングだ。今しか時間が取れない。
(……殺されるかもな)
それならそれで構わない。
もう防刃チョッキも着る必要はない。どうせあの旋風が再び巻き起こればセーフハウスごと切り刻まれる。ここは森ではないのだから。
瑚太朗は覚悟を決めて玄関を開けた。
家の中はシンと静まり返っている。
暗い。明りは消したままにする。何か起きたあとで注目されるのは避けたい。
強化された目は部屋の明かりなどそもそも必要ないくらいだ。
寝室を開けると、ベッドの上に篝が横たわっていた。
「…………」
扉を閉める。
篝は息をしていないかのようにまったく気配を感じさせなかった。実際、呼吸していなかった。
「……っ!」
近寄って篝の口元に手を当てる。
微かに……本当に微かに呼吸らしきものを感じる。ただ数ミクロンというレベルだ。常人には感知できない。
生命機能を極端に抑えているのか。
おそらく限界まで防御機能を働かせたためだろう。……仕方なかったとはいえ、篝には酷なことをさせてしまった。
「俺のせいだ……」
瑚太朗は篝の傍に蹲った。
長居……彼女を選んだことがそもそも間違っていたのか。
いや、俺は篝も長居も選べなかった。ただ懼れたのは長居を見捨てることで人間性を失うこと。自分自身の保身だ。
篝を暴走させ、目的成就のためその暴走すら利用した。……これのどこに人間性があるんだ。
過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
今は篝をなんとかするのが先決だ。
「…………」
篝の頬に手を触れる。……初めて触れて、驚いた。
柔らかで滑らかな頬だった。
どこかで篝は血の代わりに不凍液でも流れていて機械みたいな肌だと思っていた。
そんなことは全然なかった。
暖かくて、柔らかくて。……まるっきり人間じゃないか。
「…………」
おそるおそる、顎から首筋、うなじへと指を滑らせる。
肌の質感も、産毛も、弾力も、すべて少女のもつそれだった。これは本当に鍵なのだろうかと疑うほど。
……人間にこれほど擬態することになんの意味が?
篝が以前言っていた生殖行為だってこれなら可能かもしれない。
「バッ……!」
何考えてるんだ。そんなこと今考えてる場合じゃ……!
口を抑えて篝から視線を逸らしたとき、篝の手が瑚太朗の袖口を掴んだ。
「え……?」
いつの間にか目を覚ましていた。
篝はジッと瑚太朗を見つめていた。
「か……篝」
どう言うべきか迷ったが結局名前しか呼べなかった。
きっとまだ状況を把握できていないのだろうと思ったそのとき。
篝が叫んだ。
「■■■■■■■■■■…っ!!!!」
理解不能な言語。
瑚太朗は瞬間的に耳を塞いだ。
(なんだ、これ……っ?!)
言葉、じゃない。何か強烈な毒素のようなものが大量に脳に送りこまれている。
(あ、頭が……割れ……っ!)
気が狂いそうになる。
篝はひっきりなしに叫んでいた。あと数秒でも聞いてしまえば間違いなく壊れてしまう。
危険。危険。危険。
能力で上書きする暇がない。危険のシグナルが高くなる。緊急措置。
瑚太朗は篝の口を塞いだ。
「…………っっ!」
開いている篝の口に舌を滑りこませる。いきなりのディープキスに篝は抵抗すらできずにいた。
瑚太朗は篝の頭を抱えこんでひたすら口づけを交わした。
自衛手段だったが、抵抗できない篝をいいことに、思うさま口内を掻き回す。舌を掬いあげ、歯列をなぞり、唾液を啜り……。
気が付けば篝の手が瑚太朗の腕を掴んでいた。
「…………」
篝の吐息がはっきりと聞こえる頃になって、ようやく口を離した。
困惑したような顔で瑚太朗を見つめている。
「篝、わかるか? 俺だ」
顔を両手で包み込んで語りかける。
なんでもいい、罵倒されてもいい、言葉が欲しかった。
まともな言葉が。
「天王寺瑚太朗だ。何か言ってくれ。頼む」
「てん……のう……こ……た……」
「そうだ!」
「天王寺……瑚太朗……」
「ああ、俺だ! 瑚太朗だ! 覚えてるよな、俺のこと?!」
「瑚太朗……!」
篝が瑚太朗を認識した途端、リボンが舞い上がった。
死を覚悟する。
だが瑚太朗に襲いかかる様子はなかった。
「篝……?」
「ひど……い……です……篝……囮……に……」
胸が激しく抉られた。
篝は瑚太朗のしたことに気付いていた。……それは当然かもしれない。
「……悪かった。殺されても文句は言えない。好きにしてくれて構わない。だけどこれだけは言わせてくれ。俺はあんたを決して裏切っていない。これはガーディアンとガイアの勢力を削るための作戦だった」
「…………」
「鍵がいるという情報をガイアにリークし、森で鍵捜索をするガイアをガーディアンが叩く。そのガーディアンの重要戦力を俺が潰す。……そういう作戦だ。だから篝にはランダムに動いてもらう必要があった。話すことができなかった」
「…………」
「怖かったよな……。本当に悪いと心から思っている。今さら謝っても仕方ないことなのは重々承知だ。だけど篝のことはずっと見ていた。魔物を通じて。携帯、ずっと持っててくれただろ?」
「知って……ました……魔物の、線……瑚太朗……繋がってるの、見え……」
「篝……っ!」
我慢できなかった。
篝を抱きしめて小さな肩に顔を埋めた。
「ごめん……! 篝、……本当に……ごめんな……っ!」
「……瑚太朗……」
「怖い思いさせて……一人にさせて……すまない、もう二度と、こんなことしない……っ!」
初めて抱く篝の身体。
とても華奢で壊れそうだった。
こんな身体で一人で彷徨わせてしまっていた。
とても許されることじゃない。
たとえ篝のためだとしても、もう……できない。
「瑚太朗……謝る……必要……ない、です……」
「篝……」
「もう……時間、あまり……ない……から……」
篝の様子がおかしかった。
言葉が流暢ではなくなっているのは仕方ないにしても、なにか……。
なにかが、おかしい。
そのなにかがわからない。
「かが……り?」
「時間……ない……です……はやく……」
「篝、どうした?!」
「瑚太朗……はやく……良い、記憶……見つけ……」
わかった。
おかしいのは声のイントネーション。
ロボットのようだった。感情がまるで感じられない声。
もともと篝は非人間性な喋り方をしていたが、それでも暴走する寸前まで、言葉に感情らしきものがあった。
あの暴走でその感情が爆発した。
もしくはエラーを起こした。
そしていま、言葉から感情が欠落してしまっている。
「……っ!」
自分のせいだ。
篝がエラーを引き起こしたのも、獲得した感情を失ってしまったのも。
どこからだ。
どこからこうなった?
少なくともあの森で篝にキスした直後は、まだこうはなっていなかった。
ならばそれ以降……森で魔物に襲われ続けてからか。
最初は自己防衛機能に任せきりでいたが、篝に襲いかかる魔物は四方八方からせめぎ合いになった。
いくらそれら全てを処理できたとしても、無数の悪意に晒された篝は。
……自ら、心をシャットダウンした。
感情の処理にとても追いつかなかったからだ。
言葉はこうして、やや荒療治とはいえ取戻したとはいえ。
これじゃいくらなんでも篝が気の毒すぎる。
(どうする……?!)
人間を理解しようと、感情まで会得した篝。その行為を無碍になどできない。
俺が治してやるしかない。
しかし、どうやって……?!
「瑚太朗……はやく……記憶……」
篝の片言の言葉にはやや焦りのようなものがあるが、しかし機械的な音声になっている。
そうか……。
(感情は、残ってるんだ)
ただそれを言葉に表出することができないだけ。
ならば言葉と感情を一致させてやれば……。
「…………篝……」
もうこれしかない。
荒療治どころか最悪な手段だ。しかし他に思い浮かばない。
殺される覚悟はできている。
篝にどう思われようと構わない。
だけど……やるしかない。
「篝、今からおまえを抱く」
篝の肩を掴んで、顔を近づけて言った。意味などわからなくていい。
わかったところでやめるつもりもなかった。
「おまえの言葉に感情を取り戻させてやるよ。これしか手段が思いつかない……最低だな、俺」
「瑚…太朗……」
「初めは痛いかもしれない。でもなるべく優しくするから。素直に身を任せてくれ。俺のすることにただ従っていればいい。篝を傷つけるようなことは絶対にしない」
「だめ……です……篝……でき、ない……」
「大丈夫、おまえ、身体は人間だよ。人間ってな、身を寄せ合う生き物なんだ。そうやって生きている」
だから、と瑚太朗は篝の額に唇を寄せて言った。
「泣いても怒っても、悦んでもいい。どんな感情でも声に出してあげてくれ。……おまえの声、好きだから」
篝の服の下に手を入れる。
その手を阻むように反射的に伸びた篝の手を、リボンを使って縛りあげた。リボンは何故か攻撃してこなかった。
瑚太朗のすることを認めてくれたかのように。
「瑚太朗……いけ、ない……」
「素直じゃないな、おまえの口は」
篝の口に吸い付く。
二度目の口づけは優しく、ゆっくりと、篝の吐息を甘くしていった。
両手を頭の上に縛りあげられ、篝は怯えた顔をしていたが、動かしたり外そうとはしなかった。
篝の一部でもあるリボンだ。その気になれば瑚太朗に襲いかかることもできるのに。
(承諾……してくれたってことか)
攻撃してこないってことは、これが篝を助ける行為なのだと理解しているのだ。
ならば……。
(せめて、気持ちよくなってくれ……頼む)
瑚太朗は祈るような気持ちで篝の服を肩から少しずつ脱がせた。
胸が露になり、息を呑む。下着は着けていなかった。それなのに形崩れなどまるでない丸みを帯びた綺麗な胸が、瑚太朗を眩暈にも似た陶酔に浸した。
貪り尽きたいのを必死に堪えてそっと手で触れる。
篝の喉が小さく震えた。
感じてくれているのだと信じたい。
手で触れ、少しずつ揉みしだく。膨れあがる突起を摘み、唇を寄せてキスを繰り返す。
愛撫の手順など瑚太朗は聞きかじりでしかない。人を愛したことなど一度もない。……だけど。
篝を愛おしむ気持ちは、今までの人生の中でおそらくこれ以上はないほど強く感じていた。
「腕……悪い。もう少しだけそのままでいてくれ」
外すと篝は無意識に抵抗してしまう。未知の接触に怯えている篝の負担を少しでも減らせればいいと思ってしたことだが。
(縛りプレイとか……最初からマニアックすぎるだろ、俺……)
苦笑しつつ篝の背中のリボンを外していく。
服の構造がいまいちよくわからなかった。上から脱がそうと思ったが、どこかにボタンとか……ない。
どこにもない。
(ど、どうやって脱がせば……?!)
考えていなかった。破くわけにもいかない。……というかこの服。
服に触れているのに、篝の反応が少しずつ高くなる。
試しにドレスの外側を優しく撫でてみる。
篝の反応が一段と高くなった。
(うそ、……だろ)
この服……篝の一部だ。
リボンと同じ性質なのだ。どういう材質なのか謎だったが、この質感はリボンと同じものだった。
絶対に破いたらダメだ。殺される。
「か、……篝」
お手上げ状態になり、情けないが直接きいてみるしかなさそうだった。
「この服……消したりとか、できないか?」
合意とはいえない性行為に篝が納得してくれていればの話だが。
篝は瑚太朗の顔を見て、ふいっと顔をそらした。
(ですよねー……)
予想していたとはいえ、協力してくれそうもない篝にしばし悩む。
……が。
諦めたそのとき、一瞬で服が消えた。
「え……っ?」
篝の裸体が露になる。目を奪われたが、それより篝の気持ちが嬉しくて、瑚太朗は泣きそうになった。
「篝……ありがとな」
唇に軽くキスし、遠慮なく身体を弄った。先ほどより強く反応している篝に、やはり素肌のほうがより効果的なのだとわかる。
うなじから肩、胸元、下腹へと少しずつ愛撫を繰り返し、時折キスも混ぜて触れていく。
リボンを外してしまいたかったが、この先のことを考えるととても外せそうもなかった。
というか、挿れた瞬間に切り刻まれるかもしれない。
(もう、それでもいい……)
情けない死に方だけど、それはそれで。
でも篝ならそんなことしない予感もしていた。
「…瑚太朗…」
初めて篝は瑚太朗に呼びかけた。まだ、声は抑揚がないけど。
喜びで瑚太朗の顔がほころびた。
「なんだ?」
愛撫の手をとめる。両手で頬を包み込んで篝の顔をジッと見つめた。
「なんでも言ってくれ、篝」
「篝を……もっと……きつく……縛って……」
篝は縋るような顔で瑚太朗に言った。
抑揚のない声だが、こめられた響きの中に懇願のようなものを感じる。
「瑚太朗……傷つけ……て……しまう……から……」
「篝……」
「お願い……です……篝では……とめられ……ない……瑚太朗……傷つけたく、ない……」
リボンの動きが少しずつささくれ立っている。
瑚太朗を敵だとみなす動きに変わっていた。
「……わかった」
篝の腕から増殖しているリボンをすべて掴むと、瑚太朗の頬に攻撃してきた。構わず篝の腕にくくりつけて何重にも巻きつけていく。
少し切り傷ができたが、痛みなど感じなかった。
「痛むか、篝?」
かなりきつく縛りつけた。仕方なかったとはいえ……。
篝は首を振って微笑んだ。
「篝……」
愛しさがこみあげる。
瑚太朗は今度こそ篝の身体に優しく触れた。
滑らかで透き通るような肌。触れるだけで神聖なものを犯している禁忌に襲われる。実際、鍵とこんな行為をした者など、歴史上に存在するかどうか。
「篝……好きだ」
言葉で塗り替えて、瑚太朗は篝に口付けしながら手を動かして感じる部位を探っていった。
(性感帯……)
必ずあるはずだ。身体は人間と変わらない。持っている知識を総動員して触れながら篝の反応を見ていく。
足を広げて膣口に指を忍ばせる。篝の喉がのけぞった。
「悪い、……少し我慢してくれ」
濡れていると期待したが、中はしっとりとしているが蜜も出ていない。緊張と恐れで縮こまっている。今すぐ挿れたい気持ちを無視して、篝に口付け、唾液を吸い上げる。
それを指に掬って膣に塗りつけた。
篝の唇がわなわなと震えていた。
「理解……できねえだろうな。傷つけたくないだけなんだ。わからなくてもいいから、力を抜いてくれ」
同じ行為を繰り返し、少しずつ篝の中を濡らしていく。最初は身じろぎした篝も、瑚太朗の指を次第に求めるように中が蠢いて、揺れてきた。
少しずつだが、瑚太朗の指を気持ちよく感じている。……嬉しかった。
足を持ち上げて付け根を撫で、胸に触れ、脇を舐める。
ありとあらゆる愛撫を繰り返していく。これでいいのかという疑問はもうどこかへ行ってしまった。
夢中だった。
ひたすら篝を気持ち良くさせたくて、抑えた吐息を感じたくて、粟立つ肌に触れたくて。
触れてみてやっとわかった。篝が人間の身体を持つ理由。ヒトを滅ぼす存在がヒトと同じ姿をしている理由。
(同じなんだ……)
星もヒトも、同じように苦しんでいる。
星はヒトに裁きを下したいわけじゃない。星も苦しんでいる。だからヒトを苦しめてしまう。
命というのはただ生きているだけで苦しいものだから。
篝とヒトは、同じものであり、同じ命だということ。
「篝……つらいか?」
準備が整った膣口に自身を押しあてると、篝は一瞬だけ怖がった。腕を押さえて、と言っている。
「うん……でも……強姦みたいな真似、したくない。……大丈夫、怖くないから、力だけ抜いて」
大丈夫、何が起きても篝になら……何されても。
少しずつ、ゆっくりと、時間をかけて奥へと進んだ。リボンの動きなど気にしなかった。ただひたすら、苦しそうに喘ぐ篝を見ていた。
何かが破れた感覚がした。……こんなものまであるなんて。瑚太朗は目を見開いた。
あとはもう突き進むだけ。熱い。狭い。溶けてしまいそうなほど気持ちいい。
でも篝を気持ちよくさせるほうが先だ。
一番奥で動きをとめると、篝が苦しそうに息を吐いた。
「瑚太朗……こわい、です……」
「大丈夫、怖くない」
「攻撃……して……しまう……」
「痛みは?」
「……もう、あまり……」
「しばらくこのままでいよう。馴染んだら……動く。だからそれまで我慢してくれ」
「だめ……だめ……です……」
「泣くな。俺は死なない。篝……言葉……少しずつ戻ってきてるよ」
「え……」
「感情がだんだん込められてきている。……泣き声ってのが、ちょっとな。あれだけど。ごめんな。俺のせいでこんな声にさせちまって」
「瑚太朗……」
「少し無駄話でもしようか。……あー、そっか。そういやこれ、褒美とか言ってたっけ。最悪とか枕詞つけられてちょっと傷ついたけど」
「最悪……です……」
「……まだそれ改めてもらえてなかったか。まあいいや。俺は最高だから。人生で一番、最高だ」
「……頭、おかしい……です……」
「いや、その……そうはっきり言われると……すいません、としか。褒美、先にもらっちまったけど、その分頑張るからさ。その、……そんな落ち込むな」
「だいたい……瑚太朗の……せい……」
「はい、仰るとおりです。いちいちご尤もです。……わかってる。俺がバカだった。もう迷わないって決めた」
「…………」
「篝のために生きるよ。思えば最初からそうだったんだ。ずいぶん回り道してしまった気もする。空回りばかりしていたような気も……。俺は自分のことすらよく見えていないやつだ。だけどおまえに出会って、出会うことができて、良かった。奇跡みたいなものだ」
「瑚太朗……」
「篝……おまえにどうしようもなく惹かれている。魂から、そう思う。だからもう迷ったりしない。すべてを捨ててでもこの星を守るよ。……おまえを守るよ」
篝の中が少しだけ動いた。
誘っているようで嬉しくなる。瑚太朗は篝の顔を覗きこんで言った。
「少し……激しいけど、いいか?」
こくん、と篝は頷いた。
瑚太朗は篝の腰を抱いて初めはゆっくりと、だが次第に遠慮なく、篝の中で暴れていった。
枕も、シーツも、酷い惨状になっていた。
瑚太朗の血が飛び散っていた。縛ったリボンの隙間から増殖したリボンが何度も瑚太朗に襲いかかる。しかし瑚太朗はやめようとはしなかった。
「……っ」
「瑚太朗…っ!」
首筋をかすったリボンが瑚太朗の頚動脈を切ろうとしたが、寸ででかわす。次第に動きは掴めてきた。
再びリボンを掴みベッドの端に括りつけた。
「たく、この……興奮すんな!」
瑚太朗にとってはリボンの動きなど戯れのようなものだった。
身体の下で快楽に身悶えている篝に比べれば。
「瑚太朗、首……首から……」
心配そうに見ている篝に、微笑んで頬に手を当て唇を寄せた。
「平気。……服着たまましたのは失敗だったな。もうこれ使いもんにならねえわ。脱ぐから、ちょっと待って」
血塗れのシャツを脱いで床に捨てる。
よく見るとあちこちの切り傷が少しずつ塞がっていた。先ほどから瑚太朗は汚染系能力を使って治癒能力を高めていた。多少の傷では痛みなど感じない。
「…………」
「な? 平気だろ。心配すんな、大丈夫だ」
……実は背中のほうが酷い。
それを篝に知られたくなくて今まで服を脱がなかった。
篝に心配させたくなくて脱いだけれど……こうなったら背中を見せずにやるしか。
それにだいぶ篝の悦いところがわかってきた。
この分だともう一回くらいできそうな気がする。
「…瑚太朗…」
「悪いな、血だらけになっちまって。あとでちゃんと拭いてやるからもうちょっと我慢な」
「もう……やめて……お願い……」
「いやだ」
「瑚太朗!」
「…あ。いま完全に声戻った。戻ったよ、篝」
「…っ! バカ……ですか……あなたは……」
「男ってのは恋するとバカになるんだよ」
篝の膣内をかき回す。
もうすっかり瑚太朗の大きさに馴染んだ中は、今は導くようにしきりと蠕動を繰り返していた。
奥に出した瑚太朗の熱い飛沫も、掻き回され、混ぜられ、今では潤滑油みたいになっている。
(まだ、足りない……)
もっと篝の中で出したかった。
篝が求めているのを感じていた。瑚太朗を欲しがってしきりと足を動かしている。
娼婦のような動きだとは思わなかった。
本来、動物とはこうやって交合するものなのだ。
「篝……」
泣きべそをかいている篝の涙を掬い取り、足を持ち上げて奥の入り口をこじ開けるように突いた。
「んっ、……ぅうっ」
「痛い?」
「……っっ」
「痛くないみたいだな」
「ちがっ……っ、……っ、苦し……っ」
「それは苦しいんじゃなくて、悦いってことだよ」
「……?」
「まだ覚えてないか……。このリボンにもそう記録してやってくれ。篝がいま感じてるのは、快楽だよ」
「快……楽……」
「人間が覚える最も原始的な感情のひとつだ」
感情、とは意味が少し異なるかもしれないが。
「痛みと苦しさを悦びに変える手段だよ。そうやって人は繁殖してきたんだ」
「篝……も……できます、か……?」
「できるさ。身体は人間そのものだから。……まあ、できても……」
意味はないかもしれないが。
「悦い、って……言ってくれないか」
別に卑猥な言葉を聞きたいとか、そういうのではなかった。
ただ感じたことを素直に口に出して欲しかった。
篝は戸惑いつつも、瑚太朗に語りかける。
「悦い……です……気持ち、いい……」
「……っ!」
瑚太朗は一気に自身が膨れあがるのを感じた。
そのまま勢いをつけて内部を抉る。乱暴な挿入に篝の眉がしかむ。リボンが再び腕から伸びてきた。構うものか。
頬をかすめる攻撃をかわしながら、突いて、掻き回して、回転させる。
自分でもこんなふうに動けるなんて知らなかった。
腰を抱えながら篝の乳首に吸い付く。あがる小さな悲鳴が興奮剤になってさらに強引に押し込める。
篝を壊したくないと思うのに、やってることは壊そうとしていることと変わらない。
だが次第にリボンの動きにキレがなくなってきた。……というか完全におさまった。
(なんだ……?)
むしろ篝の手からするすると離れてベッドから垂れ下がっていく。完全に攻撃モードではなくなった。
篝は自由になった腕を瑚太朗の背中に回した。
「お、おい」
「ごめんな……さい……背中……」
「いいって」
「もっと……強く……抱いて……くださ……」
「ああ。しっかりつかまってろ」
篝の二の腕にキスをして、まとわりつく篝の両足に勢いを取り戻す。
結局そのあと二回抜くまで、瑚太朗は篝と繋がっていた。
小鳥にメールしたのは真夜中だった。
件名:無事だ
『篝が治った。多少言葉がぎこちないから、おまえ今度見て調べてくれ』
そっけないメールだがこれで通じるだろう。
消毒薬をつけながら携帯を放り投げると、ブブブブ……と振動が鳴る。
着信だ。
……めんどくさい。
無視だ、無視。
と思ったら、今度はメール着信のバイブが鳴った。
はあ、とため息をついて携帯を拾った。
RE:無事だ
『怪我とかしてない?! 生きてるの?!』
見るんじゃなかった。
死んでたらメールなんて出来るか。
しかしまた着信がありそうな予感がして、仕方なく返事を送った。
RE:RE:無事だ
『俺は無事だ。それより篝を調べに来い、明日にでも』
携帯の電源を切る。
これ以上構うのが面倒だった。
小鳥が来る前にこの部屋の惨状をなんとかするのが先か……。
と見渡して、ベッドばかりではなく壁にも床にも血が飛び散っているのを見て、げんなりした。
このセーフハウスは捨てたほうがいいかもしれない。
ここまで汚れてしまうともう無理だ。専門家でもないと落とせそうもない。
寝室はとりあえず封印しよう。
篝を抱きかかえて客間へと運ぶ。
「…………」
汚れた篝の身体を綺麗にすると、いつの間にか服が現れていた。そしてリボンはふわふわ漂っていて、もう完全に友好モード。
とりあえず瑚太朗を味方とみなしてくれたらしい。
というより、このリボンは篝の感情にとても敏感のようだった。
行為の途中で攻撃がやんだのも、快楽という言葉を教えた後のことだった。
(つまりあのときまで……気持ちよくなかったと)
多少ショックだが、まあそれは仕方ない。
これから少しずつ教えていけばいいだけの話だ。
「これから……出来るのかね」
難しいかもしれない。
おそらく今後寝る暇もないくらい忙しくなる。収穫祭まであと二週間。要人略取の計画もあると今宮は言っていた。ガーディアン側の動きも気になるが、ガイアの動向も……。
客間のベッドに篝を下ろし、眠っている篝の髪にそっと触れた。
篝からは森の香りがしていた。
濃密な、草木の香り。決して癒されるとかではないけれど、彼女に触れるだけで鬱蒼とした森の中にいるような気持ちになる。
森から生まれた、星の化身。
なんだか自分はとんでもない存在と契りを交わしたのではないだろうか。
「いや、そうなんだって……」
とても恐れ多くてもう手など出せない。
せいぜいこうやって見守ることくらいしか……。
そのとき。
篝の手が宙をさまよった。
「篝?」
寝ぼけたまま手を上にあげる篝に、両手で包み込んでやった。
篝は手で何かを掴もうと、必死に動かしている。
「…………」
夢を……見ているのだろうか。
見果てぬ夢を。
そのために自分が出来ること。
「待っていてくれ、篝……」
この闘争を終わらせてやる。
篝の手を両手でぎゅっと握りしめて、瑚太朗は信徒のようにベッドに傅いた。
天使音階〜崩壊序曲へと話が繋がっていきます。ここから連載形式となります。
以後、Terraルートの改変となりますのでご了承ください。
まあ、こんな展開、完全にありえないですけど。
かなりオリジナルにしてしまいました。今後もそうなっていきます。むしろそうしたい。
原作を否定するつもりは毛頭ありません。
ですが、こういう終わり方もありなんじゃないかと思って書いてみました。
はい。エンディングを変える予定です。
まだ未完状態ですが、できる限り続けていきたいと思います。