フェイト相手ではなく、モブ兵士とかシェルビーとかアーリグリフ相手で。
「これが噂の温泉…中々の広さですね」
湯煙の中、穏やかな声がほんのりと響く。アーリグリフも本格的な冬に入り、ここ、カルサア近くでも積雪のみられる季節となった。シーハーツとアーリグリフの和平がなってもう一年ほどになるか。感慨深げに雪の降る空を見ながら、銀髪の女性は桶に入れた湯をざぁ、っとかぶる。湯気にあわせて、玉の肌に雫が滴る。
「本当はみんなと来る予定だったけれども…」
今回のアーリグリフへの用向きは、カルサア修練場の視察である。不愛想な尻尾の生えたプリンの態度を除けば、特に不快に思わされることはない。同行のタイネーブやファリンは既に何度かこちらに足を運んでいたため、「漆黒」の兵たちにもなじんでいた。ファリン曰く、こうした視察では皆が浮足立つものらしいが、今日は一段とひどかった、ということらしい。
「クレア様とネル様は、アーリグリフでも人気ですからぁ」
などと間延びした発音でファリンは言ってはいたが、本当かどうかは疑わしい。この温泉のことは彼女たちからも聞いていたので、楽しみにしていたのだが、仕事に邪魔をされて、皆と一緒に入るには時間がつかなかったのである。
「ふぅ…」
立ち込める湯気に囲まれながら、湯の中でうんと足を延ばす。こういうことが出来るのも、温泉ならでは、である。皆と賑やかにお風呂を楽しむのもいいけれども、雪景色に風情を感じつつ一人温まるのもいい。仕事に追われがちな自分を自覚している分、そう感じていた。月をぼんやりと眺めながら、温泉をゆっくりと自らにかけるようにすると、体がじわじわと温まってくる。
「はぁ…いいなぁ…」
口からついて出るのは、ほんのりとした羨望の想い。最近、シーハーツ六師団で恋人が出来たという団員も多い。こうしてアーリグリフと親交を結び、互いの軍の交流が活発になったことで、わだかまりも減ってきていることもあり、国を超えたカップル、なんていうのもそこそこ見受けられるようになってきた。無二の親友にも最近何かとあてられることが多い。別に独り身がいや、とか、行き遅れるとかそういうわけではなく、単純にうらやましいと思う。軍司令とはいえ、女である自分を意識することはある。一人で自分を慰める夜も少ないというわけではない。そんなことに思いをはせていると、温泉の暖かさとは別の意味で体の芯が火照ってくる。手拭いを持つ指をゆっくりと想いに任せて自らの胸元に寄せようとする。が、そんな想念を打ち破る音が、少し離れた場所から聞こえた。
というわけで、クレアさんを題材に少し書いてみようかなと。
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