レースが終わった後、女たちはまた牢屋に戻されていた。ビアンカもタバサも一緒に鎖に繋がれている。
どの女も尻は叩かれて赤くなり、膝や膝は擦り剝け、まさに満身創痍である。
「ママ……すっごい気持ちよかったね。新しいプレイに目覚めちゃったかも……」
タバサはツヤツヤとした顔で満足げにしている。あれだけモンスターに尻を叩かれバックから滅茶苦茶にされておいて、タバサに限ってはあの凌辱レースを楽しんでいたようだった。
「……タバサ、あなたが傷ついていないのは良かったわ。でもママはあのレースはこりごりよ」
ビアンカはタバサの無軌道な淫乱ぶりにため息をつく。
「あんた、レースで優勝しちゃったんだな……イブール2世の見世物にされるみたいだね。可哀そうに」
同じ牢屋内に繋がれている茶髪の筋肉質な女が、ビアンカを心配そうな顔で見つめていた。おそらくこの肉体の鍛錬度から見るに、戦士を生業としているのだろう。
「俺は、ここの教祖と戦って負けてここに来たんだ。俺はそもそも教団に攫われた女たちを救助するクエストを受けてね。奴隷に見せかけてうまく神殿に忍び込んでいろいろ調査していたんだが、バレてコテンパンにやられちまってさ。俺は生き残ったけど奴隷として見世物にされてるのさ。あのイブール2世ってのは恐ろしいやつだよ」
「恐ろしいってどんなやつなの?」
タバサは首を傾げ、尋ねる。
「二本足で歩くでかい爬虫類みたいなモンスターで、似合わないローブを纏っていたな。俺のパーティがやつと戦ったけど、いままで戦ったどんなモンスターより強かった。やつの魔法に俺たちは終始押されっぱなしだった。教祖は最後に大きな火の玉をふたつ同時に放ってきたんだ。一緒にいた相棒は一瞬で消し炭さ。それで戦意を挫かれて捕まっちまったんだ」
よほど恐ろしい体験だったのだろう。 女戦士は手が震えている。
「ひどい教団だよ。偉そうな神殿を作って表向きは宗教めいたこともしてるけど、この闘技場でモンスターたちは酒とセックスと暴力に溺れているのさ。酒池肉林ってやつだよ」
ビアンカは戦慄する。魔王ミルドラースを倒し、平和を取り戻したはずだったが、このような恐ろしい教団がのさばっているとは。
「ママ、イブール2世ってイブールの息子なのかしら? 2つの火球を操るって言ってたけど、イブールはそんな魔法は使ってなかったわ。2世って親のイブールより、もっと強いのかも」
タバサは不安げにビアンカに囁く。イブールより強いとなれば、もし自分たちの正体がバレて始末されるとなった時に、2人だけでイブール2世を倒せるのだろうか。
「そうね。今、イブール2世とは直接ぶつかるのは良くないわね。まずブヒオを助けて、脱出した後にイブール2世にどう立ち向かうか考えましょう……これは世界の危機かも」
ビアンカは自分がまた見世物にされることやブヒオの安否、さらには世界の命運のことまで考え、牢屋の中で眠れぬ夜を過ごした。
翌日昼過ぎ、蛇手男がまた牢屋にやってきた。そしてビアンカの鎖を解く。
「おい、ぱふぱふママさんよ。今日はお前が主役だぞ。それは醜いモンスターと交尾させてやるからな。興奮するぜ」
蛇手男の股間は隆起している。ビアンカとタバサに犬をけしかけるなど、女が醜い生き物と交尾することがこの上なく好きなようだった。なんと酷薄なモンスターだろうか。
「他の女たちも砂被りで見物させてやるぜ。女が周りに居た方が、華やかで見栄えがいいからな。イブール2世様もお喜びになるだろう」
『醜いモンスター』と聞いてビアンカは微かに希望を抱く。もしかしたら、ブヒオが連れてこられるかもしれない。前に交尾ショーでブヒオと思しきオークが出演していたことを聞いたからだ。
ビアンカたちは、昨日レースを行った闘技場にまた連れてこられる。昨日あったトラックは取り去られており、代わりに中央に大きな杭が2本立っていた。
また観覧席の中央に、御簾が備えつかられていた。大柄なシルエットが見えるが、顔までは見えない。この者がイブール2世という教祖なのだろう。
蛇手男はごほん、と咳払いをして声を張り上げ満場のモンスターらにはっきりと聞こえるように口上を述べ始めた。
「皆さま、本日ご覧いただくのは、昨日のレースの優勝者がとんでもない醜いモンスターに蹂躙されるショーでございます。酷く犯され、ひょっとしたら死んでしまうかもしれません!」
死んだら食ってやるよぉ!と観客席から野次が飛び、満場のモンスターたちはどっと笑う。
「そして、今日はイブール2世様が直々に観覧されるショーでございます! 皆さまイブール2世様に盛大な拍手を!」
モンスターたちの怒号にも似た歓声と、拍手が鳴り響く。四足歩行で拍手が出来ないモンスターはどしどしと足を鳴らす。
御簾に浮かぶシルエットが、動く。片手を挙げてモンスターたちの歓声に応えているようだ。
「それでは今日、女を犯す最低最悪のモンスターの入場です!」
最低最悪、と銘打たれ引きずり出されるように闘技場に入場してきたのは、ビアンカが命を懸けて探していたオークのブヒオだった。
ブヒオは首輪を付けられ、それ以外は一糸まとわぬ姿であった。顔は憔悴しきっている。さぞ無体な扱いをされてきたのであろう。
スモールグールがブヒオの首輪に付けられた鎖を強引に引き、その度にブヒオは前につんのめるように歩みを進める。
モンスターたちはブヒオを見てどっと笑っている。顔に大きなあざがある醜い顔貌を笑いっているのだろうか。同胞であるはずのモンスターのブヒオを、明らかに嘲っている。あろうことか、石のかけらを投げつけるものもいる。何という無慈悲な扱いなのだろう。
ビアンカの頰に涙が伝う。その涙の意味は、ブヒオが生きていたことに対する安堵、そしてその無残な扱いに対する悲しみだった。
ブヒオはついに闘技場の中央に連れて来られる。
「労務に向かないお前に交尾ショーで活躍するチャンスをやったんだ。今回上手く女を犯せなきゃ、お前、分かってるな?」
蛇手男の、両手に生えている蛇の口が同時にパカパカと動く。殺して喰らうというジェスチャーなのだろうか。
その脅しを分かったのか分からないのか判然としない様子でブヒオは下を向いている。
「へっ、もう抜け殻じゃねえか。こりゃダメかもな。まあ醜いオークの処刑ショーってのも悪くないか。お前、脂が乗ってて美味そうだしな……それでは交尾ショー始めっ!」
蛇手男が開始を宣言すると同時に、銅鑼が鳴る。
ビアンカとブヒオは闘技場中央に立てられた杭に鎖を繋がれ、お互い鎖を伸ばせば触れることができる距離に相対する。
ビアンカは堪らず声をかける。
「ブヒオ、私よっ! あなたの妻、ビアンカよっ!」
ブヒオは電撃が走ったように顔を上げる。
「ブヒッ、ビ、ビアンカ……」
ビアンカの姿を見たブヒオは、呆然と見つめた後、おいおいと泣き崩れた。
「ブヒッ、ビアンカ、オデが悪かったブヒ……罰が当たったブヒ……オデたちの子どもがせっかくできたのに、殺そうとしたブヒ……」
大粒の涙をぼろぼろと流すブヒオ。ビアンカはその涙をそっと手でぬぐい、ブヒオの分厚い唇にそっとキスをする。
「わたしたちの息子は無事よ。しっかり育ってるわ。ブヒックスって名前にしたの。ここから帰ったら抱きしめてあげて」
「ブヒックス……?もしかして、オデから名前を取ってくれたブヒか……ビアンカ……!!」
ブヒオはビアンカをぎゅっと抱きしめ、またぼろぼろと涙をこぼす。
「あなた……!」
ビアンカもつられてまた涙を流す。
そしてふたりは抱き合ったまま見つめ合い、またキスをする。
「ここでのことが終わったら、ブヒックスを迎えに行きましょう。オラクルベリーの知り合いに預けているのよ」
「新婚旅行で行った街ブヒ! また生きてビアンカとあの街に行けるブヒ……」
ビアンカも、またあの街にブヒオと行けることに胸がいっぱいになる。しかしカジノには行きたくない。スライムレースを見てしまうと、先日強制的に馬役をやらされたモンスター競馬を思い出してしまうからだ。
ビアンカは自分の腹に当たっている熱く硬いモノに気づく。
「こ、こんなに大勢のモンスターに見られてるのにゴメンブヒ……!でも 久しぶりで堪らないブヒ……!」
ブヒオの太い下肢のつけ根から、肉の柱が毛の中からせりあがっている。禁欲生活が長かったブヒオは、愛するビアンカの柔らかい裸体に触れて体が反応してしまったらしい。
「わたしも興奮してるわ、ブヒオ。ホラ❤︎」
ビアンカはブヒオの手を取り、ブヒオのゴツゴツとした手を自らの秘部に触らせる。ビアンカの秘部は、蜜壺と変化しており愛液で溢れていた。
「愛する人と久しぶりにキスしたもの。感じちゃうわ」
「ブヒッ、ビアンカ……オデも愛してるブヒッ! こんな状況なのに止まらないブヒッ! ビアンカが欲しいブヒッ!」
「いいわよ、ブヒオ。久しぶりにわたしを愛して。たくさん可愛がって。あなたを虐めていたモンスターたちに見せつけちゃいましょう」
ブヒオを助けることができた今、この交尾ショーに付き合う義理はないはずであった。しかし、ビアンカはこの愛なき交尾ショーを楽しむモンスターに、自分たちの愛を見せつけてやりたかったのだろうか。ブヒオの性欲も抑えが効かないこともあり、なんとそのまま交尾ショーを続ける。
ビアンカはブヒオを強く抱きしめ、ブヒオの口に舌を入れる。そして激しく舌を絡ませる。
ブヒオも負けじと舌を動かしまくる。ベロベロベチョベチョといやらしい音が響く。
「ああっ、ブヒオッ、愛してるっ♥ 愛してるわっ♥」
「ビ、ビアンカッ、好きブヒッ! もう離さないブヒッ! このデカ乳もデカ尻もオデのものブヒッ!」
ブヒオは大きな舌でビアンカの豊かな乳房や尻を舐め回す。チュパチュパ音を立ててビアンカの性感帯を責め立てるたび、ビアンカは体をのけぞらす。
「ああんっ、そう、ビアンカはあなたのものよっ、もう離さないでっ♥」
ビアンカはブヒオの百裂舐めに喘ぎながら、自らもブヒオの体にキスをし、舌を這わせる。
「ああっ、こんなに傷ついて、こんなに汚れて……わたしが舐めて綺麗にしてあげるわ」
ビアンカはブヒオの体中にある傷を優しく嘗め回す。背中、肩、胸、そして臀部、陰茎と睾丸まで。
「ああ、汚れててすごくエッチな匂いがするわ……♥」
据えた匂いがするにもかかわらず、お構いなしに睾丸にキスをし、嘗め回すビアンカ。そのたびにブヒオは、ブヒッ、ブッヒョッと気持ちよさそうな声を出す。
「相変わらずすごく大きなおちんちんね♥ ああ、これからこれで愛してもらうのね……」
ビアンカは最初に鈴口にキスをして、それからブヒオの陰茎全体にキスを浴びせかける。たまらずカウパー腺液がにじみ出る。
「ふふ……気持ちいいんだ♥ じゃあこれはどう?」
ビアンカは一気にブヒオの巨チンを口いっぱいに頬張る。そして首を大きく振り、グッポングッポンと卑猥な音を立てながらブヒオのペニスを口で愛撫する。
「ビ、ビアンカッ、たまらんブヒッ!」
ブヒオの巨大なペニスがビクビクッと収縮し、ビアンカの口の中に精液をぶちまける。
「ああっ♥ すっごい濃いのがたくさん♥」
ビアンカは愛おしそうに特濃ザーメンをごくりと飲み干す。そして、ビアンカは顔に飛散したザーメンを指でぬぐい集め、一滴も残さぬように口で咀嚼し嚥下する。
「ビアンカッ! ビアンカッ!」
ブヒオは気をやったばかりにもかかわらず、ビアンカの名前を連呼しながら、今度は太い舌をビアンカの膣内に滑りこませ、ズポズポと陰茎を出し入れするが如く動かす。
「ああ、ブヒオッ♥ ブヒオの舌凄いわっ♥」
ビアンカの蜜壺をほじくり返しているうちに、またブヒオの陰茎が固さを取り戻す。
「ビ、ビアンカ、ハメるブヒッ! オデたちの二人目の子どもを産ましてやるブヒッ!」
「ああんっ、来てっ♥ 産ませてっ♥ あなたの赤ちゃんまた産んじゃうんだからっ♥」
『ズニュウゥゥッッッ!!』
ブヒオはビアンカの膣に一気にペニスを突き立てる。
ブヒオのペニスは、鞘に納められた剣のように、ぴったりとビアンカの膣に吸い込まれる。
「すっごい、ブヒオのおちんちん、気持ちよすぎるっ♥ あぐぅっ♥♥」
一突きでアクメを決めるビアンカ。
「もっと愛するブヒッ! もっとイカせるブヒッ!! オデの嫁さんブヒッ!!」
「ああっ、またイクッ♥ ブヒオのおちんちんが中で動くとすぐいっちゃうっ♥」
正常位で抱き合いながら、ベチョベチョとよだれまみれの濃厚なキスを交わし、性器で激しく繋がる美しい女と醜いオーク。
「もう出るブヒッ! ほら、イキながらオデの赤んぼ孕むブヒッ!」
ことさら深くブヒオは腰を打ちつける。
『ドピュウッ、ドピュドピュッ!!』
一度射精したというのにさらに濃い精液がビアンカの膣内にぶちまけられる。
ビアンカもまた絶頂に達しているのか、快楽に緩んだ顔を見せながら体を細かく痙攣させている。
下半身で繋がりながら、イキながらもディープキスを交わすふたり。このふたりが本当の夫婦ではなくて何なのだろうか。
二度も射精した後も、性交は終わらなかった。衆人環視のもと、首輪をはめたまま愛し合い続けるビアンカとブヒオ。
お互いにうるんだ瞳で抱擁しながら、キスを交わしている。
期待していた凌辱ショーとは違った展開に観客席がざわつき始める。
「ハハ、なんじゃありゃあ……」
「つまんねえなぁ、ブチ犯すんじゃなかったのかよ」
闘技場の中央で、まるで人間の女と、とりわけ醜いオークが愛し合っているように激しく深いキスをしているのだ。拍子抜けもさもありなんである。
モンスターが人間の女と交わう時、それは決まって強姦の形を取る。モンスターが嫌がる女をぶちのめし、無理やりペニスを挿入して欲望を満たす。それ以外の交わいの形、今繰り広げれられているような愛に満ちたセックスなどあり得るのだろうか。
モンスターたちは毒気を抜かれ、さきほどの狂乱騒ぎは去り、嘘のように静まりかえってしまった。
「何やってるんだよっ! お前はオークのくせに、まともに女も犯せないのかっ!? 夫婦みたいなアッツアツなセックスしやがって。そういうんじゃないんだよっ! えっぐい凌辱が見たいんだよっ!!」
金切り声が闘技場に響く。イブール2世が御簾をかき分け、姿を現した。ワニのような鱗で覆われた異様な顔貌をもつモンスターが、赤や紫色で彩られた派手なローブに身を包み、身長より大きな黄金の杖を持って人間の司祭のように直立歩行している。
「さすが2世……イブールそっくりね」
タバサは醜い爬虫類のような教祖の姿を思い出す。まさしく光の教団教祖イブールに生き写しである。
「まったく興が醒めたわ。お前らは用済みだ。消し炭になれっ、ダブル・メラミッ!!」
イブール2世は天を支えるような恰好で、両手を空に掲げる。ふたつの大きな火球がみるみる両掌から生み出される。
「あ、あれだよ、俺の仲間たちがやられたのは……」
亜麻色の髪をした女戦士の顔色が青ざめる。
「そっか、前に言っていた教祖の技って、ふたつのメラミを同時に放つ呪文なのね……でも心配しなくていいと思う。ママならあれくらいのもの、わけないだろうから」
タバサは女戦士の狼狽ぶりを傍目に、全く動じていない。
イブール2世の掌から放たれたふたつの火球は、ビアンカとブヒオに向けて放たれ、あわやぶつかりそうになる。
ビアンカはふわりと軽く右手を振る。するとイブール2世が放った火球よりさらに大きな火球が放たれ、イブール2世の火球にぶつかりズドンと大きな音を立てて、火球は相殺され消え去ってしまった。
「わ、わたしのダブル・メラミを打ち消すとは……少し弱いメラゾーマくらいの威力を持つ技だぞ。今、お前が唱えた呪文は、メラゾーマだろう。なぜ、人間の奴隷風情がそんな呪文を使えるのだ……!?」
ビアンカはかぶりを振る。
「何言っているの? 今のはメラゾーマじゃないわ。メラよ」
ありえない言葉に、イブール2世の顔が歪む。
「な、なんだって? い、今のがメラ? そ、そんな威力じゃあなかったぞ。どんな魔力を持ってたらあんなメラになるんだよ!?」
イブール2世は焦って問いただす。イブール2世はその中途半端な魔力で、メラミを同時に作ることで辛うじてメラゾーマ級の火球を作り出していた。地上の低レベルなモンスターや人間には無双できる実力はあったが、魔王ミルドラースを倒した魔法使いであるビアンカに比べれば、カスである。
「わたしのメラゾーマはこうよ!」
ビアンカは片手を天に向かって突き出す。イブール2世の作った火球の10倍以上の大きさの火球が生み出される。
「長年の魔術研究で会得した、魔王が使うとされるメラゾーマ。またの名を『カイザーフェニックス』!」
火球は球体から姿を変え、その名の通りフェニックスのような形になる。
まるで怪鳥音のような金切り音を出し、火炎はイブール2世の方へ飛んでいく。
「ひ、ひいっ……!」
イブール2世は思わず目をつむり頭を手で抱えるように伏せる。
直撃寸前で不死鳥様の火炎は軌道を変え、イブール2世の頭上にある丈夫な石塔に直撃する。火炎と音が爆ぜる。
火炎とともに、塔は跡形もなく消え去っていた。
あまりの魔力の差に、戦意が萎えたイブール2世の体から力が抜けて、へたりと尻餅をつく。
「あなた本当にイブールの息子なの? イブールより全然弱いと思うんだけど」
タバサが呆然としているイブール2世に畳み掛ける。
イブール2世は震えながら杖を取り落す。同時にぐにゃりとイブール2世の輪郭が歪む。
イブール2世の姿は、奇異な仮面を被ったローブを身につけた小男へと姿を変える。イブール2世の正体は魔界に住むモンスター、悪魔神官であった。
悪魔神官は、顔を地面に擦り付けるようにひれ伏した。
「わ、わたくし、実は、魔界にある街、ジャハンナのただの武器屋の息子なんですっ! 地上で酒池肉林を満喫するために、前教祖イブール息子を騙り、光の教団を再興し、もっともらしい理由を付けては見世物を開催しておりました……。は、反省しております! 魔界に帰って武器屋の丁稚からやり直します……!い、命だけは獲らないでくださいぃ……」
哀れにも命乞いをする自称イブール2世の悪魔神官。
「……わたしはブヒオが戻ればそれでいいの。わたしはあなたをどうこうしようとは思っていないわ」
「……そ、それでは、お許しくださるということで?」
恐る恐るビアンカの意図を読み取ろうとする悪魔神官。
「わたしは許します。でも今まであなたに騙されていたモンスターたちは許すかしら?」
ハッと悪魔神官は周囲を見渡す。今までさんざん騙し、使いっぱしりにしていたモンスターたちが自分を殺意に満ちた表情で一斉に見ていることに気づく。
「お、お前たち、なんて目でわたしを見ているのだ。確かに騙して、労務や奴隷狩りを手伝わせてしまったが、今日みたいにショーを開いて楽しませてやったろう? 女を犯して気持ちよかったはずだ。わたしだけが悪いというのかっ……!」
モンスターたちは爪や牙を剥き出しにして、臨戦態勢で悪魔神官ににじり寄る。
「わ、わかった、お前たち、今までの労に報いて財宝を分け与えよう……! それで、わ、わたしはもう教祖は辞めるから、今までのことは無かったことにしてだな……」
しどろもどろに言い訳をする悪魔神官。しかしモンスターたちは止まらない。
悪魔神官の隣で警備していたリザードマンが、剣で悪魔神官の顔面を切り裂いた。
「ぎゃっ! お前、何をするっ……!?」
悪魔神官は切りつけられた顔面を両手でかばい、体勢が崩れる。
それをきっかけとして、周囲のモンスターたちが悪魔神官に殺到する。
爪で、牙で、剣で、槍で、悪魔神官の体の隅々まで切り裂き、ずたずたにする。悪魔神官の服は破れ血が滲み、動脈は切り裂かれ噴水のように血をまき散らす。
「ぎゃあっ、痛い、痛い痛いっ……も、もう許してくださいぃ……」
悪魔神官は最初は痛みに声を上げていたが、ものの十秒ほどで絶命し、後はなすがままに細切れの肉塊に分断され、モンスターたちがそれを奪い合った。
イブール2世を騙り酒池肉林を満喫した悪魔神官は、最後は自らが肉片となりモンスターたちの胃袋に収まってしまった。
「まあ、そうなるわよね。騙って散々いい思いした罰よ」
タバサは肩をすくめる。
イブール2世を騙った悪魔神官が死んだ後、モンスターたちの目から殺気が消える。
悪魔神官がモンスターたちの凶暴性を増幅させる結界を張っていたが、それも彼の死で消えてしまったのであった。
蛇手男がうなだれた様子でビアンカたちに近づいて来た。
「あんたビアンカさんだろ? 思い出したよ。昔の光の教団で、あんたそっくりな石像を祭っていたんだ。あんたの一族に前の光の教団は滅ぼされたんだよなぁ。また滅ぼされちまったな。ハハハ……」
蛇手男は自嘲するように渇いた笑い声を立てる。
「……いや、あんたたちに恨みなんてないぜ。俺も悪い事したってのは分かってる。俺は前の教祖のイブールにずっと仕えて奴隷を可愛がったりしていたんだが、光の教団が解散した後、自分の行いを反省して静かに暮らしていたんだ。でもあの偽イブール2世に衛兵に誘われてさ。やつの目を見ていると昔とは比べものにならないくらいに凶暴になっちまってな。人間やモンスターにひどいことをたくさんしちまった。本当にすまねえ」
ビアンカに向かって頭を垂れる蛇手男。その周囲には、先日レースで自分たちに乗っていたスモールグールたちもバツが悪そうにしている。
「ま、レースでエッチして、けっこう気持ちよかったし。許してあげようじゃない、ママ」
「……気持ちいいとかは関係ないけど。確かに悪魔神官があなたたちの凶暴性を増すような術をかけていたのだろうし。そうね、あなたたちは誘拐したモンスターや人間たちを、故郷に返してあげてちょうだい。それでわたしは許すわ」
「あ、ありがてえ! そんなのお安いごようだぜ。おい、お前ら早速準備するぞ」
蛇手男はスモールグールや警備役のリザードマンたちに声をかけ、奴隷たちを拘束していた鎖を解き開放していった。
「ところで前にやったレース、またグランバニアでも出来ないかなぁ?」
タバサは思い出したように淫猥なレースのことを口に出す。モンスターにハメられながら馬のようにスパンキングを受けるプレイを、よっぽどタバサは気にいったのだろう。
「何言っているのタバサ、あんな破廉恥なレース、うちでできるわけないでしょ」
ビアンカはあきれたようにため息をつく。
「じゃあ、ブヒックスに会いに行こうか! ブヒオさんとママ、わたしで迎えに行ったら喜ぶわよ!」
「ブッ、ブヒィ……オデ、今度こそちゃんと父親やるブヒ……仔どもを立派に育てるブヒ……! ブヒックスはオデの家族ブヒ!!」
ブヒオは力強く『家族』と言った。その決意に嘘はないのだろう。
「ええ、そうね。わたしたちの家族を迎えに行きましょう、ブヒオ、いえ、あ・な・た♥」
そういってビアンカはブヒオの手をつないで微笑んだ。