3月は相撲の本場所なのです。
あ、でも相撲回は今回だけです。
※1月16日――一部変更して書き足しました。
だがヒデツグにとってそれはカプル+高火力の大正義に見合うものではなかった。
カプル=可愛い=正義。と、高火力=正義を足したから大正義である。異論は認めない。
認められない。
「ジャぁギ様! 何てもん見せてくれてんだお前ぇ!?」
ジャギ様から貰ったガンプラマフィアが起こした事件映像のPDを見せられ、ヒデツグは怒り心頭である。
ジムがヤラレ役としてこれ以上ない程に雑魚を演じていたのである。極め付けはサイコジムとかいう鈍足を極めたノロマガンプラだ。サイコガンダムと同じようにMA形態へと変形するのだが、変形にも時間が掛かる。ゼータ宜しく一瞬で変形しろと言いたい。
むしろ変形しないでダッシュしろと言いたい。
「えっ! な、なんで怒ってんの!?」
「あたりめーだろぉが! なんでジムがボロクソにやられる絵を見なけりゃならねェんだよ!」
一般的認識で言うとジムはヤラレ役。ジムが神の末裔で最強MS説が通用するのはヒデツグの様な一部の人間だけである。しかしジャギ様は自分の配慮の無さを自覚した。せめてどの点に注目すべきか言っておく必要があったのだ。
「あー、イオリ・セイのガンプラ、ちゃんと見てた?」
「なんか光ってたけど、それがどうだっての?」
「アレはクリアパーツだ。クリアパーツを組み込んでガンプラ作ると性能が上がるんだよ」
デストロイモードのユニコーン系ガンプラは素組みでも性能が高い。それはクリアパーツを多用している為ではないか? ジャキ様の話が事実であれば、そんな推論が成立する。
クリアパーツに対してプラフスキー粒子が影響するのであれば、クリアパーツをサイコフレームのように考えることが出来る。
「…………クリアパーツってどうやってスクラッチするの?」
そもそもそれぞれのガンプラに合った形をしているクリアパーツなどない。作り方から考える必要があるのだ。
「……確かに。リーダーの技術だと無理があるな」
燕返しとサイコカプルたんを作り上げた時の労力は、珍庵:9にヒデツグ:1。ほぼ巨乳の女神に祝福された珍庵の作である。
その時、ヒデツグは少々話の道筋を変えた。
「……もしも、クリアパーツのみで出来たガンプラがあったらどうなる?」
「いや、内部モールドとして使うのが強度的には正しいと思うんだけど……」
そんなフルサイコフレームみたいなガンプラがあったら、ジャギ様としても見てみたい。見てみたいが、対戦相手にするのは御免である。
ふと、ジャギ様はランクボードを見る。
「リーダー、今夜空いているか?」
「金使うようなことは出来んよ」
「階級戦だよ。オダさんは夜になったら来るようだが、リーダーはどうだ?」
「早ぇなオイ」
ヒデツグは他方で賞金の掛かったバトルが無い限り暇である。早くにネカフェに行くと余計に料金が掛かってしまうので、バトルドームで暇潰しを兼ねてガンプラバトルの腕を磨くのである。
コヤスは会社員だが、仕事が済めば大体新宿でガンプラバトルだ。ジャギ様はメンバー入りした時に新宿区職員であることを二人に説明している。
ここ一年、ヒデツグはジャギ様が新宿DOMEに常駐しているように見える。
新宿区ってそんなに仕事ないのか……と、思う所だが、ジャギ様は地域課の職員であり地域活性の材料として区がガンプラバトルという“スポーツ”を指定したので、ガンプラ製作からバトルまで、その「髄」を知る必要がある。
ヒデツグやコヤスなら「くっそ羨ましい!」とか言うだろうが、これが仕事だ。
逐一レポートを提出しなければならないが、稀に見る「遊んで給料もらえる身分」である。
「まぁ、相手方も今日出来るってんなら良いよ。俺も出る」
「そんじゃマル書いて」
そういうので参戦を記入すると、試合相手のメンバーである6人も全員参加するようだ。バトルに出撃するのは3人までが限界なので、この中の半分が選ばれることになる。
「種子の匣って……これウチより4つは下位のチームじゃなかったっけ?」
「すまん、シーズンの途中でチーム統合したペナルティ」
そんなルールがあったとは、このヒデツグ……初耳である。新宿DOMEで個人最強の座を欲しいままにして、あまり基礎ルール変更に注意してなかったせいだ。
* * * *
暦の上では3月の春とはいえ、陽が沈むのはやはり速い。
ヒデツグはガラケーのワンセグ放送で大相撲を見ていた。いや見ようとしていた。
「バ、バッテリーが……」
この時代でもワンセグ放送が配信されているのが驚きだが、NとかHとかKとかが付く放送局は超が付く程の少数派のために配信を続けていたのである。
しかし哀しいかな。以前にも記した記憶があるが、使用しているジムの神様と同じでガラケーのバッテリーも酷い事になっていた。
「どしたんす?」
聞いて来るコヤスに「相撲見るバッテリーがないんですよ」とヒデツグ。
「なんでまた相撲なんて……」
ヒデツグはアマの職業ファイターではある。だが相撲とは縁が無かった筈だ。
一応、ガンプラバトルは武道や格闘技との親和性が高いという理由はあるが、今まで相撲には興味なかったはずだ。
「星之海を見たいんですよ」
「あぁ、あのガトー似の外人力士」
「外人じゃなくて日本産まれの日本育ちなんすけどね」
「え、そうだったんですか?」
コヤスは見ていないのだが、今場所から幕内力士になる星之海は両親がポーランド出身の帰化人であると共に、サエキ・トーゴという実名と日本出身のソップ型力士であることを夕方のテレビで特集されていたのだ。
その外見は、某星の屑作戦に従事したデラーズフリートの少佐っぽい。
そんな相撲取りの説明を大体したところで、遂にガラケーのバッテリーが尽きた。そしてランダムで選んだ戦場は荒野だった。
「ゲェ!?」
ガラケーの電源が尽きたのはコヤスにもジャギ様にも朗報だ。ヒデツグがワンセグ中継に気を取られないで、ちゃんと試合に集中してくれない困る。
「ぐぎぎ...ぐごごぎが……」
今にもトランスフォームしそうな呻き声だが、試合相手のガンプラ陣容が明らかになった。
「あれは……」
「向うのガンプラはシリーズ統一してるみたいっすね」
「……コレジャナイ...ガンダムッ!?」
宇宙世紀と白T様系しか知らないヒデツグの目には、機体カラーが黄色と赤で、コレジャナイ感が漂うガンプラが映る。工事現場とか置いてそうだ。
「あれはアンドリュー・バルトフェルド専用ムラサメっすよ」
「何すかソレ」
「いや知らないなら良いンすけど」
「チーム名から種系だとは思ったが、種死で揃えてきたか」
ジャギ様はゲゼという舐プを止めてザクⅣというオリジナルガンプラだ。見たところ腹部のメガ粒子砲と二丁ライフル。それに両袖にヤクトドーガ宜しくファンネルを装備している。
コヤスはご苦労にもフルスクラッチで「∀ガンダム」登場したギンガナム隊のモビルスーツ。形式番号G838、マヒロー。ショルダーウェポンにリニアガンを追加していて汎用性が拡大したガンプラを使う。
「あぁ、昨日のPDだけどさ……」
「バトル始まるぞ。 ガンプラセットして!」
PDの話題を振ろうとしたらジャギに怒られた。そしてファイター達はGPベースをセットする。
種子の匣メンバーのガンプラはZGMF-X23Gセイバーガンダム。ZGMF-X10X20Aストライクフリーダムガンダム。そしてヒデツグがコレジャナイと言ったMVF-M11Cムラサメである。
「主人公機が省られている……」
「コヤスさん、あの最終話で主人公交替してますから」
ムラサメだけネームバリューが今一低い気がするのだが、好きなガンプラを使うのがガンプラバトルである。漁業組合がどうこう言う筋合いにない。ただ彼等の後ろに控える相手チームメンバーがディスティニーガンダムっぽいのを持っているのが気になる。
「中尉はなに使うんスか?」
「カプルたんのスーパープレイを見せたままだとジオン水泳部の先輩方から不興を買ってしまいますからね。今日は別のヤツ」
ガンプラにそこまで気を遣うことないと思うコヤスとジャキ様だが、彼等が見ている前でヒデツグが取り出したのはガンプラ界でジムと並んで最安値のエース……。
「ズゴック先輩(MSM-07)である!」
「水気ないよ!?」
ジャキ様とコヤスのツッコミが入るが、そもそもヒデツグが「ジオン水泳部」と言った時点で気付くべきだった。
しかしサイコカプルたんのような凄まじい改造が施されているのかも知れない…。
が、それを確認する前にガンプラをセット。出撃のカウントが入る。
「や、やりますよ!」
「うし! チーム変更した初戦ッ!」
「はっけよォーいッ!」
「!?」
ファイターは大体皆耳を疑ったとか。
* * * *
荒野に降り立ったミリシャ漁業組合の3機は、敵機を探して荒れた大地を征く。
カタパルトから射出されたまま空中を進まないのはジャキ様の提案だ。種子の匣のガンプラは、全て空中適性があるから空中を進んでくる。それを当方は物陰から狙い撃つ方が戦い易いという。
「相手が空から来るならガンタンク持ってきたんだけどなぁ」とはコヤスの言。
「年越しバトルでボックス踏んでトリプルドムを圧倒したヤツですけ?」
ヒデツグとコヤスが使うガンタンクは高機動らしい。
「いや、前の職場仕様のです」
「あぁ、あれがあったらコヤっさん独りで勝てますねぇ」
「ど、どんなタンク使ってるんですよっ?」
自分とは次元の違う会話にジャギ様は戸惑う。そしてオダ・コヤスという男が以前はどんな職場にいたのか気になった。
種子の匣のリーダーでフリーダムを使っているサトウは生花店の経営者だ。
今日は平日だが、JC大学の大阪キャンパスに通っている娘が春休み期間に帰って来た。その大学のクラブでガンプラバトル部なんていうのがあるらしく、娘もバトルの感覚を忘れないようにチーム入りを希望した。
彼等の背後にはディステイニーガンダム使いのツン・アスカが居るわけだが、彼には控えてもらって将来を見据えて新人研修である。
「父さん」
「隊長と呼べ!」
花屋のサトウさん。良い親父なのだがガンプラバトルではこの調子である。シチュエーションに熱中して隊長に成りきってしまう。
辟易するツインテールの娘はMA形態となったムラサメ使いだ。今日はスタメンであるツンに遠慮してもらって特別に出ている。
西郷さんが連れてる犬みたいな名だが(多分インドネシアかタイの帰国子女)彼の為にも負ける訳にはいかない。
「た、隊長。敵は対空防衛を敷いてる可能性があります。ここは裏を欠いて地上から…」
「そんなことは解っている。彼等もベテランだ。地上にも穴はないだろう」
まさかランキングを落としてくるとは思わなかったミリシャ漁業組合だが、彼等のリーダーである良くない噂もサトウは知っている。
チーターとのことだが、どう調べてもガンプラバトルでのチート行為は不可能だ。ガンプラに細工したのならそれだけのガンプラ製作能力があるということだし、GPベースはほぼ確実な閉鎖システムである。
そんな彼が少し見た限りではズゴックという白兵戦ガンプラを使用していた。相手チームは自分達に出来た穴を埋めている。ニワ・ヒデツグという男の距離に自ら入るのは自殺行為だ。
敵機から離れた上空にてフルバースト。マルチロックで狙い撃つのがサトウが考える勝利への道筋だ。
「レーダーに感! もの凄い勢いで突っ込んでくるのがある!」
セイバーを使っているお隣さんであるヴァヴァさんが言う。彼にはセイバーの一撃離脱で敵部隊を翻弄してもらおうかと考えていた。
が
『DO SU KO I!』
そんな声が聞こえたと思ったら、ストフリはバトルシステム場外の遥か遠くに弾き飛ばされてしまった。
* * * *
ガンプラ心形流から派生した二次元覇王流は、アニメ、ゲーム、ラノベ、漫画。又は実写作品に出てくる技なら大抵使うことが出来る。
出来てしまうのである! それは自由過ぎる翼を持ったヒデツグだからこそ使える流派で、ある意味ではフリーダムガンダムよりもフリー(ニートとも言う)を極めたヒデツグが得た流派だ。
ヴァヴァは隊長機であるストフリが消えたことに気付き、それを成したのがストフリの代わりにいる物体……ズゴック先輩であることを瞬時に理解した。
「ズ、ズゴッキュ!?」
舌が回らなかったが即座にムラサメと下降した。ズゴックがスーパープラフスキークラフトやなんやかんや積んでると思ってしまったのだ。
実のところMSM-07、ズゴック。水陸両用という縛りはあるが、ガンダムより高スペックである。RX-78のジェネレーター出力が1,378kwでスラスター推進力が55,500kgであるのに対し、ズゴックのそれは2,480kwと83,000kgである。
二次元覇王流のロケット頭突きくらい容易いのだ。ガンダムが強かったのは恐らくパイロットがスペシャルであり、また主人公補正であろう。
ヒデツグのズゴック先輩もヒデツグが「社会の厳しさで強化された強化人間」であり、ズゴックがジオン公国軍水泳部のエースだからだ。
異論は認めない。
「こんな相手がいるだなんて!」
ツインテ娘がムラサメをMS形態に変形させると、武装を振り回して敵影を探した。
のっぺりした体躯の一つ目ガンプラは速度が早過ぎて未だ戻れてない。その間に他の敵を視認しなければならない。
レーダーを見ると左方にいるのが解る。驚くのはその反応が分裂したことだ。
「ドラグーン!? 来る!」
退きながらシールドを構え、ビームライフルでザクを牽制しながら防御火器にドラグーンの撃破を願う。
しかし敵も然る者で、ドラグーンことファンネルは自動防御火器の射程外から攻撃する機会を窺ってくる。
そのな時、超高速で接近してくる機体を警報で知る。ズゴック先輩である。
「こ、こいつは!」
「速過ぎる! 一体どんな改造を!?」
ツインテ娘にヴァヴァさんは驚愕するが、当機の製作者ヒデツグはヤスリ掛けしたものを普通にパチ組みしただけである。強いのは、ズゴック先輩の本来の性能と二次元覇王流が成せる業なのだ。
「DO SU KO I DO SU KO I」
「やべェ! 危ねぇってリーダー!?」
超高速でバトルシステム上を縦横無尽に飛び回るズゴック先輩が、マヒローB型やザクⅣの脅威にもなっているとは種子の匣メンバーは思わない。
どすこい、で岩を砕いだかと思うとセイバーに激突。そのままバトルシステムから押し出したら、DOSUKOIで戻って来る。
「やっばい! 中尉! ちゃんと敵情報を見るんだァー!」
コヤスが言った時には遅く、ムラサメから発射された4本のミサイルが山なりにズゴック先輩を襲う。
しかしそこはズゴック先輩、今この時ばかりはズゴックが主人公機である。主人公補正かなんなのか何なのか知らないが、弾幕と爆発のレッドラインを潜り抜けてきた。
「うわ、あのズゴックもやべーわ」
とか言ったかと思うと、ジャギ様の操るザクⅣのダブルアサルトライフルがムラサメを撃ち抜いた。
ツインテ娘、状況把握とリアクションに疲れて周囲の警戒を怠り過ぎである。
* * * *
バトルが終わった後、相手リーダーと思しき男とツインテ娘がジャスティス持ちに謝っていた光景を見た漁業組合一行は、今回得たエースポイントで飯を食っていた。
勿論、今回分だけだと大きく足らないのでお財布から必要な分だけ払うことにはなる。
「勝った」
「勝ったな」
「そういやリーダー、バトルの前に何て言おうとしたんだ?」
コヤスとヒデツグが勝利の美酒に舌鼓打っている時にジャギ様が問う。渡したPDでヒデツグが疑問に思うことがあれば聞いておきたい。この男の伸びしろは自分にとっても有益なのは間違い無いのだから。
「ガンプラマフィアの戦い見てて思ったんだけどさ……」
ジャギ様ですらクリアパーツが有用であることしか気付かなかったのだ。ヒデツグは何を見つけたのか気になる。
「ネネネって、確実にグーパー線切れてるよな」
「…………………………」
ジャギ様の長い沈黙が続いた。
相撲だからといって親衛隊のスモーを出すほど庵パンは安易ではないのです。
そんなワケで相撲を取るズゴックの主役回でした。
まぁ……(凸 )解せぬ とか言われそうなので、次回は普通にジムが主人公に返り咲きです。