「ああ、わかったよ。おやっさん、まあ、そんな五月蝿くはしないって」
「すまんねぇ。まあ、今日だけだから……」
「俺たちも、宿の留守番も任されるかわりとはいえ、格安で来てるんだから文句いえねぇって。」
初老の男性に笑顔で答える中年の男性たち。どうやら、宿の主人の知り合いらしい。
「この季節はさほど混まんのだけどね。今日来たのも昔馴染みの人で、追い返すのも心苦しくて、この形でよければということでな」
「まあ、たまにはこういうこともあるさ」
「お客さんに失礼はいけないよな」
「おっとりした人だから、怒りはしないと思うが、まあ、ほどほどに、ということでな」
「判ってるって……。ちびちびやるんで、問題ないって」
頼んだよ、と主人は奥から彼らの酒宴の為につまみを取りに戻る。男たちはせっせと座卓を並べて、酒を用意し始めた。
数刻後、酒気の回った彼らは座卓の上のつまみを楽しみながら歓談にふけっていた。
「いやしかし、中々ないよなぁ、こんなこと」
「だな、まあ普段は人いないから、俺たちだけで二部屋つかったりするくらいだから……」
「まあ、繁盛してるのはいいこった」
「だなぁ。……っと、酒が足りねぇか」
呂律が段々と回らなくなると、声が高くなる。
「おい、あまり五月蝿くはするなよ?おやっさんに言われてるんだからさ」
「ああ、お隣さんだったか……声、かけておいたほうがいいよな?」
大部屋を襖で隔てた部屋である。どうしても声は通るだろう。
「さっき向こう行く足音がしたから、風呂でもいってるんじゃねえか?」
「風呂上がりになら、何なら一杯一緒するのもいいんじないか?」
「まあ、声だけかけてみるか」
話をすれば、というタイミングで廊下からこちらに向かう足音がする。
「お、お隣さんか?」
「おう、ちょっと声かけてくる……」
一人の男が座布団からゆっくり腰をあげる。他の二人が歓談に興じるなか、障子を少し開けて廊下から、あちらを覗く。
「……」
少しふらついた足取りで戻ってきた男。
「お、どうだった?」
男は答える間もなく座布団に腰かけて目をこする。
ぐいっと酒を呷ると、一言、飲み過ぎた、と語った。
「なんだ、そりゃあ?」
なんでもない、と答える男。男が寝るまでたびたび襖の向こうに視線をやっていた理由を知るのは、翌日の朝になるのであった。
「おはようございます」
「…え?ああ、おはようございます」
寝起き頭で洗面台に向かおうとした男たちは、襖の向こうの客と、廊下で顔を合わして目を丸くする。丸くした目で、浴衣越しの抜群のスタイルを男の本能でおってしまっていた。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。」
ぺこりと下げられる頭。豊かな丘に三人が目をやる。
「こ、こちらこそ」
ぎくしゃくしながら男の一人が、寝不足ぎみを訴えていた仲間を腕で小突く。
「お、おま、隣って女の子だったのかよ、しかも、こんな……」
小声で男をせめるようにする。これだけの美少女が襖一枚隔てた向こうにいることを意識したら、眠れないのも無理はない。
「いや、酔っぱらいすぎたのかとおもってさ……まじだったわ……」
リーシャはそんな男たちに挨拶をして踵を返した。
顔を洗い終わって部屋に戻った男たちは、隣の物音に悶々としながら朝を過ごすのであった。