※この作品はR-18です。

ノワール様の神房   作:櫛笥 紫月

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※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とりわけ電機メーカーとは一切関係ありません。


前編 ※クンニ

「ユニーっ!!」

 

「お姉、ちゃん……ゴメン、ドジっちゃっ……」

 

 担架に乗せられた妹が、弱々しく答えた。

 

「しゃべらないで! あまり前に出るんじゃないって言ったじゃない、バカ……!」

 

 ユニだって頭の悪い子じゃない。昔だったら、順当に返り討ちにしていたはず。

 彼女が本来の力を発揮できないのは……わたしのせい。

 

 わたしノワールと妹のユニは、この国ラステイションの女神。

 女神はその戦闘力を、国民からの信仰(シェア)に依拠している。

 

 ラステイションは長年この世の春を謳歌(おうか)してきた。

 けれど、このところのもしもし(・・・・)大陸からの攻勢に押され、シェアの凋落(ちょうらく)が著(いちじる)しい。

 宣伝省や映画院といった行政広報機関も、解体して民間に払い下げることになった。

 きっとそれが、この子をここまで追い込んだ原因……。

 

 

 

 

 医師からユニの命に別状がないことを確認したら、一縷(いちる)の望みをかけてケイに連絡を取った。

 通信傍受の恐れのない、軍事レベルの暗号化がかかっている専用回線。

 

「やあノワール。久しぶりだね」

 

「お願いケイ、頼みがあるの」

 

「なんだい、穏やかじゃないね。ラステイション教会を離れた僕にできることは少ないと思うけれど、できる範囲で協力するよ」

 

「わたしにできることならどんな代償(だいしょう)が必要でもかまわないから、少しでもシェアを取り戻す方法があったら、教えて」

 

「僕はラステイションを離れて久しいし、国のことについては今は君のほうが詳しいだろう?」

 

「ユニが……わたしの妹が危ない目に遭(あ)ってるの!」

 

 ラステイションとわたしたちの現状について、大まかなことをケイに伝えた。

 相槌(あいずち)を打ちながら聞き取っていたケイは、最後に、

 

「本当に、どんな代償を払ってもかまわないんだね?」

 

なんて聞く。

 

「わたしはラステイションの女神よ。ユニと、この国以上に大事なものなんてないわ」

 

「そうか。なら、書陵部(しょりょうぶ)に聞くといい。『チルマ=テータの書』チャプター11について」

 

「ありがとう、ケイ……」

 

「幸運を祈るよ。それと、ユニの静養をね」

 

  * * *

 

「失礼致します」

 

「入って」

 

 重厚感と潤いのある落ち着いた声で挨拶をして入って来たのは、一人の司祭。

 ラステイション教会の神官団とわたしとのパイプ役を努めてくれている。

 代々神官の家系の出で30代にして要職を担(にな)う彼は、格調高く物腰落ち着いていてまさに大人の男性という感じ。

 国家中枢の高官にしては変にギラギラしたところもなくて、わたしは彼を一人の人間として尊敬している。

 わたしって調整下手だから、魑魅魍魎(ちみもうりょう)跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)の神官団への根回しにはずいぶん助けてもらってて。

 

「『チルマ=テータの書』の件についてご報告を致します」

 

「お願い」

 

 今日はこのために予(あらかじ)め時間を取っている。

 

「最初にお伺いしますが……ノワール様の決意は固いのですね?」

 

「国の大事だもの。打てる手なら、何だって使うわ」

 

 神官団に依頼した時点で、実行できるかどうかは後で考えるからとにかく調べてほしいと言ったはず。

 彼は石橋を叩き壊すような人でもないのに、どうして今さらこんなことを聞かれるんだろう。

 

「失礼致しました。では、ノワール様には……セックスをして頂くことになります」

 

 なんだ、そんなことならわたしにもできるじゃない。

 

「分かったわ。続けてちょうだい」

 

「……本当に宜しいのですね?」

 

「何度も聞かないで。セックスでしょう? ……せ、せせ、せせせせせ、せっくす!?」

 

 事の重大さに気づいて、驚きのあまり1オクターブ高い悲鳴を響かせてしまった。

 その声が廊下まで響いたみたいで、警備員の足音がこちらに向かってきて。

 

「ノワール様! 大丈夫ですか!?」

 

「司祭殿、ご乱心なさったか!? 神聖なる女神の園を不埒(ふらち)な行いで汚(けが)すとあらば、司祭殿であっても容赦はしませんぞ!」

 

 本当に有事のときは頼りにならないのに、こういうときばかり迅速なんだから!

 

「っくす! っくす! ごめんなさい、ちょっとくしゃみがひどくって。全然何もないの、気にしないで! お仕事ご苦労さま」

 

 わざとらしくせき込んで、その場をやり過ごした。

 

「ははっ、失礼しました。お大事に」

 

「お大事になさってください」

 

 動悸(どうき)が激しくて、警備員たちの足音が聞こえなくなるまで無言で心を落ち着けた。

 司祭の彼は悠然(ゆうぜん)とかまえていて。

 彼とわたしの違いに、ますます脈が速くなる。

 

「報告を続けて宜(よろ)しいでしょうか?」

 

「見苦しいところを見せてごめんなさい。続けて欲しいのだけど、聞きたいことがあるの。その……男の人と過ごすと、どうしてシェアが上がるのかしら」

 

 もちろん、彼のことは信用しているけれど。

 理由が分からないと、もやもやして落ち着かない。

 

「シェアを効率的に得るには、信仰心の強い者と濃厚な接触を行うことが一番であるためです。シェアは信者からの距離の2乗に比例して減衰(げんすい)します。信者の数が変わらないのであれば、距離を近づければ良いということです」

 

「距離を近づける、っていうところをもう少し具体的に話してもらっていいかしら? 覚悟は、できてるから」

 

「先の書によれば、一番良いのはセックスによる体液交換。より具体的には、女神聖下の体内に信者の精を受けることです」

 

 女神聖下なんてやけに古い文語を使うところをみると彼も言いづらいみたい。ちょっと安心する。

 彼が言葉を濁しているせいか、わたしの知識が乏しいせいか分からないけど、後のほうがよく分からない。

 けれど、最後まで話を聞いてから……また聞こう。

 

 どのみち……わたし一人じゃ、分からないわ……。

 

「分かったわ。もう一つ聞いてもいい? 体液だけを提供してもらうことでは、ダメなの?」

 

「理論的には可能です。ですが、濃厚なシェアを得るためには信仰心の厚い供給者のものを得る必要があります。しかし、そのような者がノワール様にその心身を捧げながら体液を供給することは、残念ながら難しいでしょう。この際に官能小説等の助けを借りることになりますと、シェアが非常に薄くなってしまいます。私どもとしては不特定多数の素性のよく分からない者から大量に採取するより、こちらで身元を洗った者をご紹介したほうが良いと考えておりますが……ノワール様はどうなさいますか?」

 

「大量っていうことは、量さえこなせればいいのよね?」

 

「ノワール様がその道を選びなさるなら。ただし、それこそプール一杯の体液に浸かっていただくことになりかねませんし、体液採取のための予算も潤沢(じゅんたく)に確保していただく必要がございます」

 

 プール一杯なんて嫌!

 予算もあまり余裕があるわけじゃないし、会計監査院への説明もしなくちゃいけなくなるし……。

 

「了解。時間を取らせてごめんなさい、調べてくれてありがとう。あとね、最後にひとつだけ相談があるの」

 

「何なりと」

 

 周囲の雑音ばかりが聞こえる時間が、いくばくか過ぎてしまって。

 

「わたし、そういう経験ない……わけじゃないんだけどね、今まで付き合ったことのある男性ってそういうときに女が積極的になるのを嫌がる人ばかりだったから経験の割にテクニックとかないのアハハハっ!」

 

 途中から思いっきり早口でまくしたててしまった。

 嘘。処女……なの。

 

「大丈夫、かしら……?」

 

 真顔で真剣に聞いてないでよ、恥ずかしいじゃない……!

 

「左様でしたら、閨事(ねやごと)の手ほどきについても手配いたします」

 

「どんな方に教えてもらうことになるのかしら」

 

「差し支えがなければ、私が努(つと)めます」

 

 えっ――

 

 彼とは、そういう関係には……まだ、なりたくない。

 けれど、そういう関係になるなら……彼しか考えられない。

 多分、頼めば良さそうな人を充(あ)ててくれると思うけれど、会ったばかりの人となんて……!

 だけど……。

 

 しっかりしなさいノワール、あなたはラステイションの女神でしょ!!

 

「委細(いさい)についてはあとで詰めましょう。その方向で進めて」

 

「承(うけたまわ)りました」

 

  * * *

 

 それから数週間後、彼とわたしはとあるホテルで落ち合った。

 これから……彼とセックスをする。

 別にふしだらなことをするわけじゃない、女神としてできることをするだけよ!

 そう思っていても、そわそわして落ち着かない。

 

 いきなり押し倒される、なんていうこともなくて、ホテルの部屋では普通に、彼と映画を見ていた。

 けれど、ナイトガウンに着替えて2人っていう状況は、わたしにはまだ普通じゃなくて。

 

 映っているのは、教会の子もときどき話してる最近話題の映画。

 彼がこれはどうって聞いてきたから、こういうのが好きなのかな……って思って、わたしも好きって言っちゃった。

 でも、全然面白くないから、彼の話にもうんうんとうなづくばかりで……。

 知ったかぶりするんじゃなかった……。

 

 この映画、見ててイライラする。

 ヒロインの子、戦えないから足手まといしかならないクセに、なんで危ないところまで着いてくわけ!?

 自分の身も守れないなら、男につきまとってないでお里に帰りなさいよね!!

 けど……彼もこういう子が好きなのかな……守ってあげたくなるタイプっていうか。

 だったら、わたしとは正反対……。

 

 これから体を重ねるっていうのに、彼とわたしの間にはだいぶ距離があって……ヘンな感じ。

 彼は絶対軽い感じじゃないのに、こういうこと教えてくれるっていうことは、いっぱい経験、あるんだ……。

 男だから当然風俗ぐらい行くだろうとは思うんだけど……彼のイメージと結びつかない。

 結びつけたく、ないのかもしれない。

 

 映画はまだ半分あたり。

 なのに、大きなグラスになみなみと注がれていたはずのカクテルはみんな蒸発していて。

 くるくると毛先を弄(もてあそ)ぶ。

 ツインテの結び目、崩れていないかしら。下ろしてきちゃったほうが、よかったかな……。

 

「ルームサービス、頼みましょうか」

 

「いいわ、水で平気よ」

 

「承知しました」

 

 水ぐらい自分で入れるって、と思うけれど、腰が重くて。

 彼がどうするのか見守っていたら、冷蔵庫からミネラルウォーターを注(つ)いでくれた。

 立派なホテルだし、水道の水だって飲めるとも思うのに、……嬉しい。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 煌(きら)めく氷のからからという音を聴きながら、透き通る冷水を口にした。

 

「うん、おいしい水ね! ザ・水っていう感じの水」

 

「ノワール様のお口に合ったようで、良かったです」

 

 …‥やっぱり、彼との距離は遠い。

 

「今日は、お疲れでいらっしゃいますか」

 

 今日は、というより今日も会議や視察に表彰式と慌(あわ)ただしい一日だったけれど。

 

「大丈夫よ。あなたの時間を割(さ)いてもらったんだもの。そうね……」

 

 映画、つまんないんだけど。

 どうせなら、早く……して欲しい。

 あ、あとでゆっくり休みたいっていう意味だからね!

 けど、早くして、なんて言ったら、はしたないと思われるかしら……。

 

「私、明日(みょうにち)朝一番に外部の方との会議を控(ひか)えております。差し支えがなければ、始めても宜しいでしょうか?」

 

 どきりとして、彼の目を見つめる。

 セックスのお誘い。

 セックスのお返事をしなくちゃ。

 だけど……経験豊富な子だったら失礼のないように答えられるんだろうけど、わたしベッドマナーとか分かんないし!

 

「あなたが忙しいなら、仕方ないわね。いいわ、始めましょう」

 

 そのとき、彼が男の顔になったような気がして……息を飲んだ。

 ハグされたり、それとも、キスかしら……もしかして、もう我慢できない、なんて押し倒されたりして……!

 

 ぎゅっと目を瞑(つむ)ってその時を待つ――

 

 けれど、何も起こらなくて。

 

 映画の音だけが、消えた。

 

「信徒と二人きりになったら、まず、ノワール様が相手を受け入れる姿勢を示してください。人選にはこちらも善処しますが、ノワール様の明示的な赦(ゆる)しを得ずに触れることのできる信徒はまずいません」

 

「受け入れる姿勢……ってどういうこと?」

 

 大体、まずこっちが受け入れて欲しい。

 教会ではストイックに仕事に打ち込んできたせいか、影じゃ鬼女神(おにめがみ)なんて呼ばれてる。

 山を女神に例えることがあるけれど、山みたいな扱いだ。

 遠くから見られてるときは、外見には気を遣(つか)ってるから美少女美少女って持て囃(はや)される。

 けれど、近づけば険しくてキツいからほどほどの距離から近づいてこない。

 

 わたしのこと、上司じゃなくて男女の関係で満足してくれる真面目な信徒なんて、いるのかしら……。

 

「ノワール様から男女の睦言(むつごと)に誘っていただいてもかまいません。それが難しければ、距離を詰めることです。横に座って体を寄せ、甘えて見せれば良い」

 

「やってみるわ」

 

 おずおずと体をすり寄せ、彼のとなりに座った。

 横に座る彼の体温が……熱い。

 次に……甘えるって、どうすればいいのよ!

 

「にゃ……ニャンコニャンコりーん♪」

 

 ……。

 

 …………。

 

 そして時は動き出す。

 

「わたし、甘え方なんてよくわからないわ」

 

「それで構いません」

 

「え? ニャンコニャンコりーんでいいの?」

 

「『甘え方がよく分からない』と素直に伝えれば良いのです」

 

 そうならそうと早く言ってよ!

 

「よく、分からないの。ごめんなさい」

 

 となりの彼のあったかい体温に触れたい。

 もっと近づきたい。包まれたい。

 

 けど、「甘えてみせること」って「甘えること」とは違うんでしょ?

 

「次……どうすればいい?」

 

 まず、行動。それがわたしの信条なのに、動けない。

 指示待ちなんてみっともなくて、ますます動けなくなる。

 

 彼の様子をうかがっていれば、あごの下を手で支えられくいっと持ち上げられて。

 目が合う。

 逸(そら)したい。

 逸らせない。

 

「ん……っ」

 

 まるで現実感のない光景に、目に映ったものが意識に昇らなくて。

 唇に柔らかな感触が触れて、ようやく気づく。

 

 キス、した。

 

 けれど一瞬で唇が離れる。

 触れたい。

 触れられない。

 

「次からは、ノワール様から強請(ねだ)ってください」

 

「強請るの?」

 

 怪訝(けげん)そうに、聞いてしまう。だって……。

 

「ノワール様が信徒のなされるがままにされることをお望みなら待っても構いません。しかし、得てして男とは我儘(わがまま)な物。ご自身の負担を減らすためにも、ノワール様自ら主導権を握られるたほうが良いと存じます。今は指導ですから、強請ることを覚えて頂きます」

 

「そうね」

 

 気に入らなければわたしの指示一つで叩き出せる。

 ということは、信徒はうかつに動けないっていうこと。

 ガンガンリードしてっていうほうが無理な注文ね……。

 

 らしくない、女神らしくベッドの上でも盛り上げてくのがわたしでしょ……!

 体を支えている腕を、後ろでぐっと握る。本気で行くわ!

 

「ね、キスさせて」

 

 不敵に微笑(ほほえ)んでみせて。

 彼の形のいい唇に、口づけようとした。

 

 そしたら、鼻と鼻が当たって。

 

 首を傾(かし)げて、今度こそ彼の唇を奪って。

 なかなか離せなくって――しまいには、彼の背中に腕を回してしまって。

 いいのよ、だってこれは練習なんだもの……!

 

 すると、彼に頭を固定されて――

 下唇をぬるりとなぞられ。

 食べ、られちゃう……!

 彼のこんな顔、見たことなくって、怖いって思いながらも胸が疼(うず)く。

 

「ん……ふぇ……!」

 

 彼は舌を尖らせてわたしの唇を押し、割って入ってきた。

 舌を絡め取られて、粘膜と粘膜の触れ合う感覚に、目を開けていられなくなる。

 

 えっちなキスするなんて、聞いてない……!

 

「んっ……ん……!」

 

 頭はがっちりと捕らえられていて、逃げ場のない中で口腔(こうくう)を掻(か)き乱されて。

 彼の熱が移されて、次第に体が熱くなってく――

 

「んふっ! ……っ……ふぅ」

 

 ようやく解放されて……離れていく彼の口元からわたしまで、二人の混ざりあったものでビヴロスト(虹の橋)が渡される。

 まだ、息が楽にならない。

 もう、ならないかもしれない。

 だって、気づいてしまったんだもの。

 わたし多分、彼のこと……好きだ。

 

「とても可愛らしいノワール様でした。キスのお勉強は、また後程(のちほど)に致しましょう」

 

「練習しておくわ」

 

なんて、わたしらしく笑ってみせる。

 強気で凛々(りり)しくて、男になんて振り回されないのがあなたでしょう、ノワール……!

 

 彼に隠れて、口元の残滓(ざんし)を拭(ぬぐ)う。

 気を取り直して、

 

「ねぇ、そろそろ、抱いて」

 

って、今度は甘えるようにして言ってみる。

 

 すると両手で優しくぎゅっと抱きしめ――

 

 てくれると思ったら組み敷かれて。

 

「やっ……ん……」

 

「ノワール様に教えられることは、そう多くなさそうですね」

 

 その低く艶のある声色は優しいけど優しくなくて。

 

 違うの、抱きしめて欲しいだけなの!

 思いを伝えようにも、肝心の口元をキスで塞(ふさ)がれて。

 

「は……ふ……!!」

 

 肩や首すじを彼の大きな手で撫でられる。

 その温もりはとても心地良いのに、落ち着くどころかますます鼓動は速くなって。

 気のせいだって思えなくなってきた体の中の疼(うず)きが怖くて、彼の引き締まった体にすがりつく。

 ようやく口が離れたかと思えば、ゆるゆると降りていくキスの嵐は、ガウンをはだけで胸元へ――

 

「ま、待っ……! ごめんなさい、わたし、初めて、なの……!」

 

 初めてっていうこと。彼に見られた体。体中を漂(ただよ)う甘い疼き。

 頭の中がいっぱいいっぱいで全然整理できなくって、ぜんぶ熱になって頬を赤くする。

 泣きそうに、なる。

 

「初めてだけど、大丈夫、よね?」

 

 泣きそうな顔の頬をなぞられて、目を顰(しか)める。

 目尻が、少し熱い。

 

「大切に、いたします」

 

 腰を支えられ起こされて、固い胸板に押しつぶされそうなくらいに抱きしめられた。

 自然と、彼の背に腕を回して、惚(ぼ)けた顔で強請(ねだ)るように見つめてしまう。

 目を閉じた。すぐに、彼の唇が触れて。

 

 今の言葉、「女神様」を大切にしますっていう意味じゃなかったら、どんなにか幸せだったのに――

 そんなため息さえ、キスで止まった時間の中に散っていく。

 

「……ん……っ」

 

 やがてわたしを手放した彼は、いつのまにかサイドテーブルに乗っていた小瓶を開けて。

 小瓶の中の液体を口に含むと、わたしの頬に手を添え再び口づけてきた。

 彼がわたしの唇を割ると、決壊した口もとにその液体が流れ込んで。

 

「……っ!? んん……」

 

 甘いのか苦いのかさえ分からないような液体が、喉の奥へと流れ込んでいく。

 味なんて分からなくっても、美味しいって感じてしまう。だって、彼のくれるものだもの。

 すべて流し込まれても、舌を絡めてその残りを舐め取って。

 

 わたしにだって、色っぽいキス、できるでしょ?

 もっと彼に意識させたくって、胸を押し付けるように抱き合う。

 

「はぁ……ふ……」

 

 わたしもキスに溺(おぼ)れているのか、ガウン越しに触れ合う肌が甘く痺(しび)れてくる。

 彼のさすってくれる背中さえ、息を乱されるような快感で。

 

 何か、違う……!

 

 やがてナイトガウンの中へと忍び込んできた彼の手は、ベビードールの上から両胸の輪郭を確かめるようになぞった。

 まだ神経から遠いところばかりを愛(め)でられているのに、ぞくぞくとしてくる。

 その指先に先端を弾(はじ)かれただけで、電撃に打たれたように体がのけぞって……!

 

「ふぇぇ……っ! は、あ、何、飲ませたの……?」

 

「媚薬です」

 

 彼の声を聴いただけでも、耳から媚薬を注(つ)ぎ足されたような心地で……頭が、働かなくなる。

 気づけば、染(し)み出るくらいに秘蜜が溜まっていて。

 

「なん、で……?」

 

「女性の体は壊れやすいもの。十分な準備の出来ぬままに信徒を受け入れれば、ノワール様のお体が傷つきかねません。ノワール様ご自身で信徒をお導きになることが、最善ですが……この感覚にも、慣れて頂きます」

 

 彼の撫(な)ぜる手がVラインを越えて、ショーツに秘めたところへと触れた。

 布地越しに円を描かれるだけでも尾を引くような感触に戸惑う。

 硬くも柔らかい指先が秘芯に当たれば、茹だるような熱情に苛(さいな)まれて。

 

「ん、ふ……! あ……」

 

 とめどなく溢(あふ)れてくる泉の、その上の頂(いただ)きが彼に誘われるままに尖(とが)り出して。

 色づき始めた花芯を揺さぶられる度に、その刺激で神経を灼(や)きつくされる。

 

「っあっ! は、ん、……あっ、あっ……ん‥…!」

 

 こんな声、彼に聞かれたくなかった……!

 媚薬に侵(おか)された体は全然わたしの言うことを聞いてくれなくって。

 ムダだなんて分かっているけど、口元を手で覆ってしまう。

 手のひらに跳ね返って吹きかかる息が、熱い。

 

「んっあっ……あっあん……は、ふ……」

 

 インターバルが与えられたかと思えば、彼はショーツに手をかけて。

 腰を浮かせると、だいぶ湿り気を帯びていた布切れが足元へ落とされる。

 

 彼と、一つになるんだわ……。

 

 不安を感じながらも、昂(たか)められたままの体はその先を求めて止まなくて。

 

「だいぶ濡れておいでですね。これなら問題ないでしょう」

 

「……っ!」

 

 蜜口に指とは違うモノが当たって、思わず息を飲む。

 思っていたよりもずっと柔らかく平べったくて、そしてざらついていた。

 おそるおそる繋がっているところへと目を向けて――

 

 悲鳴を上げそうになる。

 

「そんな、とこ……! 汚いわ……っ」

 

「ノワール様のお体に、穢(きたな)いところなど一欠片(ひとかけら)もございません」

 

 濡れそぼった蜜口を満たしたのは、彼の舌で。

 目を背(そむ)けてもその光景が頭から離れなくって、手のひらで顔を隠す。

 けれど蜜壁は待ちわびていたつがい(・・・)の訪れに、恥じらいもなく彼の舌先を締めつけて。

 足を閉じようとしても、彼を求めるばかりになって……!

 

「やっ……んっ……あ……っ!!」

 

 彼の高い鼻が秘芯に擦(こす)れて、大きく啼(な)いてしまって。

 激しく愛蜜を吸われれば、静かな室内に淫靡(いんび)な水音が響く。

 おなかの中で持て余し始めた疼(うず)きに、気づけばもじもじと足が動いちゃってて……。

 

「あっ、ああんぅ……ん、あ……あんっ、んんあっ!!」

 

 吸われれば吸われるほどに、彼の舌先で蕩(とろ)かされた膣壁から蜜が溢れ出してくる。

 恥ずかしいのに、だって舐めてくれているのが彼だと思うと甘く疼(うず)いて止まらない。

 秘芯を突かれる悦楽は、声を上げても手足をばたつかせても逃しきらなくて。

 胎内の熱が膨(ふく)れ上がって、もう、我慢しきれなくなる……!

 

「あっ、あっ……!!」

 

 ぴんと体が張りつめれば、溜まっていた熱が一気に抜けていった。

 彼に愛でられているところは、痛みさえ感じるほどになって。

 でも、すぐに止めてくれる。

 

「いけません、ノワール様。体が絶頂に達しそうなには『イく』と伝える事です。なにもおっしゃらずに達するのは、とても恥ずかしいことですよ」

 

「そうなの!?」

 

「挨拶のできない人と同じです」

 

「分かったわ。気をつける」

 

 抱き合って、男を受け入れて、それで終わり、じゃないのね……。

 セックスって、難しい。

 わたし……彼以外の男と、本当に、できるのかしら……。

 




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