夢の続き~after the school idol~ 作:果樹 椿姫丸
それから俺とことりさんは花田さんの仕事・アイドルの子達の練習風景を引き続き見学させてもらい、気がつけば日は暮れてしまっていた。
「よし、今日はこれくらいにしよう」
パソコンにデータを打ち込み終えた花田さんは立ち上がり、伸びをする。……やはり、あれだけ働けばかなり疲れるのだろう。
「お疲れ様です。………アイドルの子達が帰った後も働いてるんですね?」
「ああ、うん。………僕の仕事は彼女達の練習を眺める事じゃなくて、彼女達のアイドル活動をサポートし、そして輝かせてあげる事だからね」
そう恥ずかしそうに言う花田さんの姿は素敵だった。………こういうのって、良いよな。
「真面目に仕事してる時の花田さんって格好良いですね♪」
「………南さんに言われると、悪い気はしませんね、アハハ」
「花田さん顔真っ赤ですよ」
「ぐっ…………こういうのは慣れてないんだよ」
………あれだけ若い女の子に囲まれててこういうのに慣れてないって………。
「オホン!………そんなことはさておき、とりあえず二人共、今日はお疲れ様でした!………どうでしたか?」
「ことりさんに言われちゃいましたが、やっぱり花田さんカッコいいなって思いました」
「やめてくれよ……」
「本心ですよ。………ただ純粋に、あの子達の夢をサポートしてあげたいって、それだけの気持ちでやってるんだって伝わってきて、だから花田さん凄いなぁって、カッコいいなって、そう思ったんです!」
「…………何かを感じ取ってもらえたみたいで嬉しいよ。……それで、僕の仕事ぶりは君の夢と繋がりそうかい、虎太郎君?」
「それは…………ちょっと待って下さい、どこでその話を?」
「あっ」
「花田さ~ん…………」
…………ことりさん?
「…………実は少し前に私から花田さんに虎太郎君の話をしてたの。………元々、この話は虎太郎君の為のものだったから」
「ああ、そういう………」
「黙っててすまない、許してくれ」
「いえ、俺のことを思ってそうしてくれたんなら、俺は嬉しいです」
「………さて。それじゃあさっきの問いだけど、どうだい?僕の仕事と君の夢は、繋がりそうかい?」
「今はまだ、分からないです。………ただ、」
「ただ?」
「…………ただ、同じ仕事がしたいとか、そういうんじゃなくって………花田さんみたいなカッコいい男になりたいと思いました」
………これは正直な今の気持ちだ。自分のやりたいことをやっていて、それに対してどこまでも真面目で………たった1日だけだけど、それだけでも俺はそんな花田さんの姿に憧れた。
「カッコいい男………ねぇ。………普通はそういう気持ちって言葉にして出せないものなんだけど、君は何か違うな、虎太郎君?昼の南さんの件もそうだ。君はとても素直で良い子だ」
「………そうでしょうか?自分ではそうは思わないんですが」
「そう?………じゃあ聞くけど、君………南さんのことは好きかい?」
?………どうしてここでことりさんの名前が出るんだ?
「好きです、愛してます」
「どうして?」
「ことりさんが可愛いからです。………勿論顔だけじゃなくて、笑った顔や、普段は余裕たっぷりのクセに意外と押しに弱かったり、」
「こ、虎太郎君、もう良いからっ!」
「え、でも…………」
「良いから………ね、もう帰ろうよ」
「はぁ。…………ことりさんはこう言ってますが?」
「仕方ない。今日はもうお開きだな。………じゃあまた明日会いましょう、二人とも!」
明日?………明日も見学なのか?
「はい、じゃあまた明日!」
バタン!………講堂のドアを閉めると、ことりさんは俺の手を強く引っ張り廊下へ出た。…………まだ色々と聞きたいことがあったのだが。
「ことりさん、どうしたんですか?………あんな急に出なくても…………そもそも、また明日見学なんですか?」
「ああ、うん。………ごめんね、伝えてなくって」
「………いえ、気にしてな――――ッ!」
「…………虎太郎君のせいだよ、馬鹿………本当に馬鹿……………大好き………」
どうやらキスをされたらしい。………唇に淡く残った柔らかい感触と、頬を赤く染めたことりさんの姿から、俺はようやくその事実に気付いた。
「ことりさん………」
そんな彼女を、俺はそっと抱き締める。………あの日の夜と同じ香水の香りが、俺の鼻腔をくすぐった。
「………俺も、好きです。………多分、これは愛してるって感情なんだと思います。…………愛してます、ことりさん」
「………私も、愛してる………」
「すみません、ことりさん………キスしても良いですか?」
「ほんとに変なところで真面目な人だね、虎太郎君は。………良いよ。して?」
それから更に時間が経ち、夕飯を済ませた俺とことりさんはそのままマンションへと向かっていた。
「………ことりさんって、俺のこと好きなんですよね?」
「うん。………どうして?」
「………何で、どこが好きなのかなーって思って。………ほら、俺ってことりさんのこと押し倒したり結構滅茶苦茶やってるじゃないですか」
「そうだね」
………否定しないあたりことりさんらしい。
「………聞いても良いですか?」
「………んー、そうだねぇ。多分、虎太郎君が私を引っ張ってくれる人だったから………かな?」
………は?
「………いや、俺はことりさんに引っ張られっぱなしですよ?」
「………えっとね、その………言いにくいんだけど、初めて押し倒された時とか物凄くドキドキしちゃって、………その後もそう、………ほとんどエッチなことだけど、私の知らないものを虎太郎君は見せてくれるから」
…………ほとんどエッチなことだけどって………。
「………え、じゃあ俺がエロいから好きってことですか?」
「いや、そうじゃないんだけど………いや、うーん………そうなのかなぁ。………とにかく私って、昔から引っ張ってくれるタイプの人に弱いみたいなの」
引っ張ってくれる………成る程、穂乃果さんのようなタイプの人間か。………いや、俺と穂乃果さんは全然タイプ違うし、俺の引っ張るは主にエロ方面にだけど………。
「成る程………」
「何かごめんねぇ、こんな理由で。………虎太郎君は、どうして私のこと好きなの?」
「そうですね、元々は………やっぱり一緒に住んでて、でも何も出来なくて………だから、」
「あっ………ムラムラしちゃってたの?」
「しちゃってました。………でも、途中からそれも変わっていきました。………花田さんの前でも言いましたが、ことりさんって可愛いんですよ。顔も仕草も、少し垂れた目も、全部可愛いんです。笑顔が可愛いです。普段は余裕たっぷりのクセに、押しに意外と弱くて、そこもたまらなく可愛いです。朝、髪型が中々決まらないと少し不機嫌そうな顔をしてるのも可愛いです。……俺なんかよりずっと遠くが見えてる格好良い姿も好きです。……一緒にいると幸せな気持ちになれるのが好きです。ずっと一緒にいたいです。それから………」
「あっあぁっ、虎太郎君………あっあのあの………あううぅぅ………」
ぶしゅううぅ。顔を真っ赤にしたことりさんは雑にマンションの駐車場へ車を駐車させた。
「………これ、めっちゃナナメになってますけど、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫…………早く帰ろっ」
「はぁ………」
………ことりさんが良いなら別に良いか。
これで、今日の話は終わり。………ではなかった。
「ねぇ、虎太郎君…………さっきああいう話してたから、その………」
「あ、すみません電話が………」
スマホの着信音が室内に鳴り響く。………誰だ?
「………っと、こころ姉さん!?………もしもし」
「あっもしもしー。………虎太郎?元気にやってるー?」
この声………ここあ姉さんか?
「うん、ことりさんに良くしてもらってるよ。………というか、何でここあ姉さんが?それ、こころ姉さんのスマホだよね?」
「………うん。実は今、こころ
………電波が入りやすい?
「………今どこにいるの?」
「沖縄」
「はぁ!?」
………夏休み満喫してるなぁあの姉妹は!!
「いやぁとはいっても遊びで来てるワケじゃないんだよー」
「どういうこと?」
「実は………」
「それは私が説明しますっ!」
「ちょっ………こころ姉っ!?」
………何やってんだあの二人は。
「………実は、お姉さまの計らいで、私とここあは花陽さんの所で夏休みの間お世話になることになったのです」
「えっ、いや、はー!?……………花陽さん!?待って、そもそも花陽さん今沖縄住んでるの!?」
「いえ………何でも、花陽さんは今農家の方へ色々なお野菜やお米の正しい育て方・手入れの仕方を指導するお仕事をされているみたいで…………ちょうど夏休みの間は沖縄で農家さんにご指導されるとの事で……」
にこ姉さんからはふわっとした曖昧な情報しか入ってきていなかったから知らなかったが、花陽さんも頑張っていたんだな………。
「………って事は花陽さん、全国飛び回ってるの?」
「はい。………とても大変なお仕事のようです。………夏休みが開けたら収穫時期に合わせて徐々に北上していくとのことで………」
台風かよ。
「………そもそも、それってにこ姉さんが計画したんだよね?何でだろ?」
俺の場合と違って全く姉さん達には関係のなさそうな仕事だけど………。
「それは私が聞きたいです。………あ、でもお米は美味しいです」
そりゃあ農家で食うお米は美味しいでしょうよ………。
「………花陽さんは?近くにいるの?」
「はい。………花陽さーん!」
「あっ………ちがっ、別に呼ばなくても!!」
「おはようございます。………あっ、もうそっちは夜なのかな?こんばんは、虎太郎君。久しぶりだね」
「こんばんは………」
花陽さんの声だ………。
「最後に会ったのはまだ虎太郎君が小さかった頃だから、虎太郎君は覚えてないかな?」
「そうですね………あまり覚えていません」
「だよねぇ。えへへ、何だか不思議だなぁ。………あっ、ことりちゃんいる?」
「はい、すぐ隣に。代わりますね」
そのままスマホを渡すと、ことりさんはいつもの甘い声で話し始めた。………長くなりそうだ、珈琲でも淹れよう。
その俺の考えはどうやら正しかったらしく、たっぷり三十分程かつてのメンバーとの会話を楽しんだことりさんは、申し訳なさそうにスマホを俺に返したのだった……。
好きやカッコいいの気持ちを素直に表に出せる、そんな大人に私はなりたい。
………虎太郎君は基本的に“拙い理想”とでも言えば良いんでしょうか。私達であれば恥ずかしくて言えないような言葉を口にしたり行動に移してもらったりしています。……しかし、彼はその行動原理だったりを上手く言葉にする器用さがありません(好きの気持ちに素直なのは、にこちゃん譲りなイメージです)。
そんな彼の姿を、どうか今後も見守って頂きたいです。