――ザザァ……ザァ……
波の音を感じながら神奈を抱いていた。
時折激しい波濤の音が崖に打ち寄せられ、その音に呼応するかのように腰を打ち付けていく。神奈は身悶えながら穿たれる男根を感じていた。
膝を立てる。
身を起こして横の窓枠を見た。……月明りが眩しい。さっきまで夕陽だった。時間の経過がわからなくなっている。
時計を見ると夜の9時をまわっていた。
「……広大……さん」
挿入している結合部に神奈の手が触れた。愛撫する手つきではなく制するような動きで。
「赤ちゃん……そろそろ」
「……ああ」
さっきから。
隣の部屋から赤子の声が聞こえていた。だが行為をやめられず、どころかどんどん激しくなっているのを、いい加減言われるだろうとは思っていた。
仕方ない、と名残り惜しく彼女の膣内から抜いた。……相変わらず、熱が凄い。最近は終わり際になるほど熱量が増している気がする。神奈も快楽を引きずっているのが伝わった。
ふう、と一呼吸して落ち着いてから、シャツ一枚だけを羽織って隣の部屋へと向かった。
籠は買わなかった。閉じ込めている気がして嫌だったからだ。セミダブルのベッドに赤ん坊が横たわり、泣き声で母親の母乳を求めていた。
よしよし、と抱き上げて隣の寝室へと連れていく。
神奈に渡すと、彼女は裸のまま、娘の授乳を始めた。
寒そうに見えたので肩に毛布をかけてやった。
必死に母乳を飲む娘を見ていたが、ふと――。
神奈が、口元をキュッと結んで反対側をむいてしまった。
「お、おい」
「……見ないで」
「なんで?」
「……恥ずかしい」
「どこが? 赤ん坊がお乳を吸ってるだけだろ」
神奈は耳まで真っ赤になっていた。
なにを恥ずかしがることがあるんだろう。さっきまでもっと恥ずかしいことをしていたのに。
彼女の背中に覆いかぶさって娘ごと抱きしめた。
「あ、……っ」
「こっちを向くんだ」
「だ、……ダメ」
「俺にも見せろよ。こんな光景、そうそう見られるものじゃない」
久しぶりに岬の家――神奈と娘がいる別荘に立ち寄れた。仕事が忙しくてなかなか来れず、日々の成長をする赤ん坊の顔もろくに見れなかった。
会ってみて驚いた。もう見た目が1歳くらいになっている。生後1週間しかたってないのに。
やはりというか、……もう疑いようもなく、デラ=グラントの血を引いていた。
出産直後に病院から抜け出して正解だったようだ。産褥の恐れはあったが、恵子の手助けでなんとか感染症を防ぐことができてホッとした。
「……いやです。見ないで」
「ほら、蒔奈。お母さんのおっぱい、こっちにもあるぞ」
背後から神奈の左胸を掴んで揉みまわす。娘の口元へと近づけると、飲んでいた右胸から離れて左胸へと吸い付いた。
可愛い。
大きくなったらどれほど美人になるのか。顔立ちも目元も神奈によく似ている。体重は2400グラムと少ないほうだったが、健康そうで元気な赤ん坊だった。あんなにお腹の中で暴れていたしな。
「こ、広大さん……」
「ん?」
「あっち、行ってください!」
神奈が娘を抱きしめながら俺の腕から離れた。ベッドの端へと身体を寄せて背中を向いて俯いている。
……裸の背中が震えていた。
マジなのか。そんなに恥ずかしいのか。完全に照れていた。
どうしてそんなに恥ずかしいんだろう。
わけがわからないが、それ以上虐めるわけにもいかず、仕方なく、彼女の寝巻を取って後ろから着せた。
「……あ」
「裸は風邪をひく。俺は少し海岸でも散歩してくるよ」
帰ってきたら続きをしよう、と耳元で囁くと、神奈はコクリと嬉しそうに頷いた。
機嫌を損ねたわけじゃなくてよかったが、――この勃起。どうしよう。
抜くわけにもいかず、そのまま固い状態で服を着て、家を出た。
夜風が気持ちいい。
少し気持ちが落ち着いた。……勃起はまだおさまらないが。
久しぶりの神奈とのセックス――最高だった。
産後まもないからコンドームはつけたが、それでもあの締まりと吸い付く子宮口がたまらない。会陰の傷はもう塞がっていた。恵子の処置のおかげだ。彼女には頭があがらない。
なぜ麻酔なしで会陰を切開するのか、日本の産科医療には疑問しかわかない。いくら陣痛で痛みが相殺されるとはいえ……。
海の波が穏やかだった。
この海岸のすぐ近くに通称三角山と呼ばれる尖った岩山がある。そこまで足を伸ばしてみよう。あの遺跡も後日また調査しに行く必要がある。
神奈の超念石の秘密を少しでも紐解かねば。彼女の命を消さないためにも。
時計を見る。――午後10時。
静かだった。こうして一人で海岸を歩くことなんてもしかしたら初めてかもしれない。風が頬を撫でていく。月明りに照らされた夜の海が綺麗だった。
なのに……。
下半身がまだ昂っている。よほど神奈の中が気持ちよかったのか。ドクドクと脈打つ自身が彼女の膣内を欲していた。
早く抜きたい。彼女に挿れたい。これをおさめたい。
邪な考えばかりが浮かぶ。――そんなとき。
海岸の岩群のひと隅に、何か白いものを見た。
「……?」
遠くてよく見えないが……。
岩の陰から、なにか、……?! 足?! 人の……足だ?!
走り出す。あの様子では倒れている。しかも素足だ。まさか死体とか。
やっと近づき、息をきらせて岩陰を見た。
――女だ。
しかも全裸の。気を失っているのか死んでいるのか意識がない。金髪の……女性。外国人か。いったい、なぜこんなところに。
おそるおそる、触れてみる。
腰のあたりを指で触れる。……暖かい。体温がある。死体ではなかった。
口元に手を当ててみると、わずかだが呼吸をしていた。……ホッとする。ともかく最悪の事態ではなかった。
申し訳ない、と思いつつも身体を起こして腕に寄りかからせた。下は砂地とはいえ全裸では身体が冷える。上着を肩に掛けたが、どうも……目のやり場に困った。
なんて魅力的な身体なんだ。
恵子より胸がデカい。それ以上に肌がきめ細かくて雪のようだ。形のいい乳房、ひきしまった腰、ふくよかな臀部……。
いかん。
さらに固くなってきた。
見知らぬ外国人の女性に興奮している。節操がない自身をどうにかしたい。
「……ん…」
目を開けた。
し、しまった。人命救助とはいえ抱きしめている。これでは誤解されても。
「だ、……大丈夫か?」
なんて当たり障りのない言葉だ。だけどこれは決してヨコシマなものではなくて。
と言いそうになって、……見惚れた。
青い瞳。碧玉ともいうべきか。見つめるだけで吸い込まれそうなほど深い色。
しばしみとれていると。
彼女の手が伸ばされ。
そのまま……唇を重ねてきた。
「……っ?!」
……え?
キス、……されてる。
しかも……口の中を……かき回している。ゆっくりとだが、舌で俺の舌を……まさぐって……。
これはただのキスじゃない。情愛のある男に向けるキスだ。それをこの女は俺にしている。
「ん、……ぅん……ぁ……」
「く……あ、……はぁ……」
離れられない。
離れようとしたが、……無理だ。この女の求めに逆らえない。必死に俺の反応を引き出そうとしていた。まるで砂漠で水を求める旅人のように、失った渇きを癒そうとするかのように。
こんなキス……。
神奈にも、恵子にも、したことがない。
これは浮気なのか。……浮気しているな。だけど浮気でもいい。気持ちがいいんだ。この女のキスが、とても。
唇をようやく離したとき。
女の目が、無言でもっと行為を求めていた。言葉がないのに伝わる。まるで心が読めるかのようだ。
背後を振り向くと、岩山の窪み――洞窟があるのを見つけた。
あそこなら風も来ない。こんな吹き曝しの所よりも、いくらか落ち着ける。
女を抱き上げた。
何か言ったほうがいいかもしれないが、ただ無言で縋りついてくる彼女にかける言葉も浮かばない。――今から俺がするのは間違いなく浮気だ。
だからこの場でやらせてもらう。
水音がする洞窟の中に入り、肩に掛けていた上着を下に敷き、女の身体を下ろした。
優しい顔だ。俺の頬に手を伸ばし、幸せそうに微笑んでいる。……誰かと間違えているのか。
こんなに安らいだ顔をする相手だ。きっととても大切な人なんだろう。
……いいのか?
俺なんかが相手をしてしまっても。
罪悪感と後ろめたさがよぎる。しばし躊躇っていたそのとき。
彼女の身体が、淡く光り、希薄になった。
「……え?」
泣きそうな顔で自らの身体を抱きしめる女を、慌てて両手で抱き寄せると、希薄さがなくなった。俺の腰を掴んで震えている。
よくわからないが、――俺がいると彼女が安定する。
どうやらそうらしい。身体が薄くなるとか、そんなのとても信じられないが、いまこの目で見てしまった。信じるしかない。
繋がるしかなかった。
彼女を消さないためにそうするしかない。ついた情欲の火も消えそうもなかった。
波音がする。
その音に促されるかのように――。
女の股を、ゆっくりと開いていった。
7月に入ったばかりとはいえ。
夜はまだ冷える。しかも湿気の多い洞窟の中。あちこちの鍾乳石から水が滴る音が響いている。
しかし下半身はいつになく熱くなっていた。
震える手で俺にしがみつき、ズボンの中から窮屈そうなそれを取り出した。……慣れている。男の象徴に触れる手つきに躊躇いが微塵もない。
いや、……これは。
娼婦の手つきではない。神奈や恵子と同じ、愛する男の分身を愛おしく思う手つきだ。この娘は愛された経験がある。
男根を撫でながら俺の顔を見つめてきた。
入れていいのかと問うている。言葉はない。だが心がなぜか伝わる。――不思議だ。彼女から俺への揺るぎない思慕の情を感じた。
コクリ、――と頷いた。
嬉しそうな顔で足を開き、首に腕をまわしてきた。……やばい。
こんなふうに縋りつかれたら、もうとまれなくなる。
俺は……。
初めて会った女に、恋に落ちていた。
自分が信じられない。だがもう疑いようがなかった。名前も知らないこの娘を抱きたいといま強く思う。欲しいと願っている。
欲情がとまらない。
息を呑み、女の足を抱え上げた。そのままゆっくりと……彼女の膣内へと押し入っていく。
挿入した瞬間。
電撃でも落ちたかのような衝撃を受けた。……なんだ、これは。
奥から……なにかが……出てくる。
だが気持ち悪いものではない、むしろ、……気持ちいい。とてつもなく快感だった。
男根にまとわりついてくる。柔らかく、撫でるような感触。無数の――触手のようなもの。
奥――子宮の奥から次々と送られてくる。荒い息のままペニスをそのまま深くへと潜りこませた。やはり子宮からだ、子宮口から伸ばされている。
性器の変化。
……まさか。
この娘は、……そうなのか。
うっとりとした表情で固い男の肉塊を感じていた。感じ入ったかのように目に涙を浮かべている。
心が伝わる。
欲しかった、と。
そういう感情が伝わった。
……そうか。
俺は君の愛する人とは違うけれど。
できる限り近づけるように抱いてみるよ。
覚悟は決まった。
このかわいそうな娘を、俺のでイかせてみせる。
両尻を持ち上げる。
両手で鷲掴みにして岩壁を背に胡坐をかき、正面から彼女と深く繋がった。
幸せそうに嬉しそうに、彼女が微笑む。
俺の動きを望んでいた。そうされたことがあるのだろう。きっと何度も同じように愛された。
「動く……ぞ」
もうもたない。息子は爆発寸前だ。しかもこの膣内部の触手のせいでいつ射精してもおかしくなかった。
……しまった。
コンドーム、持ってない。このままだと膣内部にそのまま出してしまう。
だが、俺の考えがわかったかのように。
彼女の心が伝わった。精子を欲する気持ち。ありのままの素直な気持ちだった。
俺が誰なのかわかるのか?
そう心で問いかけてみる。だが答えはない。ただ望んでいるのだけはわかった。
……本気で好きになりそうだ。
こんな美しい女性、見たことがない。神奈も、恵子も、それなりに美しいと思う。だが。
愛されることでこの娘は美しさをより増していた。
――ズッ……
奥を突く。
子宮口から出ている触手が、俺のを迎え入れるかのように導いた。
いや、導くどころか引っ張り寄せている。……この中に入れというのか。なんてエロい、いや、素晴らしい性器だ。
誰だこの女の性器を変化させたやつは。
こんなに求めているというのに一人ぼっちにさせるなんて。
俺がその孤独を埋めてやる。
彼女の身体を思いきり持ち上げ、そして叩きつけた。遠慮なく動かし、亀頭をその卑猥な孔へと少しずつ侵入させていく。
孔が開いていく。
臨月だった神奈のときも開いていたが、あのときは産道へと繋がっていた。
今はこの孔の向こうが子宮そのものへと繋がっている。
興奮――する。
とまれなかった。ビタンビタン、と尻を打ちつける音がだんだん激しくなる。ひたすら奥へと突き進む。ただ欲望だけを剥き出しにして彼女の子宮口を乱暴に突きまくっていた。
この触手……ヤバすぎる。
とてつもなくエロい。カリも棹全体も愛撫している。それでいて奥へと引き込むこの動き。
出る……。
だが射精感を抑えた。まだだ。まだ出せない。出すなら奥だ。子宮内へと直接注ぐ。そうしなければこの肉欲は収まらない。
彼女を見る。
俺の動きを全身で感じていた。快楽で染まる頬、汗で光る肌、揺れる乳房、すべてが――絶世の美女だ。
こんな女を抱けるなんて。
丸みを帯びた胸に吸いつく。むしゃぶりつくように吸い上げた。そうしながらも動きはとまらない。
俺はもう、この女をイかせるつもりが、俺自身がイきたくてたまらなくなっていた。
そうしてもいいのだと――。
喉をのけ反らせながら彼女の心の声が伝わった。
いいんだな。
奥へと出しても。
俺の精を受け取る覚悟があるのなら……。
もう躊躇わず、遠慮なく、ぶちまけさせてもらう……!
「くぅ、……っっ!!」
最後の一突き。
子宮口を抉って内部へと侵入した。
途端にブワッと中から愛撫の襞が押し寄せる。子宮内も……変化してるのか。いや、もともと変化していたのはここだったんだ。
亀頭に纏わりついてくる。その吸引力と締めつけに、もはや抗うすべはなく。
扱かれるまませり上がる精液を噴出した。
「は、……あぁ……ん……」
彼女の吐息を間近で感じ、その唇を貪るように口づける。
出しながら咥内を激しく荒した。だが荒々しくすればするほど、彼女からの求めがかえってくる。
こんなに……。
飢えていたのか。
君の想い人はどこに。もういないのか、それとも、どこか遠くにいるのか。
出しきったところで、再び彼女が動きだした。
俺も、一回で済ますつもりはない。
地面に横たえ、背後から腕を引っ張って繋がったまま。
そのまま彼女を激しく突きあげた。
この美しい女をすべて食らい尽くすまで、この性交は終わりそうもなかった。
――ザ……ザザ……
潮騒の音。
まるで胎動のような心地よさだった。
嵐のようなセックスがやっと終わりを告げ、彼女を抱きしめながら壁にもたれていた。
離したくない。
離してしまうとどこかへ消えてしまう――そんな気がする。
だが。
洞窟の中に潮が満ちてきた。そろそろ潮位が変わる。移動しなければ。
腕の中の柔らかな身体を抱きしめる。汗で濡れた額を優しく撫でた。
なんて満ち足りた表情なんだろう。
気絶してるように眠っているが、このまま目覚めないなんてことはないだろうか。
目を開けて欲しい。
またあの碧玉の瞳で見つめられたい。
辺りを見回してみると、ふと、洞窟の入口付近にあるものを見つけた。
取れるだろうか。
腕の中の彼女を一時だけ離し、すぐ近くなので後ろを振り返りながら入口へと近寄った。
……大丈夫だ。
中は空洞だ。巣立って間もないのか、蜜蝋だけが残っていた。
手ですくって舐めてみる。
問題なさそうだった。これなら……。
急いで横たわる彼女のもとへと戻り、身体を起こして口元に蜂蜜を垂らした。
「……ん…ぅ……」
甘い雫に目を覚ました。微笑んでそのまま彼女の口元へと蜜を垂らす。
はふ、と蜂蜜の味を噛み締めていた。
「疲れただろ。かなり激しかったからな……。これで少しは癒されるといいけど」
そういえば、まだ名前も聞いていなかった。
ていうか俺の名前も言っていない。
お互い名無しのままいろんな過程をすっ飛ばしてしまった。
「…………」
「名前は? どこから来たんだい? いや、名前だけでもいい、教えてくれないか」
「 」
「え……? なんて?」
「 」
口は動いている。
だけど普通の声ではない。……話せないのか?
いや、喘いでいた。声は出るはずだ。それとも言葉が通じないのか。
「 」
「ごめん。なんて言ってるのか、よくわからない。俺の言ってること、わかるか?」
「……ゆ……」
「え? なに?」
「…………ゆ …………の…………」
「ゆ、……の? それが君の名前なのか?」
「………… ………… …………」
もう完全に、何を言ってるのかわからない。
理解不能の言語だった。もしかして。
「君は……デラ=グラントの人間なのか」
彼女が俺にしがみついてきた。
肯定だということか。言葉が通じないのはもどかしいが、それならば納得がいく。
肩が震えていた。
かわいそうに。異世界から放り出されて、独りぼっちで、いままで……。
「……ぱ………… ぱ……」
「え?」
「…………ぱぱ…………」
ぱぱ……パパ?
それは俺のことか?
いや、この娘の父親のことなのか?
だが、この腕の強さ……しがみつく強さ、これは。
さっき愛し合ったときと同じ感触だった。
「まさか……君の想い人は」
一瞬だった。
彼女を抱きしめている感触が、消えた。
幻のように――。
女は姿を消してしまっていた。
この世の果てにいるユーノとの逢瀬でした。
どうしても書きたかったのは、蜂蜜をユーノに与える場面です。
この蜂蜜をどうしてもあげたかったんです。
かわいそうで。
神奈の過去とは違うものですが、これも番外編ということにしてください。