※この作品はR-18です。

【YU-NO】たくやくんの女性遍歴   作:千月華音

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原作とは違う神奈ルートです。
神奈過去編からの続きとなっておりますので、そちらからご覧ください。

ちょっと長くなりそうなので途中できりました。
微エロですが、ご了承ください。


神奈ルート Another~1

 

 

 

 同じだった。

 あの人と、――そっくり。

「……神奈チャン?」

 路地裏で。

 客引きをしていた私の手を引っ張って大通りへと連れてきたその人は。

 私を見て驚いたような顔で呆然と立っていた。

 きっと、客引きだったこともわかっていないのだろう。男に絡まれただけだと思っているに違いない。

 表情が――よく、似ている。

 驚いているけれど、どことなく心の中で納得しているような、だけど認めたくないような。

 違う部分は、そう。

 あの人はその場で私を買ったけれど。

 この人はそんなことはしないだろうということだった。

 人目が、繋ぐ手に注目されていることに気づき、手を離した。

「波多乃……神奈チャン、だっけ?」

「……はい」

「こんな夜遅くにあんな暗い道に入り込むなよ。さっきみたいに絡まれるぞ」

「……すみません」

 深夜0時過ぎ。

 終電も終わっている時間。

 今夜は客を一人逃したから、帰る手段もないし、泊まるお金もない。

 野宿か。

 公園にでも行こう。

 茂みの裏にでも行けば誰にも見つからない。

「……待てよ」

 踵を返したとき、後ろから声をかけられた。

 険しい顔でこちらを見ている。

 街頭の灯りだけだが、表情の陰が静かな怒りを秘めていることに気がついた。

「どこに行くつもりだい?」

「……帰るんです」

「こんな時間だぜ。家はこの近くか?」

「どこでもいいでしょう。あなたには関係な」

「来いよ」

 再び手を引かれる。

 グイっと力強く引っ張られて、思わずつんのめった。

 明らかに怒っている。いったいなにに?

 わからない。だけど。

 見上げた背中が、……あの人のそれと重なった。

「俺の家、この近くなんだ。今夜は俺以外誰もいない」

「……遠慮します」

「別にやましい気持ちはないよ。今夜一晩だけ寝る場所を提供してやるってだけだ」

 手首ごと掴まれてそのまま歩き出す。

 離して、と言うのは簡単だが、離してくれそうもなかった。

 歩き出すうちに懐かしい匂いが鼻孔をくすぐった。

 ――潮風。

 夜風に紛れたこの匂い。何年前だろう、毎日この潮騒を聴いていた。

 そう……。

 この家で。

「俺ん家。……入って」

 やっと。

 振り向いた彼が、柔らかく微笑んで私を見つめた。

 瞬間、心臓が跳ね上がる。

 なんて……似ているの。

 若い頃のあの人にそっくり。

 幼い頃はそれほど似ているように思えなかったのに。

 動揺を押し隠すように手を振りほどいた。

「ごめん、痛かったか?」

「……いえ」

「こうでもしないと来てくれそうもなかったしね」

「…………」

「そう警戒しなくていいよ。なにもしやしないから」

 知ってる。

 普段は女好きな風を装っているけれど。

 あなたはそんな人じゃないってことを。

 ずっと見ていたから。

 導かれるように玄関に入った。

 ……懐かしい匂い。

 ああ、でも――少し違う。

 女の匂いがわずかにする。

 靴が綺麗に整えられている。玄関に飾られたドライフラワー。塵がひとつも見当たらない。

 あの人の女の匂い。

 違うのか、今は……この人の女なのだろうか。

 チラリと見上げると、はにかんだような笑顔でどうぞ、と手招いた。

 警戒心を解きほぐすかのような仕草。

 つられて、……やっと。

 靴を脱いだ。

 警戒なんてしていない。むしろ好都合だとすら思っている。この人から近づいてきたのだから。

 だけど。

 ……似すぎている。

 声も、仕草も、表情も、体格も。

 まるであの人の生き写し。

 広大さん。

 私にどうしてこの人を虜にしろなんて言ったの。

 どうしてそんな残酷なことを言えるの。

 できるわけないじゃない。

 私ではあなたを繋ぎとめることはできなかった。

 その私に、……どうしてあなたの息子を託したの?

「あそこ、バスルームなんだ。いま風呂を沸かすよ」

「……え?」

「寒かっただろ。少し身体を温めたほうがいい」

 今は12月。

 外は風が強かった。頬も手も冷えている。

 だけど。

「……そこまでしてもらうつもりは」

「入ったほうがいい。唇が紫色になってるぞ」

「でも」

「……入るんだ」

 手をまた引っ張られた。

 浴室へと連れてこられ、戸棚の中から替えのパジャマを取り出し、バスタオルを手渡された。

「俺のだけど多少大きくてもいいだろ。下着はないけどそれは目を瞑ってくれ」

「…………」

「服はそこに。あとで洗っておくよ。ドラム式だからすぐ乾く」

「…………」

「神奈チャン。ここまで来たからには言うことをきくんだ」

 湯舟に湯を張り出し、あと必要なものは、と言いながら浴室の準備をしている彼の背に。

 小さく呟いた。

「……帰ります」

 聞こえるか聞こえないかの小さな声。

 踵を返したとき、肩をグイっと思いきり掴まれた。

「帰さない」

「離してください」

「ほら、こんなに首が冷たい」

 首筋に指がかかる。

 その手を振り払って叫んだ。

「触らないで!」

「あの男には触らせたくせにかい?」

 カッ――と思わず平手を向けたが、その手首をきつく握られた。

「……ほら」

 と言って、その握った手首を下ろして手のひらにあるものを乗せた。

 見た瞬間、表情が凍りついた。

「……っ!」

「こんなものを拾うなんて悪趣味だけどさ」

 手が、……震える。

 しまった。あの男が落としたんだ。てっきり片付けたと思ったのに。

 考えてみればそんなこと客がするわけなかった。

「だいぶ溜まってたみたいだな。何回分だよ、これ」

「~~~っっ!!」

 手のひらの上に、……精液の詰まったコンドーム。

 それを握り潰そうとしたが、逆に取り上げられた。

「俺がきっちりと始末するよ」

「か、返して!」

「こんなもの必要ないだろ」

「あなたには関係ない!」

「こんなものを見たらもう関係するしかないな」

 ドンッ――!

 壁に思いきり叩きつけられる。

 逃げられないよう両腕で閉じ込められた。……何をする気?

 まさか。

「シャワーを浴びて湯舟に浸かるんだ」

「……?」

「性交したままの身体でこんな冷えた夜に晒されてみろ、体調を崩す」

「だ、だから帰ると言って」

「どこに? 電車はもうない。財布も持ってないじゃないか。公園で野宿でもするつもりか」

「……っ」

「俺が男だからか。代価が必要だと思ってるのか?」

「…………」

「そんなつもりはない。君は俺のクラスメートだ。同級生を泊めてやるだけだよ」

「……どうして」

「ん?」

「売春、……していたことを、どうして、何も言わないの?」

 普通なら軽蔑する。

 それなのに使用済みコンドームを隠し持って、わかってて何も言わず、ここまで連れて来るなんて。

「生活のためなんだろ」

「え……?」

「身体を売るなんて、手っ取り早く稼ぎたいか、他に稼ぎ方を知らないか、そのどっちかだ。君はまだしっかりしてるよ、ちゃんとコンドームを付けさせている。どんな病気を移されるかわからないし、避妊はリスクが高ければ高いほどしたほうがいい」

 ……驚いた。

 至極真っ当なことを言っている。

 私情を交えず客観的にとらえているその見方に、思わず感心した。

「……誰の受け売りですか?」

「これでも持論だ。女性関係はいやというほど経験してるんでね」

 ――かなり懲りたらしいぞ。

 広大さんが言っていた。年上の人にフラれた後、しばらく落ち込んでいたらしい。

「神奈チャン。そろそろ入ってもらいたいんだけど」

「……はい」

「今度は断らないんだな」

「お言葉に甘えます」

「けっこう。上がったら寝床を用意しておくから二階に来てくれ」

 ――パタン

 浴室の扉が閉まった。

 鏡を見る。……ひどい顔。こんな顔で私、あの人の息子に会ったんだ。

「……っっ」

 嗚咽を噛み締める。

 泣くな。

 泣けば余計に惨めになる。

 だけど。

 広大さん。

 あなたがたくやくんを大切に育ててくれたのがわかった。

 神奈はもう、……必要ないですね。

 ――たくやを頼む。

 頭にこびりついた彼の言葉。

 呪いみたいに纏わりつく。

 だって、……神奈がいなくても、たくやくんはもう。

 ――神奈。

 会いたい。

 広大さん。あなたに会いたい。

 神奈を一人にしないで。

 もう一人は、……耐えられない。

 

 

 

 

 

「……俺のバカ」

 手に持つコンドームをゴミ箱に放り込むと、自嘲するように呟いた。

 なんで見せたりしたんだ。

 こんなもの後で捨てればいいだけの話だろ。

 だけどこうでもしないと。

 彼女は見知らぬ男の家の風呂に入ることはしなかった。

 見知らぬってことはないか。

 一応、クラスで顔は合わせている。

 ……だけど。

 なんでこんなものを拾ったりしたんだろう。

 まだ瞼に焼き付いている。彼女の白い太腿。尻を鷲掴む男の手。喉をのけ反らせて喘ぎ声を押し殺す姿。

 見惚れていた。

 最初は誰なのかわからなかった。ただのカップルかと。

 だけど聞こえてきた声に、まさか、と目を疑った。

 可愛い転校生だと思っていたのに。

 まさかあんな、……壮絶な色気を持つ子だったなんて。

 自然と勃っていた。

 最近自慰しかしてなかったせいもあるが。

 ご無沙汰してるのを加味するとしても、――あれはヤバすぎる。

 動画で撮っておくべきだった。

 いやそんなものを残して万が一バレたら取り返しがつかない。脳裏に焼き付けておくにとどめよう。

 ……俺って。

 つくづく、年増に弱い。

 神奈チャンは年増じゃないが、あの顔、あの身体、……艶がありすぎた。

 待て。

 美月さんと別れてからまだ一月もたってないぞ。

 まだ彼女を思いきれてないくせに。

 しかし、……綺麗だったな。

 売春か。

 ポルノとかでしか見たことがない。

 お金に困ってるのかな。

 俺が買うと怒るかな。

 小遣いは、……3万円くらいしかない。

 親父の遺産は、入ってくるどころか、管財人とかいうものに管理されて、まったく使えない状態だ。

 聞くところによると数億円あるそうだが。……納得いかない。

 とにかく。

 お金に困っているのならなんとかしてやりたい。

 といっても、ただのクラスメートだ。絶対に断られる。

 だけど、とりあえず家に泊めることはできたわけだ。

 ここからなんとかステップを踏んで、あわよくば付き合ってもらえないだろうか。

 だから。

 なんで俺はこう、気が多いんだ。

 だけど神奈チャンを抱いてみたい。

 それには恋人同士になるしかないよな……。

「……あの」

 後ろから声を掛けられ、思わず息がとまった。

 新しいシーツと毛布を自分のベッドに掛けながら、いろいろと妄想……もとい考えていたから気づかなかった。

 俺のパジャマを着て、部屋の入口で立っている。

 ……可愛い。

 サイズがまったくあってないそのダブつき感がたまらない。

 それにあのパジャマの下は全裸だ。

 いや普通は服の下はそうなんだけど。

 下着をつけてないんだよな。

「ドライヤーお借りしました」

「ああ、うん、置いておいてよかった。乾いたみたいでなにより」

「ここ、有馬さんのお部屋ですよね」

「たくやでいいよ。そう、俺の部屋だけど、シーツとか掛け布団は全部替えたから安心して使ってくれ」

「……私が使っていいんですか」

「他に空き部屋がないし。空いてはいるんだけど、一つは故人で、もう一つは……」

「女性のお部屋ですよね」

「え?」

「すみません、隙間から少し見えました。香水の香りがしたので」

「あ、……うん。義理の母の部屋なんだ。今は会社に寝泊まりしてて帰ってこないけど、一応そのままにしてる」

 しかし連日だ。

 いくらまだ若いとはいえ、年頃の女性がこうも仕事漬けでいいのだろうか。

 一体なんの仕事なのか知らないが、いい加減帰ってきて欲しい。

「有馬さんはどこで休むんですか」

「たくやでいいって。俺はどこででも寝れるから。下のソファで横になるよ」

「……一緒に」

「え?」

「一緒に、寝ませんか」

 きょとん、と顔を見つめた。

 照れているような様子はない。

 相変わらずの無表情のままの彼女だ。

 言葉の意味がわからない。

「……それはどういう意味だい?」

 誘っているのか。

 それとも親切心で、ベッドを追い出すわけにはいかないから?

 神奈の表情はそのどちらにもとれるようで、読み取ることができなかった。

「男と二人でベッドに寝たら、どうなるかわかりそうなものだけど」

 まして。

 あんな魅惑的な姿を見せられた後だ。

 一緒のベッドになんて入ったら、息子がどうなるかわからない。

「有馬さんのお好きにしてもいいです」

「……神奈チャン」

「こんなことでしかお礼を返せなくて、申し訳ないですけど」

 ……この娘は。

 本当に、ただ感謝のつもりで言っているのか。

 身体を開くことになんの抵抗もない。どころか。

 それすら申し訳なく思っている。

 ふう、とため息をついた。

「君は親にどういう育て方をされたのかな」

「え?」

「感謝の意味をはき違えてるよ。気安く身体を捧げられても、それを喜ぶ男ばかりだと思うのか?」

 いつになく強い口調で言ってしまったが。

 たとえ売春してるにしろ、もっと自分の身体を大切に思って欲しかった。

「…………」

「君はもっと自分を大切にしていると思っていたけどね」

「…………」

「いいよ、君の気が済まないというなら、俺はどこか知り合いの家にでも行くよ。深夜だけどあいつなら叩き起こせる」

 電話をかけようと机に向かうと。

 その手を阻むように神奈の手が重なった。

「……ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんです」

「どんなつもりだったのかな」

「コンドームを……捨てずに拾ってくれて、ありがとうございました」

「え……? それ……?」

「神奈のしたことを咎めなかった人は、あなたが二人目です」

「……聞いていい? 一人目は?」

「……ごめんなさい。今はまだ、言えません」

「じゃあ、……いつか教えてくれる?」

「はい。……いつか」

 神奈の顔が近づいてきた。

 自然と、引き寄せられるように、口づける。

 唇を離すと。

 彼女のフワリとした微笑みに、思わずドキッと心臓が高鳴った。

「……神奈チャン」

「はい」

「俺の名前、言って」

「……たくやさん」

「うん」

「神奈を、抱いてくれますか?」

「……喜んで」

 彼女を抱き上げた。

 そのままベッドへと降ろすと、神奈がそっと壊れ物でも触れるように優しく腕をまわしてくる。

 告白もなにもしてないけれど。

 自然と求めあう姿に、なぜかとても心が喜びで満ちていた。

「……あ」

「どう……しました?」

「コンドームが、ない」

 買い置きはもう使ってしまっていた。

 買ってこよう。

 近くのコンビニに行けば売ってるはず。

 だが。

 神奈が右手にそっと袋を握らせた。

「……持ってたのか」

「最後の一個ですけど」

 プッ、と思わず笑いがこみあげた。

 その様子が神奈の悋気に触れたのか、ポカポカと軽く叩かれた。

「ごめん、ごめん。さすがというか、用意がいいことで」

「だから、これが最後の一個なんですっ」

「じゃあ一回しかできないな……」

 残念、と思いつつも、神奈は耳元に小声で囁いてきた。

「ゴム無しでも、いいですよ。……あなたなら」

 ゾクッ――!

 その声に背筋が震えるほどの興奮が走った。

 さすがにそれはマズいという気持ちがあったが、……神奈が許してくれた。

 それだけで勃起が最硬度にまでなってしまった。

「……あっ」

 神奈を押し倒し、首筋を吸い上げながら荒い息を抑えることもなく、彼女を見下ろした。

「ダメだ、そんなことを言ったら。……とまらなくなるぞ」

 喉をのけ反らせる彼女の姿に、もはや歯止めが効かなくなりつつあることを自覚し。

 貪るようにパジャマを乱暴に引き裂いて、小さな胸に吸いついた。

 

 

 




新シリーズです。
どこまで続くかわかりませんが。
お付き合い頂けると嬉しいです。

ようやくたくやくんの女性遍歴が戻ってきました。
このたくやは、性的欠陥を持っております。
詳しくは異世界編をご覧ください。

ではでは、続きをお待ちください。
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