「……離れなさい」
眠りの中で。
腕の中のぬくもりがなくなったのに気づいて目が覚めた。
見上げると、久しぶりに見た男の姿に、思わずジッと見つめた。
「ただいま、神奈」
「……いったい、いつ」
「つい先ほどだよ。……どうした? そんなジロジロ見て」
「……本当に、広大さんですか」
「ああ」
「ずいぶん……面替わりされて」
「そりゃ、あちこちで苦労したからな」
それにしても。
一気に老けているように見える。
まだ二十代の後半なのに、……四十代くらいに。
ハッ――と彼が抱き上げている子供を見て、腕を伸ばしたが、遠ざけるように高く掲げた。
「返してください」
「彼は連れていくよ。これからの旅に必要だ」
「ま、まだ……6歳ですよ」
「もう6歳だ。物心つく前に離すと言ったはずだ。この年頃なら物心はとっくについている」
「で、でも」
「神奈。たくやの養育を今までありがとう。これは礼だ、たいした金額じゃなくて申し訳ないが」
テーブルの上に。
蓋の開いたアタッシュケース。中には万札がぎっしりと詰まっていた。
よく見ると床にも同じケースが五つほど。
一つに3千万円くらいだとすると……1億5千万円。
でもそんなお金よりも。
彼を連れて行かれてしまうほうが辛かった。
「お願い、返して」
「……神奈」
「やっと恵子さんの自殺を忘れることができたんです。もう思い出すこともなくなった。たくやくんの傷がようやく癒えて」
「君はたくやの母親じゃない」
「……っ」
「母親代わりなのは今日で終わりだ。これ以上一緒にいれば君を母親と慕ってしまうことになる」
「そ、それのなにがいけないの」
「神奈。……君とたくやのためなんだ」
背中を向けて。
彼が子供を抱き上げて行ってしまった。
とめようと動いたが、すぐ近くに控えていたボディガードが私を制止した。
「離してっ!」
「神奈様」
「たくやくんっ!」
「神奈を頼む。あとで迎えを寄越す」
「かしこまりました」
「いや、お願い、離してぇっ!」
――それが。
たくやくんとの別れだった。
次に会ったとき……正確には、遠くから見てすれ違っただけだけど。
彼は私のことを忘れていた。
……いつの間に。
夢中になって神奈の身体を口づけていたとき、脱ぎかけたズボンの下のイチモツが、白いコンドームで覆われていることに気づいた。
装着されたことにまったく気づかなかった。
彼女の肌に無我夢中になっていたことと合わせても。
さすがに手際がよすぎた。
……つまり。
「早く終わらせたいってこと?」
このコンドームを使ってしまえば、終わってしまう。
無くてもいいとは言ってくれたが、さすがにナマは出来ない。ピルだって飲んでないだろうし。
いや。
売春してるんだった。
だとしたら。
「飲んでいません」
考えを読んだかのように、胸を揉みあげ乳首を吸い上げたときに、かすれ声で言った。
……飲んでないの?
「アフターピルでもいいかなと」
そういうことか。
今時の娘らしい。ちゃっかりしてるというか、適当というか。
神奈がわずかに微笑んだ。
「……優しいんですね」
「え?」
「気分、壊すようなこと言ったのに」
「そんなこと思わないよ」
「そういうところ、優しいなって」
「……神奈チャン」
「はい」
「男に優しいは、禁句だ。それは違うよ」
「え?」
「こういうことしか考えてないんだ」
――ズッ……!
一気に。
彼女の膣内へと侵入した。
慣らしもせず、固い状態のまま根元まで一瞬で届いた。俺も彼女も経験済みだ。だから挿れたほうが行為を進めやすい。
「は……あっ……!」
気持ちよさそうに神奈が喘いだ。
なんて……淫らな顔だ。
あの薄暗い路地で見た何倍も艶っぽい。
美月さん……彼女が達しすぎた顔の、さらに倍以上、艶美な表情だった。
慣れている。
俺の、さらに上をいく練達者だ。
作り物の笑みなんかじゃない。本物の感じている顔。それがいま目の前にある。
――ゾクッ……!
背筋が泡立った。
興奮が加速する。
膨張が下半身へと伝わった。……いける。
最後に美月さんと交わって、久しく絶えていた、快楽の極みへ。
この女が連れて行ってくれる気がする。
「あ……う……ぅんん……っ」
神奈が身を捩って、膣内の男根を吸い上げてきた。
おい……。
なんだ、この動き。
本当にJKか。プロ顔負けだ。
すかさず突き上げる。
応えて、襞があらゆるところから弄りはじめてきた。
……すごい。
女の膣内がこれほど動くものだとは思わなかった。
膨張がやまない。熱がどんどん加速する。……息があがっていく。
俺は。
もうすでに、この女の虜になっていることに気づいた。
「か、……神奈、チャン……」
「はい……」
「ご、……ゴム、……外したい」
ダメだ。
それだけはダメだ。
とまらなくなる。射精感は漲ってはちきれそうだが。
ヤバい衝動がこみあげてきた。
射精……したくない。
ゴム無しでそれを味わいたい。
そのほうがより強烈だから。
「…………」
「だ、ダメかな」
ダメに決まってるだろう。
女の子になんてこと言ってるんだ。
せっかく好意でコンドームをつけてくれたんだぞ。
それはつまり、中で射精してもいいですよ、ってことだ。
コンドーム越しでならアリだと言ってくれたのだ。
それを外すとか、彼女の思いやりを無碍にする気か。
我慢しろ。
ゴムをつけたまま性癖に耐えるんだ。
「……たくやさん」
「は、はい」
「神奈の中に、出したくないんですか?」
……?
外すってことは、中出ししたいという意味で捉えると思ったのだが。
出したくない……?
ぶっちゃけると、そうです。
俺は射精寸前の快楽が好きなんです。
出すのは本当、どこでもいい。奥でも、外でも、……むしろ顔に。
神奈チャンの顔にぶっかけたい。
そんなこと言ったら絶対嫌われるからやめとくが。
「だ、……出したくないです」
「そう……なんですか」
「誤解しないでもらいたいんだけど、射精するのがいやというわけじゃなくて」
「わかりました」
神奈は根元から嵌っているそれに手をかけて。
手で思いきり抜く動きをした。
あまりにも大胆な手の動きにただ黙って見ているしかない。
そして。
一気に取り出すと、コンドームを素早く外して。
なんの躊躇いもなく再び自ら膣内へと招き入れた。
「う……ぁ……」
こ、……これが彼女の膣内。
すごすぎる。極上だ。全襞が性感帯みたいに感じる。
こんな中にずっといたら、いくらでも射精感がこみあげる。
「出してしまいそうですか?」
「いや……で、出る寸前で、抜くから」
「抜かなくていいですよ」
「そんなことしたら中に出してしまうぞ」
「たくやさん。神奈が奥で堰き止めてあげます。この……奥で」
……子宮が。
おりてきた。
まるで生き物みたいだ。こっちを目指して口を伸ばしている。
なんだこの動きは。
信じられない気持ちで神奈を見た。
神奈はにっこりと微笑むと。
子宮口を開けて、亀頭の先を咥えこんだ。
「うぉ……っ」
ぱっくりと咥えてカリ首を捉えている。
その締めつけが見事に射精を堰き止めていた。
まさに爆発寸前の状態。
自分でも剛直がビクビクと慄いているのがわかる。
再び神奈をマジマジと見下ろした。
「……これって」
「出しそうになったら、こうやって神奈がとめてあげますから」
「ゴム要らず?」
「なかった時の、非常手段です」
「これを……客にしたのか?」
「したのは、一人だけ」
「そいつを殴りたい」
「もうこの世にはいません」
寂しそうに言う神奈に、目元に唇を寄せて軽くキスをした。
「神奈チャン。恋人だったの? そいつと」
「どう……なんでしょう。お客だったのは確かですけど」
「こんなの、よっぽど好きなヤツじゃないとしないぜ」
「好きです、いまでも。……大好きでした。でも、もういません」
……それを。
俺にしたのか。
それって、己惚れてもいいのかな。
少しでも好きになってくれたってことなら嬉しい。
咥えこまれた子宮口を軽く動かすと。
神奈は、くすぐったそうに甘い吐息を漏らした。
……俺の。
獣みたいな性癖が、嘘のように波引いていく。
いや、消えてはいないけれど、強欲に貪りたい気持ちはなくなった。
神奈をいたわりたい。
むしろ愛したかった。
「…っあ、」
白い太腿を抱え上げる。
柔らかな身体だ。それにどこもかしこも見事に均整がとれたプロポーション。
見ていて惚れ惚れするほど見飽きない。
まるで神聖なものを扱うかのような気持ちで、ゆっくりと……。
神奈の子宮口から引っ張り出した。
「ふ、ぁ……あん……」
気持ちよさそうに吐息をあげる彼女を見て、満足げな笑みを浮かべ。
本格的な動きを開始した。
――ズゥッ……!
二重に重みと速さを加えて抉り出す。
この男を虜にする隘路を、もっともっと味わい尽くすために。
奥の子宮口を叩きながら、纏わりつかせ、回しながら、全襞を隈なく舐めまわすように動かした。
「は、うっ……! あうっ、ああぁっ……!」
動けば動くほど。
性欲が際限なくこみあげた。今までこれほど果てが見えないセックスは知らない。射精を目的にしているのとはわけが違う。
射精感がしたら、……この。
「あぁぁんっ!」
柔らかで包まれるような子宮口に身を委ねればいい。
ほら。
彼女の子種を求める入口が、ぎゅうっと締めつけて堰き止めてくれる。
「神奈……ここ……気持ちいいか?」
はぁ、はぁ、と息を荒げたまま尋ねると。
彼女は微笑みを返して、腕を伸ばしてしがみついた。
「たくや、さんの……形……神奈、覚えました」
「……さすがだ」
「……さん、の……とは……違くて……」
「え? ……だ、誰?」
「あなたのは……大きくて……あたたかくて……あ、う……精子が、行き場をなくしたみたいな……」
…………。
……なんだって?
大きいのは嬉しいけれど。……後半、なんて言った?
カリ首が締めつけられる。
同時に、根元の膣入口が、なぜか異常な熱さを感じた。
「か、……神奈?」
「熱い……ですか?」
「ちょ、ちょっとね……一度抜こうか」
――ズッ……
抜く動きがまたたまらなかった。
俺のを食らいついて離そうとしない。それを名残り惜しそうに抜くと、神奈は自分の膣入口を掌で撫でた。
「……やっぱり、熱い、ですね」
「風邪かな? 額は……そうでもないか」
「いえ、これは、私の体質なので」
「今日はやめとこう。初めてで無理させちゃったよな、ごめん」
「……いえ」
「神奈、ほら、新しい寝巻だ。……もう3時か。そろそろ寝ようか」
「はい…」
「疲れた?」
「いえ、ほとんど。むしろまだ身体が興奮していて」
「……俺もだよ。だけどこのままじゃ寝不足になる。ほら、おいで。腕まくらしてやるよ」
神奈が胸の中に寄り添ってきた。
頭を引き寄せて抱きしめあう。彼女のぬくもりが柔らかくて気持ちよかった。
「……たくやさん」
「ん?」
「いつの間にか、私のこと神奈、って呼び捨てですね」
「そ、そういえば。迷惑だった?」
「いいえ、ちっとも。なんだか懐かしい響きです」
「……好きだった男にそう呼ばれたのか」
「あなたは?」
「え?」
「付き合ってる方が、いたんじゃないんですか?」
「……どうして」
「初めてじゃないでしょう」
「……うん。そうなんだ。年上の彼女がいた。フラれたけど」
「なんて、呼ばれていたんですか?」
「たくや」
「……」
「ただの、たくや。まあ、俺は年下だから。たくやくん、なんて風にもたまに言われたな」
「…………」
「昔……そう言われていたような気がする」
「…………」
「誰かな……母親かな……顔も覚えてない」
「…………」
「……神奈? ……寝ちゃったか」
肩を抱き寄せ、こめかみに口づけた。
見れば見るほど、可愛い子だ。
こんな子を彼女にできたなんて。
……そうなのだろうか。
まともに交際宣言もしてないが。
身体から始まったわけだから、まさかただのセフレで終わるわけじゃないよな。
……最高だった。
美月さんを失った喪失感を補って、なお上回る幸福感。
またいくらでもこの子とセックスができるんだ。
売春はやめさせよう。
お金に困っているのなら助けてやる。
俺だけの彼女にしたい。
もう美月さんみたいな真似はしない。
この子を失わないために、二度とするものか。
神奈。
いつか、亜由美さんにも紹介してあげるよ。
これでやっと亜由美さんの呪縛からも逃れられる。
早く帰ってこいよ。今度会社に直接出向くぞ。
……明日。
いや、今日か。
神奈とデートだ。
学校なんて行ってる場合じゃない。
デートプランを考えなくちゃ。
……。
寝よう。
おやすみ。神奈。
本番前の、ちょっとした慣らし運転みたいな。
もちろんこんなセックスで終わるわけないじゃないですか。
あのたくやくんですよ。
どのたくやくんなのか作者にもよくわかりませんが。