ですが話を進めるためには致し方ないことでした。
続けて次回作も、非エロの予定です。
たびたびすみませんがご了承ください。
次の次に、ご期待頂けると幸いです。
買い物の帰りだった。
遠くに見える背中。学生服。見覚えのある姿。
彼だった。
「……たくやくん」
少し……成長した。
顔が綻ぶ。
後ろ姿だけど……カッコいいな。顔が見れないのが残念。
背が少し高くなった。
高校生になったんだもん。そりゃ背だって伸びるか。……高校生か。いいな。学生生活が懐かしい。
買い物袋を見下ろす。
こんなおばさんのくせに何を考えてるんだろう。
生活だって苦しいのに。
広大さんから貰っているお金はほとんど発掘費用で消えている。
もう超念石の発掘はほぼ見込みがない。ジオ・テクニクス社が研究しているけど、石の組成までしかつきとめられていない。
……そろそろ限界かな。
ここまで生きたんだもの。
せめてたくやくんが結婚するまでは生きていたいけれど。
「……え?」
後ろをそっと尾行していたそのとき。
彼が大きめのマンションの正面にあるインターフォンを操作しているのが見えた。
誰かと会うのかな。
こんな大きなマンションで、一体誰と……。
「…………」
出てきたのは、……女の人。
抱き合っている。
こんな路上で。……しかも。
たくやくんが、女の人を引き寄せて、……キスをしていた。
「…………」
恋人、いたんだ。
そりゃそうか。
でもまだ16歳よね。……最近の子はそういうものか。
そのまま。
たくやくんが女の人を抱き上げて、マンションへと入っていった。
あの嬉しそうな横顔。
かなりお熱なのかな。
美人、……だった。年上っぽいけど。胸も大きくてスタイルもよくて。
ああいう人が好みなんだ。
「…………」
路上にあるガードミラーに映る自分の姿。
何年も同じ姿の、子供っぽい体型、平凡な顔、……そういえば最近、白髪が少し出てきた。
お母さんは私の姿は死ぬまでこのままだと言っていた。
別に……それでも構わないと思っていた。
だけど。
せめて、たくやくんに振り向いてもらえるような美人に、なりたかったな……。
バカ。
広大さんが言っていたじゃない。
たくやくんに近づくなって。
だからこうして、遠くから見ているだけでよかったはずなのに。
……帰ろう。
自分がみじめになるだけだ。
もう一度マンションを振り仰いだ、そのとき。
正面のエントランスから。
たくやくんが走るように出てきた。
「……?」
慌てて走っている。……もう見えない。
何があったんだろう。
追いかけようかと思ったが。
黒いベンツがマンションの前に止まった。
思わず隠れた。やくざ? ……いや、違う。
出てきたのは。
「……あの人は」
龍蔵寺幸三。
忘れもしない――昔、彼に会った。
まだたくやくんが生まれて間もない頃。
私の秘密を知るのは広大さんと、この男だけだ。
「……っ?」
さっきの女だ。
たくやくんと抱きあってた。
その女が……あの男をエントランスまで出迎えている。
「…………」
しだれかかる腕。あの距離。……間違いない。
男女関係がある。
そうか。
あの男が来るのがわかって、たくやくんが逃げたのか。
つまりNTR?
普通の恋愛じゃないのか。
……広大さん。
さすがあなたの息子ですね。
そんなところまで似なくていいのに。
どういう教育をしたんですか。
……なんとなく予想はしてたけど。
「……たくやくん」
このまま、不倫関係を続けるなら、彼が不幸になる。
いや、不倫してるのはあの女のほうか。たしかあの男は妻帯者だ。
でも。
一度、痛い目をみないとわからないかも。
こういう関係はどうせ長続きなんてしない。
私がいい例だ。
広大さんの愛人になって、幸せを貰ったけれど、不幸にもなった。
もうあんな目はこりごり。
たくやくんが、そうならないといいのだけど……。
「行くな」
外出の支度をしていた時、部屋の扉に寄りかかってこちらを睨んでいる男がいた。
「会うことはない」
「……広大さん」
「俺があいつに断ってくる。だから行くな」
「話をしに行くだけです」
「君が売春婦だったことをやつは知っている。何をされるかわかってるだろ」
仮にそうなったとしても。
いえむしろ。
聞き出すためには手段なんて選ばないつもりだった。
「神奈。……その香水はなんだ」
「…………」
「君はそんなものつけないだろ。薄化粧もだ。……やつとやるつもりか」
「…………」
「そうなんだな」
「……広大さん」
「覚悟しておくんだな。あいつは普通のプレイなんかしない。緊縛とアナルセックスとスカトロの常習者だ。君が泣けば泣くほどやつの嗜虐心を刺激する。……そんな目にあいたいのか」
「……必要とあれば」
「……へぇ。君がそんな経験者だったとは知らなかった」
蔑むような視線。
それに微笑んで返す。
あなたが知らないだけです。神奈はこれで食べていましたから。
「…神奈」
「あの写真を落としたのは神奈の不注意です。ですから自分の始末をつけにいきます」
「君が何十年も同じ姿だということを、どう説明するつもりだ」
「ありのまま。彼が求めているデラ=グラントの情報を、神奈が知る限りのことを話すだけです」
腕を思いきり掴まれた。
痛みで顔を顰める。だが彼は容赦なくギリッと強く掴んだ。
「いた…」
「やつから何を聞くつもりなんだ」
「な、……なにって」
「いいか、神奈。君が持っている情報は、世界を揺さぶるほどのものだ。絶対に話すんじゃない。知ったらやつは何をするかわからんぞ」
「……だって! 広大さんは何も教えてくれないじゃないですか!」
「いずれわかることだと、何度言えばわかる!」
「いずれって、いつ!」
「……っ!」
押し倒された。
そのまま口づけをされる。嫌がって顔を背けるが構わず顎を掴まれて貪られていく。
ずるい。
いつもそうやって誤魔化して!
「たくやが思春期になったら」
「そ、……そんな先のこと」
乳飲み子だ。
あと10年以上先だというの?
「17年後だ。……接近するんだよ、地球に。異世界が」
「……っ?!」
「何が起きたのか誰にもわからず、一瞬で世界が消滅する。あたりまえだ、事象衝突だ。それも4千年前の比じゃない。地球が消し飛ぶほどの衝突だ」
「そ……んなの」
「嘘だと思うか? 俺は実際に見た。恵子はそれを回避するために自殺した。とはいえ、先延ばしにしたにすぎない。グランディアを退けたくらいじゃダメなんだ。もう手遅れなんだよ」
「そ、そんな……」
「龍蔵寺はそれに気づいている。やつはそれを利用して異世界に飛ぶつもりだ。実際――それしか手はないだろう」
「た、……たくやくんは」
「たくやはな、恵子が残してくれたたったひとつの世界を繋ぐ架け橋だ。たくやを殺すわけにはいかない。龍蔵寺がそれに気づいたらたくやを殺そうとするだろう。……だから」
広大の手が神奈の肩を抑え込んだ。
「君がたくやを守るんだ」
「……っ」
「あと17年後だ。絶対にその時はやってくる。龍蔵寺に先を越される前に、やつを殺せ」
「わ、私が……?」
「俺はもうその時にはいないかもしれない。……他にやることがある。だから神奈、君しかいないんだ」
「な、なぜ、今じゃダメなの?」
「時というのはな、
「…………」
「いいか、デラ=グラントの情報だけは渡すな。母親から何も聞いていないことにするんだ。どんな凌辱を受けてもだ。行くのはもうとめんが、その覚悟だけはしておいてくれ」
「…………」
「しかし、まさか昔、君の客にやつがいたとはね。売春なんてするからだ」
「……返す言葉もありません。だけど」
「ん?」
「神奈はたとえ血反吐をはこうと、自尊心がなくなろうと、死ぬわけにはいかなかったんです」
お母さん。
あなたの最後の言葉を信じたから。
生きていれば、いつかきっと会える――。
その言葉を信じて生きてきた。
「コンドームは持っていけよ」
「言われなくても」
「帰ってきたら、俺がやつの痕跡を消してやる」
まだ時間はある。
約束は22時。食事を作るくらいの余裕はあった。
「……これ」
「せっかく食材を買ってきたんです。せめて作ってから行こうかと」
神奈の得意料理だけど、年頃の男の子が好きそうなものにしたつもりだった。
筑前煮、鶏の唐揚げ、揚げ出し豆腐、ヒジキと大豆の煮物、茶碗蒸し、五目炊き込みご飯、肝吸い、……なんかデタラメなメニュー。
あんな適当な朝の食事で喜んでくれたのが嬉しくて、つい張り切って得意レパートリーだけにしてしまった。
喜んでくれるかな。
そう思って顔を伺ってみた。……だが。
たくやくんは、真剣な眼差しをしたまま凝視していた。
「……あの?」
「一緒に食おう」
そう言って箸を手に取る。
時間は……まだあるけれど。
「たくやくんだけ、どうぞ」
「……くん?」
「…あ」
うっかりした。昔の癖でつい。
「あ、あの、ごめんなさ」
「いいよ、その呼び方。なんだかくすぐったいけど懐かしい」
柔らかく微笑んでいる。
よかった。
怪訝に思われていない。
「ご飯、よそいます」
「君の分もだ」
「私は……」
「神奈。一緒に食べよう。美味そうだ。一緒のほうがもっと美味い」
そう、……言ってくれるなら。
彼が美味しく食べられるなら、付き合おう。
もそもそと食べる。……美味しい。味なんてあんまりわからないけど。そう、もう、味覚が感じなくなっている。年を取り過ぎた。
でも彼と一緒に食べる食事は美味しかった。
「神奈。……すごく美味いよ」
「ありがとうございます」
「また作ってくれ」
「…はい」
「いま一瞬、なんで躊躇った?」
「え?」
「何回でも作ってくれるんだろ?」
「は、はい。もちろん」
「だから……!」
グイっと両肩に手を乗せられた。……痛い。
肩を握り潰そうとするほどの強さ。
「い、いた…」
「俺を甘く見るな。君がもう戻って来ないつもりなのはわかっている」
「……っ」
「俺と結婚してくれるって言ったはずだ。なんなら今すぐ既成事実を作るぞ」
「き、既成事実?」
「最後の晩餐にするつもりだったんだろ」
……見ぬかれていた。
甘かった。バレないように振舞っていたつもりなのに。
彼の真剣な目と向き合う。
「君が自分の身体を汚されたと思っているなら、それは間違いだ。俺はそんなの気にしない」
「……嘘。だって、さっき」
「ああ、抱かれるのは腸が煮えくりかえるほど腹が立つね。だけど殺したいほど憎い男のことなんて、君さえいればそんなのどうでもいいんだ。……神奈。君がいなくなるのは許さない」
「…………」
「俺にはね、……恋人がいた。これでも真剣に付き合ってたつもりだ。だけど別れた。なんでだと思う?」
「な、……そ、そんなの、…………。…………」
「気づいたようだな」
「……ち、違う。だって、たくやくんは、ちゃんと」
「ああ、さっき射精したよな。それも大量に。それはね、君が子宮口で締めつけてくれたからだ。あれがあったから、俺は出すことができた。それまでは……出したくても、出せなかったんだ」
…………。
待って。
彼は不能じゃない。むしろ健全なほうだ。
精神的な問題なの?
出したくないの? ときいたとき、彼は出したくないと言っていた。
てっきり射精を躊躇っているのかと思っていた。
広大さんが昔、避妊具がないけれど射精せずにイきたいと言ったから、あのやり方でイかせてあげた。
射精しなくても彼の膨張したモノが快感を伝えていた。
同じことを頼むなんて、やっぱり親子なんだなあと懐かしくなったけれど。
たくやくんの場合は、……精神的外傷になっている。
広大さんは、あの人は性欲の権化だ。いろいろされた。だから彼の性癖は私が一番よくわかっている。
……たくやくん。
あの女と付き合ったのが原因か。
考えてみれば龍蔵寺の女だ。普通の性交で済むはずがない。あの男の趣味に合う女以外、考えられない。
……失敗した。
私が、たくやくんともっと早く接触していればこんなことにはならなかった。
「……神奈。君が必要だ。俺の性癖を抑えることができるのは、君だけなんだ」
「…………」
「だけどそれだけが理由じゃない。君が好きだ。もう離れたくない。お願いだ、行かないでくれ。俺の傍にいてくれ」
ギュッと強く抱きしめられた。
……たくやくん。
ごめんなさい。神奈のせいだね。神奈が離れてしまったせいで。
でも。
あなたとは11年の歳月を待たなければならなかった。
広大さんに託された世界の運命を、あなたに押し付けてしまうことになる。
謝っても許されることじゃない。
神奈は。
あなたを失いたくない。
「……たくやくん」
「うん」
「神奈のこと、覚えてる……?」
「……?」
「無理、ないか。……まだ6つだったもんね」
「……え?」
「行ってきます。必ず戻るから、待ってて」
「……っ、ダメだ」
「あなたの性癖は、神奈が治してあげます。帰ってきたら必ず。だから待ってて、必ず戻ります」
抱きしめ返しながら。
必ず戻ることを約束した。
死なない。
今はまだ、死ねない。
接近は夏だ。それまで死ぬものか。
残りの財産、すべて使ってでも、石を発掘してみせる。
時系列は、
1年前→17年前→現在
となっています。わかりにくくて申し訳ありません。
今後もこういった形での手法になると思いますが、ご理解ください。
一応、話の内容で時間軸がわかるようにしているつもりです。
さて。
神奈ルートの書きたかった部分に近づいてまいりました。
たくやの性技を導くのが、神奈の役割です。
ユーノとは違うやり方です。どこまで書けるか自信はありませんが。
自分なりに納得いける形にしたいと思います。