泣き声が聞こえた。
慌てて二階へと上がる。ミルクはさっきあげたばかり。おしめも替えた。でも。
赤ん坊は、泣くことでしか感情を伝えられないから。
何かあったのだとしてもこうやって泣くことしか。
扉を開けた。
両腕を拡げて泣いている。
……たくやくん。
男の子って、こうやって泣くのね。
まるですべてのものを拒絶しているかのように。
「……よし、よし」
抱き上げてあやした。
……どうしたの?
お母さんのこと……探してるの?
ごめんなさい。
あなたのお母さんを、……なくしてしまって。
「んぎゃあ、おぎゃあっっ!」
「よしよし、……いい子。……泣かないで」
おしめは……濡れてない。
背中を優しく撫でてあげた。
でもなかなか泣きやまない。
恵子さんは、こういう時どうしたんだろう。
といっても。
彼女は、たくやくんをほんのわずかな間しか抱けなかった。
……お母さん、じゃないけれど。
せめて。
その代わりになれば。
服のボタンを外した。
ブラのホックを外して、彼の口元に乳首を寄せていく。
出ないけれど。もう授乳できるような身体じゃない。
でも、何かを口に含むだけでもきっと癒されるはず。
「…んくっ」
胸を吸い上げた。
ごめんね。
吸っても何も出ないの。
でもあなたの叫びを、訴えを、こうやって私の胸で吸い上げてあげるから。
「ん、……んん」
「たくやくん、……いい子ね」
しばらくそうして、何も出ない胸を吸わせていた。
……が。
「……っ?」
――胸が。
張り出した。
彼の小さな手が乳房を弄る動きに反応したかのように。
じんわりと……。
乳腺から何かが出てくる感触を感じられた。
「……嘘」
……母乳が。
少しずつ、……染み出していた。
「……親父」
部屋に呼ばれて来てみたが。
憮然とした表情で突きつけられたのは、――先日の答案用紙だった。
「これはなんだ」
……くそ。
部屋には入るなって言ってるのに。
やっぱり隠しておくんじゃなかった。さっさと処分してしまえばよかった。
「いつからこんな点数を取るようになった」
「…………」
「たくや。貴様がやる気ないのは、あれか。再婚相手の」
「亜由美さんは関係ない!」
振り払うように叫んだ。
教え子に手を出し、あまつさえ再婚だ。自分の年齢を考えろ。娘ほどの年が離れた女だぞ。
……しかも。
美人だ。
親父なんかに取られるくらいなら俺が付き合いたいくらいだ。
彼女が家に来るたびにやり場のない憤りでどうにかなりそうだ。
親父なんかと……。
セックスしてるなんて。
「……亜由美と同居することにした」
「……っ!」
「籍はその後に入れる。二度目だからな、内輪だけで済ますつもりだ。式にはおまえも来い」
「……いやだ」
「たくや」
「勝手に再婚でもなんでもすればいいだろ! 俺には関係ない!」
「家を出るのは許さん」
「……っ」
「亜由美はな、貴様と一緒に住みたいと言ってるんだ。その気持ちを汲んでやれ」
「……ああ、そうかよ。俺が彼女に手を出してもいいってことかい」
ひとつ屋根の下にいれば、いずれ。
我慢できなくなっても、それは不可抗力として認めてくれるなら。
俺は喜んで同居する。
「亜由美に嫌われてもいいならな」
「……クソ親父!」
「なんだ」
「てめえ、自分の年考えろ! 恥ずかしくないのか! どこで彼女を口説いた! 無理やり犯ったのかよ!」
「…………。呆れたな。貴様、そんなことしか考えとらんのか」
グイっと襟首を掴まれる。
目の前の父親は、今まで見たことがない男の顔をしていた。
「教えてやる。わしはな、今まで一度も女を無理やり犯したことはない。……ああ、一度も、というのは間違いだな。一度だけやった。もっともその一度も、やった後はほぼ合意だったがな」
「て、……てめえ」
「ちなみにそれは亜由美ではない。……別の女だ。おまえの母親ではないことは確かだ」
なん、……だと。
こいつ、いったいどれだけの女を食い荒らしたんだ。
「……別れたのかよ」
「……。別れてはいない。だがもう長い間会っていない。会うわけにはいかないのだよ」
こいつ……。
まだ未練でもあるのか。
それなのに亜由美さんに手を出したのか。
「誰だよ、その女って!」
「娼婦だ」
「な…っ?!」
「それもとびきりの極上の女だ。彼女を手に入れるためにどれほどの金が動いたことか」
「…………」
「いいか、たくや。亜由美を奪うつもりなら覚悟しておけ。女を手に入れるためには手段を選ぶな。金でも力ずくでも、本当に欲しいなら何かを犠牲にしてでも手に入れるつもりでやるんだ」
「…………」
「それくらいの男気を見せろということだ。……わしから奪えるものなら奪ってみろ」
――殺意。
そうとしか思えないくらいの表情だった。
初めて見た父親の側面に、言い返すこともできなかった。
震えている。
俺のが固く脈動しているのを感じているのか。
……こんなに勃起したことないもんな。
美月さんでさえ、これほど興奮したことはなかった。
「た、……たくや、……くん」
膝を割り開き、浴槽の中に彼女を下ろして正面から繋がった状態で。
太腿を手で撫でながら、震えている結合部をそっと押さえた。
「力を抜いてくれ」
無理、と神奈が首を振った。
ドクンドクン、と脈動するその凶器が、彼女を怯えさせていた。
興奮するかと思ったが、……考えてみれば彼女は美月さんではない。
この反応が普通なんだ。
「ど、……どう、したの?」
「どうって、なにが」
「さっきまでと、……全然違う」
「今までの倍は膨れてるからな」
「な、なんで?」
「神奈。……君を親父から奪うよ」
「……え?」
「やつはもう死んだけど。君の中にいる親父を追い出す。俺が好きだと言ったね。それは親父と比べてのことかい?」
「……え、……え?」
「どうなんだ?」
神奈は。
答えを躊躇うかのように表情が固まった。
それを見てピンときた。――彼女の中に有馬広大がいる。
片足を上げさせた。
浴槽の縁に引っかけるようにして、グイッと深く身を沈める。すると神奈は感じたかのように喉をのけ反らせた。
……揺れる。
彼女の膣内が柔らかく包み込んできた。脈動する動きに合わせて襞がまとわりついて揺蕩っている。
最初に挿入したときに感じたあの動きだ。
ゴム越しでも衝撃を感じたあの動き。それをいま、興奮度マックスの状態で直に感じている。
気持ちいいなんてもんじゃない。
こんなのずっと続けていたら気が変になる。
それほど彼女の膣内は凄かった。……きっと彼女はこれに気づいていない。自分の性器が男を虜にする魔窟だということに。
いま、――やっと。
親父の気持ちがわかった。
前に言っていた極上の女。
もはや疑うことなく神奈のことだ。
親父は神奈を取られたくなくて……。
隠していたんだ。
理由はわからないが、神奈と会うことはできなかった。だから。
亜由美さんをたらし込んだのか。
……くそ。
やつの息子だからこそわかってしまう。そうしたくなる気持ちが。
この膣内……吸い上げる子宮口……複雑に揺れる襞。
均整のとれた身体、艶のある表情、……すべてが。
惹きつけられる。
灯りに群がる蛾のように自然と引き寄せられていく。
一度でもこれを知ったらもう手放せない。
彼女を買った男は何度も続きをさせたはずだ。金をいくら払ってもいいと思ったはず。
……あの男。
それで神奈を買ったのか。
搦め手で攻めたわけか。神奈の心を捕らえるためにあらゆる手を尽くして。
現に――。
彼女は俺を通して、やつの面影を見ている。
「……っ、こ、……広大さんと、……たくやくんは、……違います」
「どう、違う?」
「比べることなんて、できない……どちらも神奈には、大切な……」
「神奈。……俺を見ろ」
視線を泳がせている彼女に、顎を持ち上げて正面から見つめた。
瞬間、彼女の頬が赤く染まった。
「いま君を抱いている男だ」
「……あ、……ぅ」
「目に焼き付けてくれ。俺を見て、俺のものを感じてくれ」
正直――自分でも恥ずかしいことを言ってると思う。
だが彼女に与えることができるのは、自分自身だけだ。
――ジュワリ……
「……っ」
膣内から愛液が滲み出てきた。
それと同時に入口が……土手の周辺からじわじわと。
熱を孕んでくる。
あ、……熱い。
そうだ、最初もこれで思わず出たんだ。あまりの熱さに火傷しそうで。
根元が刺激される。思わず呻き声が出そうになったが。
神奈の手が、――そっと。
結合部を押さえた。
「……抜かないで」
顔を真っ赤に染めて泣きそうな顔で俺を見ていた。そのあまりの可愛さに。
思わず両腕でギュッと彼女を抱きしめた。
「神奈……」
「ごめん、なさい……熱いですよね」
「あ、熱い……けど……気持ちいい」
「……動ける?」
「…やってみる」
ペニスから絶え間なく響く脈動が徐々に早くなる。射精したがっている自分の分身に涙が出そうになった。
今まで。
俺はこれを耐えることでしか快感が得られなかった。
美月さんに散々責め苦を味わわされ、癖になったその結果だ。
彼女を責めることはできない。俺自身もそれを悦んで受け入れたから。
そうじゃないんだ。
このこみあげてくる射精感は、包まれている膣内を満たしたい気持ちそのもの。
だから我慢なんてすることはなかった。しなくても、……神奈なら受け入れてくれる。
根元の熱に煽られる。――いける。
ズリュッ……――
ぬめる内部を緩く動かした。両尻を掴み、指で双丘を割り開きながら潜りこむように入っていく。
神奈がしがみついてきた。
そのまま掴まってろ、と耳元で小声で囁くと。
一気に。
猛る自身を勢いを込めてスクリューのように捩じりまわすように挿入した。
「……っっ?!」
神奈の息がとまる。
だが構わず動きを早めた。そう、……これは。
美月さんに最後にしたときの動き。
彼女はこれで失神しては覚醒し、その繰り返しで悲鳴すら上げられなくなった。
イかせるものかとその一心で動き続けた。彼女が達しようとする直前に乳首を噛み、陰核を摘みながら引っ張り、首筋を噛んだ。つまり。
痛みで絶頂を紛らわせていた。
おかげで彼女の身体はボロボロになった。あちこちの擦過傷、痣、切り傷、そのどれもが性感に直結する部分。
終わったあと医者に見せようとしたが彼女は断った。入院するほどの怪我だ。明らかに異常な性交だと医者にバレる。その責任を取ろうとしたが。
彼女は別れることで清算した。
一番酷かったのは、――子宮口。そこを執拗に攻め立てた。
やってるときの俺は、殺すことも厭わなかった。それほど狂気に支配された。今思い返すだけでも吐き気がする。
……神奈。
それに耐えてみせろ。
俺は君を傷つける。だがそれも含めて君が欲しい。
嫌われるのは百も承知だ。
もう二度としないと美月さんにも誓った。――だが。
「もう一度――きっと同じことをするわ。あなたは」
その通りだよ、美月さん。
あんたにはわかっていたんだ。俺が……本当に欲しいものをどうやって奪うのかを。
こうする……んだよ!
「あぅっ……!!」
膣襞を掻き混ぜる。
彼女の吸い上げるような動きが痙攣するものへと変わった。その変化にうまくいったとほくそ笑む。
感じろ。
ここまで男根が動くことなんて今までなかったはずだ。あの親父がどう神奈を抱いたのか、考えるだけで胸糞悪いが。
やつがこの膣内をただそのまま味わったなんて思えない。
それを上書きしてみせる。自負してもいい、これは絶対真似できない。最硬度の今だからこそ。
こうやって――剣のように突き、ハンマーの如く叩き、鞭の撓りのように、彼女の中を蹂躙することができる。
「あっ、……あぅっ、はうんっっ!」
しがみつく手が離れた。
その手を取り、もう一度首の後ろへとまわさせ、耳朶を噛みながら――そう、噛んでいる。
彼女の耳たぶを思いきり強く噛んでいた。まずはここからだ。
ピアス痕はない。感触からわかる。穴を開けたことがないのか塞がっているのかわからないが。
本来、針で突き刺すべき場所を俺は歯で噛みちぎるほどの強さで、歯ぎしりしながら呟いた。
「……こんなものじゃないぞ」
低い声で言うと、血が滲み出てきた耳たぶを舐め、その痛みより俺の言葉に驚いたかのような表情をしていた。
「たく、やくん……?」
「子宮口を開けるんだ、神奈」
「あ、開ける……?」
「この動きで穴をこじ開けていく。締めたままだと傷が酷くなる」
「……っ!」
俺のやることがわかったらしい。
美月さんはこう言ってもどうすればいいのかわからないといった表情だった。
だが神奈は。
――さすがだ。
娼婦なだけある。やり方がわかってるようだった。
「……どうして」
「親父の存在を消す」
「け、消すことなんて」
「君を隠していた理由も、手放そうとしなかったのも、いまやっとわかった。……神奈。君の中はね、理性をなくしてしまうんだ。男が女を抱きたい理由、なんだかわかるかい?」
「……え?」
「親父はたぶんこう言ったはずだ。イかせて終わりにするものか、って」
「…………。…………っ!」
言われたんだな。
彼女の目がそう言っていた。
「支配欲だ。もう男の本能といってもいい。息子だからこそ有馬広大という男のことがよくわかる。あいつがどれだけ欲深なのかも」
「…………」
「やつは君を手に入れた。君の身も心もね。死んでなお君の中に棲み続けている。……やつとのセックスが、君を変えた」
「……たくやくん……」
「嫉妬もあるけど、それ以上に……君が欲しい。俺の動きについてきてくれ」
時計は。
もう午前2時を過ぎていた。
このままでは寝れないだろう。
だが構わない。
いまこの時を逃せば、俺はもう二度と神奈を手に入れることはできない。
明日のことも、なにもかも、今だけは考えないことにした。
ただ彼女が――欲しかった。
カットしました。すみません。
長くなりそうで。てかいい加減にはよ進めなさいって感じですね。
「イって終わりにするつもりはないからな」
広大のセリフです。
神奈はこれを思い出しました。
たくやのトラウマは治ってません。
神奈は耐えられるでしょうか。
続きをお待ちください。