――トン、トン、トン……
包丁の音が聞こえた。
誰だろう。
こんな朝早く――まだ5時だ。
ほんの1時間くらいしか眠れていないけれど、不思議と疲れは取れていた。
階下に降りてみると、そこに。
「……あら」
後ろで髪を束ねたスーツ姿の女性が私を見て一瞬驚いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
綺麗な人。
そうか、この人が……あの人の女か。
「……はじめまして」
「こちらこそ。はじめまして、たくやの
椅子を引かれてカウンター席へと導かれた。
所作のひとつひとつが柔らかい。
優しさが態度から滲み出ているような人だった。
「あの、……私も手伝います」
「いいから、座って。ずいぶん早起きなのね。たくやクンはまだ?」
「……はい」
気づいている。
私が彼と一晩過ごしたことに。
それはそうか。いろんな残骸を残したまま寝てしまった。脱いだ服も浴室にそのままだ。
差し出されたハーブティーに軽くお辞儀をして頂いた。……カモミールかな。暖かい。
「お名前は?」
「……波多乃、神奈です」
名前を聞いた途端。
彼女の眉がほんのわずか動いた。
聞いているのか。――彼から。
いや、そんなはずはない。
広大さんは私とのことを誰にも言っていないはずだ。
「亜由美です。……寡婦なので、旧姓ではなく有馬のままですけど」
「……あの、私、そろそろお
「座ってて。もうすぐ出来るから」
だって、ここにいたくない。
この人。
態度はさっきと変わらない優しさだけど、……明らかに。
私のことを嫉妬している。
どう考えてみても、私と広大さんのことを知っているとしか思えない。
あの人、――寝言で私の名前でも言ったのか。
……くそ。
母からもっとあっちの世界の秘儀を教わっておくべきだった。
記憶を消す術とかあればよかったのに。
「たくやクンとは、いつから?」
純粋な好奇心といった感じで聞いてくる。
義母としての興味なのか、それとも、女としての興味なのか。
その両方だろう。
この人、……自分では自覚してないだろうけれど。
たくやくんに惹かれている。
「……二日前からです」
「……っ?」
正直に言ったら目を丸くした。
が、……すぐに。
仕方ない人、といった感じで鈴を転がすように笑った。
「若いって、勢いがあるのね。たくやクン、……失恋の痛手から抜けたみたいで良かった」
…………。
この女。
釘をさしている。
彼に近づくな、――さもないと痛い目を見るぞ。
なるほど。
広大さんの好みのタイプだ。
彼はこういう妬心のある女に弱い。
恵子さんがそうだった。表面では私に優しかったけれど。内心は……。
まったく、こういう女に引っ掛かりやすいのは彼らしいといえばそうだけど。
問題は。
この女、たくやくんに近づく女に嫉妬していることに気づいていない。
というより。
自尊心が邪魔して気づきたくないだけかも。
「……。彼が他の女性と付き合っていたことは知っています」
「たくやクンが話したの?」
「……はい」
「かなり落ち込んでいたみたいだけど、亜由美には何の力にもなれなくて」
「その心配はもうありません。……今は」
目線を向けた。
宣戦布告だと気づいたのだろう。
わずかだが、彼女の頬が歪むのを見た。
悪いけど。
たくやくんを守るためには、どうしてもこれから先、彼と付き合う必要がある。
あなたの入り込む隙間はないの。
もう彼は私のものだから。
カウンター椅子から立ち上がった。
「帰ります」
これ以上いればこの人を傷つけてしまう。
たくやくんの枕元に、私の連絡先を記したメモを残しておいた。今はそれで十分。
「待って、朝ごはんを一緒に」
「たくやくんをよろしくお願いします。ちゃんと学校へ行くように言っておいてください」
たぶん今日こそズル休みすると思うから。
玄関に向かったが、追いかける気配は感じなかった。
たぶん……。
彼女は私が広大さんの愛人だったことに気づいている。
ちゃんと口止めしてくれたはずなのに、……あの人。
遺品の中に、私に関わるものでも遺しているんだろうか。
そういうのちゃんとなんとかしてから逝ってよ!
……と、今はそんなこと言っても仕方ない。
急がないと。
学校へ行く前に、馴染の産婦人科に行く必要がある。
本当に生理が来たのなら。
信じられないことだけど……。
また妊娠することができるかもしれない。
半年後に死のうと思っていた。
だけど。
たくやくんの子供が出来るのなら……。
何がなんでも死ぬわけにはいかない。
子供を産むまでは、決して。
「ん……」
腕の中の感触がない。
彼女の柔肌に触れながら眠ったはずだが。
パジャマも着せず裸のまま抱きしめて眠ったんだっけ。生理中だからせめて下着を、という彼女の懇願を無視して。
だけど肌にあたる彼女の経血が温かくて気持ちよくて。シーツは大変なことになってもいいからそうしたかった。
……のだが。
目を開けるとそこにいたはずの神奈は消えていた。
それどころか、真っ赤に染まったはずのシーツすらも真新しいものに替えられている。
あれ……?
夢、……じゃないよな。
裸で眠ったはずなのに、ちゃんとパジャマを着ていた。いつの間に。いや、着た覚えはないぞ。
服の下を見てみる。
……血の跡がない。
綺麗になっていた。いや、夢なんかじゃない。あの感触が夢なわけがない。
枕の上に、――メモ用紙が置いてある。
俺の机の上にあったメモ用紙だ。そこに、彼女の……神奈の住所と携帯の番号が書いてあった。
ホッと胸をなでおろす。……とりあえず夢じゃなくてよかった。
メモの下のほうに、『汚れたシーツは処分しました。もう二度としないでください(-_-メ)』と小さく書いてある。
「……神奈」
これを直接言って欲しかった。
なんでいなくなるんだ。
下にいるんだろうか。そういえばなんかいい匂いが……。
急いで服を着て慌てて階下へと降りた。
「……神奈!」
台所に。
見慣れた人影がこっちを振り向いて微笑んだ。
「おはよう、たくやクン」
「……亜由美さん?」
帰ってきたのか。……そしてこの匂い。
久しぶりの亜由美さんの飯だ。
見ると、洋食のオンパレードの朝食がそこにあった。
「どうぞ。起こそうかと思ってたけれど、ちゃんと起きてきてくれたのね」
キョロキョロとあたりを見渡す。
神奈は……いない。
てっきり下にいると思ったが。
「彼女なら帰ったわ」
「……え?」
「たくやクンの彼女よね。朝、鉢合わせしたの」
亜由美さんの笑顔が、――なぜか強張っていた。
なぜだろう。
いつもならもっと柔らかく微笑むのに。
「神奈さんっていうのね」
「あ、……うん。一昨日の夜、うちに泊めたんだ。ついでに昨日も。それでその、……そういう関係になったんだ」
あらためて言うと本当にそうなったのが信じられない。
ついこの前まで美月さんとのことを引きずっていたのに。
「とりあえず……ご飯、食べましょう」
はい、とお箸を渡された。
昨日は神奈から手渡された。
今日は亜由美さんからだ。
これって、なんの因果なんだろうか。
たかが箸をもらうだけなのに。
「亜由美さん、いつ帰ってきたんだい?」
「今朝4時頃かしら。起こすのも悪いと思って、そっと帰ってきたの」
「帰るなら帰るって一言くらい連絡くれよ」
「ごめんなさい、急に時間が取れたのよ。本当は朝ご飯だけ作ってすぐ戻るつもりだったのだけど」
コトン、と箸を置いて亜由美さんがこっちを振り向いた。
「やっぱり会社に寝泊まりはお肌にもよくないわね。今日からちゃんと家から出社します」
「そうそう、美容と健康のためにもそうしたほうが」
「家を空けていたら、たくやクンが女の子を引っ張りこんでしまうもの」
ビクッ――と息がとまった。
亜由美さんの目がキツい。
いつものおふざけの顔なんかじゃなく、真剣な目をしていた。
「たくやクン。……あの子と付き合うのはやめなさい」
「な……?!」
「売春してる子よ。広大さんの日記に彼女のことが書いてあった。……彼は放っておけなかったらしいけど」
「知ってるよ、親父の愛人だった。本人から聞いたよ」
「……たくやクン!」
「だから俺は神奈をどうしても手に入れたくなったんだ。親父のことなんか忘れさせてやりたかった。亜由美さんにも俺にも隠して、あいつは神奈を独り占めしていたんだ!」
「そ、それは……」
「亜由美さん。親父に愛人の一人や二人いたって、俺は別になんとも思っちゃいない。あいつはそういう男だ。亜由美さんを家に連れてきたときからわかってた。女癖が悪いとか、そういう問題じゃない。あいつはね……平気で女を捨てることができるやつなんだよ」
「…………」
「亜由美さんにはわかってるはずだ。一人で何もかも背負って遠い所へ行った、そして帰ってこなかった。あいつが亜由美さんを愛していなかったとは思わない。だけど親父は、愛する者であっても切り捨てることができるんだよ」
「…………」
「神奈はその犠牲者だ。彼女の心の傷は深い。親父が遺した傷だ。俺はやつを……許さない」
「……たくや、クン」
「亜由美さん。……俺には神奈が必要だ。必要なんてものじゃない。もう彼女がいないと俺は生きていけない。本気でそう思っている。だから二度とそんなことを言わないでくれ」
背を向けて立ち上がった。
亜由美さんの表情を見るのは辛い。……本当はここまで言う気はなかった。
だけど。
俺から神奈を奪われるのだけは我慢できなかった。
――3ヵ月前
ネクタイを締めなおしていると、背後から女の手が伸びてきた。
締めなおしたネクタイを外そうとしている。
まだ足りないのか、と苦笑しつつ彼女の手に手を重ねた。
「こら。そろそろ仕事があるのだろう?」
「……収録は終わってるわ。オンエアまでに間に合えばいいの」
もう片方の手がズボンのファスナーへと伸び、ゆっくりと下ろしていく。
艶やかな手つきで中のものを取り出し、行為をねだるように煽りたてた。
さすが元AV女優なだけある。鮮やかすぎる手つきに制止することもできない。自然と息があがっていた。
「は、……ぁ……」
「……ね? 足りないでしょ?」
仕方ない。
本当は彼女の鞄の中にでもこっそり忍ばせておこうと思ったが。
そもそもその『存在』に気づくことがなければ、あいつが彼女の鞄の中を見るとは思えない。
もっとも可能性がある『存在』を発覚しやすい場所――それはやはり。
女の胎内だろう。
神奈にはすでに仕込んでおいた。
亜由美にもだ。
この女と果たして肉体関係を持つかどうか、……賭けだな。
肉棒を擦る細い指に指を絡ませる。
続きをねだる彼女の行為に便乗することにした。
背後から――興奮した熱い吐息が耳朶に吹きかけられる。
「すごい……こんなにビクビクして固くなってる」
もっと褒めていいぞ。
興奮が最高潮になったときの硬度はこんなものじゃきかない。
女の腕を引っ張り、ベッドに押し倒して嵐のように口づけた。
「んん、ぅぅ……」
舌を絡ませ、息を交わし合い、情感を高めていく。
そうしながらも豊満な胸を乳首ごと押し潰すように揉みしだき、抜群のプロポーションの肢体を割り開いていく。
局部を曝け出すような恰好にしても、モデルか裸婦像のような美しさを彷彿とさせた。
「もっと股を開け、いやらしく誘ってみろ」
耳元で興奮を煽るように囁くと、彼女は陶酔したように鼻息を荒くした。
なんて淫乱な女だ。
たくやがこの女を御せるかどうか、不安になってきた。
「香織の……おまんこに……広大さんの……熱くて筋張った……その巨根で……思い切り貫いて」
言いながら自ら膣襞を拡げ、がに股になって両脚を折り曲げた。
もはや揶揄する言葉も出てこない。
こんなに性欲を駆り立てる女も珍しい。演技ではなく素面でこうなのだから恐れ入る。
「いい子だ、香織」
こめかみにキスをしてから。
亀頭の先端に小さな丸い石をくっつけ、それごと彼女の最奥へと突っ込んだ。
「……あうっっ!」
石、――だが。
彼女にはその感触は感じられても、『宝玉』の存在に気づくことはできない。
それに気づけるのは、たくやだけだ。
異世界へと続く道しるべ――8個の『宝玉』。
そのうち3個はデバイスにすでに埋め込んである。
残りの5個を見つけ出すのがたくやの役目だ。
香織に埋めておくが、あいつがこれに気づくかどうか……。
やつなら必ずこの女とセックスするはずだ。
俺の息子がこの淫乱な女の誘いに乗らないはずがない。断言する。あいつは俺以上のスケベだ。
あとは、――神奈。
あの娘が導けるかどうかが鍵だな。
うまくいけば再び身籠ることもできるかもしれない。
この『宝玉』にはそれを叶える力がある。神奈が望めば、だが。
「あ、う……んん……お、奥に……なにか……」
「ほら、子宮の中に入ったぞ」
亀頭の先端が『宝玉』ごと子宮口を貫いた。おそらく中に入ったこともわかってないだろう。
たくやが気づくその時まで、彼女の子宮内に埋めておく。
おそらくは――。
香織と性行為するのは、何か取り返しのつかないことが起きた後になるだろう。
石の力があれば時は戻される。
起きた出来事を変えることはできないが、それでも。
そうすることでしかあの世界に辿り着くことができないのだ。
「はぅ、ん……動い、て……」
「ああ、しっかり掴まってろ」
子宮内をかき回していく。
捨て石となる彼女を不憫に思いつつも。
息子への大切な架け橋となる女に、あらん限りの快楽を刻みつけた。
まさかの広大×香織でした。
ほぼ省略で申し訳ないです。まあ神奈ルートということでサラッと流しました。
もちろん原作無視です。こんなところに宝玉なんてあってたまるか。
これはエロ小説ですので。
この神奈ルートではたくやと香織は致しません。亜由美ルートでは×××しますが。