シャワーから上がると。
部屋にいたはずの神奈がいなかった。
「……神奈?」
髪をタオルで拭きながら部屋の中を見渡す。
……いた。
窓の外に人影が月明りに浮かんでいた。
二階のバルコニーは休憩スペースのような長椅子とテーブルがある。親父がよくそこで本を読んでいた。
なんで部屋にいないのかと聞いたことがある。
すると、……あのクソ親父。
遠い目をして「昔ここで女を散々泣かせたのを思い出してな」とか言ってため息をついていた。
もし、――神奈のことなら。
彼女は相当昔、親父とここにいたことになる。
俺の記憶ではこの別荘は海外から戻った後に連れてこられた。12歳頃だ。
その後、親父が女を連れてきたことなどはない。
確かだ。あいつは海外出張が多かった。帰国してこの別荘に来ることはほとんどない。来たとしても必ず俺を連れてきた。
俺と親父の二人だけだった。
……俺は、ここに来るのが嫌だった。
あいつは俺をここに連れてきて、何をするわけでもなく、話すわけでもなく。
ただじっと俺を見ていただけだ。
それが居心地悪いことこの上ない。
話しかけてもろくに答えもしない。必要に応じて話すといった程度だった。何をしたいのかさっぱりわからず、俺はさっさと親父の側から離れたかった。
……本当に。
あいつ、なんで俺をあんなに見ていたんだ。
俺を通してお袋の思い出に浸っていたのか。
――そんな視線じゃなかった。何かを確かめるような、待つような……。
いまとなってはどうでもいいことだが。
もし神奈がこの別荘にいたとするなら……今から10年以上前のことになる。
そんなことがあるかと思うが、あの親父の神奈手帳がどうも気になる。
あいつの神奈を凌辱した記録の中に、海を見ながら手すりに彼女を押し付けて、傍に降りてきた海鳥の交尾を見ながら神奈に興奮していたと――変態じみた記述があった。
まさにあのバルコニーがそんな感じだ。
すぐ下は波濤が押し寄せる崖になっている。ここは鴎の生息地が近い。定期的に清掃業者に来てもらう必要があるほどだった。
あのバルコニーで……。
だとしたら神奈はいったい何歳なんだ。
いや、……今は考えないことにしよう。
確かめるまでは考えたくない。
この別荘が神奈を囲っていた場所なんて、想像したくもなかった。
窓を開けてテラスに出た。
「一緒にどうですか?」
テーブルの上にワインが置いてある。
軽い軽食もあった。……上品すぎる。相変わらずの和食だが、つき出しと、刺身、酢の物。懐石まで作れるのか。
このワインは――。
「すみません、勝手に。年代物なのはわかったのですが」
親父が大事にとっておいたものだ。
いや、もうあいつはいないんだ。とっておいても仕方ない。
「いいよ、むしろ空けてくれて助かる。……飲もうか」
「お互い未成年ですけど」
――チン……
グラスを合わせて飲み干した。……やべ。かなりキツイ酒だこれ。
神奈は平気で飲んでいた。
……胸のあいたドレス。
そんなものがこの家にあったのか?
「これ、……昔、あの人から貰ったドレスなんです。ここに置いてあったので」
「よく、似合ってるよ」
はにかんだ笑顔を向けた。
それに笑みを返しながらチラリと気づかれないように胸元を見る。……ない。
やはりそんなペンダントは見当たらなかった。
外しているのだろうか。澪の話では肌身離さずといった感じだったらしいが。
「たくやくん。この家にはよく来るのですか?」
神奈からの質問は珍しく、思わず嬉しくて素直に答えた。
「いや。滅多に来ない。普段は管理人に任せてるんだ。住む人間もいないのにこんな家とっておいても仕方ないとは思うが」
「なぜ、来ないのですか」
「あんまりいい思い出がないんだ。親父に連れられた記憶しかなくて。あいつといつも二人きりだったよ」
「…………。いつの頃ですか」
「ええと、……12~15歳くらいまでかな。毎年夏に来てた。避暑みたいなものかな。といっても自宅とそんなに離れてないけど」
「あの人は……何か言ってました?」
「なにも。気まずいったらないよ。そういえば、……あいつ、いつも海を見てたな」
「……海?」
「しかもこんな夜に、ちょうどあんな満月を見ながら、じっと海ばかり見ていた」
神奈がクスッと笑った。
「人魚の話、聞きました?」
「え?」
「あの人が月夜に海岸で出会った人魚の話。一夜だけの逢瀬だったとか」
「……なに、それ?」
「懐かしそうに話していたことがあるんです。美しい人魚で、金髪の美女だったそうです。その女性ともう一度会いたがっていました」
……なんだそれ。
あいつ、まだ他に女がいたのか。
しかもそれを神奈に話すとか、どういう神経してるんだ。
「神奈。親父からそんな話きいて、なんでそんな微笑ましそうにしてるんだ」
「昔話、ですよ。気が多い人でしたから。神奈もその一人ですし」
「それ聞いて、君はなんとも思わなかったのか?」
「…………。ちょっとだけ妬けました。でもそのときの神奈は……」
言いかけて。
ハッと思い直したかのようにグラスを置いた。
「お酒、注ぎますね」
「親父に抱かれてたのか」
「……っ」
図星を言われて、立ち上がろうとした神奈の手を握った。
「神奈。……どうもおかしいと思ったよ。俺が澪を抱いたと言ったにも関わらず、君の態度はほとんど変わらない。俺のことが好きなら澪に妬くか、俺を避けるかするはずだ」
「そ、それは……」
「あいつが君にそんな話をしたのはね、君が妬くと期待したんだ。……つまり」
神奈の腕を引っ張ってバルコニーの手すりに彼女の身体を押し当てた。
親父の記述通りに彼女の股を割り開くように膝頭を秘部に擦りつける。
神奈は硬直したように俺を見上げた。
されたことがあるなら、この後の俺の行為も察しがつくはずだ。
「あいつが君に執着したのは、君が嫉妬しようとしなかったからだ」
「そんなこと……」
「ないと言い切れるか? おそらく亜由美さんに手を出したのも君を振り向かせるためだろう。あいつは無類の女好きだったから、単に亜由美さんを食い物にした可能性もあるが」
「…………」
「俺のお袋をやつは選んだと君は言ったね。逆だよ、神奈。お袋が死んだからあいつは君を欲しがったんだ」
「……違う」
「違わない。こんな服を大事にとって置いてるのもそうだ」
デザインは一昔前のスリットの開いたシルクのドレス。
神奈のスリムな体型によく似合っていた。大きく開いた胸の隙間に手を差し入れる。
すでに勃ちあがっている乳首を軽く引っ張ると、甘やかな吐息があがった。
脱がせるのになんの苦労もしないドレスだ。
あいつの趣味か……。
「神奈。……ここで親父に抱かれたことがあるのか?」
彼女の表情を伺い見る。
俺の愛撫に身悶えしているが、神奈は少し躊躇うかのように頷いた。
「……は、い……」
「この場所で?」
「は、……はい」
「泣かされたのか?」
「……っ」
「前に親父からチラッと聞いたよ。ここで女を泣かせたって」
神奈が舌打ちした。
……初めて聞いた。
こんな顔もするのか。
かなり嫌そうに口元を歪ませている。
「た、……たくやくん。他に、……なんて?」
言うべきか。
だけどまあ、言ってしまったほうがいいだろう。
あの手帳の記述通りのことが行われたのなら。
「産卵プレイをしたそうだ。君の尻穴に卵型のテンガの容器を突っ込んで、そのまま腸内まで侵入させて、バルコニーの手すりに両手両足をロープで亀甲縛りにし、尻穴を犯しながら膣内をクスコで拡張して」
「…………」
神奈の表情が青くなったり赤くなったりしている。
これはもうほぼ事実とみていいだろう。
「手すりでとまって交尾している海鳥を見ながら神奈の尻穴のテンガの容器をひり出して、海鳥が飛び立つまでそれを繰り返していたそうだな」
「…………」
「他にも言おうか。海に放尿させてから子宮内にやつの排尿を味あわされ、それもバルコニーの手すりから垂れ流しさせた。あいつは終始興奮状態で、君が泣いても喚いてもやめようとしなかった」
「……………………。はい……」
「神奈。そこまでされてなんであいつを嫌いにならない?」
「気持ちよかったんです……」
「あいつにそんな変態プレイをされるのが?」
「神奈の身体でしか、あの人を夢中にさせることはできなかったので」
「さっきも言ったけど、逆なんだよ。君を夢中にさせるためにあいつはそんなプレイをしてたんだ」
わかってない神奈の身体をこっちに向けさせた。
半分泣きそうな顔で俺を見ている。
知られたくなかったんだろう、そんなこと。
「神奈。あいつは子供みたいなやつなんだ。欲しいものがあっても我慢することができない。君を手に入れるためにはなんだってするようなやつだ」
「だって……あの人はいつも、奥さんのことを」
「それは君を振り向かせるための、妬心を煽るためだ。だけど君はあいつを見ていなかった」
「……そんなはずは」
「神奈、俺を見ろ。君のためなら澪を抱いて言いなりにしても構わない。俺が澪とセックスしても君は平気なのか?」
神奈が。
ようやく口をきゅっと結んで俺にしがみついてきた。
耳元で鼻を啜る音が聞こえる。目には涙が少しだけ浮いていた。
「……たくやくん」
「うん」
「神奈のためにそんなことしないで」
「……やっと聞けた。その言葉が欲しかったんだ」
彼女を抱き上げる。
この場所ではやりたくない。彼女の頬にキスをしてから部屋へ向かった。
ベッドへ降ろすと、親父から貰ったドレスを勢いよく引き裂いた。
「……っ!」
「澪はまだ利用するつもりだ。君を
「……やめてください」
「俺はね、好きな女を
神奈の身体に貪りつくように肌を吸い上げる。
息をあげて身悶える彼女を見ながら、波の音を聞いていた。
――17年前
「……広大さん」
「うん」
「行っちゃうんですか?」
ベッドの中から神奈が身を起こしてきた。
まだ夜明け前だ。寝ていていいのに。
近づいて毛布を掛けると、腕を引っ張って顔を近づけてきた。
「たくやが待ってるんだ」
「……恵子さんが、でしょ」
「神奈。妬いてくれてるのか?」
顔を覗き込む。
すぐに逸らした。認めたくないのか。それとも演技か。
――後者だろうな。
俺が嫉妬する女に弱いことを彼女は知っている。
「……神奈を抱いた後で、恵子さんを抱くのですか」
「ああ」
「どうして?」
「君は愛人だからな」
「だって、……蒔奈だっているんですよ」
「たくやもいるぞ」
神奈が臍を曲げる顔をした。
可愛いが。
これ、ただ拗ねてるだけだ。
神奈は恵子が産んだ男の子をまだ見ていない。
見せるわけにはいかないな。……まだ。
「神奈にも会わせてください、たくやくんに」
「いずれな」
「いずれって、いつ」
「恵子から乳離れした頃かな」
「……今じゃダメなの?」
「神奈。しばらくは恵子を幸せにさせてやりたい。初めての子供だ。たくやに夢中なんだ」
恵子は。
少なからず神奈に対して妬心を抱いている。
だんだん日が経つにつれてわかってきた。あいつがかなり内心を抑えていることが。
なんて可愛い女だ。
いや、まあ、それはいいとして。
俺といるときの恵子の幸せそうな笑顔を見ていると、しばらくは神奈のことを忘れさせてやりたかった。
神奈が俺のズボンのチャックを弄りだした。
「お、おい」
「神奈の匂いをつけてあげます」
「俺のペニスにか?」
「神奈の唾液と愛液に塗れた状態で、洗わずに行ってください。それを恵子さんの口に流してください」
「……そんな鬼畜なことをしろと?」
「証拠写真をメールで送ってください。来るまで射精禁止です」
これは。
妬いてるんじゃない。ただの八つ当たりだ。
神奈にはそんなふうに言ったことないもんな。幸せにしてやりたいとか。
言えるわけがない。
この女は俺のことが好きなわけじゃない。
慕ってはいるが、恋でも愛でもない。ただの父性愛みたいなものだ。
それを神奈はわかっていなかった。
ズボンのチャックを下ろそうとする彼女の手に手を重ねた。
「神奈。言う通りにすればなんでも言うことを聞くか?」
俺が恵子にそんなことができるわけがない、といった表情だ。
バカにするかのように嘲笑した。
「メールを見るまでは信用しません」
「今すぐ見せてやるよ」
え、と驚く神奈にサイドボードにある携帯に保存してある動画を見せた。
『ん、ぅ……こ、広大さ……くる、し……』
『飲むんだ、恵子。俺の小便を味わえ。神奈は悦んで飲み干すぞ』
『……っ! ……んっ、ぐう……ふぅぅっ』
『ほら、できるじゃないか。動画に撮って保存してやるよ。あとで神奈にも見せてやる。どっちがうまく飲めるか教えてやるよ』
『げ、ほっ……ごほっ、……か、神奈ちゃんも、……こんな』
『あいつは精液を好んで飲むけどな、俺の小便も大好物なんだ。美味しいって言ってるよ。ヘンタイ女だ。恵子、おまえはそんなふうに言わないだろ?』
『……こ、こんなの、……まともじゃ、ない』
『恵子、ほら……こんなにデカくなってる。おまえの咽尿で興奮したんだ。慰めてくれるよな』
『あ、……う……はむ、ん……』
『そう、いい子だ恵子。……残尿もすべて飲み干すんだ。その睾丸ももっと揉んで刺激しろ』
神奈の想像を超えた変態プレイだったのだろう、わなわなと震えている。
何度見てもこの動画は興奮する。言ってることはすべて間違ってないだけに、神奈のやつグウの音も出まい。
「…………」
「信用したか?」
「……誰がヘンタイ女ですか」
「君だよ。その通りだろ」
「こんなことをいつも恵子さんにしてるんですか」
「これはお仕置きしたときのやつだ。普段のプレイもいくつか保存してる。見せようか?」
「結構です」
「ちなみに君との動画もある。隠し撮りしてたんだ。こんなのよりもっと激しいやつを」
「削除してください」
「墓場まで隠して持っていくから安心しろ。君と恵子以外には誰にも見せないよ。俺だけの宝物だ」
「捨ててください」
「いやだ」
「広大さん!」
「神奈。……恵子より激しいプレイをしたくないか?」
耳元で囁く。
すると神奈は、ドクン――と心臓を高鳴らせて俺を見上げた。
彼女の興奮に火をつけた。
普段はいやがってなかなかすることはできないが。
ここまで煽ったんだ。いやでもしたくなるはずだ。
悪いな、恵子。
俺はこの女が手に入らないのがどうしても気にくわないんだ。
おまえは簡単に堕ちたが。
神奈はダメだ。もともと娼婦なだけあって、普通のプレイじゃ堕ちやしない。快楽慣れしすぎている。
「おいで、神奈」
彼女の手を引き、バルコニーへと誘った。
あらかじめ用意しておいた道具は隠して置いてある。
彼女をよがらせるためにいつか使おうと思っていた。
神奈は。
内心の怯えと、――期待に。
俺の手をギュッと握りしめてきた。
すでにネタバレ済ですが。
次回、産卵プレイです。
「この鳥め! 雌鶏め!(ビシィバシィ!)」
とはなりませんが。
たくやくんは?
そこまで行く前に産卵プレイで力尽きそうです。
頑張って書いてみます。