2ちゃんねる様のエロパロ文章創作版、悪の女とHスレに投稿していた作品で、改訂、続編となっております。
pixiv様にも同時に投稿しております。
出逢いは闘いから
怒号と悲鳴。鋼同士のぶつかりで生じる剣戟。繰り返し聞こえる弓矢の風切り。
ありとあらゆる音の全ては、今この地で繰り広げられている戦いより生まれ出でたものであった。
戦場に響く特有の音と、野を流れ出る鉄錆の臭いに覆いつくされた地、ヴィルフィング平原。
緑豊かな草原を舞台に相対するのは、侵略者と被侵略者。
侵略者の名は、世界制覇を掲げ他国への侵攻を開始した強大なる国ニヴラス帝国……その東方方面司令部を指揮する将軍ミンデル隷下の東方軍。
受けて立つ被侵略者の名は、ニヴラスに抗するも愚かなほど小さき国ギート王国──国王ハイジェラック一世率いるギート王立騎士団。
国を挙げた彼等の戦いは、今まさにその趨勢を決しようとしていた。
ニヴラス軍陣地
「第一陣が総崩れになっています!!」
「さすがは大陸中に勇名をはせるギート騎士団だな」
伝えられる戦況に言葉を発したのは、後頭方向へと長く伸びた兜を装着し一軍の将を思わせるようなマントを着用した眼光鋭い男だった。
否、思わせるようなではなく、事実として将たる地位を持つその男ミンデルは、すべては予定通りなのだと酷薄な笑みを浮かべながら指示を出す。
「第二陣を出せ」
そう、すべて予定通り。彼に取って、ギート王国軍もギート国王ハイジェラックも、自分の采配通りに動く駒であった。
踊れ踊れ。我が手の内にて踊れよ人形共。
勝機を見出した? 希望を見つけた?
そんな思いを抱いているのだとしたら、それを打ち砕いてやる瞬間が唯々楽しみでならない。
絶望に歪む顔を心行くまで堪能してやろうではないか。
さあ、踊るがいいギートの諸君。
「ククク、かかったなハイジェラック」
冷酷な笑みを浮かべながら隠そうともしない自らの心中を言葉に乗せ、氷の将軍ミンデルは声を張り上げる。
予定調和の結末──その手にある勝利の瞬間を目指して。
「槍兵!」
続く号令に横一列の隊列を組む槍兵隊が一歩前へ出る。
低く伏せながら長槍垣を構築しつつ前進し、死の壁となって立ちはだかり彼等は敵を迎え撃つのだ。
ドスッ ドスドスッ!!
肉を貫き、臓腑を抉る長槍。
貫かれていくギート騎兵の断末魔。
戦場に響く耳障りの良い調べに常でさえ冷たいミンデルの微笑みが、視る者を凍らせてしまうとの錯覚を覚えさせるほどに深くなる。
素晴らしいまでの予定通りだった。微塵たりとて疑う余地も無き予定調和な展開だった。
ミンデルは勿論、彼を守護する側近達にとっても。
彼が率いるニヴラス全軍の兵士達にとっても。
大凡の戦場の流れは予定通りの経過を辿っていると云えよう。
ただ、たった一つ。たった一つだけの予定外。正確には二つの予定外が起きたことそれ以外は。
しかしそれは所詮ミンデルに取り些事でしかない小事である為、気にするほどの事でもなかった。
たとえその一つが、戦況を変えるでもなくその後の己が未来もまた変わらずのささやかなる一つ目の予定外が、一人の剣士の命運に関わる出来事であったとしても。
居ても居なくても大きな意味は無いたった一人の剣士個人の運命を変えてしまう出来事に、やはりそれでもミンデルが気に掛けることはなかった。
*
それは槍兵隊がギート騎士団前衛部隊を崩壊させ、後方より魔獣隊──ニヴラスの誇るビーストコマンド部隊を投入し、ギート側のハンジャル弓兵隊を攻撃したときのことであった。
「もう許さないぞニヴラスの悪者めっ!」
陣地後部の草むらから大きな怒声と共に何者かが飛び出してきたのだ。
「みんな纏めてやっつけてやる!」
姿を現したのは、緋色の髪の十二、三ほどと思わしき少年。
「食らいやがれ──!」
何処に隠れていたのか。疑問を差し挟む間もなくおよそ戦場に似つかわしくないその子供が、気勢を上げながら腰に差す木製のブーメランを投擲してきたのだ。
回転しながら勢いよく飛翔するブーメラン。狙い違わずミンデル目掛けて宙を駆け行く。
それは氷の将の頭部へと突き刺さるかに思われた。
無論、普通ならばその木の塊は薄ら寒いミンデルの冷笑へと突き刺さっていたことだろう。人間誰しも咄嗟の襲撃に対しては一瞬だけ無防備となるのだから。
しかしそれは、ミンデルが普通の人間であり、また彼の身辺を警護する者が凡庸な実力しか持ち合わせていなければ、の話なのだ。
「ふっ!」
ガキンッ──!
くの字の木塊は無情にもミンデルへと到達するより手前で当然の如く弾き落とされてしまった。
「ちくしょう後ちょっとだったってのに!」
ミンデルを見据えていた少年は、己の一撃を無に帰した相手を睨み付ける。
無論、不意打ちを阻んだのは当のミンデルではない。
ただ投げるだけという投擲武器による単調な攻撃など目を向けるまでもなく叩き落とせるミンデルであったが、そも、その動作すら必要なかったのだ。
自らの手を患わせるまでもない小事に、なぜ手を動かし意識を向ける必要が生じえよう?
そのような者は、居ても居なくても大した違いこそ無くとも、自らの部下に任せておけばよい。
ミンデルの意向を汲み取るように障害にもならない襲撃者へと反応した彼に仕える側近が、その名の通り盾として立ちはだかったのだ。
「ふん。そんな玩具であたしたち氷牙の盾の鉄壁の防衛網を突破できるとでも考えていたのかい?」
三人居るミンデルの身辺警護を務める側近──氷牙の盾。
その一人である女が少年の前に足を踏み出す。
「何者だい小僧」
腰部より下まで真っ直ぐ伸びた長い髪は少しばかりの蒼みを感じさせる黒。
自然に伸ばしたままでいるためなのか? 両の耳の前より細長く生え下がる鬢の毛も後ろ髪と同様に長く、胸の下まで伸ばされ、毛先で束ねられている。
その胸の前に垂れ下がる自身の髪を軽く揺らしながら一歩前へと進み出た女は言葉を続けた。
「此処を何処だと思っている。お前のような子供の遊び場じゃないんだよ?」
彼女……名を氷牙の剣。氷魔将軍ミンデルの身辺警護部隊、氷牙の盾のリーダー格たる立場を築いている女だった。
氷牙の盾は各々ミンデルより授けられた氷の魔力を持つ剣、矢、斧を携えた三人の強者達によって構成されている。
中でも氷の剣の使い手たる氷牙の剣は、他の二人に対し頭一つ抜きん出た実力の持ち主であった。少年の攻撃へ素早い対処を見せたのも彼女だ。
女の身、それも二十代前半の若さでありながら将軍の側近を務めるほどの剣の達人たる彼女にしてみれば、攻撃用に投擲されただけの得物を弾くなど造作もないこと。
今し方投げられたブーメランが地に転がっていることが、彼女の実力を雄弁に物語っていると云えた。
「お前が楯突いた御方がミンデル将軍だと知っての──」
彼女は鞘から抜き放った剣を油断無く構えながら、ミンデルに対し無礼を働いた少年を尚も詰問しようと口を開く。
何者か。ニヴラス帝国のミンデルと知っての狼藉か。
彼女の問いに、だが少年は臆することなく吠え返すのみ。
「知らねえやいっ! 悪者なんかの名前を一々覚えてられるかっての!」
悪い奴が其処にいる。悪い奴だから許せない。
相手がどれだけの地位にいる人物かを知りもしないという少年の主張は、まさに子供その物であった。
「ハっ こいつはお笑いだね。知らずの狼藉だったってわけだ?」
嘲笑う氷牙の剣。彼女と同じく細身の男──氷牙の矢、三人の中で見かけ上は最も強そうに見える大柄の男──氷牙の斧も、この戦場に紛れ込んだ兵卒とも戦士とも思えない何処の者とも知れぬ少年に冷ややかな視線を送っている。
笑える処の話ではない。知らずとは云えども大国ニヴラスの将軍に対し、ただの子供が癇癪を爆発させたこの場違いな喜劇を見させられては笑いよりも寧ろ呆れが先立つ。
だが少年は自らを注視する彼等を見据えたまま怖じ気づく様子も見せずに言い放った。
「知らねえよっ、知らねえけどニヴラスが悪者だってのはわかってんだ! あっちこっちに喧嘩売って人を殺してっ、そんなの許せねえよっ!」
罵声を真正面から受けたのは勿論、少年の武器を弾いて対峙した氷牙の剣であった。
「くだらないね」
彼女は思う。馬鹿馬鹿しいと。長々と相手をする気にもなれなかった。
言動、心構え、姿勢。何処を取っても単なる子供その物であり、その言動──悪い奴等をやっつける等という子供の戯言が、少年がギートの間者かも知れないという一瞬抱いた疑いすら消し去っている。
ギート兵や間者であるなら捕らえて尋問する価値もあろうが、こんな素人丸出しの間者など世界中探しても見つからない。
事実として彼とギートに繋がりなど在りはしないのだから、彼女の出した結論は正鵠に的を射たものであると云えた。
「こんな所まで来て正義の味方ごっことは……相手をするのも馬鹿らしい」
無謀な正義感に酔い
「馬鹿らしいが──」
用は無いが、だからといって見過ごすような事もまた彼女の選択肢にはなかった。
「けどね小僧。おまえまさかミンデル将軍に対し狼藉を働いておいて、よもやそのままで居られると思っちゃいないだろうね?」
相手は危惧も警戒も必要としない、単なる正義ごっこの子供だ。
平時なら、ここが戦場でなかったなら、或いは彼が義憤に駆られて害を成そうとした相手がニヴラス将軍ミンデルでさえなければ、彼女も見逃していたやもしれない。
しかしそうではない。ミンデルは国軍の力の象徴たる歴とした将。
その将の顔に泥を塗るような行為をした以上、子供の遊びで片付ける訳には行かなかった。
「へんっ! やれるもんならやってみやがれっ!」
どこまでも生意気に減らず口を叩くやつ。
礼節を欠いた子供。
「ほざいたね」
だがそんな子供を自分が相手をしたのだ。
「いいだろう。このあたし、“氷牙の剣”が直々に手を下してやるよ」
せめてこの剣の錆としてやるべきだろうと更に踏み出す氷牙の剣に、緋色の髪の少年ゼファも計算無しの襲撃こそ行いはした物の、この場が圧倒的に不利だということには気付かされていた。
先手必勝の攻撃は防がれ、小さな己一人の身ではもう大将をぶん殴ってやることは出来そうにない。
元より多勢に無勢。不意打ちが失敗に終わってしまった以上、闘争を続けるよりも、逃走をこそ選択せざるを得なかった。
一人一人も強そうで、取り囲まれてしまえばとても勝ち目が見出せない。躊躇うは命とりとして。
その見るからに軽そうな身と、シーフであるという言葉通りに素早く駆け出し、落ちていた自身の武器を攫い拾った彼はその脚で逃走を図った。
「べーっだ! 生憎とこの“つむじ風のゼファ”様は、お前等なんかに捕まるようなドジな盗賊“シーフ”じゃねえやい!」
逃げたくないけど逃げる。悔しくてもそれしかないのだ。
「あーばよっ、のろまの剣士さん! 次こそ絶対にその悪者将軍をやっつけてやっからなっ!」
駆け出す彼のその脚が向うのは陣地後方の森。シーフである自身の得意な場所が唯一この状況を切り抜けられる鍵だ。
「今に見てろよ!」
捨て台詞を残して少年は逃げ去っていく。
無論、そんな彼の逃走劇が黙って見送られることなどありはしないのだが。
「逃がしはしないよ!」
言うまでもなく氷牙の剣にしてもゼファと名乗った少年の逃走を見逃すつもりなど微塵もなく。
「あの小僧はあたしが追う! おまえたち二人は引き続きミンデル将軍の警護にあたりなっ!」
部下二人への指示を与えた彼女もまた、逃げるゼファの後を追って駆けだした。
彼の少年が逃げていく遠方に見える森を目指して。
「おう!」
一方、彼女の命に応えるのは彼女の同僚にして部下の大男、氷牙の斧と。
「はッ!」
同じく部下の優男、氷牙の矢。
残されることになった二人は警戒の手を緩めずにそれぞれ将軍の守りを固める。
鉄壁を誇る氷牙の盾は、三人揃わずとも変わらぬ強度を保つのだ。
将軍に仇成す者を弾き返すだろう硬い強度を。
(あたし一人が一時抜けたところで、あの二人を退けられるような強者など今のギートに居はしまい)
的確かどうかは不明だが、彼女の判断としては間違っていない。
何より将軍がどうでもいいとばかりに口を出さない以上、あの小僧は相手をしたおまえの手で始末しろと言外に語っているということだ。
(丁度いい。ギート軍と切り結ぶ前の肩慣らしにはね)
自分はあの小僧を斬って終わり。後に再び警護の任を全うする、それだけの簡単な作業。
彼女の視点は既にゼファと名乗った少年シーフを斬った後のことへと移っていた。
*
(最早この戦、雌雄は決したな)
側近の一人が抜けることに、さしたる注意も払わなかったミンデルは、決定的となった舞台を睥睨。
ギート占領に必要となる兵員の補充を考え始めていた。
(それなりの損失も出ている以上、本国への追加派遣の打診はしておかねば。ベルザハークより借りた部隊による兵糧潰しも必要になろう)
敗色濃厚のギートへの更なる追撃。ガーゴイル部隊を用いての夜襲など。
将軍がやらなければならない仕事は多く、勝利が間近にあっても気が抜けない。
(思った以上に楽な戦であったが、完全なるギート降伏までにはもう二、三手ほど──)
そんな彼の思考を遮る者が居た。
いや、たったいま現れたのだ。
ザァァ──―。
その吹き荒ぶ一陣の風と共に。
(ん?)
空を駆け抜ける大きな影。
「ドッ……飛竜“ドラゴン”!? まさか……竜騎士“ドラゴンナイト”……!?」
副官エキルの叫び。
「
大空の支配者──ドラゴンと、その操り手たる一騎当千の騎士。
ミンデルは以前、煮え湯を飲まされたことのある苦渋の名を口にした。
しかしながら、それは大きく的を外れた名であったとその直後に気付く。
なぜなら降り立ったのは──。
「ミンデル将軍とお見受けする」
頭の後ろ手に一つ括りにされた、周辺国家では珍しい漆黒の長髪を持つ男であったから。
かつて取り逃がした竜騎士マズル=ハリアーとは全くの別人だった。
「ギート騎士団より依頼を受け お命頂戴に参上つかまつった」
ミンデル暗殺を依頼されたという異国の風貌を持つ剣士。
彫りの深い表情に浮かぶ目は鷹のように鋭く、その黒の眼光が捕らえているのはミンデルただ一人。
その他大勢の有象無象など、男の目には入っていないという事だ。
だがこれに当然黙っていない者達が居る。
無論それはミンデルの身辺警護を預かる二人の男。
「なんだと……!?」
剣士の行く手を阻む豪快な顎髭を蓄えた大男──氷牙の斧は、主君の命を取ると明言した大胆不敵な件の剣士に憤りを見せ。
「将軍の身辺を護る我ら“氷牙の盾”の存在を知っていて言っているのか?」
優男、氷牙の矢が、身辺警護の自分達を無視するような剣士の態度に愚者を見る目で言い放つ。
「知らぬ 用があるのはミンデルだけだ…… 死にたくなくばどいているがよい」
片刃の剣を手にゆるり歩む彼の剣士に相対する、氷牙の盾の二人。
(あの片刃の剣はシンラと同じ、ヤムネシアの……?)
大陸ではまずお目にかかれぬ片刃の剣。
同僚である将軍──シンラが得意とする得物を引っ提げ現れた剣士に、俄然興味を抱いたミンデルは命を狙われていることをまるで気に留めておらず。
対峙する己が側近との実力差は一目瞭然ながら、その剣技を見極めんがために敢えて止めることなく場の流れを静かに見物するに止まっていた。
そうして、氷牙の盾の二人が、闘いとも呼べない刹那の後にその命を落としたのは。
氷牙の剣が少年シーフを追って陣より程近い森へと消えていった、ほんの数分後のことであった。