剣士もまた恋を覚える
自分の惚れた女を抱ける男になってみろ──それは子供に対して向けるような言葉じゃないだろう余分なまでの後押しだった。
だがこの瞬間を以てゼファを子供として見つつも、一方で男として見ようとし始めている証明。彼女自身の心の表れなのかも知れない。
(男に惚れたことなんてありはしないし、女として男を見たこともないあたしにはそもそも確信ってものがない……だが)
好意を持たず、また男としても見ずなただの子供を果たして自分は求められたからと簡単に受け入れるような短絡的な女なのだろうか?
いまも体の奥に感じる熱を帯びた異物の感触。初めて受け入れたそれ。
(これが……これが、男……、ゼファの……)
体を貫く男たるを表す猛り。
(小さくても、硬くて──あたしを欲しようとする、男としてのたくましさを感じる)
女として初めて男を迎え入れた体は自然、交接を望む意思とは裏腹に収縮し、男の自由を奪うが如き締め付けをみせる。
それは彼女がゼファという男を拒んでいるようにも見えて、その実強く引き締め包み込むことで離すまいとするかのよう。
「ねえ、ゼファ……、あたしは、あたしはさ……、男ってものを、知らないんだ」
「う、うん」
知るはずもない。識ろうともしなかった。知る意味も、また識る意味も、彼女の中には存在しないからだ。
剣だけに全てを掛けて、己が心行くままにこの道のみを進み来た自分には不要なことだからと興味すら抱けなかった。
女も男もなく、強いか弱いか、敵か味方か。その生き様はニヴラス軍人その物を体現しているのと同じ。
とはいえ無論彼女も大人。興味は無かろうと、弱肉強食の世界で生きていようと、人並みの性知識くらいある。
そして男も女も互いを求め互いを必要としている存在であることも良く良く理解していた。
でなければ自分という人間その物の存在が成り立たなくなってしまう。
自分は父と母が結ばれて、男と女の営みを経てこの世に生まれてきたのだ。
男と女は生まれながらにして愛を育み、新しい命を繋いでいくよう定められているのだ。それを否定するつもりなど毛頭無い。
女である自分は男を迎え入れる為の体を持っている。そう、いまこうしてゼファという少年を受け入れているように。
だが経験が無い。それはある意味で知らないも同然だった。しかし、いまこの時それを知る。
まだ入り口たる扉を開いた程度ながら女としての本能が教えてくれる。
たとえ未経験であろうと体は知っている。体は発している。自らは彼を望み、彼は自分という女を求めているのだと。
「でも、ね……、分かるんだよ……。あんたが、あたしを欲してるってのはね……、こうして、挿れられちまったことで、さ……、体で、感じ取れるんだ……」
この少年の歳に見合っているのだろう一物の大きさ。しかしその先端部の鈴口は確かに己が最深部への入り口にまで届き、口づけをするかのように触れているのがわかる。
小さくとも奥を突いて、強くあろうとするかのように硬く、ピクピクと小さな痙攣を繰り返しては待ち望んでいた氷牙の剣との触れ合いを悦ぶ様は彼の性格そのままだ。
「あたしもさ、こんな……、こんなにも欲してくれるなら……、しっかりと、抱いて貰いたいって……そう、思うもんだよ……」
自分はいま紛うことなくゼファという少年の男根を受け入れているのだ。自らの意思の下で体の奥深くへと迎え入れ、交わっている。一人の女として男を知ろうとしている。
暴挙とも捉えられよう彼の行為が切っ掛けとなって二十余年の人生で彼女は自分から男を望んだのだ。
ゼファという、子供ながらにして男であろうと背伸びする少年を前に、自らもただの女となって。
「氷牙の剣を、抱ける男って、やつかな……?」
「ああ、そうだよ……あたしを抱ける男さ……。ゼファ、あんたは……あたしが好きなんだろ?」
「う、ん……。……オレ、氷牙の剣が好きなんだと思う……、ほ、惚れたんだって思うんだ……。いまオレ、嬉しいし……幸せだって、感じるもん……。こんなの、こんなのって……初めてなんだ」
貫通されたことで火照り痺れる体が、ゼファの言葉により多くの血を全身へと巡らせ女としての反応を高めゆく。
湧き出す蜜、男根と触れ合う柔肉が僅かな動きにも悦び、蠢き、彼女の身体に痺れを駆け巡らせた。
「お互いさまだよ……、それは……。あんたが、あたしを感じるように……、あたしも、幸せを感じる……」
好きかどうかではない、正と正が重なり合った幸福感だ。
きっとゼファはこれ以上を感じているのだろう、彼の言葉が、彼の心がその通りなら。
ゼファが氷牙の剣という女に心からの恋心を抱いているのならば。
「ううッ……、氷牙の剣を……っ、抱ける男になったらっ……、氷牙の剣はっ……オレ、はっ……、もっと、気持ちいいっ……、のか、な……?」
重なる腰、深く差し入れられた男根、こうなった男は性の欲望に取り付かれたかの如く女を貪る物ながら、ゼファは性の興奮に息を荒らげ、そして頬を赤くし火照らせつつも、子供らしく未知の事柄への探求心を優先させるのだ。
直球以外の物言いを知らない少年は本当に己が心を素直に表現してくるもので、その素直さが彼女には尊く感じられた。
「そうさ、それが出来て……初めて“男”ってやつに、なるのさ……、男ってのは……ね……、いつの世も、惚れた女を抱けるたくましさってやつを、求められるものなのさ……。惚れた女を満足に抱けないような男はまだ半人前……そういう、ものだよ」
「そ、そうなんだ」
純粋な心で求め来るこの少年に、自分も求められたい。求め合うことの心地良さを知りたい。
気持ちが自然と発露していく。その気持ちが次第に強くなっていくのを感じる。
未知の感情だ。ただこうしているだけで嬉しさを覚えてしまう不思議な感情だ。
締め付けられるように疼く心の臓、戦場で剣を片手に舞う時のように早く動く。
剣を打ち合っているときのように、鍔迫り合いをしている時のように。
なにもしていない。ただ、男を……小さな男を受け入れている、それだけで。
(なんだい、これは……?)
男根を挿入された女は、それだけで肉体的な火照りと性的な刺激から逃れられなくなることは知っていた。
箱入りの貴族娘等、特別な階級や環境で育った女ならいざ知らず。たとえ未経験であろうと成熟した女なら誰しも識っていよう常識的な知識だ。
しかしながらこれは、いま彼女が感じているこの感覚は全くの別物。
剥き出しの粘膜同士が触れ合う刺激とは完全なる別種の、心に沸き立つそれ。
特別な感情の揺らぎは、目の前の少年を意識することで大海の大波となって彼女の心を攫う。
(まさか……まさかあたしが? こんな……こんなガキんちょに、あたしが……?)
深層意識、心理の底など、表層に在る意思が本来気付けるような浅い場所ではない。気付こうにも気付けないほど深く、ゼファのような子供でない限り直ぐさま表に現れることすら皆無。
まして未経験な自分にとってそれはより分かりにくく、されど女として交わるべく彼を促したことは何処かしら自分自身もこの少年を特別に見ているのだろうという以外に考えられなかった。
(あたしは、あたしを求めたゼファを……あたしの為に泣いてくれそうなこのガキを……、男として見たくなっちまったんだろうかね……)
ゼファを男として見たい、いまもまた惚れたと伝え来る彼を。
「オレ……、オレ頑張る、よ」
無意識に求めているのかもしれない。
交わりと共に熱くなる心と体がこの少年の、ゼファからの求愛を。
「どうすればいいか……、よく分かってないんだけど……、やって、みたい……。だってさ……好きになっちまったんだもん、氷牙の剣を……」
決意の表明、もうそれその物には二番煎じ以上の意味はなくとも、重ねて伝える好意の証という捉え方で見るのならば十二分にすぎるものだった。
「だっだからオレ……、頑張るんだッ」
そしてその言葉を受けて悦びを感じる。ただの子供に対しては抱きようのない悦びを。
ぬるっ──。
「あっ──ううッ」
始められる抽挿。入って来た時とは反対に体の中に収まる硬い異物が外へ抜けていく感触。
張り出た鈴口の縁が襞を撫で擦り、摩擦を加えながら外へと引かれていく。
「んっああ──」
引っ付いていた粘膜が引き剥がされる感覚。男根を掻き抱こうと吸い付く襞を振り払いつつ。
しかし花弁内部に留まったままのそれは抜けてしまうすれすれで反復したゼファの押し出しにまた再び膣を深く奥まで貫いてくる。
「はあっ──あッ」
ゼファの頭が首の下に埋まり、突き込みによる彼自身と己が粘膜の擦れで生じた大きな快感に、彼女の顎が持ち上がった。
「びりびり、する……気持ち、いい……、ねえ……こ、こんな、感じで……いいのか、な?」
子供だからこそほぼ識らない男と女の交わりという行為。本当ならば元服を迎えるまで与り知ることの無かっただろう性交。
彼女の首元に顔を押し付けながら訊ねるゼファは確かに子供で、大人である氷牙の剣に教えを請うのはごく普通のことなのだ。
ただ、請われた彼女も多くを知るわけではない。今まで興味もなかった初めての行為なのだから。
知識はあっても実践は無く、単調な抽挿と互いを絡ませ合う行為以上を知らない故に当たり障りのない、識っている限りの部分で彼を導くしかなかった。
「そ、そうだよ……、それで、いい……、あんたの先が、あたしの中から……っ、抜けない、ように……っ、おっ、奥まで……挿れて──手前にっ……ひ、引いて……っああ!」
共に初心者な二人。
氷牙の剣は的確なアドバイスを持たず、ゼファは彼女の脚を抱えながら腰を前後に振るい鈴口の手前から竿そして根本までの間で、ただ懸命に大きく出し入れをするのみ。
「あっ、くっ、ううっ、はっ……ああ──っ、ゼ、ファ……っ」
一定のリズムを保ちながら突き来る幼さの残る男根が狭まる肉道に絡め取られる。
「ひ、氷牙の剣っ、すっすげぇ……よ……っ、気持ち……いいよ……、気持ち良くてっ……、さっきよりずっと……締まって来てる……っ」
剥き出しの粘膜は絶えず蠢き迎え入れている幼根を奥へと誘う。
あるいは押し出そうとしているのか、判別に苦しい圧迫を強めながら一方では動きやすく、また幼根を撫でるように柔らかく、ざらざらとした襞を絡みつかせては潤滑油の役目を負う愛液を溢れんばかりに湧出させる。
ぢゅぷっ、ぢゅぷっ、と響く淫らな水音。
濡れた性器と性器の交わる密やかな音が、洞窟の中を木霊する。
息遣いも喘ぎも氷牙の剣の方が大きく。
彼女はいま、確かに自身が女であることを実感していた。
自身に惚れたという男に抱かれる女、心地良さの中で覚える女の幸せ。
斯くも気持ち良く甘美な秘め事。
「ああっ──! ち、小さいけど……立派……だよ……っっ、はっああ──っ、あっあ……っ、かた、くて……小さいのがっ──、精一杯、張って……っ、あたしをっ……あっあたしを──!!」
気持ち良くさせている。
味わったことのない、一度味わえば二度と忘れそうもない快楽を伴って。
この身を……、深い場所から全身に至るまでこの身を痺れさせている。
「こ、こんなにっ……気持ち、いいのかい……っ、性交ってのは……っ、あっ頭が……、頭がどうにかなっちまいそうだ──、んっ……ああ──ゼファ、もっと、もっと……っ、もっと突いておくれよっ……。あっあたし……を、もっと……感じさせて……っ」
大人とはいえ未経験の膣孔は、余裕を感じさせないほどに幼根と張り付き一体となっている。
「あっああ──、んっ……あはァ……っ、ゼファ……っ、ゼファ……ッ」
「氷牙の、剣……っ、ああっダメだ……っ、オレ、オレ……っっ」
擦れて擦れて、また擦れて。ただひたすらのこすれ合いに桃色の秘口が充血し赤へ。
その赤い口は絶え間ない抽挿に粘液を沸き立たせて、彼女の股間を濡らしていく。
少し濁っているのはゼファの鈴口より時々出る汁だろうか?
そんな愛液に混ざる形で赤い物までが流れ落ち、彼女とゼファの結合部を通じて互いの股間へ付着させた。
「血、出てるっ──よ、い……痛く……ないの?」
その赤に気付き、竿の真ん中までで一度止まったゼファ。
相変わらずそこより先は彼女の体に収まったまましっかりと繋がっている。
「はあっ、はあっ、っ……血、だって……?」
彼女は見る、自分を貫く幼根が突き立った股間部を。
「ふうっ、ああ、そ……それかい……」
流れる赤は確かに彼女自身の鮮血だった。
「そ、それは、ね……、さっきあんたが破った……あたしの初めての、名残さ……っ」
処女の証を貫かれた末の出血。
まだ奥に残っていたのだ。それが溢れ出してきただけのこと。
「痛か、ないよ……痛いよりもずっと……気持ちいいから、ね」
もしこれが同じ年頃の男なら、痛みの方が勝っていたかも知れない。
しかし彼女が交わっているのは齢十二の少年……、相性も良いのか。とても強い快感だけを感じられた。
「オ……オレは、ちょっと痛ェ……、首……締められてるみたいに、オレのが締め上げられて……。で、でも、気持ちいい……」
尤も彼はそうは行かない様子だ、小さいが故に大人の女の締め付けに苦しみを見せている。
それでも気持ちが良いのは、惚れた女の中だから。
「あっはは……、そりゃ、こんな小さい一物じゃ……ね……。無理、ないよ」
「や、やっぱ小せぇ……かな……?」
氷牙の剣の腰から背中へと回される両手。
木にしがみつく動物のように、母に抱かれる幼子のように抱きつくゼファの頭を、彼女は優しく撫でてあげた。
「ゼファの歳にしちゃ、立派なんじゃ……ないか? はっうう……、お、大人のあたしを……感じさせて、奥まで……届いてるんだ……、十分だよ、それで」
「お、奥って……ここ?」
彼女の言葉にゼファの腰が前に出る。
じゅぶう、音を立てて竿が入り、陰嚢を押し付ける形で腰が止まる。
「あうう──っ、あっはぁ……っ、そっそう、そうだよ……あたしの……っ、一番深い……ところさ……っっ」
反射的に反った背中、顎が上がり、少年を見下ろしていた彼女の視線がまた斜め上を向く。
天井。洞窟の岩肌。焚き火の明かりが作り出す影がゆらゆらと揺らめいている。
「ここって、なんか……居るだけで嬉しい……、落ち着くって……云うか……、……懐かしい……感じ」
「そりゃ、ね……その奥は、あたしや、ゼファが……生まれた場所……だから……ね……、懐かしく、感じるのさ」
鈴口が食い込む窄まりの先、行き止まりに思える場所には子宮と直結する口がある。
人は誰しもこの奥で生命の伊吹を上げて、そうしてこの世に生まれてくるのだ。
「子は……、女が、生むだろ……? 女の体の奥には……ね、そういった場所が、あ……あるんだよ」
懐かしさを感じるのは、かつてそこで育った体が反応しているから。
男が女を求めるのは、愛の他に母性に包まれたいという思いが働いているのかもしれない。
氷牙の剣は自分に母性などというものがあるとは思わないが、ゼファに求められる事だけは素直な嬉しさを感じていた。
「う、ううっ」
不意にゼファの体がぶるりと震えた。
「ゼ、ファ……?」
「なっなんか、さっきから……出そうに……なってるんだ……、お……おしっこ、みたいなの……。ううっ……が、我慢してたんだけど、ひっ氷牙の剣の中に……っ、出したくって……しかた、なくって──」
「なっ……?!」
絶句とはいわないまでも彼女は言葉に詰まる。
「これっ……、おしっこじゃ……ないんだよねっ」
子供故に、初経験だから、理由を探せば確実に行き当たる予想外にも早期に訪れたそれは、交わりの果てに男が女へ注ぐもの。
女の中へと出すよう、生まれながらに定められた男の本能だ。
「まっ待ち、な……、あっあたしの体にかけても、いいからっ……中は──!」
大人だからこそまだ達していない彼女は冷静な部分でそれを拒否する。
性の初心者ながら彼女とてそれを出されて万が一があったらくらい考える。
いまが平時ならば受けてやってもいいのだが、戦時で軍人・剣士たる自分にとり万が一があっては困るのだ。
自ら抱いてもいいと言った。口づけも構わない。
満足行くまで抱いて、納得いくまで口付けて……男と、女として、貪り合って……。
その通りキスを受け入れ、こうして性交に及んでいるのだから。
「い、やだっ、氷牙の剣の中にっ……出したいっ!」
「ゼファっ──お、まえ……っ」
「だって、だってオレ好きなんだもん氷牙の剣のことがっ!」
好きな女だから中に出す。またもや直球に伝えられた彼の叫び。
外に出したくない、氷牙の剣の中に出させて。オレのを受け入れて。
そんな少年の切な願いと想い。
彼女は不思議な気分だった。
女を捨てて生きてきた自分が、そんな言葉を耳にしよう日が来ようとは。
自分という女に求愛し、精を受け入れさせたい。
何も知らない子供でも惚れた女の中に出す正しさを体が気付かせているのだ。
それがどれだけ幸せなことなのかを本能が教え、その幸せを求めているのだ。
(こんなにも……、こんなにもあたしのこと、求めてるってのに……、ただの女として抱かれたってのに、あたしは……)
受け入れてあげたい気持ちもあった。
初めての相手というよりも、自分という女のことだけを強く思う少年なのだ。今まで居なかった本当に自分の事を大切に思ってくれる相手なのだ。
子供である。敵……否、敵だった。今日逢ったばかり。
あらゆることが言い訳にならないほど、彼女はこの少年を好ましいと思いその求愛を受け入れている。
最後まで求愛を受け入れるべきか?
受け止めてあげるべきなのか?
「氷牙の剣っ──」
「あっああ──っ、そん、なっ、ぐりぐりし──っ」
ぐぐっと腰を押し付けて、もう根本まで入っているというのにも拘わらず、引っ付いた股間を押し込もうとしては己を貫く幼根の先で子宮の口を捏ねている。
「んっああ……ッ、ゼファ……ッ」
ぐじゅっと押し出される愛液が彼女の股間から尻をしとどに濡らす。
壁に付く背が更に反る、まだ達するには余裕ある彼女の体に汗が浮かび始めた。
吹き出す汗は収束し、水玉となっては一つまた一つ、彼女の頬をつたい落ちる。
豊満な乳房にも汗は浮かび流れ、乳房に沿って流れる二本の長い鬢の髪を濡らし肌に張り付かせた。
全てを委ねるべきか?
立場的な問題が多くそれが故に拒否するべきか?
束の間の逡巡、だがその猶予は僅かたりとも残されてなかった。
「うッくうぅ……ッ」
「氷牙の剣っ……、オレっ……好きだ……っ、オレっ……オレ氷牙の剣が好きだっ……、だから……っ」
だから──―出させて。
心に響く純なる気持ち。幾度目になるかも分からない求愛の言葉。
ぐっと押し込まれる小さな猛りが、その先端を触れさせた口を容赦なく押し広げていく。
閉じた口を開かせながら、肉を掻き分けて子宮の中へ侵入してきた。
どうしても出したいという想いがその行為から伝わってくる。
「ああああ────ッッ!!」
開かれた口。入り口をこじ開けられた感触。
出そうと意識した物ではない自然な叫びに涙が、こぼれ落ちた……。
甘い嬌声、悲鳴など上げたことのない自分の口からこんな切ない叫びの漏れることがあろうなどと、想像したことすらなかった。
瞬間、抱えていた両の脚を放して身体ごと抱きついてくるゼファを、氷牙の剣は────。
ニヴラス軍人でも、敵でもなく、ただ一人の女として。
許していた──。
「氷牙の剣────っっっ」
“ドクンッ──”
「──―ッ」
大きく膨張しきり、そして脈動したゼファのたくましき猛り。
子供らしさを表す大きさながら、立派に男としての努めを果たすべく脈打つ男根。
「アッアア……ッ、アアっ──!!」
根本まで差し込まれたことで股間に当たる陰嚢。幼さを残しながらも精巣として機能し始めていたであろうそこより送り出された子種たちが、一物を通して氷牙の剣の胎内へと入っていく。
“ドクンっ……ドクンっ……”
規則正しく脈打ちながら亀頭の先より勢いよく吹き出す白濁は熱く。
受け入れた彼女の脚が己の中へ精を注いでる少年の体を挟み込んだまま張り詰めたように伸びきった。
「氷牙のっ剣──っ、氷牙の剣──―っ!!!」
今日知ったばかりの名を少年は叫ぶ。
好きだから、惚れてしまったから、何度も何度も名前を呼びたいとでも云うように。
「あっあああ……っ、ゼ……ファ──っ!」
そんな少年の想いが強く込められた精は次々と絶え間なく送られてくる。
一つ脈打てば噴き出し、子宮の中を駆け巡り。
二つ脈打てば白く染まった内部に濁り溜まりを形成する。
胎内に溜まり行く濃厚な精を感じ取りつつ、伸ばした脚をぴくぴくと痙攣させながら、彼女は言葉もなくただ嬌声だけを上げていた。
*
あれからどれくらい経ったろう。
洞窟の外は既に日が落ち、夜の闇に包まれ静寂の時が訪れていた。
「……」
焚き火だけは絶やさぬよう時折枯れ木を放り込んでは岩肌に背を預けたまま、氷牙の剣はじっとゼファの寝顔を見ていた。
「すぅ……。すぅ……」
穏やかな寝息、命のやり取りをしていたことなどまるで感じさせず安心したように眠る少年の頬を彼女はそっと触る。
「よっぽど疲れたんだね……、殺そうとしたあたしの傍で警戒心の欠片も見せずこんな静かに眠っちまうなんて」
交わりは、あの後もまだ続いていた。
一度目の交わりを終えても疲労困憊なままに二度目の抽挿を始め。二度目が終われば三度目を。
好きだと、何度も訴えかけてきながら胎内に精を出してくる。
二度目も三度目も、そして四度目、五度目と続けざまに。
その五度目の射精を終えて体力を使い切ったのだろう。ゼファは気を失うようにして倒れ眠ってしまったのだ。
「惚れた女に精を注ぐ……か、敵なんかに惚れちまうなんざ馬鹿な小僧だよ」
嘲笑とも取れる台詞を吐きながらも彼女は穏やかな微笑みを浮かべている。
「五回も出してくれて……お腹の中、あんたの体液でいっぱいじゃないか。孕んじまったらどうしてくれるんだい」
下腹部の奥はまだ温かい。いや、熱いとも云えるくらいに熱を保っていた。
二度目より先はなにも言わずに大人しく受け入れていた彼女の胎内は、もしも見えるのならばゼファの体液に満たされて膨れあがっていることだろう。
時々花弁よりとろりと垂れてくるほど大量の精を注ぎ込まれていた為に衣服を着ることも出来ない。
下着を穿けば忽ちの内に濡れてしまう。
精という粘性の液に濡れた下着など落ち着かないことこの上ないと思われる。
「ハァ、まいったね……」
火に当たり続けた事で乾いていた彼女の髪が外より吹き込む夜風に揺れた。
人体の中でも乾くのが最も遅いであろう髪、長ければ長いほどに乾かすまでの時間を要する髪は毛先が尻に掛かるほど長い。
これだけの長さがある髪がもう乾いているのだ。つまり身体など疾に乾いていたとなる。
となればさっさと衣服を着てしまいたいところ。
しかし交わりにより注がれた大量の精がそれをさせてくれないのだ。
「さっさとあたしの剣を探して軍に戻らなきゃならないってのに」
洞窟の中には見当たらない自身の愛剣【氷牙の剣】。是を回収してニヴラスの陣地に戻らなければならないというのに探すことさえ現状では不可能だった。
この地域の夜の森は寒く裸では洞窟の外にも出られないゆえに衣服を着れない状態では……。
「とはいえ探したところでそう簡単に見つかるとも思いやしてないけどね」
子供の浅知恵とはいえ自らの命を脅かすだろう武器をそうそう簡単に見つかる場所へ隠すわけがない。
無論、最早彼女の頭にゼファを殺そうという意思は残ってなかったが。
「……どうしちまったんだろうね」
自分の心は。
ゼファの心に触れた所為か、性交の影響か。どうも自分はこの少年を“男として”見ている。女としての目で……。
「あたしの死に泣いてくれそうな男か……」
氷牙の剣が死ぬなんて絶対に嫌だいっ。
「あんなこと言ってくれる男、どれだけ考えてもやっぱりあんたくらいだよゼファ」
ミンデルには文字通り盾や駒程度に見られているだろう。
部下達が自身の死に泣くはずも無し、そんな友人もいない。
文字通りゼファだけだった、自分という女のことを大切に想ってくれているのは。
「ふん……いいさ。今夜はもう諦めるよ……。あたしを想うあんたの気持ちに免じてね……」
陣地へ帰り任務に戻る。軍人たる自分の、氷牙の盾筆頭としての自分の責務。
だが剣が見つからないことにはどうしようもない。使い慣れた剣、ミンデル将軍より授けられたこの世に二つと無い霜の巨人より生み出された氷の剣。
それを取り返さず手ぶらで帰るなど……。
「今なら返してくれそうなんだけどね」
縄を解いてくれたのだから当然剣も返してはくれよう。
しかし疲れて眠るこの少年をたたき起こしたくなかった。
そして剣が戻ればこの少年ともお別れなのだ。
それが少し……、いや……。
「普通に、……寂しい、ね」
だから明日まで。そう、明日まで待って剣を返して貰う。
それまではほんの一時、心触れ合わせ、女として抱かれたこの少年の傍に居よう。
彼女はそう自らを言い聞かせると、ゼファを抱き寄せて静かに目を閉じた。
*
翌朝、氷牙の剣は愛剣を回収することが出来た。難しくなく、あっさりと。
出来たのだが──。
ゼファと別れ、そしてニヴラス軍陣地に帰還することは結果的に出来なかったのだ。
その理由、それは……。
「うッ、ううッ……」
彼女の前で苦しみ続ける当の少年ゼファにあった。
「まだ、下がらないか……」
熱が出ている。それもかなりの高熱だ。
おそらく原因は極度の疲労からくるものだろうと思われた。
無理もない。激しい戦闘に続き、子供の小さな身体で大人の彼女の身体を担いで距離を歩き、疲労も内部に蓄積しているだろうままに激しく交わり続けたのだ。
疲れがピークに達してこうなる要素は十二分にあったと云えよう。
*
朝、目を覚ました氷牙の剣は、自身の剣を回収するためにゼファを起こそうとした。
だが悪夢でも見ているのだろうか。彼はうなされたまま、まともに意識を取り戻さなかったのだ。
体に触れてみて分かった。酷い高熱が出ていることに。
そんな彼の様子を見て直ぐさま彼女は己の剣を探し求めた。
意識を取り戻さないゼファに隠し場所を聞こうにも聞けない以上、自らの手で見つけ出す以外にないからだ。
幸いにも程なく目的の品は見つかった。洞窟の外、直ぐ近くの林に光る物を見つけたのだ。
朝露が凍って反射した日の光。水分が凍結するほどには寒くない一帯で、なぜそこだけ周りの草や朝露が凍っているのか?
考えるまでもない。氷の魔力を帯びた自らの愛剣がその近くに存在しているという何よりの証であった。
『鞘から少し刀身が抜け出ていたのは幸いだったよ』
なにかの拍子に抜けたのだろう、僅かに見える刀身より漏れ出た冷気が周囲を凍らせていたのである。
是により苦もなく見つけ出すことが出来たというわけだ。
『さて、剣も回収したことだ、此処にはもう用は無い……』
そして剣を回収した以上用は無い。
留まる理由があろうか?
いや無いに決まっている。
その筈だ。それで間違いない。
自分はこの剣を回収し、後は陣に戻るのみ。
かなり奥まで入り込んだのだ。それもそこより更にゼファに担がれて奥へ奥へと来た以上、走っても陣に戻るまでには結構な時間を要するだろう。
作戦が順調に進んでいるのならば今日か明日の日中にはニヴラス軍のギート王城攻略戦が始まる。
ズヴィシオーズ城攻略ともなればミンデル将軍が直々に打って出ようこと疑いもなく、彼女はその作戦に間に合わせなければならないのだ。
だがそれは熱にうなされる彼の少年を置き去りにすることを意味していた。
『……別に、放っておけばいい』
そう、彼の少年とは元々敵だった。敵対相手と祖国、どちらが大切なのかは論じるまでもない。
昨日の出来事は一種の緊急時に於ける気の迷いだった。
交わりを持ったのも、口づけを交わしたのも、彼の告白も、彼の言葉も、全ては祖国の大命に優先する物ではないだろう。
自らの心に灯った彼の少年への好意的な気持ちさえも……。
全て捨て置き任務を優先すべき。
それがニヴラス帝国軍人氷牙の剣が第一にすべきこと。
その筈だったのだ……。
その筈だったのだが──。
『ちッ、手を掛けさせるガキだよまったく!!』
その脚が向った先は進行方向とは真逆。彼の少年と睦み合いの一夜を過ごした洞窟だった。
自分を求めて、ただひたすらに求め来て、幾度もの精を受けさせられた。
好きだと、何度も叫んでは狂おしさを覚えるほどに求めてきた少年ゼファを。
氷牙の剣は遂に置き去りにすることが出来なかったのだ。
*
「氷牙の、剣……、氷牙の剣……」
うなされ苦しむ少年の傍らで腰を下ろしながら彼の黄色いマフラーを愛剣の刀身にくるませた彼女は刹那を以てそのマフラーを刀身より外す。
愛剣【氷牙の剣】に触れさせた布は氷のように冷たくなる。
そして冷たくなったそのマフラーを二つに折り、そっと彼の額に乗せた。
「心配しなくてもあたしは何処にも行かないよ」
自身の名を呼ぶゼファの手を握り自分が傍に居ることを伝える。
意識のない彼は何か夢でも見ているのだろうか? ずっと己の名を呼んでいるのだ。
苦しそうに呻いては名を呼び、求めてくる。
「ほら、あたしは傍に居るよゼファ、だから早く元気になりな」
こうまで名を呼ぶのはもしかすると彼の夢に自分が出ているのかも知れない。
だが夢は夢だ。現実の自分は此処に居る。あんたの傍であんたが目を覚ますのを待っている。
「任務を放り出してまであんたの傍に居てあげてるんだ、死んだりするんじゃないよ」
大袈裟に考える物の、風邪を拗らせれば最悪死に至ることもある。
油断しないようマフラーがぬるくなれば冷やし、またぬるくなれば冷やしを繰り返しつつ。
やがて夜を迎えてもなお一向に目を覚ます気配のないゼファに服を脱いで昨夜のように肌を晒した彼女はしっかりと彼の体を抱き締めて夜の冷気から守っていた。
翌朝が来ても、またその翌朝が来て夜の闇が訪れてもゼファが目を覚ますことはなかったが、少しずつ回復の兆しを見せ始めていく。
人肌で温めてあげることが功を奏したのだろう、やがて四日目を迎えた頃。
「う、うう、う……ん……」
漸く、閉じたまま開くことのなかった曇り無い瞳が開かれていった。
「ゼファっ」
彼女は己の腕の中で目を覚ました彼に顔を寄せ覗き込む。
「あ、れ……、お、オレ……どうし、たんだろ?」
ぼーっとした微睡み半分の寝ぼけ眼。
「……氷牙の、剣?」
未だ身体は熱を残し、完全回復には至らないまでも意識を回復させたゼファに氷牙の剣はほっと小さく息を付いた。
「氷牙の剣? じゃないよ……、ったく、心配掛けさせてくれたねこのガキんちょが」
「どう、したの……? なんだか、体が熱い……」
「覚えてないのかい? 高熱出してぶっ倒れてたんだよあんた」
「え……?」
自身の状態が分からずというゼファ。なにがあったのか、どうして寝ていたのか、まったく気付いていない。
「……そう、なんだ……、オレ、風邪引いてたんだ……」
暢気なヤツだと彼女は思う。
真剣に、片時も離れず傍で看病していたというのに自分が馬鹿みたいだ。
「どうしてくれるんだい、あんたのお陰で作戦に間に合わなくなっちまったよ」
「あ、はは、ゴメン……、でも、オレはその方がよかった……、だって、氷牙の剣と、別れたくなかったから」
それと……と、何かを伝えたいようでまだ辛そうなのに話を続けようとする。
「夢、見てたんだ」
「夢?」
「うん、とっても……悲しい夢、氷牙の剣が……戦で死んじまう……夢……」
どこかの異国の剣士、霞みがかり顔も名前も分からないその剣士と相対して切り結んだ氷牙の剣が、胸から体を横一線に両断されて死ぬ夢だという。
「胸のところ、斬られて……、胸の真ん中から、髪の毛も切れ落ちて、……斜めに体が、真っ二つで……目を開けたまま、死んでるんだ……血が、いっぱい出て……」
四日前の交わる直前、自分が死んでも云々といった話をしていたから熱の苦しみも手伝いそんな夢を見たのだろう。
「なんて夢みてんだいこのクソガキ、あたしはこう見えて剣の腕には絶対の自信があるんだ。そうそうやられたりするもんかい」
思い描いたこともない。自分と剣を切り結び生き延びた剣士などそれこそ居はしないというのに、そんな自分があっさり殺されてしまう状況など。
所詮は夢なのだ、荒唐無稽な内容が常のものとしてある。
だいたい夢で死んだからどうだというのか? それが原因で現実に死ぬわけでも無し。
それなのに胸が見たい、髪が見たい、挙げ句に服も見たいと宣いだしたゼファに呆れてしまった。
勿論心配しての事だとは分かっている。しかし面白くない、得意分野で殺された等面白いはずもない。
彼女はぶつぶつ文句を言いながらも己の胸を間近で見せてあげた。
「ほら、胸だよ」
病人に何を見せているのかと思うも見たいと言うのだから仕方ないだろう。
一度見せている、何度も揉みし抱かれていることで更に抵抗感がないのもある。
元々彼のような子供に胸を見られて羞恥するような感覚もないのだが。
すると上半身を起き上がらせたゼファが徐に左の乳房を揉んできた。
「んっ──」
柔くひと揉みされた感触にちょっとばかり感じて小さな声を上げる氷牙の剣。
このまま揉みし抱くようなら無理にでも寝かしつけようと考えるも、さすがに意図するところが違うようでそれ以上の刺激を与えてくることはなかった。
「どうだい?」
「柔らかい……乳首も綺麗で、斬られたみたいな後もないね」
「当たり前だよ馬鹿。斬られてたら死んでるし、なにかい? 此処に居るあたしは幽霊か何かだってのかい?」
続いて鬢を左右二本とも掴んで触られた。
「この、括ってる毛先のとこが……夢で切れてた……」
「切れてるかい?」
「……切れてない」
胸の下まで届く鬢の毛先は左右とも綺麗に束ねられており、その毛先までの長さも左右共に均等。
切れてないのだから当たり前だ。
続いて後ろ髪を触らせてと彼は言う。
好きにしろという気持ちで彼女が後ろを向いてあげると髪に触れられた。
「この長い髪の毛が……、背中の真ん中で切れ落ちてたんだ」
髪を触りながら丁度胸の真後ろに当たる位置を指でなぞられた。
そこで髪が切れて落ちたらしく、斜めに指を走らせながらの説明にくすぐったくなった氷牙の剣は身を捩る。
「くふぅっ……こ、こそばゆいだろ、やめなって」
「あ、ごめん」
「あんたあたしをくすぐるのが目的じゃないだろうね……。……で、髪は切れてるのかい?」
「ううん……切れてないや、元の長さのまま」
切られてないし、切った覚えもないのだから髪が短くなっている筈もない。
「しかし鬢の毛先が切れて胸を横一線に両断しつつ後ろ髪も切れたってのかい? このあたしがそれをやられたって?」
「う、うん、そんな感じだった」
「夢とはいえとても信じられないね、現実に居るなら達人なんてものじゃない神の領域だよ」
胸の位置で体を両断され、鬢の先と後ろ髪までその剣閃が通り抜け線を結ぶように綺麗に切り裂き切断したということは、即ち目にも見えない高速で斬られたということだ。
自らもやろうと思えば出来るだろう、しかしそれを自分にやられたとなると自分は反応できなかったとなる。剣にも速さにも絶対の自信を持つ自分が斬られたことにも気付かない程の速度だと。
(速いの桁が違う)
そんな速さを持つ剣士など聞いた事もない。ニヴラスにはシンラ将軍という異国の剣術の使い手だとされる達人も居るが、手合わせしたことはないため除外する。
「ゼファ、どっちでもいいから片手であたしの鬢を持って空いた手を手刀にして毛先を押してみな」
彼女が言うと、ゼファは彼女の左の鬢を手に取りその毛先を空いた手で押してみた。
「こ、こう?」
無論、髪は手刀に押されて力を加える方へと押し出されるだけ。
手の甲を滑りながらの様子はとても髪を捉えているとは云えなかった。
「押されて滑るだろ?」
「そう、だね」
「垂れ下がる髪を切り落とす、それも毛先を切るなんて簡単にできる芸当じゃない。剣で切ろうとしても今と同じ様に毛先は剣の圧に押されて逃げちまうから精々髪が揺れるだけで何もないものなのさ。つまりそれを一閃して両の鬢の毛先が切れてるってことは、それだけの速さの剣閃があたしの胸を駆け抜けたってことなんだよ」
現実問題どれだけの領域に辿り着けばその様な高速、下手をすれば神速とも呼ぶ領域の剣閃を繰り出すことが可能なのか?
達人の域に達する剣の腕を持つからこそ並の腕では出来ない事を彼女は知っていた。
「剣の腕と速さに自信のあるあたしならある程度似たようなことをやれるよ。ただ、そんな速さを極めたあたしが逆にそれをやられたってことは桁外れの実力差を物語ってるわけでね……そんなのがそうそう居たら堪ったもんじゃないよ」
そんな剣豪がそこら中に居るとするなら世界中の達人は凡人へと早変わりだ。
そして最後に服も見せてやる。
「胸のとこで切れてたんだ」
「どこに切れ目がある?」
「腰、スカートのとこだけ」
「それはそういう作りの服ってだけだよ」
「うん、分かってる」
「納得いったかい?」
そうそれは夢、夢は夢でけして現実ではないのだ。体も服も着れてなくて自然。
もし切れていたら夢が現実に侵蝕してきたとなり、それは剣ではなく魔法の領分となる。
「でもやっぱりオレ、氷牙の剣が死ぬなんて……やだい」
それは本心からの言葉だ、もう何度も聞いたこの身を心配してくれる言葉。
自分よりもずっと小さな子供が、惚れた女たる自分を想い紡いだ言葉だ。
「誰に向って物を言ってんだい。死にやしないよあたしは」
死ぬつもりもない。だが嬉しかった、好きだと言い心配してくれ、自分だけを求めてくるゼファの姿勢が。
ただの夢のことでさえも自分という女を心配してくれたのだから嬉しさを覚えずに居られようか。
「夢に殺されてたまるもんかい……だろ?」
しかしそれもこれまで。悪夢と熱に侵された不安定な思考のもたらす不安からの妙なやり取りはこれでおしまいにしよう。
納得したのかコクンと頷く少年の顔はまだ赤く、どう見ても良さそうな顔色には見えなかった。
「さ、納得いったならもう一度横になりな。まだ熱は下がってないんだ。しっかり寝て早く風邪治してさ、それで元気になっておくれよ」
「うん……」
素直に応じるゼファを寝かせ、彼女はそっと添い寝をしながら彼の体を抱き寄せる。
「おやすみゼファ」
「うんおやすみ、氷牙の剣」
もう一息、明日になれば回復もするだろう。
(戦、終わっちまったかね)
作戦決行日を過ぎて明日で三日。
順調ならもう今頃ギートは陥落していることだろう。
(ガキ一人捕まえられずに戻った無能者、そんな謗りは免れないね恐らく)
自身の進退窮まったと確信を持つ彼女は、それでもゼファを優先したことに後悔を抱いてはいなかった。
むしろ捨て置いていけばそちらの方が後悔していたであろう。
そうして優しく彼を抱き寄せながら自らもまた静かな微睡みへと意識を落としていく。
「おやすみよ、ゼファ……」
尤も、翌日になり洞窟を出てから全ては終わっていたと彼女は知る事になる。
*
“ミンデルが討ち取られたってのに、ギートを捨てて逃げなければならないなんて……”
殿として森の中を撤退していたギートの騎士の一人と出会い知った真実。
それは彼女の帰るべき軍も、氷牙の盾という戻るべき隊も、もう何処にも存在しないという意味なのだ。
出会い頭に攻撃しなかったことは不幸中の幸いだった。
これは好きだから付いていくと言い、言う事も聞かず同行してきたゼファのお陰だ。
ギートの騎士は一軍人でしかなく、ズヴィシオーズ城攻略戦に不参加であり会敵もしたことがない氷牙の剣のことなど当然知るはずなく。
出会ったときに機転を利かせ「二人で旅をしている最中でギートに向う途上」と咄嗟に出任せを言ったのだ。
「おまえ達も早く別の国へ行った方がいいぞ。ミンデルが討ち取られたことからミンデルが率いてきた侵攻軍は一時退却したが時を置かずにギート全土がニヴラスの手に落ちる。我らギート騎士団は生き残った全軍でカルタグラへの撤退を決めたが必ずこの地を取り戻してみせる」
指揮官たるミンデルが死のうと強大なニヴラス軍は後続の軍を派遣してくる。
是に抗う術を持たないギートは一時だけ国を明け渡すのだという。
拳を振り上げて宣言した殿のギート騎士たちを見送る形となった氷牙の剣はその場で力無く膝を突いた。
「アッハハ……、なんてことだい……、ニヴラスは戦に勝って勝負に負けたってわけじゃないか……」
「氷牙の剣……」
ニヴラス帝国はそうだが、それならば自分はどうか?
深く考える必要すら要としない。
「守護すべき将軍が討たれてるってことはだ、氷牙の盾はあたし以外二人とも死んだってことなんだろうね……」
残った自分だけで後続の軍と合流するか?
そんなこと出来やしない、将軍の身辺警護が任務である自分が将軍の元を離れて主君が死んだ後にノコノコ戻ってくる。無能者以下、下手をしなくとも任務放棄・敵前逃亡扱いで投獄だろう。
どんな理由があったにせよ、いや自分は自己の意思を優先してゼファの傍に居たのだ。理由も何も、端から弁解の余地など微塵たりとてない。
たかが一兵士のこととして不問に処されてもそんな使えない無能者扱いとなってしまった自分は軍に戻ることも出来ない。
「さて、どうするかね……、ニヴラスには戻れそうもないよ……」
肩を落とす氷牙の剣。軍隊で食べていたのだ、生活基盤を失い国にも戻れないとなればどうしたらいいやら。
“だったらさ、オレと一緒に旅をしようぜっ”
そんな彼女へと掛けられたのは、こうなる原因を作ってくれた少年の声であった。
一月後
南カルタグラ王国の王都カナーン。比較的安い宿屋の端の部屋では、緋色の髪をした十二,三歳ほどの少年と、蒼みを帯びた長い黒髪の二十代の女が熱く静かに睦み合っていた。
「あっ……、アアっ……、気持ち……いいよ……っ」
弓を引き絞るように引かれ、つがえた矢を放たずに弦を戻すかの如く押し出される。
ゆっくりとした動作は男女の交わりを示す抽挿。女のサーモンピンクの花弁へと突き立てられた男根は歳相応に幼さを残しながらも立派に張り詰めて、しかと女に心地良さを与えている。
後ろ髪と同様に長く伸ばされた左右の鬢、胸の下へと届くほどの特徴的な長い鬢が彼女の胸の上で踊るように跳ね。
開かれた脚の間にしっかと体を入れては腰を動かす少年の目を引き付ける。
「胸……隠れちまう……、乳首、吸いたいのに……」
その彼女の胸元に垂れ下がる長い鬢をそっと払い退け、少年は豊かな乳房に一点色付く薄桃色の乳首を舐めながら優しく口に含んだ。
「ああ……あうっ……、また、おっぱいかい……ゼファ……っ」
「ちゅう……っ、ちゅぅぅ……っ、うん……だって、美味しいんだもん……氷牙の剣は、嫌なの……? おっぱい、吸われるの……んちゅ」
「嫌じゃ……ないさ……、んっ──、ただ、子供っぽい……よ……、赤ん坊じゃ、あるまいし……んんっ──!」
「子供で……いいよ、別に……交わってるときは……」
氷牙の剣は、このひと月の間ゼファから夜毎の求愛を受けていた。
否、夜毎は勿論、昼や夕刻でも時間があればこうして求め合う。
帰る場所もなく始まった旅の初日からの求愛はこれでもう何度目となるのだろう。
大凡一度を三~五回行うため、百はもう越えていた。
彼女は──最早ニヴラスへ帰ることも出来ない氷牙の剣は、自身と離れたくないという少年の手を取った。
理由など要らなかった、自分を心配し死ねば涙するだろう少年と旅をしてみたいと思ってしまったから。
求愛を受け入れる度に思う。あの時、この少年と出逢ってよかったと。
このひと月の日々は以前までの自分では得る事適わずのものばかりだった。
剣を振るうでもない、実力に見合う収入も得られない不安定な旅生活。
しかし、そこには自分を求めるやつが居る。
生きている事を喜び果ては恋心まで抱いて狂おしく求めてくるひたむきな少年が居る。
女として求められた初めての経験、現在進行で続く求愛。
求められる事の幸せ、女であることの幸せ。
ニヴラス軍人として剣だけを人生の主軸と捉え生きてきた自分には考えられない別の生き方をいま歩んでいる。
自分を愛してくれる男の傍で生きるという、軟弱なようで尊い女としての生き方を。
求愛を拒んだことはない。
求めに応じて受け入れ、その強い愛情に触れ続けたことで自身もまた密かな愛情を芽生えさせてしまったからだ。
いや、元より芽はあったのだろう。それだけ自分の人生に於いて衝撃的な相手だったのだゼファという少年は。
恥ずかしながら、二十を超えた大人の自分がたった十二の子供を愛するようになってしまった。
殺そうとした自分に対して生きていてくれて嬉しいと心から喜んでくれたこと。
良くも悪くも、あれが自分の胸に大きく響いていたのだろう。
事実としてそれを、心から自分という女を求め生を喜んでいるのだと確信した時から氷牙の剣はゼファの求愛を受け入れていた。
祖国の地を踏むことはもうないだろう。少なくともそう、いま続く戦が終結しない限りは。
「くううッ──!」
“ドクン……ドクン……”
「あァァァ~~~ッ!?」
愛情の詰まった想いが。
熱く煮える精が注がれる。
弾けて混ざり、子宮の中で暴れ回っている。
好きだから中に出したいといった初めての交わり。
いまは好きだからという確実なる理由に加えて、中に出すことの気持ち良さも求めているようで。
危なそうな日でさえも関係無く精を注がれていた。
「ばッ馬鹿……ッ、今日は出すなって言ってッ……ッッああ!!」
子供が出来たらどうするのだろうか。
「だ、だって中に出してーんだもんッ……、すっごく、気持ち、いいから……ッ」
そうして“子供が出来てもいいじゃんか”と開き直る。
いつかはそういう日も来るだろう、いつかはこのガキんちょの子を生んでもいいし、生むつもりだ。
だが今はまだ早い。まだまだ世界を旅する途上なのだから。
氷牙の剣はゼファを見て思う。
(このガキんちょのおかげで何もかも失ったね……祖国も地位も……得たのは女としての自分と。ゼファ……、あんたっていうあたしを見てくれる人間だ)
上辺ではなくしっかりと氷牙の剣という女を、ゼファは見てくれている。
胎内に迸る白濁を受けながら幸せを噛み締める彼女。
氷牙の剣──剣の道に生き、剣の道に死ぬ。そんな覚悟を持ってニヴラス軍で腕を振るっていた女剣士は。
剣の腕を磨き剣の道に生きながらも、惚れ合った少年からの求愛を受ける一人の女として生きる新しい道を歩み出していた。
「明日は早く起きなよ。次の目的地アレクソニアまでは遠いんだから」